僕にヒーローマカデミア   作:Athlon

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ーーーーマカダミア(学名:Macadamia integrifolia)とはヤマモガシ科の常緑樹である。直径2cmほどの殻果(ナッツ)はマカダミアナッツ(クイーンズランドナッツ)と呼ばれ、食用となるーーーー
            【wiki第1段落目参照】


1話

始まりは、中国某所。身体中が『光る』赤子が発見された事だった。

 

それを機に、世界中で性別、場所、時間関係なく同じような『異能力』を持った人々が現れ始めたのだった。

 

個性、と呼ばれるようになるその力は世界を変えた。各地では暴力事件と言うのでは生ぬるい事件が度重なった。個性を使った暴動ーーー国の軍隊ですら鎮圧するのに困難する程で、世界中の治安が同時的に悪化し、そのダメージは後々の技術方面でも影響を及ぼすレベルだった。

 

 

ーーーXX年、世界は個性の波に包まれた。

 

 

だが、正義は死滅していなかった。力を手に入れた人が悪の道に走る一方で、一部の人々もまた、同じように正義の道に足を踏み入れたのだ。

 

果たして悪ーーーヴィランと後に呼ばれた彼らを押さえつける為に、かつて空想上の存在であったあの職業が脚光を浴び始めた。

 

その名も、ヒーロー。

 

正義の灯は次の世代へと受け継がれ、その在り方を変えながらも今日まで存在している。

 

誰もが憧れ、誰もが夢を抱く。

 

これは、そんなヒーローに憧れた、一人の主人公の物語。

 

 

 

 

・・・の、筈だった。

 

 

 

 

俺が生まれたその場所は、名前もないアジア大陸の隅の方、一年中夏の様に熱く、大地は乾いて砕け、一日に食べる分すら手に入れる事が難しい程厳しい場所だった。

 

そんな乾いた地面の上を、真っ赤な池がゆっくりと広がっていくのを眼下に収めながら、俺は額の汗を腕で拭って一息ついた。

 

「んー…」

 

ひー、ふー、みー、よー。数は4つ。

 

顔がトカゲの様に隆起した男に、腕がマシンガンの様に変形している女、残り二人は普通の人間とは外見的な変化は無かったが、腕から火を出したり目から光線を出したりしていたので無個性という訳ではなかった。

 

顔は最初から割れていた。彼らはヴィランーーーつまり、犯罪者。指名手配犯として世間に認知されている、極悪人だった。

 

その罪状は、強盗、それに伴う殺人等々。それらを数十件。4人グループで行動していて、その巧みな連携によりこれまでの捜査をかいくぐってきた強者だった。

 

ん?なんでそんなやつらが、今俺の足元でぶっ倒れてるんだって?

 

いやぁ、本当、なんででしょうねぇ(白目)。その疑問は、俺が生まれた当初から抱いてきた疑問なんですけどね。

 

「おい、片付いたか」

 

と、俺がぼおっとしていたら向こうの方から男がぬっとあらわれた。こんな糞熱い中黒づくめのローブに身を包んだ、顔の見えない男だった。

 

「…そうか。じゃあ帰るぞ」

 

俺が親指をぐっと立てて応じると、男は足元に転がっているモノを見下ろして一つうなずいて、手を差し出して俺の頭を撫でた。固い口調がこの時だけは柔らかくなるのは、この男の心の根が優しい事の証左である。

 

彼の名は『形無し』。個性は名前の通り、どんなものにでも変身できる能力である。その代り顔が無かったり、変身する際の姿が醜かったりするのでこうしてローブで隠しているようだが。

 

ちなみに本当の名前は随分前に捨てたらしい。どうやら闇の多い人生を送ってきたらしく、生まれたころからずっと一緒にいる俺にもあまり自分の事を教えてくれたことは無い。まあ、もう慣れてるんだけどね。

 

形無しはふと立ち止まり、めんどくさそうにつぶやいた。

 

「…その前に後始末、か」

 

そういうや否や、形無しの足元がボコッと膨らみ、そして裾の方が伸びてワニの頭が姿を現した。

 

ワニは転がっていた死体を噛まずに丸呑みして飲み干すと、すすすと形無しの足元に戻って消えていった。

 

