太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

68 / 122
今回でロキ編は終了です。
10日間の連続投稿にお付き合い頂き、ありがとうございました。



65話:一段落

「ロキが、死んだ……?」

 

 遠目で真っ二つにされたロキを見てリアスは戦慄した。

 以前のコカビエルと自分たちには絶対的な力の差が在った。

 それでもここまで圧倒的な力はなかった筈。

 

 周りも闘志こそ衰えていないもののアレを相手にすることに緊張が増す。

 ロキを倒したコカビエルはゆっくりとリアスたちの前に降り立つ。

 それに皆が戦う意気を見せる。

 その先頭に立ったのはまだ傷の癒えていないバラキエルだった。

 

「コカビエル……」

 

 かつての同胞。今は禍の団と同様に討たなければならない相手。

 長年の戦友と敵対することに思うところがないわけではないが、自分の立場。何より愛する娘とその仲間の脅威となるならばここで首を貰うつもりだ。

 たとえ相手の力量が自分を大きく上回っていたとしても。

 コカビエルはそんなバラキエルの決意を知ってか知らずかまじまじと見る。

 

「おかしなものだ」

 

「?」

 

「貴様とアザゼルは俺が敵う相手ではなかった。その力に嫉妬と憧れを抱いたこともある。が、いざ貴様らを超えてみればこうも小さく見えるとはな」

 

「なんだと?」

 

 それで言うべきことを終えたとばかりにコカビエルは羽を広げ、空へと上がる。

 

「待て!コカビエル!?貴様は何をしようとしている!」

 

「俺は全てを超えて見せる。そして俺という存在をこの世界に刻み付けるのだ!」

 

 振り返ることもせずに宣言したコカビエルはそのまま戦場を去っていった。

 

 事態が呑み込めずに唖然としている面々の中で一誠が確認する。

 

「えっと……終わったんですか?」

 

 実感の伴わないその問いにリアスは自信なく頷く。

 

「そう、ね。ロキを含む敵は全て倒され、私たちは生き延びた。えぇ。終わったのよ」

 

 ロキを殺したのがコカビエルというところが釈然としないが悪神を相手に誰も死んでいない。自分たちの勝利と言っていい筈だ。

 

 それに全員が緊張の糸を緩め、地面に腰を下ろすなどをして息を抜く。アーシアは怪我人の治療に当たっているが。

 そして一樹は白音の姿を見る。

 

 まだ治りきっていない火傷は破けた衣服から見え、右腕から頬の部分まで到達している。

 その視線に気づいた白音が笑みを見せる。

 

「大丈夫。あとでちゃんとアーシア先輩に治してもらうから」

 

「はい!絶対に傷痕なんて残しません!任せてください!」

 

 近くで治療していたアーシアが力強く断言する。

 一樹はアーシアに礼を言うが、それ以上に内心は掻き乱れていた。

 この怪我を負わせた原因は自分だという意識が離れない。

 辛そうに自分を見下ろす一樹に白音は大丈夫、と繰り返した。

 

「お父さまっ!?」

 

 そこで朱乃の悲鳴が響く。

 見れば、バラキエルが膝を折っていた。

 

「大丈夫だ。が、少し血を流し過ぎた」

 

 バラキエルは不安そうに自分を見つめる娘を真っ直ぐに見る。

 大きくなったと今更ながらに思う。

 

「すまなかった……」

 

「……っ!?」

 

 それはきっとバラキエルが娘に最初に言わなければいけなかった言葉。

 妻を守れなかったこと。

 如何なる理由があっても娘と距離を取ってしまったこと。

 父としての責任を、放棄していたこと。

 そのほか、その全てに先ず謝罪しなければならなかったのだ。

 

「すまなかった、朱乃……」

 

 掛け違えた釦を直すように謝罪を重ね、バラキエルの意識が途絶えた。

 そのすぐ後に朱乃の絶叫を聞くことはなく。

 

 

 

 

 

 

 

 三大勢力と北欧の会談は問題なく進み、駒王協定に北欧の名が追加されることとなった。

 

 バラキエルの怪我は幸いにして命に別状はなく、アーシアの治療もあって翌日には意識を取り戻した。今は疲労を考慮され施設の一室で休養を取っているが、すぐに元通り職務に励むだろう。

 

 

