緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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どうもお久しぶりです。
希望光です。
えー、最新話が完成致しました。
そして、大変長らくお待たせいたしました。
では早速、本編をどうぞ!


第21弾 刃と刀(エッジ・トゥ・ブレイド)

 いま、妖刀の奴……なんて言ったんだ? 

 周一のことを兄さんって……言ったのか? 

 

「久し振りだね兄さん。元気にしてた?」

 

 その言葉に対し周一は、そっと刀を構えると同時に妖刀へと鋭い視線を向ける。

 周一の奴……なんて気迫だ……強襲科(アサルト)でも見たことないレベルだぞ……ッ! 

 

「うるせ。こっちとて、お前とこんな話ししにきたわけじゃないんだよ」

「じゃあ、どうするんだい?」

「——『妖刀(クラウ・ソラス)』、お前を未成年者拐取未遂罪、並びに銃刀法違反で逮捕する」

 

 その時の周一の顔は、普段からは想像もできない顔……鑑識科(レピア)では、絶対に見せない……顔だ。

 

「周一……」

「悪い、コイツは俺に任せてくれないか」

 

 こちらを向くことなく、周一は告げてくる。

 だが、その背中には

 

「じゃあ、始めようか」

 

 周二は、凛音をそっとその場に横たわらせると、棚の上から降りてきた。

 

「本当に久し振りだね。こうして向かい合うのは」

 

 嘲る様な口調で周一へと投げかけつつ、周二は腰に差していた刀を鞘から抜く。

 

「どちらが相応しいか決めようぜ。()()()()()として」

 

 その言葉を合図に2人が駆け出し刀剣を振りかざし、刀剣が衝突すると同時に甲高い音共に激しく火花を散らす。

 上段から振り下ろされた刃を下段からの斬撃で捌き、そこで生じた隙に突きを繰り出すが、素早くその突きを捌き新たに斬撃を繰り出す。

 

「互角……なのか?」

「シュウ君」

 

 その一連の流れを素早く行い互いに譲らぬ攻防を繰り広げる2人の姿に魅了されている俺の元に、ワイヤーから抜け出してきたマキと歳那が声をかけてくる。

 

「大丈夫ですか」

「ああ。とりあえずは」

 

 痛む脛をさすりながら歳那の言葉に頷く俺だが、正直無理をしている。防弾制服とは言えバットで殴られた様な衝撃はダメージとして入ってくるからな。

 

「しかし……何があったんだ、周一は」

「それは……その前にこのことをお話しします」

 

 未だに激しい攻防を続けている周一達の方を見ながら首を傾げていると、歳那が言葉を紡ぐ。

 

「まず……『妖刀』こと周二は、周一の弟です」

「——歳那は面識があるのか」

「はい。凛音も同様です」

「周一の奴が3人は幼馴染だって言ってたもんな」

「はい……」

 

 頷いた後俯く歳那。……無理もないだろう。昔から面識がある奴が実の兄と刃を交えている状態を見ている状況なのだから。

 

「それで……周二と周一の関係は分かったが、周一の奴は何があったんだ?」

「はい。アレは半年ほど前。周一は一度だけ強襲科(アサルト)に在籍していました」

「アイツがか?」

「はい。周一は元々は前線向きの武偵なんです。故に、彼は強襲科でもSランクを記録しました。それも———R寄りのSを」

 

 半年前、俺は丁度ロンドン武偵局に呼び出され、ロンドン近辺で任務(クエスト)をこなしていたのだが、その頃に風の噂で凄い武偵が短期間だけ在籍していたと言う話は耳にしたことがある。

 

「聞いたことがあるよ。3日だけ在籍してた凄い人がいたって話」

 

 マキも俺と同様だったらしく、そう告げてくる。

 ここまで噂になるなんて、凄いレベルなんだなアイツ……でも、3日でやめたのか……? 

