緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりです。
希望光です。
今回はコラボの第4回目をお送りしていきたいと思います。
さて今回は、視点が戻りまして、凪優とシュウヤ2人からの視点になります。
↓『Side Nayu』はこちらからどうぞ。
https://syosetu.org/novel/147165/6.html

では、本編どうぞ!


法化銀弾(ホーリー)04 決戦(デュエル)———超乗の一撃(クライシス・スイープ) Side Shuya

 闘技場を後にした俺と凪優は、次の階層へと向かっていた。

 その道中、再び機械人形(オートマタ)が襲いかかってきた。

 対処方分かってるから楽だよ。うん。でもさ、数がおかしいのよ。

 5秒感覚で1体だったはずなんだけどさ、気がつくと0.25秒とかね。

 ナニコレ、チート? 

 

 そう思っていると、そのさらに上の事態に見舞われた。

 1体ずつの登場が、気が付くと0.25秒あたりに20体。

 お前はどこのツールアシストだ! 

 そう叫びたくなった。

 

 俺はその叫びを噛み殺しながら、霧雨と雷鳴を振るった。

 それでも奴らは減りません。

 ……御伽噺の一節にありそうだな。

 というか、こいつら密集しすぎてて、黒く蠢く『アレ』にしか見えなくなってきたんだけど……。

 

「なあ、凪優」

「なに!」

 

 俺は絶賛応戦中の凪優に声をかける。

 

「この座標から物の転送できる?」

 

 俺は凪優の目の前の敵を薙ぎ倒しながら、凪優に1枚のメモを渡した。

 

「この座標? できるけど」

「飛ばして」

「了解」

 

 そう言った凪優の手元にはAK-Mが、足元にはリュックサックがあった。

 

「はい」

「ありがとさん」

 

 そう言ってAK-Mを受け取った俺は、武偵弾『炸裂弾(グレネイド)』を装填し、即座に掃射する。

 これで一度にかなりの数を倒せたことには間違いない。

 しかし、後続が直ぐに来る。

 

「埒があかない……」

 

 そうボヤいて、凪優の方を見ると……なんか、爆発寸前見たい顔してるんだけど……。

 少なくとも女の子がする顔じゃないからね?! 

 そんな俺を他所に、凪優は詠唱を始める。

 

契約に従い(ヒュバクソン・テーン・)我に応えよ(ディアテーケーン・アクソン・メ・)闇と氷雪と(アイオニア・パシリッサ・トゥ・)永遠の(スコトゥス・カイ・)女王(テース・キオノス)咲きわたる(アンティスメナ・)氷の(レウカ・ロダ・)白薔薇(トゥ・バグ・)眠れる(ケーポス・)永劫(アテルモノス・エン・)庭園(ヒュブノイ)! 来れ(エピゲネーテートー・)永久の(タイオーニオン・)(エレボス・)永遠の(ハイオーニエ・)氷河(クリュスタレ)! 氷れる(メタ・トゥ・)雷をもて(プシュクル・ケラウヌ・)魂なき(シュラブ・タ・)人形を(アプシカ・)囚えよ(ヒュポケイリア)妙なる(タウマステ・)静謐(ガレーネー)白薔薇(レウカ・ロダ・)咲き乱れる(アンティスメナ・)永遠の(アイオーニオン・)牢獄(デスモーテーリオン)終わりなく(アペラントス・)白き(レウコス・)九天(ウラノス)!」

 

 突如、雷を纏った氷の竜巻が発生し、その周囲に氷の荊棘を伸ばしながら触れた機械人形を一度に氷漬けにしていく。

 機械人形達も抵抗といわんばかりに障壁を展開させている様だったが……そんなのお構いなしに氷は侵食を続けていく。

 

 すると、敵は現れなくなった。

 ……序でに発生源叩いたなこりゃ。

 俺はそう思いながらも、凪優の方を見た。

 

「あーっ、スッキリしたぁ」

 

 彼女はそう言って満面の笑顔だった。

 俺はその光景を見てドン引きした。

 いやさ、うん。別にね、分かるよ。今の気持ち。凄いスッキリしてるよね。

 

 いやでもねぇ……こんなに可愛い子がそういうことするのはちょっと……って、そうじゃない?! 

