緋弾のアリア 〜Side Shuya〜   作:希望光

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お待たせしました。今年度最後の投稿です。ではどうぞ。


第10弾 真実

 着替えた俺は、車輌科(ロジ)棟から出ようとする。そこにメールが入った。

 武偵病院からだ。

 どうやら、今回のバスジャックで出た負傷者を手当てするための人員が足りず、手伝って欲しいという内容だ。

 メールを読み終えた俺は、携帯をしまい武偵病院へ向かった———

 

 

 

 

 

 武偵病院に到着すると、受付の近くにキンジが座っていた。

 

「どうしたんだ、こんなところに座って。アリアの見舞いか?」

 

 隣に座りながら尋ねる。

 

「……ああ。だけど、面会謝絶だ」

「そっか……」

「そういうお前は何しにきたんだ?」

「俺は、武偵病院(ここ)の手伝い。応援要請が入ってきたもんでね」

「流石、万能武偵様。なんでもできますね」

「俺は万能じゃないよ」

 

 俺は、キンジの言葉を否定した。

 

「1年であんな成績とった奴が言う言葉か?」

「どうだか。それに、俺は平均程度の能力しか持ってないよ」

「あ、樋熊先輩」

 

 そんな会話をしていると笠原が来た。

 

「笠原か。悪いキンジ、俺行くわ」

「ああ」

 

 そう言ってキンジの元を後にした。

 

「樋熊先輩、どうしてここにいたんですか?」

「ああ、応援要請が来てな」

「そうだったんですか」

「で、今どんな状況?」

「患者に対して人数が足りてない状況です」

「やっぱり今日の事件の負傷者だよな……」

「はい……」

「急がないとだな……」

 

 俺は笠原と共に救護に向かった———

 

 

 

 

 

 数時間後、ある程度の患者の手当が終わったのでアリアの病室に向かった。

 アリアの病室は豪華な部屋だった。

 そういえばアリアは貴族だったなと今更ながら思う。

 病室の扉をノックする。だが、返事がない。

 

「入るぞ」

 

 そう言って扉を開けると、部屋の中は空っぽだった。

 仕方がないので、アリアの病室を後にして別の患者の病室に向かうことにした。

 

 その患者は急患で入院になったのだが、少し気になることがあるのでその患者の病室に向かってみる。

 気になる事というのは数日前まではなんともなかったのにいきなり失明してしまったということだ。

 その患者の病室へ向かうと中から声が聞こえてきた。

 

「———敵に接触(コンタクト)されたのね?」

 

 アリアの声だ。どうやら此処に来ていたようだ。

 アリアの言葉を聞いた俺は、扉に伸ばした手を戻した。

 そして、扉の横の壁にもたれかかった。

 

「あたし、カンは鋭い方なの。あんたが隠しているのは、その敵———()()()の事だけじゃない」

 

 その名前を聞いた俺は驚愕する。

 

(夾竹桃だと……! まさか、あいつのことか!?)

 

 そんなことを考えている俺の耳に、アリアの声が届く。

 

「———自分自身のことも、隠してる」

 

 中の会話は着々と進んでいた。

 その会話に耳を傾けている俺の元に———笠原がやってきた。

 

「あ、樋熊先ぱ———フゴッ?!」

 

 素早く笠原の元に駆け寄った俺は口元を押さえた。

 そして、耳元で囁く。

 

「静かに。後で行くから、下で待っていて」

 

 何故か顔を真っ赤にした笠原はコクコクと頷くと戻っていった。

 笠原を見送って、再び室内の話に耳を傾ける。

 そして間宮の声と思しき声が聞こえてきた。

 

「私の家は昔、公儀隠密———今で言う政府の情報員みたいな仕事をしてました」

 

 ———思い出した。

 間宮一族の先祖の間宮林蔵とうちの先祖は繋がりがあったと聞いていた。

 が、まさかあいつがその子孫だったとは。

 人と人の繋がりは意外と身近にあるのかもな。

 

