太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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93-3話:東組

「それにしても、ゼノヴィアとは本当によく一緒の行動になるわね」

 

「そうだな。ここまでくると一種の腐れ縁だと思うよ。なにせ私は悪魔に転生。イリナは天使に転生してもこうしてコンビが組める。この奇跡に主へ感謝したい」

 

 ゼノヴィアが祈りを捧げると頭痛が起こり、顔を顰める。

 

「お2人はいつから行動を共にしているのですか?」

 

「3、4年前ですかね。私が聖剣使いになって初めてコンビを組んだのもゼノヴィアだったんですよ」

 

「あの時の私は色んな者とコンビを組んでいたが、今思うと盥回しにされていたのだろう。イリナと出会ってからはほとんど同じ任務に就いていたしな」

 

「ま、そのおかげで互いの癖とか体で覚えちゃったわね!」

 

「質問しておいてなんですが、そろそろ戦闘に集中しましょうか」

 

 ゼノヴィアが取りこぼした敵をイリナが処理し、反対側の敵はロスヴァイセが魔術で殲滅する。

 3人に焦りの色はなく、淡々と敵を消していった。

 

「式紙という奴か。相手にするのは初めてだが、この数は些か面倒だな」

 

 デュランダルを振るって敵を消し飛ばし、或いは体勢を崩させる。その体勢を崩した敵をイリナがエクスカリバーで仕留めていく。

 式紙の力はそこらのはぐれ悪魔より強力だが彼女たちの前ではあまり変わらない。むしろ、生物でではなく、無駄に生存を気にしなくていい分、戦いやすい相手だった。

 というより、これは戦闘というより作業に近い。

 迫って来る敵をゼノヴィアとイリナが斬り、後方の敵をロスヴァイセが撃つ。

 次第にそうした陣形に移行し、現れる数よりも消えて行く敵の方が多くなっていった。

 

「京都の妖怪たちへの反乱を成功させたというからもっと堅牢な守りだと思っていたが、意外に脆いな。やはり残党だということか?」

 

「う~ん、確かに。私たちが前に英雄派と戦ってることを知ってるならもっと警戒してもいい筈なんだけど……思ったよりザルよね」

 

「もしかしたら罠が張られているのかもしれません。より注意してここからは挑みましょう!」

 

 ロスヴァイセがそう締めるとゼノヴィアとイリナが頷く。

 そこから屋敷の中に入ろうとすると、チッと小さく音が鳴る。その音に気付いたのはイリナだった。

 

「どうしました、イリナさん?」

 

「今、何か音がっ────!?」

 

 聞こえたような、と呟こうとするとゼノヴィアがイリナの体を突き飛ばした。

 すると、イリナがいた場所に何かが突っ切ってきた。

 

 駆け抜けたそれはゆらりと動き、小さく息を吐く。

 

「仕留めそこないましたか。良いタイミングだと思ったのですが」

 

 淡々とした声音には感情の色は薄く、手にした二刀の小太刀構え直し、再び向かってきた。

 

(速いっ!?)

 

 ゼノヴィアはそう思いながらデュランダルを地面に突き立て、一誠から借り受けていたアスカロンで切り結ぶ。

 敵対してきたのは中学生程に見える少年だった。

 力で対抗するのは不利と悟ったのか、即座に距離を取り、ロスヴァイセに向かう。

 

「行かせないわよ!」

 

 イリナが天閃の能力で詰め寄り、破壊の聖剣の力を振るった。

 しかしインパクトの瞬間に少年は後方に跳び、仕切り直す。

 

「いきなり斬りかかって来るなんて、ちょっとひどいんじゃない?」

 

「侵入者は問答無用で排除しろと仰せつかってますので」

 

「貴方がここを守る妖怪ですか?」

 

「青龍、と名乗っております。以後お見知りおきを。もっとも、以後があればの話ですが」

 

 そう言うと先程より速度を上げてゼノヴィアの後ろに現れる。

 振り向いたゼノヴィアは柄の先端で一撃目を防ぎ、そのまま蹴りを叩き込んだ。

 

 大きく飛ばされた青龍と名乗った少年は綺麗に着地し血の混じった唾をペッと吐く。

 

「チッ」

 

 ゼノヴィアが小さく舌打ちした。

 見ると蹴ったゼノヴィアの脚に刀傷が付けられている。蹴られると同時に斬られたらしい。

 動かない訳ではないが、この傷では速度を上げて走るのは難しいだろう。

 

