レーティング・ゲーム前日。
アザゼルは後ろに黒歌を控えさせてサーゼクスとセラフォルーが並ぶ椅子に座っていた。
「で?残りの椅子は誰が座るんだ?残りの魔王さまか?」
「いや。今回のレーティングゲームをどうしても観戦したいという他神話の者がいてね。急遽椅子を用意した」
わざわざ魔王の傍に席を置くことから相当な上役とアザゼルは予想する。
そしてその答えはすぐに表れた。
扉から現れたのはローブをまとった髭が地面に付きそうなほど長い杖を突いた老人とアロハシャツに数珠を飾ったサングラスの五分刈りという一見してこの場に相応しくない格好の男。
「オーディーンにインドラだと……!?」
オーディーンは後ろに戦乙女らしき従者を従えているがインドラは単身。他勢力を前に良い度胸をしていた。
「なんじゃ全く。出迎えひとつ寄越さんとはのう」
「HAHAHA!まぁいいじゃねえかじいさん。下手に盛大な歓迎を受けても肩こっちまうぜ!」
「お待ちしておりましたオーディーン殿。インドラ殿。遠路遥々よくぞお越しくださいました」
他勢力のトップにサーゼクスは柔和な笑みをもって対応する。
「ま、よろしく頼むわ!」
「それにしてもセラフォルーよ。その格好はなんじゃい」
「あらおじいさま、ご存じないんですの☆これは魔法少女というモノですわ☆」
ピースサインで魔法少女をアピールするセラフォルーにアザゼルは心底呆れる。
「今はこういうのが流行ってるのかいの。ええのええの」
だらしなく鼻の下を伸ばす老人に後ろで控えていた黒歌が北は堅物が多いという噂をすぐに修正した。
だが、後ろにいた銀髪の戦乙女がそんな主神を注意するとそんなんだから恋人のひとりも出来ないだのと弄り始め、半泣きにする。
それを見た黒歌が内心でご愁傷さまと手を合わせた。
そこでアザゼルがインドラに視線を合わせる。
「お前さんがゲームに興味があるだなんて知らなかったぜ、帝釈天」
「HAHAHA!真剣勝負ってのは実力に関わらず良いもんさ。楽しみだぜ、今回の祭りはよ!―――――表も、裏も、な……」
インドラの最後の呟きはこの場にいる誰の耳にも届かなかった。
レーティングゲーム前日の最後のミーティングをオカルト研究部は行っていた。
ただし、アザゼルは今回の合宿でグレモリー、シトリー両眷属に力を貸したとしてここでどちらかに出席すれば平等性に欠くとしてここにはいない。
「やはり、問題は数ね。こちらがひとり少ないことがどれだけ影響するか。それにソーナたちは私たちの情報……少なくとも冥界に来る前の情報は既に得ている筈。こちらは大まかな能力しか把握していないのも痛いわね」
だが、これは逆に言えば良い機会と言える。
一誠に兵士の駒を全て使っている関係でリアスの陣営は数での勝負はできない。ひとりひとりの質がグレモリー眷属の強みと言える。しかし現状では火力特化で戦場を選ぶのが難だが。
「ソーナたちの眷属はバランス重視。突出しているステータスはないけど、戦場を選ばずに戦えるのが強みね」
悩みながらノートにアイディアや情報を走り書きするリアス。
レーティングゲームに参加しない一樹などは出された菓子を抓みながら話だけを聞いている。
「レーティングゲームでは主にプレイヤーに細かなタイプをつけて分けているわ。大まかにパワー、テクニック、ウィザード、サポートの四つね。私や朱乃はウィザードタイプ。祐斗はテクニックタイプ。ゼノヴィアとイッセーはパワータイプだけどイッセーはサポートもイケる筈よ。譲渡の力でね。そしてアーシアとギャスパーはサポートタイプ。もう少し細かく分類するならアーシアがサポートでギャスパーがテクニックね」
説明するリアスにイッセーが手を挙げる。
