太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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70話:妖怪との和解

 大楽という料亭に案内されるとそこには着物姿のセラフォルー・レヴィアタンとシトリー眷属が待っていた。

 

「ハロー☆リアスちゃんの後輩ちゃんたち☆冥界以来ね」

 

 全員軽く挨拶をして先に来ていた匙に話しかける。

 

「教員連中の手伝いご苦労さん。明日からは一緒に回れるんだよな?」

 

「あぁ。明日からはしっかり修学旅行を楽しむぜ!」

 

「ここのお料理はとても美味しいのよ☆特に鶏料理は絶品だからたくさん食べて行ってね♪」

 

 セラフォルーにそう言われたが夕食を摂ったばかりで入るのか不安だったが、食べ始めれば意外とすんなり箸が進んだ。

 

 

 どうやらセラフォルーは妖怪たちとの協力を得るために京都に来たらしい。

 しかし、そこでセラフォルーから悪い情報が知らされる。

 

「どうやら、ここの妖怪たちを総ている九尾の御大将が数日前から行方不明らしいの」

 

 その言葉に午後に襲われた面々は昼間襲いかかって着た妖怪の少女を思い浮かべる。

 

 母上を返してもらうと言った少女。つまり一誠たちはその誘拐犯と勘違いされたわけだ。

 

「誘拐したのはおそらく禍の団の連中だろう。九尾が行方が分からなくなった数日前から強い力が幾つか感知したらしいからな」

 

「そこで私は京都の妖怪さんたちと連携して事に当たるつもりよ☆禍の団についてはもう向こうに話してあるから赤龍帝ちゃんたちの誤解もすぐに解けると思うな」

 

「俺とロスヴァイセも独自に動く。生徒にまで危害が及ばないって保証はねぇからな。こちとら旅行中だってのによ、まったく」

 

 酒を煽るアザゼルに一誠がおずおずと手を挙げた。

 

「あ、あの。俺たちは?」

 

「あぁ。お前たちはとりあえず旅行を楽しめ」

 

「え?いいんですか?」

 

「本当に手が必要になったら呼ぶ。だからお前たちはせっかくの旅行を楽しめ。高校3年間で1度しかない旅行なんだからよ」

 

 そう言って頭のわしゃわしゃと撫でるアザゼルに一誠は嬉しさと若干の申し訳無さを覚えた。

 それでももしなにかあれば自分も動こうと決めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、生徒会メンバーとともに京都を周っていた。

 

「昨日は先生たちの手伝いで全然周れなかったからな!今日は京都を満喫するぜ!」

 

 テンションを上げる匙に一樹と祐斗は苦笑する。

 

「で?どこ周んだっけ?」

 

「今日は銀閣寺と金閣寺が中心かな。途中でいっせーくんたちともすれ違うかも知れないけど」

 

 昨日行動を共にしていたため、移動ルートがある程度重なる。

 幾つか観光する場所は同じだがルートが違うから行き違いになる可能性が高いが。

 

 移動中に草下がやたらと祐斗になにかと話しかけるのを見てイリナと花戒がヒソヒソと話す。

 

「ねぇもしかして草下さんって木場くんのこと」

 

「えぇ。以前からその気はあったようです」

 

「ちなみに花戒さんは?」

 

「……黙秘します」

 

 イリナの質問を軽く躱す花戒

 地図を確認してるルートを確認したり、途中で見つけた騒ぎ過ぎる駒王学園の生徒を発見し、注意する姿はどことなくソーナを思い浮かべさせる。

 

 観光所を見て回りながら途中で昼食を摂り、観光も大詰めになったところでロスヴァイセ先生に発見され、一樹、祐斗、イリナが呼ばれる。

 

「何かありましたか?」

 

 祐斗が訊くとロスヴァイセが頷く。

 

「京の妖怪たちへの誤解が解けました。そこで九尾の御息女が皆さんに謝罪したいそうです。イッセーくんたちは既に向かっています」

 

 3人は目を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで謝罪を受けるのにこっちから出向かなきゃならないんだか。向こうから来いっての」

 

「まぁまぁ。どうせあと少し回ったらホテルに戻る筈だったんからいいじゃないか」

 

 観光を邪魔されて愚痴る一樹に祐斗が宥める。

 

 匙たちはこのまま観光を続行してもらうことにした。

 案内された屋敷には多種多様な妖怪が済んでおり、見ただけで分かるものからそうでないものまで。

 向こうもこちらが珍しいのか遠巻きにこちらを観察してアレコレ言っている。

 

 目的の部屋に着くとそこにはアザゼルとセラフォルー。そして一誠たちが既に来ている。

 

 奥にいる先日の狐少女はこちらを、というより一樹を見るならビクッと一瞬肩を震わせる。それを見て一樹は自分が炎を使って目の前の少女を脅したっけかと思い出した。

 

