—————貴女が次代のレヴィアタンになるのです。
四大魔王のひとり。レヴィアタンが戦争で亡くなった時、カテレア・レヴィアタンは母からそう言われた。
まだ幼かったカテレアは母の言われるがままに次のレヴィアタンに成るべく修練を積んだ。
魔力の制御。戦闘の訓練。知識の吸収。作法の習得
生まれつき多大な才能を持っていた彼女はそれに奢らず、一途に誰よりも修練に励んだ。
それこそ血を吐くなど日常的だったし、あまりの鬼気迫る苛烈さからレヴィアタンに成れと言った彼女の母までもが訓練にストップをかけるほどに。
しかし、同世代の同性悪魔でカテレアが勝てない相手が存在した。
セラフォルー・シトリー。
氷の魔法を得意とする自分と同じレヴィアタン候補である女悪魔。
戦場に出れば自分よりも多くの敵を屠り、多くの味方を守る。
自分より、常に一歩も二歩も前を行く彼女に嫉妬の念を覚えなかったと言えば嘘になる。
しかしカテレアはむしろ自身の不甲斐なさを恥じ、才能の所為などと逃げず、一層に力をつけることに時間を注いだ。
一緒に戦場を駆ける内に、セラフォルーはカテレアにとって越えるべき壁となっていたのだ。
まるでセラフォルーを越えられないことが己が罪と言わんばかりにカテレアは努力を続ける。
しかし一度としてカテレアがセラフォルーに勝てると思える場面はなかった。
そのことに同じく魔王の血を受け継ぎ、交流の深かったクルゼレイ・アスモデウスからは同情と憤りの言葉をかけられたがその度にカテレアはただ自分の力不足が悪いのです、と告げた。
才能の差などあって当然。ならば努力で補えばいい。たとえ今は劣っていたとしても自分はセラフォルー・シトリーを超えられる。
少なくともカテレアはそう自分の可能性を信じていたし、劣等感はあっても鬱屈とした感情はなかった。
そうして長い戦争で力を疲弊させた三勢力は停戦を決定。それに最後まで反発した旧魔王派との決裂により内乱に突入。
カテレアもレヴィアタンの血を継ぐ者としてクルゼレイに旧魔王派に来るようにと打診を受けたが彼女は首を縦には振らなかった。
客観的に見てこれ以上の疲弊は種として自殺行為だし、疲れ切った悪魔陣営は力を蓄えるのが急務だとむしろ旧魔王派たちを説得した程だ。
その答えにクルゼレイは顔を顰めたが、最後にはカテレアの言い分を認め、無理に連れて行こうとはしなかった。
ただ、出来ることなら内乱で会わないようになればいいと握手をして別れた。
内乱の結果、現魔王政権の勝利で終わり、生き残った旧魔王派は冥界の僻地へと追いやられた。
それからしばらくして失った四大魔王を新たに据えることが決まる。
各魔王には戦争中。そして内乱で大きく戦果を挙げた者たちが選ばれる。
その全員が当時悪魔として若手ばかりだったのが話題の種となった。
そしてレヴィアタンに選ばれたのはセラフォルー・シトリー改め、セラフォルー・レヴィアタンだった。
その発表を見た時にレヴィアタンが真っ先に思ったのはやっぱり、という胸の内にストンと落ちた晴れ晴れしさだった。もちろん悔しさがまるでないわけではなかったが。
自分より実力が上の女悪魔。彼女が選ばれたのは必然であり、むしろ実力の劣る自分が選ばれていたらカテレアは疑心暗鬼になっていたかもしれない。
だからむしろ彼女が次のレヴィアタンで良かったと安堵の気持でセラフォルーに祝辞の言葉を述べた。
家の者。特にカテレアの努力を知る母は泣き崩れるほど悲嘆したが責められるのはセラフォルーを超えられなかった自分自身と何度も説得する内に落ち着いていった。
レヴィアタンの名を受け継ぐことは叶わなかったがせめてその名を近くで支えようとカテレアはセラフォルーの側近に志願した。
旧レヴィアタンの彼女が現レヴィアタンの側近になることを危惧する者たちも少なくはなかったが、セラフォルー自身が承諾したことで最終的には受け入れられることとなる。
それからセラフォルーの側近として充実した日々を送っていたある日、彼女から最悪な連絡がきた。
『マジカル☆レヴィアたん☆見てね☆』
内容は省略しているが要は何らかの作品を作ったのでカテレアにも観て欲しいという連絡。
これが、カテレア・レヴィアタンの大きな転機となる。
