太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

30 / 122
今回、ちょっと言い訳を。
以前感想の返信で一樹はD×Dでいう神器持ちではないと書きました。

D×Dでいう神器は『聖書の神』がシステムによって与えた異能の一種と調べたら書いてあったので、なら、聖書の神『以外』から与えられた異能はD×Dでいう神器とは微妙に外れるのかなぁと考えてのことです。違ってたらすみません。


29話:目覚める金・裏切りの白・怒れる赤

 その存在を感知したとき、彼は歓喜に震えた。

 産まれた。

 生まれた。

 再誕()まれた。

 

 数えきれないほどの夜が明け、陽が昇り、数千年という年月の果てに彼の子が産声を上げたのだ。

 それは奇跡でさえ叶わないほどの小さな確率。

 生まれる筈のなかった、愛しい我が子。

 涙が流れた。

 生まれてきてくれてありがとう。

 伝わらない言葉で確かに彼は呟いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 どうして、自分はこんなところで無様に倒れているのか。

 強くなったのだと思っていた。

 自分を守り、家族の力になれるくらい強く。

 だがそんなのは思い上がりだと思い知らされる。

 ただ遊ばれただけで地面に伏した自分の無様さに少し前の自分を殴り飛ばしたくなる。

 そんな時に見えたのは黒歌が攻撃されている姿だった。

 

「あ―――――」

 

 黒いオーラを纏い、笑いながら血の繋がらない姉を傷つける誰か。

 それだけではなく、白音もあの美猴とかいう男と対峙している。

 もしかしたら、白音も傷つくのかもしれない。

 それなのに自分はこんなところで何を這いつくばっているのか?

 

「ざっけんな……!」

 

 なんのために力を付けようと思った?

 誰のことを守りたいと思った?

 こんなところで寝てる場合じゃねぇだろ!!

 立ち上がろうと身体に力を籠める。

 すると、目の前に見える筈の無いものが見えた。

 見えたのは金色に光るなにか。

 眩しすぎてどのような形をしているのかすらわからないそれに手を伸ばす。

 そうしなければ、すぐにそれが消えてしまうと感じたから。

 今、それが必要だと悟ったから。

 伸ばす。伸ばす。伸ばす!届け!

 伸ばした指の先が僅かにそれへと引っかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日ノ宮一樹が何かを呟いた瞬間、彼の身体に変化が起こった。

 彼の右腕に炎が走ると黄金の手甲が填められていた。

 だがそれ以上に視線が行くのはその胸元だ。

 美猴の如意棒を受けたことで制服が破け露わになった胸の中心には赤い宝石が埋め込まれており、その石を囲うようにして金属が埋められていた。

 

「なんだいそりゃ……神器か?」

 

 美猴の疑問に一樹は答えなかった。答えられなかっただけかもしれないが。

 それにしてもあの手甲から放たれる神々しいまでのオーラはどうだ。下級悪魔ならアレに触れただけで死に至らしめることも可能なのではないか?

 

 一樹は再び槍を構える。

 

「いくぞ……」

 

 先程を上回る速度で移動し、一樹は槍を振り下ろした。

 槍と棍がぶつかる。

 

(っ!?さっきより膂力が上がってやがるぜぃ!?)

 

 先程までは攻撃も防御もある程度手を抜いていたが、今は本気で力を込めなければ得物を弾かれそうなほど腕力が拮抗している。

 

 そしていつまでも力比べに興じている暇はなかった。

 

「ハァッ!!」

 

 横から敵が迫っていたからだ。

 白音の拳打は気脈を乱し、内臓にダメージを通す技だ。掠っても致命的になる可能性が高い。

 

「チィッ!?」

 

 一樹を蹴り飛ばし、白音を如意棒で払う。

 さっきまでは二対一でも充分に対応できる自信があったが今はそれなりに危うかった。

 そんな中で美猴の顔に浮かんだのは怯えではなく歓喜。

 

(そうだ!勝って当たり前の戦いなんざ物足りねぇ!こういうのが面白ぇから禍の団に入ったんだろうが!!)