「私は表と裏に住む京都を束ねし八坂の娘の九重と申す。先日はこちらの勘違いで襲ってしまい、申し訳ない」

 

 そう言って頭を下げる九重。それを見て、アザゼルが一樹を軽く小突き、小声で言う。

 

「お前も一応謝っとけ。昨日、この九尾の娘を持ち上げて殴ろうとしたらしいじゃねぇか」

 

「わかってますよ」

 

 アザゼルに言われ、一樹は前にでる。

 

「こっちも悪かったよ。いきなり殴ろうとしたりして」

 

 もっとも一樹は脅して事情を吐かせようとしただけなのだが。

 それに一誠も続く。

 

「それに、おふくろさんが攫われたんだろ?同時期にやって来た俺らを疑って襲っちまうこともあるさ。幸い互いに被害はなかったわけだし。謝ってくれたのなら俺らはもう九重に何も言わないよ、な?」

 

 そう言ってアーシアたちに振り向く。

 

「うん。私としてはこれ以上京都の観光を邪魔されなければ問題ない」

 

「えぇ。子供が頭を下げてるのにそれでも許さないって言うほど狭量でもないしね」

 

「はい平和が一番です」

 

「それに、1番悪いのは君のお母さんを攫った者たちだからね」

 

「ほらな」

 

 一誠が振り向いて笑うと九重は体を震わせ。

 

「ありがとう」

 

 そう礼を言った。

 

 誤解が解け、和やかな雰囲気が流れる。

 その際に一誠は子供の扱いが上手いと周りがからかったり感心したり。

 そんな中で再び九重が頭を下げる。

 

「咎がある身でこんなことを頼める立場でないことは承知で言う。お願いじゃ!母上を助けるために力を貸してほしい!!」

 

 九重の悲痛な叫び。それに一樹は無表情で自分の首を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九重と別れ、帰路に案内されている間に一樹がぼやく。

 

「しかし、なんだって俺らが修学旅行の間にわざわざ京都で行動するんだか。まさか時期を合わせてるんじゃねぇだろうな、あのテロリストども」

 

「やめろよ。そんなこと言ったらもう課外授業全般参加できなくなるだろ」

 

 一樹のぼやきに一誠はうんざりした様子で返す。

 

「総督殿。魔王殿。どうにか八坂の姫を助け出すことは出来んのじゃろうか?我らならばいくらでも手を貸しますが故に」

 

 その天狗の老人の言葉に一樹は何か引っかかりのようなモノを覚える。

 それがなんなのか、ハッキリとは言い表せないのだが。

 

 少し、思案に耽っていると天狗の長が1枚の絵を取り出した。

 そこには九重に似た妖艶な美女が描かれている。

 おそらくこの女性が八坂なのだろう。

 

 その絵を見て鼻をだらしなく伸ばしている一誠を見て皆がなにを考えているか見当をつける。

 そこでアザゼルが意見を述べた。

 

「ま、不幸中の幸いでまだ九尾の長が京都を離れてたり殺されてたりってのはない筈だ」

 

「どうしてですか?」

 

「九尾の頭は京都の霊脈やらの力場を管理する存在でもあり。その存在が京都から消えれば何かしらの影響が出るんだよ。今はまだその兆候すら見えん。誘拐なんざして何をするつもりかは知らんが、まだ無事だ。もちろん時間が経てば経つほどその限りじゃないだろうが」

 

「もしかしたら赤龍帝ちゃんたちにも動いてもらうことになるかも✩ちょっと人手が足りないしね」

 

 申し訳なさそうにするセラフォルー。

 

「お前たちは何だかんだで禍の団との戦闘で白星を挙げてるし、格上との戦闘も比較的慣れてる。悪いがいざって時は協力してくれ」

 

「任せてください!あんなおっぱいの大きなお姉さんを誘拐するなんて許せませんから!」

 

 威勢よく啖呵を切るが、すぐにだらしない表情をするので何を考えているか一目瞭然だった。

 

 微妙に締まらない場になって一行は屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らは日に何回か猥褻行為を働かないと死んじまう呪いにでもかかってるのか?」

 

「バカ野郎!男たる者女子と同じホテルに泊まったら覗きもしないでどうする!!」

 

「女子の裸が見れるのなら俺たちは一片の悔いはない!」

 

「そうか。これからお前らを待つのはのは反省文の山だがな」

 

『ノォオオオオオオッ!?』

 

 生徒会の手伝いで昨日の一誠と同じように覗き行為をしようとした元浜と松田を捕まえて一樹は額に青筋を浮かべて引きずる。

 このまま教員に引き渡して一誠と同じように反省文を書かされるだろう。

 ちなみに一誠は昨日に続いて今日も書かされている。

 これは終わらなかったのではなく、夜に自由にさせないための処置だ。

 

