太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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62話:神堕としの始まり

「おっぱいメイド喫茶を希望します!」

 

「…………」

 

 一誠の案にリアスは絶対零度の冷ややかな視線を送った。

 

 今日は学校に出席し、オカルト研究部の部室で学園祭の出し物を話し合う中で一誠が真っ先に出した案がこれである。

 部員の全員が予想通りと言わんばかりの反応。

 

「イッセー。そんな出し物を学園側が許可するわけないでしょう。そんな案を提出したら生徒会や教員の方々に正気を疑われてしまうわ。それと私たちに水商売紛いなことをしろとはどういうことかしら?ちゃんと説明できるのでしょうね?」

 

 威圧感を伴うリアスの質問に一誠はたじろぎながらも熱弁する。

 

「だ、だって部長!部長と朱乃さんの二大お姉さまを中心にうちの部の女性陣のおっぱいを前面に押し出せば売り上げ独走間違いなしじゃないですか!!」

 

「でもイッセーくん。そうなると他のお客にまでみんながそうした視線に晒されるんだよ?さすがにそれはちょっと。身内なら良いってもんじゃないけど」

 

 祐斗の言葉に衝撃を受け、頭を抱える。

 

「そ、そうだ……そうだった。みんなのおっぱいを見て楽しむのは俺だけで十分な筈なのに……なんてこった」

 

「この先輩は……」

 

「だめだこいつ。学園祭のこと自体理解してなかった。自分のことしか考えてねぇ」

 

 軽蔑の眼差しで一誠を見る白音とドン引きする一樹。

 そこでリアスが一樹と白音に視線を向ける。

 

「そう言えば2人とも、前に学園祭の出し物を考えてくれてたみたいだけど、教えてくれないかしら?」

 

 期待の籠った視線が2人に集まる。

 2人は一度視線を交わすと一樹が意見を言った。

 

「えっと。化粧水販売なんてどうです?出来れば手作りの」

 

 一樹の意見が意外だったのか全員の眼が開かれる。

 当然と言えば当然だ。一樹のイメージとかけ離れているのだから。本人にも自覚はあるが。

 

「ここって元女子高だから女子の比率が圧倒的に多いわけですし。兵藤じゃないですけどうちの部って女子のレベル高いからそれだけで客寄せになるんじゃないですかね。オカルト関係についても魔除けの~とか銘打っとけばそれっぽく見えますし。まさか本気にする人もいないでしょうけど」

 

 化粧は自身を飾るだけでなく呪術的な意味合いも過去にはあった。

 顔を赤く塗ることで災いから遠ざかると信じられていたり、化粧を施す祭事なんかも珍しくない。

 これらから自分たちの部とはさして外れず、売り上げも期待できるのではないかと考えた。

 飲食店は他でも多くあるが被ることは無いと思う。

 

 オカルト研究部は学園で注目度の高いメンバーが集まっている。

 それを利用しない手はない。

 

「確かに、それも面白そうだけど。そうなると男子はほぼお断りになってしまうのが難ね。そっちは何かあるのかしら?」

 

「そっちは単純に焼き菓子とか販売すればいいのでは?クッキーとか少し形に拘って。福が来る~とか書いとけば。気になる相手の作った菓子なら手が出やすいかな?歩きながら食えるし」

 

「一気に意見が適当になったわね。でも……うん悪くないわ。他に何か意見は?やりたい事や一樹の案の補正でもいいわ」

 

「おっぱいお化け屋敷とか希望します!」

 

「他に意見はないかしら?」

 

「スルーされた!」

 

「当たり前だよ、イッセーくん……」

 

 周りに意見を求めると珍しくギャスパーがおずおずと手を挙げた。

 

「そ、それなら!誰がどの商品を作ったのか書いてみてはどうでしょう!」

 

「どういうこと?」

 

 僅かに驚きながらリアスは先を促す。

 

