太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

61 / 122
58話:北欧の主神来訪とアザゼルの提案

 あの後すぐに一誠たちと合流したリアスたちはそのままオーディーンと護衛役のヴァルキリーを連れて兵藤家へと案内した。

 そして堕天使側の護衛として黒歌と朱乃の実父であるバラキエルも居た。

 しかし朱乃の方は父であるバラキエルと目を合わせようとせずにただ目を瞑って黙している。不機嫌なオーラを隠そうともせずに。

 

 オーディーンと護衛役のヴァルキリーにリアスがお茶を出すと北欧の主神はホッホッと笑う。

 

「いやぁ相変わらずデカいのぅ!そっちの女王もじゃ。アザゼルの側近の猫娘も。眼福眼福!」

 

 第一声がこれである。皆が色々な意味で不安がるのは致し方ない。

 そんな主神をヴァルキリーが諫める。

 

「オーディーンさまこれから会談を行おうとする相手の身内にそのような態度はお止めください!問題になりますし、私たちの品位も疑われます!」

 

「堅いのぉ。せっかくこれだけ美人揃いが集まってそれを評価せん方が失礼じゃて。こやつは儂の御つきのヴァルキリーで名は―――――」

 

「ロスヴァイセ、と申します。会談を行うまでの間、お世話になります」

 

 礼儀正しく礼をするロスヴァイセと名乗るヴァルキリー。

 会談の日程までオーディーンたちは兵藤邸に寝泊まりすることとなった。

 

「彼氏いない歴=年齢の生娘じゃ」

 

「それはこの場では関係ないじゃないですか!?わ、私だって好きで恋人がいない訳じゃ……」

 

 顔を真っ赤にしたと思えば急に落ち込んだように涙ぐむヴァルキリー。しかし年齢的にリアスなどとそう変わらないのに気にすることだろうか?恋人がいない事なんて?

 

「戦乙女業界も厳しくてのぉ。下からは高嶺の花扱いで上は堅物だらけで下に手を出す気概なんぞないわでヴァルキリーの結婚率は低くてのぉ。それも近年勇者を招くこともないからヴァルキリー職自体縮小傾向もあってな。こやつも儂のお付きになるまで隅に居たくらいじゃし」

 

 ちなみにオーディーンのお付きになったヴァルキリーは主神からのセクハラや弄りに耐え切れなくなって転勤願いを出す者も少なくない。しかしロスヴァイセはその生真面目さから職を投げることを許さずに堪えていることで周りの評価はかなりのモノだったりする。

 

 そこでアザゼルがガシガシと髪を掻く。

 

「じいさん。アンタが日本に来日するのはもう少し先だったはずだぞ。早く来るなら来るで連絡くらい入れろよ。いきなり来たなんて連絡が来てこっちは何にも準備できてねぇんだから」

 

「すまんのぉ。ちょいとわが国で厄介事というか厄介な奴にわしのやり方を批判されてのぉ。それでそ奴に余計な茶々を入れられる前にこっちに着きたかったのと攫われたドワーフたちの捜索にお主らの力を借りたいという理由もある」

 

「確かにドワーフたちが作った武具は神器に引けを取らねぇ。いや安定性という点なら神器よりも扱いやすいか?もちろんそれ相応の使い手が居ればだが」

 

「然り。それにしても神器と言えばアザゼル。ここ最近こちらに攻めてきた神器使いが何人か禁手に至った者がおる。あれは一部の神器を除いて稀有な現象と聞いたんだがのぉ」

 

「あぁ。その認識で間違っちゃいねぇよ。ただテロリストどもの強引かつふざけた方法で禁手に至る奴が増え始めてる」

 

 吐き捨てるように答えるアザゼルにリアスがやはりと言う視線を送った。

 

「お前たちの考え通り下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦だよ。あいつら、神器使いを各地に襲撃させて禁手に至ったら魔法で強制的に帰還させる。必要な兵といらない兵を判別する意味でも都合がいいんだろうがな。だが実際はそれをやれば各勢力から大目玉を喰らっちまう。もし俺が研究のために同じことをしていたら間違いなく駒王協定は結ばれなかっただろうさ」

 

 忌々し気に話すアザゼルそこで一誠はある疑問が起きる。

 

「俺は禁手に至るために散々ひどい目に遭ってきましたって顔だなイッセー」

 

「そうですよ!ドラゴンに山で追いかけられたんですよ!死ぬかと思いましたよ!」

 

「二天龍の神器は比較的禁手に至りやすいんだよ。だから刺激を与え続ける必要があった。それにお前は白龍皇のヴァーリに狙われてるんだぞ?チマチマ修業してあっさりと実戦で殺されるくらいなら訓練の密度を上げるべきだったんだ。アレが無けりゃ、お前は未だに禁手へと至れなかっただろうしな」

