太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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50話:怒りの赤き龍

 神殿の中に入った白音は最初リアスに手を引かれていたが、今は手を離して前に進んでいる。

 それでも時々、後ろを振り向くような動作が入っているが。

 

「あ、あの部長!勢いで全員突入しちゃいましたけど本当に日ノ宮ひとりだけ残して良かったんですか?」

 

「あそこにはオーディーンさまもいるわ。最悪の事態にはならない筈よ」

 

 そう。あそこにはオーディーンが残っている。一樹を見殺しにするなんて事態にはならないだろう。そうでなければ一樹ひとりをあの場に残すなんて選択をリアスはしない。

 

「アーシアは、その、大丈夫か?色々と、さ……」

 

「あ、はい!大丈夫です!イッセーさん」

 

 笑って見せるアーシアの表情はぎこちなく、ショックから立ち直れてないことが丸分かりだった。

 自分が魔女として追われた事件で想像だにしなかった背景があったのだ。頭の中ではまだ整理しきれないことでいっぱいなのだろう。

 

「扉の奥にたくさんの気配を感じます。ですが、ディオドラ・アスタロトの気配は感じません」

 

 既に仙術を使用していた白音が扉を指さして警告する。

 一樹のことも心配だろうに。与えられた仕事をしっかりとやっている辺り、彼女の生真面目さを物語っている。

 

 リアスは白音に礼を言うとそのまま扉の奥に突入した。

 その先にあったのは中世のコロッセムのような会場だった。

 この景色に戸惑っていると聞き覚えのある声が鼓膜を揺さぶる。

 

『よく追って来てくれたね、リアス・グレモリーとその眷属たち。それにアーシア、君も来てくれて嬉しいよ。やっぱり君は僕と共に在るべき人だ』

 

 アーシアはディオドラの戯れ言に答えず険しい表情で虚空を見上げている。

 

「ディオドラァ!何処にいやがる!さっさと出てこい!!」

 

『うるさいなぁ。僕はこの神殿の奥で待っているよ。そこでだ。ゲームをしよう、リアス・グレモリー』

 

「ゲーム?」

 

『そうさ。中断されたレーティングゲームのね。君たちは僕のところにたどり着くまでに駒をひとり1回だけ出すことが出来る。そして各ステージで僕の眷属を全滅させたら次のステージへってね。駒をどこでどれくらい出すかはもちろん勝手にしてくれて構わないよ。そっちの余計なおまけも含めてさ』

 

「……そんなルールにこちらが従う必要がこちらにあるのかしら?」

 

『一応言っておくけど、僕の眷属を倒さなければ次に進むための扉は開かないよ。もしルールを破って同じ駒を何度も出した場合、その区域を爆破するように術式も仕掛けてある。何人かは生き残るだろうけど、全員がそれに耐えられるかな?それに君たちは自分の手で僕を捕まえたいんだろう?なら、大人しくルールに従った方が得だと思うけどね』

 

 くぐもった笑いが不快に鼓膜を刺激する。

 それにリアスは少し考える素振りをした。

 

「いいわ。その案に乗ってあげる。私たちが辿り着くまで、精々生涯最後の自由を楽しんでなさい!」

 

「いいんですか、部長?」

 

「かまわないわ。その程度のルールならハンデにもならないって刻みこんでやればいい。それより、今回のゲームでは戦闘不能者は転送されない。だけど、後の事を考えて、相手を殺さないようにしてちょうだい」

 

「どうしてですか?いや、殺さなくていいというのは有難いですけど……」

 

「ディオドラの眷属には元聖職者の人間も混じっている筈よ。後で事情聴取やら何やらをさせる必要があるわ。殺しは、本当に追い詰められた時のみとする。出来るわね、皆?」

 

『はい!!』

 

 リアスの問いに部員は気持ちよく答える。それに満足そうに微笑み、リアスは最初に出す人員を指名した。

 

「こちらは、ゼノヴィア、イリナ。一誠とギャスパーを出すわ」

 

『そうかい。見て判るだろうけど僕は兵士8名と戦車2名を配置させてもらったよ。ちなみに兵士は既に全員女王へと昇格させてある。別にいいよね?そっちのおまけを認めているし、グレモリー眷属の質の高さは有名だからね』

 

 耳障りな高笑いを無視してリアスは出場する4人に作戦を伝える。

 

