太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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11話:新しい日常

「祐斗は3位か。相変わらず才色兼備だな、お前」

 

「これでもしっかり勉強してるからね」

 

 貼られた順位を眺めながら祐斗と一樹は雑談している。

 そこから少し離れたところからアーシア、ゼノヴィア、桐生が話していた。

 

「桐生さんすごいです!学年10位なんて!」

 

「ふふん!まあね!これでもしっかり勉強してるしね」

 

「むぅ。計算や英語はともかく現国と古文はなぁ」

 

「ま、それはしょうがないんじゃない?期末テストで挽回すれば?」

 

 ゼノヴィアとアーシアは理数系と英語は高い点数を出したが、それ以外、特に古文は壊滅的だった。

 まぁ、この国に来たばかりの彼女たちに日本の古文で成績を出せというのも無茶な話かもしれないが。

 

「それに、赤点ギリギリのアイツらに比べればマシマシ」

 

 桐生が指差したのは学園で最も有名な問題児である変態三人組こと兵藤、松田、元浜だ。

 

「ふん!別に羨ましくなんてない!」

 

「そうだ!俺たちにはエロがある!成績の順位など不要!」

 

「そして今日から部活解禁!張り切って覗きにいくゼェっ!?」

 

 最後の部分でハリセンを持った一樹が変態3人組に振り下ろした。

 

「廊下でなに叫んでんだお前ら……」

 

「元気なのはいいけど、色々と程々にね」

 

 話に入ってきた一樹と祐斗にアーシアが話しかける。

 

「お二人も、これを見に?」

 

「まあな」

 

「ふん!どうせお前だって木場の付き添いで名前載ってないだろ!」

 

「そういうことはしっかりと紙を見てから言えや。ほら」

 

 一誠の言葉に一樹は面倒臭そうに掲示板に貼られた紙を指す。

 

 34位:日ノ宮一樹

 

 それを見た変態3人組が一瞬呆けた表情をしてすぐにムンクの叫びのような表情になる。

 

「嘘だ!なんでお前そんな頭いいんだよ!イケメンだからか!」

 

「ツラは関係ねぇだろ!つい最近まで帰宅部だったし、やることねぇから勉強してたんだよ」

 

「中1の時はてんでダメだったけどね。下から3つ4つぐらいだったんじゃない?」

 

「うるせぇよ……」

 

 桐生の指摘に一樹は不機嫌にして顔を逸らす。

 

「しかしそれから成績を上げたのだろう?何かきっかけでもあったのか?」

 

「あ~。それは、ねぇ?」

 

 どこか言い辛そうにしている桐生が一樹に視線を移す。

 

「……中1の終わり頃にちょっと問題起こしちまってな。それから教師連中の目が厳しくなったからか、何かある度に俺の所為みたいに言われるようになってな。それで知人の助言で成績さえ上げときゃあ向こうから絡んでくることが少なくなるぞって教えてもらったんだよ。ま、それで勉強はちゃんと始めたわけだが」

 

 やり始めた時は大変だったけどな。と付け加える。

 

「それに俺、基本的にダメなんだよな。堪え性がねぇから教師や相手の親とかでもケンカ売られたら買っちまうこともあるし。一度キレると自分で抑えも利かなくなっちまうから。それで素行が悪いだの因縁つけられて悪循環になっちまう。そういうのが鬱陶しいから、とりあえず成績だけは取れるようにしてんだよ」

 

 話を聞きながらオカルト研究部のメンツはコカビエルの時にバルパーに殴りかかった一樹を思い出した。

 もしや過去にもあんなキレ方をしたことがあったのだろうか?

 だとすれば確かに教師に受けは悪いだろう。

 もちろん短い付き合いの一誠たちにも一樹が理由もなくそんなことをするとは思わないが。

 

「だからお前らもちったぁ成績上げとけよ。日頃の行い悪いんだから。下手するとホントに退学になるぞ」

 

 変態3人組に半笑いで忠告する。というかなんでこの3人はまだ退学にならないのか不思議である。

 学園七不思議とかできたらそのひとつに加わるに違いない。

 一樹の忠言に3人は苦し紛れに反論して他は笑っていた。

 そこには確かに日々の平穏があった。

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました!」

 

 日付が変わる時間に魔法陣からオカルト研究部の部室に戻ってきた一樹は室内にいるリアスと朱乃に戻った挨拶をする。

 

「おかえりなさい、一樹くん。お茶、飲みますか?」

 

「あ、ども。いただきます」

 

 淹れられたお茶を受け取って一息つく。

 

「それで、今日はどんな仕事だったのかしら?」

 

「漫画家のアシスタントでしたね」

 

 今時珍しい紙に描く漫画家で一樹と一誠はそのアシスタントに召喚された。

 最初は一誠だけ召喚されたが漫画のアシスタントなどやったことのない人間ひとりではとても間に合わず、一樹も追加で召喚されたのだ。

 召喚者は前に一度悪魔に頼ったこともある経験者らしい。

 

