太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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60話:白龍皇からの提案

 ロキが運良く撤退した後、目を覚ました一誠。

 寝かせられた横でアーシアが眠っている。恐らく自分が寝ている間、ずっと看ていてくれたのだろうと心の中で感謝して。

 出血して流れた血は戻っておらず、少しばかりふらつくが意識ははっきりしていた。

 アーシアの頭を撫でているとその瞼がゆっくりと開かれる。

 しかし一誠の姿を確認すると慌てた様子で目を見開いた。

 

「イッセーさん!身体は大丈夫ですか!?」

 

「あぁ。アーシアが治してくれたんだろ?もう何ともないぜ!」

 

 笑顔で答える一誠にアーシアはホッと胸を撫で下ろす。

 

「それで、部長たちは?」

 

「今、外の方で会議をしています。白龍皇さんたちも一緒に」

 

 そこで一誠は最後にヴァーリに助けられたことを思い出す。

 

 それから一誠は起き上がるも立ち眩みで体がぐらついたのをアーシアが驚きの声を上げたが大丈夫だからと笑い、馬車の外へと足を運んだ。

 

 一誠が出て行くとそこは駒王学園近くにある公園で人除けの結界を張って馬車を下ろしたらしい。

 一誠の姿を見た皆が安堵の表情を浮かべる。

 ヴァーリも一誠を見るがすぐに視線をアザゼルとオーディーンに戻した。

 そしてヴァーリ側には美猴だけでなく、紫色のローブを着た20歳前後の女性と貴族風のスーツを着て眼鏡をかけた金髪の美青年。そしてアーシアよりやや小柄な少女が付いていた。

 

「今回、三大勢力と北欧の会談を成功させるならばロキの撃退は必須だ。だが、ここに居るメンバー。それとシトリー眷属が力を合わせたところで事を為すのは難しいだろう。オーディーン殿。先程の戦闘を見るに貴方はロキとの戦いに参戦出来ない理由があるようだが?」

 

 いくら護衛対象とはいえ、ロキを相手に行動を移さなかったオーディーンを見て今回この老神は戦闘への参加は出来ないと辺りを付けていた。

 その予想にオーディーンは嘆息する。

 

「駒王町に滞在するにあたり、霊脈の影響や戦闘になった際の町への被害を考慮し、儂の今の力は制限を受けておる。今の儂の力はそこのロスヴァイセとどっこいどっこいというところじゃの。こちらに交戦の意志無しという意味でも術を施したが、完璧に裏目に出てしもうたの。これは、ヴァルハラに戻らねば解除不可能じゃ」

 

 申し訳なさそうに目を瞑るオーディーン。

 それにヴァーリは続ける。

 

「冥界や天界から増援を要請しようにも神を相手にするなら魔王が赴かなければならない。しかし現在各地で英雄派のテロが多発していることから組織のトップが領地を出ることは望ましくない。特に冥界は自分たちを放置して人間界、それも極東の1都市を守りに行ったなどと知れ渡れば大きなイメージダウンになるからな。だからこそ会談もモニター越しで行うのだろう?」

 

 ここで自由に動ける魔王はセラフォルー・レヴィアタンだが彼女は今、オリュンポスの神々と交渉に出ており、どう考えても間に合わない。

 もしかしたら妹の危機とすっ飛んでくるかもしれないが、そうなると交渉相手の心証は最低になるだろう。

 それは三大勢力全体としても避けたい事態である。

 

 遠回しなヴァーリの言い回しにイライラして一誠は若干喧嘩腰に口を出す。

 

「だから、お前があいつを倒してくれるとでもいうのか?」

 

「ロキ単体ならともかく、フェンリルもいれば俺たちだけでは対応しきれない。ロキが他の魔物を引き連れてこないとも限らないしな。むしろ次はもっと戦力を増して現れると見ていいだろう」

 

 ヴァーリの断言に一誠は肩を落とす。そして敵が更に戦力を増強させて来ると聞いて身震いした。

 

「だが、俺たちとそちらが手を組めば状況を打破できる可能性が生まれる」

 

 その言葉に全員の目が見開かれた。

 

「俺は今回、兵藤一誠を始め、そちらと手を組んでも良いと思っている」

 

 ヴァーリの提案にアザゼルが渋い顔をして問うた。

 

「なにを企んでる」

 

