太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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本作品の一誠と一樹の関係は戦友(一緒に戦う時だけ友人)です。


35話:大喧嘩

「ハイダラァアアアアアッ!!」

 

「ユニバァアアアアアアス!!」

 

 左手に赤い籠手を装着した一誠と右手に黄金の手甲をつけた一樹がぶつかり合う。

 一樹は槍で一誠の喉を狙うも一誠はそれを籠手で防ぐ。

 対して一誠も倍加したドライグの力を容赦なく一樹に振るっていた。

 

 互いに攻防を繰り返す中、一誠が一樹の槍を跳ね上げる。

 

「ボディがお留守だゼェッ!!」

 

「が、は……っ!?」

 

 くの字に曲がった体にさらに追い打ちをかけるが、一誠の拳を槍で受け止め、力の押し合いになる。

 

「純粋な力勝負で、俺に勝てるわきゃねぇだろうがっ!!」

 

 一誠の拳を押し切られ、空中に弾き飛ばされる一樹。そのまま後ろにある岩壁に激突するものと思われたが。

 

「チィッ!」

 

 くるりと体を回転させて岩陰へと着地した。

 ライザー・フェニックス戦で見せた壁移動。その技術は以前より白音から教わっていたが、冥界に来るまでこの技術を習得することはできなかった。

 ここ数日の一誠との死闘でモノにしたのだ。

 

 一誠もそれを知っていたため休みを与えずに攻撃を加えた。

 

「オラァッ!!」

 

 躱した拳が岩壁を容赦なく破壊する。

 

「調子に、乗んじゃねぇ!」

 

 一樹は即座に槍を腕輪に戻し、両の手で大きな炎の球を作った。

 それを向かってきた一誠にカウンターで炎の球をぶつける。球は爆発し、一誠の身体は爆炎と共に弾き飛ばされた。

 

「これがファックボールだぁっ!!」

 

 吹き飛ぶ一誠を見ながら中指を立てて心底スッキリしたと言わんばかりに高笑いする一樹。普段の彼を知る者からしたらドン引きの光景だろう。

 ましてや悪魔である一誠には一樹の炎は猛毒に近い効果を発揮するのだから。

 しかも追撃とばかりに無数の小さな火の球を連続で撃ち出す。

 それらを身に受けて地面へと落下する一誠。

 

「ハハハッ!ざまぁないぜ!!」

 

「ッノヤロ!!」

 

 だが一誠はドラゴンのオーラを体を覆うことにより、聖火の影響を最小限に抑え込んでいた。

 どうにか地面に無事着地した一誠は本気のドラゴンショットを放った。

 

「くたばりやがれぇ!」

 

 一樹は黄金の手甲を前に出し、十字ロックの構えでドラゴンショットを耐え凌ぐ。

 最大倍加のドラゴンショットでトドメを刺せなかった一誠はドライグから倍加の終了の知らせが届くと同時に膝をつく。

 

「クソッ!」

 

 朝からぶっ続けで死闘を演じていた一誠の体力は底を突き始めていた。

 しかし、一樹のほうもドラゴンショットの波を防いだことで満身創痍だ。

 

 それでも2人は立ち上がり、お互いの獲物を構える。

 

 

 そんな2人を少し離れた位置から見ていたタンニーンは静かに息を吐いた。

 

 

 

 

 

 それは修業という名の鬼ごっこが始まった当初。一樹と一誠はタンニーンが繰り出す攻撃の数々を死に物狂いで避けながら逃走していた。

 

「オガーザーンッ!オガーザーンッ!!オガーザーンッ!?」

 

「逃げちゃダメかなっ!逃げちゃダメかなっ!!逃げちゃダメかなっ!?」

 

「ホレ小僧ども!口を動かしている余裕があるなら少しは反撃してみろ!このままでは俺の炎に焼かれて灰も残らんぞ!」

 

『ひ、ひぎゃぁあああああああああっ!!?』

 

 吐き出される広範囲の業火。自分らをあっけなく握りつぶす腕に踏み潰す足。怪獣映画にしか存在しない怪獣がリアルで襲い掛かってくる現実に直面して正気を保っていられる者がどれだけいるだろう?