「えっと……誰がどの商品を作ったかを書いておけばそれを目当てに買う人も出てくると思いますぅ!」

 

「なるほど。それなら一種、人気投票みたいな感じに出来るね。売上は後日まとめて発表ってしても話題性が出るかもしれない」

 

「それならお品の数は皆さん平等にするべきでしょうか?」

 

「どちらかと言えば名札で調整した方がいいかもしれません。個人差が出て数が足りなくなったらアレですし。本当にみんなで作るんじゃなくて、まとめて作って置いて売れたらその人の分を補充する感じのほうが。ちょっと詐欺っぽいですが。制作過程を見られなければいけるかと」

 

「そうなるとひとりひとつが厳守だな。大量買いされると票の意味がない」

 

「手作りの化粧水は長持ちしないから直ぐに使い切っちゃう分量で売らないとね!」

 

 次々と案が出されていき、意見がまとまっていく。

 

「でも、そうなると誰が1番になるんだ?」

 

 一誠の一言にリアスと朱乃が笑みを浮かべる。

 

『そんなの私に決まって(います)るわ!』

 

 2人が同時に宣言するとお互いに目を見合わせて火花を散らす。

 

「ずいぶんと自信があるじゃない、朱乃」

 

「あらあら。部長こそあまり強気なことを言わないほうが身の為では?」

 

 そんなの上級生のじゃれあいの中で朱乃の様子が以前と変わらないものに変化していることに全員が気づいていた。

 少し前の近づくなという刺々しい感じはなく、穏和な雰囲気に戻っている。

 

「それにしてもどうしてこの案が出たんだい?」

 

「ん?喫茶店とかは他でも結構あるだろうからな。だったら元女子高ってのを考えて化粧品とか売れっかなと思っただけ。ついでに去年はあんま回れなかったから前準備で頑張って当日は売り子だけやって命いっぱい回りたいだけ」

 

「お前も自分のこと優先じゃねぇか!?」

 

「やかましいっ!?少なくともすぐ却下されるような意見は出してねぇだろうが!」

 

 そこでいつも通り一樹と一誠の小突き合いが始まり、最終的にリアスが2人にハリセンを落とす。

 

 こうしてオカルト研究部の出し物は化粧水とクッキー販売に決まった。アイディアはここから詰めていくことになるだろうが、その前に今日はこれからやらなければならないことがあった。

 

 

 

 先程から口を出さずに茶を飲んでいたアザゼルが若者たちの和気藹々とした会話を眩しそうに眺めながら湯飲みを置く。

 

「黄昏、か」

 

 その声に全員が動きを止める。

 神と戦う時間が来たのだ。

 

神々の黄昏(ラグナロク)なんて物騒なモンを余所様の敷居で起こそうとしてる(バカ)を取っちめに行くぞ。気張れよお前ら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 三大勢力の首脳陣と北欧の主神が会談する高層ビル。

 このビルはグレモリー家が所有する建物であり、ここで三大勢力と北欧は会談することになる。

 もっともサーゼクスとミカエルはモニター越しであるが、調印の際には冥界側はサーゼクスの女王であるグレイフィア。教会側は神の不在を知る高位の司祭が代理としてこの建物の中に居る。

 

 リアスたちはその高層ビルの屋上でロキを待っていた。

 アザゼルも会談に参加するため今回は不在。代わりにバラキエルと黒歌が。北欧からはオーディーンの付き人の戦乙女であるロスヴァイセがいる。彼女はロキとの戦闘にリアスたちを巻き込んでしまったことに申し訳なさそうにしていたが今は気持ちを切り替えたのか凛として戦士の佇まいをしていた。

 

 ヴァーリチームはアーサーの妹であるルフェイを除きこの場に居る。

 

 ロキが現れると同時に周辺にいるシトリー眷属たちがロキとこの場にいる全員を戦闘可能な採石所に転移させる手筈になっていた。

 そこで、タンニーンも待機している。

 

