太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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転生天使になったイリナのテンションに作者がついていけなくて色々弄ってみたらこうなった。



46話:転生天使の帰還とお邪魔虫の来訪

 襲い来る槍をとにかく捌き続ける。

 迫り来る槍の力も速さも相当なものだが突出しているのはその槍捌きだった。

 どのような体勢からでも繰り出される槍術は僅かに気を抜くだけでこちらに致命傷を与えてくる。

 防戦一方。

 攻撃に転じようとした瞬間この喉に矛をぶち込まれると理解していた。

 振り下ろされた槍を自らの槍で防ぎ、後方へと跳ぶ。

 これが悪手だと気付いていたが力比べなどしようものなら確実に負ける為だ。

 いつもなら自分が地面に足を着かせる前に攻撃を繰り出されるが、今回はそうはならなかった。

 

「?」

 

 目の前の黒い影は何かを思案しているように動きを止めており、意を決したようにあちらも距離を取り、槍から炎が噴き上がった。

 今までしてこなかった行動に驚きと警戒を強め、自分も槍に炎を纏わせる。

 来い!と覚悟を決める。どんな攻撃でも必ず防ぐなり避けるなりして見せるという覚悟を。

 黒い影が取った行動は投擲だった。

 投げられた炎を纏った槍。

 だからどうしたと槍を叩き落とそうと自らの槍を振るった。

 2つの矛が衝突する。その瞬間、太陽となった炎の槍に自らの体は跡形もなく焼かれ、蹂躙された。

 

 

 

 

 

 

 

 紫藤イリナが天使になって帰ってきた。

 精神面での話ではなく種族面での話で。

 

 部室で頭の上に光の輪が浮かんでおり、以前の人間としての気配ではなく天使のものに変わっている。

 

「しかし驚いたな。天使側に悪魔の駒が提供されていたことは知ってたが、もう転生天使の実用化にこぎつけるたぁ」

 

 イリナを見てアザゼルが感心したように呟く。

 技術者としてこういった話は大好きなのだろう。

 

「転生天使って、そんなのあるんですか?」

 

「一応、理論としてはある程度は出来上がっていたが、実用化に至るにはまだまだ問題があったらしい。それを天使側に提供された悪魔の駒を参考に完成させたって話だ」

 

 要するに悪魔の駒の天使バージョンというわけだ。

 聖書の神が倒れ、新しい天使が生まれるのを絶望視されていた天使だがようやく種としての拡大が始められるわけだ。

 なんでも悪魔がチェスなら天使はトランプに準えてAからクイーンまでを12人【御使い(ブレイブ・セイント)】を主なセラフメンバーは持つことになるらしい。

 

「へー。それじゃあイリナは誰の御使いでどのカードなんだ?」

 

「うん。私はミカエルさまの(エース)よ。話を聞かされた時は驚いたし結構迷ったけどね」

 

 苦笑いを浮かべて答えるイリナ。

 その答えに皆が驚いたように表情を変える。

 信仰心の厚いイリナのことだからすぐに飛びついたと思ったのだ。

 

「もちろん名誉なことだし、悪い話じゃないのもわかるんだけどね。一応私の前にも転生天使に成った人が居るしリスクに関しても信用はしてた。でもやっぱりいきなり人間辞めなきゃいけないのはね」

 

 やはりそこら辺は迷いどころだったのだろう。

 天使にしろ悪魔にしろ転生すれば永遠に近い長寿の寿命を得る。

 それは一見に素晴らしいことのように思えるが、それは人の世から取り残されるという意味だ。

 友達や家族が齢を重ねて土に還ってもずっと今のまま生き続けるということ。

 それを恐怖するのは人として当然だろう。

 

「ならどうしてその話を受けたんだ?」

 

 ゼノヴィアの質問にイリナは少し照れくさそうに笑って答えた。

 

「私がね、どうして教会のエクソシストに。そして聖剣使いになったかを思い返したのよ」

 

