太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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57話:あなたの好みは?

「仙術ってすげぇのな。もう完全に疲労が抜けたぞ!」

 

「疲れてるなら最初から言って。これくらいならいつでもやってあげるから」

 

 調子を見るために肩や首を回す一樹に白音が呆れたように言う。

 

 昨日、一樹が疲れていることを聞いた白音が仙術で疲労回復を行った。やや離れた場所にいたがそこは猫魈。人間とは聴力が違う。

 

 マッサージ込みで行われた気の流れの整理はここ最近で1番身体の調子が良くしてくれた。

 ちなみにその時、黒歌がやってあげようか?とニヤニヤして訊いてきたが後ろから白音の威圧感が半端なかったため断った。

 

「将来、その特技を活かしてマッサージ屋でも開いたらどうだ?繁盛するかもよ」

 

「知らない人にするのはイヤ」

 

「左様で」

 

 いいアイディアだと思ったんだけどな~と呟く一樹。

 んじゃ行くかと2人で町に出かける。

 最初は町中にある眼鏡屋に足を運んだ。

 これは2人のどちらかの視力が落ちたとかではなく伊達眼鏡。所謂オシャレ眼鏡を見に来ただけである。

 一樹は試着可能な眼鏡を取って着けてみる。

 

「どうだ、白音。ちったぁ、大人っぽく見えるか?理知的な」

 

 ちょっと期待して訊いて見ると白音は少し困ったように笑う。

 

「その、どっちかっていうと、さらに子供っぽく見える」

 

「……そっか」

 

 ちょっと傷つき、一樹はそっと眼鏡を戻した。

 その後、参考書や趣味の本を購入したり、そろそろ衣替えになるため服を見て回ったりとして過ごした。

 

 そうして町を2人で歩いていると何かが勢いよく横切ってきた。

 

「ビックリした!猫かよ」

 

 猛スピードで横を通過した猫に驚きながら白音はポツリと呟く。

 

「首輪とかしてなかったから野良じゃないかな」

 

「野良かぁ」

 

「どうしたの、いっくん?」

 

 何か引っかかるもの感じたのか動きを止める一樹に白音は首を傾げる。

 

「いや、ガキの頃に野良猫を2匹拾ったのを思い出してな」

 

 一樹の言葉に白音の体がピクッと跳ねる。

 

「今の猫くらいのサイズの黒猫とすっげぇちっさい白猫でな。家族で出かけてた時に偶然見つけてな。黒い方がちょっと怪我しててさ。親を説得して車で家に連れ帰って手当してそのまま家で飼うことになったんだよ」

 

「………………」

 

「もっとも知っての通り家が火事になっちまって、それからどうなったのかわかんねぇんだけどな。俺もその後に色々とあって忘れてたし。出来れば生きていてくれればいいとは思うけど。もっとも、つい最近まで忘れてた俺なんかにもう拾われたくないだろうけどな」

 

 最後に冗談めかして笑う一樹に白音は後ろから抱きついた。

 

「いきなりどうした、白音?」

 

「そんなことない。きっとその猫たちは感謝してる。今でも忘れずに。だってその子たちはきっといっくんに拾ってもらって嬉しかった筈だから。だから……」

 

 僅かに声を震わせる白音に困惑する。ちょっとした雑談で話したことにここまで反応されるとは思ってなかったのだ。

 どうしたもんかと悩んでいると一樹は怪しい集団を目撃した。

 

「部長たちだよな、アレ?」

 

 その怪しい一団はオカルト研究部の朱乃を除く女子たちだった。

 何故か彼女たちは私服で4人で電柱に隠れて?いる。

 見るからに怪しい集団に白音は一樹から体を離して関わりたくないオーラを出し始める。

 しかしそんなわけにはいかず、恐る恐る話しかける。

 

「どうしたんだ、あんたら?」

 

『ひゃあっ!?』

 