 

 自分と敵。お互いに命を燃やすような、そんな闘争を望んでいたのだ。

 

「ハハ、本当に面白くなってきやがったぜぃ!!」

 

 その湧き上がる戦闘への快楽に心を委ねて美猴は2人と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ」

 

 魔術師たちを片付けているとアザゼルが後ろからヴァーリに話しかける。

 

「どうした、アザゼル。見ての通り忙しいんだ。弱いくせに数だけは増える」

 

「なに。お前に訊きたいことが出来てな」

 

「なんだ?」

 

「禍の団に今日の会談の情報を売ったのはお前か?」

 

 魔術師を掃討していたヴァーリの動きが止まった。

 

「どうしてそう思った?」

 

「理由は簡単だ。お前がいくら何でも大人しすぎるからさ。レヴィアタンの末裔であるカテレア。それに闘勝仙仏の子孫の美猴とかいう餓鬼。これだけお前の食指が動きそうな奴がいるのに真面目に雑魚狩りなんてやってるお前を見れば疑いたくもなる」

 

 それはヴァーリという今代の白龍皇をよく知るアザゼルだからこそ疑問に思ったこと。

 外れているなら頭でもなんでも下げるが、もし当たっていたのなら。

 

「――――流石だよアザゼル。まったく理解ある保護者を持つのも考えものだ」

 

「チッ。ここに来て裏切りかよ。いったいいつからアイツらに接触を受けた?」

 

「コカビエルの一件の後にね。アース神族と戦ってみないかとオファーを受けた。そんな話を持ってこられたら俺としても断れない。言っただろう、アザゼル。俺は強い奴と戦えればそれでいいと。それに俺に強くなれと言ったのはアンタだろう?」

 

「世界を滅ぼす要因だけは作ってくれるな、とも言った筈だがな……」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えればそれでいい」

 

「……そうかよ」

 

 思えば、アザゼルはヴァーリがいつか自分の下を離れることを予想していたのかも知れない。

 だが、出来ればこんな形で有って欲しくはなかったが。

 

「ならオメェを止めんのは俺の役目だな」

 

「俺と戦うのか?アザゼル」

 

「あぁ。三勢力が和平を結ぼうって時に裏切り者が出るのなら責任を取る必要がある。なにより、ヤンチャが過ぎる餓鬼を懲らしめるのは大人の仕事だろ?」

 

 堕天使総督としても、ヴァーリの保護者としても彼の行動は看過できなかった。そして堕天使総督と――――自分の親代わりだった男と戦う状況になってヴァーリは喜びの表情を浮かべた。

 堕天使総督。それと戦り合える機会がこんなに早く訪れるとは思っていなかったからだ。

 

「あぁ、それだけで、奴らと手を組んだ甲斐があったというものさ!」

 

 黒と白の翼が今、激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーフィスの力を取り入れたカテレア・レヴィアタンの力は予想を上回るものだった。

 魔力や膂力。それに反射速度に至るまで強化されている。

 一撃一撃が必殺の威力を持つ攻撃に黒歌はいくつもの幻術(デコイ)を駆使して翻弄するも先ほどまでとは手数が段違いだった。

 そうして回避しているとあることに気付いた。

 

「ヴァーリ……!」

 

 いつの間にかアザゼルとヴァーリが戦闘をしていた。

 カテレアもそれに気づき、笑みを浮かべる。

 

「ふふ。驚いたでしょう?今回の会談の情報を私たちに教えてくれたのも彼なのですよ。まぁ、彼の血筋を考えればこちらに付くのが道理というものですが」

 

 カテレアの言葉に反応せず、黒歌は唇を噛んだ。

 それが一瞬の隙となる。

 放たれた魔力の弾が黒歌に直撃した。

 

 吹き飛ばされた際に巻き上がった土煙から出て来た黒歌はケホッと咳をする。

 黒歌は破かれたスーツのことで文句を言い、お互いに皮肉の言い合いを開始した。

 そこで黒歌がリアスらなどに気付く。

 

「リアス・グレモリー……」

 

「あれは、カテレア・レヴィアタン!どうして彼女が!!」

 