 それは上からの命令や主への信仰心もあっただろう。

 だが断ることはできた筈だ。実際イリナがエクソシストになると決めた時、エクソシストである彼女の父は猛反対した。

 それを押し切ってまで辛い訓練や危険を顧みずにエクソシストになった理由。

 

「私はね、力のない人たちを自分の手で守りたかったのよ。その仕事をしていたパパの背中を見ていたから余計にね」

 

 もちろん彼女なりの打算はあった。

 悪い悪魔をやっつけてみんなに、父に褒めてもらいたい、とか。自分の可能性を試したいだとか。そんな子供じみた考えではあったが。

 それでもはぐれ悪魔や魔獣、悪霊。その他諸々に力のない人々を自分の手で守れたなら。

 切っ掛けはきっとそんな小さな善意だったのだ。

 

「三勢力が手を取り合ったって言っても何がきっかけで決裂するかわからないし、それ以外にも脅威はたくさんあるわ。他の神話体系とだって争う事態が起こるかもしれない。今は禍の団の存在もあるし。戦いになった時に真っ先に被害にあうのは力のない無辜の人たちでしょ?だから私はその人たちが被害に遭わないように天使になって強くなろうってね。そ、それに幸い、寿命に関しても三勢力の和平が崩れない限り皆が居るしね!早々寂しくなんてならないでしょ!!」

 

 最後の方は恥ずかしいのか早口でまくし立てるイリナ。

 それに感動したのは元教会組の2人だった。

 

「イリナ……君はそこまで考えて……」

 

「わ、私も感動しました!素晴らしい考えだと思います!!」

 

 そうして祈りを捧げるアーシアとゼノヴィアはいつも通り頭痛が起こる。

 そこでリアスが前に出た。

 

「だからこそ、私たちも手を取り合っていかないといけないわね。改めてよろしく、イリナさん」

 

「はい!」

 

 リアスが差し出した手を握り返すイリナ。最初の出会いはアレだったが今では問題なく良好な関係を築けていることに周りは安堵した。

 

「立派なもんだ。個人の感情で人間でいることに拘ってる俺からしたら耳が痛いね」

 

「あら。なんだったら一樹くんも天使になる?教会としても歓迎するわよ」

 

「冗談。信仰心の欠片もない俺が教会に所属するかよ。それに俺が天使化しても、すぐに堕天するのがオチだろ。第一人間辞めるつもりはねぇ」

 

 イリナの勧誘を即座に切って棄てる一樹。イリナも本気で言っている訳ではなかったので残念、と笑顔で舌を出している。

 

「天使化ってことは堕天する可能性もあるわな。もしお前が堕ちたらうちで面倒見てやるよ」

 

「お生憎様!例え主がお亡くなりなっていても私の信仰心は微塵も揺らいでません!ですから、私が堕ちることもありません!」

 

「なにコイツ格好いい……」

 

 

 胸を張ったイリナの宣言にアザゼルは参ったと笑う。そして話題を切り替えた。

 

「ミカエルから聞いたが、お前さんが教会が保有してた聖剣(エクスカリバー)を全て渡されたってのはホントか?」

 

 アザゼルの発言にオカ研の全員が驚く。イリナはそれにえぇ、と肯定すると糸状にして持ち歩いていた聖剣を日本刀の状態へと変化させる。

 

「正確には教会が保有していた擬態(ミミック)破壊(デストラクション)天閃(ラピッドリィ)祝福(ブレッシング)夢幻(ナイトメア)透明(トランスペアレンシー)の6つを統合させたんです。現在行方の知れない支配(ルーラー)を除いて全てのエクスカリバーが統合されました」

 

 統合されたことでより濃密になった聖なる力に悪魔の全員が息を呑みながらリアスは口を開く。

 

「教会も大胆なことをするわね。長い間分割されていた聖剣を統合するだなんて……」

 

