太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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67話:修学旅行開始

「なにこれ?」

 

「ん?お土産代よ。たっくさん買ってきてね~」

 

「いらないだろ札束とか!!どれだけ買わせる気だよ!?」

 

「京都中の菓子を」

 

「買わないから!?つかそんなに買って食ったら糖尿病になるぞ!」

 

 太る、と言わない辺りが一樹なりに気の使ったかもしれない。

 札束を返すと黒歌がちぇーと口を尖らせる。

 いくら2人が大食いとはいえ札束分とかそもそも持ち帰れないし。

 

「いっくん、気をつけてね」

 

「あぁ。札束ほどってわけじゃないが、土産はちゃんと買ってくるからな、白音」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 白音の頭を撫でると目を細める。

 こうして、修学旅行に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一樹くんは新幹線って初めてかい?」

 

「いや。姉さんたちと旅行に行った際に何度かな。それでも2回くらいだ」

 

「そっか僕は部長の眷属になってから駒王町を出る機会も多くなかったし、冥界行きの列車を除けば初めてかな」

 

「そっか。良かったな」

 

「うん」

 

 新幹線でそう会話していると祐斗が席を立つ。

 

「どうした?」

 

「うん。ちょっとイッセーくんたちの所に。一応予定を確認しておこうと思って」

 

「あ、それなら私も行くわ!ちょっとゼノヴィアにアーシアさんと話がしたいし!」

 

「じゃ、俺は寝るわ。特にやることもないし」

 

「うん、お休み」

 

 

 

 

 

 

 そうして新幹線の中で昼食を終えて駅を降りる。

 先ずはホテルへ移動するらしく、教員や生徒会面々が先導している。

 その誘導に従ってバスに乗り、ホテルへと移動した。

 

 ――――――京都サーゼクスホテル。

 

 ホテル名を見た時一樹は固まった。

 

「これって……」

 

「うん。グレモリー家が経営してるホテルなんだ。少し離れた場所にセラフォルーさまの名前があるホテルもあるみたい」

 

「せめて名前くらい隠せよ。ここで冥界の関係場所だってバレバレじゃねぇか」

 

「まぁ、従業員の大半は何も知らない一般人らしいけどね。裏の世界と関わりがあるのはホテルの責任者を含めて数名だけだよ」

 

 なおのこと危なくないか?と思ったが今までなんとかなっていたのだろうから大丈夫なのだろうと思うことにした。

 それにしても、いくらなんでもこんな高級ホテルに高校の1学年全員を泊まらせるとか元はどうやって採算しているのか気になるが、怖いので考えるのを止めた。

 

 中に入り、教員から注意事項などを話している。

 何故か途中でロスヴァイセが100均スーパー絶賛トークが始まったが、それを生徒たちは温かい眼差しで聞いていた。

 

 そして。教員から合鍵を渡されて一樹たちはホテルの室内に向かった。

 

 

「これ、絶対高校生が泊まれる部屋じゃないだろ……」

 

 豪華な洋式の部屋に呆れながら荷物を置く。

 

「匙くんは生徒会で先生たちの手伝いがあるんだよね?」

 

「あぁ。俺たち役員は先生たちの手伝いだ。まったく。初日からこれなんて冗談じゃないぜ!」

 

 愚痴をいう匙に祐斗はご愁傷さま、と労る。

 

「そっちは、兵藤たちと合流して回るんだろ?俺たちは半分くらい時間取られちまうから、気にせず行ってこい」

 

 ここで一樹たちに当たらないところが匙の美徳だろう。

 お言葉に甘えて京都を見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、居た居た!お~い、イリナ、木場ぁ!」

 

 一誠たちは待ち人である祐斗とイリナを見つけて手を振って呼ぶ。

 しかしそこで一人足りないことに気付く。

 

「一樹はどしたの?」

 

 藍華が訊くと2人は気まずそうに笑みを浮かべる。

 

「うん、ちょっとね。同じクラスの平川さんっているんだけど、今呼ばれててね」

 

「平川ってアレだろ!木場のクラスの結構カワイイ!あの出るとこは出て引っ込んでるところは引っ込んでるスタイルの良い子!」

 

「呼び出されたってことは、あ~そういうこと?うわ、無謀ね」

 