 懸念することはコカビエル。

 あの堕天使が今まで何処にいてこれから何をするつもりかは知らないが強大な力を得てきたのは間違いない。彼がどのような行動をするのかアザゼルの頭を悩ませていた。

 もうひとつは親フェンリルのほう。

 ヴァーリチームは親フェンリルを無力化し、そのまま掻っ攫って行ってしまった。

 元からそのつもりだったのか成り行きかは判断し兼ねるが、禍の団にフェンリルという強力な駒が加入することとなったことに皆が危機感を抱いた。

 それでも北欧と協定を結べた事実は大きく、その後にアザゼル主催でロキ襲撃を防いだ残りの面々でちょっとしたパーティーが開かれた。

 

 その際にちょっとしたアクシデントがあり、それがとある人物の今後に大きく影響してしまった。例えば―――――。

 

 

 

 

 

「駒王協定の若手交流の一環で北欧から駒王学園に教師として赴任してきましたロスヴァイセです。生まれて来て申し訳ございませんでした!」

 

 いきなりのネガティブな挨拶に皆が面食らっていた。

 死んだ魚のような光の無い眼をしているロスヴァイセに全員がどう声をかければ良いのか迷っている。それにアザゼルが説明を加える。

 

「ロスヴァイセは北欧から派遣された使者ってことで駒王町に滞在することになった。家はとりあえずイッセーの家でな。現魔王の妹2人とミカエルの側近なんかとパイプを強くしながら各組織と北欧の関係の調整も行うそうだ。まぁ親善大使ってところだ」

 

 アザゼルの説明に一樹が余計な一言を投下する。

 

「あ、先日の一件を理由に左遷されたわけじゃないんですね」

 

「いやぁあああああああああああああああっ!?」

 

 一樹の一言を聞いてロスヴァイセが叫び、部室の壁に自分の額をガツンガツンと打ち付け始めた。

 

「このバカ。せっかく精神が安定してきたんだから余計なこと言うなよ!」

 

「あ~。つうことはやっぱり?」

 

「一応役職的には出世したんだがなぁ」

 

 ポリポリと頭を掻きながら先日のことを思い出す。

 

 ロキの襲撃を防ぎ、会談を成功させた報酬として開かれたささやかなパーティー。そこでロスヴァイセは盛大にやらかしてしまった。

 

 最高級の酒を飲み続けた彼女は絡むわ泣くわで周りを唖然とさせた。

 これはここ数日オーディーンの付き人として行動したストレスとロキの問題が解決したことで気が緩み、そこで大量のお酒を摂取したことでいつもより箍が外れてしまったことが原因だ。

 聞かされる彼女の愚痴に周りは鬱陶しいと思いつつも苦労してるんだなと同情の視線を向ける。

 ここまでなら問題はあるものの酒の席ということで無礼講で済んだのだろう。

 

 そこでオーディーンがロスヴァイセの背中を小突いたことで悲劇が起こった。

 色々と限界に来ていた彼女は主神に振り向くと顔を青くして頬袋を膨らませるとオーディーンに吐瀉物をぶちまけたのである。

 

 戦乙女(ロスヴァイセ)北欧の主神(オーディーン)吐瀉物(ゲロ)をぶっかけたのである。

 

 長く蓄えられた髭と召し物を盛大に汚し、それを見ていた未成年組は唖然として黒歌はあっちゃーと額を押えながら苦笑い。

 

 アザゼルは腹を押えて笑いを噛み殺した。

 

 そのままぶっ倒れたロスヴァイセが目を覚ましたのは会場近くにあるホテルで、全てを覚えていた彼女はオーディーンの姿を見るなり自分が下着の上にYシャツを着ているだけの格好なのを忘れ、速攻で土下座を主神に披露した。

 日本人が見て惚れ惚れするような綺麗な土下座を。

 

 そんな付き人の戦乙女にオーディーンは優しくも温かい視線を送って彼女の肩に手を置くとこう言った。

 

「君、クビになるか左遷されるかどっちがいい?」と。

 

 ロスヴァイセは左遷を選択するしかなかった。

 本来ならリアルで首が飛んでもおかしくない失態だが、ロスヴァイセは優秀なヴァルキリーで特に魔法の理解力は先輩たちを含めても飛び抜けている。

 ロキの件もあり、今回の事だけでクビにするには惜しい人材なのだ。

 まぁ、これは普段のオーディーンの態度にも問題があることもあり、ついでだから新しい使者を駒王に派遣するよりロスヴァイセを残した方が安上がりだったという事実もある。

 ロスヴァイセ自身、その性格から周りと不必要な壁を作ることも少ないという理由や歳の近さなどもあり、彼女は三大勢力との交流の先陣に立たされたのである。

 