「これも木場くんが提供してくれた聖魔剣のおかげです。あの剣の解析が進んだおかげで近いうちに教会が開発した聖魔剣が聖剣の代わりに配備されることになりまして。しかも今までのように後天的な聖剣使いを生む必要のない武器として」

 

 以前、コカビエルによって奪取された聖剣たちその使い手も当然殺害され、新しい聖剣使いを見繕わなければならなくなった。

 しかし和平が成立した今、新たな聖剣使いを生み出すのは体面に悪く、また、適性の有る者を集めるにしても時間がかかる。

 そこで、譲渡された聖魔剣の存在は教会にとって渡り船だった。

 まだ配備には時間がかかるだろうが聖剣計画は本当に終わりを迎えたのだ。

 だが残された聖剣はどうするか考えたが、いっそのこと、統合して現役の聖剣使いであるイリナに渡してはどうかという話になった。

 イリナの信仰心や教会に対する忠誠は申し分ないし、人格面も若いながらに確りしている。それに最近駒王町近辺で事件が集中していることもあり、若手の交流として駒王に滞在しているイリナ自身の護身用としての意味合いもある。

 問題は6つのエクスカリバーを使える程の適性がイリナにあるのかどうかだが、これは長いこと擬態の聖剣を使用していたからか、それとも天使化の影響か、6つの聖剣を扱えるだけの因子に成長していた。

 そんなわけで、6つの聖剣は今、イリナの手の中にあるのである。

 

 話を聞いていた祐斗の肩に一樹が手を置く。

 

「良かったじゃねぇか。お前がやったことが本当に聖剣計画を潰したんだ。ちったぁ胸張れよ」

 

「うん。ありがとう」

 

 これでようやくかつての同志を本当の意味で弔えたのだと祐斗の中で残っていた泥が洗い流されていくのを感じた。

 

 それからイリナの話によるとミカエルは三勢力の交流の一環として天使のレーティングゲーム参戦も視野に入れているのだとか。

 

 そこら辺の話は長くなりそうなので今日のメインであった若手悪魔のレーティングゲームの記録映像の鑑賞へと入った。

 

 最初に見たのはバアル家とグラシャラボラス家の対戦。

 その内容は言ってみれば圧倒的なワンサイドゲーム。

 本当に同じ若手悪魔なのかと疑いたくなるほどに眷属とチームとしての質が段違いだった。

 何よりも(キング)の器が違う。

 全ての駒を倒し、もはや勝敗は誰の目から見ても明らかな状況でありながらバアル家のサイラオーグは自ら敵の前に立ち、グラシャラボラス家の次期当主を下した。眷属に任せても勝ちを拾えた筈のゲームで。

 自分の力に確かな自信を持っているからこそ出来る行動に全員が言葉を失う。

 

 グラシャラボラス家の次期当主も決して弱くない。だがサイラオーグ・バアルは彼の攻撃を全てその肉体のみで受け止めながら平然と前へと進み、体術のみで防御の術式を破り、屠った。

 肉弾戦においてならグレモリー眷属を凌駕している。

 

「あの時の勘は間違ってなかったな。やっぱり強ぇわこの人。絶対戦いたくない」

 

「一樹くんはサイラオーグ・バアルと会ったことがあるのかい?」

 

「冥界のパーティでしつこい勧誘を追い払ってくれた。その際に俺とも機会があれば戦って見たいとか言われたよ。ライザー戦の映像を観たとかでさ」

 

 画像の中のサイラオーグを指さして一樹が答える。

 

「そう。それにしても、肉弾戦一択とはいえここまで突出していると逆に攻略法に困るわ」

 

「え?肉弾戦一択?だってこの人、部長のお母さんと同じバアル家の出だから滅びの魔力が使えるんじゃ……」

 

