地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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01話 再召集

【レンジャー1-1隊長】

 

結城達レンジャー1-2が車に揺られていた頃、レンジャー1-1はさほど遠くないビル街に展開していた。

その傍らに真紅のヘルメットを被る男が1人。

ストームチームだ。名目上はチームだそうだが、何故か共に派遣されたのは彼1人のようだった。

 

私は、佐川 竜兵(さがわ りゅうへい)。今こそレンジャー1-1の隊長だが、前大戦は事務官を務めていた。前線での戦闘経験は、大戦後の巨大生物掃討作戦へ人員不足の為前線へ駆り出された時のみだ。

お世辞にも前線に慣れてるわけではない。事実大戦時この目で前線の惨状を見た回数はたかが知れてる人間だ。

そんな私でも、隣で発せられている静かな殺気は感じられる。

ストームチームの彼だ。

ふと、8年前の記憶が蘇る。

本部内ではある噂が話題になっていた。他の隊と違い常に独り身で敵に突撃していた兵士がいたと。その隊の名はストーム1。だが、彼はマザーシップを撃墜し、その巨大な爆発と共に行方不明になったと聞いた。

だが何故かストームチームの彼を見てると、彼が...。そんな風に思えてしまう。

 

ふと、隊員達の目が、こちらを向いて指示を待っていることに気づいた。腕のレーダーを見る。

レーダーには赤い点がはびこっていた。

つまり...。やがて私は決心したように言い放つ。その言葉に他の隊員も続く。

佐川「行くぞ!」

隊員達「「「イ...イエッサー!」」」

ギガンテスを先頭に、私たちは進軍を開始する。

隊員達の中には、まだ信じきれていない者もいるようで、

隊員「何かの間違いだよな?」

隊員「そうに決まってる!」

隊員「巨大生物は全滅したはずだ!7年前に!」

と言い、必死にレーダーに映る事実を否定している。

だがそれも虚しく、やがて奴らが視界に入る。

隊員「巨大生物だ!」

隊員「でけぇ......」

巨大生物は、市民を襲っていた。市民はこちらに向かって必死に逃げている。

佐川「市民が襲われている!撃て!市民を助けろ!」

足を進めながら私は隊員達を恐怖から離れさせる。

1人の市民が自由を奪われ、その身体は宙に舞う。

それを受け止めるかのごとく口を開き、市民の身体を二つに頒つ。

それを目撃した私たちは、一瞬慄いたが、すぐに照準を合わせ、私は隊員達を奮い立たせる。

隊長「くそっ!撃て!これ以上の犠牲を出すのは許さんぞ!」

隊員達「「「Yes,sir!」」」

いたるところで、悲鳴と喚声が聞こえ、気がつくと乱戦状態になっている中、私達は1匹に火力を集中し、1匹ずつ確実に葬っていく。

硝煙の匂いが弾道を描く。私はバッファローショットガンを装備し、ゼロ距離の散弾が巨大生物の甲殻を荒らしていくが、致命傷にはなっていないようだった。そして、隣で隊員達の装備している前大戦の戦績から今日まで使用され続けるアサルトライフルAF-14でも、なかなか絶命しない。気持ち巨大生物の甲殻が硬くなっているように思えた。が、確実に怯ませ、ダメージを蓄積させる。原型を留めないほどに蜂の巣になった巨大生物は、いよいよ絶命した。

だが、この時、私は、私の側面を許してしまったことに気づいていなかった。

巨大生物が顔を下につけ、とてつもない速さで突進を仕掛けてきた。

一瞬のことだったので、反応しきれなかった。その瞬間、死を覚悟した。実戦不足な自分を呪った。だが......。

突如その個体は頭に穴を開け、その場に崩れる。

後ろに目をやると、ストームチームの彼がMMF42を構えていた。銃口から煙が出ている。

彼が私を狙った個体を撃ち抜いたのだろう。

 

私は言葉は掛けず、黙礼し、戦闘に戻った。

 

そして、残りレーダーに映る個体は2匹ほど。幸い、こちらに脱落者はでなかった。そこで、本部から通信が入る。

田中司令《レンジャー1-1、状況を報告しろ!》

佐川《巨大生物と交戦、数匹を撃破しました》

田中司令《なんだと!?そんな馬鹿な...》

本部も驚いていた。まあそうだろう。7年前、地球上では絶滅させたはずの奴らに生き残りが存在したのだ。

最後の1匹の絶命を確認し、周囲を見渡す。

 