「今回のお祭りはアレが主催らしいわ……現三大勢力のトップの首を刎ねて旧魔王派の政権を取り戻す気みたいよ」

 

 黒歌の言葉にリアスは絶句したがすぐに宙に佇むカテレアを睨みつける。

 

「ごきげんよう。サーゼクスの妹、リアス・グレモリー。兄に比べれば価値のない首だけれど、貴女もこの場で優秀な兄ともども今日葬って差し上げるわ」

 

「カテレア・レヴィアタン!そこまで現魔王の政権が憎いの!?何故!貴女もかつてはレヴィアタンに選ばれたセラフォルーさまの側近まで務めた筈!!」

 

「言うなっ!?」

 

 セラフォルーの名前を出した途端にカテレアの表情が憤怒に変わった。

 

「貴女のような小娘には分からないわ。誇りある家名を奪われる惨めさもそれを穢され続ける屈辱もなにも!!」

 

「どうでもいいわよ、そんなこと……」

 

「なんですって……!?」

 

 カテレアの叫びを黒歌はただ一言どうでも良いと切り捨てた。

 

「私にとって重要なのはアンタが私の敵だってことだけよ。悪いんだけど、アンタのヒステリーに付き合う気はないの。さっさと片付けさせて貰うわ」

 

「……いいでしょう。そこまで苦しみたいのなら望み通りにしてあげるわ!!」

 

 オーフィスの力を纏ったカテレアが見せつける膨大なオーラを発し、焼け付くような魔力の本流。それを感じてリアスと一誠が構えを取るが、それを黒歌が遮った。

 

「此所は良いわ。あなたたち、特に赤龍帝はアザゼルのところに向かってくれる?あの人、今はヴァーリと戦ってるみたいだから……」

 

「えっ!?」

 

「どうして白龍皇がアザゼルと!?彼は【神の子を見張る者】に所属しているのでしょう!?」

 

 リアスの質問に黒歌は苦笑して答える。

 

「どうやら、あの子、裏切ったみたいでね。今回の会談の情報を禍の団に流したのもあの子みたいなのよ。身内の恥を曝す様で嫌だけど。この場でカテレア・レヴィアタンを討ち取るより、アザゼルの身の安全の方が重要だしね」

 

 肩を竦めて笑う黒歌にリアスは驚きの表情をする。しかし事態が判っていない一誠はただ動揺するだけだった。

 そしてカテレアを指さす。

 

「ど、どうしてアイツがアザゼルを裏切るんだよ!つーかアンタ誰だよ!?」

 

「……ヴァーリから聞いていましたが、その子供が今代の赤龍帝ですか。なるほど。聞いた通り随分と残念な宿主のようね。しかもさっきから卑猥な眼をこちらに向けてくる。不愉快だわ」

 

「う、うるせぇ!そんなエッチな服装してるのが悪いんだい!!」

 

 地団駄を踏む一誠に黒歌は苦笑した。

 

「ほら早く、行って。ここは大丈夫だから」

 

「でも……!」

 

「お姉さん、こう見えても結構強いのよ?いくら向こうにオーフィスの加護が有ってもなんとかなるから、ね?ここで誰を失うのが拙いかアンタならわかるでしょ?」

 

 黒歌の言葉にリアスは考える。

 もしこの場で三勢力の誰かが死ぬことになれば、せっかく実現した和平が撤回される可能性がある。

 それだけは避けなければならなかった。

 

「わかったわ。ここはお願いするわね」

 

「部長!?」

 

「アザゼルが殺されるのは拙いわ。それに白龍皇が相手なら赤龍帝が、でしょ?ドライグ」

 

『今の相棒があの白の小僧に勝てるとは思えんがな。だが赤と白は戦うのが宿命だ。俺にとっては望むところさ』

 

「ちょっ!?それ俺が死ぬって意味かよ」

 

「もちろん貴方ひとりだけを戦わせるつもりはないわ。重要なのは白龍皇を倒すことじゃなくてアザゼルを死なせないことよ。どの道、アザゼルが倒されれば一誠を狙ってくる可能性がある以上、堕天使総督と共闘して彼を捕らえるなり倒すなりした方がいい。そうでしょ?」