 元浜が平川という女生徒のことを思い出し、藍華が苦笑する。

 そこでアーシアとゼノヴィアが首を傾げる。

 

「あの、どういうことでしょうか?」

 

「つまりね、今一樹は平川に告白されてるってこと。でしょ?」

 

 目線で祐斗とイリナに確認すると2人は曖昧な笑みを浮かべるだけ。

 

「こ、こ、こ、告白ですか!?」

 

「ま、アイツも最近この3人を取っちめたりして女子からのお株が上がってるしね。修学旅行にかこつけて告白しようって子が居ても不思議じゃないでしょ?ま、アイツが承諾するとは思えないけど」

 

「そ、そうですよね!一樹さんには白音ちゃんが……」

 

「いやいや、白音のことは別にしてもよ!一樹ってあんまり接点のない相手からそういうことされても本気で迷惑がるタイプだし」

 

 藍華に言われて以前、聞いた一樹の好みは一緒に居て安心する人と言っていた筈。

 それであっさり告白を承諾するとは思えない。

 

「くっ!だが日ノ宮だけ女の子に告白されるなんておいしいシチュを堪能してることには変わりない!ちょっと様子見に行くぞ!」

 

 松田の発言に一誠と元浜が同調する。

 それに祐斗はおいしいかなぁと笑みを引きつらせた。

 

 一樹が呼ばれた方角を聞いて3人は直行し、それに残りも肩を竦めて後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「だ~か~ら~。そんなの付き合ってから知って行けばいいじゃん!」

 

「知らねぇよ。なんで俺が碌に話したことのないお前と付き合わなきゃいけねぇんだよ、めんどくせぇ」

 

「めんどくさいって……」

 

 一樹の言い分に平川は顔を引きつらせる。

 そこでこちらを見ていた一誠たちに気付く。

 

「迎えも来たみたいだし、俺行くわ」

 

「ま、待ってったら!」

 

 そうして立ち去ろうとする一樹に平川が腕を掴むが、それをすぐに払い除ける。

 

「こっちはお前に興味ねぇってつってんだろうが……これ以上くだらねぇことで時間取らせんじゃねぇよ、邪魔だ」

 

「……っ!」

 

 それ以上、一樹は平川に目を向けず一誠たちの所へ向かう。

 

「わりぃ。時間取らせた。んじゃ、行こうか」

 

 集まった面々に軽く謝罪して移動しようとする。

 それに一誠が苦い表情で訊く。

 

「……いいのかよ、あれで?」

 

「いいんじゃねぇか?こっちは最初から用なんてねぇし」

 

 面々の大半が納得できない表情だが一樹は気にすることなく場の移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

「で、なんで断ったんだ?」

 

「お前ら修学旅行に何しに来てんだよ?」

 

 移動中にしつこくさっきのことを聞いてくる3バカにうんざりしながら店にある土産を目移りしている。

 少しとはいえ時間を取らせたのが悪いと思って黙っていたがこれ以上は手が出るかもしれない。

 

 女子4人は京都の修学旅行を満喫しているのに対して、コレだ。いい加減本当にうっとおしくなってきた。

 

「だってよぉ。平川って結構カワイイじゃん。もったいねぇな」

 

「まぁまぁ。一樹くんがそういうのに乗っかかるタイプじゃないのは知ってるでしょ?」

 

「大体、近づいてくるヤツ全部に優しくなんてできるかっての。それに、俺はあいつのアクセサリー代わりになるつもりもねぇんだよ」

 

「アクセサリーって……」

 

「録に話したこともない奴に告白するってそんなもんだろ。第一、これまで関わりもない奴に告白されて受けると思うのが理解できん。頷くわけねぇだろ」

 

「うぐう!?」

 

「どうした、イッセー?腹でも痛いのか?」

 

「な、なんでもないぜ……」

 

 松田と元浜が蹲る一誠に首をかしげる。

 

 なんせ、一誠はまったくの初対面の女の子(堕天使)から告白を受けて舞い上がった挙げ句殺されて悪魔に転生したのだ。

 一誠からすれば耳の痛い話である。

 もっともそのお陰で多くの女の子とお近づきなれたのだから結果オーライと言えるのかもしれないが。

 

「そもそも、他人を貶めて自分を上げないと自分をアピールできない奴なんて願い下げだってんだ」

 

