太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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14話:特訓・中編

 槍が襲い来る。

 何度見たそれを未だまともに躱す事も出来ない。

 そもそも力量に差がありすぎて相手の思惑通りに動かされ続けている。

 

「っの!?」

 

 こちらが槍を振るっても、容易くあしらわれてしまう。

 そしてまた相手が突いた槍が喉を貫通する。

 今日も進歩がないまま俺は夢で殺された。

 

 

 

 

 

 

「ハッ!!」

 

「意気込みは買うがな!」

 

 合宿四日目。今日も今日とて木刀を振るっていた。

 今日の一樹の相手はゼノヴィアで、木刀を振るっている。

 戦車であるゼノヴィアに力で勝てるわけもなく、幾度となく体を弾き飛ばされるが、逆に受け身の訓練になって下手に打ち付けることは無くなった。

 

 鍔迫り合いになれば確実に負けるため、真正面からは戦わずに祐斗を真似て足を使い手数を増やしてどうにか拮抗しようとするも、動きを読まれて結局無駄に終わった。

 

「どぅ!?」

 

 今日何度目かわからない転倒にめげずに立ち上がると待ったをかけた。

 

「どうした、降参か?」

 

「いや、得物を替えたいんだだけど、いいか?」

 

 一樹は木刀を置いて、掛けてある棍に持ち替える。

 棍を何度か突きや払いの動作を繰り返していく。

 

「うしっ!なんとか扱えそうだな……続き、頼むわ!」

 

 棍を手に構えを取る。その姿にゼノヴィアが驚く。

 棍を構えるその姿は木刀を握っていた時より様になっていた。もちろん素人にしては、だが。

 

「っ!」

 

 一呼吸で放たれた突きをゼノヴィアは僅かに動いて避ける。

 棍を横に動かして払いに入り追撃するが、それを軽く弾いた。

 バランスを挫いたところに胴を狙い、木刀を振るう。

 

「だぁっ!!」

 

 振り下ろす形で一樹は木刀を受け止め、刀身を逸らすように動かすが―――――。

 

「甘い!」

 

 タイミングが合わず、そのまま体ごとゼノヴィアに弾き飛ばされた。

 

「ちっ。もう少しだったのにな」

 

「だが、動きは悪くなかったぞ。君は、剣より長物の方が向いているようだ。今度からはそちらを使って特訓したらどうだ?」

 

「だな。ゼノヴィアと裕斗が剣を使うし、白音と兵藤は素手が基本だしな。ゲームで1人くらい別の武器を使った方がいいかもな」

 

 棍を振るいながら一樹は頷く。

 

(でもできれば槍があるといいな。まぁ、そんなの持ってねぇんだけど)

 

 無い物強請りをしても仕方ないと棍で動きを確認する。

 

「もうちょっとコレ慣らしてぇ。付き合ってくれるか」

 

「ふふ。かまわないぞ。さぁ来い!今日中にそれを実践で使えるようにするぞ!」

 

「そりゃまた難易度が高い要求なことだ!!」

 

 2人はお互いの得物を打ち付け合った。

 

 

 

 

「うおぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

「気迫は認めますが、行動が丸分かりです」

 

「げふっ!?」

 

 突進する一誠に白音が飛び蹴りを容赦なく顔面にお見舞いした。

 

 戦闘の基本が徒手空拳ということもあって、一誠の主な相手は白音が担当していた。

 主に一誠が殴られ蹴られ投げられを繰り返し、偶に防御が成功するくらいだ。

 

 そんな2人の模擬戦を見ながら祐斗は聖魔剣で素振りをしている。

 

 禁手(バランスブレイク)はその維持に膨大な力を有する。裕斗の課題は少しでも長く自身の新しい力である双覇の聖魔剣を使いこなすことだった。そしてそれを長く維持すること。

 

 しかし、強力である聖魔剣を受け止める相手はゼノヴィアとデュランダルのコンビしか居らず、しかも危険が高いことから聖魔剣を使っての模擬戦はリアスから禁止されていた。

 

 祐斗は師から教わった剣の型をひたすらに繰り返す。

 基礎があるからこそ技は冴え、基礎のない技はハリボテでしかない。

 自分の一挙一動を確かめるように剣を振るう。

 基礎をくり返しながら自分の禁手の維持を務める。

 そんな中で少し離れたところで模擬戦をしている一樹とゼノヴィアを見ていた。

 

「へぇ。すごいね」

 

