兵藤一誠が意識を覚醒させたとき、室内の様子が微妙に変わっていた。
「お、赤龍帝のお目覚めか」
周囲を見渡すとそこには動いている者と停止しているもので別れており、動いているのは各勢力の各勢力のトップ4人にグレイフィアとガブリエルに黒歌。
部員の中で動いているのは—————。
「部員の中で動いているのは私と一誠。それにゼノヴィアと裕斗に一樹と白音ね」
「私もよ」
リアスの言葉にイリナが続いて手を上げる。
「どうなってるんですか!?それにこの感覚って!」
「グレモリーんところの例のハーフ吸血鬼だろうな。どうやら、取っ捕まって神器を暴走させられたらしい」
口元は吊り上がっているがその眼光だけは鋭く、忌々し気に呟く。
「取っ捕まったって、誰にっ!?」
「テロだよ。テロリスト」
「テロォッ!?」
アザゼルの断言に一誠は声を上げて驚く。平和な日本では外国のニュースやフィクションの中でしか飛び出さない単語だったからだ。
「何時の時代も和平を結ぼうとすればそれを嫌がって邪魔する連中が現れるもんだ。恐らく目的はこの会談のトップ――――。つまり俺たちだな。さて、どこの馬鹿がやらかしてんだか……」
外を見て見るとそこにはロープを纏った人影たちが魔力の弾を撃ち出してこの校舎を襲撃していた。
「あれは魔法使いの連中だな。悪魔の魔力体系を独自に解析した伝説の魔術師【マーリン・アンブロジウス】が再構築し、人間にも扱えるようにしたのが魔法、魔術の類だ。全体的な技術自体はまだ悪魔側には及ばんが、独自に発展したため団体次第じゃ、悪魔でも出来ないことも可能にした連中もいる。ましてや神器使いが魔術を覚えると色々と面倒だ。いま攻撃してる奴らの力は大体中級悪魔クラスってとこか?ま、この校舎に居る内は強力な防壁が張られてるし、大丈夫だろ。代わりに俺らも出られないけどな」
色々と解り易く説明してくれるアザゼルに一誠は感心しながらも次の疑問を投げかけた。
「で、でもどうやってギャスパーの神器を!?それにアイツの効果範囲はあくまで視界の中だけだろ!?」
「恐らくは譲渡の神器か魔術で無理矢理【停止世界の邪眼】を疑似的な禁手へと至らせて効果範囲と拘束力を高めたんだろうぜ。もっとも俺らみたいに地力に差がありすぎる相手や何らかの方法で神器の影響を回避する要因のある奴らは免れたみたいだがな」
「神器の影響を免れる?」
「お前さんやヴァーリみたいにドラゴンの力を宿した奴や、猫姉妹みたいに仙術で自分の身体をガードした奴。聖魔剣使いや聖剣使いの嬢ちゃん2人も咄嗟に聖剣の加護を用いた。リアス・グレモリーは転生悪魔の主だから影響下から外れたと見るべきか。だが—————」
アザゼルが一樹に視線を向ける。
「なんでお前も動けるよ?」
「?ギャスパーの時間停止の感覚があったから気を高めたんですけど?」
「だとしてもだ。正直、お前はこの影響下の中で動けるほどの力を有しちゃいない。報告で聞いた例の聖火の力が関係あるかもしれんが、それだけだとちょっと説明不足だな。だが今それを考察してる余裕はなさそうだ」
校舎を襲う魔力の弾を適当に払い除け、光の槍を投げつけて撃退するも、次々と増援がわんさか現れた。
それにアザゼルは鼻を鳴らす。
「テロのタイミングといい。導入してくる質と量といい、思いっきりが良すぎるな。内情を知りすぎている。もしかして、ここに裏切り者でもいるのか?そうでなきゃここまで大規模に動ける説明がつかん」
裏切者。その言葉にリアスたちが息を呑む。
そんな中、一樹が手を上げて質問した。
「結界の外へ逃げるのは?」
