この作品では一誠のトラウマはまだ払拭されてませんし誰ともくっ付いてません。
「部長!お、俺と、付き合ってください!!」
ようやく言えた告白。相手を見ると向こうは頬を染めてはにかむような笑顔をしている。
「嬉しい……!」
紅色の髪を持った女性はそう言って自分を抱きしめてくれた。
今ならずっと呼びたかった名で相手を呼べそうな気がした。
「り、リアス……!」
「ねぇ、イッセー……」
「は、はい!?」
ようやく想いを伝えて結ばれて昂った感情は緊張となりまともに相手が見えない。
そして次に思っても見なかった言葉が耳に届いた。
「死んでくれないかしら」
「え?」
先程までの熱のある声から一転して嘲笑する声音に変わる。
「り、リアス……?」
「下級悪魔風情が私の名を呼ばないで」
体を離すとそこには紅色の髪ではなく、黒い髪と鴉のような翼を持った女が立っている。
「夕麻……ちゃ……」
「死んでちょうだい、イッセーくん」
黒髪の女が腕を振るうと自身の腹に大きな穴が開いた。
「不様ねぇ。卑しい下級悪魔が不相応な夢を見るから」
かつて、天野夕麻と自己紹介された少女の醜悪な笑みと声が耳に届く。
いや。嘲笑している声は夕麻だけでない。
リアス。
アーシア。
朱乃。
白音。
黒歌。
ゼノヴィア。
イリナ。
ロスヴァイセ。
レイヴェル。
ソーナ。
九重。
周りを見ると見知った少女たちが取り囲むように自分を嘲笑っていた。
『イッセーさん。ずっと貴方が大嫌いでした』
『イッセーくん。もう私に近づかないで』
『イッセー。君には失望したよ』
他にも聞きたくない言葉がたくさん親しい女たちからぶつけられる。
そして最後に、リアスが冷たい眼で自分の前に立った。
「イッセー。もう私の前から消えてちょうだい」
リアスの手にある黒い魔力が自分を圧し潰した。
「おわぁあああああっ!?」
悪夢に絶叫し、一誠は跳ね起きた。
全身汗でびっしょりであり、気持ち悪い。
「またこの夢かよ、クソ……!」
あの夢を見るのは初めてではない。細かな部分は違うが似たような夢は何度も見た。
腕を動かすと柔らかな感触が伝わる。
見ると、左右に寝巻き姿のアーシアと朱乃が眠っていた。
こうして添い寝してくれる少女たちであんな夢を見るなんてどうかしてる。そう思いながら、もしあれが現実になったらと体が震えた。
「だぁぁぁぁ、もう!情けねぇ!!」
パチンと自分の両頬を叩き、ある決意を固めた。
「頼む日ノ宮!俺に乙女心を伝授してくれ!!」
「そんなもん俺が知るか。ギャスパーにでも訊け」
幕間6:人選ミスの恋愛相談――――――完!
