太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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リアスの仕事や体制については捏造です。


幕間3:はじめてのはぐれあくまとうばつ+おまけ

 リアスはアーシアを連れて駒王町の管理者として町の霊脈の流れを整理していた。

 悪魔が町の管理者としての仕事は主に3つある。

 

 1つ目は悪魔として召喚に応じ、依頼者の願いを叶える仕事。

 2つ目ははぐれ悪魔の討伐。

 そして3つ目は今リアスが行っている霊脈の整理である。

 霊脈から流れる力の渦。その管理を怠れば町に様々なデメリットが発生する。

 例えば生物が病にかかりやすくなったり。

 物が壊れやすくなる。

 災害の発生する可能性が跳ね上がる。

 魔が差すなどと言う言葉があるように邪な力に当てられて犯罪を誘発させる可能性も。

 その他諸々と町全体が不運に見舞われる為だ。もっともそこまでの事態に発展するのは希で、定期的に整理を行えばさして問題のない話だが。

 見栄えする仕事ではないが必要なことだった。

 今回、アーシアを連れて来たのはここ最近彼女の魔力操作が向上したのを機に彼女に霊脈の管理を手伝わせようと思ったからだ。

 その為に2人は今は誰も立ち入らない空き地に来ていた。

 

「アーシア。ここの力の渦に触れてみて」

 

「は、はい!」

 

 緊張して返事をするアーシアは予め説明されていたように目を閉じて魔力の流れに意識を向ける。

 

「どう感じるかしら?」

 

「……軽い水の中に一部だけ重いように感じます。真水の中に泥水が混じっているというか」

 

「それが霊脈の淀みよ。流れの中にそうした邪気を溜める箇所を作って溜まると浄化するの。まだ浄化するほどには溜まってないのだけれど。それじゃあアーシア、浄化してみてくれる?」

 

「や、やってみます!!」

 

 事前に言われたとおりに術を展開して霊脈の淀みを取り除いていく。

 アーシアに経験を積ませるために軽く淀み始めた部分を選んで浄化の作業を手伝わせている。

 魔力の扱いに才を見せるアーシアは問題なく言われたとおりに作業をこなしていった。

 

 それを終えるとリアスは地図を広げてペンデュラムのような道具で駒王町に流れる力の流れを調べる。

 地図の上にペンデュラムを動かすと僅かな違和感に気付いた。

 

「あら?」

 

「どうしました、部長さん?」

 

「えぇ。ちょっと町の一部の流れがおかしいの。あぁ、アーシアの浄化とは関係ないからそんな顔しないの。上手く出来たってさっき言ったでしょう」

 

 リアスの言葉に不安そうな顔を見せるアーシアに即座に浄化の失敗の可能性を切り捨てる。

 リアスが感じた違和感というのは霊脈から力を掠め取られているような動きを見せているからだ。

 もっともそれも少しずつで複数の個所からその反応が見れなければ見逃していただろう程に微弱な結果だったが。

 携帯を取り出してリアスはあるところに電話をかける。

 

 町の管理者と言えど年若く、学生身分のリアスやソーナではどうしても動ける時間が制限されてしまう。それをサポートするための下部組織が駒王町に点在していた。

 主に駒王学園に出入りしている業者などだ。

 購買で売られている商品や素人では出来ない学園の整備などで出入りしている業者は彼女らをサポートするために冥界から派遣された人材である。

 町になんらかの異常が発生したときにリアスかソーナへの報告を行い、または彼女たちから依頼を受けて調査を行うのがその組織の仕事だ。

 はぐれ悪魔の出現の報告も主に彼らから受けている。

 もっとも戦闘能力はさほどでもなくあくまでも調査と危険があった場合に情報を持ち帰ることを専門とする人材だ。

 彼らが町で目を光らせてくれているからこそはぐれ悪魔などの発見がいち早く伝わり、町への被害が抑えられている。

 これが機械に頼らない時代なら町全体に結界を覆って侵入者を発見する方法もあったが、電子機器の大量普及に伴い、町全体に結界を張ってしまうと冥界産でない精密機械は影響を受けることがあり、現在では推奨されていない。また余談だが強力な結界はそれだけで内部に居る生物に影響をもたらす上に、維持に莫大な労力を使うため、こちらも滅多に使用しない。

 