 

 アザゼルの言い分に一誠は口を噤む。

 確かにあの山籠もりが無ければ一誠は未だに禁手へとは至れなかっただろう。だからと言って納得できることではないが。

 

「そう言った方法を取れるのもテロリストならではだな。襲撃してきた神器使いは洗脳処置までされてたって話だし。まったく、英雄派が聞いて呆れるぜ」

 

「それってどんな集団なんですか?」

 

「幹部どもは主に神話や歴史上に存在した英雄の子孫やら生まれ変わりなんかを自称してる連中だ真実(ホント)かは知らんがな。それが神器使いを集めて各勢力を襲ってるわけだ。ったく!前回ので旧魔王派が大人しくなったと思ったらこれだ!」

 

 英雄派の説明を聞いて一樹の表情は変わらないが掴んでいる腕に力がこもる。

 それを白音は心配そうに横目で見ていた。

 

「その英雄派が禁手に至った神器使いで何をしようとしているのかが問題じゃが、ここでそれを論じても致し方あるまいて」

 

「わぁってるよ!だがそっちが早く来過ぎたせいでまだこっちの会談の用意が済んでねぇ。それまでにこの町限定だが観光でもどうだ?どこか行きたいところはあるか?」

 

 アザゼルの提案にオーディーンはニヤリと笑う。

 

「おっぱいバブに行きたいのぉ」

 

「ははは!流石は北欧の主神殿。話がわかる!なんならここらの界隈で神の子を見張る者(うち)で経営してる店や俺のおすすめの店に招待してやろうか!?」

 

 さっきまでの真面目な話はどこへやら。急に風俗店の話題が展開されて周りは困惑か軽蔑の眼差しを2人に送る。

 それでも全く堪える様子を見せないのが組織のトップが持つ鋼の精神力かもしれない。

 

「せっかく日本に来たんだ!着物の帯をくるくるするか!あれは日本に来たら一度はやっておくべきだぜ!おいでませ!和の国日本ってな!」

 

「アザゼルさんの言う和の国っていったい……」

 

 ハイテンションな組織のトップ2人にロスヴァイセが顔を赤くして立ち上がる。

 

「オーディーンさま!私もついて行きますっ!」

 

「ん?なんじゃ?お主もおっぱいバブに行きたいのか?男を作らんと思ったら実はそっちの―――――」

 

「違います!?オーディーンさまが会談前に問題を起こさないか見張る為です!というかいい加減名誉毀損で訴えますよ!」

 

 そんな感じで退室する北欧2名とアザゼルに残ったみんながリアスに指示を求めるがその前にバラキエルと黒歌が話す。

 

「オーディーン殿の護衛は基本私たちで行うが君たちの力も借りることとなるだろう。場合によってはシトリー家の方も。よろしく頼む」

 

「そっちは今までと変わらずに学生生活を楽しんでいればいいわ。最近忙しくて疲れてるでしょ?」

 

 頭を下げるバラキエルとあくまでもリアスたちはもしもだという黒歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。神器使いたちの強襲も収まり、オーディーンの護衛に呼ばれることもなく。稀に家でオーディーンがリアスや朱乃などにちょっかいをかけてロスヴァイセが顔を赤くして謝ったりしながら日々は過ぎていった。

 その間にグレモリー眷属は冥界のおっぱいドラゴン乳龍帝のイベントに参加したりとしていた。

 そしてそれも一段落し。

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

 そこはアザゼルとサーゼクスが用意してくれたトレーニングルームだった。

 レーティングゲームの技術を用いて作られたその空間は広い場所での訓練を欲していたオカルト研究部にとってとてもありがたい訓練場だ。

 ディオドラ戦での功績から与えられることとなった。

 

 そこで一樹と祐斗は互いの獲物をぶつけ合う。

 

「まったく。本当に驚異的な成長速度だよ!ちょっと自信なくなっちゃうなっ!」

 

「言ってろ!さっきから楽々と俺の攻撃を躱してるくせによ!」

 

 まだ速度では祐斗には敵わない。しかし動かず向かってくる祐斗に防御に徹すれば防ぎきることはできる。

 

 先程からヒット&アウェイを繰り返す祐斗にイライラしながらも勝機を待つ。しかし向こうが手法を変えてきた。

 

「ならこれででどうかな!!」

 

 突然聖魔剣から冷気が噴出し、一樹の足を凍らせて動きをさらに制限させる。

 