 

 リアスに説得され、一誠はうっ、と言葉に詰まる。

 アザゼルが敗れれば次は自分。そうなればまず勝てない。勝てないということは死ぬということだ。

 しかしあの攻撃的なオーラを纏うカテレアを黒歌ひとりで相手にさせるということで。

 

「……わかりました」

 

 一誠は渋々と承諾する。

 自分に望まれていることはここにはないと感じて。

 

「ここはお願いね」

 

「すぐに倒して別のところの援護に行くわよ」

 

 飄々としながら強気な態度を崩さない黒歌にリアスは笑みを浮かべた。

 

「ほら、行くわよ2人とも!!」

 

『は、はい!?』

 

 リアスの掛け声にイッセーとギャスパーは声を揃えて反応し、その場を立ち去った。

 それを確認しながら黒歌はカテレアに問う。

 

「随分あっさりと見逃すのね」

 

「えぇ。あの程度の小物など私が手を下すまでもありません。それより、貴女を先に始末しなければ私の気が納まらない!」

 

「上等!かかってきなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスたちがアザゼルのところに辿り着いた頃、黒歌の言った通り白銀の鎧を纏ったヴァーリと戦闘をしていた。

 リアスと一誠では目で追えないほどの超スピードで戦闘を繰り広げる2人。それを見て自分たちが如何なる助けになるのかと疑問に思うほど彼らの力は隔絶していた。

 

 コカビエルとの戦闘で見せた白龍皇の半減の力。それを以てしても攻めきれないアザゼルの力量。

 

『俺の倍加に対して奴の力は半減。奴は敵から力を奪い、自分のモノとする。そして器に入りきらない力はあの光翼から吐き出して身体への負担を抑えているのさ。つまり奴は常に最上限の力で戦うことが出来る。もっとも俺の倍加に時間制限があるように、奴も敵の力を半減させられる制限はあるがな』

 

 ドライグが説明するも一誠にはその内容が上手く頭に入らない。

 それほどまでに2人の戦いに体が震えるほど恐怖している。

 

 黒歌はアザゼルの援護に行って欲しいと頼まれた。

 だが、これのどこに援護を挟む余地がある?

 もしあの中に入ればその力の本流に自分がズタズタにされる未来しか思い浮かばない。

 

 恐い、と感じた。

 一度味わった死の感覚。それが目の前に迫っていることに足が、肩が、唇が震えだす。

 そんな時にフルフェイスの兜で覆われたヴァーリの頭部が一誠たちに向く。

 すると、彼は一誠たちにその手を向けて白い魔力の砲を放った。

 その一撃に逸早く反応したのはリアスだった。

 

「イッセー!?ギャスパー!?」

 

 リアスは後ろにいた2人を体当たりをして範囲から避けさせる。

 

「ッ!?」

 

「部長ォッ!?」

 

 3人は倒れるようにして攻撃から逃れるもリアスだけは白い魔力の波に表情を歪めた。

 

「大丈夫よ……少し背中に掠っただけだから」

 

 見ると、リアスの制服の背中部分が焼けたように消え去り、その肌が露になる。その白かった肌に僅かな醜い傷跡を付けて。

 それを見ただけで一誠は頭が沸騰しそうなほどの怒りを覚えた。

 自分が敬愛する相手を無造作に殺されかけたという事実に。

 

 腕輪を使って禁手を発動させようとする一誠たちの前にアザゼルが降り立つ。

 

「おいお前ら!どうしてここに!!」

 

「猫上黒歌がアザゼルの援護にって。この会談で三勢力のトップの誰かが死ぬのはマズいからって……もっとも私たちに入れる次元じゃないようだけれど」

 

 上級悪魔としての実力を有したリアスも今の戦闘で自分が介入できるのか甚だ疑問だが。

 さっきの一撃もあと少し反応が遅れていたら死んでいた。

 

「この程度の一撃に反応すら出来ないか。そんなに速く撃ったつもりはないんだけどね」

 

 白銀の鎧がリアスたちより少し上の位置で停滞している。

 ヴァーリはつまらなそうな声で続ける。

 

