緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりです。
希望光です。
今回はコラボの第5回目をお送りしていきたいと思います。
さてさて、今回も視点はシュウヤ視点です。
↓『Side Nayu』はこちらからどうぞ。
https://syosetu.org/novel/147165/7.html

それでは、本編をどうぞ。


法化銀弾(ホーリー)05 接敵(マッチング)———氷炎の激突(パニッシュメント・レクイエム) Side Shuya

 俺の背後に現れたのは———姫神……なのか? 

 そう思った矢先、俺の視界が激しく揺れた後にとてつもない衝撃に襲われる。

 

「ゴフッ……?!」

「シュウヤぁ!!」

 

 自身の皆何が起こったのか理解するまでにかなり時間を要した。

 どうやら俺は、姫神に吹っ飛ばされたらしい。

 しかも振り向きざまだったため、背面から勢いよく壁に叩きつけられた。

 そんな俺を助けようとしたのか、凪優がこちら目掛けて走ってくるが、姫神の妨害が入る。

 

「ア……ゴホッ……ッ……!」

 

 自力で立ち上がろうと試みるも、背面を強打した影響で呼吸がままならないが故に動けない俺。

 加えて、肋骨が折れているらしく激しい痛みを伴う。

 しくじった……あの時背中合わせ(バック・トゥ・バック)の状態で待ち構えておけば……。

 そんな風に後悔する俺だが所詮は後の祭り。

 今は現状について考えなければならないのだが……俺は既に瀕死と言っても過言ではないレベル。

 

 そんな俺の霞始めた視界に映るのは、姫神に捕われた2人と1人対峙する凪優の姿。

 チクショウ……何も……また何もできないのか……俺は……。

 嘆きながらも俺の視界は暗転する。

 どうやらここまで、か。

 そう思ったのも束の間。

 俺の中の()()は、諦めていなかった。

 否、諦めさせてはくれなかった。

 

 今までの物よりもさらに激しい血流を感じたのとほぼ同時に、俺の頬を温かな何かが伝っていく。

 俺はそっと、目を開く。

 

「シュウ君……お願い……目を開けて……」

 

 視界に映ったのは紛れもないマキの顔……それも泣き顔。

 俺は、脆くて直ぐに崩れてしまいそうな表情(カオ)をしたマキの頬にそっと手を伸ばす。

 

「シュウ……君?」

 

 不思議なものを見る様な目で俺のことを見つめるマキ。

 対する俺は、ゆっくりと頷く。

 

「俺は……ここにいる……」

 

 そう告げると、俺は立ち上がる。

 

「シ、シュウ君……!」

 

 慌てた様子のマキが肩を貸してくれる。

 肩を貸してもらいながら、俺は凪優達の方を見る。

 そこには、雷撃を纏った凛音と共闘しながら姫神と対峙する凪優の姿があった。

 すると突然、姫神が視界から消える。

 それと同時にとても嫌な予感がした俺は、マキにこんなことを頼む。

 

「マキ……俺を押し出してくれ……」

「え……?」

 

 首を傾げるマキ。

 そりゃそうだよな。突然そんなこと告げられたら。

 

「俺を押してくれ……もう、殆ど自力じゃ走れないんだ」

「まさか、その体で行くつもりなの?」

 

 不安そうに俺を見上げるマキ。

 俺はそんなマキにこう返す。

 

「必ず、戻ってくる」

「嘘ついたら許さないよ?」

「わかってるさ……」

 

 俺が言葉を返した後、マキは俺を後ろから思いっきり押してくれる。

 それにより、動かなかった足が本能的に倒れることを避けるため動き始める。

 加えて勢いがあるため、自ずと動きは速くなり走り始める。

 そんな感じで体の為すがままに走る俺は、凛音の右斜め後ろに現れた姫神に向かって飛び掛かる。

 

「———『螺生(らしょう)』」

 

 姫神に向かって繰り出した全力の拳を、接触とほぼ同時に速度をを殺しそっと触れる形に変える。

 直後、姫神の全身が硬直する。

 どうだ、全身が動かないってのは? 