「冷気を放つ聖魔剣だよ!能力のほうにソリースを割いてしまうから強度が下がるのが難点だけどね!」

 

「わざわざばらして余裕じゃねぇか、おい!だけど嘗めんな!」

 

 一樹は足から炎を噴出させ、氷を解かすとそのまま足を蹴り上げる。そのまま駒のように体を回して矛を燃やした槍を振るいながら炎をまき散らす。

 一樹自身を覆うように広げられた炎陣に祐とは距離を取るが、中で跳躍した一樹が祐斗に槍を振り下ろす。

 一度それを弾かれ、着地すると同時に一樹と祐斗が同時に己が刃を敵へと向ける。

 そして速く刃が触れたのは―――――。

 

「そこまでですぅ!制限時間が来ましたぁ!ストップですよぉ!」

 

 ギャスパーの声に2人は自分の手を止める。お互いの喉元に刃が触れた状態で。

 

 

 

 

 

「正直、一樹くんの相手をするのがどんどん辛くなってきたよ。訓練になって嬉しいけど」

 

「こっちの攻撃、全部避けといてなに言ってんだか」

 

 2人でスポーツ飲料を飲みながら先程の模擬戦の反省会をする。一誠も近くで筋トレをしてギャスパーはアザゼルが作ったロボットを相手に神器の制御訓練に勤しんでいる。

 

「一樹くんの炎にしろ鎧にしろ悪魔にとって天敵である聖なる力を放ってるからそれだけで動きが鈍るんだよ。最近は慣れたと言っても体に耐性が付いたというより我慢できるようになったっていう根性論だし。僕やゼノヴィアの場合聖剣の適性もあるから他の悪魔よりは耐性があるんだろうけど」

 

「そんなもんか?こっちはお前が聖魔剣に能力を付与されるようになってどんな能力かわからないと近づき難いな。それにスピードでもこっちは止まってカウンターを狙おうにも防ぐのだけで精一杯だ。空を飛ばれたら炎で撃ち落とすしかねぇし」

 

 そうして話している間にも筋トレを続ける一誠に祐斗が苦笑する。

 

「張り切ってるねイッセーくん。正直、もう体力で君に勝てる気がしないよ」

 

「ドライグの力は消耗も激しいからな。少しでも体力をつけて長く戦えるようにしねぇとさ」

 

「頑張るな。なんかあったか?」

 

「……冥界の子供たちに握手やサインなんかをしたときにさ。子供たちがすっげぇ喜んでくれたんだ。ちょっとポーズ取っただけではしゃいだりさ。そんな子供たちの期待を裏切って情けない戦いを見せたくねぇんだ。次のサイラオーグさんとの試合が決まったら、今の俺じゃきっと太刀打ちできない。だから限られた時間で少しでも強くなっとかねぇと」

 

 理由はどうあれ。兵藤一誠が冥界の子供たちのヒーローとして認識され始めていることには違いない。だからその期待に応えたいと一誠はひたすらに訓練に励む。

 

「それにサイラオーグさんも魔力が無くてもこうした地道なトレーニングで次期当主の座や若手最強っていう評判を手に入れたんだ。だったら俺に同じことが出来ないなんて言えないだろ。俺にできることはこうして馬鹿みたいに訓練を続けることだけなんだから!」

 

 そんな風に話していると話題はレーティングゲームのチーム戦に替わっていく。

 

「龍殺しの力を持つ敵が現れたら他が担当するけど他の相手はイッセーくんが相手にするだろうね。ギャスパーくんは誰かと組んで行動することが無難だと思う。最近は能力の制御も上達してきたし、そろそろレーティングゲームでも使用許可が下りるんじゃないかな?」

 

「そうなったらギャスパーの力は心強いな!敵を止めて倒せばいいだけなんだから!」

 

「あ、あんまりプレッシャーをかけないでくださいぃいいいっ!?でも頑張りますぅっ!!」

 

 自分に話を振られて絶叫しながらも頑張ると宣言できるようになったギャスパーも一誠たちと出会った頃より大分逞しくなったのかもしれない。

 以前ならここで段ボール箱に引き籠ってしまっていただろう。

 

「とにかく。僕たちは単体じゃなくてもっとチーム戦に慣れないとね。特にイッセーくんは後々にリアス部長の下から離れて王として上級悪魔に昇格するのが目的なんでしょう?なら、しっかりと戦術を組めるように勉強をしないと」

 

「う!そうだよなぁ。王になるんならそこら辺もしっかり勉強しないとな。まぁ上級悪魔への昇格自体まだ夢のまた夢だけどさ」

 

 そうして話しているうちにアザゼルがひょっこりと現れる。

 