「論外だな。今は
その言葉に若手組が息を呑む。
「それに、相手側の黒幕もシビレを切らして出てくるかもしれないしな。俺たちはそれを待ってんだよ。こんな頭の悪いイベントを組んだ二流の顔を拝むためにな」
余裕の表情で相手との防戦を繰り返すアザゼル。
そして次にサーゼクスが言葉を発した。
「そんなわけで、我々首脳陣は敵状を調べるために動けない。それに停止させられた各陣営の人員の安全も確保しなければならないしね。それにはまず、ギャスパーくんを魔術師から引き離し、保護する必要があるわけだが」
「私が行きますお兄さま!?ギャスパーは私の眷属です!それをこんな形で利用されるなんて我慢できません。あの子は私が救出します!」
リアスの提案にサーゼクスは少し考える素振りを見せる。
「リアスならそう言うと思ったよ。しかしどうやって彼の居る場所まで移動する?正面から突っ切る訳にもいかないだろう?転移魔法も恐らく使えないだろうし」
「部室に戦車の駒を置いてありますので、それを使います」
「なるほど【キャスリング】か。考えたねリアス。それなら、相手の虚もつける」
キャスリングとは王と戦車の位置を瞬間的に入れ替えるレーティングゲームの特殊技のひとつだ。
これなら直接敵陣へと乗り込むことが出来る。
「しかしリアスひとりだけでは危険だな。グレイフィア、私の魔法式からもう何人かの転移は可能か?」
「そうですね。ここでは簡易術式しか展開できませんので、もうひとりくらいが限度かと」
それを聞いて真っ先に手を上げたのは一誠だった。
「俺が行きます。俺がギャスパーを救い出します!」
一誠にとってギャスパーは同性の後輩だ。あの容姿と趣味にツッコミたいところのある奴だが大事な後輩には違いない。
それに主である部長をひとりで危険な敵地に飛び出させるくらいなら自分が盾でも矛にでもなる。
一誠はそう決断した。
一誠を見ていたサーゼクスがアザゼルへと視線を移す。
「アザゼル。神器の力を一定時間制御する研究を行っていたな」
「そうだが。それがどうした?」
「赤龍帝の力を制御できるだろうか?」
サーゼクスの言葉に僅かな間を置いたアザゼルは懐から2つのリングを取り出し、それを一誠に放り投げた。
「それは、神器の力をある程度制御するための物だ。短い時間だが禁手の力も使うことが出来る。もっとも使えば代償でその腕輪も壊れるがな。ひとつはお前の切り札に。もうひとつは見つけ次第填めて神器を制御させろ」
「禁手!この腕輪で!?」
「そうだ。だがあくまで緊急用だ。それを使うのは最終手段にしとけよ赤龍帝。使えば体力やら魔力やらをごっそり持っていかれるからな」
「わ、わかった!それと俺は赤龍帝じゃない!兵藤一誠だ!」
「そうかい。じゃあ兵藤一誠。恐らくお前の兵士8個の駒は赤い龍にほとんどが割り振られていると見て間違いないだろう。今のお前は現段階で人間に毛の生えた程度の悪魔だ。だから力はなるべく早く手懐けろ。でなけりゃいつか自分の力に食い破られるぞ。ハーフ吸血鬼のことはお前も他人事じゃねぇんだからな」
それは以前、ヴァーリにも言われた言葉だった。
どんなに強力な神器を宿しても、使い手がダメなら敗ける。そして最悪それは死と隣り合わせなのだ。
「わ、わかってるさ……」
そう理解してる。今の兵藤一誠はドライグのおまけ程度の価値しかない存在だと。
しかし、それをアザゼルの口から言われたことで改めて抉られるような痛みを覚えた。
同時に自分たちにはもっと良く指導してくれるコーチのような存在が必要なのではないかと感じた。例えば目の前の堕天使総督とか。
