太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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ようやく5巻分を書き終わりました。




39話:赤と黒の闘い

『日ノ宮一樹。よろしく……』

 

 そうして差し出された彼の手。

 とても温かな手。それを握り返した時に生まれた感情は何と呼ぶのか。

 彼と過ごす時間はとても満ち足りた気分になった。

 欠けていたモノが満たされていくような奇妙な充実感。

 そして安心感。

 恋愛感情などというモノとは違うだろう。

 それでも彼と過ごす時間に心地よさを感じていた。

 

 彼との握手からしばらく経って、私は学校でイジメを受けていたらしい。

 集団生活で判り易い容姿の差異がある自分はきっとイジメの対象としては選び易かったに違いない。

 でもそれは困ったことではあったが大して気にはならなかった。

 彼と、そして眼鏡をかけた明るい同級生。

 この2人と一緒が私の学校内の全てであり、それ以外の存在は意外と気にならなかった。

 でも、そんな態度が周りに苛立ちを与えていたらしく、イジメは段々と苛烈さを増して行った。

 その頃になると流石に無視しきれないことも多くなり、どうにかしないとと漠然とした解決への意気しか持てず、流されていった。

 

 そしてあの事件が起こる。

 

 私が階段から突き落とされた時に受け止めてくれた彼と私をイジメていた同級生たちが口論になり、最終的には彼が暴力を振るい、先生たちに取り押さえられるまで――――――いや、取り押さえられても暴れようとしていた。

 

 姉と呼んでいたとても綺麗な女の人も学校に呼び出されていた。彼は怒られており、それが自分の所為だとは内容を聞かなくてもわかる。

 だから私は彼の家族に事情を説明し、お礼と謝罪を口にした。

 それでその女性は頭を掻いて話は終わった。

 

 怒ってくれたこと。方法はともかく助けてくれたこと。

 とても感謝している。

 彼と一緒にいる安らぎも楽しさも本物だ。

 でも、それよりも心の奥底で燻ぶる衝動。

 

 私は、いつかこの少年を殺さなければならない。

 この時はまだ内より燻ぶっていた衝動の意味に気付いてさえいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームの開幕はギャスパーが蝙蝠に変化し、偵察。

 今回、一誠とゼノヴィアが一緒に行動し、兵士である一誠は少しでも早く女王への昇格。その後になるべく多くの敵を引きつけ、本陣を狙う祐斗をサポートする。

 メインは祐斗で囮は一誠とゼノヴィア。これは2人の防御面を信用しての作戦だ。本当ならどちらが囮か悟らせないために均等な人数が好ましかったが、人数の少ないリアスたちでは仕方がなかった。

 

「ゼノヴィア。アスカロンはどうだ?」

 

「うん。悪くないよ。むしろ今回のような戦闘ではデュランダルよりよほど戦いやすい」

 

「だよなぁ」

 

 ゼノヴィアが今所持しているのは赤龍帝の籠手に収められていたアスカロンだった。

 これはアザゼルの案で、アスカロンを取り外せないか訊かれたところ試してみたら取り外せることに気付き、山籠もり前にアザゼルに預けていたのだが、ゼノヴィアに渡されていたらしい。

 

 デュランダルは強力だが無駄にデカい上に一振りで聖のオーラを放ち、周りを破壊してしまう。デパート内で使えばゼノヴィアがすぐに失格になることは予想できた。なら通常の西洋剣と同じサイズのアスカロンの方がいいだろう。

 一誠が剣を扱えないという理由もある。

 

(でも、そういう意味なら俺も禁手は今回使えねぇよな。こんなデパートで使って加減を間違えたらここを吹き飛ばしちまいそうだし)

 

 せっかく至った禁手を使う機会がないのは残念だが、有り余るパワーの制御は難しく、今回は脅しくらいにしか使えなさそうだ。

 

 2人でショッピングモールを歩いているといつ敵と遭遇してもいいように倍加こそしていないが既に神器は装着済み。

 お互いに無言で移動しているとゼノヴィアの動きが止まった。

 

「上だ、イッセー!」

 

