これから6日間の投稿です。
英雄派との戦闘を耐えてホテルに戻った後に夕食を終えて一休みした後に一誠の部屋にオカルト研究部と生徒会の面々が集められていた。
3、4人しか想定されていない部屋に10人程の人間が居座っているのだからややすし詰め状態だ。
そんな中でアザゼルとセラフォルーが中心となって英雄派に布告された実験を阻止するための話し合いが行われていた。
「二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。今京都にいる悪魔や堕天使。それから京の妖怪たちが総出で怪しい奴を探っている。今のところ英雄派は動きを見せていないが京都の各地から不穏な気の流れが観測されている」
「不穏な気の流れ?」
「あぁ。京都各所にあるパワースポットから力の流れが二条城へと流れてるんだ。英雄派がなにをするつもりかはまだ判断できんが実験とやらの準備に間違いないだろう。それを踏まえた上で作戦を伝える」
そうしてシトリー眷属を見る。
「先ずはシトリー眷属はホテルの警備に当たってくれ。生徒たちの安全のためにここに残って欲しい。ホテルには強固な結界を張ってあるから最悪な事態はねぇだろうが、ここが襲われないとも限らん。何かあったら対処してくれ」
次にオカルト研究部の面々に視線を向ける。
「いつも通りで悪いがお前たちがオフェンスだ。各ルートを通って二条城に辿り着き、九尾の御大将を奪還してほしい。敵の戦力が未知数であることも踏まえて目的を達成したらソッコーで逃げろ。お前たちの目的はあくまでも囚われた八坂の姫の奪還だ」
そういうアザゼルに一誠が意見を言う
「で、でも俺たちだけじゃ戦力が足りなくないですか?」
「わかってる。だが今回は強力な助っ人が来る。各地で禍の団相手に暴れまわってる猛者だ。そいつが来れば九尾の奪還の可能性はグンと上がる。ま、楽しみにしてろ」
口元を吊り上げるアザゼル。その助っ人は本当に頼りになるのだろう。
しかし次に表情を曇らせた。
「それと悪いが今回支給できるフェニックスの涙は3つまでだ。各地で禍の団やそれに呼応する組織が暴れまわってるせいで涙の需要が高揚していてな。フェニックス家も生産が追い付いてないらしい。もともと大量生産向きのアイテムじゃないしな。今後、レーティングゲームでも涙の支給は無しになるかもしれんという話だ」
アザゼルの言葉に眷属全員が唖然となる。
アーシアのような回復役がいるチームはまだいいが、そうでないのだ。
これからは涙に頼らない戦術が必要となるだろう。
「これも余談だが、今各勢力で
そこで祐斗が手を挙げた。
「アザゼル先生。この件は他の勢力には」
「当然話してある。ここには俺ら三大勢力と妖怪たちが包囲網をしてあるからな。ここで潰せるなら潰した方がいい」
「外の指揮は私に任せてね☆悪い子が外に出ようとしたら各勢力と私がお仕置きしちゃうんだから♪」
そう言ってブイサインするセラフォルー。
「学園のほうにもソーナたちが出来る限りバックアップしてくれるそうだ」
「あれ?部長たちは」
「リアスたちは現在駒王町を離れて冥界にいる。なんでも暴動が起きたらしくてな。その鎮圧に駆り出されているそうだ」
「暴動ォ!?」
アザゼルの報告に一誠の声が上がる。
しかしアザゼルは心配するなと苦笑した。
「暴動って言ってもそう大した規模じゃない。今回はどちらかというとリアスに経験を積ませるための呼び出しだ。向こうにはヴェネラナやグレイフィアもいる。万が一もねぇだろうよ」
そうしてリアスの話を切り、顔を引き締めた。
「各員1時間後に行動を開始してくれ。怪しい奴を見たら相互連絡だ。死ぬなよ?家に帰るまでが修学旅行なんだからな!」
『はい!』
その場にいるほとんどが同時に返事をする。
ただその場で一樹だけが考え事をするように顔を伏せていた。
ミーティングが終わり人が部屋を去って行くとアザゼルが一誠に話しかけた。
「イッセー実はこんなもんをさっき見つけたんだが」
アザゼルが箱に入れられた宝玉を手渡す。
それを横にいたアーシアが訊いた。
「なんですか、これ?」
『これは―――っ!?』
「どうした?ドライグ?」