「いや早いよ!?もう少し真面目に相談に乗ってくれてもいいだろ!」
「なんで俺がお前の相談事なんて乗らなきゃなんねぇんだよ。俺はお前の友達かっての」
「だからサラッと酷いこと言うんじゃねぇよ、傷つくだろぉおおおおっ!?」
2人の言い合いに同じ部屋に居る祐斗がまぁまぁと宥める。
「イッセーくんの話、少し聞いてあげても良いんじゃないかな?ほら、勉強の息抜きにさ」
「よく言った木場ぁ!!」
「その方がよっぽどストレスが溜まりそうなんだがな……」
一樹は学園を休んでいた際に遅れた勉強を取り戻そうとしていた。今回はテスト勉強も兼ねて祐斗の力を借りに彼の住むマンションまで赴いたのだ。
何故か一誠が居たのは以外だったが。
ノートに動かしていた手を止めて面倒そうに大きく息を吐く。
さすがに部屋の主に説得されればある程度話を聞かざる得ない。
「で、どうした?なんで俺にそんな話題を振る?心底迷惑なんだけど」
「もう少しオブラートに包めよ!?いやほらさ。お前、白音ちゃんと付き合い始めたんだろ?どうなのかなぁって」
「どうなのかなって言われてもな。5年も一緒に暮らしてるし、別段そこまで変化はねぇよ。休日に一緒にいる時間を増やしたくらいだな」
付き合い始めたからといって態度が180度変わることもない。今まで通り過ごしている。不必要にベタベタとすることもない。
「大体そんなこと聞いてどうすんだ?俺から白音とこんなに仲良しなんだよ~て惚気話でも聞きたいのか?ちなみに俺はそんな話を自慢げにされたら鬱陶しがるか拳で黙らせる自信があるぞ」
「そんな自信いらないだろ!ほらアレだ。彼女持ちの日ノ宮にどうしたら女の子に喜んでもらえるのか教えてもらえないかなって。乙女心に疎い俺に是非!みたいな」
「だから知らねっつの。乙女心ってアレだろ?女からすれば自分が不機嫌になる理由をはぐらかして答える逃げ道で男からすればこれをすれば女が勝手に喜んでくれたり怒らせないで済むなんていう
「なんかすごい悪意的な解釈聞いたよ!?」
あまりにも斜め上の解答に一誠は頭を抱える。
一樹は参考書を眺めながら逆に訊く。
「そもそもな。修学旅行で俺がどんな風に女フッてるか見てただろうが。アレ見て俺が乙女心なんてモノに詳しいなんて発想がどこから出て来た?」
「だ、だって白音ちゃんと付き合ってるんだろ!だったら―――――」
「それと乙女心云々は関係ない。悪いが本当に教えられることなんてないんだよ。現実の人間関係は恋愛ゲームじゃないんだ。こうすれば絶対大丈夫なんていう攻略法は存在しないんだから」
一樹からすれば白音との関係が進展したのを例とするには特殊過ぎて他の者に参考になるとは思えず。一誠からすれば同世代の友人?で唯一彼女持ちの一樹なら女の扱い方を心得ているのではないかと思ったのだ。
その認識の齟齬が話を噛み合わせない。
「だ、だってほら!白音ちゃんのために料理教室通い始めただろ!そういう発想とか!それになんでその時俺も誘ってくれなかったんだよ!ゼノヴィアには紹介して!」
「なんで俺が料理教室行くのに兵藤を誘うんだよ?ゼノヴィアの方は自分から相談しにきたから紹介したがな。そういうのは自分で考えて行動しないと意味ないだろ。あ、祐斗。この公式が解んねぇんだけど」
「あぁ。この公式はね……でもイッセーくん。なんでいきなりその手の相談をしに来たんだい?そこから話してもらえないとこっちも対応に困るよ?」
一樹と祐斗が勉強をしながら一誠の相手を続ける。
祐斗の質問に一誠は言葉を詰まらせて視線を泳がせた。
「その……日ノ宮と白音ちゃんが付き合い始めてから家でアーシアや朱乃さん。それにたまにレイヴェルからの期待するような視線とかが居心地悪くてさ。それで――――」
「良いことなんじゃねぇの?お前、将来ハーレム王?になりたいんだろ。俺には理解できないが。なら、デートに行くなりなんなりとすればいいじゃねぇか。俺には理解できないが」