 俺は一度思考を強制停止させたが、再び始めてしまった。

 

(……普通に接する分には、可愛い普通の女子高校生なんだけどね)

 

 などと言ったことを。

 俺は一瞬だけ、彼女と武偵としてでは無く、普通の学生として出会っていたらどうなっていたのかを考えていた。

 

 ———さて、それは置いて置くことにしよう。

 俺たちは、そのまま次のフロアを目指して進んで行く。

 道中の障害物は、凪優が「終わりなく(アペラントス・)白き(レウコス・)九天(ウラノス)」で除去してくれた。

 

「そう言えば、そのリュックにはなにが入ってるの?」

「これか? まあ、秘密兵器とでも言っておこうかな」

 

 そんな感じで暫くすると、何かの部屋に辿り着いた。

 ……って、また闘技場? 

 お相手さん、何が好きでこんな馬鹿みたいに闘技場作ってんの? 

 これには、流石の凪優でも呆れているようだった。

 

 ただ1つだけ、この闘技場は今までの物とは違っていた。

 圧倒的に、広いのである。

 お相手さん、絶対お金の使いどころ間違えてるって。

 パッと見だが、仕掛けと呼べる仕掛けは無い。

 目視した限りだが……な。

 

 その次の瞬間だった。

 突如として無数の矢が、俺と凪優目掛けて飛来した。

 凪優は左に、俺は右へと回避した。

 その直後、中央に巨大な障壁が出現した。

 

「……?!」

 

 あまりの事に俺は驚いていたが、すぐに切り替えた。

 しかし……凪優と分断されてしまったか……。

 何か方法が無いかと思い、模索していると、自身の背後に殺気を覚えた。

 俺は咄嗟に身につけていたリュックサックを切り離し、その場から離れる。

 俺が居た位置には、1人の少年が立っていた。

 その漆黒の如き黒髪はボサボサしていて、前髪で目元は隠れていた。

 

「お前は……確か、組織のNo.2」

 

 俺は、自身の記憶の中にある人物と、目の前の人物との特徴を照合して導き出した正体をぶつけた。

 

「御名答だよぉ。樋熊シュウヤぁ! 俺がこの組織、『ネオランビス・アスティル』のNo.2、黒沢凌牙だ!」

 

 お出ましか……。

 

「で、俺に何の用だ?」

「決まってんだろ。お前を"殺す"んだよ」

 

 予想はしていたが、聞きたくない台詞だったな……。

 

「あまり面倒なことはしたくないんだが……投降する気なんて無いよな?」

「んなこと、聞くまでもねぇだろ?」

 

 ええ、知ってましたよ。

 

「なら、強襲して一気に片をつける」

「上等だ、やってみな!」

 

 そう言って俺は、ホルスターからベレッタM93Rを速抜き(クイック・ドロー)し、相手目掛けてフルオートで掃射する。

 対する相手は、ベレッタM92を抜き出し(ドロー)すると、掃射された弾丸に対して、1発で3発を弾いていくという荒技をやってのけた。

 

「『連鎖撃ち(キャノン)』……マジかよ」

 

 相手は、そのまま残り9発の弾丸を俺目掛けて放つ。

 俺は左手でもう1艇のベレッタM93Rを抜き、同じく『銃弾撃ち(ビリヤード)』で迎撃する。

 そして、今度はこちらが残りの7発を放った。

 それを見た相手は、懐からベレッタM1951Rを取り出し『銃弾撃ち』をした。

 

「射撃は……五分五分。いや、俺の方が不利か」

 

 今の俺は、サイレントアンサー。戦闘面では圧倒的に劣る。

 故に、戦術で渡り合うつもりだったが……コイツには、それが通用しない。

 

「把握が早いこった」

「伊達に武偵はやってないさ」

 

 俺はそう言って、ベレッタを速行装填(クイック・リロード)をしようとした。

 が、次の瞬間俺の手元にあった弾倉(マガジン)が手元から消えた……否、弾き飛ばされた。

 

「……その程度かよ」

 

 ……まさか、今あいつが発砲して弾いたのか……! 全く射撃が見えなかった……。これはまるで……金一さんの……! 

 

「『不可視の銃弾(インビジヴィレ)』……!」

 

 その言葉を聞いた凌牙は、ニッと口元を歪ませて笑った。

 

「ご名答だ。良く知ってるな。コイツはヨーロッパで一度だけ見た技なんだが———案外見様見真似で出来るもんだぜ?」

 

 ……コイツ、普通にヤバい……! 

