太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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48話:保険

「アーシアの件もあるし、手っ取り早く叩きのめしてついでに事故を装って殺ってしまえ」

 

「おう!!言われるまでも……ってサラッと殺人を唆すんじゃねぇよ!?」

 

「頼んだぞ」

 

 肩をポンと叩いて次は祐斗に話しかける。

 その間、白音はリアスとアーシアの2人と話していた。

 

「一応、渡しておいたアレはゲーム中も持っておいてくださいね。ゲームが始まってから行動を起こす可能性もありますから」

 

「ありがとう。黒歌にもお礼を言っておいて。なにもなければそれが一番なのだけれど……」

 

「ありがとうございます。白音ちゃん!」

 

 手を握られて白音は少しだけ頬を赤くした。

 

「それじゃあゼノヴィアはもしイッセーくんが自立したらアーシアさんと一緒についていくつもりなの?」

 

「うん。まだ本決まりじゃないけど、その可能性はあるかな。イッセーには前向きに考えてもらうように頼んでみた」

 

「はぁ……悪魔に転生したときといい、ホンっと突飛な行動を取るのね、ゼノヴィアは」

 

 ゼノヴィアに呆れたような声を出すイリナ。

 

「ふ、ふん!今に見てろよ日ノ宮!これから俺はヒーローとして人気を駆け上がるんだからなぁ!」

 

「…………やべぇな。とうとう変な薬にでも手ぇ出したんじゃないか?あいつ」

 

「心底憐れむような眼で人を見るんじゃねぇ!!木場もまさか!みたいな顔すんな!!」

 

 それからいつも通り、一樹と一誠の言い合いとなり、リアスが2人頭をハリセンで叩いて止める。

 いつもの部室での光景。

 これからも続いて行くであろう、当たり前の日常だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーゼクスが用意していくれた特等席に腰を下ろした一樹と白音は腰を下ろした。イリナも近くに座っている。

 

「激励は済んだ?」

 

「あぁ。と言っても、特に緊張してる風でもなかったから激励なんて必要なかったかもな」

 

「そんなことないと思うな。やっぱりこういう場に出る前にあぁいう会話ができるのは意味あることだと思うわ」

 

 一樹の言葉にイリナが即座に反論する。

 それに対して一樹はそんなもんかねと賛同も反論もしなかった。

 

「私、一誠の実力よく知らないからなんとも言えないんだけど、一緒に山籠りしてた一樹からして今回はどう思う?」

 

「どう思うってもな。今回は特に部長たちに不利な条件もないし、余程のトラブルに見舞われない限り負けないんじゃないかな。あの優男のパワーアップが有っても兵藤がなんとかするだろうし」

 

「あら。仲が悪そうに見えて随分と買ってるのね」

 

「アイツの力は認めてるよ。人格面では絶対に合わないけどな」

 

 つまらなそうに答える一樹に黒歌は苦笑する。

 なんだかんだでこれも一種の仲の良い関係と言えるかもしれないと考えて。

 そしてモニターに目を向ける。

 この後の展開に溜め息を吐いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームの試合会場に転移したリアスたちグレモリー眷属は(フィールド)の異常に即座に気付いた。

 今回の戦場は石製の柱がいくつも並んでおり、少し離れた位置に巨大な神殿が建てられている。

 キョロキョロと見渡すが敵の気配はない。それはいいのだがあまりにも静か過ぎた。

 

「おかしいわね」

 

 試合が始まったというのにアナウンスすら流れない。

 警戒を強めていると、急にリアスたちを中心に数えるのも馬鹿馬鹿しい数の魔法陣が現れる。

 

「な、なんだぁっ!?」

 

「これは……っ!?」

 

「魔法陣の紋様は全てバラバラ。でもこの共通点は―――――」

 

 首と眼球を動かして即座に記憶から周りの魔法陣の家と共通点を割り出すリアス。

 

「全て禍の団の旧魔王派に傾向した者たちだわっ!」

 

 リアスが叫ぶと同時に魔法陣から数百、もしくは千に届きそうなほどの悪魔たちが姿を現す。彼らは偽りの魔王の血縁者であるリアスを誅すると息巻いていた。

 彼らから感じる魔力の大きさは中級、そして上級に届く者で占められている。

 それと同時にリアスたちの周りに強烈な風が発生する。

 

