「お~いイッセーくん~。冷たいじゃないかこんなイベントに俺たちを誘わないなんて」
「そうだぞイッセーくん。俺たち、親友だろ?」
「だー、もう!悪かったよ!でもちゃんとこうしてここに来てんだからいいじゃぇか!!」
元浜と松田に絡まれた一誠は叫んでがっちりホールドしてくる親友の手を力づくで離した。
冥界から帰還した一誠たちは何事もなく祭りの日を迎えた。
連絡を忘れていた筈の親友2人がどうしてイッセー宅の前にいるのかというと、一樹が一誠も一緒に行くことになったと桐生藍華に連絡した際に彼女の方から連絡が回って来たらしい。
そうして兵藤宅の前で待っていた3人に3人の女子が出てきた。
「お、お待たせしましたー」
アーシアに続いてゼノヴィア、イリナも出てくる。それぞれ、このお祭りへの外出用に浴衣を着ている。
アーシアは翡翠色。ゼノヴィアは浅葱色。イリナは橙色の浴衣を着ていた。
それを見て3人は鼻の下を伸ばす。
「ど、どうでしょうか?あまりこういうのは慣れなくて」
「似合ってる!?すごく似合ってるぜ3人とも!」
「い、生きてて良かったぁ」
「浴衣の女の子とお祭りイベント!我々を一体幾つまでこの壮大なイベントを待ち望んでいたか!?」
口々に感想を漏らす変態3人組。特に松田と元浜に至っては涙まで流している。
そうしていると別方向から声が聞こえた。
「なんで泣いてんのよ、アンタたちは……」
「騒ぐのもほどほどにね」
呆れるように声を出す藍華。
現れたのは藍華、一樹、白音、祐斗の4人だった。
裕斗は普通の私服で藍華と白音は浴衣。一樹は着流しを着ていた。
4人を認識すると変態3人組のひとりであり真性のロリコンである元浜がぶわっと滝のような涙を流す。
「ま、まさか白音ちゃんの浴衣姿をこの目で焼き付けることが出来るなんて!さぁ、白音ちゃん!お兄さんと手をつないで行こうか!」
近付いて手を伸ばしてくる元浜。半笑いの上にハァハァと粗い呼吸で近づいてくる様は控えめに言っても気持ち悪い。
近付く元浜の手首を一樹が掴む。
「白音に触んな。問答無用でブッとばすぞ」
危機感を感じて後ろに下がる白音を庇うように前に出る一樹。元浜が止まると同時に手を放す。
「くっ!?邪魔をするか日ノ宮!つーかお前は白音ちゃんの何なんだよ!?」
一樹と白音の関係を知らない元浜に藍華が補足する。
「日ノ宮と白音は家族同然の関係よ」
藍華の説明に一樹がおい、と小声で責めるが本人はどこ吹く風だ。カオスになる状況を楽しんでるに違いない。
「いいじゃない。下手に隠すより本当のこと言った方がいいでしょ。そういうことにしておけば元浜も下手なちょっかい出さないわよ」
「か、家族、同然だと……!嘘だ、そんなわけないんだ!こんないつも不機嫌そうな童顔むっつり野郎に彼女ができるなんてありえない!貴様!俺たちを裏切ったのか!?」
「……おい兵藤。今からお前のダチの顔を素手で整形してやって良いか?前科があるから手早く済むと思うんだが」
指をボキボキと鳴らしながら訊いてくる一樹に一誠は止めろと答える。
「こいつが暴走しそうになったら俺たちが止めるから待て。な?お願いします!っていうか前科とか自分で言うな!!」
「ちっ!」
もしここで元浜に馬鹿な行動を取らせたら冗談でも一樹がなにをするかわからないと判断した一誠は全力で元浜の暴走を止めることを誓った。
ちなみに今回リアスは用事があり、朱乃もそれに付き合う形で欠席となる。
朱乃本人は非常に残念そうにしていたが。
ギャスパーも連れて行こうとしたが冥界でたくさんの悪魔たちと日夜合う生活で疲れたのか今は引きこもり生活を満喫しているので欠席である。
「これが日本のお祭りですか!」
「私は子供の頃に来たことがあるけど、小さかったからおぼろげにしか覚えてないなぁ」
「遠目から見ても色々と屋台があるのだな」
「まぁここいらじゃ1番大きな夏祭りだしな」
お祭りは町内にある広場を使って円状に屋台などが展開されている。
出ている屋台が一目瞭然で金魚すくいや輪投げや射的。食べ物に関してもたこ焼きや焼きそば、かき氷などの定番もあれば、ちょっと奇を狙ったモノもある。
「よし!それじゃあ俺たちが夏祭りの楽しさをたっぷり教えてやるぜ!」
「おうよ!今日は俺たちの独壇場だぜ!」
「3人ともしっかりついてこぉい!!」