だが今はただリングの力とはいえリアスの役に立てる。それだけで良かった。
「アザゼル。神器の研究はどこまで進んでいるというのですか?」
「いいじゃねぇか。神器を造り出した神はもういねぇんだ。いつまでも訳の分からねぇモンにしとく訳にもいかねぇだろ。結局は誰かが解明しなきゃいけないことだ」
「それが貴方だというのが不安なのですが……」
話している間にグレイフィアの術式構築が成されているが、まだ少しかかるようだ。
そんな中でアザゼルがヴァーリに指示を出す。
「ヴァーリ。お前は魔術師どもに突っ込んで適当に攪乱しろ。お前が敵の目を引き付ければ、向こうにも変化が現れるかもしれん」
「向こうも俺がいることは承知なんじゃないかな」
「だとしても赤龍帝が敵のど真ん中に転移することまでは読めないだろうさ。注意を引き付けるだけでいい」
アザゼルの指示を思案しながら次にとんでもないことをヴァーリは口走った。
「いっそのこと、問題のハーフ吸血鬼を校舎ごと消してしまえばいいんじゃないか?」
その言葉にグレモリー眷属の全員がヴァーリに警戒の色を示す。
「それは最終手段だな。和平をしようって時に魔王の身内の身内を殺すのはマズイ。逆に助ける手伝いでもすりゃ恩も売れるだろ?」
「了解」
アザゼルの言葉にとりあえずは納得したのか、彼は嘆息し、神器の翼を広げて窓の手摺に足をかける。
『Vanishing Doragon Balance Breaker!!!!!!!』
音声の後にヴァーリは光に包まれ、それが収まるとそこにはコカビエルを圧倒した白い鎧の龍が姿を現した。
その姿に一誠の中で言いようのない劣等感に苛まれる。
ヴァーリは一言もなく窓から飛び出し、魔術師たちに向かって行った。
その強さはまさしく圧倒的だった。
魔術師たちの攻撃を避ける動作もせずに無力化し、白い鎧が駆け抜ける度に敵を無力化していく。その攻撃動作でさえ一誠には認識できなかった。
魔術師たちは為す術もなく無力化されていくが、それ以上に人員が投入されていった。
そんな中でサーゼクスが再びアザゼルへと質問を投げかけた。
「アザゼル。君が神器使いやはぐれ悪魔を集めていたのは本当に彼らの保護と研究のためか?もしや君はこの場に現れた集団に心当たりがあるのではないか?」
アザゼルはサーゼクスの問いに嘆息する。
「別に隠していた訳じゃねぇよ。この会談中にお前らにも情報を与えるつもりだったさ。その前にアイツらが攻めて来た。それだけだ」
「では彼らは?」
「恐らくは
窓の外を眺めながら情報を口にしていく。
「構成員はバラバラで世間から居場所を失った神器使いの集まりや旧魔王派。はぐれエクソシストや非人道的な研究に手を染めて組織から追い出された奴。【神の子を見張る者】からもいくらか合流してる。要は、現状が気に入らなくて鬱憤が溜まってる奴らが集まったごった煮組織さ。もっともそのトップに立ってるのがこの上なく厄介な奴なんだがな」
「既にトップの情報も得ているのですか!?」
「あぁ。組織の頭を張ってるのは、二天龍を凌ぐ無限の龍神だ。俺の部下が苦労して持ち帰った情報だ。信じていいぜ」
アザゼルからもたらされた情報にトップ陣ですら驚きを隠せずその頬に冷たい汗が伝う。
「そうか、無限の龍神オーフィス。彼がテロリストのトップに立ったか。夢幻と並ぶ最強のドラゴンが……!」
険しい表情で呟くサーゼクス。しかしそれは彼だけでなくこの場にいる大半が表情を曇らせていた。そんな中で聞き慣れない女性の声が室内に届いた。
『そう、オーフィスが禍の団のトップです』