 そんなことを考えていた今の俺は知る由もなかった。

 この会話を全て聴いてしまうことがこれから起こる事に巻き込まれていく要因のうちの一つになるということを———

 

 

 

 

 

 病室の前を後にした俺は、下の階にいる笠原の元に向かう。

 結局、病室内での会話を全て聞いてしまった。

 決して盗み聞きするつもりはなかった(ほぼ盗み聞きと同じような状態になっているので弁明しても無駄だと思うが)。

 でも、聞き入ってしまった。

 

 彼女らの関わっている事件が、自分にとって無関係とは言い切れなかったからである。

 いつかはその時が来ると覚悟していた。だが、自分はそれを投げたしたかった。

 

 しかし、今の自分にはそれを投げ出すということは到底できない。

 それは自分自身が一番よくわかっている。だけどもう何も失いたくない。

 そんなことを思っていたら笠原を見つけた。向こうもこちらに気づいたらしく駆け寄ってきた。

 

「悪い、待たせたな。で、何の用だ笠原?」

「あ、えっと、さっき先輩に電話が」

「電話?」

 

 不思議に思った俺は携帯を開く。そこには、沢山の不在着信が入っていた。発信者は理子だ。

 携帯を確認している俺の元に再び電話がかかってきた。

 

「もしもし?」

『やっほーシューくん? やっと繋がったよー』

「どうしたんだ理子?」

『バスジャックの犯人の泊まってた部屋が見つかったから鑑識の手伝いに来てー。来てくれないとりこりん、ぷんぷんがおーだぞ」

「分かった分かった、ちゃんと行くから。取り敢えず、位置だけメールしといてくれ」

『うー、らじゃー!』

 

 そう言って電話が切れた。

 相変わらず嵐のようだぜ……。

 

「悪い笠原、後頼む。急用が入った」

「わかりました。それから先輩、一つお願いが」

「ん? なんだ?」

 

 突然のことに少し驚きながらも、あまり表に出さずに会話を続ける。

 

「私のこと下の名前で呼んでもらっても———いいですか?」

 

 顔を真っ赤にしながら少し俯いてそんなことを頼んできた。

 

「わかった———()()

 

 戸惑いながらも俺は了承した。

 すると、彼女の顔がパァーッと明るくなった。

 なんだろう? 何が嬉しいのだろう? 

 

「取り敢えず俺は用事があるから———後は頼むぞ、璃野」

「はい!!」

 

 俺は武偵病院を後にした———

 

 

 

 

 

 ホテル日航の一室、そこには鑑識科(レピア)の生徒と探偵科(インケスタ)の生徒がいる。

 ここは、バスジャックの犯人———武偵殺しの泊まっていた部屋だ。

 現在は鑑識科と探偵科が合同で現場検証を行っている。

 そんなところに俺もいる。

 

「シューくぅーん! 遅かったね〜」

「仕方ないだろ、武偵病院にも行ってたんだから」

「おー、それはご苦労さん」

「それより、なんで俺を呼んだ?」

「よくぞ聞いてくれました!」

「?」

「それは、シューくんに現場監督をやってもらいたいからです!」

 

 ———は? 現場監督? 

 

「ちょ、ちょっと待て! 俺はそんなの引き受けないぞ! 第一なんで俺なんだよ!」

 

 俺は全力で引き受けることを拒否する。

 対する理子は、理由を述べてくる。

 

「なんでかって言ったら、ほらシューくん今回の事件の関係者だからねぇ〜。それにランクSで卒業できるだけの単位取り終わってるからだよ」

 

 理子がそういうと周りの奴らも頷く。

 

「まさか、その説明で周りの奴らは———」

「もちろん全員納得したよ!」

 

 ああ……。やっぱりウチの生徒は単純なのか……。

 こんな説明で納得してしまうなんて……。

 

「それに———仲間を傷つけた犯人に関する事件の捜査だよ。捜しださなくていいの?」

 

 理子が普段の明るい口調ではなく、暗いシリアスな口調でそう言ってきた。

 