「キャッ!?」

 

 アーシアの悲鳴がグレモリー眷属全員の耳に届くと同時に気がつくと彼女はいつの間にか現れたディオドラの腕の中に居た。

 

「イッセーさん!?」

 

「アーシア!?クソッ!テメェ、アーシアを放しやがれ!!」

 

 叫び、身を乗り出そうとする一誠をリアスが手で制する。

 

「部長どうして!?」

 

 リアスは一誠の叫びに答えず確認するように言葉を紡ぐ。

 

「ディオドラ、どういうつもりかしら?いえ、確認するまでもないわね。貴方、禍の団と通じていたのね。そして彼らをゲームの場に招き入れて魔王(ルシファー)の血縁である私を捕えて交渉材料にするか、殺して見せしめにするように話を持ちかけたと言ったところ?」

 

「へぇ。思ったより頭が回るじゃないか。そうさ。わざわざゲームなんてする必要はないからね。これだけの数の上級、中級悪魔相手に立ち回ったところで勝ち目なんてないだろ。どうだい?ここで白旗を上げるなら、それなりの待遇は掛け合ってあげるよ。君に限らず、君の眷属もそれなりに使いようはありそうだからね」

 

「冗談。それより早くその汚い手をアーシアから放してくれないかしら?私の可愛いアーシアが貴方に触れられていると思うと滅し飛ばしてやりたくなるのだけれど」

 

「おぉ!怖い怖い。だけどもう彼女は僕のモノさ。元々彼女は僕のモノになるはずだったのだから。返してもらうのは当然のことだろう?」

 

「何ふざけたことを言ってやがる!ブッ飛ばすぞテメェ!!」

 

 吠える一誠に目を向けず、リアスはふぅと息を吐いた。

 

「ディオドラ。貴方がアーシアを手に入れるために何らかの手を打ってくることはわかっていたわ」

 

「負け惜しみかい、リアス。現にアーシアは僕の手の中じゃないか」

 

「えぇ、そうね。だからこういう手をこちらも用意させてもらったわ!アーシア!」

 

「はいっ!」

 

 リアスの合図にアーシアは懐から1枚の札を取り出すと、彼女はボンッと文字通り煙のように消えてしまった。

 

「な、なにをした!?アーシアは!?」

 

「私の協力者の下へ転移させる特製の札よ!もしかしたら貴方がゲーム前にアーシアを拉致する可能性に備えて渡しておいたの。まさかゲーム中に仕掛けてくるとは思わなかったけどね」

 

 これが、リアスがアーシアを守るために備えていた切り札。

 もし彼女が危険に見舞われた時、黒歌の下へと転移させる札を先日買い取っていた。その礼として高級酒やら菓子やらを要求されたが安いものだ。

 

「き、汚いぞリアス・グレモリー!?」

 

「どの口でそんなことが言えるのかしら?覚悟しなさいディオドラ。ゲームを汚し、テロリストと手を組み、あまつさえアーシアを力づくで手に入れようとした罪、万死に値するわ!でも貴方にはこれから聞かなければいけないことがたくさんある。だから―――――」

 

 自身の周りに黒い魔力を発生させながらディオドラ・アスタロトを睨んだ。

 

「事情聴取させるだけなら、その手足、滅し飛ばされても不都合ないわよね?」

 

 手の中にある滅びの魔力。それに一瞬、ディオドラがたじろいだがすぐにフンと鼻を鳴らす。

 

「どちらにせよ君たちはここで終わりさ!万が一でも突破し、神殿の奥まで来れたら僕直々に相手をしてあげよう!それからゆっくりとアーシアを手に入れればいい。君たちの骸を晒して絶望した彼女の顔を見るのも楽しみだからね」

 

 それだけ言うとディオドラは転移でこの場から消え去ってしまう。

 去って行ったディオドラにリアスはチッ!と舌打ちする。

 

「部長!アーシアは……!」

 

「聞いての通り、黒歌の所へ転移されている筈よ。言ったでしょう?私はあの子を妹のように想ってるって。もっとも、今は私たちの方が危険なのだけれどね」

 