響いたその声にサーゼクスが焦りの色を見せる。
「そうか!アザゼルが旧魔王派の名前を出したことからもしやと思ったが、この襲撃の黒幕は君か!」
舌打ちするサーゼクスはグレイフィアに術式の展開を急がせる。
「グレイフィア!リアスとイッセーくんの2人を早く飛ばせ!」
「はっ!」
丁度2人分が収まるくらいの大きさの魔法陣が室内の隅に展開された。
「お嬢さま、ご武運を!」
「ちょっ!グレイフィア!?」
リアスが何か言う前にグレイフィアは2人を魔法陣の上に立たせ、そのまま強制的に転移させた。
それと入れ替わるように別の形をした魔法陣が展開される。
一樹がよく見るグレモリー家の魔法陣とも以前見たフェニックス家とも違う魔法陣だった。
「レヴィアタンの魔法陣」
サーゼクスが苦虫を潰したような表情で呟く。
続いてゼノヴィアが言葉を発した。
「以前ヴァチカンの書物で見たことがあるぞ!あれは旧レヴィアタンの魔法陣だ!」
「私も見たことあるわ!随分前だけど!」
イリナの言葉と同時に現れたのは胸元が大きく開かれ、スリットの入ったドレスを纏う眼鏡をかけた知的そうな女性だった。
その女性は不敵な笑みを浮かべ、2人魔王を見据える。
「ごきげんよう。現ルシファーのサーゼクス。そして現レヴィアタンのセラフォルー」
セラフォルーの名を呼ぶときに若干険の色が濃くなった気がしたがこの場にいる者たちには関係のないことだった。
「先代レヴィアタンの血を引く者。カテレア・レヴィアタン。これはどういうことだ?」
旧四大魔王が消滅後、三勢力での停戦が決まり、それに最後まで反発したのが先代魔王の血を引く旧魔王派の一派だった。
意見の喰い違いからそれは内乱にまで発展し、戦争で数を減らした悪魔はさらに減少することになる。
結果的にはタカ派の旧魔王派は内乱に敗れ、冥界の僻地へと追いやられるわけだが。
その後、サーゼクスなどの新魔王が誕生し、新政府の樹立が成された。
先代レヴィアタンの血を引くというカテレアは挑戦的な笑みで言う。
「旧魔王———真なる魔王である我々は大半が「禍の団」に協力すると決めました」
真なる魔王と名乗ったカテレア。それが意味することは現魔王を偽の魔王としてその存在を認めないという意思表示だった。
クーデター。その事実にサーゼクスは眉間の皺を深める。
「新旧魔王サイドの確執が本格的になったわけだ。悪魔社会も大変だな」
他人事のように笑うアザゼル
「カテレア、何故だ」
「サーゼクス。神も先代魔王も消えたからこそこの世界は一度破壊し、再構築するべきだと私たちは判断しました。それだけのことです。そしてオーフィスは力の象徴として君臨する役を担う。力を終結させるための。そして新世界を私たちが取り仕切るのです」
そして外で暴れている魔術師たちは旧魔王派の賛同者。
カテレアの言い分を聞いてサーゼクスは自分の甘さに眩暈がした。
旧魔王派を僻地に追いやった際に長い時間をかけて交渉し、いずれ現政府に復帰してもらうつもりだった。
たとえ意見が異なろうと悪魔の未来を憂いているのは同じ。ならば考えを擦り合わせることは可能だと彼は信じていた。
その目論見の甘さが今日を招いてしまったと後悔した。
そしてそれはサーゼクスの後ろに居たセラフォルーも同様だった。
「カテレアちゃん、どうして!?」
「セラフォルー・シトリー。私からレヴィアタンの名前を奪うだけでは飽き足らず、その名を穢し、辱めた貴女を私は絶対に許しはしない!貴女が踏み躙ったレヴィアタンの名は今日を以って私が取り戻す!!」
「わ、私は……!?」