 アザゼル自身、ヴァーリが味方となってくれれば心強いと思うが、だからと言ってテロリストとなった相手をはいそうですか信用するほど馬鹿でもない。

 そんなアザゼルの内面を知ってか言葉を続ける。

 

「もちろん、今回そちらに協力するのは俺たちにとってもメリットがあるからだ。そしてそれはそちらのデメリットにはならないと約束しよう。だが、禍の団に所属している俺たちをそちらが理由もなく受け入れることは出来ないのも承知だ。だからもうひとつそうしてもいい交渉のカードを用意した」

 

「なに?」

 

「俺たちは英雄派に拉致されたドワーフたちを保護している」

 

「なんだと!?」

 

 ヴァーリの言葉にアザゼルは驚きの声を上げた。

 北欧が三大勢力と協定を結ぶ理由としてドワーフたちの捜索もあったのだから当然だろう。

 

「もっとも、全員という訳ではないがな。拉致した中で、腕利きの鍛冶師以外は捨て置いていたのを俺たちが保護した。ドワーフ自体、鈍重で食費などの金食い虫なところがあるからな。優秀な者たちだけは手元に置いて半数以上は放置されていた。もし今回の話に乗るなら彼らの居場所を教えよう。もし断るなら俺たちはロキの件からは手を引き、ドワーフたちも捨て置く」

 

 人質、という訳ではないがこれは受けざるを得なかった。

 ドワーフたちがどのような扱いを受けていたのかわからないが相当な恐怖や疲労などが溜まっているだろう。

 たとえ全てでないとしても一刻も早く保護し、故郷に帰したい。

 

 僅かに目を閉じた後にアザゼルはヴァーリを見据える。

 

「いいだろう。今回は協力と行こうか。戦力が欲しいからな。だがもし不用意な行動を取れば、俺たちはいつでもお前らを後ろから討つ。それでいいな?」

 

 だがドワーフの件があるからと言って懐に爆弾を抱えることには変わりなく、忠告だけはしておいた。

 

「裏切るつもりはないが、それはそれで面白そうだ。もっともただでやられるつもりもないことを表明しておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、サーゼクスの許可を取り、ヴァーリ一行はロキの件が済むまで兵藤邸に宿泊することとなった。

 監視の意味も込めて。

 

「でも、本当に良かったんですか?あいつらと組んで」

 

「現状はそうせざる得ないわ。私たちだけじゃロキに対抗出来ない。戦力は多いほうがいいもの。少なくとも面識のない人たちも相応の使い手だと思うし」

 

 そうでなければあのヴァーリがこの場に連れてくるとは思えないと話す。

 

 三大勢力からまだ被害が出ていない冥界のドラゴン領地からタンニーンが増援として送られてくることになったがロキとフェンリル相手では不安が残る。

 アザゼルも会談に出席するために今回の戦闘には参加できない。

 まだただの禁手ではロキに対抗できず、ヴァーリの覇龍を使えば勝てる可能性ができるらしいがロキかフェンリルのどちらかしか相手に出来ない。

 故にこの協力を承諾するしかなかった。

 攫われたドワーフたちのこともある。

 協力の約束が取れたことでヴァーリたちはドワーフの居場所を教えて堕天使が保護に動いている。

 ロキとの戦いが終わってからでなくていいのか?と訊いたところ、約束した以上、こちらが裏切らない限りそちらも裏切らないだろうと返された。

 

 そんな中でアザゼルがヴァーリに話しかける。

 

「もしかしてお前と英雄派が繋がって行動してるわけじゃないよな?お前の性格からしてあり得なさそうだが」

 

「彼らとは互いに不干渉な関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「……まぁ、お前らのことは一旦置いてロキへの対策を考えるほうが賢明だな。といっても時間が無いから手っ取り早く知ってる奴から情報を得るほうがいい」

 

「知っている者?」

 

 アザゼルの言葉に興味を示したのかヴァーリが問う。

 

「あぁ、ロキが生み出したドラゴン。世界の終末の時だけ動く世界最大の巨体を誇るアイツだ」

 

「ミドガルズオルムか。しかしそう都合良くこちらに情報を提供してくれるのか?それに奴は海の底で眠りについていると聞くが。まさか直に会いに行くわけじゃないだろう?」

 

「あぁ。その為にタンニーンとヴリトラの神器を持ってる匙を呼んである。それに二天龍が加われば奴の意識だけを召喚することも可能だろうさ。協力に関してもあいつは昔から自分の身内にも興味が薄いからな。案外あっさりと教えてくれるかもしれないぜ」

