太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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64話:堕天使の戦い

「ハァッハッハッハッ!!」

 

 歓喜の雄叫びと共にコカビエルはロキに翼を広げて突っ込んで行った。

 そしてロキの頭を鷲掴みにして地面に叩きつける。

 

「どうしたぁ!隙だらけでは無いか?」

 

 そのまま頭を握り潰さんばかりに握力を込めるコカビエルにロキは魔術で応戦する。

 

「死ね!堕天使めがっ!!」

 

 力の奔流にコカビエルは腕を外し、飲み込まれる。それにロキは忌々し気に唾を吐いた。

 

「大きな口を叩いた割には一撃で終わりか?いったい何をしに……」

 

 来た、と言おうとしたが途中で止まる。

 自身の魔術によって吹き飛ばされ、発生した土煙が晴れるとそこには着ていたジャケットこそ破れているが肉体が無傷なコカビエルが立っていたからだ。

 

「中々いい攻撃だったぞ。俺を殺そうとする一撃。こういう感覚は久しぶりだ。そうだ、もっとだ!もっと俺を昂らせ、この渇きを潤して見せろぉっ!!」

 

 そうしてコカビエルは再度ロキへと向かって行った。

 

 

 

 

 負傷した一樹たちは黒歌とロスヴァイセによって担がれ、アーシアの元へと移動させた。

 アーシアも一樹の重傷は見ていたのですぐに空を飛んで向かっていたのだが。

 

「……俺より先に白音と祐斗を――――――」

 

「バカ言わないでください!1番傷が酷いのは一樹さんなんですよ!?」

 

 一樹の要望にアーシアは珍しく声を荒らげる。

 腹を切られて血が噴き出た一樹を見た時はショックで悲鳴を上げることすらできなかった。

 聖母の微笑みで癒しの力を注ぐとあれ?と違和感を覚える。

 

「傷が、塞がって……」

 

 一樹の傷は塞がり始めていた。

 まだ完全ではないが、それもすぐに終わるだろうと思えるほど急激に。

 

(本当に化け物染みてきたな。今はありがたいけど正直複雑だな)

 

 自分の体に危機感を覚えながらも今はそれを奥にしまい込む。

 

「そういうことだから。俺の方は勝手に何とかなる。だから2人をな」

 

 一樹の言葉にアーシアは迷ったがこれほど自己治癒能力を前に自分が手を出せばどうなるか予想つかないため、迷った末に一樹の言い分を受け入れることにした。

 

「悪い、みんな。下手打った」

 

 俯きながら一樹は悔しそうに謝る。

 ロキの言った通り、一樹には僅かな迷いがあった。それが動きに現れて千載一遇のチャンスを逃すことになってしまった。

 ディオドラや子フェンリルと違って人型を殺すことに躊躇ってしまったのだ。

 それが祐斗と白音を巻き込み、コカビエルが現れなければ3人纏めて死んでいただろう。

 なにやってんだと自分を殴り飛ばしたくなる。

 切られた腹を押さえながら悔しげに下唇を噛む。

 

「……それは、後にしましょう。今はまだやらなきゃいけないことがあるでしょう?まだ、みんな戦ってる」

 

 黒歌は子フェンリルや量産型のミドガルズオルムと戦っている仲間を指差す。

 

「どうする?ここで休んでる?それとも……」

 

 試すような口調で問う黒歌に一樹は槍を支えに立ち上がる。

 

「やるさ。テメエで犯した失態は全部じゃなくても少しは取り戻しておかねえと気がすまねぇ」

 

 血を流しすぎたせいか若干の視界がぶれ、足がふらつくが援護くらいはできるだろう。

 その前にロキと戦っているコカビエルに目をやる。

 

「だけど、コカビエルってあんなに強かったか?前だと力量差が開きすぎてて強さがよく分かんなかったけど」

 

 ロキと互角の戦いを繰り広げるコカビエルに一樹は疑問を口にする。

 

「いや、少なくともコカビエルの実力はアザゼル先生やバラキエル氏よりも下だったはずだよ。そうじゃなかったら以前、白龍皇に一方的にやられたのはおかしい。」

 

 アーシアの治療を受けている祐斗が断言する。それに一樹は顔をしかめた。

 

「強くなったってか?厄介な奴がまぁ……」

 

 この場では自分たちに利のある行動を取ったがあの男は味方ではない。むしろ敵だ。

 それこそロキを倒したら自分たちに牙を向きかねない

 そこで白音が意識を取り戻した。

 

「白音!?」

 

「い、くん……ッア!?」

 