「えっとゲームには関係ないんですけど、イリナたちはどういうタイプになりますか?」
「そうね。三人ともテクニックタイプだと思うわ。ただもう少し細かく分類するなら一樹は聖火の力でウィザードタイプもイケると思う。白音はスピード重視のテクニックタイプでイリナは技重視の純粋なテクニックタイプね」
説明を受けながらナルホドと納得する一誠。
「このゲーム。周りからは私たちが勝つ可能性が80%と言われているけど、私は正直五分五分だと思ってる。ソーナは意地でも勝ちに喰らいついてくるはずよ。決して楽な勝負でないことは頭に入れておいて」
真面目な表情で念を押す。
禁手に至った2人神器使い。それもひとりはあの伝説の赤龍帝を宿した神滅具。
デュランダルの聖剣使い。フェニックスの涙並みの回復能力を持つ元聖女。
時間停止の神器を持っている吸血鬼。まだ躊躇いはあるが悪魔の弱点である光の力を持つ半堕天使。
これらの眷属を従えていることが勝率の高さと予想されている根拠だが。現状穴だらけのチームと言わざる得ないことをリアスは知っている。
これを活かすも殺すも自分次第というプレッシャーもある。
しかし敗けるつもりはない。
たとえ親友であろうと――――――否、親友だからこそ全力で勝ちに行くのだ。
(私は私の夢の為にソーナ、貴女に勝つ!だから貴女も全力で向かってきなさい!)
心の中でそう親友に語りかけた。
リアスたちがレーティングゲーム当日に控室へと移動した後、一樹たちはリアスの客人として三勢力のトップがいる部屋に案内された。ミカエルもこの試合を観に来たらしい
イリナはミカエルの後ろに。一樹と白音はアザゼルの後ろであり黒歌の隣にある席に座る。
ここに来る前に3人はオカルト研究部の面々に激励を送っていた。
イリナはゼノヴィアとアーシアに。一樹は祐斗に。白音はアーシア個人に。
匙の夢を聞いた一樹としてはどっちも勝ってほしいと思うがこれが勝負である以上勝敗は必ず出る。
だから応援するなら普段から世話になってるリアスたちだろう。
それに仲間がどれだけ強くなったのか純粋な興味もある。
始められたレーティングゲームに映し出されたのは駒王町にあるデパートだった。つまり今回は室内戦ということらしい。
そこでアナウンスのグレイフィアからルール説明が入る。
作戦会議の時間は30分。その間、両陣営の接触禁止や兵士のプロモーションの条件。フェニックスの涙が両陣営にひとつずつ支給されていること。
そして今回の特別ルールとしてデパートを過度に破壊することは禁止とするルール。
ついでにサーゼクスから一樹たちに今回はまだ制御が困難なギャスパーの神器は使用不可とするという説明を受けた。
そこでアザゼルから一樹に話が振られた。
「一樹、お前がシトリー勢ならリアスの眷属で誰をもっとも警戒する?」
アザゼルの質問にその場にいた全員が耳を立てた。そして一樹はそれに気づかないフリをして答える。
「祐斗、ですかね……」
一樹の答えにアザゼルはほぉと呟く。
「イッセーの名前を上げると思ったがな。あいつは、グレモリー眷属の中での精神的な主柱だし。木場を指定した理由は?」
「えっと……今回のゲームの大前提で部長陣営の持ち味である大火力は使えませんよね?」
「そうだな。今回はリアスに不利な戦場だ」
「祐斗は部長のチームで指のような役割があると思うんです。室内という閉鎖空間での戦闘で十全に戦闘力を発揮できるのはおそらく祐斗だけです。でももし祐斗が失格になったら……」
「指であるが故に致命傷じゃないが選択肢は大きく削られちまうか。そこは今後のリアスたちの課題だな。次に眷属を入れるなら、そうした面を補える奴を入れるべきだ」
