緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりでございます。希望光です。
今回はコラボ第3弾の凛音さん視点です。
一応歳那さんの分も用意してありますので気長にお待ちください。
↓『Side Yui』はこちらから
https://syosetu.org/novel/147165/5.html

では、本編へどうぞ!


法化銀弾(ホーリー)03 攻防(ブロッキング)———可憐なる舞踏(フレイムダンス) Side Rinne

 凪優ちゃんの大技で全ての機械兵が片付いた後、私達は敵アジトの2階へと上がった。

 ……で、なんで闘技場なの? 

 というかなんで鱒食べてるの私達? 

 

 ……たしかに空腹じゃ戦えないだろうけどさ。

 因みに調理は結衣ちゃんが担当してくれた。

 こういう時なのに、普段の昼休みと変わらない気がするのはなぜだろうか……。

 私は、目の前の皿に盛られている鱒から、歳那へと視線を移した。

 

「……どうかした?」

 

 歳那は私の視線に気付いたらしく、私へと問いかけてきた。

「いや、どうもしないよ。ただ、なんか普段と変わらないなぁと思っただけ」

 そう、と言った歳那は黙々と鱒を食べていた。———相変わらずな食べっぷりだなぁ。

 

「私の分も食べる?」

「……凛音がいらないというのなら」

 

 私の言葉に、歳那は目を光らせながら答えた。……此処も相変わらず。

 鱒を歳那にあげた私は、結衣ちゃんの方に視線を移すと……何やら結衣ちゃんが、呟いているのが聞こえた。

 

「「「「「……」」」」」

 

 どうやら私を含めた全員が、結衣ちゃんの方を向いていたらしい。

 

「……何なの、一体」

 

 結衣ちゃんは戸惑っていた。

 

「「「「「いや、珍しいこともあるもんだなぁ……と」」」」」

 

 全員でハモった。おんなじこと考えてたみたいだね。

 

「何が」

 

「「「「「結衣ちゃん(ヒメ)(姫神)(ユイ)(結衣さん)がそんなこと考えるなんて」」」」」

 

 結衣ちゃん困惑した顔してるけど、困惑したいのは私たちの方だよ。

 どう見ても脳筋な結衣ちゃんがあんなこと言うなんて……ねぇ。

 まあ、槍とか降ってこないならそれでいいんだけどね。

 基本的に、しっかりと任務がこなせればそれで、ね。

 

「いや、だってアンタ、そんなこと一度もなかったじゃん」

「ソロでの任務の時はマトモにやってるよ!? 失礼な」

「あーそうだった、そうだった。メンゴメンゴ」

 

 アレ、なんか不穏だな……。この先大丈夫かな? 

 内部分裂だけは勘弁だよ? 

 そう思いつつ正面へと視線を移した。

 

 私の正面では、マキと柊弥が仲睦まじく会話をしている。

 こっちも相変わらず……。

 内心ため息をついた私は、そっと目を閉じた。

 

 ———貴女にはこれを授けるわ。

 突然の事に、私は目を見開いた。

 なに、今のは……。精神干渉(マインド・タッチ)? だとしたら誰が……。

 私の思考は、1つの声で遮られた。

 

「……っ! ねぇ、ミナ」

 

 突然、結衣ちゃんが凪優ちゃんを呼んだ。

 

「ん? どうしたのさ、ヒメ」

「感じるよ」

 

 ……感じる? 何を察知したのかな? 