 はぐれ悪魔などに襲われて負傷した人間は町に在る総合病院。シトリー家が建てた病院へ転移させて治療や記憶操作を行っていたりする。もちろん無料で。

 また駒王町は駒王協定により、少なからず三大勢力から人材が派遣されている。

 以前、堕天使レイナーレが拠点として使っていた教会は修繕されて教会から人が派遣されているし、アザゼルが暮らしているマンションにも神の子を見張る者に神器使いや堕天使が滞在したりしている。

 

「えぇ、そうなの。調査は……解ったわ。資料はあとで……」

 

 連絡を終えて携帯をしまう。

 

「部長さん……」

 

 不安そうな顔をしているアーシアにリアスはタメ息を吐いた。

 

「どうやら今晩は少し荒事になりそうね」

 

 

 

 

 

 その日の晩。調査結果を手にしながら集め終わった部員の前でリアスが告げる。

 

「今日この町にはぐれ悪魔が確認されたわ。それもかなりの数がこの町に入り込んでいるみたいなの」

 

 真面目な表情で話すリアスに祐斗が発言する。

 

「前はイッセーくんが悪魔になって直ぐでしたから少し間が空きましたね」

 

「それでも他の管理地からすれば短い期間よ。今回は組織だった動きで複数の拠点が確認されているわ。何が目的かは不明だけれど、速やかに制圧する必要があるわ」

 

「制圧、ですか……」

 

「えぇ。幸いにしてまだ表立った被害は出ていないし、確認されたはぐれ悪魔はリストを参照しても精々、中級の下程の実力者だそうよ。油断するのはダメだけれど、冷静に対処すれば捕縛も難しくない筈。それが済んだら冥界に転送して裁判に委ねましょう。それで今回だけれど、これは私たち悪魔側の問題。一樹や白音。イリナさんは今回の件に関わる義理はないわ。こちらとしては今回範囲が広いから手伝ってくれるとありがたいのだけれど…」

 

「私は手伝います!自分たちの住んでる町ですから!無関係ということはありません。それに前にも言った通り、私は力のない人達を守るために教会の戦士。そして転生天使になったんですから!」

 

「イリナに同意です。見て見ぬふりして知り合いが襲われたら目覚めが悪いですし」

 

「まぁ……暇ですので……」

 

「3人とも……ありがとう」

 

 種族関係なく良い子たちだと思いながらリアスは持っている情報から指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 まだ取り潰されていない廃ビルを前に一樹、白音、祐斗の3人は立っていた。

 この組の人選はスピード重視。

 発見されたいくつかの拠点の中でここは丁度中間地点に位置し、別の地点に何かあればいち早く援護に向かえる人材が選ばれている。

 

 他の発見された2地点の人選は。A地点がリアス、朱乃、ギャスパー。これはギャスパーの魔眼頼りに選んだ人選。手っ取り早く捕らえて情報の聞き出しを行うことも考えている。

 B地点が残りの一誠、アーシア、ゼノヴィア、イリナである。

 このB地点が1番広いこととイリナのサポートとストッパー力を信頼しての配置。彼女が居れば一誠とゼノヴィアが必要以上の破壊行為には出ないだろうと考えて。アーシアもいるし。

 

 そしてC地点で3人は話し合っていた。

 

「中には10人もいないって話だったな。取っ捕まえるだけならなんとかなるか?」

 

「そうだね。以前の部長ならはぐれを確認すれば抵抗の意思無しと判断しない限り問答無用で殺していただろうけど、あの会談で知ったはぐれ悪魔の事情に慎重になってる。少なくとも人的被害が出ない限りは穏便に済ませたいと思ってるんじゃないかな」

 

 もしかしたらそれは甘い考えかもしれないが、もう以前のように盲目的にはぐれを狩ることはリアスにはできない。ソーナ・シトリーも同様だろう。かといって無視するつもりもない。やるべきことはやる。

 

 それがまだ年若い彼女たちの限界だった。

 

「3つの拠点を合わせれば20を超えるらしいけど今回のはぐれには僧侶と隠蔽に特化した神器使いが居るらしくて発見が遅れた。でも戦力自体は大したことないと思う。油断は禁物だけどね」

 

 術に長ける僧侶と隠蔽に特化した神器。それらにより隠れ仰せていたはぐれ悪魔。

 ここ最近、駒王町で事件が重なったこともあって発見が遅れたが見つかった以上は相手の壊滅は免れない。

 

「いっくん。木場先輩……」

 

「うん」

 

「わぁってる」

 