「2回も言うんじゃねぇよ!?だ、だって誰とどんなとこ行けばいいのか分からないし……」
「3人引き連れるなりローテーションを組むなりやりようはあるだろ。デートプランなんて自分で考えるなり相手と相談するなり。他にもお前んちにたくさん女がいるんだから相談相手には事欠かないだろ」
だから俺にそんな話を振るなとノートにペンを走らせながら圧力をかける。
一樹からすれば
そこでふと疑問が浮かび、質問する。
「お前さ、何をそんなにビビってんだよ?」
「……怖いんだよ」
「イッセーくん?」
「アーシアや朱乃さんが俺を好いてくれてるのは分かってる。それが、恋人とかそういう関係を望んでくれてるのかは自信ないけど……でも俺が動いて誰かが傷ついたり、今の関係がガラリと悪くなったらと思うと体が震える。告白とかして嗤われたらとか思うと……」
一誠とて周りの女の子の気持ちに応えたいという意思はあるのだ。
だが、僅かなその可能性が足踏みして踏み出せない。
好きでいてれているとは思う。
だがそれが一誠の望む形なのかというと自信が持てないのだ。
肩を落としている一誠に一樹は息を吐く。
「失礼な話……」
「な、なんだよっ!?」
「白音経由でアーシアから聞いたけど。朱乃さんとアーシアはお前と添い寝とかして迫って来る事もたまにあるって聞いたぞ」
「そ、そうだけど!でもそれは兄とか弟とかそういう面でしてくれるだけかもしれないだろ!」
一誠の反論に一樹はアーシアたちの苦労を想像して苦々しい表情をした。
そこでこんな話をしていること全てが面倒になってしまう。
今のこいつに何を言っても無駄だと。
「つまり兵藤は彼女たちが仲の良い男となら誰とでも寝れるビッ〇に見える訳だ。そう思うんだったら今の関係で良いんじゃねぇの?どうせお前が彼女欲しい1番理由なんて身体目的なんだから」
「ちょっと一樹くん!?」
「テメ、日ノ宮ぁ!?アーシアたちにどういう評価下してんだ!それに俺の目的とか勝手に決めつけてんじゃねぇよブッ飛ばすぞ!?」
「そういうこと言わせてんのはテメェの態度だろうが!お前こそアーシアや朱乃さんを馬鹿にするのも大概にしとけな!!。大体聞いてりゃお前が俺に相談してんの家で居辛いからとかいう理由じゃねぇか!そんな気持ちなら行動なんてすんな!現状から逃げたいだけの分際で!!」
「なんだと!!俺だって2人はもちろんレイヴェルだって好きだよ!!でも――――あーあー!分かりました!!お前に相談に乗ってもらおうとした俺がバカだったよ!いいよなー日ノ宮は好きな子と思いを通じ敢えて通じ合えて気兼ねなくイチャつけて!こっちはその所為で家で気まずいってのに……!!」
吐き捨てるように言うイッセー。そこで祐斗が慌てて間に入った。
「ちょっとイッセーくん!?2人とも、とりあえず落ち着いてよ!!」
さすがにヒートアップして来たため祐斗は仲裁に入る。
いつもならここでリアスが喧嘩を止めるのだが今ここには自分しかいない為に祐斗自身で止めるしかない。
リアスの苦労が感じて2人を宥めようとするが、そこで低い、ドスのある声が一樹から発せられた。
「あ?」
それは本気で怒った時の声音だった。
「さっきから聞いてりゃあ、まるで俺と白音が付き合い始めたから自分が被害を被ってるみたいな言い草だなおい!なんで俺らが付き合うのにお前のお伺いなんざ立てなきゃなんねぇんだよ、あぁ!!」
「そ、そこまでは言ってないだろ!?」
「じゃあなんだってんだ。乙女心の理解出来ないとか理屈並べて動きもしねぇくせに人の所為とか言いご身分だなおい!俺も白音もお前の都合に合わせて生きてるわけじゃねぇんだぞ!相手の好意も信じられねぇくせに女にチヤホヤされたいとか都合の良い夢見て相手をナメんのも大概にしろよな!!」
一気に捲し立てた一樹に一誠は言い返そうとしたが巧い言葉が見つからず、逃げるようにして祐斗の部屋から出て行った。