「速度だけなら木場と同じくらいか。やり難いな」

 

 青龍の速力をそう評価し、券を構え直す。

 

「僕は4つの番人でもっとも速力に長けています。簡単に捉えられるとは思わないことです」

 

「この!」

 

 地を蹴った青龍にイリナが擬態の能力で刀身を枝分かれさせて襲いかからせる。

 無数のワイヤーのような剣に襲われて青龍は自慢の速度で避け、或いは小太刀を振るい、突風を起こさせて動きを乱して避けている。

 一部束になっていた聖剣の部分を足場にして一気にイリナへと詰め寄った。

 

「ウソッ!?」

 

 その動きに驚き、一瞬動きが硬直したイリナ。

 青龍が斬りかかろうとした時、魔術による援護が間に入り、攻撃は中断される。

 ロスヴァイセが展開した魔術が休む間もなく発射される。

 

「ハァ!!」

 

 近くに来た青龍を迎え討つようにゼノヴィアがアスカロンを全力で振るい、弾き飛ばす。

 

「まだよ!」

 

 弾け飛んだ青龍にイリナが聖剣の刀身を一直線に伸ばして追撃にかかる。

 両手に持つ小太刀で受け止めた青龍がそのまま壁へと叩きつけられた。

 

「やった! って喜びたいところだけど、あれくらいじゃ倒せないよね」

 

「そうですね。向こうもまだ全力ではないようですし……」

 

 警戒を解かずに3人が構えていると、暴風が巻き起こった。

 

「上です!!」

 

 ロスヴァイセの言葉に2人も上に視線を向けていると、風に乗って自分たちの頭上を取る青龍がいた。

 彼は空中で静止した状態で渦の中心に存在していた。

 渦の力はこの屋敷そのものを吹き飛ばす程に強大な力だった。

 

「たかだか、3人の侵入者にここまで追い込まれる。いえ、貴女たちが八雲さまを倒したのなら順当なのかもしれません。ですが、こちらも敗北は許されていない」

 

 あくまでも感情の乗らない淡々とした声。しかし、込められた勝利への想いだけは伝わってくる。

 

「行きます」

 

 竜巻を纏った青龍がそのまま特攻してくる。

 あんなものをまともに喰らったら彼女らとてタダでは済まないだろう。

 

「ゼノヴィア!」

 

「分かっている! は、あああああああああっ!!」

 

 アスカロンを捨て、ゼノヴィアが突き刺していたデュランダルを振り抜く。そして放たれた聖なるオーラが竜巻とぶつかった。

 2つの力が衝突し、余波が周りを襲う。

 一瞬の膠着。勝利したのはゼノヴィアのデュランダルだった。

 自身の風が吹き飛ばされ、驚きからゼノヴィア以外から意識を外してしまう。

 故に自分が影に覆われていることに気付くのに遅れてしまった。

 

「でぇええええいっ!」

 

 天使の翼を広げたイリナがエクスカリバーを青龍の体に振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、彼の治療と拘束は終わりました」

 

 イリナが斬って意識を失った青龍に最低限の治療を施し、手足を魔術で拘束した。

 

「ここの番人が彼なら、これ以上強い敵が待ち構えていることはないと思いますが、一応警戒を続けながら中を捜索しましょう」

 

「はい!」

 

「分かった」

 

 屋敷の中を捜索し、力を集めている何かを探し始めた。

 少しずつ奥へ奥へと進んで行くとそこには大きな水晶が置かれている間に辿り着く。

 それに触れてロスヴァイセが確信する。

 

「私は黒歌さんのように力の流れを察知する術には長けていませんが、この水晶から力が蓄えられているのを感じます。おそらく、私たちが探していたのはコレでしょう」

 

「ならば、手っ取り早く破壊してしまおう」

 

 ゼノヴィアがデュランダルを振り上げ、躊躇いなく水晶をその刀身を叩きつけた。

 一瞬、空気が溢れ出すように力が流出すると、ロスヴァイセが辺りを見渡す。

 

「これで、本丸を守っていた結界の起点が1つ破壊された筈です」

 

「なら、早くイッセーくんたちと合流して、京都の妖怪さんたちに迷惑をかける悪い妖怪をやっつけに行きましょう!」

 

 イリナの言葉に頷いて3人は東の館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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