 あの技はヒステリアモードがあってこそ成立するはずの技……! それをただの人間がやるなんて、不可能にも程がある。

 

「マジかよ……」

 

 俺はベレッタをホルスターに仕舞うと、相手との間合いを詰めにかかる。

 その間に俺は、ベルトに固定してあるシースナイフを鞘から抜き、右手に持った。

 そして、凌牙へと斬りかかる。

 凌牙は何事も無かったかのように、俺の右腕を掴んだ。

 

「……え」

 

 あまりの事に、俺は素っ頓狂な声を上げていた。

 

「直線的すぎるんだよぉ。本当にお前Sランクかぁ?」

 

 俺は左手でフックを顔面目掛けて放った。

 こちらも同じく受け止められる。

 しかし、それはプラフ。

 本命である右足を空かさず繰り出す。

 が、それも同じく足で相殺された。

 

「打つ手無しかなぁ?」

 

 凌牙は、そう言って嘲た。

 

「どうだかな……」

 

 俺は苦笑しながら言った。

 だが実際は、打つ手無しである。

 

「じゃあこっちからかな」

 

 そう言って凌牙は、俺を掴んでいた手を離すと、目にも留まらぬ速さで回し蹴りを放ってきた。

 俺は対応することができずに、そのままモロに喰らって後方へと吹き飛ばされた。

 そのまま地面を2転、3転してから、漸く止まった。

 

 だが、今の一撃のダメージは相当なものであった。

 俺は震える体を無理に動かし、歯を食いしばりながら立ち上がった。

 その際、口からは血液が滴った。

 

「ほう、少しは骨があるか」

「まあ……な。無駄に根性はあるって言われてるんでな……」

 

 俺は、そう言いながら懐へと手を突っ込む。

 そして、タロットカードを手にすると、取り出した。

 

来い(アデラット)戦し(チャリ)……」

 

 俺は、そこで詠唱を止めざる得なかった。

 否、行えなくなった。

 

「つまんねぇことしてんじゃねぇよ」

 

 その言葉とともに、俺の手元のタロットカードは真っ二つになっていた。

 そして、俺の右肩に刃物が突き立ったような感覚が訪れる。

 防刃繊維も含んでいる制服のお陰で、刃物は突き立っていなかったが、鈍痛みが残った。

 

「……な、何をしたんだ」

 

 俺は地面へと落下した刃物を見て戦慄した。

 それは、俺が右腰に付けていたシースナイフだった。

 

「俺は少々手癖が悪いんでね」

「すったのか……」

 

 俺は、呟きながら、構えを整える。

 

「まあ、お前も大人しく殺された方がいいかもな。だって、勝算が0な訳だし」

 

 そう言って、()()はまたニヤけた。

 俺は再び、凌牙へと突っ込んでいく。

 

「何度やっても無駄だろ? まあ、分かんなんなら教えてやるがな!」

 

 そう言って凌牙も、同じように向かってくる。

 俺と凌牙が交錯する。その一瞬、お互いの拳がぶつかると、互いに弾き飛ばされた。

 俺はそのまま、着地すると地面を蹴り直し再度迫っていく。

 

 そして、隙だらけの凌牙へと拳を振りかざす。

 しかし、拳は凌牙に当たることなく空を切った。

 凌牙は既に俺の背後を取り、背部から正拳突きをかましてきた。

 

「……グフッ?!」

 

 俺はその一瞬で、体勢を崩してしまった。

 そこへ空かさず、次の攻撃が入ってくる。

 右前方から、左前方から、その次に左後方、戻って右前方、と思いきや右後方。

 

 このループに俺は封じ込められた。

 俺は体勢を立て直すこともままならず、ダメージを与えられ続ける。

 そして、トドメと言わんばかりに正面からサマーソルトキックをぶち込まれた。

 俺は後方へと吹っ飛ぶと、受け身を取り流れのままに膝立ちの姿勢になった。

 

「チッ……」

 

 俺は舌打ちをした。

 

「おやおや、舌打ちなんかしてどうしたのかな?」

 そう言って凌牙は、俺を煽ってくる。

 ここで挑発に乗るのは不味いんだが……素直に悔しい。

 すると突然、闘技場中央の障壁が一瞬で消え去った。

 

「お隣派手にやってるみたいだねぇ」

「……みたいだな」

 

 徒手格闘でも奴に敵わないことを俺は悟った。

 そんな時、大多数の敵がこのフロアへと現れた。

 

「……なんだ?」

「どうやら援軍が来たようだねぇ」

 

 オイオイ……この状況下じゃ、こいつ1人とあの数を相手取るのは不可能だぞ。

 

「アレで決めるしかないか……」

 

 俺はそう呟くと、自身の背部にある刀へと手を伸ばした。

 そして、『霧雨』の柄を掴もうとした。

 しかし、俺の手のある位置は何もなかった。

 