「いいえ。サイラオーグには滅びの魔力はおろか、通常の魔力すら持ち合わせていないわ。私がサイラオーグと初めて会ったとき、彼は本当にノースキルだった。だからこそ自分が唯一出来る体術を徹底的に鍛え続けたのよ。そしてその牙が前の次期当主を倒し、力づくで当主の座を勝ち取った。死に物狂いなんて言葉では足りない程の鍛錬を自らに課してね」

 

 リアスの説明を聞き、一誠は何とも言えない気分になった。

 彼は上級悪魔は全て才能の有る者たちばかりだと思っていたからだ。

 本来受け継がれるはずだった能力すら受け継がれずに、それでも不貞腐れることもなく上へと昇り続ける凡夫。

 その過程は一体どのようなものだったのか。

 

 そこでリアスは手に持っていた各勢力に配られた若手悪魔の評価表である。

 王と眷属たちの評価の総合値で出した悪魔側の評価だ。

 順位としては1位がバアル。2位がアガレス。3位がシトリー。4位がアスタロト。そしてグレモリー、グラシャラボラスと続く。

 初戦を終える前はリアスとソーナの位置が入れ替わっていたが、前の敗北でリアスたちは下から2番目になってしまった。

 王としての評価を見るとサイオラーグは体術関係と王としてのグラフが抜きん出ているが、魔力とサポート関係は最低値と極端な評。

 ソーナは逆に魔力とサポートにグラフが伸びており、リアスは魔力が一番伸びている万能型。

 

「もしかしたらこの人、ライザーより強いんじゃないですか?」

 

「そうね。両者は戦ったことがないから断言できないのだけれど。私の目から見てサイラオーグの方が上だと思うわ。彼なら、不死の特性を上から叩き潰せたとしても私は驚かない」

 

 リアスの言葉を聞いた一誠は固唾を飲んだ。

 

 以前のライザーとのレーティングゲームでは一誠、一樹、リアス、アーシアの協力が合って初めて打倒できた強敵。

 あのときより自分たちが強くなっているとはいえ、当時、それほど圧倒的な力を有していたライザーより強いと言わしめるサイラオーグ。

 もし戦えば自分はどこまで戦えるのか。神滅具の宿った左手を見ながら一誠は自問する。もちろん答えなど出ないのだが。

 

「サイラオーグ……こいつは悪魔として名家に生まれながら泥臭い方法でしか自分の価値を周りに認めさせることのできなかった男だ。勝利と敗北。その両方の味を知っていながら腐ることをせずに上を見続ける王者。本当の強者の資質を備えた男だ。この世界に関わって1年にも満たない一樹とイッセーじゃ精神的な面で及ぶべくもない。それでもいずれは戦わなきゃならん。腹を括っておけよ」

 

 励ましているのか脅しているのかよくわからないアザゼルの忠告。そして続いて驚くべき情報を公開した。

 

「アスタロト家のゲームを終えたらお前らはサイラオーグとのゲームが待ってる。決意を固めるなら早い方がいい」

 

「……意外ね。てっきりグラシャラボラスと戦うのが先だと思っていたけど」

 

「あいつはもうダメだ。サイラオーグは相手の王を精神的に再起不能に追い込んじまった。もしゲームに出れたとしても試合にはならんだろうぜ」

 

 アザゼルの断言にグレモリー眷属たちが目を見開く。だが同時に納得もしていた。

 画面越しでさえ感じる圧倒的な威圧感。

 あれを直に受けた相手が再起不能になっても納得いく話だった。

 

 

 

 続いてアスタロト家とアガレス家の試合を鑑賞する。

 二家の戦いは拮抗状態。ややアガレス家のほうが優勢に感じるくらいだ。しかしそれもゲーム後半で王のディオドラが動いたことで状況が一変する。

 ディオドラが動くと眷属たちは彼のサポートをするくらいで、ほぼ単体でアガレス家の眷属たちと王を蹴散らしてゲームを終えてしまった。

 