 

「2年間の給料50%カットに同じくボーナス無し。その他諸々の特権が一時凍結。私はなんであんなバカなことを……う、う、ううぅうう」

 

 おそらく本人の中であと10年は更新されないであろう思い出したくない失敗話にトップ入りした事件を思い出してついには泣いてしまった。

 

 さすがに不憫に思ったのか一樹が口を出す。

 

「あ~あの、そうだ!姉さんが淋しがってましたよ!珍しく同性で話の合う相手が出来たからでしょうか。今度、家に遊びに来ます?」

 

「……はい。私も彼女にまた会いたいです。その時はよろしくお願いします」

 

 ハンカチで涙を拭きながら落ち着いてきたロスヴァイセ。

 そこでリアスがロスヴァイセに質問する。

 

「それで本当に教員枠でいいの?」

 

「はい。私、この国でも高校卒業の齢に達してますし、祖国では飛び級で大学も出てて教員資格も取得してますから」

 

 ちなみに飛び級が認められていないこの国でロスヴァイセは書類上年齢を僅かに引き上げられていたりする。

 そして北欧からの給料はカットされているが教員として働く給料はちゃんと支払われる為、月の給料はそう変動してなかったりする。もっとも流石にボーナスはヴァルキリー職には及ばないが。

 

「それより今日、朱乃さんはどうしたんですか?」

 

 部室に居ないリアスの女王を一誠は心配げに問う。

 するとリアスは嬉しそうに答えた。

 

「朱乃は今日、バラキエル氏のお見舞いに行っているわ」

 

 

 

 

 

 

 

 ノックされたドアの向こうに現れた愛娘にバラキエルは言葉が詰まった。

 

「……学園はどうした?」

 

 どうして最初にそんなことしか口に出来なかったのか。

 

「今日はお休みを頂きました。父が怪我をしたのですからお見舞いに休んでもおかしくはないでしょう?」

 

 バラキエルに視線を合わせずに答える朱乃。そして手にしていた包みを渡す。

 

「これ、お弁当です。入ってもいいですか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 親子の会話としてはあまりにもぎこちないもので、それが2人がどれだけすれ違っていたかを物語っていた。

 バラキエルは娘の許可を取って弁当箱を開けるとそこには色彩見事な和の弁当が広がっていた。

 一口食べるとそこに懐かしい味が広がる。

 

「美味い。朱璃の味だ……」

 

「残されていた母様のレシピを見て作りましたから。納得のいく味になるまで随分とかかりましたが」

 

 弁当を食べながら昔のことを思い出す。

 まだ親子3人が暮らしていた頃。朱乃は母である朱璃の料理を手伝い、自分が手伝ったことを胸を張って聞かせてくれた。

 最初はそれこそ卵を割って掻き混ぜた。サラダを盛りつけたなどということを誇らしげに語っていた娘。

 その娘がこうして母と同じ味を出すまでに成長したことへの感動。そしてそれを見守ることのできなかった自分の不甲斐無さ。

 口に広がる懐かしい味もあって泣きたい気分になったが父としての矜持がそれを堪える。もし朱乃がいなければ号泣していたかもしれない。

 

「とう、さま」

 

 朱乃は相変わらず視線を合わせずにいる。

 

「正直、まだ私は父様が許せません。母を、助けてくれなかったこと。それ以降も会いに来てくれなかったことも」

 

「…………」

 

 バラキエルとて妻を失って親戚に保護された朱乃に会いに行かなかったわけではない。しかし堕天使を嫌う親戚に門前払いを受け、五大宗家などとの関係悪化を恐れて身を引くしかなかった。心の底では力づくでも連れ去ろうと何度も思いながらも立場に縛られてそれが出来なかった。

 しかしそんな言い訳は目の前の娘には意味のないものだろう。

 

「ですから、教えてください。父様のことや母様のこと。母様が殺されたあの時からどんな思いで生きてきたのかを」

 

 それは朱乃にとって必要な事だった。

 父と母。両親のことを知らなければ何も決められない。

 目を背けていた父と向き合わなければもう前に進むことはできないのだ。

 

「あぁ。そうだな。私も聞いてほしい。私と朱璃のことを。先ずは私が朱璃と出会ったのは―――――」

 