「ハッ……?!」

 

 予想だにしない事態に、俺は激しく動揺した。

 

「フッ、クッ、クハハハハハハハ」

 

 そんな時、俺の眼の前では凌牙が笑い始めた。

 

「な、なんだよ……?」

 

 首をかしげる俺に対して、凌牙は言い放った。

 

「ないよ、剣ないよぉ!!」

 

 同時に、フィールドの俺とは真逆の位置に突き刺さる『霧雨』と『雷鳴』が見えた。

 そう言う事か……! 野郎がさっきの間にすってたわけか。

 だがな、すってたのはお前だけじゃないぜ。

 

「そういうお前だって……お得意の主武装がないだろ?」

 

 俺は先程抜き取っておいた、無針注射器を掲げる。

 

「あるよ、主武装(毒武器)あるよぉ!!」

 

 そう言って取り出したのは新たな無針注射器だった。

 冗談キツくないですか……。

 俺は内心とは裏腹に、ただただ相手を見つめることしかできなかった。

 

 ……手立てが無い。その一言に尽きる。

 その時、チラッと凪優の方を見るとなにやら腰元を見下ろしていた。

 ……賭けてみるか。

 俺は、そう思うと瞬時に地面を蹴って飛び出した。

 

 そして、俺は右手を前に伸ばした。

 直後、俺の右の手の内には一振りの刀が収められた。凪優の『色金定女』だ。

 同時に、伸ばしていない左手にも刀が収められた。……これは、凪優の相手からか? 

 

「……何ッ?!」

 その光景に、凌牙は唖然としていた。

 俺は思考を切ると、凌牙へと斬り掛かる。

 

「これで……!」

 

 俺は深く切り込まないように、峰打ちを意識しながら斬りつけ、凌牙を抜いた。

 

「……ッ!」

 

 凌牙は、痛みに悶えていた。

 

「……痛え、痛えよぉ! だがよぉ、甘すぎるって!」

 

 そういった凌牙は、振り向いてきた。

 ……峰打ちを意識しすぎて、入りが浅かったか……! 

 

「……因みに、俺の勝ちだ」

「……え?」

 

 首を傾げる俺に対して、ヤツは指を3本立てて言った。

 

「今の瞬間に、俺は3箇所に撃ち込ませてもらった。そしてお前は、倒れる!」

 

 直後、俺の全身に形容し難いほどの激しい感覚が襲う。

 

「……ッア!?」

 

 そして徐々に徐々に、俺の両足には力が入らなくなっていく。

 俺は握っていた刀を離すと、自身の両肩を掴んで悶え始めた。

 痛い……! 全身が、痺れるように。

 膝立ちで精一杯になった俺に対し凌牙は言った。

 

「言っただろ? お前の勝算は0だって?」

 

 凌牙は俺の方へと近づいてくる。

 

「さて、どうやって殺すか。生きてる状態で四肢を1本ずつ捥ぎ取るか」

 

 そう言った凌牙は、背部から刀を取り出した。

 

「さて、お前はこれで『THE END』ってわけだな」

「……本当にそう思うのか?」

 

 俺は凌牙にそう言うと、落とした刀を拾い上げ相手の刀を弾き飛ばした。

 

「……な?!」

 

 あまりのことに騒然とした凌牙であったが、俺は構わず2撃目をお見舞いする。

 一歩下がることにより、攻撃を躱した凌牙は踏み込んできた。

 俺は刀を手放すと、素早くブレザーを脱ぎ、凌牙へと投げる。

 

 凌牙はブレザーを片手で薙ぎ払う。

 だが、これでいい。

 本命は、その後ろにある『閃光弾(フラッシュ)』ッ! 

 直後眩い光が、俺たちを包む。

 

「……クッ……野郎!」

 

 光を直視したらしい凌牙は、目を抑えていた。

 俺はその隙に、先程手放したリュックサックの元へと向かう。

 そして、中から既存のどの銃とも形が違い、ワイヤーが出ている銃を取り出す。

 その銃の、撃鉄(ハンマー)を起こすと、銃を基点にワイヤーを通ってパーツが合体する。

 

 そして、銃と剣を一体化したモノを形成する。

 その組み上げが終わると、俺は手が入るほどの大きさの隙間がある、長方形の金属製の箱を取り出した。

 

 その箱にある、隙間に手を入れる。

 すると、箱は開いて(シールド)へと変化する。

 その直後、凌牙がこちらに気付いた。

 