 そう思いながらも、体勢を立て直す俺。

 ……よし、動けるな。

 

「一気に畳み掛けるよ!」

 

 自身の体が動くことを確認した直後、凪優から指示が飛んでくる。

 

「……ああ」

「うん!」

 

 頷いた俺と凛音は、凪優と共に姫神へと攻撃を仕掛ける。

 それとほぼ同時に迎撃を行なってくる姫神。

 直感だが、あの攻撃は当たったらマズイ気がする。

 故に避けながら、姫神との距離を詰める。

 無論、攻撃への転換もあるため必要最低限の行動で、な。

 

「凛音ッ」

「分かってる!」

 

 俺の呼びかけに応じた凛音は、刀に纏った雷撃を地面へと放出する。

 対する姫神は、軽く飛び上がるようにして、それを退ける。

 だが、それでいい。

 

「……貰った!」

 

 ムーンサルトの要領で姫神の上に回った俺は、ホルスターからベレッタを1挺抜き、フルオートで姫神に弾丸を浴びせる。

 勿論、急所を外すようにしてな。

 だが、俺のそんな気遣いも無意味な様だ。

 姫神は弾丸を全て炎で焼き尽くしてるからな。

 

「まあ、そんなの想定内だよね」

 

 口角を吊り上げながら呟く俺。

 そんな俺の視線の先には、姫神の真下から襲い掛かる凛音の姿がある。

 

「天然理心流———『渦潮』」

 

 そう叫びながら、弧を描くようにして刃を振るう凛音。

 連続したその動きは名前の通りに、次第に荒巻く渦潮のような太刀筋へと変化していく。

 流石にこの行動は今の姫神では予測しきれなかったようで、確実にダメージへと変わっていた。

 そこへ更に、凪優の攻撃も加わっていく。

 そして、姫神は瞬間移動(テレポーテーション)によりその姿を眩ませる。

 

「……逃げた……のか」

 

 そのことを再認識した俺は安堵する。

 そして、ふらつく身体のままマキの元へと歩み寄る。

 

「約束通り……戻ってきたよ」

「うん……でも、無茶し過ぎだよ」

 

 そう言って軽く微笑むマキ。

 そこで俺の意識は突如として暗転するのだった———

 

 

 

 

 

 不思議な感覚で目を覚ます。

 なんだろう……身体の芯から何かこう……癒されてる……? 

 不思議に思いながら目を開くと、俺の視界が歳那の姿を捉える。

 

「……歳那」

「シュウヤさん、気が付いたんですね」

「ああ……ここは?」

 

 先程と違い、1ミリも壊れたところのない闘技場を見ながら尋ねる俺。

 というか闘技場多すぎだろ。

 ここに入ってから闘技場しか見てねぇぞ。

 

「先程の1つ上の階です」

「あー、うん。OK。なんとなく分かってた」

 

 そう答えた俺は呆れながらも目を瞑る。

 なんでこんな高い建造物の中に闘技場しかねぇんだよ……。

 そう思う俺の傍ら、歳那が詠唱を始める。

 

氣吹戸大祓(いぶきどのおおはらへ)高天原爾神留坐(たかまがはらにかむづまります)神漏伎神漏彌命以(かむろきかむろみのみことをもちて)皇神等前爾白久(すめがみたちのまえにまうさく)苦患吾友乎(くるしみうれふわがき)護惠比幸給閉止(まもりめぐまひさきはへたまへと)藤原朝臣土方歳那能(ふじわらのあそみひじかたせいなの)生魂乎宇豆乃幣帛爾(いくむすびをうづのみてぐらに)備幸事乎(そなたへたてまつえうことを)諸聞食(もろもろきこしめせ)

 

 ……長っ。まあでも、その分効き目は確かだろう。

 そう自分に言い聞かせていると、突如俺の全身を激痛が駆け抜ける。

 

「イデッ?! イダダダダッ!?」

 

 言葉になりきっていない叫びをあげる俺。

 

「少し我慢してくださいシュウヤさん。腐っても男ですよね?」

「腐ってもって何?! ッ〜〜〜!?」

 

 歳那の辛辣な言葉に反論しつつ悶える俺。

 そんな俺を、すぐ隣にいる凪優とマキ、そして凛音が苦笑しつつ見守る。

 数分間の激痛の後、俺の体は軽くなる。

 

「ぜ、全回復の術式か……」

「はい。エネルギー消費が多いので1日1回ですが」

 

 すました顔でそう答える歳那。

 サラッとやばいこと言ったぞ今。

 

「日1ってだいぶキツくない?」

()()私なら問題ありません」

「そっか?」

 