 自嘲気味に笑いながら視界を覆う悪魔たちに視線を向ける。

 そんな中で一誠は震えていた。

 目の前の敵にではない。

 もしアーシアが連れ去られてもしそのまま取り逃がしたときのことを考えて震えが来たのだ。

 守ると誓った。守ると言った。

 そんなアーシアはあっさりとディオドラの手に落ち、奪還の手が無ければどうなっていたか。

 ずっと戦って勝てばいいのだと思っていた。しかし最悪の状況は常に想定しなければ大事なモノは零れ落ちていく。

 ただ、目の前に場当たり的なことしか思考できなかった自分を一誠は恥じた。

 

「来るわよっ!!」

 

 しかし、今はそんな後悔に身を浸していることすら惜しい。

 向かってくる悪魔の群れに一誠は神器を発動させて迎撃態勢に入る。

 同様に祐斗は聖魔剣を。ゼノヴィアはデュランダルを。

 朱乃は雷の魔力を手に。ギャスパーも体を震わしながらも魔眼を使う準備に入っていた。

 

 そして無数の悪魔がリアスたちに襲いかかろうとしたとき。

 

「キャッ!?」

 

 と朱乃の悲鳴が上がる。

 何事かと皆が振り向くと、そこには長い白髭を生やした老人が朱乃のスカートを捲り、尻を擦っていた。

 

「おぉ!やはり若いモンの肌の張りは堪らんわい!」

 

 ご満悦なご老体に対して一誠が怒鳴ろうとするがその前にリアスが声を上げた。

 

「あ、貴女たち!?オーディンさま!これはどういうことですか!?」

 

 老人―――――北欧の主神であるオーディーンの後ろには今しがた脱出させたアーシアとイリナ、白音。そして一樹が居た。

 

「ごめんなさい、部長さん!でもどうしてもジッとしていられなくて……」

 

「俺らは付き添いです。この状況なら、人手は多い方がいいでしょう?」

 

「そういうことじゃない!!」

 

 せっかくディオドラから逃がしたアーシアをこの場に連れてくるなど何を考えているのか。

 憤慨しているリアスにオーディーンがホッホッホと髭を撫でて笑い声を出す。

 

「そう頭ごなしに叱るでない。この娘はあの小僧との決着を見届ける権利があろう?だからこそこの場にワシが連れてきた」

 

 笑いながら嗜めるオーディーンにリアスはうっと口を紡ぐ。

 

「今このゲーム用に作られた空間は強力な結界によって封鎖されておる。生半可な力の持ち主では中に入ることは不可能じゃて。しかるが故にこの場にはこれ以上の増援はないと思ってよいじゃろう。敵味方、両方のう」

 

「なら、爺さんはどうやって入って来たんだよ?」

 

 一誠がオーディーンに問うと彼は自身の左目に埋め込まれた水晶を見せる。

 

「ミーミルの泉に左眼を差し出した時にワシはこの手の魔術や術式に詳しくなってのう。結界に関しても同様じゃて」

 

 その左目の水晶を見た時、一誠は神器を通して緊張が伝わったが何も言わなかった。否、言えなかった。その水晶の眼が明らかにヤバい代物だと察して。

 

「ま、お前さんらをあの神殿まで護衛するのが儂の仕事じゃ。それまで存分にこの爺に頼るがよいぞ」

 

「な!?これだけの数だぞ!大丈夫なのかよ、爺さん!?」

 

 一誠の叫びを合図にしたのか。囲んでいた悪魔たちはオーディーンの姿に歓喜し、名を上げるために襲いかかってくる。

 しかし本人は余裕の笑みを崩さない。

 

「――――グングニル」

 

 いつの間にかオーディーンの持っていた杖が一振りの槍へと変わり、一閃すると近づいて来た筈の悪魔たちが文字通り跡形もなく消し飛ぶ。

 

「ホッホッホ。せっかちじゃのう。じゃが来るなら決死の覚悟で挑むのじゃぞ?この老いぼれはお主らの想像より遥かに強いでな」

 

 グングニルの柄で肩を叩きながら笑う北欧の主神そしてリアスたちにポイっとある物を投げる。

 それは通信機だった。

 