『相棒。これは新幹線の中で紛失したお前の可能性だ』
「へ?」
「やっぱりか軽く調べてみたらお前のオーラが検出されたんでそうじゃないかと。それにしても―――――」
どこか遠い目をするアザゼルに一誠が疑問に思う。
「どうしたんですか、先生?」
「これはな。ミーティング前に痴漢をしていた男を見つけてそいつをシバキ倒したらこいつが発見されたんだ」
「え?なんでですか!?」
「それはたぶん―――――」
そこでドライグが震える声で説明を始めた。
『相棒。今調べてみたが。こいつは様々な人間を渡り歩いて他の人間から力を掻き集めていたようだ。そ、その、相手の乳に触れて』
ドライグのその言葉に一瞬の沈黙が下りる。
「あー、なるほど。つまり旅行中にやたら痴漢騒ぎが目立ってたのはこいつが乗り移って力を掻き集めてたからか。こいつが身体に入ったことで半ば無理矢理痴漢騒ぎを起こさせてたんだろうな。一般人だとよっぽど意志が強くないと抗えないだろうしな」
つまり、今までの痴漢騒ぎの加害者もこの宝玉に操られていた被害者ということになる。
それを聞いた面々は渋い顔になった。
「イッセーくん、君は……」
「さすがにそういうことを他の人に強要するのはどうかと思うわ、イッセーくん」
「まぁ、イッセーらしいと言えばそれまでだろうが」
「え?俺!?俺が悪いのか!確かにおっぱい大好きですけどこんなことになるなんて予測できねぇだろ!!」
必死で弁明する一誠はハッと一樹の方を見る。
一樹のことだ。きっと絶対零度の視線を自分に向けて暴言を吐くに違いない。
『痴漢者の量産とかお前もう家から出るなよ。お前が外に出るだけで禍の団とは別の方面で被害が拡大するだろうが』
とか言うに違いないのだ。
しかし一向に何も言ってこない。
見てみると一樹は腕を組んで目を閉じていた。
「一樹くん?」
「ん?なに?」
祐斗に呼ばれて一樹は瞼を開けて首を傾げた。どうやら話を聞いていなかったらしい。
「おいおい!なに呆けてんだよ!作戦前にそんな調子じゃ曹操たちにやられちまうぞ!」
「作戦……作戦か……」
一誠にそう言われると一樹はまた目を閉じたがすぐにアザゼルに向き直った。
そして予想外の一言を放つ。
「アザゼル先生。悪いんですけど俺、今回の作戦パスします」
「……なに言ってんだお前?」
「これから俺、人と会う約束があるんですよ。だからそっちの作戦には参加できません」
きっぱりと言い放つ一樹。それにイリナがハッとなる。
「一樹くん、あなた……」
「ちょっと待てよ!お前状況分かってんのか!?曹操たちを止めねぇと、京都が大変なことになんだぞ!誰と会うかは知らねぇけど、そんなことしてる場合かよ!」
イリナが問う前に一誠が一樹の肩を掴んだ。
「英雄派の連中は自分たちのいる場所に結界とか張ってあんだろ?このホテルも先生たちの結界があるしな。なら表側の京都には危害が及ぶことはないってことなんじゃねぇのか?」
「そんなの分かんねぇだろ!それに俺たちが行かなかったら誰が九重の母ちゃんを助けるんだよ」
一誠の怒鳴るような声に一樹は冷めた眼で返す。
「そんなもん京都の妖怪たちに決まってんだろうが」
一樹の断言に一誠は絶句した。
「大体今回の件は言ってみれば禍の団と京都の妖怪たちのイザコザだろうに。それをなんで偶々旅行に来てた俺たちが事件解決に動くんだかな。テメエらの頭領くらい
吐き捨てるように言い切る一樹。
そもそも疑問だったのが、妖怪たちの根城に行った際に頭が拉致られたにしては妖怪たちが落ち着きすぎていることだ。
そしてその不信感が決定打になったのがあの天狗の長の言葉。
「なんで自分たちのホームで頭領を取り返すのにこっちが協力してもらう側になるんだよ。普通逆だろうが!少なくともここの妖怪たちが真剣に九尾の取り返そうとしてるとは思えねぇな」
「捻くれた見方してんじゃねぇよ!それに九重の母ちゃんが居なくなったら京都が土地を治める人が居なくなって大変なことになるって聞いてなかったのか!!」
「どうだかな。むしろ九尾ひとり居なくなったらくらいでどうにもならないってことはねぇだろ。そうじゃなかったら綱渡り過ぎるからな。ここの連中にとって九尾か居なくなるのは痛手ではあっても致命的じゃないんじゃないか?そうでないと、京都の妖怪たちも血眼になって奪還に動かないのはおかしいだろ」