「ゼノヴィアは戦車の2人をお願い。必要ならイッセーからアスカロンも借りておいて。ギャスパーとイリナ、イッセーで残りの兵士を撃退して。それと、イッセー」

 

 そこでリアスはイッセーに耳打ちする。

 

「ま、マジですか部長!」

 

「えぇ。今回は敵を出来る限り殺さずに拘束するから、代わりの手段として許可するわ」

 

「よっしゃぁ!この勝負もらったぁ!!」

 

 腕を上に掲げてガッツポーズを取る一誠。

 

「部長さん、どんな指示を出したんですか?」

 

「……訊かないでちょうだい。状況的に確実な手なのだけれど、指示したのを後悔しそうだから」

 

 アーシアの問いかけに頭を押さえて俯くリアス。

 

 戦闘が始まると、ディオドラ側の戦車2人がゼノヴィアに向かって行く。そのスピードは騎士にこそ及ばないものの、中々のモノだった。

 

 相手の攻撃を躱しながらゼノヴィアは独白するように口を開く。

 

「君たちに恨みがあるわけではないが……そちらの主が私の友達を狙っている以上、容赦をするつもりはない!」

 

 ゼノヴィアは跳躍し、敵の頭を跳びこえる。振り向いて再度向かってくる合間に姿勢を取る。そのポーズはまるで野球の打者のようで。

 

「ウオォオオオオオオッ!!」

 

 雄叫びと共に振るわれたデュランダルの腹で戦車のひとりを強打する。

 ゼノヴィアの渾身の一撃は相手の戦車を吹き飛ばし、控えにいるリアスたちを横切って後ろに壁にその体を減り込ませた。

 

「うん、良し!」

 

 デュランダルを地面に突き刺して満足そうに頷くが周りはドン引きである。

 人がこうクルクル高速回転をしながら壁に減り込むなどなんのギャグマンガか。

 そんな元相棒に対してイリナは。

 

「もう、あれは大剣というよりはハンマーね……」

 

 と戦慄していた。

 

 女王に昇格した敵兵士8人と一誠、イリナ、ギャスパーの3人も有利に戦局を進めている。

 

 ギャスパーの魔眼で相手の動きを封じてイッセーが洋服破壊で行動不能にする。これは、相手の兵士が全て女性だったことが幸いした。

 

 イリナも、擬態と透明の能力を同時に使用し、不可視の鋼糸で敵の動きを次々と拘束していく。これにより、ギャスパーに近づく敵を封殺していった。

 一誠が5人の兵士を行動不能。残り3人をイリナが拘束している間にゼノヴィアも戦車を降す。

 

「ハッハッハッ!女の子相手なら俺たちは無敵だゼェ!!」

 

 鼻血を垂らしながら高笑いをする一誠を無視してリアスがどこから取り出したのか大きめの布を一誠が洋服破壊した女性陣に被せる。

 

「ぶ、部長!どうして隠しちゃうんですか!?」

 

「もう試合は終わったのだから当然でしょう?戦いの時は特例として認めるけど、終わったのなら話は別よ!もちろん、残った人たちに洋服破壊を使うなんてもっての外だから」

 

「なん、だ、と……」

 

 ムンクの叫びのようなポーズを取る一誠に白音は真冬の冷水のように冷めた眼を向け、アーシアが頬を膨らませて一誠の頬を引っ張る。

 

 倒した敵は白音の仙術によって魔力を封じられ、縛り上げて放置した。

 

 これでこちらの戦力はディオドラの下へ辿り着くまでにリアス、朱乃、祐斗、白音。向こうは女王と騎士、僧侶が二名ずつ。

 数的には劣勢だが組み合わせ次第では十分に勝てる。

 

 神殿を突き進むと次の戦場にはローブを纏った3人が立っていた。

 

「確かあれは向こうの女王と僧侶2人だね」

 

「あらあら。なら、ここは私が出ましょうか」

 

 一歩前に出る朱乃。リアスは少し考えて自分も前に出た。

 

「後の騎士2名なら祐斗と白音で大丈夫ね。私もここで出るわ」

 

「あらあら部長。別に私ひとりだけでも十分でしてよ?」

 

「馬鹿言わないで。いくら雷光の力を扱えるようになったといっても、まだまだ使いこなせてないでしょう?安全かつ確実に勝つために私も出るわ」

 

 若干互いに険を漂わせて前に出る2人の後ろで祐斗が一誠の肩をちょんちょんと叩く。

 

「なんだよ、木場?」

 