「今回はソーナちゃんたちに有利な戦場☆勝ちにいくよ☆」
上機嫌にピースサインで宣言するセラフォルーに対してアザゼルは内心でシトリー眷属の今後を考える。
(いくら下馬評でリアスたちの勝率8割と言われてても自分の得意な戦場でボロ負けした日には学園設立なんて夢のまた夢だな。だからこそ今日は負けられんわけだが)
どちらが勝つのか。アザゼルはモニターの映像をジッと見つめていた。
レーティングゲームのミーティングを終えたリアスたちは思い思いに残り15分の時間を好きに過ごしていた。
ある者は仲間内で会話をしていたり。
ある者はデパート内の商品を物色したり。
そんな中で一誠はデパート内にある本屋に来ていた。
レーティングゲーム内の空間はそこにある薬品や車なども再現されている。ならば、ここに並んでいるエロ本の中も忠実に再現されている筈だと考えて。
ゲームの始まる僅かな時間を山籠もりで飢えた異性という精神的な栄養を補充するために。
並べられている本を手に取っていざ!と開けようとしたとき、肩から朱乃の顔が出てきた。
「ふふ。イッセーくんはこういうのがお好きなのですわね」
「あ、朱乃さんっ!?」
即座に本を閉じて本棚にエロ本を戻す。
いくら何でも仲間の。それも憧れの女性のひとりである朱乃の前で堂々とエロ本を鑑賞できるほど一誠は吹っ切れていない。
あたふたと言い訳を考えているイッセーに朱乃はあらあらと笑う。
「別にイッセーくんがこういうのを見ていても起りませんし、軽蔑したりはしませんわよ?むしろイッセーくんらしくて安心しましたわ」
朱乃の言葉に喜べばいいのか。それともやっぱりそういう風に思われているのかと落ち込めばいいのかわからなかった。
一誠が見ていたエロ本をマジマジと見つめてからある提案をする。
「この衣装、今度私が着てあげましょうか?」
「マジっすかっ!?」
「マジっすよ。うふふ。イッセーくんだからこその特別ですわよ」
そう言う朱乃だが、雑誌の女性が着ているコスプレ衣装はほとんど布の面積のない物だ
ほとんど下着同然の格好の。
喜んでいる一誠に朱乃は真面目な表情を作る。一誠の手を握って。
「……イッセーくん。覚えてますか?お弁当のお礼を言いに来てくれた時の、私が壁を越えられることを信じてるという言葉」
「えぇ、もちろんです!」
「私、このレーティングゲームで堕天使の……光の力を使ってみようと思いますわ」
「ほ、本当ですか!?」
「……正直にいえばこの血に対する嫌悪は消えてません。ですが、このまま私だけ置いて行かれるのが1番嫌だから」
握っていた手は僅かに震えていた。きっと朱乃にとってこの選択肢は決意しても今なお躊躇うほどに負担のかかることなのだろう。
「だから、イッセーくん、もし私が堕天使の力を使えたら、褒めてくれますか?」
「え?あ、はい!俺でよければ!」
イッセーの答えに朱乃はうれしい、と微笑む。
潤んだ瞳。
上気した頬。
そして艶やかな唇。
朱乃は、自ら唇を一誠の唇に重ねた。
「迷った……」
ゲームが始まる前に用を足してトイレから出てきた一樹は元の道がわからなくなり天井に視線を移す。
黒歌が冗談交じりについて行こうか?などと訊かれた際に幾つだよ俺は?と苦笑したのだが。モノの見事に迷った。
「ま、人を見つけて道訊きゃいいか」
それまで適当に歩いて、と考えていると後ろから声をかけられる。
「よぉ」
話しかけてきたのは五分刈りのサングラスをかけたアロハシャツに数珠を首から下げた男性だった。確か先程の部屋にも居た筈だと思い出す。
男―――――インドラはサングラスをかけたまま一樹に顔を近づける。