 

「そうです。周一は3日で強襲科を辞めました」

「なんでまた?」

「……周二を守れなかったから、と言っていました」

「そこに関しての詳細はわかるか?」

 

 俺のやや無理強いの入った問いかけに『少しだけ……』と言って歳那は答えてくれた。

 

「5人程に襲われ、周二が連れ去られたとだけ言っていました」

「そのことを引き摺って、前線に立つことを辞めた……ってわけか」

 

 俺はそこまで言って、交戦中の2人に視線を向けると、其処には肩で息をする周一と反対に息を乱す事なく相対する周二の姿があった。

 

「周一の奴……ブランクがデカいんだな……」

 

 このままでは、周一が負けることが目に見えた俺は、即座に策を講じ始める。

 急げ……でないとまたあの時の二の舞になる。

 そう言い聞かせる俺の脳裏を過るのは、先日の水蜜桃との戦い。マキと凛音が負傷したあの戦いだ。

 

「歳那、凛音の事頼めるか?」

 

 自身の中にあった思考を振り払い、俺は歳那へと問いかける。

 正直またあのような事が起こってしまうのではないのか、と不安ではあるが今はそんなことを言っている場合ではないからな。

 

「了解しました」

「私とシュウ君は?」

「周一の援護に行くぞ。いいか?」

 

 マキが首を縦に振るのを確認するし、俺は立ち上がる。

 

「さて……開始と行くか」

 

 俺の言葉で、歳那は棚の上へと跳び上がる。

 歳那の背中を見送った俺は次の算段を立て始める。

 

「どうやってアシストするかな……」

 

 俺はそう呟いて、即座に思考を回す。

 挟撃……がこの場合は1番友好的だがあいつの正面からそれをやっても通用するわけがない。ならそれを行うしかないか……。

 とある考えに至った俺はマキへと問いかける。

 

「マキ、諜報(レザド)の要領で極限まで気配を消せるか?」

「できるけど……?」

「ならそれで、俺の真反対に向かってくれないか」

「わかったけど……どうするの?」

 

 首を傾げながらのマキに尋ねられた俺は、作戦の算段を説明し始める。

 

「俺が陽動しつつ周一のアシストに回る。だから、俺が合図を出したら、奇襲をかけてくれ無いか?」

「そういうことね。了解」

 

 そう言い残したマキは、自身の気配を完璧に消した。

 それにより、俺の視界で彼女を捉えることはできなくなった。

 ……飽く迄も()()()()、だけどな。

 

 俺は2挺目のベレッタを抜き、双銃(ダブラ)の構えを取ると、戦場へと走りこむ。

 

「周一!」

 

 俺は駆け込むと同時に、急旋回しつつベレッタを周二に向けて放つ。

 対する周二は、何事も無かったかのように、それを避ける。

 

「来るな! これは俺自身の戦いだ!」

「うるせ! そんなブランクだらけの体で戦えるわけないだろ!」

 

 俺は周一の言葉を一蹴しつつ、ベレッタを絶え間なく放ち続ける。

 

「そんなバカスカ撃ってると、弾が無くなっちゃうよ?」

 

 避け続ける周二が、俺にそんな言葉を投げてくる。

 確かに当たらないんじゃ意味が無いよな。

 でも、無駄に撃ってる訳じゃ無い。

 

「周一! 立てるか?」

「当たり前だろ……!」

 

 俺の言葉に応えるかの如く、膝を突いていた周一が立ち上がる。

 それを見た俺は、空になった左右の弾倉(マガジン)を即座に抜き再装填(リロード)する。

 同時に、地面に落ちた空の弾倉2つを、周二目掛けて蹴り飛ばす。

 

「……どうせ中身は閃光弾なんだろ? 知ってるんだから」

 

 そう言った周二は、目を閉じて刀を振り、俺の飛ばした弾倉2つを切り裂いた。

 ……ここまでは予想通りだぜ! 

 

「生憎だったな。俺もそこまで単調(シンプル)じゃ無いんでな」

 

 そう言い切ると同時に、切り裂かれた弾倉から、煙幕が展開される。

 今回俺が蹴り飛ばしたのは、煙幕弾倉(スモッグ・マガジン)

 何を隠そう、お手製の武装第2弾だ。

 

「……チッ。煙幕か」

 

 煙に覆われ、姿が見えなくなった周二のボヤキが俺の耳に届く。

 俺はそこへ駄目押しするかのように、再装填したベレッタから音響弾(カノン)を撃ち込む。

 放たれた音響弾は、キィィィイン! という甲高い音を倉庫内に響き渡らせた。

 恐らく相手を撹乱できているであろうこの隙に、俺は周一の元へと駆け寄る。

 

「……大丈夫か?」

「なんとかな……」

「俺たちも援護するから、あいつを……お前の弟を逮捕しよう」

 

