太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

102 / 122
91話:救援要請

「母上!?」

 

「そう騒ぐでない、九重。お主も妾の娘ならばどっしりと構えておれ」

 

「し、しかし!?」

 

 不安そうにしているしている娘に京都の妖怪たちを束ねる八坂は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「しかし、こちらが不利なのも事実じゃのう。だから九重。済まぬがお主はこれを届けてくれ」

 

 八坂は九重に文を渡した。

 

「これは?」

 

「救援を要請する文じゃ。それを持ってお主は赤龍帝への救援を頼んでくれ。独りで心細いじゃろうが、頼めるか?」

 

 かつて自分たちを。京都を救ってくれた彼らなら、今回もきっと助けてくれるだろうという八坂。

 それに九重は涙を呑んで頷く。

 

「はい!必ずや赤龍帝を連れてまいります!」

 

「善い子じゃ。近くまで、妾の術で跳ばす。後は頼んだぞ?」

 

 そうして、異変の起きた京都から九重は駒王町付近まで跳ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんだよ……」

 

 一誠の呟きに誰も答えることが出来ないでいた。

 傷を負っていた九重の身体はアーシアが既に治癒し、所々切られていた巫女服は着替えさせられていた。

 

 事情が分からずに混乱する中でアザゼルが入ってきた。

 

「どうやら、裏京都のほうで内乱が勃発したらしい。今、向こうに居る部下から連絡があった」

 

「内乱!?」

 

 一誠の驚きにアザゼルが頭を掻く。

 

「修学旅行の時に八雲側に就いた妖怪たちの捕え損ねた奴らが京都の霊脈を陣取ったそうだ。スピード的に制圧して閉じ籠っちまって今、裏京都の様子は向こうの部下たちには分からんようだ」

 

 説明するアザゼルに一樹が祐斗に小声で質問する。

 

(八雲って誰?)

 

(八坂の姫の弟さんで修学旅行の時に英雄派側に就いた人。詳しいことは後でね)

 

「な、なら早く京都まで助けに行かないと!?」

 

 立ち上がる一誠をリアスが制止しようとするが、その前に九重が身動ぎして、目を開いた。

 

「ん……」

 

「目が覚めましたか?」

 

 数回の瞬きを繰り返して意識をはっきりさせた九重にアーシアが優しい声音で問いかけた。

 それにガバッと上半身を起き上がらせると周りを見渡し、目的の人物を発見すると目尻に涙が浮かんだ。

 

「せき、龍帝……」

 

「九重、大丈夫か?いったい京都で何がっ!?」

 

 言葉を言いきる前に涙を流した九重が一誠に力いっぱい抱きついた。

 

「うう、うっ!」

 

 泣き続ける九重が落ち着くまで一誠は仕方なくその頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣き止んだ九重が思い出すようにポツリポツリと話始めた。

 

「お主等が京都で何母上を助けてくれたくれてから禍の団が乱した霊脈を修復を時間をかけて行っていた」

 

「すぐに戻せなかったのか?」

 

「あそこまで力の流れを弄られると急激に元に戻せば京都の表も裏も悪影響を及ぼすため、時間をかけると母上は仰っていた。だが先日、八雲叔父と共に反旗を翻していた妖怪たち。その残党が再び強襲してきたのだ」

 

 握り拳を震わせて九重が堪えるように続ける。

 

「霊脈の流れを整えぬ間に襲われて母上たちは防戦一方。追い詰められた際に私をこの付近まで跳ばしてくれた」

 

 小さな身体を震わせる九重。

 きっと母や同胞たちが心配なのだろう。

 

「それで、母上から、赤龍帝たちに救援の文を」

 

「これのことかしら?」

 

 リアスは九重の服を脱がした時に見つけた手紙を見せる。自分たちが読んで良いのか判らなかったためにテーブルに置いておいたのだ。

 

 読んでも?とリアスが訊くと九重がコクンと頷いた。

 許可を貰って文を読むとリアスの目が細める。

 リアスの表情に気づかぬまま九重の懇願が続く。

 

