太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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8話:聖歌

「エクスカリバーが完成したことで下の術式も完成した。後20分もしないうちにこの町は崩壊するだろう。解除したければコカビエルを倒すしかない」

 

 バルパーの一言にその場にいた全員が戦慄した。

 

 たった20分で自分たちが暮らす町が崩壊するというのだから当然だろう。

 なにより、唯一の勝機だった魔王の援軍が意味を為さなくなってしまったのだ。

 悠長に戦っていればこの町が無くなってしまう。

 そんなリアスたちを気にも留めずにバルパーは完成したエクスカリバ-をフリードに与えた。

 

「さぁ、フリード。真に最も迫ったエクスカリバーの力、私に魅せてくれ」

 

「ホイ来たぁ!まぁったくうちのボスは人使いが荒い!でも俺様好みなんでむしろサンキューな気分ですよ!生まれ変わったこのエクスカリバーちゃんでむかつく悪魔ちゃんたちの首をスパッとしてきますわぁ!!」

 

 やたらとテンション高くしているフリードとは対照的にゼノヴィアは冷めた表情で祐斗に近づいた。

 

「リアス・グレモリーの騎士よ。まだ共同戦線が生きているならあの聖剣、共に破壊しようじゃないか」

 

「いいのかい?」

 

「聖剣は、それに見合う者が振るってこそ聖剣足りうる。あのような外道が振るう聖剣は聖剣とは呼べない。ただ、人々に災禍だけをまき散らす邪剣の類だ。それにな。イリナを含めた多くの聖剣使いたちのためにもあのような者に聖剣を持たせておくわけにはいかない。幸い、私は核となる欠片を回収できれば問題ないしな」

 

 だから、あの聖剣はお前が壊せと、ゼノヴィアの眼が語っていた。

 驚きながらも答えるように祐斗は表情を引き締め魔剣を握る手に力を込め、聖剣が完成したことで地に足をつけたバルパーを見た。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残りだ。正確には死に絶え、悪魔に転生したことで生きながらえている……」

 

「ほう?あの計画の生き残りか。これは数奇なモノもあったものだ。このような極東の島国で巡り会おうとはな」

 

 嘲笑するような嗤いにこの場にいた誰もが怒りと不快感を露にする。

 

「私はな、聖剣が好きなのだよ。だからこそ、自分にその適正がないと知った時に絶望し、人工的な聖剣使いの研究に没頭した。そしてそれは君たちのおかげで成功に至った。感謝している」

 

「成功?感謝?失敗作として僕たちを処分しようとした癖に何をっ!!」

 

 祐斗の叫びにバルパーは静かに首横に振るった。

 

「私は聖剣使いの研究で聖剣を扱うには一定の因子が必要だと解明した。ならば、それを体内から取り除き、集め、移植することで聖剣使いとしての適性を高めることが出来ないかと考案した」

 

 話を聞いているうちにゼノヴィアの目が見開く。

 

「まさか、我々聖剣使いが祝福を受けるときに入れられるのは!?」

 

「そうだ。私の研究によって集められた聖剣の因子だ。もっとも貴殿を見るに私の研究は誰かに引き継がれたようだがな。まったく。私を断罪しておいてその研究成果だけ持って行こうとは。まぁ、ミカエルのことだ。因子を抜くにしても対象を殺すまではしておるまい。そのせいで私のものよりも集まりが悪いだろうがな」

 

「そ、んな……」

 

 あまりに残酷の真実にゼノヴィアの顔が歪む。自分たちが信奉する組織がそのようなことを行っていたことに小さくない衝撃を受けて。

 

「同士たちを殺して、聖剣使いとしての因子を抜いたのか!」

 

「そうだとも。もっともエクスカリバーの統合により、持っていた因子だけでは足らなくなってしまったのでこの町に派遣されたエクソシストを捕らえて因子を抜いたがね」

 

 そして懐から小さな結晶を取り出した。

 

「一応サンプルとして持ち出したひとつだけを残しておいたが、もう必要ないな。要るのならくれてやる。研究が進み、因子も既に量産可能になったのだからな」

 

 無造作に投げられたそれが何なのか祐斗は瞬時に理解する。

 それを拾い上げ、かつての仲間の形見と呼べるそれを強く握りしめた。

 