 今の周一にとっては複雑、且つ選択の厳しい言葉だったであろう。

 しかし、今の俺は否応にもこの言葉をかけるしかなかった。

 

「……ああ。そうだな。アイツにはきちんと罪を償わさなきゃ……だな」

 

 そう言った周一の瞳には、“覚悟”が写り込んでいた。

 真っ直ぐな、迷いのない覚悟が。

 

「……辛いかもしれないが。良いんだよな?」

「当たり前だろ。それが、一族として……いや、1人の兄としてやるべきことなんだから」

 

 顔を上げた周一は、再び刀を構える。

 対する俺も、右手のベレッタをホルスターに仕舞うと、腰のホルスターからDE(デザート・イーグル)を抜き出す。

 

「援護、頼むぞ」

「了解した」

「じゃあ——行くぞ」

 

 周一の言葉に合わせ、俺と周一は走り出し、未だに晴れない煙幕の中へ足音を殺したまま突入する。その直後、俺の“カン”が危険を知らせる。

 

「……ッ?!」

 

 霞んだ世界の中、突如俺の眼前には物凄い速度で迫り来る刀剣の切っ尖が姿を表す。

 

「しまった……!」

 

 死の危機に瀕した俺の耳には、周一の言葉さえも届かなかった。

 これは、いくら何でも避けきれない……流石にこれは……死んだ———

 

「ッ!」

 

 そう思うよりも早く、俺の全身の血流は()()()に支配されると同時に俺の眼前では火花が飛び散り、その後に自身の右後方で何かが跳ね落ちる音が鼓膜を突く。

 

「……何だと」

「今のを……()()()()……?」

 

 徐々に感覚を取り戻した視界には、驚愕の表情を浮かべる周二と周一の姿が映った。

 ……そうか。俺は今、とっさの判断でDEと刀をぶつけた……否、DEで刀剣を殴って太刀筋をずらしたんだ。

 流石の自分でもコレばっかりは信じられないわ。あの一瞬で、高速で迫る刀を逸らすなんて、さ。

 

 暫し固まっていた俺だったが、顔色1つ変えることなく、左手のベレッタを周二に向け、その引き金(トリガー)を引く。

 しかし、その9mm弾(パラベラム)は、ギリギリのところで、周二が射線から飛び退いたが故に彼を捉えることはなかった。

 

「……お前もそれを避けるのか」

「……チッ!」

 

 俺の言葉を聞いた周二は、即座に間合いを開くが、そこへ空かさず周一が斬りかかる。

 

「……逃がさない」

「兄さんか……!」

 

 今度は周一の刀を同じく刀で抑える周二。

 俺はその傍らで懐からフォールディングナイフを抜くと、気配を殺して周二の後方から斬りかかる。

 対する周二は、その俺の右手を左手一本で掴んで、俺の斬撃を抑え込む。

 

「……危ねえな」

「前に集中しなくて良いのか?」

「……は?」

 

 俺に言われた周二は、再び自身の正面へと向き直る。

 そこには、居るべき筈である周一が居なかった。

 周二は、掴んでいる俺を、一本背負の要領で投げ飛ばすと、自身のいた地点を離れる。

 直後、その地点へ上から剣を構えた周一が現れる。

 

「……やっぱりかよ」

「流石にわかるようになってたか……」

 

 などと言葉を交わしながらも、再び斬り合いが始まった。

 対して、投げ飛ばされた俺はというと、受け身を織り交ぜながら、棚の陰へと滑り込む。

 

 ……さて。さっきサイレントアンサー中にやって、感覚はわかってるから、後はこっちの俺がやってくれるかな。

 俺は、ナイフを仕舞い両手にベレッタを装備する。

 そして、未だに刃を交え合っている2人の元へと駆けて行く。

 

「周一!」

 

 俺の呼びかけにより、秀一は瞬時に周二との間合いを開いた。

 それを確認した俺は、フルオートに切り替えた両手のベレッタを発砲する構えになる。

 但し、それは無闇にでは無くしっかりと()()したコースを撃つ様に。

 

「———『空間撃ち(パラレル)』」

 

 技名を呟いた俺は、迷いなく引き金を引く。

 俺の放った弾丸は、床や天井で跳ね返り跳弾と化す。

 そんな跳弾に、後続の弾丸がぶつかり連鎖的に弾幕が形成されてゆく。

 