 言われてイッセーが上を向くとそこには匙の神器である黒い龍脈のラインが天井に伸びており、そこから振り子の遠心力を利用して突っ込んできた。それも匙の背中にはひとりの女生徒がしがみついている。

 

「どりゃぁっ!」

 

 匙の繰り出した蹴りは防御の姿勢を取った一誠の籠手に命中する。

 2人分の衝突エネルギーに体勢を崩す。

 

「イッセー!」

 

「大丈夫だ!」

 

 膝をついた一誠は即座に立ち上がり匙を見る。

 

「よー、兵藤」

 

 何気なく挨拶をする彼の神器は形状が以前見た時より僅かに変化しており、ラインの本数が増えていた。

 そしてそのうちの1本は一誠の神器に繋がれている。だが今のところは神器の力を吸われている感じはしなかった。

 

「ラインを天井に引っ付けて様子を見ようとしたら移動しているお前たちを見つけてな。気付いてないし奇襲させてもらったわけだ。直前でゼノヴィア嬢に気付かれたけどな」

 

 苦笑しながらも戦う姿勢をとる匙。

 

 

 予感があった。

 もしこのレーティングゲームで最初に出会うのなら目の前の男なのではないかと。

 ゲームが始まる前の作戦会議で一誠には匙を当てるだろうと予想されていた。

 一誠には女性の天敵ともいえる技である洋服破壊がある。だから極力女の眷属は当てたくはないだろうと。

 だが実際には誰と誰が遭遇するかはランダムだ。

 もしかしたら一誠の移動ルートをソーナが予想し、見事的中しただけなのかもしれないが。

 何にせよ、一誠はこの巡り会わせに感謝した。

 一誠と匙はところどころ似ている。

 自分の主が大好きなこと。転生悪魔になった時期。一途で夢の為に真っ直ぐ突っ込む事しかできない馬鹿なところも。

 だからこそ一誠はこの男をできるだけ万全な状態で戦い倒してみたかった。

 

 ゼノヴィアもアスカロンを構え、匙の背に乗っていた1年の少女、仁村留流子もファイティングポーズを取る。

 すぐにでも戦闘が開始されようという時にアナウンスが流れた。

 

『リアスさまの僧侶、1名リタイア』

 

「なっ!?」

 

 早すぎる、と一誠は驚きの声を上げる。

 どっちがやられたのか考えていると匙が苦笑しながら答えた。

 

「やられたのはギャスパーくんだよ」

 

 その笑みは作戦が成功した安堵や喜びというより、イタズラが成功した子供の笑みに近い。

 

「ギャスパーくんの神器が今回使用不可なのはこっちにも情報がきていた。なら、アイツの役割は情報収集と読んで一部の眷属たちに不審な行動をとらせて誘き寄せる。もちろん蝙蝠なんかに化けてただろうし、近くの蝙蝠も集めただろうさ。俺たちの本陣は一階西の食品売り場だ。ニンニクを使って一気に弱ったところをとっ捕まえさせてもらったわけだ」

 

「に、ニンニクにやられたってのか!?」

 

「まったくアイツは……このゲームが終わったら、鍛え直さなければな」

 

 余りの情けないリタイヤに一誠は愕然とし、ゼノヴィアは頭を押さえる。

 なるほど、これは子供のイタズラが成功したような顔になるわけだ。

 

「発想自体は本陣からの偶然の産物だがな。だが、効果は絶大だったろ?これでこっちの人数が2人分多くなったわけだ」

 

 笑いを噛み殺している匙に一誠はリタイヤしたギャスパーに向けて声を張り上げた。

 

「前回は不参加だったんだから……今回はもうちょっと気張ろうぜ、女装吸血姫ィイイイイイッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパーくんがやられたか……」

 

 アーシアがリアスとともに行動していることからすぐに脱落したのがギャスパーだと祐斗は察する。

 地下を単独で行動している祐斗はこのレーティングゲームについて考えていた。

 

(今回のレーティングゲームは僕たちにあまりにも不利過ぎる戦場だ。なにか作為的なモノを感じるよ)