「もう私たちにはそなたらしか頼れる宛がないのだ!頼む!母上たちを助けてくれ!!」

 

 頭を下げて必死で懇願する九重。

 それに応えるように一誠が頭に手を乗せる

 

「あぁ、任せろ!京都では世話になったし、悪魔陣営(うち)とは同盟関係なんだ!必ず助けてやるぜ!そうですよね、部長!」

 

「……」

 

「部長?」

 

 真剣な顔で手紙を読み終えたリアスが優しい声で九重に告げる。

 

「とにかくこの事は上に報告しておくわ。九重さん。こちらも色々と準備があるから。とにかく今は休んで。ね?アーシア隣の部屋に案内して」

 

「はい」

 

「あ、あぁ。感謝する」

 

 九重を連れて部室を出るアーシアを見送ってからリアスは大きく息を吐いた。

 それに一誠が困惑して質問する。

 

「あ、あの部長。どうしてすぐに京都に向かわないんですか?なんか乗り気じゃないっていうか。その手紙に救援の要請があったんでしょう?なら早くいかないと……」

 

「これは救援を要請する手紙ではないわ」

 

「え!?」

 

「簡単に言えば、京都の騒動は自分たちで何とかするから、それまで娘を預かって欲しいという手紙よ。京都の長、というより母親としてのお願いかしら。どっちにしろ、私たちは簡単に動くことは出来ないけど」

 

「な、何でですか!?」

 

 一誠の驚きにリアスは困ったように眉を動かして答える。

 

「はっきり言って勝手に京都に救援に行くなんて私の権限を越えてるのよ。先ずはソーナを通してレヴィアタンさまに報告ね。それから指示を仰がないと。それから冥界から戦力を派遣するのかそれとも私たちが出向くかは分からないけど、今日明日でとはいかないでしょうね。そもそも向こうが助けを求めてないのだから動くかどうかも微妙だけど」

 

 あくまでも京妖怪の内部問題。

 似たような事件でディオドラ・アスタロトの時に行った各神話勢力と協力して禍の団を一網打尽にしようとしたことはあるが、あれとてリアスの与り知れぬところで相当な交渉と対価の支払いがあった筈だ。

 リアスたちは決して正義の味方ではない。

 三大勢力。そして冥界の悪魔陣営に所属する以上、意向も聞かずに京の長の娘ひとり来てはい、行きますという訳にはいかないのだ。

 最悪、京都から戻ってきたら自陣営から何を言われるか。

 

 説明を聞いて一誠が納得いかないとばかりに声を上げる。

 

「じゃあ、京都の妖怪たちはどうするんですか!?ヤバい状況だから九重ひとりでここまで来ることになったのに!?」

 

「事態の収束の静観。もしくは上の対応を待つしかないわね」

 

「ま、それがベターだな」

 

 リアスの決断にアザゼルも同意した。

 

「そんな!それじゃあなんの為の同盟ですか!」

 

「少なくともこっちが一方的に搾取されるために結んだわけじゃねぇさ。一樹、お前さんの意見は?」

 

 部室内の者たちが一斉に一樹を見る。

 京都の事件の際に色々と思うところのあるだろう一樹は今回の件をどう思うのか。

 誰もが行きたくないと言うのだと思っていたが、返ってきた答えは思ったより肯定的だった。

 

「まぁ、行くってんなら付き合いますよ。俺は部長や先生の判断に従います」

 

 要は成り行きに任せるということだ。

 

「いいの?京都の妖怪たちに悪印象持ってるんじゃない、貴方」

 

「別に。あの無脳ドラゴンに捕まったのは俺が勝手な行動をしたのも原因ですし。自分から率先して助けたいとも思いませんが、みんなが行くなら行ってもいいかなって感じですね」

 

 一樹の言い分を聞いて白音が質問する。

 

「……本音は?」

 

「もう勝手な行動して殴られんのイヤなんだよ……」

 

「一気に情けなくなったね」

 

 一樹の本音に祐斗が苦笑する。

 そんな中で一誠が苦い表情でリアスに訊く。

 

「本当に、京都へ行けないんですか?」

 