魔法少女レヴィアたんと名付けられた番組を視聴した時、彼女は只々理解できなかった。
やたらフリフリとした衣装で奇怪な杖を振り回し、敵を倒すセラフォルー。
民衆に媚び売るような演技。
なによりレヴィアたんというふざけた名前。
只々不快だった。
その後彼女からメールが来てこともあろうに。
『マジカル☆レヴィアたん☆面白かった?感想を聞かせて欲しいな☆』
などと送られてきた。
この時、初めてカテレアはセラフォルーを憎悪した。
確かに彼女は上に立つ者として少々緊張感が足りない部分はあれど、それも魔王という責任を負えば時期にその名に相応しい風格が身に付くと思っていた。
しかし彼女にとって魔王レヴィアタンとはただの人気取り。
自分がチヤホヤされる為の襲名に過ぎなかったのだ。
幼い頃から自身が焦がれていたモノをその程度にしか見ていないと理解したとき、彼女はテーブルに置いてあったワインの瓶を壁に叩きつけるほど激怒した。
それからカテレアはセラフォルーからレヴィアタンの名を降ろすように嘆願書を提出。
しかし、現政権からはその嘆願は受け入れられることはなかった。
むしろカテレアをやはり旧魔王派の人間か、として冷遇するようになっていく。
それから彼女は今まで嗜む程度にしか飲まなかった酒を浴びるように飲むようになり、画面にセラフォルーが映る度に心中を搔き乱す。
憎かった。セラフォルー・レヴィアタンが。何より彼女の本質を見抜けなかった自分自身が。
そうして酒に溺れるようになった時だ。クルゼレイから連絡を受けたのは。
彼からは今、旧魔王派が現政権から独立しようとしていること。
その為に無限の龍神の助力を得たことを説明された。
もう一度、民衆に真なる魔王を魅せよう。
そう言われたとき、彼女の中で次の生きるべき目標が見えた気がした。
これは復讐なのだ。レヴィアタンの名を穢す愚かな売女を引きずり降ろす為の。
その為なら、自分はなんだってなろうと、そのクルゼレイの手を取った。
槍と棍が激突する。
一樹は防戦一方でありながらも徐々に美猴の棒術に対応していっていた
美猴の突きに合わせて槍を動かし、僅かに逸らして回避を成功させ、そのまま炎を纏った槍の矛先を振るった。
(やりやがるぜぃ!この戦いの中でも着実に成長してやがる!)
槍を躱しながら心の中で目の前の敵を称賛し、口元が吊り上がる。
先程の突きはこの戦いを始めたばかりの一樹では対応できないほどの速度で繰り出されていた。
それをただ防ぐだけでなく逸らすことさえ可能にして反撃にまで転じた。
(それに……)
一樹の槍の隙間を潜るように突撃し、内部に力を通す打撃を放つ白音も厄介な存在だった。その小柄な体躯にスピードだ。身を沈めて近づいてくる白音の存在はそれだけで当て難い。
それも2人は戦えば戦うほど連携を深め、個人としての技量も高められている。
もっと強くなった2人を見たいという気持ちはあるが、流石にこれ以上時間はかけられない。
(それに、こんなショボい場で決着を着けるってのもな)
美猴にとってこの戦場は云わば寄り道。そんな暇潰しでこの2人を潰すには余りにも惜しい。
「ハッ!」
白音が突き出した掌が美猴の腹に突き刺さる。
本来なら、ここで美猴の気穴や内臓にダメージが通る筈だが。
「甘いぜぃ、嬢ちゃん!」
美猴は白音の腕を掴み上げた。
「俺っちも仙術使いだ。その手の攻撃に対策が出来ない訳ねぇだろ!」
そのまま白音の身体を蹴り飛ばす。
「白音!?」
「緩めすぎだぜぃ!」
如意棒を伸ばし、一樹を襲うが、黄金の手甲でガードする。その腕を振るって弾くと同時になにかに気付いて美猴から視線を外した。
「姉、さん……?」
一樹の視線の先には胸を貫かれた黒歌が映っていた。
向かってくる魔力の奔流。その激しさに黒歌は逃げ回っていた。
「ハハハハハッ!!これがオーフィスからもたらされた力!!」
「だから貰い物の力で偉そうにするなっての……!」
黒歌も妖術で生み出した炎や雷で応戦しているが相手の障壁を破れるほどの威力に届いていない。
それでも攻撃の合間を縫って印を結び、攻撃を繰り出す。
雷槍を生み出してカテレアに投げつけるがやはり障壁に阻まれてしまう。
(やっぱり直接的な攻撃じゃダメね。なら————―!)