 

 グレモリー眷属に不利なフィールド。ギャスパーの神器の使用不許可。ルール上の指示ではないが眷属の人数、等々。

 

 だがその思考はすぐに切って捨てる。今考えることではないし、上の思惑などどこまで行っても予想の域を出ないからだ。

 警戒をしながら師の下で毎日行った稽古を思い出す。

 

(これも止めよう。これから戦闘だって言うのにわざわざ気を落とす必要はないよね)

 

 祐斗はこの合宿中に師であるサーゼクスの騎士の下へ赴き、日夜剣の修業に明け暮れた。

 そこで彼は自身のプライドを粉々にされることになる。

 

 聖魔剣に興味を持った師がそれを使って稽古を行うことになった。但し、師の得物は木刀だったが。きっと師は聖魔剣を躱して打ち込んでくるに違いないと予想する。

 だが、その予想は軽々と超えられた。

 師は、木刀で聖魔剣と打ち合い、正面から祐斗の獲物を叩っ斬ってしまった。

 叩き折ったでも砕いたのでもなく、文字通り、スパッと斬ったのだ。

 

『少々難しいですが、闘気を調節すればやってやれないこともないですね』

 

 穏やかな口調でさも当然のように言う師に祐斗は開いた口が塞がらなかった。

 終いには聖魔剣を斬らないように竹刀で稽古をつけてもらうという情けなさ。

 かつての仲間の魂と今の仲間の想いで到達した聖魔剣も本当にその道を極めた達人には通用しないのだと思い知らされる。

 

「剣を使いこなせてこその剣士であり、剣に使われるのは剣士に能わず、か」

 

 聖魔剣は確かに強力だが、今の祐斗の技量でアレを扱うのは不相応だと突きつけられる毎日だった。頂は未だ遠いが、あそこまで行けるのだと思えば奮起する思いもあるのだが、そこまで辿り着けるイメージが今の祐斗には湧かなかった。

 そこで気配を感じて裕斗は視線を向ける。

 現れたのはシトリー眷属の女王、真羅椿姫。騎士、巡巴柄。戦車、由良翼紗。

 

 こちらが本命だと読まれていたのだろう。自分ひとりに3人の配置とはずいぶん高評価のようだ。もしくは裕斗ひとりではなく他にも誰か付くと予想していたのか。

 

「そちらの僧侶が早々に脱落したというのに、冷静ですね」

 

「こういうのは慣れておかないと身が持ちませんので」

 

 これから先、ゲームを行えば味方がやられる場面を幾度となく見ることだろう。その度に冷静さを欠いていたら主に勝利を献上することなどできない。ましてや直接倒されたところを見たわけでもないのだ。一々動揺なんてしていられない。もちろん、仲間がやられて何も感じないわけではないが。

 

 祐斗は既に手にしていた魔剣を構える。

 

「……聖魔剣を使わないのですか?」

 

「何分、今の僕は分不相応な剣ですから。申し訳ありませんが、このまま付き合ってもらいます」

 

 相手は確かに強敵だろうが、魔剣で斬れない相手ではない。消耗を押える、という意味もある。

 もしこれが聖魔剣でなければ切れない程の防御力を持つ相手ならば話は別だが、剣が当たれば斬れる相手なのだ。

 

(こっちが本命とバレた以上、隠れながら相手の本陣に攻め込むのは難しいかな。なら、僕がここで敵を減らすか足止めに徹してイッセーくんたちが本陣へ行けるようにサポートしないと)

 

 ここに3人も配置した以上、他は手薄になっている筈だ。今の祐斗の状況よりは斬り抜けやすいだろう。

 

「行きます!」

 

 魔剣を手に祐斗は3人の敵と相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 繋がれた匙のラインから一誠の倍加の力を吸われるのを怖れて神器はただの籠手となった。ドライグが言うには禁手の衝撃で弾け飛ばせるらしいが、止める。匙を甘く見ているわけではないが、一誠の禁手は発動して最大で30分しか持たない上に、使った後は丸一日神器が使えなくなってしまう。本命の祐斗がやられた時を考えて、今の使用は避けたかった。