「おかしいわね。確かにディオドラは優秀な悪魔だけれどここまでの力はなかった筈よ」

 

 リアスの言葉に全員が置かれている評価表を見る。

 このグラフを見る限りディオドラは器用貧乏と言った感じだ。

 各数値が均等に高い水準を誇るがどれも突出したものがなく、他家の者たちより一歩劣る感じの評価。少なくともアガレス家の者たちをここまで一方的に蹂躙できるスペックはない筈なのだ。

 

「力を隠していた?いやそれにしても事前データと違い過ぎるね。何か秘密がありそうだよ」

 

 顎に手を当てて考察する祐斗に皆が同意した。

 ディオドラの力は圧倒的にリアスやソーナを上回っていた。

 皆がその疑問に答えを出せずにいると部室内に転移の魔方陣が展開された。

 

「これは、アスタロト家の……!?」

 

 朱乃の呟きと同時に魔方陣からひとりの優男が現れる。それは―――――。

 

「こんにちわ。ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 ディオドラが今回こちらに訪れた理由。それはアーシアを自分の僧侶とトレードしたいという申し出だった。そしてアーシアを妻として迎え入れたいと。

 当然リアスはそれを拒否。

 その成り行きを他の部員たちは見守っている。

 何故か一樹は水の入ったやかんを手の平の上に乗せ、聖火で温めている。

 ちなみにギャスパーが僧侶のトレードを話に出された際に自分のことかと身を固くしていると部員の一部から白い目を向けられて冗談だったのに~と段ボールに引き籠ってしまった。

 

「ディオドラ。私はアーシアを手放す気はないわ。アーシアの能力(神器)やあなたの僧侶の能力云々じゃなくて、アーシア・アルジェントという個人と離れたくないの。まだ短い間だけれど一緒に暮らして妹のように想っているあの子を物のような扱いもしたくない。少なくともこんな形で彼女を手に入れようとする貴方にはアーシアは任せられないわ」

 

 はっきりとお断りを入れるリアス。

 笑顔の中に口調には多大な棘が混ざっていることから内心では相当腹を据えかねているのかもしれない。

 アーシアはリアスが妹のように想っているという言葉が嬉しかったのか口元を押さえて震えていた。

 彼女もどこかでリアスを姉のように思っていたのかもしれない。

 

「どうしても承諾してはいただけませんか?」

 

「どうしてもよ。一緒に暮らす中で情が育まれたからこそ離れたくないって理由じゃ納得できない?私は十分だと思うわ。それに結婚相手をトレードで手に入れようとするやり方も私は好まない。貴方、結婚の意味を理解している?」

 

 両者は笑顔のまま譲らずに主張を続けているが途端にディオドラが溜息を吐いた。

 一樹の手に乗せてあるやかんの水が沸騰している。

 

「わかりました。今回は引きます。ですが僕は彼女を諦めません」

 

 そうしてアーシアの元へと歩き、彼女に跪く。

 一樹の手に乗せてあるやかんの水は熱湯へと進化した。

 

「アーシア。僕たちの出会いは運命だ。たとえ世界全てが僕たちの仲を否定しても僕は必ず君を手に入れて見せるよ」

 

 そうしてアーシアの手に触れようとするディオドラ。それを一誠が掴んで止めに入ろうとしたがそれよりも早く動いた者が居た。

 

 ジョロ。

 

 突如アーシアとディオドラの横に立った一樹がディオドラの手にやかんの熱湯を注いだ。

 

「アツッッ!!?」

 

 突如一樹がやらかした奇行にその場にいる全員が唖然とした表情になる。

 ディオドラも驚いて尻もちをついてしまった。

 

「お、わりぃ。手が滑った」

 

 お決まりの言い訳を口にする一樹。

 なにげに熱湯というだけでなく、聖火で沸騰させたことで熱湯は聖水と同様の効果をあり、地味にダメージがデカい。

 

