太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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92話:京都、再び

「まさか、こんなに早くまた京都に来るなんてな。つーか俺、出席日数足りるよな?」

 

「心配するのそれかよ!?」

 

 到着した京都町並みを眺めながら不安を口にする一樹に一誠がツッコミを入れる。

 

「仕方ねぇだろ!今年に入って休むことが増えちまったんだから!しかも1回あのオーフィス(バカ)に拉致られるし!正直進級出来るか不安なんだよ!」

 

 ライザーとのレーティングゲームの時の合宿に始まり、休みが多かった為に一樹の最近悩みは出席日数だったりする。

 そんな彼氏に白音が微笑を浮かべて話しかける。

 

「来年から同学年……」

 

「おい。そのちょっと嬉しそうな顔やめろ。しないからな?留年なんてしないからな!」

 

 彼女と同学年は確かに魅力的だが1年多く高校生をやる気はないらしい。

 そんな一樹にリアスが苦笑して話す。

 

「一応、今回は校外学習って形を取ってるから、大丈夫な筈よ。あとでレポート提出は必要だけど」

 

 その言葉に一樹が感動したように手を組む。

 

「部長……俺からの好感度がグンと上がりましたよ……!」

 

「ありがとう。私からの好感度は下がりそうなのだけれど」

 

 そんなバカなやり取りをしていると別行動を取っていたアザゼルが戻ってきた。

 

「京都に残っていた部下からの報告だと、表の京都の方は大きな騒ぎがないらしいんだが。ここ数日で突然倒れて病院に搬送される人間が増えてるらしい」

 

「裏京都が制圧されたことと関係が?」

 

「たぶんな。裏京都の方は今までは話し合いで使ってた出入り口が塞がれてて進入出来なくて大したことは分かっていないそうだ。さて、どうしたもんか」

 

 アザゼルが頭を掻いて困ったような表情をしていると、いつの間にか菓子を買っていた黒歌が提案する。

 

「とにかく、先ずはその出入り口を調べてみる?案外、簡単に入れるかもしれないし」

 

「そうだな。じゃあとりあえずは――――」

 

 そこでアザゼルが言葉を切った。

 町中であるにも突如現れたその妖怪に気付いたから。

 武士のような格好をしたそのパッと見て高校生くらいの少年。人間とさほど変わらない見た目だが額に突き出た2本の小さな角が彼が人間ではないと語っていた。

 認識阻害の術でも使っているのか、一般の人たちは誰も彼に注目していない。

 

「ようこそ、私たちの京都へ。そしてよくお戻りになられました。九重お嬢さま」

 

 挑発するように私たち、と強調する彼に九重が一誠の裾を掴みながら睨み付ける。その様子に彼が敵側の妖怪であることを察してアザゼルが前に出る。

 

「お前が今回反乱した妖怪か?」

 

「貴鬼、と申します。父である桜鬼の命を受けて九重お嬢さまをお迎えに上がりました」

 

「母上たちはどうした!」

 

 精一杯の強気な態度で問う九重に貴鬼は流すように答える。

 

「もちろん、無事でございますよ。彼らは今も父が説得しておいででしょう」

 

「……貴方たちの目的はなんなのかしら?八坂の姫に反旗を翻して、どうするつもり?」

 

 リアスの質問に貴鬼はうっすらと笑みを浮かべた。

 

「さぁ?父の最終的な目的は私にも図りかねます。私はただ、父に付き従うだけですので」

 

「……」

 

 受け流すような物言いにリアスは眉を顰める。

 

「来る、と言うならば来て下さい。八雲さまを殺した貴殿方のお越しを父はお待ちしていますよ」

 

 それだけいうとボンッと煙となり、1枚の紙へと変化した。

 

「式紙ですわ。遠くから私たちと会話しているのでしょう」

 

 朱乃が紙を拾って説明する。

 アザゼルが肩を竦める。

 

「京都に入った時点で気付かれてるとは思ったが……さて」

 

「とにかく、先ずはどこかの宿泊施設に泊まりましょう。そこで作戦会議よ」

 

 リアスの指示にはい!と周りが返事を返す。そこで九重が一誠の袖を引っ張った。

 

「どうした、九重?」

 

「その……赤龍帝。あの炎使いの男、信用できるのか?」

 

 一樹を指さす。

 