「アザゼルの小僧から預かってきた。とりあえずは神殿の入り口まで走れ。それから通信を繋げればよかろうて」

 

 グングニルをもう一振り。それだけで数え切れぬほどいた悪魔たちの数が大きく減少させていく。

 

「みんな、走るわよ!」

 

 リアスの指示に全員が神殿の入り口まで疾走を始めた。

 その間、近づいてくる敵をオーディーンが払い除けていく。

 その圧倒的な力に唖然とする暇もなく、リアスたちは神殿の入り口まで辿り着き、渡された通信機を繋げる。

 すると即座にアザゼルが応答した。

 

『お、どうやら無事オーディーンの爺さんと合流できたみてぇだな……』

 

 いつも通り軽い口調の筈なのに心なしかその声には安堵がこもっているような気がした。しかしそれを確認するよりリアスにはアザゼルに問い質さなければいけないことがある。正確には彼の近くに居るであろう黒歌に、だが。

 

『アザゼル先生。どうしてアーシアをこちらへ来ることを許可したの?彼女の安全を考えるならスタッフに保護させておく方が最善だった筈』

 

 だが、最終的に許可を出したのはおどらくアザゼルだろうと踏んでリアスは彼に通信機越しに詰め寄る。もし生半可な答えを言うなら許さないと声の質でチラつかせる。

 

『……ディオドラ・アスタロトの件は結果はどうあれアーシアには見届ける義務があると考えたからだ。それにもしもの場合、回復役はいた方がいい。今回のゲームでフェニックスの涙は支給されてないからな』

 

「でも!?」

 

 アザゼルの言うことも一理あるかもしれない。だがディオドラはアーシアを狙っているのだ。もし彼女に何かあればどうするつもりなのか。

 反論しようとするリアスにアザゼルが聞け!と遮る。

 

『アーシアが教会の聖女として扱われていた頃、怪我をしたディオドラを治療し、それがバレたことで教会を追放されることになった』

 

 それが何だというのか。そんなことは今更説明されることではない。

 

『だが、当時の教会の判断ではアーシアを教会から追放する筈じゃなかった』

 

「え?」

 

 アザゼルからもたらされた情報にオカ研一同は驚きの表情をする。

 

『本来は、神器の力を封じてアーシアが元から居た孤児院に送られるはずだった。だが、直前になってその孤児院の責任者がアーシアの受け入れを拒否したんだ。魔女認定された者など今更受け入れられないってな』

 

「……それは、何かおかしいことなの?」

 

 アザゼルの話を聞きながらリアスは嫌な予感が過ぎる。醜悪な何かを聞かされるような予感。

 

『その孤児院は確かに十字教の傘下にある施設だが一般的な、オカルト(こっち)世界とはほとんど関係のない施設だったんだ。そしてその責任者の女性は施設の子供たちを分け隔てなく愛情を与える出来た人だったらしい。そうだな、アーシア?』

 

「は、はい!私のことも実の娘のように可愛がってくれました!」

 

 だからこそアーシアは母のように慕っていた女性に拒絶されたことで失意を深める結果になったのだ。

 

『最近の調査で判ったしたことだが、その女性は、強い暗示にかかっていたことが判明した』

 

「暗示って、どういうことですか?」

 

『簡単に言えば、アーシアを拒絶するための発言をさせる暗示さ。それによってその女性はアーシアを心の底から軽蔑するように心をいじられていたようだぜ。これはミカエルたちセラフの調査によるものだ』

 

「なんですってっ!?」

 

「誰がそんなことを!?」

 

『決まってんだろ。ディオドラだよ。奴は自分の家のお抱え術師を派遣してその施設の女性だけじゃなく、アーシアの裁判に出席した人間も暗示にかけてアーシアを追放するように仕組んだのさ。そして精神的に追い詰められたアーシアを自分の手元へと置くつもりだったんだろうが、そこで奴の予想だにしなかったことが起きた』

 

「予想のしなかったこと?」

 

 怒りで通信機を握る手が強くなるのを自覚しながらアザゼルの次の言葉を待つ。

 

『レイナーレだ。俺の指示でアーシアを保護したレイナーレがお前の管理する駒王町に潜伏したのが原因で迂闊に手出しできなくなっちまった。後はお前さんらが知っての通りだ』