 火傷を負った白音が動こうとして痛みに呻く。

 

「動かなくていい。ここで、アーシアに治してもらえ。それと、ごめんな。俺の所為で」

 

 火傷以外にも見れば指などが折れており、これが自分で招いたのだと思うとさらに自分への怒りが湧く。

 そんな風に考えている一樹に白音が声を絞り出す。

 

「いっくん、ケガは……?」

 

 白音の疑問に目を見開いて驚きながらもすぐに笑みを作って答えた。

 

「大丈夫だ。白音と祐斗が守ってくれたからな。もう何ともない。ありがとな」

 

 傷の痛みで直前に一樹が腹を切られたことを忘れているのか白音は安堵の笑みを浮かべた。

 

「そう……よかった……」

 

 そうしてもう一度意識を沈ませる。

 それを見て一樹は再び槍を手にした。

 

「行ってくる。アーシアは白音を頼む。こんな戦い、さっさと終わらせて来る」

 

「そうだね。行こうか」

 

 祐斗も立ち上がり、聖魔剣を手にする。

 

「怪我はもういいのか?」

 

「僕は白音ちゃんより軽傷だったからね。もう治してもらったよ。それに怪我があっても部長たちが戦っているのに休んでいるわけにもいかないさ。言ったでしょ?僕はリアス・グレモリーの騎士だって。部長たちを守らないと」

 

「そっか。そうだな」

 

 そうして量産型のミドガルズオルムに向かって行く一樹と祐斗。それを見送った後に黒歌は肩を竦める。

 

「男の子ねぇ。でも私も妹がこんな風にされて黙ってられないし、危なっかしい弟も守らないと。ロスヴァイセ、手伝ってくれる?」

 

「えぇ。元よりこれは北欧の問題です。私も率先して動かないと」

 

「そ。ロキの方は今はコカビエルに任せましょう。相打ちになってくれれば嬉しいけど、どっちかが生き残って戦うにしろ余力は残しておかないと」

 

 今のところコカビエルとロキの戦いは互角。モチベーションの差かコカビエルが若干押してるように見えるが、どっちが勝っても戦いになるだろう。

 それまでに他を殲滅しないと絶対に積む。

 

「それじゃ、行きましょうか!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 量産型ヨルムンガンドとの戦いに対してオカルト研究部の面子はだんだんと慣れてきた。

 その証拠に敵の攻撃に皆が冷静に対処できるようになっていた。

 

「イッセーくん、お願い!」

 

「任せろ!うおぉおおおおおっ!!」

 

 イリナが聖剣(エクスカリバー)の能力である、擬態、破壊、天閃の能力を駆使して量産型ヨルムンガンドの口を縫い付けた。

 それに一誠がニョルニルのレプリカを使ってその頭に打ち付ける。

 例え雷が発生しなくてもその一撃は大きく役立っていた。

 

 一誠が振り下ろした槌が量産型ヨルムンガンドの頭を潰す。

 

「先ずは1匹ィッ!!」

 

 一誠が最初のヨルムンガンドを倒すとゼノヴィアが聖剣のオーラを全開にする。

 

「これで、どうだぁっ!?」

 

 放たれた聖剣のオーラが倒すとまではいかないまでもヨルムンガンドにダメージを蓄積させる。そこでリアスが飛び出した。

 リアスはずっと持っていた細長の包みを封を切る。中から出て来たのは一本の細剣(レイピア)だった。

 リアスの滅びの魔力から祐斗の魔剣創造の神器を用いて創られた滅びの魔剣。

 

「タァアアアアッ!!」

 

 その斬れ味はデュランダルにも劣らず、ヨルムンガンドの首を掻っ捌く。その感触を確かめながらリアスは眉を寄せる。

 

(斬れ味は凄いけど思った以上に脆いわね。使えるのはあと1、2回といったところかしら?)

 

 リアスの滅びの魔力を凝縮して創られているためか、強度が祐斗の魔剣の中でも特に低い。

 しかも滅びの魔力の特性上、1度封を切ってしまうと徐々に形を保てずに崩壊していく。

 また、リアスの魔力を使用して創られるからか創造に10分程時間がかかる。アザゼルに言わせれば発想は面白いが手間が全く釣り合わないとのこと。

 

 バラキエルが残り3匹の内2体を受け持っている。

 そこで現れた黒歌が印を結んでいた。

 

「ついでよ!沼に落としてたのも片を着けるわ!影縫い!」

 

 黒歌の影が地を離れ、沼に固定化されていたミドガルズオルムの体に巻き付き、舌や眼球などを刺していく。

 