「どゆこと?」

 

「おわっ!?」

 

 ぼそりと呟いた一樹に藍華が後ろから話しかけてきた。

 ビックリして振り返る。

 

「おどかすなよ!」

 

「そっちが勝手に驚いたんじゃん。で、なんか言われたの?」

 

「胸糞悪くなることをな。あれで承諾すると思う辺りどんだけ頭がお花畑なんだか」

 

 苛々を吐き捨てるように呟く一樹。

 

 それに他の面々も訊いてくる。

 

「え、と……どんなこと言われたのか聞いても?」

 

「大したことじゃねぇよ。オカ研の女子とか藍華とか白音とかの悪口っつか、バカにするようなことを並べ立てられただけ。だから自分と付き合うほうが得だぞみたいな。人の友人の暴言吐く女となんてつきあうかよっての。あぁ、内容に関しては口にしたくないから訊かないでくれると助かる」

 

 本当に言いたくないのだろう。表情は笑っていたが、眼は笑っていなかった。

 

「だが、アクセサリーとはどういう意味だ?いまいち言っていることがわからないのだが」

 

「そこも聞いてたのかよ。なんつうかさ、俺はあぁいうのって相手に好意があるから付き合おうとするんじゃなくて、ファッションつうかな。さっきアーシアたちが土産で置いてあるキーホルダーとか気に入ったのあるだろ?もしそれが『お前なんかに買ってほしくねぇんだよ』って拒否られたら良い気しないだろ。それと同じだよ。要は、私が彼氏に選んでやったのになに断ってんだって怒ってただけなんだよ、アレは。それにもし付き合っても周りに自慢できる要素とかが無くなったらあっさり他の男の所に行くんじゃないか?憶測だけど」

 

 そもそも一樹の場合、男漁りをしていた叔母を見てきたため、それらに対する偏見と嫌悪感が強いのは否定できないが。

 

「……もしかしたら本気でお前が好きで告白したかもしれねぇだろうが」

 

「だったらもっと仲良くなろうと前から接触して来ただろ。ホントに話したことないぞ、俺。何度でも言うが、俺はそんな露店のアクセサリー感覚で誰かと付き合う気はねぇ」

 

 一誠の指摘に一樹はめんどくさげに答える。

 

「ほら、こんな話はもういいだろ!京都を楽しめよ!」

 

 パンパンと手を叩いてこの話を終わらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美少女3人の京都風景に1枚!」

 

「ちょっと。私は撮らないの?」

 

 松田が藍華を外して撮影したことに半眼で物申している。

 

「ふっ。俺がファインダーに入れるのは美少女たちだけだ!」

 

「藍華も顔立ち整ってるし、結構美人なほうだと思うけどな」

 

 松田の主張に一樹が意見を述べると周りが驚く。

 

「え?もしかして私一樹にそういう目で見られてる?」

 

「は?ねぇよ」

 

「わかってるけど、ちょっとは考える素振りくらい見せなさい!それと素で返すな」

 

 藍華が一樹の両頬を引っ張ると周りが苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 写真を撮りながら山登りをしていると1番体力のない元浜がぜぇぜぇ言っている。

 

「なっさけねぇな!アーシアちゃんたちだってまだ元気なんだぜ」

 

 松田はそういうがアーシアとて悪魔だ。体力は人並み以上にある。

 

「景色がいいな。色んなもんすぐに撮っちまうからカメラの容量足りるか不安になる」

 

「そうだね」

 

 一樹の言葉に祐斗が同意し、女子陣も景色を堪能していた。

 そんな中で一誠が周りに許可を取って先に頂上まで独走していた。

 

 古ぼけた神社に着き、パンパンと手を叩いて願いを心の中で念じる。

 願いをかけ終わると見知らぬ少女が現れた。

 

「京の者ではないな?」

 

 それは、小学校低学年ほどのキラキラとした金髪をした少女だった。

 だがそれよりも視線がいくのは頭部にある獣のような耳と背後に見える尻尾だろう。

 白音や黒歌のとは異なるそれは彼女が猫又の類ではなく、他の妖怪であること示している。ここが稲荷神社であることから狐の妖怪かもしれない

 少女は明らかな敵意を持っていた。それに周りから人間とは違う気配を感じている。

 大して強くはなさそうだが、如何せん数が多そうだった。

 