黒歌が腕を振るうと霧が発生し、2人を包み込んだ。
「対悪魔用の特製毒よ!これなら少しは効くでしょ!」
周りに被害が及ぼさないように注意を払いながら自分とカテレアのみを包むように毒霧を展開する。
この毒自体殺傷能力はなく、息を吸い込むことで体を痺れさせる程度だが、出来るなら敵を捕らえたいと考えての判断だった。
「嘗めるな!」
しかしカテレアが放った魔力の波動により消し飛ばされる。
「うわぁ……流石にちょっとマズイわね……」
「オーフィスの力を手にした我々の力は現魔王すら凌駕します。まぁケダモノ風情にしては楽しめましたが、ここまでのようですね。消えなさい」
杖から発射された魔力の矢が飛び、それが黒歌の胸を貫き、口から血を吐き出す。
「精々あの世で誇りなさい。この私に蛇を使わせたことを」
カテレアは歪んだ笑みを浮かべて地に膝をついた黒歌を見下ろす。
些細な抵抗を続ける黒歌の胸を穿ったことでカテレアの溜飲はある程度下がっていた。
思えば、黒歌の雰囲気がセラフォルーに似ていることもあり、ムキになっていた感は否めない。代償行為と言われれば否定できないこと幼稚な行為だがそこまでの考えは今のカテレアには至っていなかった。
そして今にも終わりそうな命の中で黒歌は口元を吊り上げる。
「何が可笑しいのです……死ぬ寸前に気でも狂いましたか?」
「ここまで見事に騙されてくれたことに呆れてるだけよ。ばーか」
「なにを————!?」
瞬間、黒歌がボンッ、と煙になって消えた。
驚く間もなくカテレアの胸から突然刃が生えた。
「グッ!?」
今度はカテレアが吐血し、後ろに振り向くとそこには宝剣を手にしている黒歌が立っていた。
「影分身。幻影じゃなく、実体を作り出す高等妖術のひとつよ。本体より力が大分劣化するのが難点だけどね」
「いつの、間に……」
「リアス・グレモリーたちが現れた時よ。砂埃が巻き上がった瞬間に分身体を作り出して仙術の隠形で身を隠させてもらったわ」
説明を終えると黒歌はカテレアから剣を引き抜く。
「念の為に刃には毒を仕込んだ。心臓を貫かれた以上、助からないでしょ」
「ふざ、けるな。私は、真なるレヴィアタン、だ。それが貴女のようなケダモノ風情に……」
怒りで美貌を歪めるカテレアに黒歌は溜息を吐いた。
「もしあれが分身体だと気付いていれば敗北していたのは私だったわ。でも蛇の影響で判断力を低下させたのが仇となったわね」
「何を……」
「確かにオーフィスの蛇とやらの効果は絶大だった。でもその反面、気分の高揚で判断力と思考低下を招いていた。横で観察させてもらってる間にデータを集めさせてもらったわ」
淡々と説明する黒歌にカテレアの表情はさらに歪む。
敵を倒す事も出来ず、剰え情報まで与えてしまった。
それも本来の目的でもなんでもない獣人の女などに。
屈辱を感じたカテレアが最後の力を振り絞って黒歌を道連れにしようと迫る。
だが、やはりこうした搦手は黒歌の方が一枚上手だった。
黒歌が雷撃を浴びせてカテレアの動きを封じる。
「死ぬならせめて敵と心中ね。往生際が悪いというか。芸がないというか」
黒歌の表情には嘲りの色はない。ただ、そこには呆れの顔だけがあった。
「……クソ。ごめんなさい……ル……ナ……」
その呟きが何を、誰を指していたのか。それは黒歌には与り知れないことだった。
ただ事実は、カテレア・レヴィアタンはここで絶命したということだけ。
胸を貫かれた黒歌を見て一樹は一瞬理性が飛びかけたが、それが
「あーらら。カテレアがやられちまったか。となると俺っちたちも撤退かねぇ」
美猴も同じ方向を眺めていて肩を竦めた。
「どういう意味だ?」
「言葉通りさ。俺っちたちはカテレアの三勢力暗殺を手伝うためにここにいるんだぜぃ。そのカテレアが殺られた以上、俺たちがここにいる意味がないだろ?」
「……逃がすと思うか?」
「逃げられないと思うか?」
睨み合う中、先に動いたのは一樹だった。
こいつには白音を蹴り飛ばされた分を返しておかなければ気が済まない。