女の子と夏祭りを堪能することが3人の気力をどこまでも上げているのか。
教会トリオにどうにかいいとこ見せようとテンションを上げている。
「あの性欲をもうちょっと抑えられる自制心があれば女も寄ってきそうだけどな」
端から見ていると悪い奴らではないし、ノリもいいのだから。それ以上に学園での問題行動が女子たちへの嫌悪感を高めているわけだが。
今日集まったのは白音を除けば4人の女子は学園で数少ないあの3人に普通に接せられる面子と言える。
「見てる分には面白いわよ?」
一樹の嘆息に藍華が答えた。
確かに見てる分には飽きないだろうが面白いかは人それぞれだ。
祐斗に行こうかと促されるままに一樹もおう、と足を進めた。
祭りで彼らは大いに楽しんだ。
金魚すくいで全然すくえないアーシアにイッセーがすくってやろうと奮起するがアーシア以上に全然取れなかったりもしたが射的でアーシアが欲しそうにしていた品を仕留めたり。
ちなみに金魚すくいは松田と元浜が何匹かすくって見せるとゼノヴィアやアーシアから感嘆の声が上がり、照れくさそうに笑った。
祐斗と一樹が祭りにやって来た女の子に誘われたり、型抜き勝負がイリナの圧勝だったり、輪投げはゼノヴィアが曲芸じみた一気投げで手持ちの輪っかを全て輪が入り、観客から歓声が上がっていた。
白音とアーシアが半分ずつ食べていたたこ焼きやら焼きそばで青のりが口についてしまったのを見て藍華が口元を押さえて笑っていたりしていた。
祭りを回るのも一段落して備え付けられていたベンチに一樹は腰を下ろしていた。
今は割とみんな自由行動である。
「疲れてそうね」
「楽しいと言えば楽しいけどな」
傍にやって来た藍華に一樹は適当に答える。
「そういえば、中学の時も4人でお祭りに来て遊んだわねぇ。アムリタはどうしてるのかしら?」
アムリタの名が出て一樹の肩がピクッと跳ね上がった。間の悪いことにそれを見られてしまった。
「どしたの?怖い顔して」
本当なら話すべきではなかったのだろう。
だが、アムリタのことを知っている相手だからか一樹はついポロリと口に出してしまった。
「……旅行先でな。アムリタと会ったんだ」
「え!?あの娘と!!」
「あぁ。ただちょっと喧嘩になっちまったっていうか。一方的に拒絶されたっていうか……」
揉めたことに関してはどう説明したらいいのかわからず相手が理解できないだろう説明になってしまった。
「喧嘩!?アンタたちが!!うわっ!それ見たかったわ~」
「お前なぁ……」
観たかった番組を見逃したかのように言う藍華に一樹は話す相手を間違えたかと話題を切ることにした。
「だってアンタたちが喧嘩してる姿なんて見たことないもの。なんていうかさ、2人ってホントのきょうだいみたいでさ。私から見たら、白音と一緒にいる時よりそう見えたわね」
「そうか?」
「そうよ。ま、連絡取れるんならさっさと謝んなさい」
「俺がなんで悪いことしたことになってんだよ!?」
「違うの?」
「そもそもなんであんな態度取られたのかすらわかってねぇんだけど!!」
少なくともいきなり矢を射られる覚えはない。口には出さないが。
「でも仲直りはしてよ?アンタたちが喧嘩しているとこっちも気を使わなくちゃいけなくなりそうだから、なるべく早くね」
「……次会ったときに色々と訊いてみるよ」
「そうしなさい」
背中をバンッと叩いてくる藍華に一樹は自分の背中をさすって。礼を言った。
「ありがとな、藍華」
一樹の礼を聞いて藍華がビックリして目を見開く。
「日ノ宮に初めて名前で呼ばれたわ」
「べつに。友達の中でお前だけ苗字呼びなのもどうかって思っただけだ。他意はねぇよ」
「あ、うん。それはわかってるけど……」
お互いが無言になる中でアーシアが呼びに来た。
「桐生さ~ん!一樹さ~んんっ!?」
慣れない浴衣の中、小走りでこっちに来るアーシアは直前で躓いてしまう。それを一樹が受け止めた。
「あ、ありがとうございます」
「気ぃつけろな。慣れない浴衣なんだし。それよりどうした?」
「あ、はい!そろそろ花火の打ち上げがあるからみんなで観やすいところに移動しようってイッセーさんが」
「そういえばあったわね、花火」
藍華が思い出したように手の平に拳を乗せた。
「はい!私、花火って観るの初めてで。楽しみです!」
「そっか。なら早く移動して良い場所取りましょう。行くわよ、一樹!」