「…じゃあ、行くか」

「…」

 

俺は腕を振り上げながら形無しについていった。

 

「…お前は相変わらず騒がしいな、『一方通行』」

 

いや、自分しゃべれないんすけど…。とは言えない俺だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あの後。どの後かというと神を名乗る謎の存在に、ヒロアカの世界に転生させられた後の事。

 

俺は無事誕生した。何の問題も無く、気が付いたら産声を上げていた。途中の経過やらなにやらをすっ飛ばして、いきなり誕生していた事には本当に驚いたし、またあの謎の存在への殺意が再度湧き出たのだった。

 

まあとにかくこの世界に誕生したのだが、俺はその直後すぐに命の危機に瀕する事になる。

 

っていうか、母親がぴくりとも動かないの。しかもどうやら一人で生んだらしく、更には外は雨が降っている様で、結構寒い。真っ暗闇で誰もおらず、更に俺の産声も雨音にかき消されて届かない。

 

すわ餓死して死んでしまうのではないかとハラハラしながら泣き声を上げる俺。そんな俺を拾い上げたのが、形無しだった。

 

形無しは俺を拾い、そして育てた。4歳くらいまでは俺に名前を付ける事すらせず、俺の能力が判明した後は『一方通行』とかいうどこかの学園都市最強君と同じコードネームで呼ぶようになった。

 

そんな風に、自分の名前も捨て、俺に名前も付けないこの男が普通の職に就いているはずも無く。彼の仕事は所謂『始末屋』。依頼されればどんな相手でも殺す、暗殺者のような仕事をしていた。

 

まあ、その依頼内容も暗殺対象をヴィラン相手に限定していることからわかるように、形無しにも形無しなりの正義を持っているようだ。本人は絶対に言わないが。

 

ちなみに、俺は今世では女の子だった。まあ生まれる時点で二分の一の確率なんだし、仕方がないと思う事もできなくは無いが、結局すべての感情はあの謎の自称神様的存在へと向かうのだ。殺意にそのシグナルを変えながら。

 

俺の容姿に関してだが、形無し曰く『印象に残らない普通の容姿』らしい。髪の毛は白く、眼は赤い。肌は白くシミ一つ無い。つまり一言で表すならばアルビノと言うやつだ。

 

が、俺のこれは真性のアルビノではない。個性の副作用と言うやつだ。

 

っていうか、多分『一方通行』って呼ばれてるところから既に予想はつくだろう。

 

俺の個性、実はあの学園都市最強と謳われるあの第一位、一方通行と全く同じ個性なのだ。内容は言わずもがな、『ベクトル操作』。運動、熱、電気、光などの様々なエネルギーのベクトルを操作する、というチートも良い所の能力だ。

 

・・・と、言うと見栄えは良いだろう。しかし思い出してほしい。学園都市の超能力は、全て演算ーーーつまり、自分の頭の出来と認識によって成長する。学園都市の一方通行はその点においてはスパコンにも迫るほどの性能の頭を持っている程優秀で、だからこそのレベル5だったのだ。

 

さて、ちなみに今世の俺は前世の記憶があるからと言って、特別頭がいいという訳ではない。いやさ前世の俺と比べたら断然今世の俺の方が頭は良い。見たものはすぐに覚えれるし、四則計算も4、5桁の式なら簡単にできる。

 

が、学園都市の一方通行と比べられると、その差は月とすっぽんそのもの。

 

俺が全力で能力を使っても、小石を無限に吹っ飛ばしたり超電磁砲反射したり、空気を圧縮☆圧縮☆してプラズマ作り出したりなんかできるわけがない。まあ、地面ふんで衝撃破で敵吹っ飛ばしたり、トラックなんかを持ち上げて吹っ飛ばしたりする程度はできるが、核爆発に絶えれる程の力は当然持っていない。

 

常時反射も不完全だ。チートが超便利で汎用性の高い個性へと格下げである。まあ、それでも助かってはいるのだが。

 

しかし、下手に強力な個性を持ってるお陰でさっきの様に形無しの仕事の手伝いをさせられたり修行させられたりするのだが…まあ、それについては文句はない。仮にも育ての親だしな。

 