「てめぇ……何してやがる……! というかなんで動けるんだ?」

 

 俺に対して凌牙はそう投げかけてきた。

 

「生憎俺は、薬が効き易過ぎるみたいでね。そのことが仇になってるのか、一周して効かないようなもんなんだ」

 

 俺は体質上、薬が効き過ぎる。故に、効力がすぐに無くなってしまう。

 仮に死に至るものでも、俺は死ねないだろう。……死ぬより前に、効力が切れるんだから。

 何よりも、俺の中の()()がその事を許してくれないさ。

 

「——なあ」

 

 俺は凌牙の言葉を無視して尋ねた。

 

「『人間戦車(ヒューマン・チャリオット)』って知ってるか?」

「あ? 『人間戦車』? ヨーロッパじゃ有名な武偵がなんだって言うんだよ」

「知ってるのか……。じゃあ、もう1つ」

 

 俺は、続けて問いかけた。

 

「———『(ホープフル)』って知ってるか?」

「……風の噂で聞いたぐらいだ。確か、最近つけられたとある武偵の二つ名だったはず」

 

 だが、と言って凌牙は続ける。

 

「二つ名とかは関係ない。俺はこの先、そいつらも殺す予定だからな」

「だろうな……俺を倒せたらの話だろうが」

「……ああ?」

 

 俺の言葉に、凌牙は怪訝そうな表情をした。

 

「いいこと教えてやるよ」

 

 そう言いながら俺は、右手に装備した複合兵装(タクティカルアームズ)『ケルベロス』の折り畳まれているブレードを展開する。

 

「俺は———俺が『人間戦車』の樋熊だ」

「……お前が……『人間戦車』?」

 

 それを聞いた凌牙は笑い始めた。

 

「冗談だろ? お前がか?」

「本当だぜ。序でにもう1つ」

 

 俺は、左手に持った展開装甲式防盾(スライドアーマーシールド)『インパルス』を広範囲防御型へと切り替える。

 

「———『晞』と『人間戦車』は同一人物だ」

「……その目……マジの様だな」

 

 俺の言葉を信じたらしい凌牙は言った。

 

「なら、お前を潰せば俺はSランカーより上だって事だ!」

 

 そう言って、新たに取り出したナイフを構え直す凌牙。

 

「倒せれば、だがな。さて、お前にはこの『アサルトオプション』の実験台になってもらうぜ!」

 

 そう言って俺は、ケルベロス、インパルスの持ち手についているスイッチのそれぞれ1つを押した。

 それに伴って、俺の履いている靴が、ホバーシューズへと変化する。

 ……さてと、お前に仕留め掛けられたお陰で、俺は本気を出せる。恨むなら、自分を恨めよ! 

 

 そう言って俺———()()()()()()()になった俺は、今度はインパルスに付いている別のボタンを押した。

 すると、自身の制服が開き、中から噴出口の様なノズルがいくつか姿をあらわす。

 そして、続けざまに同じボタンを押すと、ノズルが火を吹いた。

 その際に生じる勢いで、俺は前方へと急発進する。

 

「……なに?!」

「改造制服『瞬足(クィッカー)』。初運用だが、どこまでやれる……!」

 

 俺はそう呟くと、ケルベロスを前方に突き立てながら、高速ホバー移動で凌牙へと襲いかかる。

 

「直線的だ!」

 

 そう叫びながら、凌牙は、攻撃を受け流す。

 

「そいつはどうかな」

 

 俺は通り過ぎた瞬間に、インパルスの持ち手についているコントロールスティックを倒しながら、ブースターのスイッチを押す。

 それにより、ブースターは噴射を止め、俺は相手の方向へと向き直す。

 そして、瞬時にブースターを再点火し、再び襲いかかる。

 

「とおりゃァァァァァァ!」

 

 俺は、凌牙の手前でホバーを走行とブースターの噴射を止めると、地面を蹴り叫びとともに凌牙へと斬りかかる。

 

「クッ……!」

 

 凌牙は紙一重といったところで、ケルベロスの刃を受け止めた。

 俺は瞬時に、刃を引くとそのまま刃を折り畳み、ケルベロスのトリガーを引く。

 

 同時に、ケルベロスから9mm(パラベラム)弾が無数に発射される。

 その9mm弾は、凌牙へと襲いかかる。

 

「グアッ……!」

 

 凌牙は、そのままバランスを崩し倒れこむ。

 これでこいつは一旦足止め出来たはず……。

 俺は、周囲に散開している構成員……いや、これは人間じゃないな。どちらかといえば人形と言った方が正しい。

 