そう思っての行動だったがその時、一樹に変化が起きた。
一樹が身につけていた黄金の籠手と胸の部位に埋め込まれた宝石や金属が消える。
「あ……」
すると一樹は全身から虚脱感に襲われ、膝をついた。
呼吸を乱しながら混乱する一樹。
「どうやらそいつは相当体力を消耗するらしいな。気の乱れがひどいぜぃ」
そう言って膝をついた一樹を蹴り飛ばす。
「決着はいずれ着けるさ。それまでに自分の力をもっと磨いてきな。楽しみにしてるぜぃ」
その言葉を最後に美猴はこの場を去って行った。
さっき、アザゼルとヴァーリが戦闘しているのが見えた。
今は一誠と戦っているようだが。
そちらに向かったということは、もしかしたら美猴はヴァーリの仲間なのかもしれない。
だが今の一樹にはそんなことはどうでもよくて。
「クソが……!情けねぇ……」
今は立ち上がる事も出来ず、意識を落とさないようにするので精一杯だった。
新しい力を手に入れてもこのザマ。
それがとてつもなく惨めに思えた。
赤と白の戦いは常時一誠が押される形だった。
「まるで猪だな。先ほどの怒りで龍のオーラが跳ね上がったが、それだけだ。単純でなんの捻りもない攻撃。弱すぎてどうしようか逆に悩んでしまうよ」
こちらが1発の拳を繰り出す間に向こうはご5発の拳を繰り出してくる。
しかも一撃一撃の重さは段違いだった。
『相棒。奴の能力で減らされた力は俺の力で戻せるが、元々の実力差まではどうしようもない。このままでは負けるぞ』
「……ドライグ。俺さ、確かに戦う才能はないかもしれないけど、打たれ強さだけと我慢強さにはちょっと自信があるんだ」
『相棒?』
「これ以上、君に時間を与える意味はなさそうだ。悪いが、その首を落とさせてもらうよ」
宣言し、向かってくるヴァーリ。
一誠は防御の姿勢を見せた。
ヴァーリから放たれる拳。
それを喰らいながら一誠は意識だけは失わないように頭を守る。
「亀のように縮こまって!そんなに自分の命が惜しいのかい!」
「……」
一誠は答えず、ジッと待つ。
「つまらない!つまらないな!君が俺のライバルで本当に残念だよ!」
そうして大振りになった拳。
それが鎧に当たった瞬間、一誠はヴァーリの腕にしがみついた。
「なに!?」
「肉を切らせて骨を断つってな!集中すりゃあ、テメエの攻撃を一回ぐらいは対応できるんだぜ!!」
言って掴んでいた腕の片腕を放す。その時一誠は合宿で白音が言っていたことを思い出していた。
『いいですか、兵藤先輩。攻撃を狙う時は頭よりも胴体です。頭部というのは小さく、上下左右に動かしやすい上に目がついていますから躱され易い部位です。ですが接近戦で胴体は避け難い部位に当たります。まぁ、頭に比べて弱点とは言えない部位ですが、兵藤先輩は赤龍帝の籠手があります。動体部位でも充分一撃必殺が狙えるんです』
何度もそう説明してくれた頼もしい後輩。
その教えに倣って一誠が狙うのはヴァーリの胴体。
右拳を敵の胸に叩き込むとヴァーリが吹き飛ばされた。
「どうだ!あの白い鎧、ぶっ壊してやったぜ!」
『それもすぐに復元するがな。しかしどうする?こんな手が何度も通じる相手でなし。通じたとしてもその前に確実に相棒が死ぬぞ?』
ドライグの忠告は一誠にとってもわかっていたことだった。
それに禁手になっていられる制限時間もある。なにか決め手を見出さなければいけない。そんな時、一誠は足元に転がっていたそれを拾った。
『相棒?』
「なぁドライグ。神器ってのは宿主の想いに応える力があるんだよな?だったら今の俺のイメージすることは可能か?」
一誠のイメージを受け取ったドライグの息を呑む音が聞こえた。
『中々危険なイメージだな。だが面白い!このまま殺されるのならば万が一の可能性に賭けるのも一興か!!だが相棒、失敗すれば死だ!その覚悟はあるか!!』
「死ぬ気はないさ。まだ俺はハーレム王になるどころか彼女のひとりも出来てねぇんだ。童貞のまま死ねるかっての!それでもあの野郎を超えられるんならやってみる価値はあんだろ?言ったろドライグ。俺は打たれ強さと我慢強さだけは自信があるって!!」