「者ども!かかれ!」

 

 少女の合図で天狗や狐の面をした妖怪が一斉に姿を現し、襲いかかって来た。

 

「な、なんだなんだぁっ!?」

 

「不浄の者めが!神聖な場所を荒らしおって!母上を返してもらう!」

 

「母上!なに言ってんだ!!俺はお前の母ちゃんなんて知らねぇぞ!?」

 

「しらを切る気か!」

 

「切ってねぇ!」

 

 聞く耳持たずな相手に一誠は籠手を出現させて妖怪たちの攻撃を受け流していく。

 予想通り、力自体は大したことないらしい。

 

 そうしている間にゼノヴィアとイリナが加勢してきた。

 

「だいじょうぶかイッセー!」

 

「え?あの人たち京都の妖怪さんたちよね?どうなってるの!?」

 

 ゼノヴィアは土産で買った木刀。イリナは聖剣で妖怪の攻撃を受け止める。

 アーシアや祐斗も遅れて参上した。

 

 それを確認して少女はより一層に怒りの表情を強める。

 

「そうか。やはりおまえたちが母上を!絶対に許さん!」

 

 話し合いをさせてくれそうにない少女に苛立ちながら一誠はアーシアに訊く。

 

「アーシア!部長から例の物、預かってるよな!」

 

「は、はい!」

 

 それは一誠の昇格承認の代理カードだった。

 有事の際にその権限がアーシアに貸し与えられている。

 一誠は騎士の昇格し、構えを取る。

 

「3人とも、京都で暴れるのはマズイ!できる限り追い払う程度で攻撃してくれ!」

 

「そうだね。向こうも何か勘違いしてるみたいだし。話し合いに持ち込むのが先決だ」

 

 一誠の意見に祐斗も同意し、構えを取る。

 

 一触即発の空気の中で少女の後ろから近寄る者が居た。

 

「捕獲完了っと」

 

「日ノ宮!?」

 

 少女の首根っこを掴み持ち上げていた。

 

「なっ!?お主人間か!?私に気安く触るでない!」

 

 持ち上げられてジタバタと動く少女は、幾つもの火の玉を生み出す。狐火というやつだろう。

 一樹は息を吐いて易々とその狐火を全て握り潰した。

 

「危ねぇな、クソガキが。俺以外に当たったらどうすんだよ。それとな。火ってのはこうやって出すんだぞ」

 

 握り拳を作り、炎を纏わせる。

 

「ひゃっ!?」

 

「さて。これで拳骨喰らわせられたくなかったら話を聞いてもらおうか」

 

「…………」

 

 どっちが悪者だが判らない光景に一誠たちはドン引きする。

 

(どう見てもチンピラが子供相手に脅してるようにしか見えない)

 

 祐斗ですらこの感想である。

 

 少女が泣きそうな表情で怯えていると妖怪のひとりが一樹に横から襲いかかった。

 それを軽々と躱し、溜息を吐く。

 

「返せってか?いいよ別に。いらねぇからこんなの」

 

 ポイっと少女を投げ捨てる。

 顔を地面に打った少女は涙目になりながら周りに指示を送る。

 

「て、撤退じゃ!今の戦力でこやつらには勝てん!だが、必ず母上は返してもらうぞ!」

 

 それだけ言い残して妖怪たちは一瞬でその場を去って行った。

 どうやら、楽しい修学旅行とはいかないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都の妖怪に襲われたことをアザゼルとロスヴァイセに報告すると2人は困惑した。

 悪魔や天使であるイリナが旅行で京都に足を踏み入れることは事前に京妖怪たちに知らせてあった筈だったからだ。

 

 アザゼルが確認を取ってみるとその場を後にした。

 一応リアスにも連絡を入れるか訊いてみたところ、現状ではそれは止めた方が良いと釘を刺されて。

 

 

 

 そうしてようやく落ち着いた時間が取れると一誠は気色悪い笑みを浮かべて移動していた。

 現在女子生徒は大浴場で入浴中。

 これだけで一誠がなにをしようとしているのかわかるだろう。

 

「くっくっくっ!普段から俺をバカにしてる女子たちの身体を舐め回すように見てやるぜ!」

 