 

「マジか……」

 

 結衣ちゃんの言葉の意味が分かるらしい凪優ちゃんは、険しい顔をした。

 

「……?」

 

 何のことか分からないらしい歳那は、首を傾げていた。

 多分だけど、歳那の反応は正しい。歳那の思っていることは、凪優ちゃんと結衣ちゃんを除いた全員が思っていることのはずだから。

 

「どうかしたの、2人とも」

 

 私は、全員分の疑問を纏めたかの様に尋ねた。

 

「敵襲。しかもいっぱい」

 

 結衣ちゃんから返ってきた言葉に、私は眉をひそめた。

 

「何人くらいなの、結衣」

「んーと、ざっと118人位かな」

 

 凪優ちゃんと結衣ちゃんの会話を聞いた私は、その数の多さに驚いた。

 

「多いな。個々の強さはどれくらいなんだ、姫神」

 

 あ、柊弥でもそう思うんだ。

 

「まぁ、そんなに強くない。そこそこ強いのが18人。あとは雑魚だね」

「そうか。じゃあ、全員で突破の方が最善策だな……」

 

 私も柊弥の提案した作戦に賛成だ。

 全員で戦った方が早く事が済む筈だからね。

 

「いや、私とシュウヤは先に進んだほうがいいと思う」

「……どうしてだ」

 

 凪優ちゃんは、柊弥の案を否定した。これ対しては、柊弥も疑問に思った様で、聞き返した。

 ……アレ、凪優ちゃんって柊弥の事呼び捨てにしてたっけ? 

 

「だって、その奥に居るんだよ」

「『居る』……?」

 

 結衣ちゃんの言葉に柊弥が首を捻った。

 

「うん。今来る奴等よりもはるかに格上の奴が居る」

「……成程。その手練は私とシュウヤで対処したほうが良さそうね」

 

 結衣ちゃんの言葉を聞いた凪優ちゃんが何かを納得した様に頷いた。

 

「大丈夫なのか? 相手の人数も多いが」

 

 甘く見られたものね。同じチームだって言うのに。

 

「大丈夫だって、シュウ君。私達がそんなに簡単に負けると思う?」

 

 マキの言う通り。私たちは簡単には負けない。

 

「そうだよ。私達なら心配ないから」

 

 だから、私達を信じて。

 

「シュウヤさん達は先に進んでください」

 

 必ず、勝って無事に帰ってきて。

 私は、貴方がいたから、今ここにいられる。

 貴方の戻ってくるべき場所は守るから。

 信じていってほしい。

 

「解った。ここは頼む」

 

 彼はそう言って微笑んだ。

 

「不様に負けんなよ、結衣」

「誰がそんな負け方するとでも? そっちこそさっさと終わらせて来なよ、凪優」

「もとからそのつもりよ」

 

 結衣ちゃんと凪優ちゃんの方も終わった様だ。

 

「凪優」

「ええ。行こう、シュウヤ」

 

 柊弥に呼ばれた凪優ちゃんは、彼と共に次の階層へと向かって行った。

 ……ふーん。何かあるわね。

 それは置いておいて———勝ってね。

 

 走り去っていく2人の背中が見えなくなる前に、私は反対方向を向いた。

 私の視線の先では、幹部と思しき人間を含めた集団が、この階層へと雪崩れ込んでくるのが見えた。

 

「たった4人でこの数に挑むとか正気か、小娘達」

「お生憎、正気なんだよね。さっさと倒れなさい」

 

 構成員の1人の言葉に、結衣ちゃんが反応した。

 

「中々、上物ばっかりだな」

 

 ……信じらんない。ここまで下衆だなんて。

 

「……サイテー」

 

 マキの口から、嫌悪の篭った言葉が放たれた。

 

「なーボス、この娘達生け捕りにしてお持ち帰りにしてもイイっすよね?」

「……好きにしろ」

「よっしゃあ! 痛くしねぇから安心しな。嬢ちゃん達」

 

 あんたらは、どこまで私達を怒らせれば気が済むの? 