 歳那の解答に首を傾げる俺。

 だが直ぐに、考えることをやめる。

 多分、今考えてもわからないから。

 その後俺と凪優は、凛音から気絶中の出来事を聞かされた。

 簡単に要約すると、凌牙の奴が馬鹿やって高天原先生(ゆとりん)に処されたそうな。

 自業自得だね。

 

「解った……来たれ(アデアット)女帝(ジ・エンプレス)

 

 そんなことを思っていると、凪優がタロットを起動し始める。

 すると、凪優から離れるように新たな人影が現れる。

 あー……冗談キツいね。

 分離したのは強襲科(アサルト)所屬の武偵三嶋花梨だった。

 

「おい……マジかよ」

「嘘……」

「ビックリです……」

 

 それを観た俺達は、驚愕する。

 

「お前が瑠璃神だったのか……?」

 

 驚きそのままに、俺は尋ねる。

 

「……あれ? 言ってなかったっけ。うん。そうだよ私が瑠璃神」

 

 サラっと自分が瑠璃神だと暴露する三嶋。

 

「どうして……実体化して武偵高の生徒に……?」

 

 そんな彼女に、今度はマキが最もな質問をする。

 

「だって、精神体で見てたんだけどなんていうか……物足りなくなってさ」

 

 苦笑しながら答える三嶋。

 ……いや、戦闘狂かよ。

 

「貴女が武偵高に生徒として居るって事は……」

 

 俺がブーメラン発言をスルーしていると、凛音がある推測を口にする。

 

「うん。居るよ? 姉様達……緋緋神に瑠瑠神、璃璃神も生徒として……ね」

 

 俺は何も聞いてないぞ。

 もう一度言う。

 俺は何も聞いてないぞ。

 耳を塞ぎながら自身に言い聞かせていると、歳那が続けて質問していた。

 

「因みに誰なのですか……?」

「んーと、ホラ私と同じ苗字の人が3人いるでしょ? 緋緋姉様が三嶋絢香、瑠瑠姉様が三嶋瑠樺、璃璃姉様が三嶋凛花だよ」

 

 もうやだこの世界……平穏な世界はどこ……ここ……? 

 現実逃避をしていると、三嶋が口を開く。

 

「話を戻すけど、茉稀ちゃんが私の能力チカラを使うのには2つのモノが必要なの」

「『2つのモノ』……?」

「そ。1つ目は凛音ちゃんも必要なんだけど『瑠璃色金のカケラのペンダント』、それに2つ目は『凪優のタロット』ね」

 

 そう答えた三嶋に、マキが尋ねる。

 

「2つ目のタロットはすぐに用意できるだろうけど……1つ目のペンダントは大丈夫なの?」

「私が居れば簡単よ。凪優、『うつわ』を2つ頂戴」

「あぁ……『うつわ』ね。はい」

 

 三嶋の要望を受けた凪優は、結晶部分が透明の雫型のペンダントを2つ三嶋に投げ渡す。

 対する三嶋は、受け取ったそれを右手で握り締める。

 すると、右手が瑠璃色の光に包まれたあと、三嶋の右手には結晶部分が瑠璃色に変化したペンダントの姿があった。

 どうやら瑠璃色金のペンダントを生成したらしい。

 そして三嶋は、それをマキと凛音に渡した。

 

「凪優……タロットを茉稀ちゃんに渡して」

「解った。はい。マキ、これを……」

 そう言って凪優は、4枚のタロットを茉稀に渡した。

「え……これを私に渡して凪優と凛音は大丈夫なの……?」

 

 凪優からタロットを受け取ったマキは最もな質問をし、受け取るの躊躇っていた。

 まあ、普通はそうなるよな。

 多分、俺がマキの立場でも同じこと言うと思う。

 

「ええ。問題ないわ。私と凛音は元々瑠璃神の能力チカラに適性がある家系の出身なの。だから本来はタロットの媒体は不要なの。まぁ……私の場合は負担を完全にゼロにする為に使ってるんだけどね」

 

 そう答える凪優。

 わー、チートやん。

 元々耐性あるのに負荷極限まで減らすなんて。

 なんか……俺の能力(バーストモード)が哀れに見えてきた……。

 まあ、俺のは諸刃な分それに見合った力が出せるのは間違い無いんだけどね。

 そんな俺の前で、凪優の答えに納得したらしいマキは凪優からタロットを受け取る。

 俺はそんな様子を呆然と見ていると、突然凪優が口を開き『対ユイ戦第2R作戦会議』なるものを説明し始めた。

 その間、『戦車(チャリオット)』の話が出たあたりから俺はほぼ話を聞いていなかった。

 