 

 ゼノヴィアとイリナは教会の戦闘服。白音は前にコカビエルとの戦闘で着ていたライダースーツにコートを羽織っている。コートの内側には与えられたフェニックスの涙や転移符や起爆符。その他諸々の道具を隠している。

 そこで一誠はリアスに質問する。

 

「部長。その包みはなんです?」

 

 リアスが手にしている細長の包み。巻かれている布には呪が書かれ、封されている。

 

「武器よ。使わないかもしれないけど一応ね。相手が相手だから用意できる物は何でも用意しないと」

 

 そう答えたリアスは時計を見て呟く。

 

「時間ね」

 

 まだロキの姿が見えないがその場の空気は一気に変わった。

 重く圧し掛かるような重圧。

 そして刃先でつつかれ、いつそれが肉を貫くのかとイメージするほどの殺気。

 

「真正面からとはな。恐れ入る」

 

 呆れるような口調でありながらその口元には好戦的な笑みを浮かべているヴァーリ。

 それが合図であったかのように空に亀裂が入り円状に割れた空間からロキとフェンリルが出現する。

 

「目標確認。作戦開始」

 

 バラキエルが小型の通信機に指示するとビルが巨大な魔法陣に包まれ、眩い光を放つ。

 本来抵抗する筈のロキも慌てる様子すら見せずにただ不敵に笑みを浮かべてこの場に居る者たちと共に転移した。

 

 

 

 

 

 

 転移は問題なく成功し、ロキとフェンリル。オカルト研究部の面々に神の子を見張る者の2人。ロスヴァイセにヴァーリチームもやや離れたところだが視界に映る程度の距離には転移していた。

 

「逃げないのね」

 

 リアスの質問にロキは鼻を鳴らした。

 

「なにどうせ今日オーディーンの首は落ちるのだ。僅かな間だけでも夢を見せるのも悪くないと思ってね。私が羽虫どもを踏み潰す間くらいは」

 

 羽虫。そう形容されてリアスは視線を鋭くさせるが何か言おうとする前にロスヴァイセが前に出た。

 

「ロキさま!今回の件に不満があるのなら正式な議会で意見を述べるべきです。このような力で我を通すやり方はお止めください!!例え貴方がオーディーンさまの首を落としたとて、それは我々の戦力を削ぐだけです!テロリストの襲撃が重なっている今この時期に―――――」

 

「黙れ。一介の戦乙女風情が口を利くなと言った筈だ。それにテロリスト風情がいくら束になったところでなんだというのだ。禍の団など、有象無象の集まりではないか」

 

「考えを改めてはいただけないのですか?」

 

「他神話と交わるなどと言うおぞましい考えこそ歪の源と知れ!話はここまでだ」

 

 ロキは指さすと膨大な魔力が収束される。

 それに真っ先に反応したのは一誠とヴァーリだった。

 2人は同時に禁手化で鎧を纏い、ロキへと疾走する。

 

「ハッ!二天龍がこのロキを倒しに共闘するか!貴様らの今の関係こそ今回の歪みの象徴だな!」

 

 ヴァーリが空から。地上からは一誠が攻めてロキに攻撃を仕掛ける。

 禁手により瞬時に倍加を終えた一誠がドラゴンショットでロキの防壁を破り、その隙にヴァーリの手には膨大な魔力が集められる。

 

「先ずは初手だ!」

 

 放たれた魔力は散弾銃のように拡散されたがその範囲は採石所の3分の1に広がっている。

 だがその攻撃を受けてもロキに傷ひとつついていない。

 

「子供と思い侮ったがこれは中々。しかし神に挑むにはやはり早いわ!」

 

 ロキが放つ魔力の光線。

 それが幾重にも発射され、この場に居た全員に降りかかる。

 ヴァーリチームはそれぞれ個々に。

 オカルト研究部はバラキエルとタンニーンが迎撃する。

 