 中に入り広いロビーに足を踏み入れた瞬間に頭上から武器を持った2人が襲いかかってきた。

 

「甘いよ」

 

「殺気くらい隠せ馬鹿が」

 

 その奇襲に特に慌てた様子もなく回避する3人。

 敵は奇襲が失敗したことに驚いた様子だったが分断出来たことで自分たちの有利を確信し、ほくそ笑む。

 

 そこで残りのはぐれ悪魔とで計8人が一樹たちを囲っていた。

 

「問答無用ってか?」

 

「……これ以上の気配は感じない」

 

「ならこれで全員だね。ひとり2、3人の割り当てだ。すぐに終わらせようか」

 

 こうしてはぐれ悪魔との戦闘は開始された。

 

 

 

 

 

 

「お、らぁっ!!」

 

 一誠は最後のはぐれ悪魔に拳を叩き込んで気絶させた。既に下級悪魔なら通常の神器で事足り、数回の倍加でその意識を刈り取れる。

 

 つい数ヶ月前まで、はぐれの下級悪魔に脚を震えさせていた頃とは大違いである。

 だがそれも当然なのかも知れない。彼が悪魔と成ってから数多くの修羅場を潜ってきた。その経験は確実に彼を成長させている。

 

『もっとも、それも俺のサポート有ってだがな』

 

「誰に言ってんだドライグ?」

 

 倒したはぐれ悪魔を渡された特製の手錠で拘束しながらドライグに問いかける。

 

『いや、確かに相棒は強くなったと思ったが、どうにも手加減が苦手だなと感じてな。こちらで倍加の制御をしなければあの下級悪魔どもはミンチになっていたぞ』

 

 良くも悪くも目の前のことに全力投球な一誠は相手に合わせて攻撃することを苦手としている。

 

 しかし本人もそのことを自覚しているため、匙戦以来小さな攻撃も使えるように特訓していた。

 主に建物などを壊さないようにするため。

 小さな魔力弾を放てるようにしたり。

 周りに力の入れ具合を教授してもらったり。

 

 しかし、倍加という揺れ幅の大きい能力に加減を体が覚えるのが難しいのだ。

 

『まぁ、そのサポートをするための俺だ。だが、頼りっきりにして考えることを止めれば成長も止まる。工夫と向上心を無くせばあのヴァーリに殺されてしまうだろう。要精進という奴さ』

 

 ヴァーリが一誠をまだ殺さないのはその成長に多少なりとも期待しているからだ。それを止めれば興味を無くし、一誠を殺して次の赤龍帝に期待するだろう。

 

「……命懸けだなぁ」

 

『戦いに足を踏み入れた者は往々にしてそういうものだ。逃げ道なんていつの間にか塞がれている。歴代の依り代たちもそうだった』

 

 しみじみと呟く一誠にドライグの言葉は染みた。

 一誠としてはエッチで楽しい青春を謳歌できれば満足なのだが周りが騒がしく、邪魔してくる。

 禍の団のこともある。周りの女の子に囲まれて幸せなのは事実だがいつになったら憂いのない日常がやって来るのか。

 

「ホント、難しいよなぁ」

 

 アーシアが冥界に悪魔を転送するのを見届けながら一誠は天井を仰いだ。

 

 

 

 

 

 リアスたちのはぐれ悪魔討伐は思いの外すんなりと終わった。

 ギャスパーの魔眼の制御が思った以上に洗練されており、相手の抵抗を殆ど受けずに拘束できた。

 

「それにしても度しがたいわね」

 

 リアスたちの地点でははぐれ悪魔たちのリーダーが居り、簡単な尋問を行ったがはぐれに堕ちた理由が酷いものだった。

 

 神器の力を宿し、偶然発現したことから居場所を無くすというのはよくある話で、偶然とある上級悪魔の目に留まった彼は悪魔のことを知り、転生する。

 その上級悪魔は能力よりも家柄や階級で駒を手にした者で自分の護衛や仕事のサポートなどを目的に駒を集めていた。

 しかし、彼が悪魔として転生した理由はその長寿であり、主に仕えるという誓いは口からの出任せ。

 元々彼の主は温和な悪魔で他人を疑うことをしない人物であったことから転生して数年で主を裏切り、あろうことか最近世間を騒がせている禍の団と合流しようとしていたらしい。

 その手土産としてリアスたちの首を狙い、下準備していたようだ。

 地脈や町の人間たちから力を少しずつ奪い、貯めた魔力で駒王町を吹き飛ばすと脅迫してリアスたちを捕らえ、禍の団に引き渡す。

 