 

 アザゼルの話を聞き終わり、アーシアが力が抜けたように尻もちを着く。

 

「アーシア!?」

 

 震えている彼女をゼノヴィアが肩に触れて安心させようとした。

 無理もない。自分が救った筈の者がそんなことをしていたなどと誰が予想できるか。

 リアスもアーシアを慰めたかったが話を進めることにした。

 

「それで、アザゼルやお兄様たちはもしかしてディオドラが禍の団と繋がっていたことを知っていたの?そうでなければここまで即座に対応できたことが説明できないわ」

 

『……すまん』

 

 その答えが質問の是としていることの証明だった。

 

『今回のゲームに乗じて禍の団が仕掛けてくることは予想されていた。だから奴らを疎ましく思っている他の神話勢力に話をつけて返り討ちにする算段だ。今現在どこもかしくも旧魔王派の勢力に囲まれている。そういう意味でもお前たちと行動させる方がアーシアにとってもまだ安全だと判断した。幸い、オーディーンの爺さんが手を貸してくれたしな』

 

 話を聞きながらそう簡単なことではなかっただろうとリアスは思考する。

 相手が旧魔王派ということは禍の団というテロリスト一味とはいえ、冥界側の不祥事に他の神話勢力を巻き込んだ形になるのだ。

 見返りとしてそれ相応の物が要求されたに違いない。

 それを言葉にしないのは若いリアスたちが知る必要が無いというアザゼルなりの気遣いだろうと予想する。そしてそれをわざわざ確認するほどリアスは無粋ではなかった。

 

「そう。つまり今回のゲームはご破算という訳ね」

 

『戦争なんてそう簡単に起きないと言っておいてすまん。奴らが仕掛けるギリギリまでゲームを進め、奴らを燻り出したかった。その結果お前たちをもっとも危険な場所に置く案は俺が出してサーゼクスたちを説得した。文句はあとで聞く。何なら好きなだけぶん殴ってくれてもいい』

 

「いいえ。今回が冥界側の不祥事である以上、悪魔(こちら)側がもっとも危険な位置に立つのは当然だわ。出来れば、前もって教えておいてほしかったけれど……」

 

 苦笑するリアスにアザゼルは通信機越しから呻くような声が聞こえた。

 

『とにかく、これ以上、お前たちが危険な場所にいる必要はない。運の悪いことにフィールドの外に出ることは不可能に近いが神殿の地下には強固な避難所になっている。かなり頑丈に造られているから戦闘が終了するまでそこに隠れていてくれ。この結界、【絶霧(ディオメンション・ロスト)】は結界系神滅具の中でも抜きん出ていてオーディーンの爺でも破壊できない代物だ』

 

 アザゼルの指示を聞いたリアスは少し考える風に顔を上にあげてある提案をした。

 

「私たちはこのまま、ディオドラ・アスタロトの捕縛を行おうと思うのだけれど、どうかしら?」

 

 リアスの提案にアザゼルは通信機越しでもわかるほど呻く声が聞こえる。きっと向こうでは苦虫を潰したような表情をしているだろうことは想像に難くない。

 

『……やつは俺たちが捕縛する。アーシアも奴の手から奪還した以上、お前らが進んで危険を冒す必要はないだろう。危険な役を押し付けた俺が言えたことじゃないが、これ以上リスクを冒す必要はない』

 

「アザゼル先生。私たちは三勢力に害する行動を取る者に実力行使する権限が与えられていますよね。今回はその権限の範疇かと思いますが」

 

「個人的な理由で悪いのだけれど、ゲームを駄目にされた上のだから、せめてディオドラとの決着を着けないと気が済まない。アーシアの人生を弄んだことも含めて、ね。きっちりと報いを与えてやりたいのよ!毒を喰らわば皿まで、という言葉もあるわ。巻き込んだと思うのなら、これくらいのワガママは許してくれないかしら?それに聞くところによると増援が到着するのにも時間がかかるのでしょう?急がなければディオドラが逃げる可能性もある。もっとも燻り出しに成功した時点で彼には大した価値はないのでしょうけど」

 