「ふん。そのような【物】に感情移入するとは―――――」

 

「もう、黙れよジジイ……っ!」

 

 今まで黙っていた一樹が突如火球玉を作り、バルパーに投げつけた。

 一直線に向かって行った火の玉は対象にあたる寸前に魔法の障壁によって防がれる。

 チッと舌打ちして忌々しげにバルパーを見る。

 一樹の怒りは既に臨界を超えていた。

 実験室を見た後からあの地獄を造った者を叩き潰すことに思考の大半を費やすほどに。

 手早く言えば、完全にキレていた。

 次の炎を生み出そうとしたときに、祐斗の周りに変化が起きた。

 握っていた結晶から淡い光が放たれ、次第にひとり、またひとりと人の形になっていく。

 それは、幼い子供たちだった。

 かつて聖剣計画に身を投じられ、理不尽にその命を奪われた子供たち。

 

「この場にある様々な力が因子からあの子たちの魂を解き放ったのですね……」

 

 朱乃がぽつりと呟く。

 祐斗は自分を囲むかつての仲間を懐かしそうに。でも哀し気に見渡し、懺悔するように口を開く。

 

「ずっと思ってた。僕が、僕だけが生き残って、それで良かったのかって……僕だけが、平和な世界で幸せになっていいのかって……」

 

 木場祐斗がずっと囚われていた感情。一人だけ生き残ってしまった罪

 まるで、かつての仲間に断罪されるのを待つように立ち竦む祐斗にひとり、またひとりと笑顔を浮かべて触れる。

 

 彼らがその口を動かして祐斗になにかを伝えている。それは決して声にならなかったが、祐斗には彼らがなにを言っているのか理解できた。

 

 ―――君だけでも生きていてくれてよかった。

 

「―――――っ!?」

 

 彼らは祐斗1人が生きていること怨嗟も嫉妬も吐き出すのでもなく、安堵と喜びを示していた。

 彼らの意思を知り、涙を流す祐斗。そして声にならずともなにかを口ずさみ始めた。

 それは紛れもなく―――。

 

「聖歌……」

 

 元教会出身であるアーシアが言い当てた。それは彼女にとっても生まれてから今日までもっとも身近で何度も歌った歌だからこそ。

 そして祐斗にとっても辛いなどでは収まりきれない苦痛だけの実験の日々で仲間たちと歌った聖歌だけが唯一の慰めだった。

 

 霊体である彼らは歌いながらも祐斗に自分達の意思を語る。

 

 

 ――――――僕らひとりひとりじゃ聖剣には届かなかった。

 ――――――でもみんなが集まればきっと大丈夫。

 ――――――だから、聖剣を受け入れよう。

 ――――――恐がる必要なんてない。だって

 

 

『僕たちの心はいつだって――――――ひとつだ』

 

 神々しい光が祐斗を包み、彼らの魂が祐斗と重なっていく。

 すべての魂が重なり、光が収まる。

 

「同志たちは復讐など望んではいなかった。それでも、僕はケジメをつけなければいけない。僕たちが決着をつけなければいけない……!」

 

 祐斗は剣を創る体制に入る。しかしそれは今までの魔剣とは違っていた。

 仲間の聖剣の因子を受け継いだ祐斗には新たな段階へと昇っていた。

 

「僕は剣になる」

 

 魔の気配だけでなく、そこには聖の力も合わさり、1本の剣へと形を成していく。

 神々しい輝きと禍々しいオーラを放ちながらそれは完成した。

 

「禁手、双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビストレイヤー)!これが、同志たちと共に完成に至った僕の新しい力だ!」

 

 創り上げた聖魔剣を手にした祐斗。そして、彼が剣に想いを乗せるのはかつての仲間たちだけではない。

 

「祐斗くん、信じてますわよ」

 

「木場ぁあああああ!その剣でフリードと聖剣をぶちのめしてやれっ!!」

 

「ダチが力を貸してくれたんだ!負けんなよ木場ぁ!!」

 

「やりなさい、祐斗!貴方が決着を着けるの!この私、リアス・グレモリーの【騎士】はエクスカリバーごときに負けはしないわ!」

 