「あぁ……わかったよ。やりますよ、現場監督」

「さっすがー! じゃあ、頼みますよ監督ぅ〜」

「その呼び方やめろ。取り敢えず現状は?」

「全くと言っていいほど何も出てこないね〜」

 

 そういった後、理子は不敵な笑みを浮かべながらこういった。

 

「くふ。結構慎重な犯人なんだよ、理子みたいに」

「なるほど。ホテルの宿泊記録もか?」

「んーとね、それは外部から改ざんされてた」

「手を回すのが早いな。この犯人。取り敢えずもう一回この部屋入念に調べるぞ。理子、手伝ってくれ」

「———あい!」

 

 その後、理子に手伝ってもらいながら現場検証に取り掛かった———

 

 

 

 

 

 あの後、夜が明けるまで調べたが犯人に繋がるものは何一つ出てこなかった。

 調査書に関しては、ほとんど書けることが無かったが他の奴が作ってくれるというのでお願いしてきた。

 

 今は寮の自分部屋にいるが、正直なところ眠れる気がしない。昨日いろいろなことがありすぎて頭の中での整理が追いついていないせいだと思う。

 そんな俺の携帯に着信が入る。

 

「もしもし?」

『もしもし、シュウ君?』

「———マキか。久しぶりだな」

 

 彼女は大岡マキ。東京武偵高の生徒でありながらロンドン武偵局に所属する武偵であり、ロンドン武偵局における俺の依頼者(クライアント)でもある。

 

『うん、久しぶり』

「どうしたんだ電話なんかしてきて?」

『メールの返信を久々してきたから、何かあったのかなと思って』

 

 なんだその返信があったら俺が災難に巻き込まれてるみたいな状態。

 まぁ、実際に巻き込まれてしまったけど……。

 

「まぁ、あったといえばあったな……。用事はそれだけか?」

『まだあるよ。単刀直入に言うけど、たまにはこっちこない?』

そっち(ロンドン)にか……。どうしよう……」

『来ないの? ちょっと残念だな』

「……わかった、行くよ。どちらにせよ、そっちには行かないといけないわけだし」

『オッケー。じゃあ、飛行機の座席は久々に来てもらうから普段よりもいいやつにしておくからね』

「あ、ハイ」

『えっと、飛行機だけど———』

 

 マキから搭乗する飛行機の日時を聞いた後、俺の記憶はプッツリと途切れてしまった。

 気がつくと午後3時を回っていた。

 自分がどれくらい眠っていたのかがわからない。

 しかも、異様に体が重い。

 取り敢えず起き上がった俺は武偵病院へと向かった———

 

 

 

 

 

 アリアの病室へと向かう途中キンジに会った。

 

「よう、キンジ」

「悪い、1人にしてくれ」

 

 なんとなく沈んでいるあたり、アリアと口論でもしたのであろう。

 

「わかった、帰り気をつけろよ」

「ああ……」

 

 キンジと別れた俺はアリアの病室へと向かう。

 

「アリア、入るぞ」

「……いいわよ」

 

 中に入るとアリアは、窓の外を見つめていた。

 こっちも沈んでるみたいだな。

 

「ほらよ」

 

 そういって俺はアリアに来る途中で買ってきたももまんを手渡す。

 

「どうしたのこれ?」

「台場まで行って買ってきた。この近辺で売ってなかったから」

「そう……」

 

 アリアはももまんを受け取ってくれたが食べようとはしなかった。

 

「なんでそんなに沈んでるんだ?」

「……なんでもないわ」

 

 アリアはそう言って再び窓の外を見つめていた。

 しばらくの間、病室の中を静寂が支配した。

 そしてアリアがこちらに向き直し口を開いた。

 

「ねえ、私のパートナーになってくれない?」

 

 そういったアリアは少し俯いた。

 

「良いよ」

「え?」

 

 二つ返事で了承した俺に対してアリアは赤紫色(カメリア)の瞳をまん丸に開いた。

 