 この技『空間撃ち』は、俺が中学時代に考案した技で、その中身としては屋内でのみ使用可能な跳弾式戦術技。

 しかし、この技は誤って相手を殺めてしまう可能性があるハイリスクな技でもあった為、考案だけで実戦運用したことは一度もない。

 

 つまるところ、今回が初めて実行したということだ。

 今回使用に踏み切った理由としては、相手が避けるのが上手いと言うのが主な理由であったりする。

 

「……()る気のない弾など!」

 

 そう叫んだ周二は、弾丸の斜線を刀で変更して行く。

 しかし、それも予想の範囲内。

 俺はさらにその先を読んで銃撃しているが故、逸れた弾丸が別の弾丸と衝突する。

 

 これを連鎖的に、且つ無数に行っていき、相手を包囲することを目的とした、弾幕を形成していく。

 それに気付いたらしい周二は、僅かにだが慄いている様子だった。

 

「さて、道は閉鎖させて貰ったぜ?」

「……先読みまでしてたのか」

「……周一!」

「分かってる!」

 

 その言葉で、俺と周一は走り始める。

 そして、弾幕の中へと突っ込む。

 俺は左右のベレッタで、自身と周一の進む道を作りながら、周一と共に荒れ狂う弾丸の合間を駆け抜け、周二の元へと突っ走る。

 

 そして、弾幕の限界ラインを越えた瞬間に、俺はベレッタを仕舞い背面から『霧雨』と『雷鳴』を抜き、周一と共に周二へと斬り掛かった。

 対する周二は、周一の方へと突っ込んで行き迎え撃った。

 俺はその隙を逃さず、左右に構えた刀剣で、周二の左側面から斬り込んだ。

 

「……これで!」

「……甘い」

 

 そう呟いた周二は、左手の親指、人差し指、中指の3本で、俺の霧雨を掴んだ。

 あまりの事に、硬直が生まれた俺だったが、即座に左手の雷鳴を振るう。

 対する周二は、それを読んでいたらしく、片手で扱っていた刀で、周一を弾き飛ばすと、雷鳴と自身の刃を斬り結ばせた。

 

「……マジか」

「現実、さ」

 

 そう言った周二は、左手で掴んでいた霧雨を振り払うと、そのまま正拳突きを俺の腹部へとかました。

 

「……グフッ?!」

「これはおまけだ」

 

 そう言って、固まる俺に回し蹴りを追加してきた。

 対する俺は、その勢いのまま、無様に地面を転がっていった。

 

「……さて、兄さんもう立てないでしょ?」

「……ッ!」

 

 周二は、倒れ込む周一の元へと歩み寄る。

 俺はあちこち痛む体を強引に起こすと、手放してしまった霧雨を掴み、周二の元へと走る。

 

「……させるかよ」

「アンタもしぶといよ」

 

 その言葉の刹那、俺は()()()()

 全くと言って良い程刃を……否、周二の動作をも認識すること無く。

 

「……ッ?!」

 

 バランスを崩したが、俺はなんとか踏み止まり体制を維持したが、そこへまたしても、見えざる一撃が叩き込まれる。

 

「……これだけ受けて、よく立ってられるな」

「……武偵は、こんぐらいじゃ、倒れらんねぇだろ……!」

「なら———後どれくらいまで耐えられるかな」

 

 そう言った周二は、認知出来ない斬撃の速度と回数を増やして、俺に叩き込んで来る。

 俺は流される様にされながら、その斬撃を浴びる。

 

「……シュウヤ!」

「……クッ!」

「兄さん、良く見ておきなよ。無力が故に仲間が倒れるところを」

 

 俺はそのまま攻撃に流され続ける。

 防弾防刃性の制服も徐々にだが、切れ目が入って行く。

 ……そろそろ不味いな。

 

「さて、もう終わりにしてあげるよ。一瞬でね」

 

 周二は居合の構えをとり、とどめの一撃を放った。

 今まで放ったどんな斬撃よりも速く、そして強い一振りを。

 

「シュウヤァ!」

 

 周一の叫びが木霊した瞬間、俺は握り続けていた刀を両方とも離すと、周二の一振りを掴む。

 

「……真剣……白刃取り?!」

「捕まえたぜ……」

 

 相手の動きを抑え込んだところで、俺は叫んだ。

 勿論、アイツを! 

