太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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今回でライザー編は終了です


20話:目が覚めて

 一誠が目を覚ましたのはレーティングゲームから丸一日と少し経った昼前だった。

 

「ってえ!?」

 

 まだ疲労とダメージが抜けきっておらず、ベッドから起き上がると痛みが走る。

 

「ここ、俺の部屋か?」

 

 見渡すとそこには慣れ親しんだ自分の部屋であった。

 

「お、目ぇ覚めたか」

 

 声が聞こえ、方角を向くとそこには椅子に座っている一樹と壁にもたれかかっている祐斗がいた。

 

「木場!日ノ宮!」

 

「目覚めの気分はどうだい。水飲む?」

 

「あ、あぁ……」

 

 コップに注がれた水を受け取り飲み干すと様々なことが思い出された。

 初めてのレーティングゲーム。

 敵の眷属を倒してどうにかライザーの下へ辿り着いたこと。

 そして、最後に笑っていたライザー。

 それらを思い出して一誠は冷たい汗を噴出しながら恐る恐る訊いた。

 

「なぁ。ゲームは、どうなったんだ?」

 

「覚えてねぇのか?」

 

「ライザーと一緒に校庭に落ちたところまでは覚えてるけど……なぁ!部長はどうなったんだ!?」

 

 一樹の腕を掴んで揺さぶる。

 

「おちつけよ。そんなに力いっぱい握られたら痛ェだろうが」

 

「あ、悪い……」

 

「ま、なんだ。頑張ったんじゃないかゲーム」

 

「そうだね……僕たちはそれぞれ全力を尽くした……」

 

 ふたりは一誠から顔を逸らす。

 その仕草が結果を物語っていた。

 

(あぁ、俺たちは負けたのか)

 

 それを理解すると一誠の目から自然と涙が落ちる。

 情けなかった。あれだけ大口を叩いて結果を掴みとれなかった自分が。

 頑張った?全力を尽くした?

 結果が伴わなかった過程にどれだけの意味あるのだろう。

 

「ち、くしょ———————」

 

 そう叫び出そうとしたとき、部屋のドアが開かれた。

 

「あらイッセー。目を覚ましたのね!」

 

「イッセーさん!よかったです!」

 

「へ?」

 

 現れたのは私服姿のリアスとアーシアだった。

 アーシアなどは感極まってイッセーに抱きついている。

 リアスの様子はとても負けた者とは思えないほど晴れやかな顔だ。

 混乱する一誠は周りを見渡すと一樹がどこから取り出したのか紙で作った看板に【ドッキリ(笑)】という文字を見せてくる。

 祐斗の方も口元を抑えてプルプルと震えているのが見えた。

 それを見た瞬間にイッセーはキレた。

 

「ざっけんな!てめぇどういうつもりだぁ!!!?」

 

「なんていうかさ。受験合格を先に知るとメールとかでひたすら頑張れよ、とか。別々になっても俺たち友達だから、とか。やたらと励ましのメールを送って不安を掻き立てたくならね?そんな感じ」

 

「ぶっ殺す!」

 

「寝てろバカが」

 

 一樹は一誠にボディブローをかまし、無理矢理ベッドに倒す。

 

「まだ疲労が抜けてねぇんだ。主に筋肉痛とかな。おとなしくしてろよ」

 

 俺も痛いと顔をしかめる。

 

「だったらあんな冗談するんじゃねぇ!?」

 

「それはそれ。これはこれだろ」

 

「ごめんねイッセーくん。ちょっと悪ノリが過ぎたね」

 

 謝る祐斗に対して一樹は反省の色なしだった。

 落ち着いたあと、一誠が事の顛末を訊く。

 

「それで、どうやってライザーを倒したんですか?俺が最後に見たのはのは校庭に叩き落として立ち上がったライザーだったんですけど……」

 

「そう。そうね。あなたはそこで意識を失ったのですものね」

 

「はい……」

 

 もしかしたらそのあと部長か、残っていた白音が倒したのかもしれないと一誠は推測する。

 

「結果だけ言うとね。ライザーを倒したのは貴方よ、イッセー」

 

「えぇっ!?でもアイツ立ってたんですよ!?」

 

「貴方がリタイアした瞬間、ライザーも気が抜けたのでしょうね。そのまま崩れ落ちてしまったわ」

 

「で、でもアイツは不死身の筈ですよね?」

 

「それは一樹のお陰ね」

 

「日ノ宮の?」

 

「この子がリタイアする瞬間にライザーを自分の炎で炙ったのよ。一樹の炎は聖なる炎。それを受けたライザーは不死の力を僅かに阻害されてしまった。そこであんな捨て身の攻撃を受けたんですもの。流石に堪えきれなかったみたい」

 

 リアスの説明を聞いて一誠は全身の力が抜ける思いだった。

 思いつきで取った行動も意味があったのだ。

 リアスはさらに続ける。

 