「君の経歴は粗方調べさせてもらった。父親は普通のサラリーマン。母親は専業主婦で偶にパートに出ている。先祖が何らかの人外の血を引いていたわけでもなし。魔術師や退魔師などの特殊な家系や技能を有している訳でもない。赤龍帝の籠手と転生悪魔であることを除けばこの国に住む極々普通の高校生だ」

 

「……何が言いたいんだよ?」

 

「別に。ただ残酷だと思ってね。君のようになんの変哲のない人間に神滅具が宿る例もあれば、俺のように特殊な人間に神滅具が宿る例もある。それもライバル同士の白と赤が、だ」

 

「だからなにが言いたいんだよ!!」

 

 堪らずに一誠は怒声を上げた。

 リアスを傷つけられたことで一誠の怒りは限界ギリギリを迎えようとしていた。

 それを留めているのはヴァーリとの力量差―――――ではなく、一誠とギャスパーを守ろうとしているリアスの姿に、だ。

 

「俺の名前はヴァーリ、ヴァーリ・ルシファー。先代の魔王ルシファーの血を継ぐ者だ」

 

 その言葉にリアスと一誠の息が止まった。

 

「そんな……嘘よ…………」

 

「事実だ。アイツは先代魔王の血と人間の血を持っている。おそらく奴は過去現在未来で最強の白龍皇になるだろうよ」

 

 先代魔王の血からは膨大な魔力を。

 人間の血からは最強の二天龍の片割れを。

 

 これが奇跡ではなく何なのか。

 

「君のことを調べて落胆するどころか思わず笑ってしまったよ。『あぁ、これが俺のライバルなのか』ってね。お互い高め合うどころかすぐに踏み潰せてしまいそうな存在。それをどう扱うのか決め兼ねるほどにね。だから――――せめて少しでも可能性を見せてくれよ?そうでなければこの場で君を殺して次の宿主に期待せざる得ない」

 

 その言葉を発した瞬間、ヴァーリからの圧が強まる。

 圧し潰すような殺気。鈍い一誠にも理解できるほどの明確で重い殺気だった。

 

 しかしそれにアザゼルが割って入る。

 

「おいおい。忘れたのか?今お前の相手は俺だろ?あんまりよそ見してるとお前こそここで終わるぜ?」

 

「赤龍帝を守るかアザゼル。だけど僅かな時間ならアンタを相手にしながら兵藤一誠を消すことも不可能じゃない。それは今の一撃で証明されたと思うが?」

 

「なら、お前が俺以外を見れねぇようにしてやるよ」

 

 懐から短剣をアザゼルは取り出した。

 

「神器の研究を続けるうちに自分でも神器を作ってみたくなってな。まぁ、大概は力のない失敗作で終わったが、中にはいくつか形になった物もある。神器を開発した神はすごい。俺が唯一奴を尊敬するところだ。だが甘い。禁手や神滅具を含めたこの世界に大きな影響をもたらすバグを放置したまま勝手に逝っちまったんだからな」

 

「アザゼル。それはまさか―――!?」

 

 

禁手(バランス・ブレイク)!!」

 

 次の瞬間、アザゼルは全身を黄金の鎧に身を包み、その手には槍が握られていた。

 

「俺が開発した人工神器の中でも傑作のひとつ。【堕天龍の閃光槍】だ。そしてそれの疑似的な禁手である【堕天龍の鎧】さ。これでもまだ目移りできる余裕があるか?」

 

 それはコカビエルですら比にならないほど強力なオーラと威圧感。

 驚いている一誠たちにドライグが説明を加える。

 

『おそらく人工神器とやらを暴走状態にさせることで強制的に禁手の力を引き出しているんだ。アレでは戦闘後に壊れるぞ。神器を使い捨てか!?それにこのオーラはもしや【黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)】ファーブニルの力を取り込んでいるのか!?』

 

「ファーなに?」

 

『五大龍王と呼ばれるドラゴンの一匹だ。細かい説明はあとでしてやる!』

 

「ハハハ!?確かにそんなものを持ち出されれば他に目移りなんて出来ない!だけど人工神器の研究がそこまで進んでいるなんて知らなかったな!」

 