 現在襲われている2人は硬直せずに逃げる、という選択肢を全力で実行しているだけマシではないか?

 

 逃げながらも一樹はこのままじゃ埒が明かないとようやく思考が正常さを取り戻してきた。

 

「兵藤!お前、倍加はどれくらい済んだ!!」

 

「あ、あと10秒で限界まで上がるぞ!」

 

「なら、それと同時にドラゴンショットを撃て!俺もダメ押しで撃つ!このままじゃホントに殺されちまう!」

 

「わ、わかった!!」

 

 最大倍加の知らせが籠手から聞かされると一誠はドラゴンショットの構え。一樹は巨大な炎の球を生み出す。

 それにタンニーンはむ、と僅かに表情を動かした。

 

「ドラゴンショットォ!!」

 

(アグニ)よっ!!」

 

 赤龍の咆哮と聖火の炎球が同時にタンニーンの巨体に直撃した。

 

「やったぜ!」

 

 ガッツポーズを取る一誠。少なくともこれで少しはダメージが通った筈。

 そう思っていたが煙が晴れた瞬間にそれが自惚れだと思い知る。

 

 煙から出て来たタンニーンはふむ、と評価を下す。

 

「威力は中々だが溜めに時間がかかり過ぎるな。そっちの小僧の炎は聖火か。初めて受けたがまだまだ聖のオーラと火力が足らん。並の悪魔相手ならともかく、な!」

 

 お返しとばかりに吐き出された炎の球。それらが雨あられと降り注ぐ。

 再び逃走を開始した。

 

「クソッ!全然ダメじゃねぇか!なんだよアレ!色々とオカシイだろ!」

 

「文句言ってる暇があるなら走れ!つぶされる、ぞぉっ!?」

 

 最後の方に一誠と一樹の間にタンニーンのチョップが叩き込まれる。

 それだけでクレーターができた地面に2人は戦慄した。

 脇目も振らずに逃げる。

 

「おい兵藤ぉ!今回、訓練のメインお前だろ!もっと別々に逃げろよ!そうすりゃ俺への被害が減るんだから!!」

 

「今更できるかぁ!つーかサラッと俺を生贄にする案を出してんじゃねぇっ!?」

 

「どのみちこのままじゃ2人ともお陀仏だろうが!いいからさっさと別方向行けよ!!」

 

「この状況で方向転換なんてできねぇよ!それに炎を防ぐならお前の方が得意分野だろぉ!!」

 

「あんなの防げるかよ!!灰になるわ!だったらお前もあのドラゴンの手足防げよ、俺より身体が頑丈なくせに!」

 

「体重差考えろ、ミンチになるわボケェエエエッ!!」

 

 お互いに罵り合いながらも逃走は続く。そしてお互いの罵りが苛烈さを増していた。

 

「だいたいなぁ!前々からテメェのことは気に食わなかったんだよ!なんか俺にだけ当たりがキツイし、あんな美人姉妹と同居しやがってぇっ!?」

 

「気に食わねぇのはこっちの台詞だっ!同居にしたってお前部長たちと一緒に住んでんだろうが!現状で持て余してるくせに何言ってんだ!!」

 

「それとこれとは話が別だぁッ!!」

 

「何がだよ!」

 

 互いに胸倉を掴み、頬を引っ張り合いながらも一切の速度を緩めない辺り、2人の仲の悪さと現状の必死さが窺い知れるだろう。

 2人とも前を見ていなかったことが災いし、坂になっている地面に転がり落ちた。

 ある程度平坦な地面で立ち上がるが罵り合いが続く。

 

「この性犯罪者が!」

 

「犯罪云々ならお前だって隠れて飲酒してんだろうが!」

 