「どうしてだ?あの蜘蛛の妖怪のときも守ってくれただろ?」

 

 なぜ今そんなことを訊くのか疑問に思っていると九重がだって、と言葉を紡ぐ。

 

「しかし、禍の団に母上が誘拐された時にひとりだけ怖れをなして逃げたと爺たちが言っていたぞ!」

 

 九重の言葉に聞いていた全員の目が点になる。

 もちろん、一樹の耳にも届いていた。

 

「京都の妖怪たちはそんなこと言ってたのか!」

 

 一誠が焦って一樹を見る。

 おそらく子供だからこそ嘘を言っていたのだろうが、この場でその発言を知るのはマズイ。

 

 それに一樹が振り向いて九重に話しかける。

 

「あの時は悪かったよ。でも俺もお前の母親助けるより大事な用事があったんだ」

 

「なっ!?」

 

「お前、そんな言い方!?」

 

「うっせ。まぁとにかく、今回は余程のことがない限りそっちに付き合ってやるから大丈夫だ」

 

 仲良くする気がないのかと疑いたくなる態度。そんな中で白音がポツリと呟いた。

 

「もう、京都の妖怪なんて見捨てて良いんじゃないかな」

 

「そう言わないの。京都に恩を売っておくのは悪いことじゃないしね」

 

 白音の頭を撫でて窘める黒歌。

 そんなやり取りをしながら一行は宿へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どんな感じだ?黒歌」

 

「反乱から逃げた妖怪たちの話やグリゴリ(うち)の情報から、色々と解ったわ。とりあえず地図ね」

 

 調査を終えた黒歌が内部の大まかな地図をテーブルに広げる。

 

「敵の根城になってる本拠地の城を中心に東西南北の大きな建物があったわね。その4つの建物が、霊脈から力を吸いあげてるみたいよ。問題は、表側の一般人からも生命力を吸い上げて集めてることかしら」

 

「つまり、朝に言っていた病院に搬送されてる人たちは……」

 

「その影響と考えられるわ。今は倒れるだけで済んでるけど、いずれは死者も出るでしょうね」

 

 黒歌の説明に数名が息を呑む。

 そんな中でアザゼルが質問した。

 

「裏京都への侵入方法は?」

 

「あぁ。そっちは問題なしよ。向こうが私たちを歓迎してくれてるみたいで、裏京都に入るだけなら問題ないわ。でも、中心の城に侵入するには囲ってる4つの建物の中にある力を吸いあげてる何かを破壊する必要があるわね。そうしないと本丸の結界が破れないわ」

 

「なにかって?」

 

「さぁ?鏡か宝玉か。とにかく力が集まってる物品を破壊すれ破壊すればと思うんだけど。もしかしたら建物を守ってる妖怪とかかも」

 

 説明を終える黒歌。

 それに一誠が呟く。

 

「でも、本拠地に行くために面倒な条件を熟さなきゃいけないなんて漫画やゲームみたいですね」

 

 一誠に言葉にアザゼルが苦笑する。

 

「まぁな。だが、それらと違ってわざわざ1つ1つ順々に壊していく必要はないわけだ。なんせこれだけの人数がいるんだ。分担して攻略するぞ」

 

「チームの編成は?」

 

「中に入るのはリアス・朱乃・黒歌・一誠・一樹・白音・アーシア・ゼノヴィア・イリナ・木場・ギャスパー・ロスヴァイセの12人だな。俺とレイヴェル。それに九重は留守番だな」

 

 正直レイヴェルと九重はこの面子の戦闘力について行けないのだ。

 しかし一誠が疑問に思う。

 

「先生も、ですか?」

 

「俺は、この件が終わった後に周りにせっつかれないように色々と根回しさ。かなり無茶な強硬してるからな。色々と口裏合わせの状況説明者は必要だろ」

 

「なるほど」

 

「ふむ。それで、肝心の編成は?」

 

 ゼノヴィアの質問にリアスが悩んでいるとアザゼルがいつの間にか用意したのか箱を差し出す。

 

「いっそのこと。クジで決めちまうか?」

 

「適当過ぎませんか?」

 

 祐斗の苦言にアザゼルが肩を竦めた。

 

「この面子なら、どういう組み合わせでもなんとかなると思うぞ。それに本丸に攻め込む前の段階で失敗するなら敵の大将を倒すしてこの騒動を収めるなんて無理だろ。中の情報が少なすぎて判断材料もないしな」