 一樹の魔力量は1日に1回往復する程度だが魔法陣で転移できるだけあり、こうして先に戻ってきたのだ。

 そのことが判明したとき泣きながら一誠に羨ましがられたが。

 こうして先に戻る一樹が仕事の報告をするのが通例になってしまった。

 

「兵藤はチャリでいつも通り戻ってくるでしょう。白音や他のみんなは?」

 

「祐斗とゼノヴィアは先に帰ったわ。アーシアと白音はもう少しで戻ってくると思う」

 

「なら、待ってますね」

 

 そう言って一樹は鞄から参考書とノートを取り出して今日出された課題に取り組んでいる。

 

「真面目なのね」

 

「元々、あんまり頭がいい方じゃないですからね。こうしてないとすぐに成績落ちちゃうんですよ」

 

 それから十分ほど経ってからアーシアと白音が帰ってきた。

 

「ただいま戻りましたぁ!」

 

「戻りました……」

 

「お疲れ様、2人とも。ずいぶん遅かったのね」

 

「ある意味壮絶な時間でした」

 

「アハハ……」

 

 ふたりとも色濃く疲れを残して帰ってきた彼女たちの仕事はコスプレ衣装の試着らしい。

 なんでも多種多様の衣装を身に着けて様々なポーズを撮られたらしい。

 契約者の趣味で可愛い女の子が可愛い服を身に着けてた写真を撮られる仕事だったらしい。

 相手の反応は大絶賛で、報酬は既定の倍額貰ったらしい。

 

「そんじゃ、白音も戻ったし俺たちは帰ります。いいですよね?」

 

「ええ。お疲れ様。明日は学園が休みだから、ゆっくりして頂戴」

 

「そうします。お疲れさまでした。お茶もご馳走様」

 

「……お疲れさまでした」

 

 そう言って退室するふたりを、リアスはどこか羨ましげに見ていた。

 

 

 

 

 

 休日。

 

 室内で一樹は禅を組んでいる後ろで白音が両肩に手を乗せていた。

 

「そう。自分の中にある力の流れを意識して。それを手足に集めるように動かして……」

 

 今一樹は白音に【気】の扱いについて学んでいた。

 コカビエルの件で一樹が無意識下で【気】を扱えるのが判ってからこうして白音の下で指導を受けている。

 その際にわかったことは、一樹が【気】を扱う場合、体から離れるとたちまち炎に変換されてしまうということだ。

 つまり、体内で身体能力の底上げや体を覆うようにして使い鎧に仕立て上げるようにするなら問題ないが、それより【気】が離れると自然と炎に変わってしまう。

 今は、意識的に【気】を操って体に留める訓練を行っていた。

 コカビエルの一件以降、一樹は猫上姉妹から様々なことを学んでいる。

【気】の扱いに裏の世界の知識と体術。

 

「そう。その状態をそのまま1時間維持していて」

 

「お、おう……」

 

 白音が手を放して昼前ということで昼食の準備を始めた。

 一樹は留めている【気】を維持に神経を張り巡らせる。

 瞬発的に使うのは大分慣れてきたが、それを維持するのはまだ難しい。

 

 少し前に手からビー玉くらいの炎の玉を作って維持したがものの10分で消えるか、場合によっては爆発して火事になりかけた。

 その時は黒歌が妖術ですぐに鎮火し、翌日業者に直させたが。

 まぁ、それから炎を使った訓練は抑えているのだ。

 

「【気】の維持が乱れてきてるよ。もっとしっかり留めて」

 

「わ、わかってる!」

 

 フライパンの中身をかき混ぜながら指摘されて一樹は慌てて【気】を留め直す。

 逆立ちを続ける難しさというか、瞬発的にやるならコツを掴めば難しくはないのだが長時間だとキツイ。

 目を閉じてより深く集中している一樹に人影が近寄る。

 

 ふぅ~。

 

「ふわっ!?」

 

 突如耳に息を吹き込まれて【気】の維持を解いてしまった。

 

「姉さんいきなりなにすんだよ!?」

 

「これくらいで乱してたらどっちみち実戦じゃ使えないわよ。最低でも無意識下でも必要に応じて【気】を扱えるようになること。目標としては寝ていても維持まで常に維持できるようになることかな」

 

「昨日今日で学び始めたヤツに無茶言うなよ!」

 

「そんなこと言ってるといつまでたっても白音や私には追いつけないよ。最初はちょっと駆け足気味で上達してもらわないとね」

 

 ぐうの音も出ずに黙る一樹。

 

「前にも説明したけど、【気】は生命の力なのよ。扱えればその恩恵は絶大だけど、使い方を間違えたら文字通り命に係わる。だからどんな状況でも十全に使いこなせるようにならないとね」

 

 笑って説明する黒歌に一樹は拗ねたように顔をそむける。

 また、前回のようなことになった時にせめて自分の身くらいは守れるようになりたい。出来れば家族も。

 しかしその道はまだまだ長そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「で、実際のところどうなんだよ?」

 

「何回同じ質問を答えさせんだよ。うぜぇな……」

 

「うぜぇとか言うなよ!?」

 