 

「誰が安心なんてできるか。つか、とっとと消えろ」

 

 貴方達はタダでは済まさない。必ず仕留める。

 

「私達に大人しくお縄につかれなさい。さもなくば———」

 

 歳那の方もこの様になっているんじゃ、タダでは済まないの決定だね。

 

「死んだ方がマシな状態にさせます」

 

 私と歳那の付き合いの長さが故にわかったことだが、あの状態になった歳那は確実にやるね。それこそ、終わるまで止める事ができないほどに。

 私と歳那は、同時に走り出し、マキ達の真反対へと走った。

 

 そして、ホルスターから『ステアーM9』を取り出(ドロー)した。

 走りながら、点射に切り替えたM9を放つ。

 点射の為、ある程度の撃ち漏らしが起こるが、歳那がそれをカバーするかの様に『グロック18』を放つ。

 

 そして装弾数である15発を撃ち切ると、私は背面に固定してある刀を抜いた。

 同タイミングで、歳那も抜刀した。

 そして、私が右サイドから、歳那が左サイドから切り込み、相手を挟み込むような状態になる。

 

「天然———」

「理心流———」

 

 私の言葉に歳那は続けた。

 

「「合技『月日(げっか)』!」」

 

 私は走りながら、物凄い速度で居合切りを無数に行う。

 同タイミングで歳那は、自身を時計回りに軸回転させながらの剣戟で相手をなぎ倒していく。

 そして、視界に入った1人を切ろうとした瞬間、歳那の後ろに新たな敵の影を見つけた。

 

 歳那は敵に気付いてない……か。

 でも、私の距離からじゃ、間に合わない。

 そう思っていた矢先、歳那の後ろの敵が突然倒れた。

 同時に、私の後ろでも、何かが倒れる音がした。

 

 音から判断して、人だっていうのは間違い無いね。

 私と歳那は、自身の視界に映る敵を切ると、マキ達の方を向いた。

 そして、マキ達の奥に見える敵へと発砲する。

 

 放った弾丸は、相手の持つAR(アサルトライフル)を破壊した。

 その後、マキと歳那とアイコンタクトを取りながら、構成員を虱潰しにしていった。

 気がつくと、構成員は片付いていた。終わったのかな? 

 

「———ほう、確かに言っただけのことはあるな」

 

 結衣ちゃんが強いって言ってた人達———幹部17名だ。

 

「———漸くお出ましってわけですね」

 

 私はそう言いながら、八相の構えをとった。

 

「まさかあの数を相手取れるとはな。思ってみなかったぜ」

「大分甘く見られてましたね」

 

 幹部の言葉に答えた歳那は、私の隣で脇構をとった。

 考えてることがわかってるみたい。流石だね、歳那は。

 

「———多分、知能指数が足りてなかったんだよ」

 

 マキは歳那にそう言いながら、グロックを両手に持った。

 

「まあ、その通りかもしれないな」

 

 幹部の1人はそう言った。

 

「……それって、部下のことを道具だとしか扱ってないってことだよね?」

 

 マキはそう口にした。

 

「そういうことになるかもな」

 

 相手は悪びれる様子もなくそう言い切った。

 

「貴方達は、最低最悪だよ。最早、人ですらないよ」

 

 私は、限りなく冷たく重い言葉で答えた。

 

「なんとでも言え。俺たちは本当のことしか言ってないんだからな」

「もう……」

 

 マキがそっと口を開く。

 

「「「何も喋るな(喋らなくていい)(喋らないでください)」」」

 

 続けて放った私達の言葉が重なった。

 ———私達3人の考えることは同じなんだね。だからこそ、今ここにいるのかも。

 私と歳那は、相手めがけて飛び出した。

 

 対する相手は、3人が私と歳那を迎え撃つ形で向かってきた。

 すると、私達の後方からパンパンパン! という3発の銃声が鳴り、9mm弾(パラベラム)が飛来した。

 

 そして幹部に当たり、その幹部は体勢を崩した。

 残った2人を、私と歳那がそれぞれ斬り捨てる。

 そのまま私達は進んでいく。

 

「……行かせるかッ!」

「———邪魔」

 

 私達の後方では3回の銃声がした後に、人が倒れた音が聞こえた。

 だが、私と歳那はそれを気にすることなく突き進む。

 すると、眼前の敵は一斉にIMI社製のマシンガン『UZI』を構えた。

 

「———一斉放火、開始ッ!」

 