 

「そうかもしれないけど……」

 

 困った顔をするイリナ。そこで皆の視線がリアスに集まる。

 

「どちらにせよ。早めに決めた方が良いのは事実ね。余程変なチームにならない限り、これで決めましょう」

 

 そう締め括ったリアスの言葉で結局くじ引きで決めることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 北【一樹・祐斗・ギャスパー】

 

 西【リアス・アーシア・白音】

 

 東【イリナ・ゼノヴィア・ロスヴァイセ】

 

 南【一誠・黒歌・朱乃】

 

 

 

 

 

 

「それなりにバランスよく別れましたね」

 

 ホッと胸を撫で下ろす祐斗。

 

「よっしゃ!黒髪のお姉さま2人とチームだ!」

 

 編成に小さくガッツポーズをする一誠。朱乃も一誠と一緒に慣れて嬉しそうだ。

 

 この編成結果に大人しくしている一樹に不思議に思い、イリナが声をかけた。

 

「一樹くん。イッセーくんと黒歌さんが一緒のチームだけどいつもみたいに何か言わないの?」

 

「なんでだよ。兵藤の戦闘力は信用してるし。そう滅多なことにはならないと思うけどな。変なことさえしなけりゃ文句はねぇよ」

 

『!?』

 

 その言葉に全員が耳を疑った。

 普段一誠を罵倒してばかりの一樹が曲がりなりにも褒めるような言動をしたことが信じられないと言った表情だ。

 

「お、おう!もちろんだぜ!朱乃さんと黒歌さんの2人は俺が必ず守る!!」

 

「あらあら。頼もしいですわ」

 

 ガッツポーズをする一誠。

 だが、それとは別に頭の中でエロい妄想をするのも兵藤一誠という少年でもある。

 

(それでも美人お姉さん2人と一緒に行動。自分から何かする気はもちろんないけど、ちょっとの身体の接触くらいは期待していいよな!おっぱいとか!!)

 

 などと考えているがそれは周りに筒抜けだった。

 

「卑猥な顔……なに考えてるんだか」

 

 呆れるように呟く白音。

 そして念を押すために一樹は一誠の忠告する。

 

「一応忠告しとくが、もし姉さんにふざけたことしたら、俺は容赦なくお前をブタ箱に叩き込むからな?」

 

「なんで俺がなにかやらかす前提なんだよ!?」

 

「今までの自分を行いを振り返ってみろ。いいか!繰り返すが姉さんにセクハラの1つでもしてみろぉ!?俺はお前がこれまで学園でやって来た犯罪行為を全て警察に暴露して、お前の親友2匹共々町を歩けないようにしてやるからなぁ!!」

 

 一誠の胸板を指でトントンと突きながらした宣言に一誠が感情を爆発させる。

 

「ちょっと褒めたと思ったらコレかよ!?このロリコンシスコン野郎がぁ!!」

 

「ロリ……?」

 

 一誠の言葉に白音が眉を動かす。

 

「誰がロリコンだ、この変態がっ!?大体な、例え俺がロリコンでも、性犯罪者の社会不適合者のお前よりは何倍マシだろうが!!」

 

(シスコンは否定しないんだ……)

 

「日ノ宮、お前ホント最近俺に対して塩対応過ぎんぞっ!お前の御先祖様は施しの英雄とか呼ばれるくらい出来た英雄(ひと)だったんだろぉ!!ちょっとはその寛大さを見習おうとは思わなねぇのかっ!!」

 

「ざけんな!何千年前の御先祖がどうだろうと俺は俺だ!そもそもお前の変態行為は見逃して良い理由になんねぇだろ!!大体見習うって話だったらな!あんなデキた両親に育てられて、どうしたらお前みたいな育ち方すんだよ!テメェは誰の背中を見て育ってきた!!この脳味噌まで◯◯◯の形をして産まれてきた異常性欲者がっ!!」

 

「ブッ飛ばすぞ、ゴラァ!?」

 

 鬱憤を全てぶちまけると言わんばかりのマシンガントークに一誠が半泣きで首を絞めにかかる。

 

 罵り合いを始める2人。

 そこでアザゼルがニヤニヤと黒歌に話しかける。

 

「愛されてるなぁ、黒歌」

 

「最近、あの子の愛が重いんだけどね」

 