「それに関しちゃ人様に迷惑かけてねぇ!大体お前、自分だけ良い思いしようとして元浜や松田から最近ハブられかけてるくせに!」

 

「言うんじゃねぇ!ちょっと気にしてんだからよぉ!!」

 

 オカルト研究部入部してからというもの、学園の二大お姉さまと一緒の時間を過ごしたり、転入生のアーシアと同居していることから以前はつるんでいた2人から若干距離を取られていた。

 これは、以前に魔法少女に憧れる漢、ミルたんを紹介したり、リアスの胸などを揉んだことを自慢げに話していたことも原因であり、自業自得な面もあるのだが。

 

「お前こそ部長から聞いてんだぞ!中学で女の子の顔をガチで潰すようなヤバい奴が人を犯罪者扱いできると思うなよ!」

 

「俺にだって堪忍袋の緒が切れることだってあるんだよ!」

 

「開き直ってんじゃねぇぞ、このプッツン魔ぁ!!」

 

 河原に出ていた2人はお互いに罵り合いながらも殴る蹴るの応酬を緩めない。

 もはやタンニーンの存在など忘れ去っているのかもしれない。

 

「そもそもなぁ!お前が近頃女に好意的に接せられるのはドライグのおかげだろうが!なんせドラゴンのオーラは異性を引き付けるらしいからな!お前自身に魅力が出来たと思ったら鼻で笑うわ!!」

 

 一樹の発言に一誠の表情がピキッ歪む。

 ドラゴンのオーラは異性を引き付ける。それをドライグから聞いた時は正直これでモテるとはしゃいだものだが、いざ冷静になって考えてみると彼女たちの好意がそれが原因だと考えると哀しくなってきたのだ。

 そもそも一緒に暮らしているアーシアはともかく、朱乃が急接近してきたり、ゼノヴィアが子作りしようと言い出したりしたのは自分に好意がある訳でなく、ただドライグのオーラに中てられているだけなんじゃないかと不安になることがある。普段は考えないようにしているが。

 

「その中坊みたいな面構えをお前に傷モノにされた女の子に代わって俺が潰してやらぁ!ついでに白龍皇の力でただでさえ低いお前の身長を半減してやるよぉ!!」

 

 半泣きになって一誠の返しに一樹のコンプレックスが刺激された。

 

 一樹の身長は一誠より10センチほど低かったりする。顔も童顔から制服を着てないと中学生に見られることも少なくない。

 それでも普段なら流せる暴言を興奮状態にある今の一樹ではとても無視できない発言だった。

 その結果。

 

『ぶっ殺すっ!!』

 

 酷くくだらない理由で赤金の死闘は開幕された。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿だろアイツら……」

 

 タンニーンから説明を受けたアザゼルは煙草の紫煙を吐き出して2人の喧嘩をそう断じた。

 その後、タンニーンとの追いかけっこが終わると決まって些細なことで喧嘩が始まり殺し合いに発展するのだという。というか状況に慣れれば慣れるほど追いかけっこの最中にいがみ合うことも増えた。

 気絶や眠ろうものならその隙に攻撃されることもある。

 本当に休めるのはお互いに精も根も尽き果てた時だけだった。

 もっとも本当に拙いと判断したらタンニーンが直々にストップをかけていたのだが。

 

「だがそう無駄でもないぞ。俺にただ追いつめられるよりお互いの技術は間違いなく磨かれている。やはり実力が近い者が傍にいると刺激になるな」

 

「それでもアイツらがバカやってることには変わりないけどな……」

 

 ボロボロの2人を見ながらアザゼルはアーシアを呼ぶか、と一旦グレモリー邸に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 河原に行きついたところで体力の限界に近づいていた2人は互いにくの字にして立っていた。

 一樹は槍を杖にして一誠の近くまでゆっくりと移動する。

 そして野球のバッターのようなフォームを取った。

 

「うおぉおおおっ!!ウッディ!」

 