 

 そう答えるとヴァーリは納得したようにソファーへと座る。

 

 話が一段落終えたところで各人好きなように会話を始めた。

 

「まったく、2人が落ちたときは心臓が止まるかと思ったわよ。それにしても空も飛べるようになるなんて段々とフェニックスみたいになってきたわねぇ」

 

「申し訳ない。それと空を飛ぶことに関してはこれから色々と試してみないとな」

 

「…………」

 

 笑って誤魔化そうとする一樹に黒歌は半眼で見つめるが一樹それから目を逸らす。

 

 

 

「その剣、見つかっていなかった最後の聖剣(エクスカリバー)なんですか!?」

 

「えぇ。ヴァーリが独自に得た情報と我が家の伝承と照らし合わせてつい先日に発掘しました。それにしても7本に分かれた聖剣の6本を教会が合わせたとは聞いていましたが……」

 

「アハハ……本来ならペンドラゴン家(そちら)にお返しするのが筋なんでしょうけど」

 

「いえ。私たちは既にそれを手放して長い。今更所有権を言い出すつもりはありません。それに私にはもう一振りの聖剣もありますので」

 

 アーサーと名乗った聖剣使いは本来エクスカリバーの所有者であるアーサー王の子孫らしい。

 それで現在教会のエクスカリバー全てを所有しているイリナと話している。そんな2人をアーサーの妹と名乗るルフェイという名の少女を祐斗、ゼノヴィアは遠巻きに見ていた。

 メディアは誰とも交わらず、古い書物に目を通している。

 

 そんな中、美猴が一誠に話しかける。

 

「おい赤龍帝!」

 

「な、なんだよ?」

 

 何を言われるのかと警戒している一誠。

 

「地下にあるプールって使っていいのかぃ!」

 

「へ?」

 

 予想外の質問に一誠は面食らっているとリアスが割って入る。

 

「ちょっと!いくら協力関係だからって勝手な行動は控えてちょうだい!」

 

「おいおい堅いこと言うなよスイッチ姫ッ!?」

 

 スイッチ姫の名が出た瞬間にリアスが美猴の鼻っ面に拳を打ち込む。。

 

「次その名で私を呼んだら滅し飛ばすわよ?」

 

 右手に滅びの魔力をチラつかせるリアス。瞳からハイライトが消えて死んだ魚のような眼をしていた。

 それに臆したのか美猴は、お、おう、と返事をする。

 

 

 

 

 それから匙が兵藤邸にやってきたことで事態を説明し、一誠とヴァーリにアザゼルは匙を連れて兵藤家から転移する。

 そこは白い空間でレーティングゲームなどで使われる空間らしい。そこで巨大なドラゴン。タンニーンがいた。

 

「先日以来だな、お前たち」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

 近づいて来たタンニーンに一誠が挨拶をする。

 逆に匙は固まってしまった。

 

「元六大龍王のタンニーン様!最上級悪魔の!?」

 

「そっちはヴリトラの神器を持つ小僧か」

 

「あぁ。ミドガルズオルムを呼び出すための要素はひとつでも多い方が良いと思ってな。連れてきた」

 

 なおも固まっている匙に一誠が話しかける。

 

「おい匙!そんなにビビんなよ。おっさんは確かにデカくて強面だけどいいドラゴンなんだぜ?」

 

「ば、バカ!最上級悪魔のドラゴン、タンニーン様だぞ!!それをおっさんって!」

 

 タンニーンのことというか最上級悪魔のことをわかってない一誠に匙が説明する。

 

「最上級悪魔ってのは冥界への貢献度やゲームでの成績や能力。それらが最高ランクと評価されないとなれない悪魔にとって最上級の位なんだぞ!実際、レーティングゲームのトップランカーは全員が最上級悪魔だしな!」

 

 匙の説明に一誠はへぇとだけ頷く。そんな態度の一誠に匙は頭を抱えた。

 2人がそうした会話をしている間にタンニーンはヴァーリに話しかける。

 

「白龍皇よ。話は聞いているがもし不審な行動を取れば俺は迷わず貴様を食い千切るぞ」

 

 タンニーンの警告にヴァーリは苦笑を返すだけだった。

 それからアザゼルの指示で指定された魔法陣の上に全員が立つ。

 