 一樹が話しかけると4人は驚いた声を上げる。

 

「い、一樹!?おどかさないで!」

 

「何をしてる――――あぁ、アレか」

 

 リアスたちが見ていた視線の先に気づいて彼女たちが何をしていたのか察する。

 

「人のデートの監視とか趣味悪いですよ?」

 

「か、監視してるわけじゃ……」

 

 言い淀むリアス。アーシアとイリナもバツが悪そうに視線を反らす。

 

 その中でゼノヴィアだけはいつも通り堂々としている。

 

「うん。だけど2人のデートを観察することで自分の番が来たときに参考になると思ったんだが。ダメだったか?」

 

「ほら、それに私たちもちゃんと隠れてるし、ねぇ?」

 

 イリナの言い訳に一樹は眼を細める。

 

「いや、隠れてねぇから。向こうも気づいてるから。そしてどうして良いと思ったゼノヴィア」

 

 溜め息を吐いて呆れる一樹。そこで一誠と目が合う。

 そこで悪い、任せたと言うように手を合わせる一誠に一樹は更に溜め息を吐く。

 後でなんか奢らせようと心に決め。

 

「とにかく、デートくらい2人きりにさせてやれよ。折角なんだし。自分がやられたら、嫌だろ?」

 

 一樹の言葉に4人が顔をしかめる。

 どうやら罪悪感くらいはあったらしい

 

「で、でもぉ……」

 

 なおも反論しようとするアーシア。この中で1番一誠への好意が強いためだろう。

 だからと言って今の行動が肯定される訳ではないが。

 

「ま、詫びってわけじゃないが、そこの喫茶店で甘いものでも奢ってやる」

 

 親指で近くの喫茶店を指差す。

 そこまで言われて女性陣もデートの尾行を断念せざる得なかった。

 

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかしら。それにしても意外ね。一樹は一誠を嫌っているようだから積極的に邪魔するかとも思ったけど」

 

「失敬な。俺が嫌ってるのはアイツの変態性であって誰と付き合っていようと干渉する気は無いですよ。面倒だし」

 

 肩を竦めて一樹は喫茶店へと促した。

 

 

 

 

 

 喫茶店に入り、それぞれが注文を取る。

 

「それにしてもよかったんですか?ご馳走して頂いて」

 

「気にすんな。最近、色々とデバってるおかげでアザゼルさんから特別手当とかって言って金貰ってるから。宵越しの銭は持たねぇってな」

 

 アーシアの質問に苦笑いで答える一樹。

 ここ最近、町の防衛の為に戦っていることからアザゼルから高校生には過ぎた額を小遣い感覚で萎縮するような金額を貰っている。

 一樹としてもそんな額が手元に有っても困るので基本貯金しているのだが使えるのなら遠慮する気はなかった。

 

「そういうことなら遠慮なく!教会から支給される額って高校生のバイトとそう変わらないのよね。と言っても、将来の貯金に回されているだけで相当な額が振り込まれてるんだけど」

 

 命懸けの退魔師(エクソシスト)や転生天使になったイリナは相当額を稼いでいるのだが、その給金は両親に握られて一カ月に使えるのは高校生の割のいいバイト程度だ。

 アーシアたちも同様。彼女らは悪魔稼業の呼び出しで上下するが下級でしかない悪魔では給金が高いとは言えない。

 

 ちなみに一樹は両親の死後、高額の保険金やらが入ったがその後、引き取られた叔母に結構な額を使われた。今は大学を決めるまではアザゼル紹介の弁護士に預けており、そこから月の小遣いを振り込まれている。

 

「それで、なんで2人の尾行なんて始めたんだ?」

 

 運ばれたケーキにフォークを通しながら質問する。

 

「う……だって気になるじゃない?もしイッセーが朱乃を傷付けたらとか……」

 