敵意を越えた憎悪をその瞳に宿し、突き刺すような視線でセラフォルーを射抜く。そして彼女自身その視線に狼狽していた。
「オーフィスを神とした新世界で法も理念も私たちが構築しますその為にミカエル、アザゼル。そして魔王サーゼクス。貴方たちの時代をここで終えるのです」
カテレアの言葉にこの場にいる大半が表情に陰を宿す。
しかし、首脳陣のひとりは違っていた。
見るとアザゼルだけがカテレアの言葉に辛抱できないと言わんばかりに大爆笑している。
「アザゼル、何が可笑しいのです?」
怒りを含ませた問いにアザゼルは小馬鹿にしたように肩を竦めた。
「あんまりにも陳腐な言い分に笑っちまったんだよ。世界の変革?理由は世界の腐敗か?人間の愚かさ?地球が滅ぶ?まるで漫画の悪役みたいな理由だな。世界が間違ってるからリセットして自分たちが創り直してやるってな。まったくそんな陳腐なこと言ってる割にはそこそこ力があるから厄介なんだよお前らは」
「アザゼル!どこまで私たちを愚弄するか!?」
カテレアは魔力のオーラを迸らせる。その密度と大きさにこの場にいる若者たちは息を呑んだ。
「サーゼクス、セラフォルー。こいつの相手は俺がやる。手を出すんじゃっ————!?」
言い終わる前に黒歌がアザゼルの脇腹に蹴りを入れて倒した。
「頭が簡単に前に出てどうするのよ。アンタになにかあったらシェムハザに怒られるの私なんだからね!アザゼルはおとなしくしてなさい。アレは私が相手するわ」
仙術を発動させ、猫の尻尾と耳を出した黒歌が指をポキポキと鳴らす。
「おいおい。俺の見せ場を奪うなよ……」
「だからアンタになんかあったら怒られるのは私なの!それに万が一でもアザゼルがやられたら誰が私に給料払うのよ!」
この場でそんな心配をしている黒歌に誰もが唖然となる。
「見たところこの国の獣人の類のようですが。浅ましい獣人風情が真なる魔王である私に戦いを挑むと?身の程を弁えなさい!」
「失礼ね。私こう見えても結構強いのよ?それに現政権に敗北して追いやられた上にそれを認められずオーフィスに泣きついて延長戦を仕掛けて来た駄々っ子如きに私の相手が務まるかしら?せめて戦いの勘が取り戻せるくらいには粘ってよね」
鼻で嗤って挑発する黒歌にカテレアの表情が歪む。
「いいでしょう。首脳陣の前に貴女を見せしめにしてあげます。楽に死ねると思うな!!」
「ハッ!上等!たかだか猫又風情に敗退して恥の上塗りにしてあげるわ!」
お互いに挑発を終えた2人の美女はこの場から姿を消し、校庭で激戦を繰り広げる。
その攻防はヴァーリ・ルシファーと遜色のない練度だった。
どうするべきかと悩む祐斗中心とした若い層にサーゼクスから話を振られた。
「木場祐斗くん。私とミカエルがここの結界を強化に専念する。あの2人が戦う以上、被害が大きくなる可能性があるからね。外への被害は出したくない。それに今日の会談で集まった下の者たちの安全を確保する必要がある。グレイフィアが敵魔法陣の解析が済むまでの間、魔術師たちの始末を頼みたい。いいかな」
サーゼクスの頼みに祐斗ははっきりと首を縦に動かす。
「ありがとう。リアスの騎士が君で良かった。君の力をこれからもリアスに役立ててくれたまえ」
「はっ!ゼノヴィア、一緒に来てくれ!」
「当然だ!私もリアス・グレモリーの眷属だからな!ここで待っていろなどと言えば殴り飛ばしていたところだ!」
デュランダルを構えるゼノヴィア。
「なら、私も行くわ!」
「イリナ!?」
「せっかく三大勢力が仲良くしようって時に邪魔してくるなんて許せないもの!構いませんよね、ミカエルさま!」