 一樹は手加減しているとはいえゼノヴィアの動きに合わせて受け流している。

 それはここ数日である程度、ゼノヴィアの動きを体に覚えこませたからか、それとも得物の違いか。

 後で自分も相手してもらおうと祐斗は決めた。

 

 

 

 

 

 

 合宿の時間も半分を越えて、今日も白音は夜中に皆から離れてとある技の練習をしていた。

 

「また、ダメだった……」

 

 今練習している技は、姉である黒歌と考えて白音がここ5年程かけて習得しようとしている技だ。

 理論自体はさほど難しくないものの、未だに形にならずにいる。

 

「もう少し、もう少しなのに……」

 

 コカビエル戦から白音は自分の力不足を痛感していた。

 このままではいけないと訓練にはこれまで以上に力を入れてきた。

 そしてこの合宿の話は正直白音にとって願ったり叶ったりだった。

 いくら訓練の質を上げようと普段の生活に縛られている白音はどうしても訓練に割ける時間は限られている。しかも一樹の訓練の面倒まで見なければいけなくなり、結果としてさらに時間が削られてしまっていた。

 だから、この合宿期間中にこの技だけは完成させると決めている。

 だが、上手くいかない。

 あと一歩のところで完成に至らないのだ。

 

「少し、休んでさっぱりしよう……」

 

 煮詰まっている現状を認めて白音は別荘に戻り、温泉に入ろうと風呂場の脱衣所を潜る。

 

「あ、白音さん……」

 

「……どうも」

 

 そこには先客のアーシアがいた。

 特に話すこともなく、服を脱ぎ始める白音。

 2人とも会話をせずに温泉に浸かる。

 アーシアは何か話そうとしているが話題がなく少し離れた位置から白音をチラチラ見ている。

 白音は温泉の水面に映る自分の顔を見ながら何かを考えこんでいた。

 

「温泉、気持ちいいですね……」

 

「そうですね」

 

 それで話すことが無くなり2人はまた無言になる。

 一樹と違って白音はオカルト研究部に積極的に関わってこない。

 悪魔の仕事は手伝うが、会話に混ざることは滅多になく、訊かれたことも最低限回答するだけで話を切ってしまう。

 オカルト研究部の輪に入るか入らないかの位置が彼女の立ち位置だった。

 それは以前言っていた白音の悪魔嫌いが理由だろう。

 籍を置く以上はやるべきことはやる。しかしそれ以上は干渉しない。

 白音のそんな在り方に疑問を抱いてアーシアは問いかけようとした

 

『あの……』

 

 同時に口を開いてお互いに眼を見開く。

 一瞬、どうしたものかと思ったが、アーシアは珍しく自分から質問する。

 

「白音さんはどうして今回のゲームに参加したんですか?」

 

 ずっと疑問だった。

 悪魔が嫌いと言っている彼女がなぜ今回のゲームに参加するのか。

 別にオカルト研究部との友情が芽生えた様子もないし、強制参加でもない。自分の意思で参加する理由が薄いようにアーシアは、というより、オカルト研究部全員の疑問だ。

 白音は俯いたまま、小さく話した。

 

「理由は2つあります。まずは純粋な腕試しです。今の私が上級悪魔にどれだけ通用するか試してみたかったので」

 

 二本立てた指を1つ折る。

 白音自身、悪魔と相対することはあっても基本はぐれの下級悪魔。上級相手にすることはなく、自分の物差しが欲しかったのだ。

 

「あと、あのフェニックス家の人の私たちが部長に飼われてるって発言が許せなかったので……」

 

 白音の顔を覗き見るとそこには口元は吊り上がっているのにその目は全く笑っていなかった。氷のような笑みとはこういうのを言うのか。

 

「飼う?私や、ましてやいっくんを?悪魔風情(・・・・)が調子に乗って……っ!?許さない……!絶対にあの悪魔をヤツザキニシテ――――――ッ!!!」

 

「し、白音さん!」

 

「……!!」

 

 アーシアに名前を白音はバツが悪そうに再び、湯に視線を落とし、バシャバシャと顔を洗う。

 重たい沈黙が流れる中でさらに一歩踏み込む。

 

「どうして……白音さんは悪魔が嫌いなんですか?」

 

 訊いていいのかわからなかったが頭の中でストップがかかる前にそれを口にしていた。

 しかし、知りたいと思った。頑ななまでに仲間(私たち)にも心を閉ざすこの小さな少女の。

 例え、それがただのお節介でも。

 