 その叫びにどんな意味があったのか。振るった槍の柄は一誠の顔面にヒットし、一誠が仰向けに倒れる。

 へへへと笑いながらふらふらと近づくと一誠が手に掴んだ石を一樹の頭に投げつけた。

 一誠はとりあえず手元に拾える石を掴んでとにかく投げ続ける。

 

「っのやろ……!」

 

 一樹も手にしていた槍を投げつけた。

 投げた槍は回転しながらも柄が一誠にぶつかる。

 再び倒れた一誠の頭を掴んで河に突っ込ませた。

 しばしもがいていた一誠は一樹の横っ腹に拳を叩き込んで拘束を緩めさせると河から脱出すると、今度は体当たりをかまして一樹を河に落とし、その顔を河の水に押さえ込んだ。

 

 だが、一樹は伸ばした手で一誠の腕を掴み、炎を発生させて手を外させると起き上がる勢いで相手の顎に頭突きを喰らわせて起き上がる。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 お互いに呼吸を乱しながらも引かずに拳を握る。

 

「死んでしまえ、色情狂……!」

 

「くたばれ、アル中暴行魔……!」

 

 拳が交錯する瞬間に2人の頭を誰かが掴んだ。

 

「いい加減にしろ、お前らっ!!」

 

 2人の頭を掴んだ人物であるアザゼルはそのまま河原の地面に叩きつけた。

 体力が限界だったこともあり、2人はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一誠が目を覚ますとそこは先程の河原で祈りの姿勢をとっているアーシアが目に入った。それを見てあぁ、絵画とかに描いてある聖母ってこんな感じなんだろうな、と密かに感動した。頭が覚醒していくとガバッと起き上がる。

 

「アーシア!!」

 

「イッセーさん!目が覚めましたか!」

 

 起き上がった一誠を見てアーシアは胸を撫で下ろす。

 見ると、アーシアを中心に緑色の光が円状に展開されており、左右に一樹と一誠が寝かされていたらしい。

 しかし今のイッセーにはそんなことはどうでもよかった。

 

「うおぉおおおおっ!?アーシアァアアッ!!」

 

「い、イッセーさん!」

 

「アーシアだぁ!女の子だよぉ!久しぶりの柔らかい感触ぅ!」

 

 涙を流しながらアーシアに抱きつく一誠。

 

 ここ数日、傍にいるのは気に食わない同性と巨大なドラゴン。女の子という彼にとって大切な精神的な栄養を失っていた一誠はすっかり異性に飢えていた。

 その一誠の声で一樹の意識も覚醒する。

 痛そうに顔を歪めて頭を押さえる一樹は近くで抱き合う2人を視界に入れた。

 

「この変態は……早速セクハラとか……」

 

「起きて第一声がそれかよ!?お前には目の前に女の子がいる感動がわからねぇのか!!」

 

「……しるかよ」

 

「まったくお前らは……」

 

 そこで、呆れた声が耳に届き、2人はアザゼルの存在を認識する。

 

「タンニーンと修業してる筈のお前らがなんで殺し合いに発展してんだよ?これじゃあ、ゲームどころか死人が出るじゃねぇか……」

 

『だってこいつが!?』

 

 一誠と一樹が同時に指をさして同じことを言うが相手も同じことを言おうとしたとして、体に掴みかかる。

 

 それを見てアザゼルが手を叩いて止めさせた。

 

「だから止めろっつうの!いい加減にしねぇと、お前らの弁当、俺が代わりに食っちまうぞ!」

 

 手にした弁当を見せると2人の胃が同時に鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うみゃい!うみゃいよぉ!?」

 

「そっちの朱乃が作った弁当も食ってやれよ。アーシアと2人で火花散らしながら作ってたんだから。一樹お前は……言うまでもないな」

 

 一誠の弁当はアーシアと朱乃が作った弁当を一樹は白音が作った弁当を黙々と食べていた。互いに重箱サイズだ。

 なんせ山籠もりしてから基本口に入れるのは焼き魚かここらで生えてる人でも食べられる木の実に限定されている。2人とも文明的な食事に飢えていた。

 