 かつての仲間が道を示し、今の仲間が背中を押してくれる。

 神器が人の想いに応えるモノならば、祐斗に負ける要素など存在しなかった。

 最後に一樹が肩を叩いて簡潔な言葉を贈る。

 

「行ってこい」

 

「うん!」

 

 聖魔剣を構えて祐斗は聖剣を持つフリードは鼻で笑った。

 

「ハッ!聖と魔のゆ~ご~!かっこいいですねぇ!すばらしいですねぇ!でもさぁ、そんな両方混ぜただけの半端な剣が伝説のエクスカリバーちゃんに勝てると思うなよ、祐斗く~ん!!」

 

 フリードが天閃の聖剣の力を発動させ、一気に祐斗との距離を詰めながら擬態の聖剣を発動させ、幾重の鋼線になって襲い掛かる。

 だが祐斗は高速で移動しながら四方八方で向かってくる鋼線を避け、または聖魔剣で弾きながら攻撃をやり過ごす。

 

「チッ!なんで当たらねぇんだよ!でもさぁ、これならどうだぁ!!」

 

 さらに透過の聖剣の能力で不可視となって襲い掛かる。

 だが結果は変わらない。祐斗は見えない鋼線の動きを完璧に見切ってはいなしていた。そしてフリードが相手をしなければいけないのは祐斗だけではなかった。

 

「どわっと!!おいおい!一対一の決闘に水を差すなんて教会の騎士様も落ちぶれましたねぇ!騎士道精神は何処行ったよ!」

 

「貴様の様な外道に通す騎士道など持ち合わせてはいない!聖剣の有無に関わらず貴様はここで確実に仕留める!!」

 

 戦闘に介入したゼノヴィアが右手を宙に掲げて言霊を発した。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 空間から現れたのは1本の膨大な聖のオーラを放つ大剣だった。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は開放する。――――――デュランダル!」

 

 その名を聞き、一番に驚いたのは聖剣の研究者であるバルパーだった。

 

「デュランダルだと!貴様、エクスカリバー使いではなかったのか!?」

 

「恥ずかしながら、私はまだ未熟者でね。このデュランダルを扱うには力不足。下手に使えば辺り構わず斬り刻むデュランダルの代わりに破壊の聖剣を授けられていた!」

 

 エクスカリバーとデュランダルの二つの聖剣を構えるゼノヴィア。

 

「しかし!私の研究ではまだデュランダルを扱えるほどの進展は――――――」

 

「当然だ。私は他の聖剣使いたちと違って生まれついての聖剣使いだからね」

 

 聖剣デュランダルから発せられるオーラは祐斗の聖魔剣や4本統合したエクスカリバーをを凌駕ししていた。

 

「デュランダルは想像を遥かに超える暴君でね。危険すぎて普段は異空間に閉じ込めておかなければ危険極まりない。だから、無様に一撃では散ってくれるなよ?せめてエクスカリバーの力を存分に奮うことだ!」

 

「このクソビッチが!なんだよこのチョー展開!そんな設定いらねぇんだよぉおおおおおおおおっ!!」

 

 叫びならフリードはゼノヴィアに鋼線を向けた。

 だが、ゼノヴィアが振るった一撃が容易くエクスカリバーの一撃を弾く。

 

「所詮は折れた聖剣か!それにイリナの使う擬態の聖剣に比べれば児戯に等しい」

 

 デュランダルを手にしたゼノヴィアには形勢不利と判断したフリードがせめては、と祐斗に攻撃を繰り出す。

 祐斗は迎え撃つ形で聖魔剣を振り、衝突したエクスカリバーはガラスが壊れるように砕け散った。

 

「ちょっ!?嘘だろ!伝説のエクスカリバーちゃんが!?」

 

「終わりだ」

 

 そのまま2撃目の斬撃がフリードの体に振り下ろされた。

 斬られた個所から血を流し、膝をつくフリード。

 

「みんな、見ていてくれたかい?僕たちの力は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 万感の想いと心に秘めてきた目標を失った喪失感が同時に過る。

 そんな祐斗に忌まわしい男の今まで聞いたことのない弱弱しい声が鼓膜に届いた。

 