「行けない、とは言ってないわ。ただ、どう動くにしろ時間がかかるのよ。さっきも言ったけど、この件は私の判断で動ける権限を越えているの」

 

「俺たちの方でも情報を集めておく。だから一誠。お前も早まった行動はするな」

 

 アザゼルに釘を刺され、とにかくその場はお開きになった。念のために今日は全員兵藤家に泊まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜。複数の妖怪たちが兵藤邸へと侵入していた。

 

「私の糸がお嬢さまの位置を正確に捉えている。探し出しすぐに桜鬼さまの下へお連れしろ!住民は殺しても構わん!」

 

 広大な庭で女妖怪が指示を出すと部下である妖怪たちが首を縦に振り、兵藤邸の中を捜索しようとする。

 そこで、声がかかった。

 

「おい。人の家の中で物騒なこと言ってんじゃねぇよ」

 

 妖怪のひとりの肩に手が置かれる。手を置かれた妖怪が振り向くとそこにはこの家のひとり息子である兵藤一誠が居た。

 一誠は問答無用に妖怪の顔を殴りつけて気絶させる。

 そしてもちろんその場にいるのは一誠だけではなかった。

 

「まったく。もう夜は遅いんだ。やってくるならもう少し時間を選ぶべきだ」

 

 ゼノヴィアに続いてオカ研部員たちが次々と妖怪たちを気絶させる。

 そして最後に一樹が女妖怪の腕を掴む。

 

「こっちは眠いってのに。バカみたいに騒ぐんじゃねぇよ!」

 

 顔に一発入れて殴り倒した。

 それに一誠が抗議する。

 

「お前女の人に……!」

 

「馬鹿か。こいつら不法侵入者だろ。第一、こいつらどう見ても真っ当なやつらじゃないっての!」

 

 一樹と入れ替わりリアスが前に出た。

 

「それで?今日はどのような用件かしら?訪問にしては遅すぎるのではなくて?それもそんなに殺気を撒き散らして」

 

「何故我らの襲撃を察した」

 

「いや、バレバレだったわよ?」

 

 黒歌が弄っている白い糸を見せる。

 

「妖気で作られた糸。隠蔽されてたけどこれくらい見つけるのは朝飯前ね。それにこれおかげで貴方がなんの妖怪かも知れたわ。本性出してみたら?」

 

 弄っていた糸を捨てて鼻で笑う。

 一緒にこの場に現れていた九重がアーシアの服を掴んだ。

 一樹が指を鳴らして女妖怪の肩を掴んだ。

 

「とにかく、これ以上痛い目見たくなけりゃ、目的を吐けな。言っておくが、手心加えてもらえると思うなよ?」

 

 どっちが悪者か分からない台詞を吐く一樹に一誠が待ったをかける。

 

「待て待て待て!か弱い女の人になんてことしようとしてんだ!?」

 

「俺の基準でこの場に”か弱い女”なんていねぇよ。部長たちを見てみろ。滅びの魔力やら破壊力抜群の聖剣やら。アーシアですら最近毒魔法とかその他色々と習得してるしな。そこら辺の銃刀法違反者なんて目じゃない危険者ぶりだろ。女だからって無条件に”か弱い”が成立すると思ったら大間違いなんだよ!」

 

 親指でオカ研部員を指さして説明する。

 彼女たちの頭の中でピキッと何かがひび割れた。

 女性陣が一様に怖い笑みを浮かべて一樹を見る。

 

「ふふ。ここまで正面切って喧嘩を売られたのは久しぶりだわ」

 

「あらあらうふふ。これはは少々お仕置きが必要ですわね」

 

「……言いたいことは理解するが、そうまではっきり言われるとムッと来るな」

 

「一樹くん、後でじっくりと話をしましょうね?」

 

 じりじりと寄ってくる女性メンバーに一樹は目を細めた。

 

「おい。なんでアーシアまで睨んでんだよ。なんで白音が親指を下に向けてんだよ。姉さんも腹抱えてないでフォローしろよ!」

 