ああ、それとこれはどうでもいい話だが、俺、どうやら話せなくなっているようだ。形無しの言うには、『しゃべる器官が発達しきっていないからだろう』らしい。生まれつきの体質というやつだ。仕方ないね。

 

一応ベクトル操作して声らしきものは出せるが、どうにもうまくいかずに機械じみた声しか出せない。『気持ち悪いから喋んな』って言われた時は年甲斐も無く泣きそうになった。いや、まだ10歳児だけど。

 

「…ふう」

 

家に着き、形無しがため息を吐き出した。家…と言ってもすぐに場所は変わるので、拠点と表現した方がいいかもしれないが。

 

「そういえば、お前…」

 

珍しく形無しがしゃべった。家にいるときは必要な事以外は一切話さないのだが。俺がすすっていたインスタントラーメンから顔を上げて首を傾げると、いくばくかの沈黙の後、ようやくその重たい口を動かした。

 

「…なんだ、あれだ。日本って、知ってるか?」

 

日本?なんで?と、思いながら、俺は素直にうなずいた。日本と言えば俺の前世の故郷である。今ではもう記憶もかすれてきているが、思えば懐かしい。

 

「…そうか」

 

形無しはそういうと、「寝る」と一言告げてソファーに横たわって寝てしまった。

 

「?」

 

何だったんだ、と思いながら、俺も寝ることにしたのだった。

 

 

 

 

数年後、俺はあの質問の意味をやっと知る事になるのだが、それはまだ先の話だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【形無しside】

 

 

まだあの光景が頭の奥底にこびりついて消えやがらない。

 

俺は呻きと共に起き上がり、何度目かになるか分からない程見た夢を思い返して深くため息をついた。

 

俺は、俺の名は形無し。既に名前も、生まれたころの顔も捨てた。それもこれも、あの事件があったからだ。

 

故郷が焼き払われた。それも、意味も無く、純粋な悪意のみでの事だった。あの光景は忘れられない。いつまで経っても、恐らく、生涯を通して俺はこの悪夢に苛まれるのだろう。

 

真っ赤な炎。崩れる建物。響き渡る悲鳴が、一つ、また一つと消えていく様は無謀にも川に浮かんだ泡の様に脆い存在だった。目の前で死に絶える家族も、友人も、何一つ救う事の出来なかった俺が、なぜ一人生き残ってしまったのか…なんて疑問…いや、罪悪感は、未だに薄れることは無い。

 

全てヴィランが悪い。個性を持って増長した。悪い事をしてもまかり通ると信じ切って、やつらは愚行に走った。

 

手に入らない女がいる、手に入らない金がある。やつらはそんな理由で、罪も無い人々を惨殺し、俺の大切なモノたちを奪い去っていった。

 

俺は、個性が嫌いだ。

 

破壊と暴力しか生まない個性が嫌いだ。俺の全てを奪い去った個性が嫌いだ。俺が生き延びてしまった要因となった、自分の個性が嫌いだ。

 

俺の個性は千変万化。ありとあらゆるモノに変身する能力だ。それは無機物だろうが有機物だろうが、自分の頭の中に確固たるイメージがあるのなら大抵のものに変身する事が出来る…が、ただし、実在するモノには成ることはできない。成れるのは、空想上の、現実にないモノに限定される。

 

つまり、『どんなものにもなることはできるが、何者にもなれない』能力。あの日から逃げる様に顔と名前を捨て、ただヴィランを殺す為だけの機械となり果てた、正義の味方にすらなる事の出来ない半端者の俺には実にお似合いの能力だ。

 

色の無い時間、色の無い日々。殺して、殺して、殺しつくして。

 

そんな日常に擦り切れて消耗しきっていた俺の目の前に、ふとあいつが現れたあの日の事を俺はなぜか明瞭に覚えていた。

 

そいつは真っ白だった。髪の毛も、肌も白。死んだ母親の腕に抱かれながら懸命に泣くそいつを見て、そう、俺は何を思ったのか、そいつを抱き上げていたのだった。

 

そいつは最初こそ俺に抱かれて泣いていたが、すぐに泣き止んで寝息を立て始めた。どうやらこいつには警戒心というものが欠如しているらしい。俺はそいつを抱き上げたまま、しばらくそこに佇んだ。