「過保護ですね……でもその心配は杞憂だと思いますよ?あいつが自分に良くしてくれる女に手を出せるほどの度胸があるとは思えません。暴力的な意味でも性的な意味でも。だってヘタレだし」

 

 それでいて覗きやら洋服破壊(ドレス・ブレイク)とかはできるんだから一誠の異性に接する基準がいまいち理解できないのだが。

 話を聞けば一応祐斗が止めたらしいのだが聞く耳持たずだったらしい。

 

「そ、そういえばお2人はどうして外に?もしかしてデートですか!?」

 

 それなら邪魔して悪かったと思ったのか気まずそうに顔を歪める。

 

「私たちはいっくんの修学旅行の準備とあとは学園祭の出し物の案は何かないか散策してただけです。あとは衣替えの準備とか」

 

「あら、学園祭の?何かいい案が出たのかしら?」

 

「そこは次の会議で話します。期待されると恐縮ですが」

 

 実際、町を見て回って学園祭を意識して見るとそれなりに使えそうな案はあった。もっとも、あくまでも目的のひとつで熱心に案を探していたわけでもないのだが。

 

 そこでリアスが口元を吊り上げる。なにか一樹にとって良くないことを考えているようだ。

 

「ところで一樹。貴方の好みってどんなのかしら?」

 

「……ミルフィーユとかパイみたいにサクサクとした食感の菓子が好きですよ。あとコーヒーと紅茶だったらコーヒー派―――――」

 

「そういうことを訊いてるんじゃないのだけれど……」

 

「わかってますよ。異性でしょ?なんだって俺の好みなんて……」

 

 リアスの質問に女性陣の目が輝く。

 隣に座っている白音もチラチラと横目で見てくる。

 

「だって気になるじゃない?一樹だってそういうことに興味が無い訳じゃないんでしょ?」

 

「まぁ、俺も高校生ですしね。兵藤みたいに前面に押し出すつもりは無いですが、まったく興味がない訳ではないですよ」

 

「でしょう?でも一樹の異性の好みって予想が立てられないから気になって」

 

「野次馬精神じゃないですか」

 

 呆れて息を吐く。しかも他の少女たちまで乗って来た。

 

「わ、私も興味あります!も、もし良ければ教えてほしいです!!」

 

「イッセー以外の男性でそういう話を聞く機会がないからな。良ければ参考までに聞きたい」

 

「そうよね!私も聞いてみたいわ!」

 

 周りの熱烈な視線と勢いに若干及び腰になるが、気を取り直して自分の好みに関して考える。

 

「そうだなぁ。家庭的というか、料理が上手くて一緒に居て安心する人、かなぁ」

 

『…………』

 

 本人は割りと真剣に考えて答えたのだが周りの反応は微妙の一言だった。

 

「それだけ?ほらもっと容姿とかについては!?」

 

「なんでだよ……身体目的でセフレの好み訊かれたわけじゃないんだから。見た目が良ければ良いとは思うけどそこまで重要視することか?」

 

 イリナの言及に一樹は首を傾げる。

 

「どんなに見た目が良くても中身が合わないなら長続きしないだろ。まぁなんだ。男なんて単純だから美味い飯作って待ってれば金持って女の所に帰って来るんじゃないか?容姿なんてそこまで重要な基準じゃないだろ」

 

 特に良い恰好しようとしている様子もなく自然とコーヒーを啜る一樹にリアスは質問を重ねる。

 

「ちなみに合わないと思う性格って?」

 

「男をATMとしか思ってない女とか。弱い立場だと認識した途端に虐めとかする女とか?」

 

「それは合う合わない以前の問題じゃないかしら?」

 

 一樹の言う極端な例に脱力するリアスとイリナ。

 もし一誠に同じ質問をすれば『綺麗でおっぱいの大きい女性です!』と堂々と宣言するだろう。この2人は本当に両極端らしい。

 そう思っていると一樹はフォークの形を歪ませんばかりに握力を入れる。

 