 それらを抑えるために、俺は再びブースターを噴射する。

 同時に、左右のコントロールスティックで、ホバーの反射方向を調整し方向転換を行う。

 その際、凪優とお相手さんの刀を拾っていくために、ケルベロスの外部側面に、装甲を縮小したインパルスをドッキングする。

 

 そして、空いた左手で刀2本を拾っていく。

 そのまま、群衆の中へと突っ込んで行く。

 俺は素早くボタンを操作すると、ケルベロスの使用武装をボーガンへと切り替える。

 

 そして、走りながら敵へと向けて放っていく。

 俺の放ったボウガンが、次々に敵を貫いていく。

 そのまま、弾が尽きるまで放ち続ける。

 

 そして、ボウガンが放たれなくなったのを確認すると、再び刃を展開して斬りつけながら進んでいく。

 途中、周囲の敵をなぎ倒しながら、凪優のお相手さんの元へと向かう。

 

「あのさ、これ持ってて」

 

 俺はそう言って2本の刀を渡す。

 

「え、ウチにどうしろと……」

「俺はまだやることがあるから持ってて」

 

 俺はそう言って、人形を切り裂きながら、最初にいた場所へと戻りながら、再びインパルスを左手に持つ。

 

「……それで、まだ立てるか」

 

 戻って来た俺は視線の先に立つ、凌牙へと言葉をかける。

 

「まだ……終わらねぇ……終わってねぇだろ……!」

「———だな」

 

 俺はそう言って、刃を畳む。

 

「……とっておき、使ってやるよ」

 

 俺はそう言って、凌牙へと突っ込んでいく。

 

「……来いよ。叩き潰す……!」

 

 俺はホバー移動のまま、凌牙を捕えると、そのまま壁際まで押していく。

 そして、壁に思いっきり押し付けたところで、ブースターの噴射を終了させ、インパルスを持ったまま左手で壁に押さえつける。

 

「これで逃げられないだろ?」

「……ッ!」

 

 俺は再びケルベロスを操作し、モードを切り替える。

 

「お前はどこまで耐えられるかな。『杭打ち機(パイルバンカー)』ッ!」

 

 すると、ケルベロスについている銃口の直下部分から太めの金属棒が姿をあらわす。

 

「……パ、パイルバンカー?!」

 

 俺の台詞を聞いた凌牙は踠き始めた。

 

「———もう、遅いよ」

 

 俺はそう言って無情な一撃を放つ。

 

「グホッ……ガハッ……!」

 

 パイルバンカーによる、第1射が凌牙の腹部へと突き刺さる。

 そして、金属棒は起点へと戻ると、続け様に2発目が発射される。

 

「グフッ……?!」

 

 今度は左肩へと放った。

 

「さて、3発目だよ」

 

 俺はそう告げて、第3射目を放った。

 それを凌牙はギリギリのところで、俺の腕を掴んで阻止した。

 

「……ハァ……なめた……ハァ……真似……しやがって……」

 

 そう力なく言った。

 

「……これで終わりだと思うの?」

 

 俺は冷酷にそう告げた。

 

「あたり……まえだろ……お前の武器は……俺には届かない……位置にある……から……」

「ああ、そうだな。()()()()()はな」

 

 そう言うと同時に、インパルスの装甲が取り外(パージ)され、中から新たなパイルバンカーが姿を現した。

 

「……な……?!」

 

 凌牙は、今何をみているのか分からないと言った具合の表情をしていた。

 

「……コイツは、『盾殺し(シールドバッシャー)』。右に付いてるパイルバンカーとは違って、火薬による炸薬と、バッテリからの電力供給による放電炸裂式型っていうタイプだ。言っておくが、右より強いぜ」

「……や……やめろ?!」

 

 俺の言葉を聞いた凌牙は、突如として震え始めた。

 

「……もう遅いよ。お前が、武偵に喧嘩吹っ掛けた時点から決まってたことだ」

 

 俺はそう言って、盾殺しを凌牙の右肩へと狙いを定める。

 

「恨むなら、自分を恨めよ———バッシュ」

 

 その言葉とともに、盾殺しは凌牙へと放たれた。

 その一撃で、凌牙ダウンしてしまった。

 俺は、そのまま凌牙から手を離すと、勢いで凌牙は地面に突っ伏した。———終わったのか。

 