 1人の幹部が叫ぶと同時に、9mm弾による弾丸の雨が私達に浴びせられた。

 私と歳那は、刀を盾にしてなんとかやり過ごせているのだが、マキが盾にできるものが無く、防弾制服の箇所ではあるが大量に被弾している。

 

「……クッ!」

 

 助けに行こうにも助けに行けない……。

 そんな歯痒い状況下に置かれていると、弾丸を浴びせられ続けているマキが、反射的にグロックを発砲した。

 

 マキの放ったグロックの弾は、弾幕をすり抜け床へ当たり跳弾すると、幹部の何名かへと直撃した。

 これにより僅かの間だが、掃射が止んだ。

 その隙を逃さず、私と歳那は敵陣へと切り込む。

 

「天然理心流———『荒波』」

 

 私はそう呟きながら、斜めに刀を振った後に、斬り返していった。この1セットで2人を2回。つまり、4人を撃退した。

 

「天然理心流———『疾風一文(はやていちもん)』」

 

 対する歳那は、横一文字に振るった刀で、纏めて幹部たちを3人斬り倒した。

 仕上げは任せるよ———マキ! 

 マキは体勢を立て直すと、走りながらグロックを相手へと撃ち込む。

 

 彼女の残弾は、確か左右ともに15発だった筈。マキは、1人につき5発ずつ撃ち、計6人を倒していった。

 

「バ、バカな……!?」

 

 相手は動揺を隠せないでいた。

 対するマキは、はグロックをレッグホルスターへ仕舞うと、背面の氷華と炎雨を抜きながら、最後の幹部へと斬りかかった。

 

「これで終わり———」

「舐めるなァ!」

 

 幹部は足掻きとして、マキに対して再装填を終えたUZIの引き金を引いた。

 

「遅いよ———『時雨』」

 

 そう呟きながら、マキは2本の刀の刃の部分を上下でそれぞれ向き合わせ、ちょうどハサミのようにして構え、銃口、幹部の順番に斬りつけていった。———速い。

 

「……グフッ?!」

 

 幹部は肩を抑えながらその場に倒れ伏した。

 マキは刀を鞘に収めた。———今のでフィニッシュなんだね。

 それを見た私と歳那も刀を鞘に収める。

 こっちは終わったから、結衣ちゃんの方なんだけど……凄いことになってるな。うん。

 

「終わったね……ユイ」

 

 マキは、ユイちゃんのそばに向かいながら、結衣ちゃんに声をかけた。

 

「あ、マキ、凛音、歳那。そっちも終わったんだ」

「うん。今さっきね」

 

 マキが結衣ちゃんの言葉に返答した。

 

「他愛もなかったけどね」

「ええ。憂さ晴らしにもなりませんでしたが」

 

 私と歳那は、マキに続いて言った。

 

「あはは……」

 

 マキは何故か苦笑した。

 なんで苦笑いなのかな? 

 もしかして内心、合技が繰り出せたことに満足してるのが顔に出ちゃったかな? 

 そんな感じでいると突然———

 

「!?」

 

 結衣ちゃんが地面に膝をついた。

 

「ユイ!? 大丈夫!?」

 

 マキは即座にユイちゃんのそばへと駆け寄った。

 

「来ないで……! 私を置いて今スグここから逃げて」

 

 しかし、結衣ちゃんはマキを制止した。

 

「何馬鹿なこと言ってんの! ユイがそんな状況なのに置いて逃げる事なんて出来ない!」

 

 マキは結衣ちゃんの制止を振り切り、そばへと駆け寄った。

 ユイちゃんの顔色を見ると……すごく悪い。苦しんでいるみたい……! 

 ……超能力による、内部の制御機構の乱れ? 

 状況を把握することに必死になっている私の耳に、結衣ちゃんの呟きが聞こえてきた。

 

「顕現…………翡翠」

 

 その呟きの後、結衣ちゃんの側に何かが現れた。しかも、実体を持って。

 一体……何? 