 色々とツッコミどころ満載な計画だがもしそれを実行されていたらと思うと寒気がする。町の人間に被害がいった可能性を思ってだ。

 それもリーダーの神器が隠蔽に長けていたこともあり、その馬鹿馬鹿しい計画は実行に移す寸前まできていた。

 こと隠れるだけならかなりの才能があったのかもしれない。

 

「さて、他のみんなももう終えたでしょうし、連絡をとりましょうか」

 

 

 

 

 

 

「うぎゃぁああああああああああっ!!!?」

 

「は?」

 

 はぐれ悪魔のひとりが上げた絶叫に一樹は呆気に取られる。

 

 今一樹は炎を使い、敵を牽制しようとした。

 たが、思った以上に敵の動きが鈍く、腕を吹き飛ばしてしまった。

 一樹からすればかなり遅く放った炎の球。

 避けさせること前提で放った攻撃を避けるどころか防御すら出来ないとは想像の外だった。

 

「キサマァアアアアアッ!!」

 

 敵討ちからか近くにいた敵が一樹に攻撃する。本来ならあっさりと避けられるそれを動揺から喰らってしまった。

 

「っのやろっ!」

 

 反撃で体を殴ると相手の骨が折れる感触がした。

 

(っ!?下級悪魔ってこんなに……っ!)

 

 はっきり言って弱い。想像以上に。

 しかしそれは一樹の判断基準がおかしいのだ。

 下級とはいえ仮にも彼らは悪魔である。

 その爪と牙。魔力は意図も容易く一般人を八つ裂きにする力がある。

 一樹とて2年に進級したばかりの頃なら為す術もなく殺されていただろう。

 だが、オカルト研究部と関わり、短いながらも密度の濃い時間と戦場を駆けていった。

 それにより一樹の実力は半年未満で上級悪魔と遜色ない力を身に付けた。

 それは常に命懸けの死線であり、自分の実力以上の者たちとの死闘であった。

 おかしな話だが、一樹は自分と圧倒的に実力が劣る敵と戦った経験が不足し過ぎているのだ。

 だから手加減の匙加減が判らない。

 

 ―――痛い痛い痛い!!ヤメテ!ごめんなさい!許して赦してユルシテ!?

 

(何で今更、中1(あの時)の事なんて……!)

 

 頭に過った過去のイメージに顔を歪めるとまたひとり、はぐれ悪魔が一樹に襲いかかった。

 動揺していた一樹は易々と棍棒の一撃に吹き飛ばされる。

 

「いっくんっ!?」

 

「――――っ!!」

 

 一樹の予期せぬ苦戦に白音と祐斗が混乱する。そして精神の乱れは焦りを生み、2人もはぐれと一瞬膠着する。

 

 態勢の崩れた一樹に棍棒が降り下ろされる瞬間にはぐれの腕を斬った祐斗と内臓を破壊した白音が駆けつけて左右から仕留める。

 

「あ……」

 

「一樹くんぼうっとしないで!」

 

「わ、わりぃ!」

 

 よろよろと立ち上がり、意識を切り替える。

 いくら格下とはいえこんな精神状態では殺されてしまう。

 1度、頬を思いっきり叩き、気合いを入れ直す。

 

「もう、大丈夫だ。すぐに終わらせる」

 

 その後、向かってくるはぐれ悪魔を難なく討伐した。

 

 

 

 

 はぐれ悪魔を転送し終えた後に一樹は適当なところに腰かけていた。

 

「いっくん、怪我は?」

 

「大丈夫だ痛みも引いたし、痕も残ってねぇ。最近、怪我の治りが異常に早くてな」

 

 白音に笑いかける一樹。しかしそれはすぐに視線を上へと移す。

 

「……下級の悪魔ってあんなに弱いもんなのか?」

 

 それが今日戦ってみての感想だ。

 動きが鈍い、防御も脆い。闘気を纏っているとはいえ隙だらけの一樹に大したダメージも与えられない程に攻撃能力も貧弱。

 ただの人間だったなら殺されていただろうが、今の一樹からすれば彼らの弱さに驚愕だった。

 なにより――――――。

 

「嫌なこと、思い出した」

 

 あんなことを思い出すなんて本当に今更だ。

 

「……なにを思い出したのかは訊かないけど、あれでも彼らは下級悪魔の中ではそれなりにできる方だと思うよ。でも、一樹くんの成長も異常だからね。加減具合が分からないのも仕方ないかな」