「一樹だけじゃないわ。もし祐斗と白音が敵女王を倒せなかったらアーシアを解放できなかった。アーシアが一誠の治療を行わなければ一誠はどのみち動けなかった。これはあのときみんなで勝ち取った勝利だわ!」

 

 上機嫌に話すリアスに一誠は戸惑う。

 その時のことを覚えていないからどうにも実感がわかないのだ。

 ついでに言うならリアスの恋愛に対して口出ししないことも両親に確約させたらしく、彼女は自由の身となった。

 ただ、婚約を破棄されたフェニックス家との関係は僅かばかり荒れたがこれは仕方がないだろう。

 

「それで明日なんだけど。今回の件のお礼も兼ねてちょっとしたパーティーを開こうと思うの。郊外にあるホテルなのだけれど——————」

 

 場所を聞いて一樹は冷や汗を流す。

 

「部長。そこって確か駒王町でもかなり高いホテルなんじゃ……」

 

 リアスが指定したホテル会場は駒王町でもかなり豪勢なホテルであり、予約を取るだけでも一苦労。というか学生身分で予約が取れる場所では断じてない。

 何せ、高級官僚や大企業のパーティーなどでも使われる場所で、雑誌やテレビなどにも何度か紹介されている筈だ。

 建物に入るだけでもそれなりの格好が求められるほど。

 いくら何でも高校生の個人的なパーティーにしたら値が張りすぎている。

 

「ええ。そうなのだけれど。このホテルを予約したのはお兄様なのよ」

 

「魔王様が?」

 

 リアスの答えに一誠が首を傾げた。

 

「非公式とはいえ、レーティングゲームの初勝利を祝ってのプレゼントだとか。ソーナたちも呼んで。イッセーのご両親も招待してるから。一樹もお姉さんを連れて来てもかまわないわ。格好は一応制服でね」

 

「はぁ……」

 

 まあ、山を所有するほどの財力があるのだ。高級ホテルを予約するくらい造作もないのかもしれないと一樹は考えを改める。

 

 一樹は知らなかった。そのホテルの株主が実はリアスの兄であるサーゼクス・ルシファーであることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、これは無駄になってしまったようだね」

 

 手にした紙をひらひらと泳がせてサーゼクス・ルシファーは苦笑していた。

 それは、もしもの時に用意していた転移の札だった。

 もしリアスがライザー・フェニックスに敗北した場合、最後のチャンスとして眷属の誰か。この場合兵藤一誠だろうか。を転移させ結婚場に乱入させる段取りがあった。

 正直に言えばサーゼクス自身リアスが勝てる可能性はかなり低いと見積もっていただけに今回の勝利は喜ばしいものである。

 もしこの保険を行えば、自分の魔王としての評価に傷が入ることは間違いない。

 それでも妹には思うがまま生きて欲しいと思う自分は相当な兄馬鹿だろう。

 

「それもこれもあの2人のおかげかな」

 

 机に置いてある2つの資料に目を通しながら眉間には僅かに皺が寄る。

 

「まさか、あの事件の被害者である2人がリアスに手を貸してくれたとはね。感謝の念は尽きないが、複雑ではある」

 

「あの2人をリアスお嬢さまから引き離しますか?」

 

 側に控えていたグレイフィアの提案にサーゼクスは苦笑して首を横に振った。

 

「よろしいのですか?」

 

「今回、2人はリアスの恩人だ。無下に扱うことはしたくない。それに我々は本来、彼に謝罪する立場だよグレイフィア」

 

「ですが……」

 

「それにリアスたちとも友好な関係を築いている。しばらくは様子見をしたい。手荒な真似もしたくないしね。甘いかな、私は……」

 

「私は、貴方の決定に従うだけです」

 

「そうか。そうだね、グレイフィア」

 

 以前、リアスが日ノ宮一樹と猫上白音について調べた時にサーゼクス自身その調査結果を一部隠蔽した。

 多少おかしな点は有れど、彼らが普通の生徒に思えるように。

 それが良かったのか悪かったのかサーゼクス自身が判断出来ないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめぇな、これ……」

 

 件のパーティーが始まってから一樹は料理に舌鼓を打っていた。

 最初ホテルの敷居を跨ごうとしたときはあまりの場違いさに胃が痛くなりそうだったが、見知った相手しかいないこの状況で次第に肩の力も抜けてしまった。

 このホテルの従業員は全てリアスの家の者。つまり悪魔であるらしく、気兼ねする必要はないらしい。

 

「食べてるかい?」

 

「見ての通りだ。食ってる食ってる」

 

 皿に山盛りにされた料理を見せると祐斗は苦笑した。

 反対に祐斗の方はちょこんとサラダが少し乗ってる程度だったが。

 

「白音ちゃんも随分馴染んできたね。前までは誰とも関わろうとしなかったのに」

 

 少し離れたところでアーシアと一緒にいる兵藤夫妻と談笑している。

 僅かながら笑みを浮かべている白音に一樹は内心ホッとしていた。

 

「いつまでも壁作ってるわけにもいかねえだろうしな。善い傾向だよ」

 