「グレモリー部長や支取会長は例外なんですよ」

 

「え……?」

 

「大多数の悪魔は他種族の存在を見下しています。彼らは特に人間は自分たちに奉仕するのが当然だと考える悪魔は少なくありません」

 

 特に純血の上流階級に属する悪魔はそれが顕著だ。あのライザー・フェニックスですらまだマシとも言えるほど。

 ぽつりぽつりと話すその姿がアーシアには懺悔のように見えた。

 

「どこにでも在る当たり前の家族がいたんです……。当たり前の幸せ。特別なんてない日常。ずっと続くはずだった平穏。でも、彼らは自らの欲望のためにそれをさも当然のように壊しに来る。自分たちの欲望のために……」

 

 ――――――だから、今度こそ守らないと。

 

 それを口にせずに目を閉じて自らの存在意義を再確認した。

 

「白音、さん……」

 

 そのすべてを聞かずとも、白音が過去に悪魔から深い心の傷を受けたのを感じた。それでも、オカルト研究部にいるのは、日ノ宮一樹という少年の為だと察した。

 もちろん細かい事情はわからないが。

 

「私からもひとつ、いいですか?」

 

「えっと……こちらも答えてもらいましたし、私に答えられることなら何でも訊いてください!」

 

「どうして、アルジェント先輩は悪魔に成ったんですか?」

 

 アーシアが自分から悪魔に転生するとは白音には思えなかった。

 今でも頭痛覚悟でお祈りをしている姿は日常的に眼にするほど敬愛な信仰者である彼女が悪魔の長寿を望む性格には見えない。

 どうしてアーシアが悪魔に成ったのか、白音には分からなかった。

 

「あぁ、そのことですか。実は―――――」

 

 アーシアはそれからひとつひとつ思い出すように答えてくれた。

 

 物心ついたころから親は居らず、教会の管理下にある施設で育ったこと。

 ある日、神器の力(聖母の微笑み)に目覚めてからは人々を癒す聖女として祭り上げられたこと。

 次第に仲の良かった人々からも聖女として見られ始め、対等に話せる相手が居なくなったこと。

 ある日、傷を負った悪魔を治療したことで聖女から一転して魔女として教会から追い出されたこと。

 身の置き場の無くなったアーシアは堕天使のところへ身を寄せることになったこと。

 そんな中で兵藤一誠と出会い、彼と友達になるも、アーシアが身を寄せていた堕天使の目的はアーシアの神器であり、それを引き抜かれて死亡したこと。

 そして最終的にリアスによって蘇生させられてリアス・グレモリーの眷属になった。

 懐かしむように。しかしどこか痛むモノを抑えるように話すアーシア。

 

「アルジェント先輩は、自分が知らない間に悪魔に転生させられたことを恨んでないんですか?」

 

 バカな質問だと白音自身思う。

 もしそうなら彼女はとっくにはぐれになっているか、悪魔に成ったことを儚んで自殺でもしているだろう。

 それでも聞いてみたかった。

 なぜ彼女が悪魔である自分を受け入れられたのかを。

 

「正直に言えば、最初は戸惑いました。習慣のお祈りをすれば頭がすごく痛くなりますし、聖書も同様で。悪魔に成ったばかりの頃は日中に動くのも辛かったですし……」

 

 でも、と言葉を続ける。

 

「嬉しかったんです。ここでは私を誰も聖女として接する人はいません。イッセーさんや桐生さんみたいな友達も出来ました。私がずっと欲しかったモノがあって。私はいま、心から笑えてるんです」

 

 人間であった頃に手に入らなかった幸福をアーシア・アルジェントは確かに今手にしているのだ。

 だから後悔はない。むしろ感謝していると彼女は言う。

 

「その中には白音さんや一樹さんも入ってるんですよ」

 

「え?」

 

「お二人にはいつも良くしてもらってますし、私はお二人が大好きですよ」

 

 飾らないその単純な言葉に白音は頬を染めてアーシアから目を逸らす。

 

「私は悪魔ですけど、白音さんとも仲良くしたいです」

 

 あぁ、ずるいなぁと思った。

 アーシアの言葉には何の裏もない。

 彼女は自身の心のままに発言しているのだ。

 疑うのがバカらしくなるくらい真っ直ぐに。

 

「……先に、上がります。おやすみなさい、アーシア(・・・・)先輩」

 

