緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりでございます。希望光です。
えー皆さま、大変長らくお待たせいたしましたことを深くお詫び申し上げます。すいませんでした。
今回は、蒼紗様とのコラボ第3弾の歳那視点のお話です。
蒼紗様の方の『Side_Yui』はこちらから↓
https://syosetu.org/novel/147165/5.html

では、お待たせいたしまた!本編をどうぞ!


法化銀弾(ホーリー)03 攻防(ブロッキング)———可憐なる舞踏(フレイムダンス) Side Seina

 凪優さんの大技で全ての機械兵が片付いた後、私達は敵アジトの2階へと上がりました。

 何を考えて闘技場を作ったのですかね? 

 

 あまり深いことを考えないことにした私は、結衣さんの焼いてくれた鱒を嚙りました。……美味しい。

 今日はお昼を食べていないので、私としては嬉しい誤算となりました。

 そんなことを思いながらも鱒を食べ進めていると、何やら凛音の方から視線を感じました。

 

「……どうかした?」

 

 私は凛音に問いかけました。

 

「いや、どうもしないよ。ただ、なんか普段と変わらないなぁと思っただけ」

 

 そう、と言った私は、再び鱒を囓りました。

 

「私の分も食べる?」

 

 すると、唐突に凛音がそう言いました。

 

「……凛音がいらないというのなら」

 

 そう言って、凛音から鱒を受け取った私は、1つ目の鱒を平らげました。

 そして、2つ目の鱒に口をつけようとしたところで、なにやら結衣さんの呟きのようなものが聞こえてきました。

 

「「「「「……」」」」」

 

 私は、自然とその方向へと顔が向いてしまっていたようですが、他のメンバー達も同じ方向を向いていました。

 

「……何なの、一体」

 結衣さんは、大いに戸惑っていました。

 

「「「「「いや、珍しいこともあるもんだなぁ……と」」」」」

 

 全員で台詞が被りました。

 

「何が」

「「「「「結衣さん(ヒメ)(姫神)(結衣)(結衣ちゃん)がそんなこと考えるなんて」」」」」

 

 大分困惑している様子ですね。

 正直なところ、私は関係ないのでどうでも良いのですが。

 

「いや、だってアンタ、そんなこと一度もなかったじゃん」

「ソロでの任務の時はマトモにやってるよ!? 失礼な」

「あーそうだった、そうだった。メンゴメンゴ」

 

 そう思っていると、2人が不穏な状況になり始めました。

 そんな事など御構い無しに、私は2つ目の鱒に口をつけました。

 やはり、採れたての魚は美味です。

 2つ目の鱒を食べ終えた私は、顔を上げました。

 

 そんな私の正面では、マキさんとシュウヤさんが仲睦まじく会話をしていました。

 相変わらずの中の良さですね。

 私は、自身の手元にある刀に視線を落としました。

 

 そして、私が初めて刀を握った時のことを思い返していました。

 凛音と一緒に稽古を積んだあの日々を———

 そんな私は、1つの声により視線を上げました。

 

「……っ! ねぇ、ミナ」

 

 突然、結衣さんが凪優さんを呼びました。

 

「ん? どうしたのさ、ヒメ」

「感じるよ」

 

 何かを察知したらしい結衣さんが、凪優さんにそう伝えました。

 

「マジか……」

 

 対する凪優さんは、険しい顔をしていました。

 

「……?」

 

 理解の全く追いついていない私は、思わず首を傾げました。

 

「どうかしたの、2人とも」

 

 それを代弁するかの様に、凛音がお2人へと尋ねました。

 

「敵襲。しかもいっぱい」

 

 結衣さんは簡潔に、しかし把握しやすい様に言いました。

 

「何人くらいなの、結衣」

「んーと、ざっと118人位かな」

 

 2人の会話を聞いた凛音は、驚きを隠せないでいました。

 

「多いな。個々の強さはどれくらいなんだ、姫神」

「まぁ、そんなに強くない。そこそこ強いのが18人。あとは雑魚だね」

「そうか。じゃあ、全員で突破の方が最善策だな……」

 

 シュウヤさんが、作戦を提案しました。———彼らしく、筋の通った作戦ですね。

 

「いや、私とシュウヤは先に進んだほうがいいと思う」

「……どうしてだ」

 

 しかし、凪優さんはその作戦を否定しました。

 ……シュウヤさん、いつから凪優さんとそういう関係になったのですか? 