 

「…おい、お前、生きてるか」

 

母親に呼びかける。返事は無く、しゃがみこんで手首を取る。

 

冷たい。まるで中に蝋を入れて冷やしたように固く、冷たくなっていた。既にそこに生命の温度は存在しなかった。

 

あの時、俺は何も救うことが出来なかった。ただただ火に怯え、ヴィランに恐怖し、何もできずにうずくまっていた。

 

だが、そんなどうしようもない俺が、こいつを見つけてしまった。親も失い、ただ息絶える筈だったこいつを、俺が。

 

救えるなんて事は思っていなかった。

 

しかし、ただ、放っては置けなかった。

 

「…こいつは貰っていくぞ、女」

 

俺は一言言って、その場を去った。

 

 

 

 

 

そいつは、一方通行は正真正銘の天才だった。

 

最大の防御にも、最強の攻撃にもなりえる使い勝手の良い個性。

 

どんな時でも冷静で、よく切れる頭。

 

そして対人における戦闘センス。

 

モノを教えれば教える程、そいつはどんどん俺の教えを吸収していった。武器の作り方、敵のあしらい方、追い詰め方、逃げ方、反撃の仕方・・・どれをとっても一方通行は難なくこなして見せた。

 

少々能天気で平和ボケした嫌いがあるが、それでも一角のヒーローには成れるだろう、と自然に考えてしまった自分に気が付いた時には、自分に失笑を禁じ得なかったものだ。

 

「…ヒーロー。ヒーローか…ふむ」

 

恥ずかしい話だが、俺は幼い頃ヒーローに憧れていた。ただでさえ治安の悪かったその場所を救いたい。守りたい。そんな純粋な思いから、よく近所の大人や友達にヒーローになってやると意気込んだもんだった。

 

親はそんな俺を応援してくれて、あまつさえ学校にまで通わせてくれた。俺の地域では学校は金持ちで余裕のある家が行くもので、俺の家は貧しくは無かったが裕福ではない、中流階級の家だった。なのに、親は無理をしてまで俺を学校に行かせてくれた。

 

結局、ヒーローになる前にヴィランに全てを壊され、夢を諦めこうして無様を晒している訳だが。

 

何を期待しているのだか、と被りを振っても、今の考えを忘れるなんて事、できる筈も無かった。

 

あいつは白い。穢れを知らず、ただ俺を正義の味方を見るような目で見て、憧れて、ついてきてくれる。

 

しかしそれだけでは駄目なのだろう。結局どこまで行っても俺は始末屋、闇の住人だ。俺はあいつに、一方通行に俺と同じ道を歩んでほしくない、と、ただただ自然にそう思っていた。

 

いや、俺はただ託したいだけなのかもしれない。あいつに、ヒーローになれなかった俺の代わりに、ヒーローになってほしい、と思っているだけなのかもしれない。

 

だが、この辺りの治安は悪い。学校も金が無いといけないし、そもそも教育の質自体が悪い。

 

あいつにここは狭すぎる。もっと、もっと綺麗で広い世界を見せてやらないと、あいつは自由に飛び立てはしないだろう。

 

そうだな…アメリカ、いや、日本が良い。治安もここに比べりゃマシだし、落ち着いて勉強できるだろう。

 

丁度伝手もある。俺が頼み込めば、何とかしてくれる程度には頼れる伝手だ。

 

ここまで考えて、俺はあいつに尋ねてみた。もしこれであいつ自身に日本に行く気が無いのであれば、すっぱり諦めるつもりだった。

 

「そういえば、お前…」

 

俺は言葉を慎重に選びながら、一方通行の目を見つめて問いかけた。

 

「…なんだ、あれだ。日本って、知ってるか?」

 

奴は笑顔でうなずいた。

 

…一方通行は、やはり日本に行く事自体に嫌悪感を抱いていないようだ。

 

それだけ分かれば十分と言うものだった。

 

早速次の日、俺はその伝手へと連絡を取ったのだった。

 

 

 

 

 




マカデミア食べてたら書きたくなってしまったので衝動書き。後先なんて考えてないので、クオリティに関しては期待しないでください。

推敲しました。

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