『フハハハハッ!!いい覚悟だ!ならば俺も覚悟を決めよう!我は力の塊と賞された赤き龍帝!奴の力の一部くらい、従えて見せようさ!!行くぞ、相棒!否っ!兵藤一誠ッ!!!』
「なにをするつもりだ?」
「決まってんだろ。お前の力を貰うんだよ!」
すると一誠が手に持っていた物。白龍皇の鎧の一部である青い宝玉が一誠の鎧へと吸いこまれる。
その瞬間、一誠にかつてない激痛が走った。
「ギィッ!?ギ、アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」
発狂してしまいそうなほどの激痛。この痛みに比べれば今まで戦いで受けた攻撃など、大したことが無いように思えるほどの苦痛と激痛だった。
「俺の神器の力を移植する気か!?」
『馬鹿な!?そのような物が成功するはずはない!?相反する力が融合するなど!?』
『随分と頭が固いな、アルビオン!』
『なに!?』
『俺たちは今まで宿主を替えて同じことを繰り返してきた。ただ
「俺の想いに応えろ!ドライグゥウウウ!!?」
『Vanishing Dragon Power is taken!!』
その賭けは成功した。
一誠の赤かった右の籠手は白く染まる。
『馬鹿な……』
「へへへ、【
『あり得ん!?こんなことが……!?』
「可能性は少しだけあったさ。木場は聖と魔を融合させた聖魔剣を創った。なら、赤と白の力が混じり合う可能性だって0じゃない。お偉いさん方が言うなら、システムエラーとかバグの類だろうけどな」
一誠の説明にヴァーリは感心したように言った。
「なるほど、神器プログラムの不備を利用したか。だが、代償として確実に寿命を縮めたぞ。いくら悪魔が永劫に近い寿命を持つといえど……」
「一万年も生きるつもりはないさ。やりたいことは山ほどあるから千年は生きたいけどな。それにどうせここでお前に殺されるんなら可能性に賭けた方がマシってもんだろ」
一誠の答えにヴァーリは拍手を送った。
「おもしろい。なら俺も本気を出そうか。もし俺が勝ったら君の周りにあるモノ全てを半分にして見せよう」
「あ?どういう意味だ?」
「無知は怖い。知らずに死ぬのも悪くないかもしれないな!」
『Half Dimension!』
白龍皇の音声が響くとヴァーリの白いオーラが眼下の木々に向けられる。すると木々の太さが半分になってしまった。
それだけでなく周囲の風景も圧縮されたように半分になる。
そのことに驚いているとアザゼルから説明が入った。
「赤龍帝、兵藤一誠。お前にも解るように説明してやる。いいか、もしあの半分の力が本気になったらリアス・グレモリーを含むお前の周囲にいる女たちのバストが半分になる」
その言葉が耳に届き、脳内で理解されるまでの瞬間、一誠の動きが止まった。
おっぱいが半分になる。
それは兵藤一誠にとって明日から硫酸の雨が降ると言われるほどの地獄だった。
狂信者が自身の神を崇めるがごとく彼にとっての崇拝対象。
それが全て半分にされる。
かつてないほどイッた表情を見せた一誠の眼球がギロリとヴァーリを捕えると彼はそこで爆発した。
「ふっざけんじゃねぇぞてんめぇええええええええええええええええええッ!!!!!?」
これまでとは比べ物にならないオーラを爆発させ、ヴァーリでさえ一瞬見失うほどの速度で突っ込んだ。
「ぶっ倒してやる!ぶっ壊してやる!二度と転生できないくらい完璧に消滅させてやるぅううっ!!」
一誠が右手で殴る度にヴァーリの力は奪われ、生来のドライグの力で一誠の力は跳ね上がって行った。
周りにクレーターが出来、旧校舎も破壊されていく。
「おいおいマジかよ!主様の胸が小さくなるかもしれないって理由でドラゴンの力を引き出しやがった」
「あ、あの子は……」
そんな一誠をアザゼルは腹を抱えて笑い、リアスは頭を抱えている。ちなみにギャスパーは白龍皇のオーラに中てられて少し前から意識を失っていた。
「今日は驚く事ばかりだな。まさか女の乳でここまで力が爆発するとは……しかしおもしろい!」