「そうだよ。人が熱だして寝込んでんのに看病するどころか隣の部屋に男連れ込んで盛ってたり。人が作った飯が気に食わねぇからって雪玉みたいに投げつけたり。終いには人の両親が残してくれた金を散々使いやがってあんのババァッ!!」

 

 臓腑から絞り出すような声にリアスたちは顔を引きつらせる。何故か一樹の背後にどす黒いオーラが見えたような気がした

 

「ちょ!?落ち着きなさい一樹!」

 

 リアスに話しかけられて一樹はコーヒーを一気に飲み干して話を区切る。

 

「まぁとにかく俺が言いたいのは見た目ばっかりで中身が伴わない相手は御免被るってことです」

 

 ハッハッハ!渇いた笑いをする一樹に周りは過去に何があったと聞きたくなったがその雰囲気から口に出せずにいた。

 そこでゼノヴィアがリアスたちとは別の疑問を質問する。

 

「ところで気になったのだがセフレとはなんだ?」

 

「わ、私もわかりません!教えてください!」

 

「あぁ、セフレってのはセック――――――」

 

「止めなさい!」

 

「アーシアさんたちに何を教えようとしてるの!?」

 

 リアスが言葉で止めてイリナが口を塞ぐ。

 

「今時高校生にもなってセフレの意味を知らないほうがアレだろうに。なら、少しボカシて教えれば問題ないでしょう?」

 

 コホンとわざとらしく咳払いして営業マンがするようなとてもいい笑顔で説明する。

 

「兵藤の奴が女性と欲してる関係だよ。あいつに言ってみるといい。『今日からあなたのセフレになりたいです!』とか。きっと涙ながらに喜んで―――――」

 

「止めなさい!」

 

 パシンとリアスが一樹の頭にどこからか出したハリセンを落とし、胸ぐらを掴む。

 

「最近ただでさえ朱乃とアーシアが火花を散らしてるのに余計な爆弾を放り込むのは遠慮してもらえないかしら?」

 

「手っ取り早く三角関係を終わらせる名案だと思ったんですが……ダメですかね?」

 

「というか女の子に自然とセフレの意味を説明できることに引いたわ……」

 

 頭が痛くなってきた2人は大きく息を吐く。

 しかしそこでアーシアが考え込むように唸る。

 

「よ、よくわかりませんけどイッセーさんが欲しがってるなら……」

 

「ダメよ!アーシア!今の一樹の説明は忘れなさい!」

 

「そうよアーシアさん!仮に泣いてもそれはきっと喜びじゃないから!自分を安くするようなことはやめて!」

 

 リアスとイリナに説得されてアーシアが頭に疑問符を浮かべながら頷く。

 後日、ゼノヴィアが本当にイッセーのセフレになりたいと宣言して騒ぎが起きるのだがそれは別の話である。

 

 

 

 

 

 やや脱線した話を修正して一樹に話題を戻す。

 

「とにかく!一樹の好みは家事が得意で一緒にいて安心できる相手ってことね!」

 

「そうなりますね」

 

「それなら―――――」

 

 4人の視線が一斉に白音へと集まる。

 

「良かったわね白音!もうリーチがかかってるじゃない」

 

「訳が分かりません」

 

 パフェを食べながらプイッとそっぽ向く白音。それに女性たちが温かい目線を送る。

 そこでリアスの携帯が鳴った。

 

「イッセーから?どうしたのかしら?」

 

 朱乃とデート中に連絡とは。もしかして余程のことが起きたのかと急いで電話に出る。

 

「イッセーどうしたの?朱乃とのデートは……?えぇ……え?えぇっ!?」

 

 どんどん驚いた顔に変化するリアスに皆が首を傾げる。

 そして繋がれた次の言葉に皆が口を開けた。

 

「オーディーンさまが駒王町に来ているですってっ!?」

 

 どうやら平和な休日は終わりを告げたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 


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