 

「……」

 

 祐斗のフォローのような言葉に一樹はただ眉間に皺を寄せる。

 そんな友人に祐斗はさらに言葉を紡ぐ。

 

「……正直に言えば、僕も初めてはぐれ悪魔の討伐に出た時、身体が震えたよ」

 

「祐斗?」

 

「師匠から剣の指導を受けて。強くなって自分はやれるって思ってた。実際、相手も大した強さはなかった。でも――――」

 

 初めて創造した魔剣で肉を切った感触に震えた。

 数日、食事が喉を通らなくなるくらいにショックを受けた。

 だがそれも次第に慣れていった。そしてその嫌悪感を考えなくなった。

 

「直ぐに慣れるから気にすることじゃないって言いたいのか?」

 

 怒気の孕んだ一樹に祐斗は首を振る。

 しかしその仕草ですら苛立ちを覚えた。

 

「そうじゃない。その悩みは必要なモノなんじゃないかなって話さ。僕たちにとってもね」

 

「……なんでだよ」

 

「平気で人を傷付けられる人は力を手にしたら際限なく暴走する。でもその怖さを知っていればどこかで止まることが出来る。僕はね、一樹くん。リアス・グレモリーの騎士さ。主の敵を討つことに躊躇いはないけど、部長や僕たちが間違った道に進んだときに止めてくれる人が必要だと思う。そして僕は君がそうなら嬉しい。僕たちの仲間だけれど悪魔でも眷属でない君だからこその視点でね」

 

 祐斗の言葉に一樹は言い淀む。

 そんな風に思われてるとは思わなかった。

 

「……俺は、頭に血が上りやすい」

 

「うん。知ってる」

 

中1(ガキ)の頃にそれで同級の女子を殴って大怪我を負わせたことがある」

 

「うん」

 

「間違ってないって思ってたんだ。確かに悪いことはしたけど間違ってないって」

 

 あの時、ああしていなければ友人(アムリタ)へのいじめは収まらなかっただろう。だからあれは悪いことでも間違ってない。

 そんな風に思っていた。

 自分が痛めつけた相手のことなんてすぐに頭の中で切り捨てて。

 

「そんな、すぐに道を踏み外しちまうような奴が誰かを止める資格なんてあるのかよ」

 

 だって自分だって間違いやすいのだ。もしかしたら既に間違っているのかもしれない。

 そんな奴が誰かを止める資格なんて。

 

「その時は、僕たちが止めるよ。友達として。友達だからね」

 

 一樹はなにか目を覚ますように大きく開かれる。

 

「だから君も僕たちが間違ったら止めてくれ。手遅れになる前に。友達ってそういうモノでしょ?」

 

 ただ、相手の行動を肯定するだけでなく時に否定する。それをすることも友達の責務だと裕斗は言った。

 

「あぁ、そうだな祐斗たちが間違ったら俺が止める。友、だち、だからな」

 

 陰りが完全に振り払われたわけではない。しかし、先程よりだいぶスッキリした表情で一樹は笑った。

 そんな2人を見て白音は祐斗の脛を軽く蹴る。

 

「イタッ!?白音ちゃんなんで!?」

 

「……木場先輩はズルいです」

 

「なんで!?」

 

「なんでも」

 

 理由を話さない白音。それに祐斗は困惑した。

 そこで祐斗の携帯が鳴る。

 相手はリアスからだった。

 祐斗は電話に出ると短く会話をして携帯を切る。

 

「どうした?」

 

「うん。他の皆も無事はぐれを倒したって。今日はもう遅いからこのまま解散でいいってさ。報告は明日でって」

 

「そっか。そりゃ助かる。実はもう眠いんだわ俺」

 

 いつもの調子を取り戻した一樹に祐斗は笑みを浮かべる。

 

 間違っていい。それを止めてくれる仲間が居るなら。

 間違わない一生など無いのだから。

 共に笑い、喧嘩して、互いの道を定めても通じ合えるモノがある。

 誰かと生きていくというのはそういうことではないだろうか。

 だからこそ

 

「お前がやってることが間違ってると思ったら俺はお前を止めるぞ、親友(アムリタ)

 

 いつかの友を止められる決意を固めるように一樹は拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ:それはどこかの世界で起きたかもしれない奇跡。

 

 