「な、なんですか……?」
「なるほどな。もう面影はねぇが、お前さんの中には確かに
HAHAHAと笑い、意味のわからないことを言うインドラに不快感を覚えた一樹はそのまま立ち去ろうとするがその腕を掴まれた。
「まぁそう邪見にすんなよ。ここで会ったのも何かの縁だ。少しくらい話を聞いてくれてもバチは当たんないだろ?日ノ宮一樹」
名前を呼ばれて更に一樹の警戒心が上がる。だが腕を掴まれた瞬間に理解もした。
――――――強い。
圧、とでも言えば良いのか?タンニーンという強力なドラゴンとの修業のおかげか強者を感じ取る感覚が向上していた。
その感覚を信じるならここで戦えば瞬きすら許されずに殺されるだろうと感じ取ってしまった。
冷たい汗が噴き出る。呼吸は乱れ、喉が急激に乾いていくのを感じた。
「そう恐がんなよ。別に取って喰おうってわけじゃねぇ。俺はただ確認しに来ただけだからな」
「なにを……」
警戒心は既に恐怖へと変化している。相手の思惑が読めないこととあまりに開きすぎた実力差から。
「怖がらせちまったか。ま、詫びにひとつ忠告しといてやる。その鎧、誰かに請われたからって簡単に渡すんじゃねぇぞ。御先祖さまと同じ轍は踏んでくれるなよ?」
それだけ言うと腕から手を外した。
「サーゼクスたちの所に戻りたきゃここを真っ直ぐだ。さっさと戻ってやんな」
それだけ言うとインドラはトイレの中に入って行く。一樹はそのまま恐怖を振り払うように教えてもらった道を移動した。
「HAHAHA!神話の時代じゃ、俺の所為で台無しになった好カード。どうやら
そのどこか悔いるような声音は誰にも聞かれなかった。
「クソッ!なんだったんだあの人!」
あの感じ、悪魔とは違うような気がする。アザゼルが他勢力も観戦しに来ると聞いていたがもしかしたら他所の神話の
早歩きで移動しながらもうゲーム始まってるなと思い、急ぐことにする。
だが、その時一樹の視界に人影が写った。
「え?」
すぐに消えた人影。それを一樹はあり得ない。なにかの見間違いだと笑いそうになった。
だが口元を引き攣らせながら自分がアイツの姿を勘違いするはずがないという自分でもよくわからない確信があった。
すぐに走ってその人影を追いかける。
(なんで……なんでアイツが
見間違いであってほしいという願望とそんな筈はないという確信が一樹の中でせめぎ合う。
(アイツは中学の卒業で故郷の国に帰った筈だ。確か、インド、だったか……?)
だから、こんなところに居る筈はない。
その筈なのに。
『よろシクデス』
『ごめんなサイ。アナタを悪者にしてしマッテ』
『助けてクレテ、ありがとうございマス』
覚えてる。少しだけ聞き取りづらい日本語。
褐色の肌に長い黒髪。
いつも桐生の押しに困っていて。白音とも仲が良くて。
最後に桐生と白音の三人で空港まで見送りに行ったこともちゃんと覚えてる。
「マタ、日本に来たときに私を忘れないでくだサイネ?」
そう言って握手して別れたあの――――――!
走って出たのは広い空間の部屋だった。
そこがどんな意味のある施設なのか一樹は知らないし、興味もない。
今、日ノ宮一樹の目を引いているのはその中心に立つひとりの少女だ。
記憶の中よりも若干大人びた印象を受けるがここまで来てもう見間違える筈はない。
「なんで……」
責めたかったわけじゃない。ただあまりにも不可解な状況からどうしても強い口調で声が出てしまう。
「なんで、お前が冥界にいるんだよ!アムリタァ!!」
異性の親友の名を呼ぶと少女は手に、巨大な弓を手に無機質な瞳で一樹を捉えていた。
次は本当に冥界編が終わったら投稿を再開します。
早くディオドラ君のダイカツヤクが書きたい……。