「アンタ、今———」

「いいって言ったよ」

 

 その言葉にアリアは目を見開く。

 

「こんなあたしなんかがパートナーでもいいの?」

 

 アリアは首を傾げながら尋ねてきた。

 

「俺は構わないんだが、今すぐにパートナーになることができないんだ」

「どういうこと?」

「前に話したロンドン武偵局にいる依頼者がいるだろう?」

「ええ」

「あいつのところに行って話をつけないといけないんだ」

「話って何の?」

「パートナーを解消してもらう話」

「まさか、その依頼者とはパートナーなの?!」

 

 アリアは衝撃的だったらしい。

 

「いや正確には、パートナーになる予定の解消だな」

「それが、終わらないとあたしとはパートナーにならないってこと?」

「そうなるね……」

「そのパートナー候補のところに行くのはいつなの?」

「近々行ってくる。だいたい2日後ぐらいかな」

「分かったわ。しっかりと話をつけてきてね」

「そこのところは心配しなくても大丈夫なんだけど……お前の傷の方はどうなんだ?」

「こんなのただのかすり傷よ。医者は大袈裟すぎるのよ」

 

(その医者側の人間にそれを言うのか……)

 

 そんなことを思いながら視線を周りに移すとゴミ箱の中にある書類を見つけた。

 

「この書類は?」

「今回のバスジャックとチャリジャックの報告書よ。読むだけ無駄だと思ったから捨てたのよ」

「悪いな……何の手がかりも見つけられなくて」

「……?」

 

 昨日の捜索のことを考えながらそう言った。

 それから話を変えようと思いあのことを話してみることにした。

 

「あのさ」

「何?」

「昨日病室で1年とかと話してだろ?」

「ええ、話してたわ」

「悪い、その話全部聞かせてもらった」

 

 アリアは少し考えるような仕草をした後こちらに向き直した。

 

「やっぱり誰かに聞かれてると思ってたけどアンタだったのね」

「盗み聞きする気は無かったんだ」

「聞いてしまったものは仕方ないわね」

 

 そう言った後、こう付け加えた。

 

「でも、あのこと———()()()()のことを聞いてしまったからには後戻りはできないわよ」

「元よりその覚悟はあるよ」

 

 何かに気づいたらしいアリアは俺に問いかけてくる。

 

「まさか、アンタもイ・ウーと関係があるの?」

「まぁ、ね。どういう風にとかは悪いけど言えない」

「そう、良いわ。でも下手に口外しないことね。もし口外したら公安0課に消されるわよ」

 

 公安0課とは日本で唯一殺しのラインセンスを持っている公務員達である。

 バーストモードの俺でも公安0課には絶対に勝てないと断言できるほど危ない奴らだ。

 

「注告ありがとう。取り敢えず帰るよ。こっちもやることがあるから」

 

 そう言って扉に手をかけようとしたあたりで、ふらっ。

 突然、めまいが俺を襲った。

 

「……?」

 

 あまりのことに俺は少し驚いていた。

 

「アンタ大丈夫? 顔色悪いけど?」

「ああ。ただ、めまいがしただけだよ」

「アンタ昨日何してた?」

 

 アリアが厳しい顔で尋ねてくる。

 

「事件の後直ぐに武偵病院(ここ)にきて負傷者の手当てをした後、犯人の泊まっていた部屋の現場検証してた」

「それってまさか、そこの報告書に書いてあること?」

「そうだよ。徹夜で調べてた」

 

 一瞬、部屋の中の空気が重くなった。

 

「……悪かったわ」

 

 アリアがそう言った。

 

「いいんだ。何も見つけられなかった俺らに責任があるわけだし。俺はやることがあるから帰るよ」

「……わかったわ」

 

 そういって俺は病室を後にした。

 その後、寮に戻って仮眠を取ろうと思ったのだが全く眠りに着くことができなかった。




ようやく、この作品のメインヒロインを出すことができました。ではこれで。みなさん良いお年を。

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