 遠い目をする黒歌。

 未だ言い合いを止めない2人にリアスがゲンコツを落とした。

 

「くだらないことで体力を使わないでもらえるかしら?今回、フェニックスの涙もないのだからこんなことで手を上げさせないでくれる?」

 

 ため息を吐くリアスに白音がフェニックスの涙と呟く。

 

「ねぇ、レイヴェル。今からちょっと泣かして良い?」

 

「……言いたいことは分かりますが、意味ありませんからね?アイテムとしてのフェニックスの涙はそんな簡単に出来る代物ではございませんから」

 

「そうなのか?」

 

「はい。涙をただ収めて終わりなら、京都に来る前に用意しています。アレには専用の杯と儀式。そして何より無感情の涙が必要なのです」

 

「まぁ、簡単に作れたとして、レイヴェルが勝手に用意したらしたでフェニックス家から抗議されそうな気がするがな」

 

 レイヴェルの答えにアザゼルが苦笑して補足する。

 なにせフェニックスの涙は昨今のテロリストたちのせいで需要がうなぎ上りだ。そんな中で友人だからと勝手に用意したら、それこそフェニックス家から大バッシングだろう。

 

 そこで九重がおずおずと申し出る。

 

「わ、私も一緒に行く!母上たちを助けに――――」

 

「ダメだ。邪魔になる」

 

 その申し出をアザゼルがバッサリと切った。

 

「邪魔はせぬ!」

 

「一緒に中に突入すること自体が邪魔だ。はっきり言ってお前は戦力にならねぇし、向こうもお前を使って何か企んでる可能性も出て来た。俺やレイヴェルと一緒に居てもらう」

 

「しかし!?」

 

 九重からしたら救援を頼んでおいて自分だけのうのうと結果を待っていることなど出来ないのだろう。しかしこの場ではその心意気は足を引っ張る結果にしかなりかねない。

 

「九重さん。大丈夫。九尾の長や囚われている妖怪たちは必ず助け出すわ。だから貴女はここで待っていてちょうだい。ね?」

 

 リアスにそう言われてしまえば口を紡ぐしかない。

 一度息を吐いてリアスが締め括った。

 

「中にある4つの屋敷を情報収集しながら攻略。終わったら本丸の前で合流よ!それから救出組と首謀者の捕縛組に別れて行動しましょう。もしかしたら他にもやるべきことが増えるかもしれないけど。いいわね!!」

 

『はい』

 

 

 

 戦いが、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八坂は目の前の鬼を睨み付けていた。

 たが本人は涼しい表情で笑っている。

 

 厳つい顔に似合う獰猛な笑みで八坂に話しかけた。

 

「貴様の娘は、以前世話になった悪魔たちを連れて京都に戻ってきたぞ」

 

 鬼の言葉に八坂の肩が僅かに跳ねた。

 

「逃げた娘のところに下っぱを遣わせた甲斐があったというもの。奴らまんまと此方に出向いてきた」

 

「……御主は、妾を。そしてこの京都を手中に収め、何をするつもりか!もしや八雲の仇討ちなどと言う訳でもあるまい!」

 

 八坂は目の前の鬼が自ら手にかけた弟と友だったことを知っていた。しかし、同時にこの鬼が復讐などと言い出さないことも知っていた。少なくともそれだけで動く男ではないと。

 鬼は八坂の顎に触れた。

 

「美しいな、お前は。昔と変わらずに」

 

「……」

 

 質問に答えずにふざけたことを言う鬼に八坂は更に目をきつく細める。

 それに鼻を鳴らすと、回答を口にする。

 

「俺がこの地を収めるのはただの手始めだ。この地は長くお前たち九尾によって治められていたからな。その影響で、本当の意味で霊脈を手にするには性質に馴染んだお前たちの存在が必要だ。貴様がこちらの指示を聞かんなら、その娘を使えば良いだけだ。それが終われば、先ずこの地に蔓延る余計なモノを全て駆除する。それからは――――」

 

 鬼の口から語られるあまりにも馬鹿馬鹿しい目的。

 それを聞いた八坂は唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一樹の一誠に対する鬱憤。

兵藤母「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていってね」

一樹「ハハ……どうもっす。(変態行為に走る息子さんを毎度ぶん殴っててすみません。ホントすんません!)」

さすがに両親とかの前だと罪悪感とかがチクチクと。

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