「当たり前だ。研究の真理部分は俺とシェムハザくらいしか把握してねぇからな。来いよやんちゃ小僧!とっ捕まえて尻、引っ叩いてやる!」

 

 そうして龍の鎧を纏う2人の戦いが再開される。

 

 アザゼルは手にした槍を振るう。それだけで地面に亀裂が走った。

 激突する両者。

 アザゼルが放った光の槍をくぐり抜けて接近戦に持ち込み、半減の力で弱体化を狙う。

 しかし、降り注ぐ光の槍に加えて接近戦でも超高速で振るわれる槍にヴァーリと言えどアザゼルに触れ、その力を奪うのは容易ではなかった。

 

「すごいなアザゼル!やはりコカビエルとは一味も二味も違う!」

 

 歓喜の声を上げるヴァーリにアザゼルは内心で舌打ちした。

 一見してアザゼルが有利に戦いを進めているように見えるが禁手に至っているヴァーリを相手にするのは至難の業。

 それもアザゼルはヴァーリを殺すつもりはないという理由もある。

 

(こいつを捕えて禍の団の情報を聞き出すってこともあるが、そっちはぶっちゃけ建前だな)

 

 そもそも新参者と思しきヴァーリが禍の団の情報をどれだけ得ているのか甚だ疑問だし、堕天使総督と渡り合える実力を有する白龍皇を排除する方が後々の為だろう。

 

(結局、俺はこいつを殺したくないんだろうな。まったく我ながら甘いぜ……)

 

 コカビエルの時も事を起こす前に拘束するなりなんなりすれば聖剣の強奪事件も起きなかっただろう。情に流された結果があの顛末であり、同じことを今も繰り返そうとしている。

 まぁ、そうした甘さを捨て切れないことこそが多くの堕天使が彼に付き従う理由でもあるのだが。

 

 そんな僅かな思案の中でもヴァーリは容赦なく距離を詰めて来た。

 

「もらったぞ、アザゼル!」

 

『Divide!』

 

 ヴァーリがアザゼルの腕を掴み、その力を奪い取った。

 しかし—————。

 

「アッ!?」

 

 突如、ヴァーリが空中でよろめいた。

 

「ふん!」

 

 そんなヴァーリをアザゼルが蹴りを入れて地面に叩きつける。

 墜落の衝撃でヴァーリの兜が破損した。

 

「ハッ!馬鹿が!今の俺は人工神器のおかげで力を増してるんだぜ?そんな状態の俺から力を奪って無事で済むわけがねぇだろ!」

 

 白龍皇の力は半減と力を奪うことだ。そして使い手の容量に受けきれない余剰分は光翼から吐き出される。

 しかし、もし一気に吐き出しきれない程の力を奪ったら?

 それも元から容量がピークまで来ている状態で。

 

 赤龍帝の譲渡で必要以上に倍加を促した結果、相手に余計な負荷がかかるのと同じ現象がヴァーリに起きていた。

 一瞬の負荷ではあるが、限界を超えた反動は存在するのだ。

 

(だがこっちだって無傷ってわけにはいかないがな)

 

 だがアザゼルもマイナス点が無いわけではない。

 自身の力を奪われたこともそうだが、それによって鎧の維持時間までも大幅に削られてしまった。

 

(それに、鎧が解除されちまったら俺も体力を相当持ってかれるだろうし、アイツを相手に取るのはキツイな。ならよ!)

 

「流石だよアザゼル!この高揚感は久々だ!もっと楽しませてくれ!!」

 

「クソッ!ちったぁ大人しくしろや!」

 

 尚も戦意を衰えさせないヴァーリにアザゼルは再び槍を構えた。

 常人を死に至らしめることが可能な速度でヴァーリは動く。

 突き出された拳をアザゼルは真っ向から受け止める。

 その不用心な行動にヴァーリは仮面の下で驚きの表情をする。

 

「どういうつもりだアザゼル?このまま力を奪い尽くされたいか!!」

 

「こういうことさ!今だ兵藤一誠!」

 

「ドライグゥウウウウウウウッ!!」

 