 俺はそう安堵すると、付近に散らばったインパルスの装甲を拾って付け直し、ケルベロスを畳んでインパルスの裏へとマウントし、それを背負った。

 いやー、こういう時のために、背負う用のベルトつけといて良かった。

 俺はそのまま、TNK繊維製のワイヤーで凌牙を縛ると、戦闘が終わったらしい凪優達の元へと向かう。

 

「あ、2人とも終わったんだ」

 

 凪優に声を掛けられた。

 

「ああ」

 

 俺は手短に返答する。

 

「あんな精霊人形でくのぼー対した奴やなかったわ。数はウザかったけど」

 

 と、凪優のお相手さん。

 ……さっき戦闘中だから気づかなかったけど、なんか打ち解けてるね。

 

「流石の琴葉さんでもそう思うのね。何も思ってないと思ったわ」

 

 と、もう1人が。……誰この人。

 

「いやいや、心晴さん何言うとんねん。ウチかて人間やからな!? あたかも人外みたいに言わんといてくれる!?」

 

 と、凪優のお相手さんこと……琴葉が言った。

 彼女は、心晴と呼ばれた人に文句を言った。

 

「「「いや、そんなことないでしょ」」」

 

 なんとなくのノリで、そう言った。

 

「なんでや!! ……てか、それは人外凪優だけに言われとうないわ!!」

 

 と、琴葉が言う。

 

「何言ってんの? 私が人外認定な訳無いじゃん」

「「「どの口が言ってるんだよ(んねん)(のよ)」」」

 

 貴女、自分がどの位置にいるかお分かりで? 

 凪優は強い。そこに痺れる時もあるが、憧れはしないな。

 というか……こっち見てすごい落ち込んでるんだけど。

 アレ、なんか悪いことしちゃったな……。

 

「ふぅーん、凪優ちゃん、あの男の子、柊弥クンだっけ? 彼のこと好きなんだ?」

 

 心晴さんが、凪優にそう言った。

 ……隙? なんの話だろうか? 

 

「ふぇ……くぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

 対する凪優は……お前、何処のネット民だよ。

 リアルでふじこしてる奴初めてみたぞ……。

 というかこの慌てよう、なんか『隙』とかそういう問題じゃないんだろうな……。

 

「案外、可愛いところあるじゃない、凪優ちゃんは」

「うにゅぅ……」

 

 凪優はボン! という音が聞こえそうなくらいに赤面していた。

 

「あらやだかわいい、この娘!! 私のことは『心晴』で良いわよ!」

 

 そう言って、心晴さんは凪優を抱きしめた。

 ……何この甘い空間。僕帰りたいんですけど……。

 

「おいおい……どうしたんだ凪優? つーか、なんだこの状況」

 

 あまりにも処理が追いつかない俺は、そんな素っ頓狂な事を尋ねてしまう。

 

「シュウヤにも原因があると思うんやけど。あと、ハルさんのは何時もの事やから」

 

 そう言って、琴葉は笑った。

 ……と言うか、さり気ディスられたよね? 

 なんで? 心当たりございませんのですが。

 ……と言うか、さっきの話を並べて推測していくに、凪優は俺のことが好きって事なのか? 

 

 理由が見当たらなくて困惑している俺だったが、同時に凪優のことをどう考えているのかと言うことも考えていた。

 ……俺は……凪優の事が……好きなのか……? 

 自身の中に鱗片的に存在する気持ちを繋げていった結果、そう言う結論に到達した。

 まだ、はっきりわからないんだろうな。

 

「本当にオメデタイ奴等だな、アンタ等は」

 

 と、俺の思考をぶった切ったのは、俺のことを陥れようとして、返り討ちにされた凌牙クン。

 ……と言うかお前、あんだけやられて喋れんの? 

 

「あぁん? それはどういう意味や、凌牙」

 

 そんな凌牙に対して、不機嫌さを表に出した琴葉が掴みかかる。

 ……凄い殺気。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 具体的には、バーストモードの2倍から3倍ぐらいかな。

 

「どうしたもこうしたも無いんだよなぁ……。だって、仲間に殺されるわけだしさぁ」

 

 凌牙は、狂気さを含みながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「『()()()()()()()』って、一体どういう事!?」

 

 凪優が凌牙へと詰め寄った。

 

「まんまの意味に決まってんじゃんか、凪優さんよぉ。お前のお仲間、えっとぉ……姫神結衣っつたっけか? そいつに俺が細工を施したんだよ」

 

 悪びれる様子も無く、凌牙は言った。

 

「細工……」

「あぁ……そうだ。もうそろそろ暴れまわってる頃だろうよ」

 

 その言葉に、凪優が()()た。

 

「……てめぇ、何バカなことしてくれやがってんの? 自殺志願者か?」

 

 衝撃の事実だったらしく、凪優は凌牙の首を締めた。

 ……自殺願望者? 