一誠に向かって飛び出すヴァーリ。しかし一誠は繰り出された攻撃を難なく受け止めた。
「遅ぇっ!!」
そのまま蹴りつけてヴァーリを吹き飛ばした。
これは、白龍皇の力でヴァーリの力を奪っていることもそうだが、まだアスカロンの影響が抜け切れていないことも原因だろう。
僅かではあるが、一誠はヴァーリの上をいっていた。
一誠の頭の中で身近な女性たちのおっぱいが半分になる危機感で気が狂いそうになっていた。
彼は大きいおっぱいが好きだ。特に主であるリアスのおっぱいは彼が人生初めて見た生乳であることもあり、いつかあの感触を味わうことを夢見て日々を過ごしている。
それが半分になる。それもリアスだけでなく他の仲間たちも。
朱乃の部長以上の大きさを誇るおっぱいが。
ゼノヴィアの均整の取れた綺麗なおっぱいが。
アーシアの発展途上のおっぱいが。
白音の半分にしたら完全に膨らみがなくなくなってしまうおっぱいが。
「いやああ、だぁあああああああああああっ!!!!!?おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱいぃいい!!!」
それを想像するたびに涙と力が溢れ、叫びと共にヴァーリの身体を殴り飛ばし、最後に地面に向けて蹴りつけた。
地面に激突したヴァーリが立ち上がる。そこには嬉々とした表情を浮かべているヴァーリがいた。
「おもしろい。本当におもしろいな!」
『ヴァーリ。奴の半減の力の解析は済んだ。こちらの力の制御方法と照らし合わせて充分対処できる』
「そうか。これでアレはもう怖くないな…………アルビオン。今の兵藤一誠なら【
『ヴァーリ。それは賢い選択ではない。無暗に【覇龍】となればドライグの呪縛が解ける可能性もある!』
「願ったり、叶ったりだなアルビオン――――『我、目覚めるは覇の理に————』」
ヴァーリがなにかを唱えようとしたときに、誰かが割って入った。
「そこまでだぜぃ、ヴァーリ」
「美猴か、何をしに来た?先ほど日ノ宮一樹や猫上白音と遊んでいたようだが……」
「あぁ。あいつら、中々に見所があったぜぃ。それよりカテレアが殺られた。ならこの任務は失敗だ。俺たちがここに留まる理由はないぜぃ。時間切れさ」
惜しいけどな、と美猴はケタケタ笑う。
それにヴァーリは興が削がれたと言わんばかりに溜息を吐く。
そんな中でアザゼルが割って入った。
「まさか闘戦勝仏の末裔がテロリスト入りとはな。世も末だぜ。いや、白い龍に孫悟空か。似合いでもあるんだろうが」
「へ?孫悟空……?」
アザゼルの皮肉に美猴は肩を竦めて、手にした如意棒を地面に突き立てると黒い闇が広がり、2人が沈んでいく。
「待て!逃がすか!」
逃げようとする2人を追おうと迫る一誠。しかし彼の禁手はそこで解けてしまい、腕はボロボロと崩れ落ちる。
「アザゼル!あのリング、まだないのか!こいつらを逃がすわけにはいかないだろ!」
「あれは精製に恐ろしく時間がかかる。量産向きの道具じゃねぇんだよ。それに多用すれば完全な禁手に至れる可能性も薄れる。あくまで緊急処置だからな。それに仮にもうひとつあったとしても今のお前に禁手は無理だ」
「なに言って……!?」
突如、一誠に途轍もない疲労感が襲う。拳も握れないほどに。
「今のお前じゃ、あれだけの力を発散させれば体力がごっそり持ってかれて長時間の戦闘に耐えられない。引き出しが少ないからな」
アザゼルの説明に一誠は歯を食いしばる。
ヴァーリはまだ鎧を纏ったままだ。
一時的に超えられても長時間維持できなければ意味はない。基礎能力の差が開きすぎている。
「旧魔王の血族で白龍皇の俺は忙しいんだ。敵は三勢力だけじゃない。いずれ、再び戦うことになるだろうけど、その時はもっと激しく戦ろう。お互いにもっと強く—————」
そう言い残してヴァーリは闇の中へと沈んで行った。
それを見届けた一誠は悔しそうに表情を歪める。
「チックショウ……ッ!?」
その呟きが今の一誠の心情を物語っていた。