「さっきの喧嘩を見てたが、お前らもやってることはともかくちったぁマシになったじゃねぇか。ここに来る前とは別物だぜ?」

 

「あったり前でしょうが!ドラゴンのおっさんに追いかけ回されるわ!気を緩めたら日ノ宮が襲いかかってくるわ!四六時中気を張ってねぇとガチで死ぬんだよぉおおおおおおっ!?」

 

 一誠の叫びを無視して一樹はアーシアに気になることを訊いた。

 

「そいや、さっきアーシア俺と兵藤の2人を同時に治してなかったか?」

 

「あ、はい。どうにか自分を中心に治療の範囲を拡大させることには成功しました。まだ、それも狭いですし、回復の力は飛ばすことはできませんが」

 

「いや、すごいよアーシア!こんな短期間にそこまで成長出来てたなんて!」

 

 すごいすごいと褒める一誠にアーシアは頬を赤くして嬉しそうにはにかむ。

 

「それにしても俺死んじゃいますよ!おっさん手加減してくれないし!俺、童貞のまま死んじゃいますって!」

 

「馬鹿が。お前らが死なんようにちゃんと手加減していただろう?そうでなければ初日で2人まとめて骨すら残らんさ。まったくリアス殿の兵士になりたい悪魔が冥界にどれだけいたか。今のままでは赤龍帝としても、リアス殿の兵士としても名折れもいい所だ」

 

「だからって基本人間サイズの俺らじゃ怪獣サイズのおじさんとじゃ勝負にもならないじゃないですか……」

 

 愚痴るように呟く一樹にタンニーンが答える。

 

「赤龍帝の小僧が禁手に至ればある程度は勝負になるだろうさ。聖火使いの小僧。この数日で確実に下地は積み上がっている。今はまだ、それが目に見える形として実感できんだけだろうよ」

 

 タンニーンの評価に一樹と一誠は唸り声を上げる。

 そんな中で一誠は思い出したかのようにアザゼルに質問する。

 

「そういえば、会談の時の最後にヴァーリの奴は何をやろうとしてたんですか?」

 

「ん?あぁ、覇龍のことか……」

 

「それって禁手のさらに上とか?」

 

「いんや。神器に禁手の上は存在しねぇ。禁手ってのは神器の最終形態だからな。だが魔獣やらドラゴンやらが組み込まれた神器には独自の制御が施されている。お前ら二天龍の神器にもな。覇龍ってのは二天龍の力を強制的に引き出して神や魔王に迫るパワーを与える。リスクとして寿命と理性を大きく削るがな」

 

「それって暴走ってことですか?」

 

「あぁ。覇龍で暴走した歴代の二天龍の使い手を何度か見たが、どれも敵も味方もぶっ殺してぶっ壊してって酷いもんだったぜ。ま、どの宿主も人間だったから覇龍が解けた瞬間に死んじまったがな。ヴァーリの奴は膨大な魔力のおかげで数分間だけ覇龍を制御できるようだが、あの時のアルビオンの様子からまだリスクが高いようだな」

 

 アザゼルの説明に一誠は息を呑んだ。あのヴァーリでさえ未だ手懐け切れていない力。それがどれほど過酷な道なのかを想像して。

 そんな一誠の手をアーシアが不安げに握る。

 

「大丈夫だ、アーシア。俺は覇龍になるつもりはないからさ。なんせ寿命が削られるんだろ?ただでさえ白龍皇の力を移植して削っちまったんだ。夢のハーレム王になってすぐに死んじまうなんてゴメンだ」

 

「ま、それが賢明だな。暴走ってのは自分だけじゃなく周りまで傷つける。その果てはきっと何にも手に残らない結末だ。そんなものにお前らが手を伸ばす必要はない。そのために俺がいるからな」

 

「だが、白龍皇は既に覇龍に手をかけているか。ならば、更なる修業が必要だな。今までの二天龍の主たちはどれだけ先に力の制御に成功していたかで勝敗が別れていた。ある意味早い者勝ちだ」