「え?」

 

 名前を呼ばれてアーシアは驚いた。

 白音は基本としてオカルト研究部の人間を一樹を除いて苗字+先輩としか呼ばない。それが今確かに名前で呼ばれたのだ。

 少しだけ。本当に僅かな一歩かもしれないが、確かにそのその距離は縮まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、兵藤一誠は独り、思い悩んでいた。

 この合宿で自分だけ成長している気がしない。

 元々積み上げた下地が違う他の仲間たちはもちろんのこと、自分より後にやってきた一樹も少しずつ成果が出てきている。今日見た棍を使う一樹を見た時の衝撃は大きかった。

 その事実が一誠を大きく焦らせていた。

 精々出来るようになったのは魔力を使っての野菜の皮むきくらい。

 このままじゃ自分だけ置いてきぼりじゃないかとひたすらに訓練に没頭したが不安は拭えない。むしろ、やればやるほど無駄なんじゃないかとすら思えてくる。

 

「なあ、ドライグ……」

 

『どうした、相棒?』

 

「俺、あのライザーに勝てると思うか?」

 

『無理だな』

 

「即答!?」

 

 一誠が自分の左腕に宿る【赤龍帝の籠手(ドライグ)】に話しかけ、自分の疑問をぶつけるがそれは聞きたくない返答で返される。

 

『そもそも相棒は悪魔に成ってまだ半年も経ってない新人だろう?それが、上級悪魔相手に勝てると本気で思ってるのか?』

 

「ぐぅ!?」

 

 まさにぐうの音も出ない正論に一誠は呻いた。

 

『まぁ、手がないわけじゃないがな……』

 

「ホントか!?」

 

『……相棒は、コカビエルを倒した白いのを覚えているか?』

 

「そりゃあ、まぁ……」

 

 自分たちが手も足も出なかったコカビエルを圧倒した白い鎧。

 結果的に取り逃がしたものの、あの姿は一誠の頭にこびりついている。自分にもあんな力があればと。

 そうすれば、ライザーからリアスを守れるのに。

 

『あれは、【白龍皇の光翼(アルビオン)】の禁手だ。既に奴はその領域に至っていた。そして対と成す俺にも当然禁手は存在する。あの木場とかいう小僧の聖魔剣のようにな』

 

「ま、まさか!?今の俺でもお前の禁手が使えるのか!?」

 

 期待を込めて自分の左手に問いかける。

 しかしドライグの答えは無情だった。

 

『まさか。そんなわけがないだろう』

 

 ベッドから落ちて顔を打った。

 

「なんだよ!?ぬか喜びさせやがって……!!」

 

『相棒はまだ禁手に至れるほどのレベルに到達していない。だが例外は存在する』

 

「例外?なんだよ、それ?」

 

『自分の身体の一部を捧げることで一時的に禁手に至らせることはできる。まぁ、お勧めはせんがな』

 

「もっとわかりやすく言ってくれよ」

 

『つまり、肉体の一部を腕やら足やらを龍に変質させる代わりに禁手という力を得る手段だ。これを行えば短い時間なら禁手の力を使うことも可能だ。あの不死鳥の小僧に勝てるかは相棒次第だがな』

 

 

 体の一部を龍に変質させる。それがどういうことかはわからない。しかしそれでリアスを望まぬ結婚から救えるのなら―――――。

 そこまで考えた時に、ドライグからストップがかかる。

 

『だが止めておけ。それは結果的に自分の首を絞める行為だぞ』

 

「なんだよ、それ……」

 

『既に白いのは禁手に至り、古の堕天使をも凌駕する力を手にしている。()(アイツ)は常に戦う運命にある。あの不死鳥程度で疑似的な禁手に頼っているようでは今代の白いのに勝つことなどあり得まい。俺は次の宿主に期待すればいいが、相棒は死んだらそれまでだろう?』

 

 ドライグなりに一誠を気遣っているのだろう。その上であえて厳しい現実を突きつけている。

 

『幸い、今回は相棒独りで戦うわけじゃない。仲間に頼るという選択肢もある。無理に自分の肉体を犠牲にすることもない』

 

「……うん」

 

 それでも、きっとそれしかないと思ったらきっと自分はこの体を捧げてでも禁手の力に頼ってしまう。そんな気がした。

 

 結局、どうしたらいいのか答えが出ないまま、一誠は一睡もできなかった。

 

 

 

 

 


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