 性衝動の赴くままに移動しているとそれを妨げようとする気配を感じた。

 

「ふ。やはり俺の邪魔をしてくるか、日ノ宮!ロスヴァイセ先生!」

 

「……やっぱりというかなんというか。ちったぁ大人しく出来ねぇのかよお前は」

 

「教師として生徒の裸を死守します!」

 

 2人はジャージ姿で一誠を迎え撃っていた。

 

「日ノ宮ぁ!フェニックス家の時は阻止されたが、今度はそこを通らせてもらうぜ!」

 

「休憩時間にくだらねぇことで時間取らせやがってこのカス龍帝が」

 

「カス龍帝!?お前ホントに俺への暴言が酷くなってるな!」

 

 一樹は眉間に皺を寄せたまま一誠と睨み合っているとロスヴァイセが口を挟む。

 

「私たちを突破しても後ろにはシトリー眷属が控えています。どちらにせよ貴方は覗きなんてできません。部屋に戻りなさい」

 

「なんという布陣!俺が覗きをやることなんて最初からバレバレですか!?覗きくらい大目に見る寛容さを身に付けてくださいよ!そんなんだから彼氏ができないんだ!」

 

「かかかかかか彼氏のことは関係ないじゃないですか!?」

 

 顔を真っ赤にするロスヴァイセ。一樹は鼻を鳴らして一誠を口撃する。

 

「お前は覗きなんて狡いことしかできねぇから、あれだけ家で女に囲まれて誰とも進展しねぇんだよ」

 

「う、うるせぇ!お前だって人のこと言えねぇだろうが!?」

 

「俺、お前を見てるとずっと独り身でいいような気がしてきたけど、な!」

 

 そうして一樹は一足飛びで一誠に近づき拳で突きを繰り出す。

 一誠も籠手を出現させた。

 

「いい加減、こういう馬鹿なことから卒業しろよ!アーシアや朱乃さんとかに申し訳ないと思わねぇのか!!」

 

「それはそれ!これはこれだ!」

 

 ホテル内であることから互いに単純な拳打の応酬を繰り返す。

 一樹としてはこのまま時間が過ぎれば勝ちなのだが一誠が大人しくしているわけがない。

 一誠が一樹を防御の上から殴り飛ばすとロスヴァイセに接近する。

 

「ここは通しません!絶対に許さないんだからっ!」

 

 顔を赤くしたまま若干の私怨を混じらせて魔術を展開する。

 

「もらったぁっ!!」

 

 しかし一誠が僅かにロスヴァイセのジャージに触れ、指をパチンと鳴らした。

 

「行くぜ!洋服破壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

「きゃああああああっ!?」

 

 一瞬でロスヴァイセのジャージをバラバラにした一誠は鼻血を垂らしながら満足げな表情をする。

 赤かった顔をさらに真っ赤にして体を低くし、自分の身体を抱きしめる。

 

「部長にも負けない美乳とプロポーション!ありがとうございます!」

 

 親指を立てる一誠。

 ここでいるのがロスヴァイセだけならここを突破出来ただろう。

 しかし生憎とここに居るのはロスヴァイセだけではなかった。

 

「わー!兵藤くんがロスヴァイセ先生に襲いかかって裸にひん剥いたぁ!」

 

 ホテルに響くように張り上げられた大声。

 それに男性教師数名が駆けつける。

 一樹は素早くロスヴァイセに自分の上ジャージを被せた。

 それだけでこの状況で誰が悪か一目瞭然だろう。

 

 駆けつけた男性教師たちに一樹は慌てた様子で説明する。

 

「兵藤くんがロスヴァイセ先生に襲いかかって着ているものを破いていたんです!」

 

「ちょっ!お前!?」

 

 洋服破壊のことを除けば間違っていない説明に教師たちは肩を震わせる。

 

「兵藤お前!?今日という今日は許さん!ちょっと来い!!」

 

 そう言って2人がかりで一誠を連れてく教師陣。

 一誠ならただの人間2人程度振り払って逃げるのは簡単だが、それをすれば本当にマズイと理解した。

 

 一樹を親の仇でも見るような眼差しで睨むと一樹は親指を下に向けて見送った。

 

 

 

「ううう。あのジャージ、特売の時に買った物だったの……」

 

「いや、気にするとこそこですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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