「ロスヴァイセ!トドメ!!」

 

「はいっ!!」

 

 ロスヴァイセの手に魔力で編まれた槍が出現する。それが鳥のような形へと変化する。その膨大な魔力量は最上級悪魔による渾身の一撃に相当する。

 

「行きますっ!!」

 

 投げつけた魔力の槍がミドガルズオルムの体を穿ち、頭から体の4分の1を消失させる。

 

「おぉ!?やるわね!」

 

「私とて伊達にオーディーンさまの付き人に選ばれたわけではありません!」

 

 しかし今の一撃でかなりの力を消耗してしまい、肩で息をする。

 だが残りの量産型ミドガルズオルムは2匹。負傷した子フェンリル1匹だ。

 

 そんな中で祐斗と一樹が飛び込む。

 一樹は足を止めて炎の斬撃でミドガルズオルムの体に傷を入れる。それと同時に祐斗も地面から大量の魔剣を創造し、下からその巨体を串刺しにしていった。

 

「ありがたいっ!!」

 

 その隙を突いてバラキエルが極大の雷光を放ち、ミドガルズオルムを消し炭にする。

 残り1匹となったミドガルズオルム。しかしその最後の牙は朱乃へと迫る。

 周りの援護に徹していた朱乃にミドガルズオルムの牙が襲いかかる。

 

 その牙が朱乃の体を貫こうとしたときに横から突き飛ばす者が現れた。

 

「おとっ!?」

 

 それはバラキエルだった。彼は娘を突き飛ばして代わりにその牙を受ける。

 

「ぐうっ!?」

 

 痛みに呻きながら雷光を撃ち、距離を開けると朱乃を守るようにミドガルズオルムとの間に浮いている。

 

「どう、して……!?」

 

 バラキエルは答えずに戦闘を続行しようと雷光を生み出す。

 しかしそれよりを放つよりも先に飛び出した赤と紅の軌跡。

 

「朱乃さんに、近づくんじゃねぇっ!?」

 

 ミョルニルをフルスイングしてミドガルズオルムの頭を打ち上げるとその頭部にリアスが細剣を突き立てる。

 

「私の大事な友達を餌になんかされてたまるもんですか!!消えなさいっ!!」

 

 自分の魔力を材料にした魔剣に限界以上の魔力を注ぎ込む。すると細剣は滅びの魔力を撒き散らしながらミドガルズオルムの頭部を道連れに砕け散った。

 

 残る子フェンリルに黒歌とロスヴァイセがそれぞれの術でタンニーンを援護する。

 

「だぁ!?子供とはいえやっぱりフェンリルね!量産型のミドガルズオルムよりずっと強力だわ!!」

 

 悪態をつく黒歌。そうしている間に子フェンリルは暴れまわる。

 

 そこで一樹が叫んだ。

 

「白音!俺から()()()()!」

 

 まだ傷を完全に治していない白音が一樹の体に触れており、そこから仙術で一樹の気を奪い取る。

 奪い取った気で螺旋丸を作り出すと透明感のある渦ではなく、赤く、熱い螺旋が出来上がった。

 

「だぁああああああっ!!」

 

 自分の上半身ほどの赤い螺旋丸を子フェンリルの体に叩きつける。

 その衝撃で白音が弾き飛ばされるが、子フェンリルは苦し気に暴れ始めた。

 

 その巨体故にそれだけで脅威になるが同等以上の巨体を誇る龍王がその体を押さえつける。

 

「でかした!あとは、任せろ!!」

 

 タンニーンは雄叫びと共に子フェンリルの心臓を抉り出した。

 心臓を奪われ、ジタバタと動いていた子フェンリルはすぐに息絶えて動かなくなる。

 

 誰もが傷と疲労で満身創痍。

 

 そして残る戦いは北欧の悪神と狂気の堕天使による決戦だった。

 

 

 

 

 

 

 殺意がそのまま攻撃へと転化したような魔術の猛攻を潜り抜けてコカビエルはロキの両腕を掴むとその鼻っ面に頭突きを喰らわし、地面へと叩き落とす。

 

「どうしたぁ!!神を名乗る者がまさかこの程度ということはないだろう!?」

 

 コカビエルは今歓喜に満ち溢れていた。

 彼は駒王の町でヴァーリから逃げた後に日本を離れ、世界を回り、須弥山で帝釈天と対峙した。

 結果は戦いと呼ぶにも烏滸がましいほど無様に敗退。帝釈天の気まぐれで生かされた彼は広さも時間の流れも定かではない特殊な空間に閉じ込められた。

 自分の体すら認識できない暗闇の中でコカビエルはひたすらに自分を鍛え続ける。

 その空間から出された先で出会った敵は存外に歯応えがあった。

 