 ロキにある程度接近できた一誠が腰に提げていたミョルニルにオーラを流し、両手持ちサイズへと変えた。予想通り、通常の状態では持ち上げられなかったが禁手の鎧を纏えば何とか持ちあげられる。

 

「ミョルニル……レプリカか?オーディーンめ!余程この会談を成功させたいと見える!」

 

 レプリカとはいえ神の槌を渡したオーディーンに怒りを燃やすロキ。

 一誠は鎧のブーストを吹かして一気にロキまで接近していき雷を出すイメージを作り、ミョルニルを振り下ろす。

 

「いっけぇえええええ!!」

 

 振り下ろされた槌をロキは避けるが当たった地面に大きなクレーターが出来る。その威力に驚いたが同時に疑問が出る。

 

「あ、アレ?雷は?ビリビリ出るんじゃないのか!?」

 

 今の一撃はただの打撃。雷のカの字も出なかった。

 それにロキが哄笑する。

 

「残念だな!それは本来力強く純粋な心の持ち主にしか使えない槌だ!貴殿には邪な心があるのだろう?だから雷が生まれないのだ!元来、持ち主に重さすら感じさせぬと聞くぞ?」

 

 言われて思い当たる節が多すぎて顔を顰める。

 なにせ、普段からエロ方面で頭をパンクさせてるような悪魔だ。これで邪な心が無いと判断されたらミョルニルの純粋の定義を疑うレベルである。

 

 唖然としていた一誠を横目にロキは控えていたフェンリルに手で指示を出す。

 

「こちらも本格的に攻勢へ移ろうか」

 

 ロキがフェンリルを嗾けようとすると魔術で空を飛んでいたメディアが魔方陣を幾つも展開し、その中心からそれぞれ巨大な鎖が放たれる。

 

 グレイプニル。

 ミドガルズオルムの助言によりダークエルフに強化された鎖をメディアが預かっており、魔法陣から転移させた。

 

 鎖はフェンリルを身じろぎしながらも絡めとられていく。

 

「ただのグレイプニルでは無駄だと知り、対策を施してきたか!やってくれる!」

 

「やったぜ!これで相手はロキひとりだ!」

 

 フェンリルを無力化して全員が安堵しているとロキは鼻で笑う。

 

「ひとり?何故私があの時撤退したと思っている。仕方がない。親よりは力はだいぶ落ちるがあの子らの力を借りることとしよう。来い!スコル!ハティ!」

 

 指を鳴らすとロキが出て来た時のように空間に変化が生じる。

 

 増援を予想していた面々は警戒レベルを上げるが現れた存在に言葉を失った。

 空間の穴から下りてきたのは2匹のフェンリルだった。若干サイズは縮むが。

 

「な、なんで!フェンリルって1匹じゃないのか!?」

 

「ハハ!これでフェンリルが終わりでは手応えが無いと思っていたがまだまだ楽しめそうじゃないか!!」

 

 正反対の意見を言う今代の二天龍。

 見れば美猴とアーサーもヴァーリと同じ表情をしている。

 

「ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変えて交わらせて生まれたのがこの2匹だ。親より力は劣るが牙は健在。貴殿ら程度なら十分屠れるだろう。そしてこちらの戦力はこれだけではない!」

 

 さらに空間に穴が開きく。

 

「まだ来るの!」

 

 下りてきたのは蛇を思わせるドラゴンだった。

 それにタンニーンが叫ぶ。

 

「ミドガルズオルムの量産か!?」

 

 そのドラゴンも大分小さくなっているもののミドガルズオルムと瓜二つな見た目だった。それも1匹ではなく5匹も。

 

「これだけの戦力。貴殿らに抗う術はあるか?」

 

 北欧の悪神は勝ち誇った笑みで2種の配下で攻勢に出た。

 

 

 

 

 

 

 


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