 

「マキッ!」

 

 俺の叫びに応えて、周二の真後ろにマキが現れる。

 現れたマキは、左右に握った『氷華』と『炎雨』で、音もなく斬り掛かる。

 

「……また増えた?!」

 

 驚愕しながらも、周二は靴裏でマキの攻撃を受け止める。

 そして、握っていた刀を離すと、マキの刃を蹴り上げた後にその場を離れる。

 間合いを開ききった瞬間、周二は背面から新たに剣を取り出した。

 それは紛れもない、西洋刀剣であった。

 剣を構え直した周二は、マキへと襲い掛かる。

 

 ……不味い! 今のマキは近接用の武装を何も持っていない! 

 俺はその場に落とした自身の雷鳴を掴むと、それをマキの方へと投擲する。

 それに気付いたマキは、受け取ろうとするのだったが、周二が雷鳴を弾き飛ばした。

 

「……しまった!」

 

 俺の言葉などお構い無しで、周二はマキへの攻撃を続行した。

 そして、振りかざされた一撃をマキは紙一重で避けた。

 直後、回避後硬直とも言える状況のマキに、周二は回し蹴りをかました。

 

 俺はそれを見た瞬間、霧雨を拾い上げ反射的にマキが飛ぶ方向へと走り出した。

 そして、吹っ飛ばされたマキを空中で受け止めることには成功したが、マキと共に資材棚へと突っ込んだ。

 

 同時に、凄まじい音を立てて、棚が崩れた。

 俺はマキに覆い被さるようにして、降り掛かる資材から守る。

 ボルトや釘、果ては鉄パイプまでもが俺の背中に降り注いだ。

 

「……ッ!」

「……シュウ……君?」

 

 自身を見上げるマキは、不安な表情で俺を見つめた後、現場を把握した瞬間、その瞳を見開いた。

 俺はそんなマキに微笑みかけると、再び歯を食いしばって落下が止まるのを待ち続ける。

 

 そして、物品の落下が止まった。

 しかし、俺の体は既にこの状態を維持するので精一杯であった。

 瞬間、張っていた腕の力が抜け、マキの上に倒れ込んでしまった。

 

「……シュウ君!」

 

 呼びかけるマキに応じる事もできない程、俺の体にはダメージが溜まっているらしい。

 下手したら意識が飛ぶかもしれないとさえ思った。

 

「あの落下物の中、よく仲間を守り切れたな」

 

 意識が遠のき始めた俺の耳に、嘲笑うような周二の声が届いた。

 俺は、震えるのみで動く気配のない体に力を込めた。

 が、動かすことは叶わない。

 

「3人がかりでこのザマ。見苦しいねぇ。Sランクさんよ」

 

 そう言いながら、周二はこちらへと近付いて来る。

 とどめを刺す気満々だ……。せめて……せめてマキだけでも逃さなければ……! 

 そう考えはするが、俺の体が邪魔をしてマキを脱出させることができない。

 

「———チェックだ」

 

 いつの間にか、俺達の傍に立っていた周二は、西洋刀剣を振りかざした。

 そこへ、1発の銃弾が介入する。

 それにより周二は、俺達から離れた。

 

「……まだいるのか?」

 

 周囲を見渡す周二は、そう呟いた。

 すると、どこからとも無く声が聞こえてきた。

 

「天然———理心流」

 

 直後、周二の()()から突っ込んでくる影が現れた。

 それは、歳那だった。

 

「———『月影(げつえい)』ッ!」

「……どっから」

 

 歳那の放つ一撃をバックステップで避けた周二は、何かを呟きながら体勢を立て直す。

 そこは歳那が、間髪入れずに突きを繰り出す。

 その突きを、周二は刀剣で受け止める。

 

「……やっぱ容赦無いね。歳姉は」

 

 そう言った周二は、苦笑した。

 

「……笑止」

 

 対する歳那は、表情を一切変える事なくそう告げた。

 そんな会話の直後、歳那の背後から新たな人影が現れる。

 

「天然理心流———『日昇(にっしょう)』ッ!」

「な……!」

 

 突如として現れた影……否、凛音は下段から高速での斬り上げを行い、周二の刀剣を弾きあげた。

 対する周二は、あまりの出来事に硬直するのであった。

 

「……天然理心流の使い手は、歳那だけじゃ無い!」

「クッ……マジかよ。もう動けるように……!」

「歳那!」

「うん」

 