「わぁってるよ藍華」
頭をガシガシと掻きながら後ろに続く一樹。そんな2人を見てアーシアが目を丸くした。
その視線に気づいて藍華が苦笑する。
「別におかしくないでしょ。友達なんだから」
「そ、そうですよね!?じゃ、じゃあ私もこれから桐生さんを藍華さんって呼んでいいですか!」
「いいわよ。むしろなんで今まで呼んでくれなかったのかしら?私だけ仲間外れみたいで寂しかったのよ」
わざとらしくショックを受けている風を装う藍華にアーシアが慌ててフォローを入れる。
その姿を見て一樹はお前たちも十分姉妹みたいじゃないかと笑った。
外国人であるアーシアとゼノヴィアは初めて見る打ち上げ花火に強く魅せられている。
「わぁ!!すごくきれいです!!」
「うん。火薬なんて物を壊すくらいしか出来ないと思っていたが、こういう芸術を生み出した日本はすごいな」
感嘆の声を上げつつ夏の夜空に次々と咲く花火。
確かに外国では観れない光景だろう。
夜空に魅せられている中、一樹は近くで座っている白音の手を握った。
少し驚いた顔をする白音。一樹は白音に顔を向けずに独白する。
「俺さ、今まで流されるままにオカルト世界に関わってたんだ。理由なんてどうでもよくて、ただ白音と姉さんの力になれれば良かった」
黒歌と白音がそっちに関わっているから流されるように踏み込んだ世界。
その生活は充実していたし、楽しいと思える。でもどこかで他人事だった感も否めない。
「俺は、アムリタに話を聞きたい。アイツがなんで禍の団に居て、俺を殺そうとするのかとか。おじさんが死んだ理由も知りたい。でも、今の俺じゃ話をさせるなんてきっと出来なくて」
アムリタはどういうわけか一樹が強くなるのを待っているようだ。踊らされているようで気にくわないが今は強くなることしかできることがないのかもしれない。
ただわかるのは、もう流されているだけで向こう側に関わることは出来ないということだ。
「俺は自分の意志でそっちの世界に踏み出す。もしかしたら戻れない選択かもしれないけど、アムリタを放っておけない。向こうだって俺を放っておかない。そう思う。だから強くなる。アイツがなにを抱えてあんなことをしたのか、聞き出せるくらい。そして俺が死なない為にも」
それを聞いた白音の心境は複雑だった。
自分で答えを出してくれた嬉しさと、こっち側に本格的に関わると決めてしまった哀しみ。他にも様々な感情が入り混じっている。
そんな中で猫上白音が選ぶべき選択は。
「私も手伝うよ。アムリタ先輩がなにを考えているのか気になるし、いっくんを守るのは私の役目だから」
「あぁ。ありがとな」
その言葉が嘘ではないと示すように白音は握られた手を握り返す。
花火が終わるまで、ずっとその手を握っていた。
花火が終わってそれぞれの帰路に着く。オカルト研究部の6人が2つの道に別れようとしたときだった。
見知らぬ誰かが、話しかけてきた。
「アーシア・アルジェント。やっと会えた」
それは見目麗しい優男だった。
アーシアには相手の見覚えが無いようだったが開いた胸元に見せると思い出したように目を見開く。
その男はかつてアーシアが治療した悪魔で、彼女が魔女の烙印とともに教会組織を追い出されるきっかけを作った悪魔だった。
「僕の名はディオドラ・アスタロト。この胸の傷を治療してもらったときは満足にお礼を言う暇もなかったけど、ずっと君を探していたんだ」
優しそうな表情と声。元より整えられた顔立ちも相まって大抵の異性なら顔を赤らめてしまうだろう。
そんな中一誠は何やら歯軋りしているが。
「その服はこの国の衣装かい?とても似合っているよ」
「あ、その……ありがとうございます」
相手がやたらと好意的に接してくるため、アーシアもどうしたらいいのか困惑しているようだ。我慢の限界となった一誠が文句をつけようとすると、ディオドラはアーシアの手の甲にキスをした。
その行動にその場にいた全員が驚く。
「あの会合の時にあいさつできなくてゴメン。でも僕と君の出逢いは運命だったんだと思う。だから。僕と結婚してほしい、アーシア」
祭りの終わった夜にディオドラの甘い告白が流れる。
夏は終わり、秋とともに新たな火種を連れて。
次回はディオドラ編を書き終えたら投稿します。多分来年になると思います。年末は忙しい。
ようやくディオドラくんのダイカツヤクが書ける……。