大きく息を吐いて座る一樹に祐斗が咎めるような視線を向ける。
「言い過ぎじゃないのかい?」
「知るか……アイツを甘やかすのは俺の仕事じゃないだろ。それに今のアイツに何を言おうと時間の無駄だろうが」
少なくともこういうことは自分から動き出さなければ意味がない。
誰かに相談するのが悪いとは言わないが、あんな気持ちでは告白される側が不憫だろう。
「あいつ、あいつさ。きっと俺より色んな人を受け入れられる奴なんだよ。やればきっとちゃんとできる奴なんだよ。それなのにうだうだうだうだと。情けねぇ」
「……もしかして羨ましいのかい?イッセーくんが」
「まさか。もう少しで手が届くくせに言い訳ばかりして動かないアイツに歯痒いと思っただけだよ。なにから逃げてぇんだか知らねぇが、自分の気持ちくらいハッキリさせねぇと話にならねぇだろうに」
祐斗の部屋から出た一誠は闇雲に足を動かして気が付けば家への帰路に着いていた。
『相手の好意も信じらねぇくせに女にチヤホヤされたいとか都合の良い夢見て相手をナメんのも大概にしろよな!!』
「分かってる……分かってるさ!!俺だってみんなの気持ちに応えたいって思ってんだ!でもどうしても身体が……」
『死んでくれないかな』
意気地のない自分が1番悪いと理解している。
それでもいざという時にいつかのあの言葉がチラついて足を踏みさせてしまうのだ。
クソッと電柱に拳を打ち付けて悪態を吐く。
そこで聞き慣れた声をかけられた。
「イッセーくん?」
後ろに振り返るとそこには朱乃が居た。
「あ、朱乃、さん……」
「どうしました、イッセーくん。顔色が悪いですわよ」
買い物袋を手にした朱乃が心配そうにこちらへ触れてくる。
「な、なんでもないですよ!ちょっと気温が変わって体調を崩したのかな?」
適当に誤魔化す一誠に朱乃はクスリと笑う。
「そうですわね。最近、急に寒くなってきましたか気を付けませんと」
誤魔化せたのかただ単に一誠の言葉に乗っただけなのか判断できない対応をする朱乃。
そこで一誠は朱乃の手にしている買い物袋に目をやる。
「朱乃さんは夕飯の買い出しですか?」
「えぇ。ちょっと足りない食材や切らした調味料を……おばさまも人数が増えてすぐに冷蔵庫が空になると笑ってましたわ」
居候が急激に増えた兵藤家でさすがに一誠の母だけでは手が足らずに女性陣でローテーションを組んで手伝っている。今日は朱乃の番だったらしい。
「荷物、持ちますよ」
「ありがとうございますわ。なら半分をそれと、手を繋いでもらって良いですか?」
片手買い物袋を渡され、反対の手を繋ぐことをお願いされた。
「はい!もちろんです!」
即座に答えて軽く手を握り、朱乃の柔らかな手の感触がした。
そこで朱乃が少しだけ気まずそうに話す。
「イッセーくん。ごめんなさいですわ」
「え?どうして謝るんですか?」
「一樹くんと白音ちゃんが付き合い始めてから、私たち、イッセーくんにプレッシャーをかけてしまっていたようですから」
気付かれていたことに驚く一誠。
「イッセーくんはイッセーくんのペースで決めてください。一樹くんとは違うのですから。私たちも焦りませんから。もちろん、今応えてくれるなら嬉しいですが……」
「……」
ここまで言わせてどうとも返せない自分が情けなく、また、それを許してくれる朱乃の言葉を有難く感じた。
握っている手の感触。情けなくても今はただ、この距離に浸っていたかった。
兵藤家のヒロインによる一誠に対する感情。
リアス=大事な眷属で手のかかる弟分。祐斗やギャスパーと同じくらい大事
アーシア=恋愛感情(大)
朱乃=恋愛感情(大)
ゼノヴィア=友情6と恋愛4の割合
イリナ=友情7と恋愛3の割合
レイヴェル=恋愛感情(中)
ロスヴァイセ=エッチだけどいざという時は頼りになる教え子。
こういうイメージで書いてます。