 

「だって、その奥に居るんだよ」

「『居る』……?」

 

 結衣さんの言葉に、シュウヤさんは首を捻りました。

 

「うん。今来る奴等よりもはるかに格上の奴が居る」

「……成程。その手練は私とシュウヤで対処したほうが良さそうね」

 

 結衣さんの言葉を聞いた凪優さんが、何かを納得した様に頷きました。

 

「大丈夫なのか? 相手の人数も多いが」

 

 おや、シュウヤさんにしては珍しいこと言いますね。

 

「大丈夫だって、シュウ君。私達がそんなに簡単に負けると思う?」

 

 全くもってその通りです。

 

「そうだよ。私達なら心配ないから」

 

 その事は、貴方が一番よく知っているはずです。

 

「シュウヤさん達は先に進んでください」

 

 私達は負けません。

 それは、恐らく他の人達も同じ意見の筈です。

 何よりも、貴方は行かなければならない。

 それが今の貴方の使命なのだから。

 

「解った。ここは頼む」

 

 そう言って、シュウヤさんは微笑みました。

 

「不様に負けんなよ、結衣」

「誰がそんな負け方するとでも? そっちこそさっさと終わらせて来なよ、凪優」

「もとからそのつもりよ」

 

 結衣さんと凪優さんの方も話がついた様です。

 

「凪優」

「ええ。行こう、シュウヤ」

 

 シュウヤさんに呼ばれた凪優さんは、彼と共に次の階層へと向かっていきました。

 ……問答無用で尋問科(ダギュラ)送りですね。

 ですが、それは置いておきます。ですので、必ず勝って下さい。

 

 走り去っていく両名の背中が見えなくなる前に、私は反対方向へと視線を移しました。

 その視線の先では、幹部と思しき人間を含めた集団が、この階層へと雪崩れ込んでくるのが見えました。

 

「たった4人でこの数に挑むとか正気か、小娘達」

「お生憎、正気なんだよね。さっさと倒れなさい」

 

 構成員の1人の言葉に、結衣ちゃんが反応した。

 

「中々、上物ばっかりだな」

 

 ……なるほど。

 

「……サイテー」

 

 マキさんの口から、嫌悪の言葉が飛び出しました。

 

「なーボス、この娘達生け捕りにしてお持ち帰りにしてもイイっすよね?」

「……好きにしろ」

「よっしゃあ! 痛くしねぇから安心しな。嬢ちゃん達」

 

 ……お終いですね。

 

「誰が安心なんてできるか。つか、とっとと消えろ」

 

 凛音もここまで言っているので、確定事項になったみたいです。

 

「私達に大人しくお縄につかれなさい。さもなくば———」

 

 貴方達は、後悔させます。何をしてでも———

 

「死んだ方がマシな状態にさせます」

 

 その直後、私と凛音は同時に走り出して、マキさん達の真反対へと走りました。

 そして、凛音はホルスターから『ステアーM9』を取り出(ドロー)し、走りながら点射に切り替えたM9を放ちました。

 

 ですが、点射の為ある程度の撃ち漏らしが起こっていました。

 しかしそれは想定内。

 私は、それをカバーするかの様に『グロック18』を放ちました。

 

 そして装弾数である15発を撃ち切った凛音は、刀を抜きました。

 私もそれを見計らって抜刀しました。

 そして、凛音が右サイドから、私が左サイドから切り込み、相手を挟み込みました。

 

「天然———」

「理心流———」

 

 凛音の言葉に私は続けました。

 

「「合技『月日(げっか)』!」」

 

 凛音は走りながら、物凄い速度で居合切りを無数に行い始めました。

 対する私は、自身を時計回りに軸回転させながらの剣戟で相手をなぎ倒していきます。

 そして、視界に入った1人を切ろうとした瞬間、凛音の背後に新たな敵影を見つけました。

 

 しかし凛音は、敵に気付いてない様子です。

 ですが今の私の距離からでは、凛音の援護に回るには遠すぎます。

 私が対処法を模索していると、突如として凛音の後ろの敵が倒れました。

 同時に、私の後ろでも何かが倒れる音が聞こえてきました。

 

 音から判断して、人だっていうのは間違い無いですね。

 私と凛音は、自身の視界に映る敵を同時に切ると、マキさん達の方へと視線を向けました。

 