 実体化した『それ』は直後、炎……いいえ、これは……(ほむら)……? に包まれた。

 

「ォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 そして、その焔が解けた時、結衣ちゃんは人とは思えない声を上げ、マキへと襲いかかった。

 

「……!」

 

 マキは慌てて氷華と炎雨を抜刀し防御を行なったが、結衣ちゃんの攻撃の重さは普段とは比べ物にならなかった様で、そのままガードの上から吹き飛ばされた。

 そしてマキは、壁に強く激突してしまった。

 

「カハッ……!」

「マキちゃん!」

「マキさん!」

 

 咄嗟にちゃん付けで呼んでしまったことに気を止める暇もないほどの勢いで、私と歳那はマキの元へと駆け寄った。

 マキは、何かを訴えようとしていた。

 何、何を伝えたいの……? 

 

 考えている私の眼前には、()()が居た。

 ダメだ、対応できない……。

 諦めかけたその時、ユイが何者かによって殴り飛ばされた。

 

「大丈夫、二人共?」

 

 突然現れた彼女は、何事もなかったかのように話しかけてきた。

 

「は、はい……」

「貴女は一体……」

 

 私と歳那は戸惑いながらも口を開いた。

 

「そういう話は後にして。貴女達は茉稀ちゃんにコレを使って」

 

 歳那の疑問を受け流した彼女は、光る……結晶? を歳那へと渡した。

 それを受け取った歳那と私は、マキの方へと駆け寄った。

 そして歳那が、その結晶のようなものをマキにかざすと、眩い光を放ち、マキの傷が治っていった。

 

「マキちゃん大丈夫!?」

 

 あ、また出ちゃった……癖なんだよ、こういう時の……。

 

「うん……ありがと……凛音、歳那」

 

 マキは、立ち上がり、加勢しようとした。

 

「マキさん、貴女はここで私と一緒にいてください。傷は癒えましたが危険です」

 

 だが、歳那がそれを止めた。

 

「え……でも」

 

 ———今こそ汝の力を解き放て。

 突然、あの時の声が私に告げた。

 分かった、私は使うよ。ここにいるみんなを守るため。

 

「大丈夫。私が行くから」

 

 私は、マキにそう告げた。

 そして、鞘から刀を抜く。

 すると、日本刀の刀身が突如として光で覆われていた。

 ……何故これが。

 

「これって……さっき、凪優がやってたのと同じ……」

「うん。何故出来たかは不明なんだけどね。でもこれだったら大丈夫な気がするの」

 

 そういって私は微笑んだ。

 

「無茶……しないでよ?」

「解ってる」

 

 マキの言葉にそう言った私は、こちらを標的に変えたらしいユイを迎え撃つためにその場を後にした。

 マキを頼むよ、歳那。仮に何かあったら、彼に合わせる顔がないんだから。

 そんな方を考えている私の眼前では、ユイがこちらに狙いを定めていた。

 そして、ユイの攻撃が私に向けて放たれた。

 

「———ッ! このッ!」

 

 私はその攻撃を受け止めると、強引に弾いた。

 その間にユイは、私との間合いを詰めてきた。

 

「———ハァッ! 天然理心流———『流水』ッ!」

 

 普段とは打って変わって冷静な私は、ユイの攻撃を見切り返り討ちにする。

 どことなく動揺した様子のユイは、何かを生成し始める。

 アレは———翼。

 理解すると同時に、私は反射的に地面を蹴った。

 

 それにより行われた跳躍は、普段の比にならない程の高さまで上がれる勢いだった。

 そして、上昇してくるユイの先へと回り込む。

 今なら———行けるッ! 