「聖魔剣だと!片方が片方を飲み込むのではなく、融合するなどあり得ない!相反する力が反発せず調和するなど、そんなことが……!?」

 

 ぶつぶつと呟くバルパーにもうひとつ決着をつけなければいけない相手を思い出す。あの男が生きていれば自分たちと同じ犠牲者が必ず生まれる。バルパーは聖剣以上に逃してはならない存在だった。

 しかし、祐斗が剣を向けるより先に動いていた者がいた。

 

「なにぶつくさ言ってんだよ、ジジィッ……!!」

 

 祐斗が聖剣を破壊してすぐ動いていた一樹がバルパーに拳を放つ。

 先ほどまで張られていた魔法障壁も、動揺していたバルパーでは上手く機能せずにそのまま顔面に殴打した。

 歯が折られ、校庭の地面に倒れたバルパーを一樹は鬼の形相で馬乗りになり、顔を殴り始めた。

 

「碌でもねぇテメェは!今ここで殺すっ!!」

 

 本人は意識していないが、気によって強化された拳は無意識化で魔力を使い肉体を守っているバルパーの顔を容易く潰し、一撃を繰り出す度に歯は折れ、鼻や頬骨は砕かれていき、血が飛び散る。

 しかし止まらない。周りから見れば敵である筈のバルパーより一樹の形相の方が恐ろしく見えるほどだった。

 

「お、おい止せよ!それ以上やったら死んじまうだろ!?」

 

 一誠の焦り声に怒りで汚染された一樹の思考に僅かな冷静さを挟む。

 

(死ぬ?目の前のコレが?こんな奴―――――こんな奴は死んでしまえばいいっ!!)

 

 しかし、それはストッパーにはならず、むしろあの実験室の光景がフラッシュバックして更なる憎悪を掻き立てた。

 

「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ねよやぁっ!!」

 

 首を絞め始めたが、窒息ではなくむしろ首をへし折らんばかりに力を込めていた。

 あまりの殺意に周りが動けないでいる中、1人だけ一樹の腕を掴んだ者がいた。

 

「いっくん……」

 

「あ…………」

 

 その手は、一樹の大事な家族の手だった。

 

「もう、いいよ。いっくん。やめて……」

 

「離せよ白音……っ!こいつを、まだっ!?」

 

「これ以上はダメ……」

 

「離せって言ってんだろっ!!」

 

「アッ!?」

 

 力づくで突き離すと同時に白音の方に振り向くと彼女の表情を見た。

 今にも泣きそうな家族の顔を。

 それに今度こそ本当に冷静さを取り戻した一樹が呼吸を荒くしたまま表情を歪めながら、心の内にある毒を吐き出すようにポツリポツリと言葉を絞り出す。

 

「ここに来る前に、こいつらの根城で見たんだ。たくさん、人が死んでた……。生きてる人も居たけど、結局助けられなかった……。あんなの、あんなのは、人の死に方じゃ―――――」

 

 泣きそうになるのを必死で堪えながら見たモノを話す一樹に白音は小さく頷く。

 

「だから、せめてあの人たちのために何かしてやりたくて……」

 

 きっとそれは間違ったことだろう。しかし、一樹はこれ以外の方法を思いつかなかった。

 そんな一樹の言葉を白音はただ黙って頷きながら耳を傾ける。

 

 以前、一樹は今と同じ状態に陥ったことがある。

 白音自身が直接見たわけではなく伝聞で聞いただけなのだが、その時も別人のように凶暴さが増していたらしい。

 最終的に教師数名で取り押さえられたのだが。

 

 落ち着きを取り戻し始めたバルパーを掴んでいた手を放し、その手で自分の顔を覆った。

 もう、目の前の男を殴り殺す気概は削がれてしまった。

 ただまた感情に任せて身近な人を哀しませた自分が情けなかった。

 

(なんて進歩のねぇ……)

 

 もうこうならないように。自制できるようにと戒めてきたつもりだったのに全然ダメだった。

 

「わりぃ、白音。それに、止めてくれてありがとう……」

 

 クソっと自分の不甲斐なさに悪態吐きながらも一樹は痙攣するバルパーから体を離した。

 

 

 

 

 


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