 ここまで明け透けに本音を言うのが彼がオカ研のメンバーに心を許している証拠だが今回はさすがに配慮が足りなかった。

 少しばかり意識を女妖怪から外すとその腕から白い糸の束が放たれた。

 

「おっと!?」

 

 一番近くに居た一樹が後方に下がって躱す。

 女妖怪がぶつぶつと呟き始めた。

 

「……この私が、こんな餓鬼どもにあっさりと。桜鬼さまになんて報告すれば。決まっているわ!自らの失敗は自らの手で雪ぐ!」

 

 叫びと共に女の体からメキメキと音が鳴り背中から蜘蛛の足が生えてきた。

 女の姿は擬態だったのか、既に人型を捨ててその姿は巨大な蜘蛛へと姿を変える。

 

「やっぱり蜘蛛の妖怪だったわね。というか、漫画とかですぐやられ役みたいな演出~」

 

『ほざけ!!』

 

 蜘蛛の足が遅い、一同は各自散開して避けた。

 

 どう動こうかそれぞれが考えていると大蜘蛛は地面に伏している仲間の妖怪たちの体に足を突き刺し、自らの口で食らった。

 そのあまりの光景に九重が小さく悲鳴を上げ、アーシアが手で覆って視界を妨げる。しかしその悲鳴までは防げない。

 

「蜘蛛ってもっと綺麗に食事するんじゃありませんでしたっけ?」

 

「あのサイズだしねぇ。それに仲間を食べて妖力アップ。趣味が悪いわ」

 

「男を喰らう。まさに蜘蛛女ね」

 

 リアスの呟きに一同の顔が引き締まる。

 

『その小娘を庇うのであれば貴様らも喰らうてやろう!!』

 

 足が動き、口から糸の束が吐き出される。

 その巨体と妖力。

 ここが並の悪魔の住処なら成す術もなく喰われていただろう。

 しかしここに居るのは誰も彼も並の実力者ではなかった。

 吐き出された蜘蛛の糸はがアーシアと九重を狙い、それを一樹が炎で燃やす。

 

「なっ!?」

 

 驚くのも束の間。オカ研の剣士3人がそれぞれ高速で移動し、その脚を次々と切り落としていった。

 

 そして最後にリアスが手の平に集めた滅びの魔力を向ける。

 

「平然と粗相をするお客様に、遠慮はいらないわよね?」

 

 放たれた黒い魔力。

 手加減はしてあったのか、即死せずに息遣いが聞こえた。

 

「さて。何が目的か教えてもらいましょうか」

 

 脚を切り落とされた蜘蛛の表情は分からないが、悔しそうな声が響く。

 

「くそっ!桜鬼さまからの命、お前たちのような、餓鬼に……」

 

 忌々しげに聞こえる声。

 これから情報を得るために殺さず、アーシアの治療を施されていた。

 しかしそこで蜘蛛の妖怪が全てを諦めたかのように呟く

 

「申し訳ありません、我が主。どうやら私はここまでのようです……」

 

「まさか!?2人とも退がりなさい!!」

 

 黒歌がが叫ぶと蜘蛛妖怪の体内を妖力が膨張を始めた。

 その妖力が爆発し、リアスとアーシアを襲う。

 

「部長!?アーシア!?」

 

 一誠が叫ぶ。

 今の爆発でどうなったのか、焦っている一誠たち。しかし、意外なところから声が聞こえた。

 

「大丈夫よ、イッセー」

 

 声の方へと振り返るとリアスを抱えた祐斗が爆発よりまえに離れさせていた。アーシアは白音が抱えている。

 

「まさか自爆するなんて……」

 

「敵の親玉のカリスマ性か?まぁなんにせよこれで京都行の言い訳になったな」

 

「え!?」

 

 アザゼルの言葉に周りが目を点にする。

 

「こっちに攻め込んできたんだ。京都を制圧した奴らを仮想敵として調査する名目が立った。まだ色々と問題はあるが、口裏はこっちで合わせる。行くんなら、行くぞ、京都」

 

「せ、先生っ!?」

 

「かたじけない、総督殿!」

 

 その言葉に一誠と九重が大喜びした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。