 そして、マキさん達の奥に見える敵へと発砲しました。

 放った弾丸は、相手の持つAR(アサルトライフル)を確実に捉え、破壊しました。

 その後、マキさんと凛音とアイコンタクトを取りながら、構成員を片っ端から倒していきました。

 気がつくと、構成員は殆ど倒れ伏していました。終わったみたいですね。

 

「———ほう、確かに言っただけのことはあるな」

 

 そう思っていると、結衣さんが強いって言ってた方々———幹部17名が現れました。

 

「———漸くお出ましってわけですね」

 

 凛音はそう言いながら、八相の構えをとりました。

 

「まさかあの数を相手取れるとはな。思ってみなかったぜ」

「大分甘く見られてましたね」

 

 わたしは、幹部の言葉に答えると、凛音の隣で脇構をとりました。

 

 ———やりたい事は大体わかりましたよ。凛音。

 

「———多分、知能指数が足りてなかったんだよ」

 

 マキさんは私にそう言いながら、『グロック17』を両手に持ち双銃(ダブラ)で構えていました。

 

「まあ、その通りかもしれないな」

 

 幹部の1人はそう言い放ちました。

 

「……それって、部下のことを道具だとしか扱ってないってことだよね?」

 

 マキさんがそう口にしました。

 

「そういうことになるかもな」

 

 幹部は悪びれる様子もなくそう言い切りました。

 

「貴方達は、最低最悪だよ。最早、人ですらないよ」

 

 凛音は、恐らくですが———限りなく冷たく重い言葉を選んで言っていました。

 

「なんとでも言え。俺たちは本当のことしか言ってないんだからな」

「もう……」

 

 マキさんがそっと口を開きました。

 

「「「喋らないでください(喋らなくていい)(何も喋るな)」」」

 

 続けて放った私達の言葉が重なりました。

 ———やはり、言葉に出さなくても心は通じ合っている、みたいですね。

 そんなことを思いながらも、私と凛音は敵目掛けて飛び出しました。

 

 対する相手は、3人が私と凛音を迎撃する形で向かってきました。

 すると、私達の後方からパンパンパン! という3発の銃声が鳴り、9mm弾(パラベラム)が飛び出してきました。

 

 その9mm弾は、幹部に当たりました。当たった幹部は、その場に倒れ込んでしまいました。

 空かさずに、残った2人を私と凛音がそれぞれ斬り捨てていきました。

 そのままの勢いで私達は進んでいきます。

 

「……行かせるかッ!」

「———邪魔」

 

 私達の後方では3回の銃声がした後に、再び人が倒れた音が聞こえできました。

 ですが、私と凛音はそれを気に留めることなく突き進んでいきました。

 すると、眼前の敵は一斉にマシンガンを構えていました。———アレはIMI社製のマシンガン『UZI』……! 

 

「———一斉放火、開始ッ!」

 

 1人の幹部が叫んだのを皮切りに、9mm弾による雨が私達に浴びせられました。

 私と凛音は、刀を盾にしてなんとかやり過ごせてはいます。しかし、マキさんが遮るものが無く、防弾制服の箇所ではありますが、大量に被弾していました。

 

「……クッ!」

 

 下手に動くと行動不能になる……! 

 そんな感じで自身と葛藤していると、弾丸を浴びせられ続けているマキさんが、反射的にグロックを発砲しました。

 

 マキさんの放ったグロックの弾は、弾幕をすり抜け床へ当たって跳弾し、幹部の何名かへと直撃しました。

 これにより僅かの間ではありますが、掃射が止まりました。

 その隙を逃さず、私と凛音は敵陣へと切り込みました。

 

「天然理心流———『荒波』」

 

 凛音はそう呟きながら、斜めに刀を振った後に斬り返しを行い、2人を2回。つまるところ、4人を撃退していました。

 

「天然理心流———『疾風一文(はやていちもん)』」

 

 対する私は、横一文字に振るった刀で、纏めて幹部たちを3人斬り倒していきました。

 後は貴女にお任せします———マキさん! 