 小さな少女は虚ろな表情で低い天井を見上げていた。

 つい最近まで着ていた質素ながら上物の服とは異なりとりあえずボロ布が服の形をしているだけの衣服に身を包んだ少女は身も心も疲れ果ててしまった。

 少女には姉がいた。

 幼い頃から各地を放浪して肩を寄せ合ってきた誇らしくも最愛の姉。

 ひもじい生活の中でも姉の存在があったから少女は堪えて生きてきた。

 そんな生活に転機が訪れる。

 姉が転生悪魔になって主に仕えることを条件に姉妹の生活を保障すると言ってきた悪魔が現れたのだ。

 長い旅で疲れ切ってしまった姉妹に選択肢はなく、それを受け入れるしかなかった。

 その主の下で姉はメキメキと力を付け、少女もそんな姉に更なる羨望を向けた。

 価値を示せば示すほどに生活は豊かになり、隠れて生活していたのが嘘のように満ち足りた日々が姉妹に訪れた。

 しかし、それは呆気なく終わりを迎えた。

 仙術と呼ばれる一部の種族のみに使える技術の制御に失敗した姉は暴走して主を殺害してしまったのだ。

 そして姉は少女を連れて行くことなく姿を消した。

 姉の罪は残された少女に責が及び、多くの傷を刻みこんだ。

 身体を押さえつけられて牢に入れられ、糾弾と罵声に晒される日々。

 最初は姉の無実を信じていた少女も生きるのに最低限しか与えられない食事と主の親族や友人たちに叩きつけられる心無い暴言。

 それが不信に変わり、一向に迎えに来てくれない姉に見捨てられたと悟るまでにそう時間はかからなかった。

 諦観であらゆることがどうでもよくなり、少女は心を止めた。

 傷つかないように。踏み込まれないように。

 

「おい、出ろ」

 

 いつも食事を持ってくる看守は牢で手錠をかけられた少女を無理矢理立たせて歩かせる。

 とうとう自分は殺されるのか。

 そんなことを他人事のように思考する。

 どうでも良かった。

 最愛の姉にすら見捨てられた自分など、最早生きている価値など無かったのだ。

 だから当然の時間が訪れただけ。少女はそう思った。

 しかしその考えは僅かばかりに罅が入る。

 それは久方ぶりに眩しいばかりの光に触れたからかもしれない。

 たったそれだけのことで少女にある願いが生まれた。

 もしかしたらずっと前から邪魔に思われていたのかもしれない。

 会ったところで昔のように笑い合うことなど不可能かもしれない。

 それでも―――――。

 

「もういちど……ねえ、さまに……あいたいなぁ……」

 

 一筋の涙が魔方陣の敷かれた床へと零れ落ちる。

 そうして、奇跡は起こった。

 

 その床は、連れられた館の主の趣味で描かれていた召喚用の魔法陣。

 それに少女自身が触媒となってある存在を呼び寄せる。

 

 落ちた雫を発端に魔法陣が光り出し慌てる悪魔たち。

 光が収まると尻もちをついた少女の前にひとりの見知らぬ青年が立っていた。

 

 濃い茶の短髪に翠の瞳。

 中背でやや痩せ型の体躯。

 年の頃は20代半ば程で黒いズボンに素肌の上に同じ色で胸元が開かれた軍服にも見えるロングコートを身に着け、黄金の槍を持った青年。

 その存在は少女を見下ろすと問いかける。

 

「問おう、お前が俺のマスターか?」

 

 状況が理解できない少女は問いに答えることが出来ず唖然とした様子で青年を見上げている。

 それにふむ、と顎に手を当てて思案する。

 

「まぁ、回路(パス)が繋がっている以上、お前が俺の主であることに違いは無いか。状況は少し飲み込めないけどな。こういうこともあるだろう」

 

 そして少女に目線を合わせるように青年は屈む。

 

「サーヴァント、ランサー。召喚の命に従い参上した。この身は君の矛となり盾となり。そして主に降りかかるあらゆる災禍を焼き払う炎となろう。契約はここに完了した。さて、何か要望はあるかマスター」

 

 

 とある並行世界で英雄となった英霊(一樹)と悪魔になるはずだった少女(白音)の運命はここに交錯した。

 

 

 




なんか前の話より本編っぽい感じに。
リアスの管理者としての仕事とか一樹と祐斗の友情成分が足りないなと思って書きました。


おまけは完全に遊びです。
どう考えても終盤くらいまでランサー無双になるので続きは書きません。

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