 軽く言葉を交わした2人は、左右に散開して周二を挟み込むような位置に移る。

 対する周二は、弾かれた刀剣と先程手放した日本刀を走りながら回収する。

 

「天然———」

「———理心流」

 

 次の言葉は、2人の心がどれ程まで重なっているかを表すかのようだった。

 

「「———合技『月日(げっか)』ッ!」」

 

 漸く動くようになった体を起こした俺の視界に入ったのは、凛音と歳那による完璧な連携攻撃。

 周二の正面では、自身を軸回転させながら絶え間なく攻撃を繰り出し続ける歳那。

 対して周二の背面側では、歳那に対して行われようとする攻撃を、凛音が素早い斬撃で捌いていく。

 

「……凄い」

「あれが……天然理心流……」

 

 2人の連携に、俺とマキは息を呑んだ。

 それも束の間。

 俺はフラフラと立ち上がる。

 

「……シュウ君」

 

 よろけて倒れそうになったところを、マキが支えてくれた。

 

「悪い……」

「良いんだよ……さっき、私のこと守ってくれたのに比べれば……」

 

 そう言ったマキは少し俯きつつも、俺に肩を貸してくれた。

 そして、俺はマキと共に周一の元に歩み寄る。

 

「周一」

「……無事……だったか」

「なんとか……ね」

 

 周一は、もう殆ど動かないであろう体を起こしながら、そう言った。

 

「……まだ、戦えるか?」

「ああ。そういうお前はどうなんだ?」

「俺は多分、次全力出したら倒れるかな……」

「そうか……」

 

 そう言った周一は、俯いた。

 対する俺は、でもと言って続ける。

 

「周一に何か策があるって言うなら、それが実行できるまで……持たせるよ」

 

 それを聞いた周一は、驚いた様な顔をしていた。

 それをみた俺は、軽く笑った。

 

「何がおかしいんだよ……」

「いや、周一の驚く顔、初めて見たなと思って」

 

 俺は自分の足で立つと、ベレッタを抜き出した。

 そして、再装填をする。

 

「で、策はあるの?」

「……無いことはないが」

 

 そういった周一は、未だに交戦を続ける2人の方へと視線をやる。

 

「あいつらの力が必要なのな」

「ああ……」

「わかった」

 

 そう言った俺は、現状の自身の武装を再確認する。

 あるのは、DEが3挺にベレッタが2挺。

 それに加えて霧雨と、フォールディングナイフ……だけか。

 いや、それだけあれば十分。寧ろ多いぐらいだ。

 

「俺があいつの相手をしてる間に打ち合わせしてくれ」

「でも、お前そんな体じゃ……」

「さっきも言ったろ。策が実行できるまで持たせるって」

 

 そう言った俺は、マキの方へと向き直る。

 それで俺の言いたいことを察したらしいマキは、首を縦に振るのだった。

 

「分かってる。私も一緒に戦うよ」

「頼む」

 

 そう言って、俺はマキと共に周一に背を向けた。

 

「じゃあ、頼りにしてるぜ()()

 

 俺はそう言い残して、マキと共に走り出す。

 全身が軋むように痛む。

 俺は軽く歯を食いしばりながらも走る。

 

「凛音! 歳那!」

「……シュウヤ!?」

 

 驚愕する凛音を他所に、俺はベレッタを周二に放つ。

 周二は何事も無かったかのように、その銃弾叩き落とす。

 

「2人とも、周一君の所へ!」

「わ、分かった!」

「了解」

 

 マキの呼びかけに応じた2人は、そのまま後方の周一の元へと向かっていく。

 

「行かせない……!」

「お前の相手は———こっちだ!」

 

 フォールディングナイフを展開した俺は、右手にベレッタ、左手にフォールディングナイフという一剣一銃(ガン・エッジ)の構えをとる。

 そのまま迫り来る周二と交錯する。

 

「そこ!」

「……チッ!」

 

 火花を散らしながら、俺と周二の刃がぶつかり合う。

 一見、互角に見えるだろう。

 しかしながらこの戦い、俺の方が圧倒的に不利である。

 近距離に特化した双剣(ダブラ)と、応用の効かせやすい一剣一銃では、この場合圧倒的に双剣の方が有利である。

 

「……これで!」

 