 

「ギブギブギブ……武偵が人を殺すなんて……」

 

 凌牙は、凪優の腕をタッチして、ギブアップを告げていた。

 

「知らねぇんだったら、教えてやるよ。暴走した結衣は一番厄介で、闘争本能の赴くがままに行動する理性もない獣なんだよ」

 

 凪優の言葉を聞いた凌牙は、ポカンとしていた。

 

「え……じゃあ、俺の手足になって行動は……」

「する訳ねぇだろ。その前に殺されて人生終了だろうよ」

 

 うわー、怖いこと聞いちゃったなぁ……。

 

「……俺、殺される……のか……?」

 

 そう言った凌牙の顔は、絶望に染まりきっていた。

 因果応報だな。お前のやってきたことに対して罰が下ったんだろう。

 

「でも……凌牙コイツをみすみす見殺しにはせんのやろ? 凪優」

 

 琴葉が凪優にそう言った。

 ……俺も同じ意見だ。

 

「当たり前じゃない。今の私は『凍て付く一刀(アイス・エイジ)』。武偵だからね。殺人(コロシ)は御法度だもの」

「……それじゃあ、裏の顔の時は殺すのね」

 

 心晴さんの質問に対して、凪優は言った。

 

「ま、厄介事持ち込んだとしてその憂さ晴らしに……殺るかもね」

 

 ……マジかい。それを満面の笑みで言うか。

 やっぱ、前言撤回……。

 そこに痺れもしないし、憧れもしない……。

 

「……で、話を戻すんだが、どうするんだ?」

 

 呆れモードを終了した俺は、凪優に尋ねた。

 

「止めるしかないでしょ。私達で」

 

 ……やっぱりか。言うと思ったさ。

 

「でも……この人数で大丈夫なんか?」

 

 琴葉が、俺の思っている事と同じことを口にした。

 

「キツいね……引き分けまでは持ち込めるだろうけど」

「そんな……じゃあどうするのよ?」

 

 凪優の答えに、心晴さんは心配そうに言った。

 

「だから……止めるには下で別れた仲間と合流するしかない。私の勘だとおそらくは……だし」

「どういう事だ……?」

 

 俺は首を捻った。

 

「多分、既に交戦してる。ま、ユイは逃げただろうがな」

「マジか……。マキ達無事だといいんだが……」

 

 少しばかり聞きたくない話だった……。

 直後、俺のインカムに連絡が入る。

 

「はい?」

『あ、シュウ君?』

 

 マキからであった。

 

「どうした?」

『あのね……さっき、ユイが暴走したの』

 

 やっぱりその件なのか。覚悟していたが、凪優の勘が当たったな。

 

「で、ユイは?」

『逃げたよ……』

 

 ここも凪優の言った通り。

 

「了解。多分、こっちもこれから戦闘に入る筈」

『分かった。なるべく早く、応援に行くね』

「ああ」

 

 そう言って、俺はインカムを切った。

 直後、であった。

 

「……っ、凪優ちゃん」

 

 心晴さんが何かを感じ取ったらしく、慌てた様子で凪優に声をかけていた。

 

「……どしたん、ハルさん」

 

 今度は、琴葉が心晴さんに尋ねる。

 

「……来るわ」

 

 心晴さんは簡潔にそう言った。

 

「思ったより早いな。まぁ良いや。……総員、戦闘準備」

 

 凪優の言葉に俺は警戒を強めた。

 しかし、ここで俺はミスを犯した。

 本当なら背中合わせ(バック・トゥ・バック)の要領で警戒するべきであったが、俺はそのままの位置で全員の後方を警戒していた。

 

 つまり、俺は今他の奴らの正面にいて向き合うようにして警戒している。

 そう、これこそが失敗であった。

 俺は瞬間的に、自身の背面に殺気を感じた。

 慌てて振り向くと、そこには『姫神だったと思しきモノ』がいた———




今回はここまで。
次回は……vsユイさん第1ラウンドの予定です。
ここで補足を入れておきますが、『ケルベロス』のイメージは、GNソードの様なものです。
また、『インパルス』のイメージは、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの盾殺しのイメージが1番近いです。
短いですが最後に、宜しければ感想・評価等お願いいたします。また、『Side_Nayu』の方もどうぞご覧ください。
では、これで。

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