「あはは……」

 

 授業が終わり、部室に向かおうとしているところで、支度をしているアーシアとゼノヴィアの2人を待っていた。

 廊下でオカルト研究部の男子が話している内容と言っても一誠が一方的に話しかけてくるのだが。

 その内容が一樹の同居先の猫上姉妹の裸とりわけおっぱいを見たかなどの話だ。

 一樹自身猥談などをあまり好まない性格かつ一誠のしつこい質問攻めに眉間に皺を寄せてイライラしてきている。

 仕舞いにはあれだけの美人や可愛い女の子と暮らしてるんだから覗きくらいするだろと言い出す始末。

 

「なら、お前はアーシアの風呂とか着替えとか毎日覗いてんのか。最低だな」

 

「違ぇよ!いきなりなに言い出すんだお前!?アーシアのことはそんな風には━━━━━」

 

 言い欠けたところで女子2人が出てきた。

 

「すまない待たせた」

 

「お待たせしました。皆さんなにを話てらしたんですか?」

 

 無垢な瞳で質問されて、一誠はなんでもないと言おうとしたが先に一樹が口を開いて特大の爆弾をさらりと投下した。

 

「実はな、アーシアの裸を別に覗くほど魅力感じないから姉さんの裸見せろって要求されてたんだ」

 

「おいぃいいいいいいいいいいっ!!?なんてこと言ってんだてんめぇええええええええええええええっ!!!?」

 

 アーシアは一瞬何を言われたのか分からない感じで呆けていたが、次第に言われたことを理解すると目尻に涙を浮かべ始めた。

 

「そうですよね……イッセーさんは部長さんみたいな人じゃないと……」

 

「まったく酷いこと言うよな、兵藤は」

 

「テッメェ、マジふざけんな!?」

 

 胸ぐらをつかむ一誠に一樹は憎たらしくなる半笑いをしている。

 

「それより、早くフォローしなくていいのか?」

 

 首でアーシアを差す一樹を一誠は忌々しげに視線を逸らしてアーシアに誤解だと話し始めた。

 

「いくらなんでも酷いんじゃないかな?」

 

 嗜めるように言う祐斗に本人は肩を竦めた。

 

「アーシアにはさすがに罪悪感を覚えたが、兵藤にはまったく悪いとは思わねぇ」

 

 一樹とてアーシアが一誠にどういう感情を持っているのか理解しているつもりだ。それを利用したのは悪いと思うが、一誠を黙らせるにはこれが一番手っ取り早いと思ったので実行した。

 これでしばらくは余計なことを言ってこないだろう。

 

 

 余談だが、この後、一誠は今晩、一緒に風呂に入る約束をして宥めたらしい。

 それを後で知った白音がゴミを見るような眼差しで一誠を見たのは本人の勘違いだろう、きっと。

 

 

 

 

 

 

 とある執務室で部屋の主は手紙の内容に顔をしかめていた。

 数度読み返し、机越しに立っている女性に問い掛ける。

 

「これを、父上と母上は了承したのかい?」

 

「はい。先日のコカビエルの一件がこの内容を承諾させる決め手になったようです」

 

 女性の言葉に男は眉間に皺を寄せた。

 手紙の内容は彼の妹に関わる内容だった。

 

 妹には婚約者がいる。

 幼い頃から取り決められた婚約であったが、妹本人はその結婚に否定的で最低でもあと5年は何事もない筈だったが、ここ最近に妹の周りで起こった事件により、そうも言ってられなくなってしまった。

 

「コカビエルと聖剣による危機が訪れたにも関わらず、即座に上に指示を仰がなかったことが問題でした。一歩間違えば眷属諸とも命がありませんでしたから。助かったのは、一重に幸運に依るものです」

 

「そしてそれを知った相手側が結婚を早める口実にしたわけだ」

 

「はい……」

 

 男の言葉に女性が頷いて答える。顔にこそ出ていないが、彼女も今回の強引と思える相手側の方法によい感情を持っていないということは長い付き合いで判る。

 男は妹の婚約者に悪感情を持っているわけではない。若いながらも優秀な人物であることは間違いないし、婿養子として迎え入れることになれば両家の関係も強化される。家の繁栄にも繋がるだろう。

 だが、問題は妹のほうがこの結婚に反対していることだ。

 

「私は既に家の人間ではないし、君は一従者に過ぎない。口出しすることは出来ても、決定権は父上が握っている」

 

 婚約自体は悪い話ではないが、兄として妹には好いた相手と添い遂げて欲しいと思ってしまう。自分が実家を継げば問題なかったことだが、彼には彼の夢と望みがあった。

 

「とにかくこの件があの子に知れたら自棄になって事を起こすかもしれない。君はあの子が馬鹿な行動を起こさないように見ていてくれ」

 

「承知しました」

 

 女が下がると男は窓から見える空を見上げ、可愛い妹の為に何が出来るか考える。

 

「多少強引ではあるが、私も動くか。まったく。今年に入って妹はトラブルに事欠かないな」

 

 

 

 


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