「と言うわけだから、シュウヤが封印ね」

「え、うん? なんで?」

「聞いてなかったの? 『戦車』のカードはユイの能力(チカラ)を抑えられるものなの」

「それで俺が切り札(ジョーカー)だと?」

「そう言うこと」

 

 成る程ね……『戦車』がね……『戦車』……バーストモード……凌牙……破損……ウッ……頭が……! 

 それによりすごく気まずいことになる俺。

 ヤベェ、借り物なのにぶっ壊しちゃったよ……。

 しかも切り札? 

 人生オタワ……違った、オワタ。

 

「……シュウヤ、何かあったの?」

「い、いえ……何もございませんよ……」

 

 冷や汗を垂らしながらそう返す俺。

 対する凪優はジト目で俺の事を見つめてくる。

 そして、圧に耐えきれなくなった俺は正直に話すのだった。

 

「……と言うわけです。はい」

「なるほど……凌牙(あの馬鹿)が破壊したってことね。OK。処す」

 

 凪優さん怖ぇ……。

 

「えっと、その……マジで申し訳ない……」

「いいよその事は。正直に話してくれただけ嬉しい。さて、直すためには彼女の力を借りないとね」

「そうね。歳那ちゃん?」

「はい」

 

 三嶋の呼びかけに応じた歳那が詠唱を行う。

 

「来たれ、『女帝』」

 

 それにより姿を表したのは……んんん? 

 

「え、おま、椎名?」

 

 現れたのは三嶋同様に強襲科所属の武偵、椎名翠。

 

「あ、久しぶり。2週間ぶりかな?」

「お前が姫神の相方かよ」

「そうだよ」

 

 開いた口が塞がらない俺と、それを軽く流す椎名。

 因みに俺は椎名と何度か組んだ任務(クエスト)をこなしたことがある。

 彼女が言っていたように、2週間前にも一度。

 

「で、私を呼んだって事は?」

「タロットの修復をお願いしたいの」

「了解」

 

 凪優の言葉に頷いた椎名は、俺の渡した『戦車』の残骸を手に取るとそこに力を込め即座に修復する。

 

「はい。これで元通りだよ」

「速い」

 

 頭の回転が追いつかなくなった俺は、タロットを受け取りながらそんな小学生並みの返答しかできないのであった。

 その直後、凪優が何かを感じたらしく警戒を始める。

 それを見た俺は確認の意味を込めて凪優に尋ねる。

 

「……来たか?」

「みたいだね」

「うん……近づいて来てる。みんな、準備して」

 

 その言葉に頷いた一同は、それぞれの力を解放していく。

 マキと凛音と凪優が恐らく『瑠璃神』を、歳那が『翡翠』の力を使ってるのかな。

 さてと、超能力(ステルス)ばっかりの中で唯一の乗能力(バーストモード)の方も使いますかね。

 

「……来たれ、『戦車』」

 

 直してもらったタロットを使い、自身の中の闘気を目覚めさせる俺。

 そして、姫神を迎え撃つ態勢を取りながら不意にポケットに手を入れた時であった。

 

「……?」

 

 ポケットに、先程までは何も入っていなかったはずなのだが、何かが入っていることに気づいた。

 俺はそっと、それを取り出す。

 

「……なんで、これが」

 

 俺のポケットから姿を現したのは、深い蒼色の結晶が納められたコキュートス。

 それも、俺がよく見慣れたもの。

 

 そちらに意識を取られている間に、俺たちの目の前に姫神が現れていた。

 先程よりも禍々しい姿をした姫神が。

 なんであれがこの場にあるのかは今正直わからない。

 だけど、何かしらの意味はあるはず。

 そう言い聞かせた俺は、コキュートスをポケットに仕舞うと、DE(デザート・イーグル)を2挺取り出し構える。

 さあて、延長戦の始まりかな……。




今回はここまで。
次回、最終決戦となります。
蒼紗様、遅れて申し訳ないのと、大変お待たせいたしました。
次回の方も、どうぞよろしくお願いいたします。
では、これで。

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