「えぇ。むしろこちらからお願いしようと思ってました。頼みます。紫藤イリナ」
「はい!」
元気よく返事を返すイリナ。そこにはもうこの会談が始まってからの陰鬱な雰囲気はない。
彼女がゼノヴィアたちと視線を合わせなかったのは単純に納得できなかったからだ。
神の不在を知ったイリナは今まで縋っていた存在が既に亡いことに一晩中涙を流した。
そしてこの町でかつて相棒と呼べるゼノヴィアと別れた際に彼女がどうして何も言わずに教会から抜けたのかを理解した。
きっとあれは自分を気遣って、神の不在を黙秘してくれていたのだ。
もし逆の立場なら自分もそうしただろう。まぁ、それで悪魔に転生するに至った過程までは理解できないが。
そしてこの会談でゼノヴィアはこちらに気まずそうな顔を向けるも悪魔側に馴染んでいるように見えた。それが、イリナには納得できなかった。
もしかしてゼノヴィアにとって信仰とはその程度のものだったのか
神の不在をどう思っているのか。
わからず、一方的にストレスを溜めていた。
しかしそれも会談が進むうちに解消する。
今の生活に満足しているとゼノヴィアは言った。以前よりも柔らかい表情で。
納得できないことはまだあるが、あんな表情を見せられれば、ゼノヴィアの選択はきっと間違いではなかったのだとストンと胸に正解が落ちた気分だった。
蟠りがないと言えば嘘になるが、また前のように一緒に戦える。そう思えるくらいにはイリナの中で溝は埋まっていた。
「で、お前らはどうするよ、白音、一樹。一応この中に居れば安全だとは思うぜ。静観してるか?」
アザゼルが2人に問う。
この中で一樹と白音は戦う義務がない。何もしないでも誰も咎めたりはしないだろう。しかし—————。
「人手は多い方がいいでしょう。姉さんも戦ってるんです。俺も出ますよ」
「……この場では留まっている方が心臓に悪いので」
「一樹くん。白音ちゃん……」
「そうか。だが無茶はするなよ。お前らが殺されたら俺が黒歌に殺されちまう」
冗談交じりで言うアザゼルに一樹は苦笑しながら頷く。
そこでサーゼクスが一樹に話しかけた。
「少し済まない。さっきの質問に今答えて貰ってもいいかな?」
さっきの質問。それはもし彼の家族にどこかが手を出したらという質問。だがこれに関しては答えは決まっていた。
「―――――もし白音や姉さんに手を出すなら誰であろうと敵です。それはリアス部長たちでも例外ではありません」
もしオカルト研究部と家族。どっちを取るかと言われれば当然家族だ。それは揺るぐことはない。
その答えに少しだけ哀しそうな笑みを浮かべるサーゼクスに一樹は続ける。
「でもそうはならないでしょう?だって今日の話し合いはその為のモノなんですから」
だから自分がリアス・グレモリーと敵対することはないと告げた。
仮定は仮定。その可能性があったとしても訪れなければただの妄想だ。
少なくともそうなってほしいと一樹は願っている。
家族を失うのが一番イヤだが、仲間と思ってる人たちと戦うのもイヤなのだ。
そう思えるだけの時間を僅かばかりとはいえ過ごしてきたのだから。
「そうか……そうだね。私も君と敵対しないことを望むよ」
「先行きます……」
小さな笑みを作り、首を縦に動かす。そして腕輪を槍に変えて一樹は魔術師たちへと向かって行った。
本作品のカテレアはレヴィアタンの名を『奪われた』ことではなく、『辱められた』ことで怒り、旧魔王派に身を寄せました。
それまではレヴィアタンを継いだセラフォルーの側近とか務めてたりもしてました。