「イッセーくんがこう言えばこの勝負確実に勝てる」

 

 耳打ちすると一誠が首を傾げる。

 

「そんなんで勝てるのか?」

 

「うん。こういえば確実に朱乃さんはパワーアップするからね」

 

 なぜそうなるのか疑問だったが物は試しということで言ってみることにした。

 

「朱乃さ~ん!もしここでカッコ良く完勝したら今度の日曜に俺とデートしましょう!って俺とのデート権なんかで朱乃さんがホントにパワーアップすんのかよ?」

 

 そしてその瞬間、朱乃の体の周辺から雷がバチバチと奔った。

 

「うふ!うふふふふ!イッセーくんとデートできるっ!!」

 

「朱乃……貴女、だんだん思考が残念になってきたわね……」

 

 自分の眷属の変わりようにリアスは嘆くように呟く。

 

 その後の試合は文字通りワンサイドゲームだった。

 朱乃が放った雷光で女王と僧侶の1名ずつ撃破し、唖然とした残りの僧侶をリアスが接近し、何らかの魔法を行使して気絶させた。

 

 その後は先程と同じように拘束して先へと急ぐ。

 白音が罠の確認などをしながら慎重に。

 

 そうして次に待っていたのは予想通り、ディオドラの騎士が待っていた。

 

「ようやく、僕の出番だね」

 

 既に聖魔剣を創り終えていた祐斗が前に出る。

 白音は、壁を背にして動かない。

 

「白音ちゃん?」

 

 アーシアが呼ぶと彼女はただ首を振って拒否する。しかしそれはリアスにとっても予想済みだったので特に意を介さずにそう、とだけ頷いた。

 

「いいんですか?部長」

 

「白音の役割はここに来るまでの罠の索敵なんかの仕事は充分にやってくれたわ。それにディオドラの騎士2人なら祐斗ひとりでも大丈夫、でしょ?」

 

 仕方がないとリアスは苦笑する。

 白音はリアスの眷属ではないし、命令する権限は彼女にはない。ここまで手を貸してくれただけでも有難いのだ。

 

「行けるわね、祐斗」

 

「我が主の仰せのままに」

 

 用意された戦場に立ち、聖魔剣を構える祐斗。

 2名の騎士もそれぞれ自らの獲物を構える。

 

 両陣営無言で始まる剣戟の音。

 相手の騎士2名の速度は遅くはなかったが、それでも祐斗の方が一枚も二枚も上だった。

 

 数回の刃の激突の後に祐斗が相手の武器をその手から落とさせ、柄の先端で鳩尾に一撃入れて気絶させた。

 もうひとりも同様に背後へと回り、首筋に柄を叩き込んで意識を奪う。

 鮮やかな手並みに味方の何名からか拍手が送られると、彼は照れたように笑った。

 

 今までが同格や格上ばかり相手にしてきたが、格下相手ならスムーズなモノだった。

 

「次は、いよいよディオドラね」

 

「……」

 

「アーシア、大丈夫だ。アーシアを泣かせようとした奴なんて俺がブッ飛ばしてやるから!」

 

 左手を握りこんで宣言する一誠にアーシアは複雑そうに笑う。

 まだ、諸々の事情が整理できていないのだろう。

 だから一誠は無理して消化しなくていいとアーシアの手を握る。

 

 

 

 

 

 

 神殿の最奥部に到着するとそこには無駄に高級感のある椅子に座しているディオドラが居た。

 

「ディオドラァ……!!」

 

 その存在を認識して一誠は握った手の平から血が滴るほど強く握りしめる。

 アーシアを魔女の烙印を押させ、一度死へと追いやった原因。

 そのおかげで一誠はアーシアと出会えたし、彼の両親から愛情を受け、気の善い仲間たちに囲まれて幸せだと彼女は言ってくれた。

 だから、結果的には良かったのかもしれない。

 だが、ディオドラがアーシアを陥れ、一歩何かが違えば今とは違う未来を歩んでいた可能性は否定できない。

 故に兵藤一誠はディオドラ・アスタロトを微塵も許すつもりはなかった。

 そんな一誠の殺意を涼しい顔で受け流すディオドラ。

 

「ふふふ。まさか自分から僕のところまで来てくれるなんてね。やっぱり僕たちは運命の糸で結ばれているようだ」

 

「テメェ!ふざけたこと―――――」

 