 朱乃とリアスの言葉にアザゼルはチッと舌打ちする。

 

『とんだお転婆姫だよ、お前は!どっちみち俺からお前らを止めるのは不可能だ。好きにしろ。だがやるからには必ず勝て!そして全員生きて帰ってこい!俺から出す命令はそれだけだ!』

 

「えぇ、もちろんよ!私と眷属――――いいえ、我が部に喧嘩を売ることがどういうことか魂の芯まで刻みつけてくるわ!もちろん全員無事に生還する!」

 

『それさえ聞けりゃ、問題ねぇ!今回は幸い前回のような制約もねぇ!思う存分に暴れてこい!』

 

 それを最後に通信機の通話が切れた。

 

「聞こえたわね、みんな!!ディオドラが禍の団と繋がっている以上、何らかの隠し玉を用意している可能性が高いわ!でもそんなのは関係ない!それを含めて叩き潰してやりましょう!!」

 

『はいっ!!』

 

 部員全員の声にリアスは笑顔になり、神殿へと突入しようとする。

 その僅かな間に一樹が後ろへと振り返る。

 

「チッ……部長、先に行っててください」

 

「一樹?」

 

 どうしたの?と訊く前に高速で巨大な布が降ってきた。

 一樹は間髪入れずにその布を蹴り飛ばす。

 

「カッカッカッ!俺っちの気配を即座に察したか。嬉しいねぃ」

 

「猿臭ぇんだよ、ったく。会談の時といい祭りには積極的に参戦しないと気が済まねぇ質なのかテメェは?」

 

 布を自分から捨てるとそこには孫悟空の末裔、美猴が姿を現した。

 

「さもありなんって奴よ。どうせタダなんだから楽しいことには積極的に関わらねぇとな!」

 

 向かってくる美猴に一樹が応戦する。

 

「部長!こいつは俺が!白音もアーシアを守ってやれな!」

 

「いっくん、でもっ!?」

 

 美猴の腹に蹴りを入れて後退させると白音の頭に手を置く。

 

「安心しろ。これでも俺、ちったぁ強くなったつもりなんだぞ。あの猿はすぐに沈めて追い付くさ。それに中にどんな罠が仕掛けられているのかわかんねぇんだ。索敵能力の高いお前は中に入った方がいいだろうよ」

 

 確かに一樹は強くなったがあの美猴をひとりで相手に出来るかと訊かれれば否だろう。

 だが中に罠があるのなら索敵能力の高い白音は確かに中で行動すべきだ。

 しかし白音に取ってオカルト研究部と一樹個人、どちらが大事かと問われれば。

 

「やっぱり私も――――っ!?」

 

 そう言ってその場に残ろうとした白音だが、一樹が彼女を持ち上げる。

 

「いいから行けっ!」

 

 容赦なく神殿の中に投げ飛ばした。

 幸い、どこかにぶつかることもなく鮮やかに着地した白音だが一樹に恨めし気な視線を送る。

 

「こっちは心配すんな!さっさとあの優男を締め上げてこい!」

 

 シッシッと先を促す一樹。

 それを見たリアスが白音の手を引いて部員たちにも来るように指示を出す。

 

「部長!放してください!」

 

「ごめんなさい!彼に何かあったらいくらでも罵ってくれて構わないわ。だから今は彼を信じて私たちに力を貸してちょうだい!」

 

 そのまま神殿に突入するリアスたちを見届けて再び美猴と向き合う。

 

「よかったのかい?俺っちは別に、また2人がかりでも構わなかったんだぜぃ」

 

「かまわねぇよ。どうせ、勝つのは俺だからな」

 

 それが強がりなのか慢心なのか。それとも何らかの確信があるのか美猴には判断できなかった。だがどうせなら3番目なら面白そうだと思っただけ。

 

「ま、いいさ。だが、大口叩いたんなら簡単に敗けてくれるなよ?精々楽しませてみろい!」

 

「上等だ!簡単に勝てると思ってんならそれが思い上がりだって叩き込んでやるよ!爺さん!こっちの喧嘩に助太刀はいらねぇからな」

 

「ホッホッホ。若いのは元気があってええのう」

 

 こうして、2人の戦いの火蓋は再び切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 






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