 

 タンニーンの言葉に一誠はガクッと肩を落とした。

 そこでアザゼルは話題を変えた。

 

「そういや、イッセー。お前、朱乃のことどう思う?」

 

「良い先輩だと思いますよ?」

 

「そうじゃなくてひとりの女として、だ」

 

「すっごく魅力的です!!彼女になって欲しい人のひとりです!」

 

「お前の辞書の彼女と俺の辞書の彼女の意味は絶対違う」

 

「……イッセーさん」

 

 一誠の即答に一樹は呆れと軽蔑の眼差しを送り、アーシアは頬を膨らませてその頬を抓る。

 そしてアザゼルはそんな一誠にうんうんと頷いた。

 次に真面目な顔をして朱乃の現状を話す。

 

「実はな。朱乃の奴がかなり焦っていて、無茶な訓練を繰り返してる」

 

「朱乃さんが!?」

 

「あぁ。どうやら修業前に俺に言われたことがかなり堪えてるらしくてな。意地になって自分の血を受け入れねぇわ。休みなく雷撃をぶっ放してるわ。リアスの奴が強制的に休みを取らせてるが内心の苛立ちを隠しもしねぇ」

 

 舌打ちするアザゼルの言葉を聞いて一誠たちは絶句した。

 朱乃と言えばオカルト研究部で無理をしている自分を一番曝け出さないイメージがあったからだ。

 朱乃が堕天使の血を引いているという話はあの和平会談の後に一樹や白音も本人から聞いていた。その時は、ふぅんとしか思わなあったが。

 

「朱乃は神の子を見張る者の古株である俺のダチのバラキエルの娘でな。あいつらは何年も前から擦れちまってる。2人からしたら余計なお世話かもしんねぇが、それになりに気になっちまうのさ。だが、お前の答えを聞いてちょっと安心したぜ。当面はお前に任せても良さそうだ」

 

 肩に手を置かれた一誠は訳が分からずに首を傾げた。

 それに一樹がボソッと一言。

 

「兵藤をそのバラキエルさんに紹介した瞬間に溝が深くなりそうな気がしますけどね」

 

 弁当を食べ終わってお茶を飲む一樹に一誠が突っかかった。

 

「お前はだからなんでそんなことばかり言うんだよ!」

 

「だぁ、口の中のモンこっちに飛ばすんじゃねぇ!」

 

 そこで腕で振り払ったときに事故が起こる。

 

「あ」

 

 一樹の振るった腕が一誠が手にしていた弁当に当たってまだ半分ほど残っていた弁当を落としてしまったのだ。

 ひっくり返ってしまった弁当を一誠は絶望の表情で見下ろす。

 

「わ、わりぃ、兵藤。流石に今のは俺が悪かった……」

 

 珍しく心から謝る一樹。

 ここ数日にどれだけ酷い食生活を送って来たか一樹も身に染みている。

 ましてや作ってくれたアーシアや朱乃にはなお悪いことをしたと罪悪感を覚える。

 

 プルプルと震えていた一誠は、地面に落ちた弁当の中身を手掴みで拾って無理矢理口の中に放り込んだ。

 

「お、おい兵藤……?」

 

 全てを胃に流し込んでこちらを振り向いた一誠は赤い涙を流して憤怒の表情を浮かべていた。

 

「ひ~の~み~や~!お~ま~え~は~!!」

 

『相棒……お前まさか!?』

 

「今日という今日は、ゼッテェ許さねぇッ!?」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

『おぉおおおおおい!?この相棒、弁当落とされたくらいで禁手に至りやがったぁ!?さすがの俺もこんな馬鹿な禁手の到達初めてだぞぉ!?』

 

 驚きと若干の呆れが混じった声と共に一誠はヴァーリ戦で見せた赤い鎧が装着される。

 

「お前の罪を俺が裁いてやらぁ!!!」

 

 怒りと共に赤き龍が咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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