 俺は刃を受け流すと、空かさず右手のバレッタを放つ。

 対する周二は反射のみで、その射線から外れていく。

 そんな周二の背後を、霧雨を手にしたマキがとった。

 

「———『春雨』」

 

 そう言ったマキは、流れる様に且つ数少ない動作で斬り掛かる。

 周二は、その太刀筋を読み左手の刀で抑える。

 1度刀を自身の方に戻したマキは、間髪入れずに刀を構え直し、再び切り込む。

 

「……貰った」

「まだまだ」

 

 マキが2段目に繰り出した突きを、周二は避ける。

 俺はその隙を逃さずにナイフで斬りつける。

 それにより、左肩の付け根辺りに攻撃が入る。

 

「……ッ! しまった」

 

 そう冷静に呟いた周二は、俺とマキの板挟みから抜け出した。

 そこに追撃としてベレッタを放つ。

 

「……チッ!」

 

 舌打ちをした周二は、勢いよく地面を蹴ると、凄まじい速度で突っ込んできた。

 そして、通りすがり様に斬り掛かってくる。

 俺はそれを、神回避(エスケープ)で退ける。

 

 俺の横を通り過ぎた周二は、地面を再び蹴ると、急旋回してマキへと襲い掛かる。

 俺は再三ベレッタを向け、弾を放つ。

 しかし、その弾は周二に当たる事はない。

 

「予想以上に速い……!」

 

 俺はナイフを構え直すと、周二の後を追う。

 対して周二が標的としているマキは、霧雨を構え直し、迎撃する態勢に移っていた。

 そして、2人が交錯した。

 

 少しの間の後に、マキが持っていた霧雨を落とし、倒れた。

 

「……マキッ!?」

 

 俺はベレッタで周二を牽制しながら、マキの側へと駆け寄るが、その弾幕を抜けて周二が此方へと向かって来る。

 俺は引き金を絶え間なく引き続けていたが、再装填無しで行なっていた為に、弾切れを起こした。

 

「……ッ!」

「———隙あり」

 

 弾切れの隙を見逃さなかった周二が、即座に下段からの攻撃を仕掛けてくる。

 俺は咄嗟の判断で、左手のナイフを出し応戦した。

 しかし、迎撃準備が不十分であったが故か、俺の左手からナイフが弾き飛ばされる。

 そして、驚く暇も与えない速度で、2段目の攻撃が始まっていた。

 

 瞬間、俺は回避不能な攻撃である事を悟った。

 先程同様、銃を盾にして逸す事はできるだろう。

 しかし、先程とは状況が違いすぎるが為に、成功率は著しく低下している。

 

 視界がスローモーションに変化する中、俺は考える事をやめなかった。

 何か、この場を打開できる策は無いものかと。

 そして、俺の脳裏にこの戦闘で得たある行動が浮かぶ。

 それしか無いと確信した俺は、体の制御をバーストモードの意識に預けるのだった。

 

 直後、俺が捕らえるのは右手で振りかざされた2段目の斬撃。

 行動する事など不可能な状況下で、バーストモードの俺ははとある動きを行う。

 それは、空いている左手を太刀筋に置くと言う行為であった。

 そして、刃と触れ合う瞬間、バーストモードの俺は刀と同じ速度で下ろしながら、左手の5本の指先で真剣白刃取りを行った。

 この行動を敢えて名付けるなら———『五本指真剣白刃取り(エッジキャッチング・フィフス)』ッ! 

 

「……何ッ?!」

 

 スローモーションが解除され、視界の認識が通常に戻ると同時に、周二がそんな声をあげるのであった。

 俺は右手のベレッタを破棄すると、DEを即抜き(クイック・ドロー)した。

 

「……観念しろ。『妖刀』———いや、千葉周二!」

 

 その言葉とともに、俺はDEの銃口を向ける。

 対する周二は、我に帰ると同時に左手の刀を下段から斬り上げてきた。

 だが、その一撃が俺に届く事はないだろう。

 何故ならば———

 

「……させないよ!」

 

 マキが受け止めるから、な。

 受け止められた周二は、再び驚愕するのであった。

 

「千日手……だろ?」

「どうかな?」

 

 そう言った周二は、右手の西洋刀剣を離し、左手の日本刀を両手持ちに構え直す。

 

「……沈め!」

「だから、お前はもう千日手なんだってば」

 