 まだ溝が埋まるには時間がかかるだろう。

 それでもこうして父と娘は10年近い時間を経て向き合ったのだ。

 きっとその先はそう悪い未来ではない筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり覇龍は危険だな。魔力を代償になんとか制御しているが、気を抜けば一気に意識を持っていかれる上に肉体のダメージが酷い」

 

「どうかご自愛を。肉体の損傷までなら私が如何用にもして見せますが、暴走すれば元に戻せる保証はありません」

 

「あぁ。気をつけるさ。それに俺も覇龍を完全に制御するまでもうこの力を使うつもりはない」

 

「そんなこと言ってメディアは治療の名目でヴァーリの身体に触れられて内心喜んでるんだぜぃ」

 

「黙りなさいこのアホ猿!!ふざけたことを言うと猿から豚に変えるわよ!」

 

 メディアの激昂に美猴はお~こわ、とヘラヘラしながら手をひらひらさせる。

 

「アーサー。フェンリルの様子はどうだ?」

 

「能力は落ちますが支配の聖剣で制御可能です。それにしても物好きですね。牙が目当てとはいえ、このような危険な魔獣をチームに入れるなんて」

 

「メディア。フェンリルの方は頼めるか?」

 

「お任せを。グレイプニルのデータは既に手に入れてますし、それと私の知識。北欧から頂いた術式の書の解読が済めばいずれ制限を受けずとも制御下に置けるかと」

 

「任せる」

 

 2人のやり取りを眺めながら美猴とアーサーは内緒話をする。

 

(そういやぁ、ヴァーリから魔術書を貰ったときめちゃくちゃ上機嫌だったよなぁ、メディア)

 

想い人(ヴァーリ)から初めてのプレゼントですからね。もっとも女性への初めての贈り物が魔術書とはどうかと思いますが)

 

(まぁ、ヴァーリだしなぁ。むしろここで実用性皆無のアクセサリーなんて送ったら偽物と疑うところだぜぃ)

 

「なにをコソコソと話している?」

 

「べっつにぃ!それよりロキの奴がコカビエルにやられたってのは驚いたぜぃ。そこまで強い奴だったのかぃ?」

 

「いいや。コカビエルの実力は中途半端なモノだったが力を付けたということだろう。今度会った時が楽しみだ。それにグレモリー眷属とその仲間も今回の戦いでまた力を付けただろう。まだまだ楽しみは減らないな」

 

 これから挑む存在や下から追い上げて来る者。それらを夢想してヴァーリは楽し気に瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

「偵察の話では、例の子、生き残ったらしいわよ」

 

「そうデスカ」

 

「素っ気ないわねぇ。もっと慌ててくれないとお姉さんつまらな~い」

 

「彼を討つのは私の役目デス。ソレ迄、彼が殺さレルことはないと思ってイタノデ」

 

「あら。物騒な惚気ね。それと曹操もそろそろ動くみたいよ?準備はしておいてね」

 

「わかりマシタ」

 

 去って行くジャンヌから意識を外し、アムリタは弓を強く握る。

 

「神と戦ウことで器を広ゲタ。貴方がその鎧を本当に身に纏っタ時、私たちは、今度こそ自らの力で太陽を撃ち落とス。イツキ。この弓で、イツカ必ず……」

 

 そうしてアムリタは矢を番えていない弓の弦を引き、いずれ貫くであろう目標を射抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高層ビルの誰もいない屋上でひとりの少女が太陽に手を伸ばしている。

 

「まだ、弱い……でも我の蛇で強くすれば可能?」

 

 自問の答えは出ず。しかしこれからすることは決まっていた。

 

「グレードレッドを封じる鍵。太陽の力。我が必ず手に入れる」

 

 空に浮かぶ日輪を我が手にするように少女は手を動かし続けた。

 

 

 

 




ロスヴァイセは最後でこんな形になりました。
他の案では。
1オーディーンと共に帰還してメインから脱落。
2ロキに殺されてリアスの眷属として転生する。
などがありましたが作者の中で1番しっくりくる結末を選びました。

朱乃とバラキエルに関しては朱乃のほうから踏み出して関係修復のきっかけになると最初から決めていました。
その為に乳翻訳と乳神はリストラされたわけですが。

なにげにスルーされた匙改造イベントは別のところで入れます。

修学旅行編から学園祭までオリ主である一樹と猫姉妹にとって重要な話になる予定ですので修学旅行編は2、3回に分けて連続投稿をするつもりです。長くなりそうですから。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。