「よぉ、やってるな」

 

「アザゼル先生……」

 

「差し入れだ。女子部員からのな」

 

 広げられたのはおにぎりやサンドイッチなどの手で食べられるものとお茶だった。

 軽く手を洗って全員が手短にある食べ物を手に取る。そこでアザゼルが一誠に話しかけた。

 

「しかしイッセー。お前も随分と鍛えられてきたな。体つきがだいぶ逞しくなったぜ」

 

「これくらいしないと最強の兵士にはなれませんから!部長の所からひとり立ちするまでにそれを叶えたいんです」

 

「そういやお前、独立したらアーシアとゼノヴィアを連れて行くんだってな」

 

「えぇ、まぁ。アーシアとはずっと一緒にいるって約束しましたし、ゼノヴィアと一緒にいるのも楽しそうだなって」

 

「だがな、一誠。お前が王としてゲームに立つなら身に付けなきゃいけないもんがある」

 

 そこで真面目な顔をするアザゼルに一誠は首を傾げる。

 

「わからないか?それはゲームに勝つために味方を犠牲にする覚悟さ」

 

「……ずいぶん難しいことを言うんですね」

 

「必要なことだぞ。人間の格闘技でもそうだが、敗けて敗け続ける奴はすぐにそっぽ向かれちまう。それはレーティングゲームでも同じだ。自分の眷属を大事にすることは美徳だが、そればかりで駒を守ろうとするんじゃ王としてレーティングゲームで立ち続けることはできないぜ」

 

 アザゼルの問いに一誠は黙りこくる。今の彼に答えられる回答は用意できなかった。

 

「イッセー。言っておくがレーティングゲームはあくまでも試合だ。実戦なら仲間を助けることは大事だが、ゲームでは味方を犠牲にする覚悟も必要だ。仲間を見捨てないと認識されれば必ずそこを突かれる。そうして戦術を組まれればお前がゲームで勝つことは不可能になり、試合を組んで貰えなくなるか、敗けること前提で試合を組まれることだってある。そうなればお前だけじゃなく、卷属たちも惨めな思いをすることになる。だからレーティングゲームではデビュー仕立てがもっとも重要なんだ。お前たちがリアスを勝たせるために自分を犠牲にできるように、お前も自分が勝つために仲間を犠牲にする覚悟を持ち、持たせろ。それが王の役割だ。実際リアスもその覚悟を持ち始めつつあるからな」

 

 アザゼルの説明にイッセーは目を瞑り、開くと裕斗とギャスパーに向き直る。

 

「部長が俺たちを犠牲にする覚悟を決めるんなら俺たちも覚悟を決めないとな」

 

「いざという時に仲間を見捨てる覚悟だね?」

 

「あぁ!だが無駄死にはすんなよ!全力で足掻いてその上で笑って残りの仲間に勝利を託してリタイヤしようぜ!」

 

「はい!全力を出し切って、ですね」

 

 そうして結束を固めるグレモリー眷属の男子たちに笑みを浮かべながら何かを思い出したかのように一樹へと話を振る。

 

「なぁ一樹、お前、レーティングゲームに興味ねぇか?」

 

「は?なんですか、いきなり?」

 

「実はな、お前を王としてレーティングに参加させる案が出てるんだ」

 

 アザゼルの言葉に一樹は飲んでいたお茶を吹き出して咳き込む。

 祐斗たちも驚いた顔をしている

 

「ゲホッ!な、なんでそんな話に!?」

 

「前に転生天使が生まれたことからミカエルがレーティングゲームへの参加を考えているって話は聞いただろ?そうなると当然俺たち堕天使側も出場せにゃならん。だが開催されるにしても恐らく最初は俺らみたいな古株じゃなくて若い世代が中心になるだろうと考えられている。戦争を知らない世代のな」

 

「だったら姉さんでよくないですか?王になるのは」

 

「最初はあいつに言ってみたんだが、『一樹が王として参加するならいいよ~』とか抜かしやがる。他にも一応当てはあるが、お前が王としてリアスたちと戦うのも俺は面白いと思うぜ。なんなら黒歌を女王枠。白音は、プロモーションの特性を生かして兵士辺りが妥当か?とにかく他の駒も集めてゲームに参加してみねぇかって話だ何人か若い堕天使とかも入れる必要はあるがな。で、どうだ?」

 

 全員の視線が一樹に集まる。祐斗たちの意見としては賛成だ。

 レーティングゲームで彼と戦ってみたいという思いはある。

 そんな中で一樹の答えは。

 

「イヤですよ。駒集めとか面倒な。お、これ塩鯖じゃん。ラッキー」

 