 

「天然理心流奥義———『乱流』ッ!」

 

 私は光を放つ刀身を、乱れる気流の様に振る。

 感覚のみであるが、一振り一振りを正確に。

 そして、ユイの翼を細切れにする。

 

「ォォォォォォォォォォォォ」

 

 ユイは、再び咆哮を放つと光に包まれその姿を消した。

 

「消え……た?」

「おそらく、瞬間移動で退却したのだろう。すまんな。助かった」

 

 私の疑問に答えるかの様に、その人は言った。

 

「いいえ。お礼はいいです。貴女は一体……?」

「そうだったな。私の名は翡翠。色金に宿る神の眷属の一人だ」

「色金の眷属…………?」

 

 色金って、凪優ちゃんが持ってるアレ? 

 

「詳しいことは省くけれど、簡単に言うと色金の神と同等の存在かな」

「そうなの……。で、貴女は結衣ちゃんとどんな関係なの?」

「パートナーだ」

「じゃあ、貴女は結衣ちゃんがどうなったのかも解ってるのよね?」

「飽く迄も推測だが、結衣が対峙した奴が仕込んだものによるものだろう」

「『仕込んだ』…………?」

 

「ああ。おそらくそれには大方『体内を流れる能力のバランスを破壊させる』力があったのだろう」

「それで…………バランスを破壊された結衣ちゃんは」

「お前の考えているとおりだ。自分でも抑えられなくなって暴走したのだろう」

「じゃあ……貴女が抑えることが出来たんじゃ……」

 

「その時、私が動ければ出来た。だが、何故か()()()()()()結衣とのリンクが切れたんだ。それでリンクが戻った時には、もう呑まれる寸前だったんだ」

「そんな…………!」

「抑えるにももう遅かった。これは計画されてたんだろう」

「そっ……か。ゴメン、いきなり責めたりなんかして」

 

 ……こういう時の私の悪い癖。これも……。

 

「別に。気にしていない。先ずは回復。その後は凪優達に報告ね」

「うん、解った」

 

 私は、翡翠の言葉に頷くとマキと歳那の元へと向かった。

 

「マキさん! ……マキさん!」

 

 2人の元へと向かうと、歳那がマキのことを必死に呼んでいた。

 

「歳……那?」

「よかった、気がついたみたいですね」

 

 良かった……無事みたい。

 

「……ユイは?」

「ユイは逃げたよ」

 

 翡翠がそう言った。

 

「貴女は?」

「私は翡翠。ユイの相棒みたいなものさ」

 

 マキの質問に手短に答える翡翠。

 

「 色金の眷属の?」

「そう。私は瑠璃色金の眷属」

 

 マキは何やら納得したらしい。

 

「ユイは、なにがあったの?」

「恐らくだが、外部からの力により暴走させられたのだと思う」

 

 正直、信じ難いよね。私も信じられないもん……。

 

「……とまあ、今こんな話をしても仕方がない。少し休もう」

「そうですね……」

 

 翡翠の言葉にマキは頷いた。

 

「大丈夫ですか?」

「うん、もう平気だよ」

 

 そう言ったマキは、歳那に見守られながら立ち上がった。

 

「どこに行くの?」

 

 私はマキを呼び止めた。

 

「連絡しなきゃでしょ? ちょっとシュウ君に連絡してくる」

「わかったわ。よろしくね」

「うん」

 

 そう言ったマキを見送った私。

 

「———凛音」

 

 不意に歳那に声をかけられた。

 

「……何?」

「さっきの———天然理心流の奥義。できたね」

「そうだね」

「漸く物にできたみたいだった。さっきの凛音」

 

 私は、歳那と共に天然理心流の継承者。

 だけど、私は奥義までは会得していない。否、会得できなかった。

 そんな私が初めて成功した奥義———

 

「うん。なんとかできたみたい」

「やったね」

 

 普段はあまり出さない様な感情を、表に出した言ってくれたその一言。

 

「ありがとう」

 

 私は感謝の言葉を述べると、自身の刀を強く握り締めるのだった———




はい。次回は本編の最新話が先か。はたまたコラボが先か。まだまだわからないところですが、応援してくださると幸いです。
ひめさん、もうしばらくかかりそうです。すいません。
では、今回はこれで。
次回もお楽しみに!

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