 直後、周二の左右に凛音と歳那が現れ、寸分の違いも無く刀の同じ位置を両サイドから斬り付ける。

 そして、離れると同時に俺の背後から飛び上がった周一が、刀を持ったまま前宙して、その勢いを利用し周二に斬り掛かる。

 

「「「———攻防一撃(デュエル・バウト)』ッ」」」

 

 3人の重なった声が倉庫内に響き渡った後、周二はゆっくりとその場に倒れた込んだ。

 

「……終わった……のか」

「……みたいだ」

 

 俺は内心ホッとしながら、DEをホルスターへと戻した。

 そんな俺の元に、マキが駆け寄ってくる。

 

「これ、ありがとう」

「ああ。それより、さっきの大丈夫だったのか?」

「うん。紙一重で避けたから」

「じゃあ、アレ演技だったのな」

「そう言う事」

 

 それを聞いた俺は、苦笑した。

 マキは、そんな俺を不思議そうに見つめるのだった。

 

「いや、あの場面でも演技できるあたり、流石だなと思っただけさ」

 

 そう言った俺は、周一の側へと向かう。

 

「周一……」

「……大丈夫……か?」

「俺は、取り敢えず平気」

「それより今の、どうやって一撃で仕留めたんだ?」

「人体には経絡って箇所があるんだが、そこのある一定のラインを峰打ちした」

「それが、お前の家に伝わる技か?」

「そうだ」

「すげぇな……」

 

 俺が感嘆していると、周一が突然頭を下げて来た。

 

「すまない……俺が不甲斐ないがあまりに……。そもそも俺があの時……コイツを……」

 

 そう言う周一の方を掴んだ俺は、その頭を上げさせた。

 

「お前が謝る事じゃ無い。それに、何時迄も過去に囚われてたって、過去には戻れないし、変えることなんて不可能なんだ。だからさ、これから先のことについて考えよう。もう、過去の事を引きずったり、謝罪したりしなくて良い」

「……ありがとう」

 

 そう呟く周一は、瞳に涙を浮かべていた。

 俺はそんな周一の肩を再び叩くと、凛音と歳那の元へと向かう。

 

「凛音、歳那」

 

 俺が呼ぶと、歳那は即座にこちらを向いたが、凛音は何かを躊躇う様子だった。

 

「どうかしたのか?」

「その……色々迷惑掛けて……ごめん」

 

 そういった凛音は、俯いた。

 

「……そうだな。お前1人で勝手にいなくなっちまったもんな」

 

 俺の言葉に凛音は震え始めた。

 俺はそれを承知の上で続ける。

 

「もっと、俺等の事頼ってくれよ。迷惑だなんて思わない。それが仕事だし、何より大切な仲間が困ってるのを見過ごすなんて出来ないんだから。それは歳那も同じだよね?」

 

 俺の言葉に歳那は、コクリと頷いた。

 

「凛音、もっと私を頼って欲しかった。私は貴方の幼馴染みでもあり、同志でもあり、何より———大切な相方なんだから」

 

 それを聞いた凛音は、堰き止めていた感情が溢れ出してしまったようで、歳那に抱きつき泣き始めた。

 

「ごめんね……ごめんね……」

「良いんだよ。こうして、凛音が無事でいてくれたのだから。ただ、次からはしっかりと相談するって約束してね? 私も困ったら凛音に正直に話すから」

「うん……絶対……約束する……」

 

 俺はそんな2人のもとを離れ、散らばった武装の回収を始めた。

 さてと、先ず俺の雷鳴は何処に……。

 そう思って進もうとした瞬間に、俺の視界は大きく揺れた。

 

「……ッ?! シュウ君?!」

 

 遠ざかるマキの声を最後に、俺は意識を手放した———




はい、今回はここまで。
シ「……どこ行ってた?」
バンドリの界隈に……。
シ「緋アリは?」
熱が若干覚めてしまいまして……。
シ「マジかよ……。取り敢えず置いておいて次回予告」
えー、次回のお話は!
シ「一件落着となった『妖刀』事件」
そしてなんとか終わりを迎えるアドシアード。
シ「アドシアードが終わった直後、俺の目の前には、再びあいつが現れる……!」
次回『緋弾のアリア〜Side Shuya〜』
第22弾『少女との再会(ミッシング・リンク)
シ「次回もどうぞ———」
お楽しみに!

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