 

「……禁手は使わねぇのか?それとも使えねぇのか?」

 

「使えるさ。だけど、ここで使っちまったら後がねぇんでな。だから悪いけど、このまま倒させてもらうぜ!」

 

「ちっ!余裕ぶりやがって!ならすぐに使わざる得ないようにしてやるよ!」

 

 匙がラインでを引っ張ると一誠の姿勢が崩れ、、その隙に蹴りを叩き込む。しかし、一誠はそれを右手で防いだ。

 お返しとばかりにラインで繋がれた籠手を顔に突き出すが、仰け反ることで回避し、そのまま蹴り上げられた脚を横に転んで躱す。

 

「おいおい!あの体勢から躱すかよ!?どんな特訓してたんだ!」

 

「これくらいできなきゃ日ノ宮の奴に殺されかねなかったからな!」

 

「なんで日ノ宮!?ドラゴンと山籠もりしてたんじゃねぇのかよ!?」

 

 山籠もりの最中、毎日のように喧嘩していた2人。

 日常的に組手のようなことをしていた2人の対人戦闘力は自然と向上していた。

 

「ならこれならどうだ!仁村!さっき回収したサングラスだ!」

 

 匙の合図とともに仁村はポケットに入れていたサングラスををかける。匙も同様だ。

 次の瞬間、カッと照明から光が弾け、一誠とゼノヴィアの目を焼いた。

 

『やられたな。照明に魔力を送ることで明かりを弾けさせたか』

 

 冷静に解説するドライグを余所に匙の蹴りが一誠の腹に突き刺さる。

 腹に力を入れていなかった分、余計にダメージが通る。

 続いて背中に一撃を貰い、よろめくと締めとばかりに顎にアッパーが繰り出される。しかし、一誠はその突き上げられた拳をギリギリで躱し、逆に相手の腹に拳を叩き込んで後退させる。

 

「やるじゃねぇかよ、兵藤……」

 

「おまえもな、匙。正直、あの山籠もりが無かったら今のでリタイヤしてたかもしれないぜ!」

 

 再度言うが、最後のアッパーが躱せたのは山での修行で一樹と日夜喧嘩していたおかげだ。

 何せ一樹は槍を持ってるし、マウントポジションからのラッシュが得意ときてる。下手に倒れたらマズイと体が勝手に反応するのだ。

 

(だからって感謝なんてゼッテェしないけどな!)

 

 布団代わりに使っていた大きな葉っぱを眠っている間に燃やしにかかる。金的に目潰しや崖からの突き落としまでやってくるのだ。まぁ、一誠も似たようなものだったが。

 

「……俺の夢は、会長の造った学校で教師をすることなんだ」

 

 突然ポツリと匙は話し始める。

 

「日ノ宮の奴に言われたよ。やったことがないことを誰かに納得させるにはまず結果を見せなきゃ誰も支持しないって」

 

 あのパーティーでそう言われた後に匙はずっとその言葉の意味を考えていた。

 今の自分が誰かを納得させられるだけの説得力を持たせるにはどうしたらいいか。

 それは、目の前の赤龍帝を倒すことだ。

 フェニックス家とのレーティングゲームで仲間の協力があったとはいえ、ライザー・フェニックスを下し。三勢力の会談ではライバルの白龍皇を退かせた。

 その事実は冥界に伝わってる。

 それに比べて匙自身はせいぜい聖剣事件でケルベロスと相対したくらいだ。

 駒の価値も向こうが上。だからもし匙元士郎が兵藤一誠を倒せたのなら—————。

 

「俺は会長の指導のおかげで強くなれた。まだ何のネームバリューのない俺が赤龍帝のお前を倒せば少しは会長の夢に注目してくれる悪魔が出て来るかもしれない。会長の夢を嗤った連中も少しは見直してくれるかもしれない。今回のレーティングゲームは冥界全土に放送されてる。ましてやここまでお膳立てされた舞台で無様に負けるわけにはいかないんだよ!」

 

 一呼吸入れて匙は真っすぐと一誠を見据える。

 