 前に白音が悪魔が嫌いとは聞いていたが少しずつ歩み寄ることが出来ている。

 もっとも今のところ積極的に話すのはアーシアぐらいだが。

 

「そういえば、兵藤と匙って仲良かったんだな」

 

「うん。なんだかんだで気が合うみたい。匙くんも以前、将来は出来ちゃった結婚したいっていってたし」

 

「……そうか。最低だな。ただ単に同類だったわけだ」

 

 もっとまともな奴かと思ってたのにと思いながら盛ってあるパスタ料理を食す。

 

 周りを見渡すとゼノヴィアや朱乃はシトリー眷属と話をしている。どうやらレーティングゲームのことを話しているらしい。

 

 そこで奇妙な組み合わせを発見した。

 

「姉さんと部長たち……?」

 

 そこには一樹と白音の姉、黒歌とリアス、ソーナが一緒の場所にいた。

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりですね、猫上黒歌さん」

 

「ええ。お久しぶり」

 

 リアスとソーナが話しかけると彼女は予想通りと言わんばかりの態度で応じた。

 ただ、酒が入ってるせいか頬が僅かに上気し、同性から見ても色っぽく見える。

 

「今回はお招きいただきってお礼を言うべきかしら?」

 

「それには及びません。今回、お世話になったのはこちらですから」

 

「そう。あの子たち……というか白音も、少しは上手くやってるのね」

 

 姉のような母のような表情でアーシアと一緒にいる白音に目線を向ける。

 

「で?まさか世間話をするために話しかけてきたわけじゃないでしょ?というより、話があるから今日呼ばれたのよね、私」

 

 手にしたグラスの酒を楽しみながら黒歌はリアスとソーナを見据える。

 この地の管理者である彼女たちからすれば自分のようなイレギュラーの正体が知れないのは不安なのだろう。

 今日この場に呼んである程度、それを払拭したかったのか。

 そう言う意味では一般人も紛れているこの場はうってつけと言えた。

 だがなまじ黒歌との実力差がわかるからどう切り出せばいいのかわからずにいる。

 そんなふたりに黒歌は年上として話を振ることにした。

 

「何が聞きたいの?このお酒や料理も美味しいし、気分がいいから話せることは話すわよ」

 

「では私から。以前、猫上白音さんは悪魔が嫌いだと仰っていたと聞きます」

 

「そうでしょうね」

 

「なら貴女も……」

 

「好き嫌いで言うなら嫌いよ。悪魔には昔色々と酷い目にあわされたしね。人生を狂わされるほどの」

 

 口調は軽いがその眼が笑っていないことに2人は気づいていた。

 この話を事細かく話す気はないのだろうとも察した。

 

「ならばなぜ貴女の家族をオカルト研究部に置いているのですか?そもそもうちの学園に通う必要もなかったのでは?」

 

「ま、そうね。でもそうも言ってられなくなりそうだからね」

 

「は?」

 

「私や白音個人は悪魔が嫌いよ。でも一部の馬鹿がやらかしたことをいつまでも恨んで、全体を見ないフリしても良いことなんてないって話」

 

「貴女は……」

 

「でもこれだけは覚えておきなさい。悪魔の駒やそれに付随するあれこれで泣きを見た人だっているってことを」

 

「それは、どういう……」

 

 リアスが更に踏み込もうとするが、黒歌はそこで話を切った。

 

「暗い話はここまで!私はあっちで食べてるから。あ、デザートも期待してるわよ?」

 

 それだけ言って黒歌はその場を去って行った。

 

 リアスとソーナが何も言えないでいると、別方向から声がかかった。

 

「部長!これめっちゃ美味いっす!」

 

「会長!こんな隅っこでどうしたんですか!」

 

 話しかけてきたのは彼女らの兵士二人だった。

 

「いえ、少し世間話をしていただけです」

 

「あ、部長!俺の両親が今回のパーティーに招いてくれたお礼が言いたいって言ってるんですけど」

 

「えぇ。すぐに向かうわ」

 

 リアスは頭を切り替えて兵藤夫妻の下へ足を動かす。

 そこであることを思い出した。

 

「そういえば一誠。今回はありがとう。あなたのおかげで私は望まない結婚をしないで済んだわ」

 

「へ?いや!俺にとって部長のために戦うのは当たり前っていうか!俺だけの力じゃなかったしというか!とにかく!あんな野郎と結婚せずに済んでよかったです!!」

 

 しどろもどろに言葉を紡ぐ一誠にリアスはクスクスと笑う。

 そうしてリアスは一誠を頭を抱き寄せた。

 

「ぶ、ぶぶぶぶぶぶ部長!?」

 

「私からのお礼よ。このパーティもまだまだ楽しんで行ってね」

 

 そうして呆然とする一誠を置いてリアスは兵藤夫妻の下へ行って挨拶をした。

 その場を周りの目に留まらなかったのか、誰も一誠が顔を真っ赤にしている理由を察することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




次話は三勢力の会談が書き終わったらまた投稿を再開したいと思います。

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