『承知!』

 

 いつの間に赤い鎧を身に纏った兵藤一誠が左手の籠手部分の先端から聖剣の刃を出し、そのまま突き出した。

 

 聖剣アスカロン。

 伝説の龍殺しの聖剣。

 その力に倍加をかけて白龍皇に叩きつけた。

 

 相性の悪い龍殺しの力を受けてヴァーリの鎧が大きく破損する。

 

「よっしゃぁああっ!?」

 

 握り拳を作り、ガッツポーズをする一誠。

 

「良く気付いたじゃないか」

 

 アザゼルは既に疑似禁手が解けて普通の状態に戻っている。

 

「一瞬アンタがこっちを見た気がしたからさ」

 

 一度、半減の力を受けた時、アザゼルが一瞬だけ一誠たちのほうを見た気がした。

 もしかしたらと思った一誠がアザゼルがヴァーリの拳を掴む少し前から走り出し、腕輪の力で禁手を発動させた。

 

「お前がミカエルからアスカロンを貰ったと聞いたからな。だがお前にはヴァーリの速度に対応できるだけの運動神経はない。なら誰かがアイツの動きを止めないといけないわけだ」

 

 ヴァーリを殺すならそんな手間も必要なかったが、出来るだけ生きて捕えたいと考えて急遽思いついた策とも呼べない行き当たりばったりの賭けだった。

 

 一誠自身も初めての禁手に感慨に耽っている暇もなく行動を移した。

 

「くくく。期待はしてなかったが、まさかアスカロンとはね。やられたよ」

 

 破損した鎧は既に修復し、ヴァーリは立っていた。

 

「おいおい!なんで直ってんだよ!何度も壊さないとダメなのか!?」

 

『奴は自力で禁手に至っている。その力の根源である使い手を戦闘不能にしない限り何度でも再生するさ。道具に頼っている俺たちは破壊された部位は直らんがな』

 

 その言葉を聞いて一誠の中で驚きと劣等感が生まれる。

 そこまでの差があるのかと。

 

「だけど、まだ足りないな。その疑似的な禁手を維持している間にもう少し力を引き出してみたい。ならどうするか?うん。そうだこうしよう。君は復讐者になるんだ」

 

「はぁ?」

 

 突然訳の分からない持論を展開するヴァーリに一誠は気が違ったかと訝しんだ。

 

「これから君の両親を殺しに行こう。そうすれば君も自力で禁手へと至れるかもしれない。どうせ平々凡々の一般人だ。つまらない人生を最後くらい華々しく息子のために使おうじゃないか!」

 

「………………あ?」

 

 ヴァーリの言葉を理解したとき、一誠の中でどす黒い感情が渦巻いた。

 

 こいつ今なんていった?

 俺の力を引き出すために両親を殺す?

 

「ふっざけんなよ……!殺すぞ……!!」

 

 かつてレイナーレという堕天使がアーシアから神器を奪い殺したときと似た感情。しかしその密度と勢いはあの時の比ではなかった。

 生まれて初めて本物の殺意を一誠は覚えていた。

 

 一誠の両親は確かに普通の人間だ。

 しかし何度も馬鹿をやって迷惑をかけた自分をここまで育ててくれた最高の両親。

 アーシアを連れて来た時も快く了承してくれたちょっと楽観的だが懐の広い人達。

 それが何故。

 

「テメェの都合なんかで殺されなきゃなんねぇんだよ!!」

 

 怒りが爆発すると同時に一誠が放つ龍のオーラが急激に高まった。

 

「ハハハッ!なんだやればできるじゃないか!これなら少しは楽しめそうだ!!」

 

「笑ってんじゃねぇぞ、電波野郎ォ!!」

 

 こうして、今二天龍の赤と白の激突が始まった。

 

 

 

 

 

 

 




一樹の腕に現れた手甲についてはFateのあの英霊のやつです。
正確には二代目とか改良型とかそんな感じです。
全部現れないのは一樹の実力不足です。

独自設定のダグの下、作者が都合よく色々設定をいじってます。
見た目は同じ、中身は別物と納得してもらえれば幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。