「なにをやっているのかと思えば……」

 

白音が呆れた様子で呟く。

 

「朱乃さ~ん!お湯溢しちゃったけど雑巾どこでしたっけ?」

 

 もはや興味ないと言わんばかりに雑巾を取り出して熱湯を溢した床を拭き始める。

 

「ちょっと待ってくれないか」

 

「あ?」

 

「いきなり人に湯を落としてその態度はどうなのかな?下等な人間は礼儀も弁えてないのかい?」

 

 青筋が浮かんで随分なことを言ってくるディオドラに一樹はめんどくさそうに立ち上がる。

 

「うるせぇな、謝っただろうが。それに礼儀云々を言うならアポもなしに現れて眷属を交換しろと提案するアンタに言われたくねぇよ。それにな。女を口説きに来るなら首のキスマークくらいは取ってから来いや」

 

 首筋を指でトントンと叩きながら鼻で笑う。慌てて首筋を押さえるディオドラ。

 見えたのは偶然だったが今の行動を見るに付いているのは偶然ではないらしい。

 

「てめぇっ!アーシアと結婚しようとか言っといて他の女と遊んでたのか!!」

 

「お前が言うな未来のハーレム王(笑)」

 

「なんだ(笑)って!?つーかお前どっちの味方だよ!!」

 

「兵藤とそこの優男以外の味方だよ」

 

 そう言うとディオドラに振り返り、苛つく半笑いを引っ提げて小指で耳をほじりながら続ける。

 

「ま、そういうことをするのがお前の家のマナーなのか?下等な人間の俺には理解できなっ!?どぁっ……!?」

 

 途中でアザゼルが一樹の頭に拳骨を落とした。

 

「~~~~~ッ!?」

 

 膝を折って頭を押さえる一樹。

 

悪魔(よそ)の問題に自分から首を突っ込むんじゃねぇ!なんでお前はそう、前触れもなく問題行動を取るんだ!あ~悪かったなアスタロト家の小僧。こいつには俺から言い聞かせておく」

 

「まったく。堕天使は自分の子飼いのペットもまともに躾けられないのですか?」

 

 吐き捨てるように言うディオドラに部室内の空気がピリピリとしたモノに変化した。

 ライザーの時のように。

 

「てめぇっ!」

 

「まぁ、丁度いい。次のゲームで僕は赤龍帝である君を倒す。そちらも僕に強い不満を抱いているようだからね。君を倒してアーシアの眼を覚まさせるさ」

 

 言いたい事だけ言ってディオドラ・アスタロトは部室から消え去って行った。

 

「勝った」

 

 ハッと笑う一樹にリアスが近づく。

 そして手の平で一樹の頭部を鷲掴みにする。所謂アイアンクローである。

 

「イタッ!?部長イテェってばっ!?てか、意外に力つよっ!?」

 

「あまりこういう心臓に悪いことをしないでもらえるかしら?アーシアの為というのは純粋に嬉しいのだけれど、下手すると貴方の立場も悪くなっていたかもしれないのよ?少し反省しなさい!」

 

 うふふと笑いながらより強く腕に力を込めるリアスに一樹の悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜中にコンビニへと出かけて小物を買った後に家路へと着いていた。

 一樹はシャーペンの芯が残り少ないことやノートもページ数が危ういことによる気付いて散歩がてらコンビニへと出かけた。ついでに黒歌と白音に頼まれた物も買い物袋に提げている。

 時間帯から人通りがない道を通って歩いていると女とすれ違った。

 どこにでもいる特に際立った容姿をしているわけでもない女。

 一樹もその女を見た時は特に何とも思わずに横を通っただけだった。

 だが、お互いに背中を見せる位置まで交差すると、突如女が振り返り、一樹の後頭部にその拳を放った。

 

 

 

 




イリナはこのままエクスカリバー使いにするか原作通り後々オートクレールを装備させるか悩みどころ。

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