 本人はムンクの叫びのような顔をしていたが、自業自得だろう。

 今から2匹増員されることに教員方への同情を禁じ得ない。

 

 変態2匹を教員に渡して部屋に戻ると先に部屋に戻っていた匙と祐斗が寝間着に着替えていた。

 

「よ!お疲れさん。悪いな、手伝ってもらって」

 

 匙は持っていた炭酸飲料を一樹に渡す。今回のお礼らしい。

 

「かまわねぇよ。ああいうの、好きじゃねぇし」

 

 ジュースの礼を言ってからプルタブを開けて一口飲む。

 

 そこで匙が頭を掻いてぼやく。

 

「それにしても、ここに来て禍の団が絡んでくるなんてな。ったく!旅行中ぐらい関わってくんなっての!」

 

「まったくだ」

 

「それはともかくとして裏京都ってどんな感じなんだ?」

 

「レーティングゲームの疑似空間のような技術で造られたもうひとつの京都って感じかな。とにかく妖怪が多くてそういう観光だと思えば楽しめるよ。もっとも今はそんな場合じゃないんだけど」

 

「もしかしたら時間があったら見せてもらえるかもな」

 

 そんな雑談を交わしながら2日目の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに居たのか、アルジュナ」

 

「曹操」

 

 京都で確保した秘密基地の一角で曹操はアルジュナに話しかける。

 

「今回、君のおかげで八坂の捕獲は思ったより被害が出ずに済んだ。長いこと魔と対峙してきた君の経験と指導が無ければ、こちらは幹部を除き全滅していたかもしれない。礼を言う」

 

「イエ、そんなことは。それに私は私でやるべきことをシタだけデスノデ」

 

「それでもさ。君がこちらに居てくれて良かった」

 

「……」

 

 実直な感謝を述べる曹操にアルジュナは曖昧な笑みを浮かべた。

 僅かに間が開き、曹操は口を開く。

 

「この京都の地に来ている彼が気になるのか?」

 

「ハイ」

 

 間髪入れずに答えるアルジュナに曹操は苦笑する。

 

「君の好きにすればいいさ。俺としては彼がこちら側についてくれるのが1番だが、君はそうじゃないだろう?」

 

 アルジュナはその問いに答えない。そして無理矢理に話題を変える。

 

「ソチラの交渉はどうデスカ?」

 

 それに気づきながら曹操は肩を竦めて答える。

 

「あぁ問題ない。あちらさんもとても協力的さ。下っ端の妖怪たちもまさか八坂を誘拐したのに内通者がいるとは思わないだろうな。地道な交渉の成果だ。それにしても彼らが京都に来る時期に間に合って良かった。おかげで楽しみが増える」

 

「そうデスネ」

 

 そこで曹操は顔を曇らせた。

 

「それと構成員からの報告だが、オーフィスの行方が分からなくなったそうだ」

 

「……いつものコトデハ?」

 

 禍の団のトップであるオーフィスの行動を予測するのは難しい。

 

 何カ月も同じ場所に留まっていたかと思えばふと行方を眩ませ、碌に連絡を取らずにいることは珍しくない。

 その気分屋と評せる行動を完璧に予測し、目をつけておくことは不可能に近い。

 何せアレは、この世の最強の存在のひとつなのだから。

 下手に気取られ、機嫌を損ねればそれだけで自分たちは抵抗とすら呼べない抵抗をして殺されてしまう。

 

 

「俺たちの計画はバレていないと思うがな。まぁ、バレていても問題はないのだけれど。それでもこの時期ということが気にかかる。注意は必要だ」

 

「わかりマシタ」

 

 予想が出来ないからこそ気まぐれにこちらに牙が向く可能性を危惧しているのだ。

 

 英雄派の理念からアレもいずれは討伐する対象ではあるが、今はまだ時期が早すぎる。

 たとえ全戦力を投入してもオーフィスには勝てないと断言できた。

 

「とにかく、まずは明日だ。手筈通り、有名なグレモリー眷属や彼に熱烈なアプローチを行うとしようか。まったく本当に楽しみでしょうがない」

 

 手に持っている神々しい力を纏う槍を握りながら口元を吊り上げる曹操。

 この場にいない英雄派の幹部たちもおそらく今の曹操と同じ表情をどこかでしているのだろう。

 そんな曹操から視線をずらしてアルジュナは目を閉じる。

 

(収穫の時はおそらくまだ訪れてはイナイ。だからコソ、刺激は定期的に与えナイト、彼の中にイル施しの英雄を引き出すことはデキナイ。そして、その為なら私は――――――)

 

 この時のアルジュナの表情はきっと曹操たちと同じ表情をしていただろう。

 

 

 

 

 

 

 


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