 という皆の期待を背きながらうめぇと呟きながらモシャモシャとおにぎりを食っている。

 

「イヤイヤイヤ!?ちょっと待て!?」

 

「なんだよ?」

 

「ここはゲームへの参加を決める場面だったろうが!?」

 

「は?イヤだっつの。学生身分ならともかく、将来そっちの道で食ってくつもりはねぇ」

 

 断言する一樹に一誠はなにか言おうとしたがその前に畳み掛けるように続ける。

 

「俺の生活の根を張るのは人間社会だ。お前たちとこうして訓練したりバカやったりするのは楽しいけどな。でも俺は将来的にはオカルト社会(そっち)とは距離を取るつもりだ。どういう進路を選ぶかは判らないが、それは決めてる…………もっとも、今はここで関わっていたい理由があんだけどな」

 

 最後の方は全員に聞こえないように呟く。

 そんな一樹に祐斗はやや淋しそうな笑みを浮かべる。

 

「そっか。一樹くんはそう決めたんだね」

 

「あぁ。俺の人生で自分の力も含めて絶対に必要なわけじゃない。もちろん、火の粉があれば掃うけどな。社会に出た時に俺がそっちでどんな扱いになるかはわからねぇけど、人間の社会で埋もれていくつもりだ」

 

「でもよぁ。なんかもったいなくないか?せっかく強くなってるのに」

 

「高校で夢中になって打ち込んだのを将来まで活用する人間の方が稀だろ。俺にとって今の時間はそういう時間だってことさ」

 

 特異な力は人間社会に置いて必要なわけではない。制御できないのも困るから今は磨くが大人になれば封じることになるだろう。

 もしそうならないのであればそういう状況に追い込まれてしまったということだが。そうならないことを願うばかりだ。

 

 それにアザゼルは自分の頭を掻く。

 

「か~っ!お前が王になってレーティングゲームに参加すればそれはそれで面白いことになると思ったんだけどな!」

 

「勘弁してくださいよ。それに俺は王なんて柄じゃないです」

 

「まぁいいさ。気が変わったらいつでも言えよ!就職難で路頭に迷ったらとかな!」

 

「そうならないことを祈っててください」

 

 お互いに冗談を言い合いながら肩を竦める。

 そこでアザゼルは一誠へと話を変えた。

 

「ところで一誠。朱乃とバラキエルの様子はどうだ?」

 

「……正直言って良くないっすね。バラキエルさんは話そうとしてるみたいですけど、朱乃さんが一方的に拒絶してて。オーディーンのじいさんが来た日にも自分の父親じゃないって―――――ってそうだ!酷いですよ先生!?」

 

「あ?どうした!」

 

「朱乃さんのお父さんに色々と吹き込んだでしょ!俺が敵の女を見れば所かまわず服を引ん剝くだとか乳を主食にしてるだとかぁ!!」

 

 一誠の叫びにアザゼルは特に悪いと思ってなさそうな顔で答えた。

 

「いやまさかいい大人があんな話を鵜呑みにするとは思わなかったんだ。それに大抵は間違っちゃいないだろ?」

 

「違います!おっぱいは主食じゃありません!おかずです!!」

 

「だめだこいつ。早くなんとかしないと。でも既に手遅れっぽい」

 

 2人の会話に一樹は額に手をやる。

 そんな馬鹿な会話に笑いながらもアザゼルは真剣な表情をする。

 

「今回、バラキエルが出張ってきたことで朱乃は俺の話も聞かなくなるだろう。俺も昨日父親と話すことをやんわりと進めてみたが逃げられちまった。あいつは普段周りに落ち着いてる自分を見せているが精神的にお前らの中でも特に弱い。メッキが剥がれりゃ簡単にボロが出る」

 

 それはオカルト研究部の全員が感じていることだ。

 特に一誠への依存は部の中で飛び抜けている。

 

「だからイッセー。もし朱乃がお前に縋ってきたら支えてやってほしい」

 

「……でも俺、朱乃さんの事情、ほとんど知りませんよ?」

 

「なにも、2人の仲を取り持てって言ってるわけじゃねぇ。そこはどこまで行ってもあいつら親子の問題だからな。ただこれ以上擦れないように見ていてくれ。それと、2人のことが知りたかったらリアス辺りにでも聞いとけ。俺じゃ、堕天使側の意見しか言えねぇし、朱乃だと逆に堕天使を非難する内容になるだろう。リアスならそこらへん中立の立場で教えてくれるはずだ。あいつもなんだかんだでバラキエルとの仲が修復されるのを望んでくれているしな」

 

 それで話を締めくくり、用事があるからとアザゼルは去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。