 前に出てディオドラを黙らせようと一誠を押し退けてアーシアが前に出た。

 

「アーシア……?」

 

「ディオドラさん。私は貴方に聞きたいことがあります」

 

「なんだい、アーシア。君の訊きたい事ならいくらでも答えてあげるよ」

 

 肩を小刻みに震わせて絞り出すように声を出す。

 

「私が、昔住んでいた孤児院。魔女として認定された時に院長さんに暗示をかけたというのは……」

 

「あぁ、そのことか。うん。アーシアを僕の下に置くために引き取り手が居たら困るだろう?だから、少し思考を操作させてもらったよ」

 

 笑顔を一切崩さずにそう宣うディオドラ。流石にその真実にアーシアの表情は険しいモノへと変えた。

 

「貴方は……っ!?」

 

「でも、安心してくれ。例の院長ならしっかりと始末させてもらったからね」

 

「え?」

 

「おや?知らなかったのかい?君が教会を離れた後に用済みとなったあの人間は事故を装って消えてもらったんだ。もう人間としてはかなりの高齢だったし、僕とアーシアの仲を取り持つために死んでいったんだ。むしろ光栄なことなんじゃないかな?」

 

 今までの爽やかな笑みとは違い、幼子がバレた悪戯を自慢するような表情で心底おかしくてたまらないという感じに笑い声をあげるディオドラ。

 その歪んだ笑いはあまりに見るに堪えない。

 

「そ、んな……」

 

「アーシアッ!?」

 

 膝を折ってその場に尻をつこうとしたアーシアをゼノヴィアが支える。

 

「ディオドラ、貴方……!?」

 

「ダメだよ、リアス・グレモリー。真実はしっかりと教えてあげなくちゃ」

 

 もはやディオドラの存在すら我慢できずにこの場にいるオカルト研究部の全員が殺意を向ける中、一誠がアーシアの肩に手を乗せた。

 

「イッセーさん……」

 

「アーシア。俺には今、アーシアにどんな言葉をかけていいのかわからない。でも、俺が今できることはわかる。ドライグ!!」

 

 一誠の掛け声に神器が応え、ここに到着する前にカウントを済ませた禁手が発動する。

 

「あいつは、俺がブッ飛ばす!それで、地べたに頭擦りつけてアーシアに謝らせる!!」

 

 赤い鎧を纏った一誠が攻撃的なオーラを発する。

 

「ブッ飛ばす!君が僕を?いくら神滅具を所持してるとはいえ、下級悪魔如きが―――――」

 

「うるせぇよ!」

 

 ディオドラの声を一誠は遮る。

 

「お前のその声を、これ以上、アーシアに聞こえさせんじゃねぇ!!」

 

 背中の魔力の噴射口から爆発的な加速を生み出し、一誠は突進する。

 その直線速度だけなら祐斗も上回っているかもしれない。

 

「ふ!僕はオーフィスから蛇を与えられてさらに力が増しているんだ!君如き瞬殺――――っ!?」

 

 その言葉を最後まで言うことは許されなかった。

 急加速で接近した一誠がディオドラの腹に拳を叩き込んだからだ。

 

「俺如きがなんだよ……!」

 

 そのまま反対の拳でディオドラの顔を殴り飛ばす。

 殴られた顔を押さえるとさっきまでの余裕の表情は消え去り、魔法陣がディオドラの周りに構築されていく。

 

「ぼ、僕は!現ベルゼブブを輩出したアスタロト家の次期当主だぞ!!それが君のような下劣な下級悪魔にっ!!」

 

 放たれた魔力の弾による豪雨。

 それを一誠は気にも留めずに接近する。

 理解している。この程度の攻撃なら躱す必要すらないことを。

 

『シトリーの時より鎧の力が安定しているな。それに今回は下手に加減する必要もない。思いっきりやれ、相棒!!そしてあの小僧に誰を敵に回したか思い知らせてやれ!』

 

「あぁ、わかってるさ、ドライグ……最初っから手加減する気なんかねぇからな!!」

 

 一気に詰め寄った一誠は鎧を纏った拳をディオドラの顔に叩き込む。

 歯が数本折れ、飛び散る。

 腹や体を殴りつける度に相手の骨が折れる感触がしたが、一誠にはそれを気にするだけの自制心が無かった。

 とにかく目の前のこいつを2度とアーシアに近づけさせない。その想いだけで拳を、蹴りを繰り出す。

 上半身の骨を粗方折り、砕いても息があるのは悪魔ゆえの生命力の高さからか。

 