 

 マキさんは体勢を立て直すと、走りながらグロックを相手へと撃ち込んでいきました。

 マキさんの銃の残弾は左右ともに15発ずつ。マキさんは、1人につき5発ずつ撃ち、計6人を倒していきました。

 

「バ、バカな……!?」

 

 その行動に、相手は動揺を隠せないようでした。

 対するマキさんは、はグロックをレッグホルスターへ仕舞うと、背面の氷華と炎雨を抜きながら、最後の幹部へと斬りかかっていきました。

 

「これで終わり———」

「舐めるなァ!」

 

 幹部は足掻きとして、マキに対して再装填を終えたUZIの引き金を引いた。

 

「遅いよ———『時雨』」

 

 そう呟きながら、マキさんは2本の刀の刃の部分を上下でそれぞれ向き合わせ、ちょうどハサミのようにして構え、銃口、幹部の順番に斬りつけていきました。———お見事。

 

「……グフッ?!」

 

 幹部は肩を抑えながらその場に倒れ伏してしまいました。

 マキさんは刀を鞘に収めました。———今ので決着だったようですね。

 マキさんに続き、私と凛音も刀を鞘に収めました。

 さて、こっちは終わったから良いのですが、結衣さんの方はどうなったのでしょうか……凄いことになっていますね。

 

「終わったね……結衣」

「あ、マキ、凛音、歳那。そっちも終わったんだ」

「うん。今さっきね」

「他愛もなかったけどね」

「ええ。憂さ晴らしにもなりませんでしたが」

 

 ……と言ってみたのですが、内心ではすごく満足してます。

 

「あはは……」

 

 それを見たマキさんは苦笑していました。

 戦闘が終わってひと段落つき始めた、その直後のことでした。

 

「!?」

 

 結衣さんが突然地面に膝をつきました。

 

「ユイ!? 大丈夫!?」

 

 マキさんは即座に結衣さんのそばへと駆け寄っていきました。

 

「来ないで……! 私を置いて今スグここから逃げて」

 

 しかし、結衣さんはマキさんを制止しました。

 

「何馬鹿なこと言ってんの! ユイがそんな状況なのに置いて逃げる事なんて出来ない!」

 

 マキさんは結衣さんの制止を振り切り、そばへと駆け寄りました。

 結衣さんの顔色は……悪化しきっているときの顔をしていました。すごく、嫌な予感がします……! 

 自身の直感に意識を向けている私でしたが、結衣さんのとある呟きが耳に入りました。

 

「顕現…………翡翠」

 

 その呟きの後、結衣さんのそばに何かが現れました。それは紛れもなく、質量を持った実体でした。

 ……何なのでしょうか、これは。

 実体化した『それ』は直後、焔に飲み込まれるかのように取り込まれていきました。

 

「ォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 そしてその焔が解けた時、結衣さんは人とは思えない声を上げ、マキさんへと襲いかかりました。

 

「……!」

 

 マキさんは慌てて氷華と炎雨を抜刀し防御を行いましたが、結衣さんの攻撃の重さは普段とは比べ物にならなかった様で、そのままガードの上から吹き飛ばされてしまいました。

 そしてマキさんは、壁に強く激突してしまいました。

 

「カハッ……!」

「マキちゃん!」

「マキさん!」

 

 私と凛音は、慌ててマキさんの元へと駆け寄りました。

 対するマキさんは、何かを訴えようとしている様子でした。

 ……何か、嫌な予感がする。

 そう感じていた矢先、凛音の目の前に結衣さんが現れました。

 凛音……! 

 動けないまでいると、突然結衣さんが殴り飛ばされました。

 

「大丈夫、二人共?」

 

 突然現れたその人は、何事もなかったかのように話しかけてきました。

 

「は、はい……」

「貴女は一体……」

 

 私と凛音は戸惑いながらも、なんとか出た言葉で尋ねました。

 

「そういう話は後にして。貴女達は茉稀ちゃんにコレを使って」

 

 私の疑問を受け流した彼女は、光る結晶のような物体を私へと差し出してきました。

 それを受け取った私と凛音は、マキさんのもとへと駆け寄りました。

 そして、その結晶のようなものをかざすと、眩い光を放ち、マキさんの傷が癒えていました。

 

「マキちゃん大丈夫!?」

「うん……ありがと……凛音、歳那」

 

 お礼を言ったマキさんは、立ち上がり加勢しようとしていました。

 

「マキさん、貴女はここで私と一緒にいてください。傷は癒えましたが危険です」

 

 彼女の身を案じた私は、彼女のことを止めました。

 

「え……でも」

「大丈夫。私が行くから」

 