 久しぶりに本気の殺意を向けてくる敵。

 実力も申し分ない。

 繰り出される攻撃を防ぎ、回避し、自らも攻撃する。その応酬に心が弾む。

 血を流し、流させ、命をすり減らす感覚。

 これが、これこそが――――――。

 

「そうだっ!これこそが戦いだぁあああああっ!!」

 

 

 

 

 対してロキは現在混乱の極みであった。

 この場に現れた新たな堕天使。それはいい。

 しかしその実力が堕天使の枠を大いに逸脱している。

 堕天使程度、神である自分が、ましてや1対1で敗ける筈はないと確信していた。

 

 そして何よりもロキを困惑させるのは敵の表情だ。

 血を流せば流すほどその笑みは深め、決して倒れることなく過激さを増して攻撃を繰り出す。

 

(なんなのだこの狂戦士(バーサーカー)はっ!?)

 

 それでも魔術を使い、迎撃する。まさか不死身ということはない筈だと心に言い聞かせながら。

 

「私は、神なのだ!たかだか堕天使風情にぃ!?」

 

「ハッハッハ!俺も大概に人間如きだとか見下してきたがなぁ!こうして下から上を叩き堕とすのも存外に愉しいと実感しているぞ!これに気付かせてくれた貴様に感謝しなければなぁ!!」

 

「黙れぇ!?」

 

 ロキは渾身の力をコカビエルに向けて放つ。

 それはコカビエルの肉体を容易く呑み込む程の魔力の奔流。

 神の渾身を受けてたかが堕天使風情が生き延びていられるはずはない。

 勝利を確信し、口元を歪めるロキ。

 

「あっ?」

 

 理解できなかった。

 煙が晴れるとそこにはコカビエルが身体から夥しい血を流して嬉しそうに嗤っていた。

 

「流石は神を名乗ることだけはある。あれほど鍛えたというのに今のは危なかったぞ」

 

 それだけ告げるとコカビエルは急接近し、作った光の剣でロキの身体に傷を入れる。

 

「くっこのっ!?」

 

 そのまま蹴りを入れられ地へと落とされる。

 コカビエルもそれに続き、ロキと同時に着地すると採石所に大きな衝撃が走った。

 

「何故だ!?何故堕天使程度がこれほどの力をっ!?」

 

「戦いの最中疑問を口にするか!?だが聖書の神ならばこの程度の危機、表情を変えずに対処したぞ!!同じ神とを名乗る者とは思えんなぁっ!!」

 

「き、さまぁああああっ!?」

 

 余裕を失くし、飛翔と後退をしながら魔術を放ち続けるロキ。それをコカビエルは強力なオーラで相殺していく。

 目前まで接近してきた敵にロキはまるで子供が恐ろしいものを拒絶するような心境で最大の攻撃を放った。

 

(何故だ!なぜアレは死なない!何故!何故!何故!!)

 

 混乱の中でさらに逃げようと後ろに下がると、下半身が離れた場所で落下していた。

 

「へ?」

 

 間の抜けた声を出す。ロキには理解できなかった。

 何故自分の下半身があんなにも遠くにあるのか。

 見るとコカビエルは光の剣で振るったような姿勢でロキの上半身を見つめていた。

 

 自分がどうしてやられたのか。理解できぬままロキは地に墜ち、二度と意識は浮上しなかった。

 

 

 

 

 

「恐怖で自分を失い、勝機を逃したか。呆気ない幕切れだったな」

 

 着ていたジャケットはロキの攻撃で消し飛んでしまい、上半身を晒したコカビエルが物足りなさげに舌打ちする。

 最後のロキの攻撃にコカビエル自身も最大の力を込めた光の剣を作り出していた。

 それを振るい、ロキの体を二分割した。ただそれだけのこと。

 

「だが悪くはなかった。貴様との戦い、中々に愉しませてもらったぞ。北欧の悪神よ」

 

 地に堕とされた神を見下ろしてコカビエルは満足げに口元を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コカビエル、ロキに勝利。
作者はコカビエルが敵キャラ(仲間になるのを含め)3指に入るくらいお気に入りなのでこれからも登場させたらバンバン活躍させようと思います。

この作品ではオリ主かヴァーリのサンドバックが仕事とか言わせない。


次話でロキ編は終わりです。

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