「それにしてもそのミドガルズオルムってドラゴン。どんなドラゴンなんですか?」

 

 アザゼルに訊いたが先に答えを返したのはタンニーンだった。

 

「簡単に言えば怠惰な奴だな。基本眠ってばかりでそのグレードレッドの数倍の巨体があることからも北欧の者たちも使い道が見出せず海の底に寝かせたのだ。世界の終末だけ力を貸すことを約束させてな。俺も片手で数える程しか会ってない」

 

 グレードレッドの数倍と聞いて言葉なく驚く一誠。

 そうしているうちに魔法陣が反応を示し、光が強くなっていく。

 すると魔力の靄が段々と形を成していき、それが巨大なドラゴンへと変わっていった。

 それはドライグやタンニーンのような西洋のドラゴンより東洋のドラゴンのほうが見た目が近いかもしれない。

 

「デッケェエエエエっ!?」

 

 一誠がそう叫ぶが相手からの反応はない。

 聞こえてきたのは予想外の声だった。

 

「これ、いびき?」

 

 ミドガルズオルムの口から聞こえてきたのは大きな声のいびき。それにタンニーンは嘆息して声を張り上げる。

 

「起きろ!ミドガルズオルム!」

 

 それに反応してミドガルズオルムの瞼が開き、大きな口で欠伸をする。それからこちらを見渡すと眠そうな声が聞こえた。

 

『久しぶりだねぇ、タンニーン。それにドライグ、アルビオン、ヴリトラにファーブニル?今日は何の集まりだい?まさか世界の終末でも起きた?』

 

「違う。今回お前の意識を呼び寄せたのは訊きたいことがあったからだ」

 

『訊きたいことぉ?』

 

「お前の兄弟と父について聞きたい」

 

『ダディとワンワンのことぉ。なんでそんなこと訊きにきたのさ?でもまぁいいよぉ。2人とも僕にとってはどうでもいい存在だからね』

 

 本当にどうでもいいのかよ!と一誠と匙は内心でツッコんだ。

 しかし質問に答える前にミドガルズオルムは一誠とヴァーリを交互に見る。

 

『で、二天龍が揃ってるみたいだけど今回は戦わないのぉ?』

 

「……あぁ。今回は共同戦線でロキを打倒する」

 

『ふぅん。少しだけ面白いことになってるねぇ。それでダディとワンワンのことだけど厄介なのはワンワンかなぁ。あの牙に貫かれちゃうと大抵は死んじゃうし。だからドワーフたちが作ったグレイプニルで捕えればいいんじゃないかなぁ』

 

「それはもう北からの報告で聞いた。だが効かなかったようでな。それでお前から更なる秘訣を聞きたいんだ」

 

『う~ん、ダディがワンワンを強化したのかなぁ。それなら北欧のとある地に住むダークエルフに相談してみるといいよぉ。彼らはドワーフが作った加工品を強化できる術を持ってたはずぅ。場所はドライグかアルビオンの神器に転送しておくね』

 

「悪いが白い方に頼む。なんせ、今回の赤龍帝は頭が残念でな」

 

 馬鹿扱いされて一誠は顔を引きつらせた。しかしそれより気になることを質問する。

 

「エルフって実在するんですか?」

 

「大抵は人間界の環境変化の所為で秘境の奥地に引っ込んじまったか異界に移住したがな」

 

 その間に情報を把握したヴァーリがアザゼルに報告する。

 

「アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

 言われた通り携帯から立体映像を展開しヴァーリがダークエルフたちが住む地を指さす。それにアザゼルはすぐに部下へと連絡を取った。

 こういうときは元上司と部下だけあってスムーズに進む。

 

「それで次はロキについてなんだが……」

 

『ダディならミョルニルでも撃ち込めばいいんじゃないかなぁ。と言ってもアレは北欧の神族にしか使えないからレプリカかなぁ。ダークエルフとドワーフからオーディーンが預かってるはずぅ』

 

「細かい情報ありがとよ。すまんな突然」

 

『いいよぉ。たまにはこういうおしゃべりも楽しいしね。それじゃ僕はもうねるねぇ』

 

 大きく欠伸をしてそのままミドガルズオルムの映像は掻き消されてしまう。

 一誠はああいう龍王もいるのかとひとつ勉強してその場は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーディーンがロキとの戦いに参加しないのは会談相手を刺激しないために自ら弱体化しているためとしました。

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