 凛音が、マキさんにそう告げました。

 そして、鞘から日本刀を抜きました。

 すると、日本刀の刀身が突如として光で覆われました。

 

「これって……さっき、凪優がやってたのと同じ……」

「うん。何故出来たかは不明なんだけどね。でもこれだったら大丈夫な気がするの」

 

 そう言った凛音は、マキさんに微笑みかけていました。

 

「無茶……しないでよ?」

「解ってる」

 

 マキさんの言葉にそう言った凛音は、こちらを標的に変えたらしい結衣さんを迎撃するためにその場を後にしました。

 

「……?! マキさんッ!」

 

 直後、マキさんは意識を失ってしまいました。

 私は、彼女の脈を図るために手首へと指を当てました。

 ……脈が薄れ始めている? 

 不味いと判断した私は、予めシュウヤさんに渡されていた『活性剤』を取り出しました。

 

 シュウヤさんによればこの『活性剤』は、ラッツォをベースにカフェインやブドウ糖といった、脳を活性化させる物質を織り交ぜた薬のようです。

 私は、それをマキさんに飲ませました。

 

 ……即効性は高いと言っていましたので、効果はすぐにでてくる筈。

 そう思いながらも、私は凛音の方へと目を向けました。

 そこでは、高く飛翔した凛音が、刃を荒れ狂う暴風の如く振り回しているのが目に入りました。

 私は、マキさんの方へと視線を戻しました。

 

「マキさん! ……マキさん!」

 

 そして、ひたすらマキさんに呼びかけていました。

 

「歳……那?」

 

 すると突然、マキさんが目を開きました。

 

「よかった、気がついたみたいですね」

 

 良かった……無事みたい。

 

「……ユイは?」

「ユイは逃げたよ」

 

 先ほど、結衣さんと戦っていた人がそう言いました。

 

「貴女は?」

「私は翡翠。ユイの相棒みたいなものさ」

 

 翡翠と名乗ったその方は、マキさんの質問に手短に答えました。

 

「 色金の眷属の?」

「そう。私は瑠璃色金の眷属」

 

 マキさんは何やら納得した様子でした。

 

「ユイは、なにがあったの?」

「恐らくだが、外部からの力により暴走させられたのだと思う」

 

 正直なところ、信じ難いです。私はあまり、そういう分野は得意ではないので……。

 

「……とまあ、今こんな話をしても仕方がない。少し休もう」

「そうですね……」

 

 翡翠さんの言葉に、マキさんは頷きました。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、もう平気だよ」

 

 そう言ったマキさんは、立ち上がりました。

 

「どこに行くの?」

 

 すると凛音は、マキさんを呼び止めました。

 

「連絡しなきゃでしょ? ちょっとシュウ君に連絡してくる」

「わかったわ。よろしくね」

「うん」

 

 そう言って凛音は、マキさんを見送りました。

 

「———凛音」

 

 私は、そんな凛音に声をかけました。

 

「……何?」

「さっきの———天然理心流の奥義。できたね」

 

 荒れ狂う暴風のような刃捌き。アレは間違いなく、天然理心流奥義『乱流』。

 天然理心流の奥義の中でも、会得し難い技の1つに当る技です。

 

「そうだね」

「漸く物にできたみたいだった。さっきの凛音」

 

 私は、凛音と共に天然理心流の継承者です。

 しかし、凛音は奥義までは会得していませんでした。

 恐らくですが、彼女は会得できなかったものだと、私は思っています。

 それでも、彼女は十分強いです。これは、私が保証します。

 そんな彼女が初めて成功した奥義。それがまさか『乱流』だなんて。

 

「うん。なんとかできたみたい」

「やったね」

 

 私は今、自分の事のように嬉しいです。もしかしたら、自分のこと以上に、凛音が奥義をできるようになったことを喜んでいるのかもしれません。

 

「ありがとう」

 

 そんな私に凛音は、感謝の言葉を述べるてくれました。

 私はその時、心の中で誓いました。

 ———必ず、凛音(あなた)と共に歴代最高の天然理心流の継手になる、と。




はい。今回はここまで。
次回は、多分シュウヤ視点に戻る……筈。
蒼紗様、大変遅くなり申し訳ございません。
次回もどうぞよろしくお願いします。
では、これで。
次回の投稿作品も、お楽しみに!

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