 ディオドラは土下座しているような格好でどうしてだの。オーフィスの蛇などと断片的に聞こえてくる。

 哀れな姿だが全く同情しようとは思わない。

 このまま跡形もなく消し去りたい気持ちもあるが、こんな奴の死でもアーシアには見せたくないという思いが自制に繋がった。

 

「……部長、こいつはどうします?」

 

「とりあえず、神殿の外へと運び出しましょう。彼の眷属同様、裁判で今後が決まるはずよ」

 

 一誠ははい、と返事をしてアーシアに近づく。

 未だになんと声をかければいいのかわからない。

 その院長という人がアーシアにとってどれだけ大切な人だったのかなど、一誠は知らない。

 それでも声をかけて元気づけなければならないのにどう言えば良いのかわからないのだ。

 こんな時に気の利いたことも言えない自分に一誠は歯噛みした。

 

「やれやれ。やはり現魔王の血族などに期待したのが間違いだったか。もう少し粘ってくれると踏んだが所詮は―――――」

 

「誰っ!?」

 

 聞こえた失笑と共に現れたのは軽鎧を身に着けた茶色の長髪を持つ男だった。

 

「初めまして。偽りのルシファー血族、リアス・グレモリーよ。私は真なるベルゼブブの名を継ぐもの。シャルバ・ベルゼブブだ。以後があるならお見知りおきを」

 

 伏しているディオドラ横に現れた彼は明らかに見下している態度を見せる。

 そんな彼にイの1番に反応したのは地べたを這いずっているディオドラだった。

 

「シャルハァ!ひゃふへておくれっ!ぼきゅはちがちからをあわせれば―――――!!」

 

「事情はどうあれ、これは貴様が始めた戦いだろう。その決着は自分自身で着けるといい。子供の喧嘩にわざわざ大人が出るものではない」

 

「ひょ、ひょんな……」

 

「……言ってくれるわね。それに今の言葉はディオドラを見捨てるということかしら?」

 

「別段初めから仲間のつもりなど無いがね。私はただ、実験動物の経過を見に来ただけなのでな」

 

「実験、動物……?」

 

「ディオドラ・アスタロトに渡した蛇は少々特殊な蛇でね。一定の条件下の中でとある術式を鍵に通常の蛇とは比べ物にならない程の力をもたらす」

 

 その話を聞いて驚いたのはディオドラだった。

 

「そんな、はなしは、きいてない!?ぼくをだましたのか!!」

 

「人聞きの悪い。その条件とは一定以上の肉体の損傷。そら、丁度良い。今から鍵の術式を発動してやろう」

 

 シャルバの手の平に球体の魔法陣が現れる。

 それは、ディオドラの背中から体の中へ吸い込まれていった。

 

 そして――――――。

 

 

「ひ、ひぎゃぁああああああああああっ!!!?」

 

 突然の絶叫。彼は地べたをジタバタとさせて尋常ではない様子で苦しみ始めた。

 

 

「何をしたのっ!?」

 

「特別な蛇だと言ったろう?この蛇は一度発動するとダメージを吸収し、自らの力に変える性質がある。もっともまだ試作段階で上級悪魔以上の力の持ち主でないと術式を発動させた瞬間に肉体が崩壊してしまうのが難点であり、余程確固たる自我を持たなければ蛇に意識が飲まれて精神に異常をきたす。まだまだ改良の余地がある代物だがね」

 

 骨を砕かれた筈のディオドラは絶叫を上げながらも徐々に立ち上がる。そしてその肉体も変化していった。

 

 一誠とさほど変わらなかった身長は2m以上に伸び、一樹が優男と言っていた線の細い肉体は別人のように筋肉が膨れ上がっている。

 

「なんだ、あれは……」

 

 ゼノヴィアの呟きに答えられる者はいない。

 その異質な変化に誰もが言葉を失っていたからだ。

 

 シャルバはディオドラから距離を取り、リアスたちを見る。

 

「データの採取に貢献してくれたまえよ、ディオドラ・アスタロト。そしてリアス・グレモリー。今度は先程までのようにはいかんぞ?」

 

「オォオオオオオオオオッ!!!!」

 

 口元を吊り上げて宣言するシャルバに異形と化したディオドラの咆哮が鳴り響いた。

 

 

 

 

 




次話で狂戦士となったディオドラ君無双が始まるよ。

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