「だから、お前の全力を出させた上で踏み台にさせてもらうぜ!俺の、俺たちシトリー眷属の夢の為に!」

 

 赤龍帝を倒せば会長の夢が一歩近付く。

 それはただの妄信かもしれない。

 ここでどんな結果を出しても何も変わらないのかもしれない。

 だが本気だった。

 匙元士郎は本気でこのゲームで兵藤一誠を倒すことに懸けているのだと、この場にいる全員が理解した。

 

「……」

 

 だからその本気に対する一誠の答えは。

 

「悪いゼノヴィア」

 

 一誠の言葉にゼノヴィアが嘆息する。しかしすぐに仕方ないなぁといった笑みに変わった。

 

「あれだけ真剣な相手を無下にするなんて出来ないさ。だが、それを使う以上、必ず勝つのだろうね?」

 

「おう!匙!俺の夢は上級悪魔に昇格してハーレム王になることだ!」

 

 匙の夢を聞いた一誠が対抗するように自分の夢を語る。

 

「でもな、その夢はまだまだ遠い!だから俺はまず当面の目標を立てた!」

 

「目標?」

 

「部長のおっぱいの乳首をつつくことだっ!!」

 

 その場にいた全員が固まった。

 

「アザゼル先生から聞いたんだ!おっぱいをポチッとじゃなくずむっとつつくことでブザーのように鳴るらしい!俺はそれをこの五感全てで感じたい!だから俺はこのゲームに勝つぜ!そして部長の好感度を上げていつかあのおっぱいをつつく!!その為にここでお前を倒すぜ、匙!!」

 

 あまりにも酷い。

 あまりにも理解不能な夢。

 聞く者が聞けば馬鹿にしているのかと怒鳴りたくなる力説だろう。

 だが、本人は本気で言ってた。

 これが、兵藤一誠という悪魔だった。

 

 その夢を聞いて匙は笑いたい気分だった。

 あぁ、こういう馬鹿を全力疾走するのが目の前の男だったなと再確認して。

 

「そんな夢に負けて堪るかよ!絶対にテメェを倒すからな兵藤ォッ!!」

 

「来やがれ!禁手を出したらこっちも後がねぇんだ!瞬殺されても文句言うなよ!」

 

 

 赤龍帝の籠手から禁手へのカウントダウンが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは監獄だった。

 罪人たちが捕らえられているその施設にひとりの男がひとりの囚人に会いに来ていた。

 

「どちら様かな。生憎と御覧の通り、私は目を塞がれていてね。気配から看守ではないようだが」

 

 監獄のとある一室に入れられている男は全身を拘束されていた。

 椅子に括りつけられ、手足の自由を許さず。自由が許されているのはその口と耳だけだった。

 

「我が名はクルゼレイ・アスモデウス。真なる魔王の血を引くものだ」

 

「ほう!旧魔王派の中でも過激派で知られる貴方が私のような薄汚い囚人にどのようなご用件で?」

 

 くつくつと嗤う男にクルゼレイは鼻を鳴らす。

 

「あまりふざけた態度を取るなよ?見込みがあればこそ出向いてやったが、俺の気分次第で貴様を首だけにして生かす術もあるのだぞ」

 

「それは怖い。これは言葉に気をつけなければいけませんね」

 

 嗤うことを止めない囚人にクルゼレイは手早く本題に入る。

 

「貴様をここから出してやろう。頭脳面を認められ、一時は平民から上級悪魔へと昇格した貴様の知能と技術。我ら真なる魔王の為に役立ててやる」

 

「これは意外ですね。それとも旧魔王派、失礼。真なる魔王の貴方たちはそこまで切迫しているのですか?なにぶんここに入れられてから外の情報はめっきり入ってきませんので」

 

「質問は無しだ。だが、もし協力するのならば貴様の頭脳を活かせる場を与えることを約束しよう。それとも、ここで永遠に繋がれていることが望みか?」

 

 クルゼレイの言葉に男は半分が火傷した顔を薄らとした笑みで歪ませた。

 

 

 

 

 


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