一樹は視線をアザゼルに向ける。
「……確かに八坂の姫が居なくなっても京都を治める方法がないわけじゃない。パワースポット各所に人員を配置して流れを制御したりな。もっともそれでも八坂の姫ひとりで治めるより不安定になるだろうが」
「だそうだ」
今回の作戦を辞退すようとする一樹に一誠は自分の方を振り向かせて険しい表情で胸ぐらを掴んだ。
「九重は泣きそうな顔で俺たちに母親を助けてくれって言ったんだぞ。それなのにお前は助けに行くのを反対すんのかよ」
「別に反対してるわけじゃねぇよ。行きたい奴は行けばいい。ただ俺は用事があるから行かないって言ってんだ。あの狐のガキには悪いと思うが少なくとも俺は自分の用事をすっぽかしてまでアイツの母親を取り返そうとは思わないってだけだ。お前のそういうところは素直に感心するがな。それを俺に押し付けんなってんだ」
プチンと一誠の中で堪忍袋の緒がキレる。
そのまま一樹の頬を殴り倒す。
「イッセーくん!」
即座に一誠を祐斗が諫める。
一誠は一樹を見下ろしながら吐き捨てた。
「あんな小さな子が助けを求めてるってのにお前は……っ!散々俺のこと最低だの何だの罵ってたくせにお前の方がよっぽど最低じゃねぇか!」
そう言った一誠に一樹は立ち上がると口元を吊り上げた。
そして間髪入れずに一誠の腹に拳を叩き込む。
膝をつく一誠。
「て、め……鳩尾に……!」
「やり返されねぇわけねぇだろ馬鹿が。それとその感情は京都の妖怪たちにもぶつけてやれな」
一息ついて一樹は一誠の部屋から出て行こうとする。
「おい一樹!」
「そう言うわけで今回俺は参加できませんので。無理矢理参加させようとしても、外に出た瞬間に単独行動を取るだけです。後はよろしく」
それで話はおしまいとばかりに手をひらひらさせて退出した。
「なんなんだよアイツッ!!」
一誠がドンと床に拳を叩きつける。
アーシアは表情を曇らせる。
「でもなんだか様子が変でしたね、一樹さん。なんていうか無理にこっちを怒らせるような態度を取ってるみたいで……」
「アイツは前々からああいう奴だったろ。クソッ!ただでさえ戦力不足だってのに……!」
苛立つ一誠。
それを余所にイリナはその場を離れて一樹を追った。
「一樹くん!」
自販機で飲み物を買っていた一樹をイリナが呼ぶ。すると向こうもは首を傾げた。
「どうした?」
プルタブを開けて缶に口を付けるとイリナが真剣な表情で問い質す。
「あのアムリタって子に会いに行くの?」
「まぁ、そうだな」
あの面子で一樹とアムリタのことを知っているのはイリナだけだ。だからこそ一樹が誰と会うのか予想できた。
一樹は誤魔化さずに懐にしまってあった紙を見せる。
「これにアイツから来るようにって知らされてな。さっきの曹操たちとの戦いの最中に渡された。それも待ち合わせの場所がどうにも二条城とは反対方面でな」
「だったらイッセーくんたちに正直に言えばいいじゃない。それならイッセーくんだって怒ることなかったでしょ?」
「アイツと話してるとどうしても喧嘩腰になっちまうだけだ。妖怪連中の行動が気に入らないのは本当だけどな。それに俺は嘘は一言もついてないだろ?」
別段一樹とて母親が攫われた九重が可哀そうだと思わないわけではない。それでも一樹にとってこちらの案件のほうが重要だったというだけだ。
「あいつには訊きたいことが山ほどあるんだ。正直、そっちのことはそっちでどうにかしてくれ。俺は俺の用事を済ませる」
話しながら英雄派は一樹を二条城から分断させる気なんだろうなと思う。それを察した上で思惑に乗るわけだが。
自分も相当馬鹿だな内心で苦笑した。
罠の可能性もあって乗っかかろうというのだからそれも当然だ。
「アイツが俺に用があるってんなら行ってやるだけだ。そして力づくでも色々聞き出してそれが気に入らねぇなら……」
出来るかどうかは考えない。やるかやらないかの問題だ。
一樹は飲み干した缶を握り潰した。
今月の19日でこの作品も一周年。なんとか修学旅行編を終わらせられました。