先程まで、悲鳴と叫声と銃声が飛び交った阿鼻叫喚の戦場は、まるでそんなことは最初からなかったかの如く森閑としていた。

傍らに転がる肉片、むっとするほどの血臭のなか、底が血で染まった軍用ブーツにあたるものを見る勇気は、どうしても起きなかった。

部下達も、同じ気持ちなのか、気後れする。

突如、レーダーが過敏に反応し、バイブレーションが鳴る。

 

目をやると、1ブロック先の交差点に新たな巨大生物が出現したようだった。

全身から汗が吹き出て、足が震えるのがわかる。だが、前方から聞こえる守るべきものの悲鳴や助けを求める声が、恐怖に慄く暇を与えなかった。一度深呼吸をする。

酸素を全身に行き渡らせ、脳を整理する。そして、敵に突撃すべく声を上げた。部下達もそれに続く。

佐川「行くぞ!」

隊員達「「「Yes,sir!」」」

 

 

【レンジャー1-2】

 

葉山《こちら、レンジャー1-2葉山、本部、応答願います。巨大生物を殲滅し、現在はハンヴィーにて待機中》

田中司令《了解した。その数ブロック先でレンジャー1-1及びストームチームが戦闘中だ。なお、あちらに大多数の巨大生物の群れが接近中だ。援護に向え》

葉山《了解しました。援護に向かいます》

そう言って通信を切る。

葉山「少し進んだ場所でレンジャー1-1とストームチームが戦闘中らしい。我々は援護に向かう!いいな!」

結城&隊員達「「「Yes,sir!」」」

 

待機中だったギガンテス3両と共に、レンジャー1-2は移動を開始した。

 

 

【レンジャー1-1隊長】

 

ここまでで部下が3名犠牲になった。

巨大生物はビルの側面だろうが、遊歩道橋の裏だろうが、平気で移動し、襲ってくる。

私の部隊(レンジャー1-1)は、戦後に入隊したものが大半を占めている。生と死が入り乱れる戦場、実戦を彼らは知らなかった。

それ故に巨大生物に対して反応するまでが遅かった。突進を受け、ビルの壁に強く背中を打ち付けた彼は悚然とし、巨大生物のその磨かれたような鋭い牙を腹部に受け入れる。

 

果敢にも人々の中をかき分け突撃を敢行した彼は、

遊歩道橋の裏(地面に足をついてた私たちにとっては頭上)にまで気を配ることが出来ず、何をされたか分からぬままこの世を去った。彼だった屍は、首から上を失くし足からもつれ、前のめりに倒れた。

 

人混みに押され、尻餅をついた彼の視界を覆うように目の前に立った一匹は、彼を引き裂き、複数体の巨大生物がそれに群がる。私たちにも気づいていたようだが、咀嚼するそれに夢中だったらしい。

 

彼らのドッグタグを回収し、最期を見届けてやれなかったこと、せめて安心を抱かせる為に最期に言い残すことが無いかと聞けなかったことに、自分を呪った。自分を攻めた。

巨大生物への憎悪を滾らせる私の頭に、部下の希望の声が響く。

突如、目の前の巨大生物が特に密集する位置に向かって三発の榴弾と複数の弾道を描く弾丸が着弾し、巨大生物を穿った。

隊員「タンクが来てるぞーっ!」

隊員「援軍だー!」

 

私たちは、その言葉を聞いて、弾倉を再装填する。2秒とかからなかった。そして、勢いを取り戻した!

 

 

【レンジャー1-2、レンジャー1-1合流】

 

レンジャー1-1は勢いを盛り返し巨大生物に突撃、殲滅していった。

レーダーに目をやり、巨大生物の反応がないことを確かめると声を掛け合う。

佐川「レンジャー1-2、援軍に感謝する」

葉山「間に合ってよかった。兄弟」

"間に合った"の単語に佐川は敏感に反応したのか、死体に目をやると、空の弾倉を地面に叩きつけた。

葉山「すまない。余りにも不謹慎だった。発言を許してくれ」

佐川分隊長の先程の動作と周囲の惨状を見る限り、彼の部下の姿も何名か見当たらないことが何を意味するかすぐに理解した。

佐川「いや、いいんだ。そちらのお陰で全滅せずに済んだ」

佐川分隊長の気遣いに感謝し、援軍に来た旨を伝える。

佐川「大群がこちらに向かってるだと?」

葉山「ああ、そうらしい。そいつらを殲滅しろとの命令だ」

佐川「分かった。準備しよう」

葉山「ああ、まず公園に挟まれたあの道を確保しよう」

佐川「了解した」

 

部隊はすぐに進軍を開始する。

すると、足を進める途中で本部から無線が入る。

田中司令《歩兵部隊、タンクに続け!》

隊員達の口は綻んでいた。

隊員「タンクの援護とは頼もしいぜ!」

隊員「タンクに続け!」

隣から部下達の会話が聞こえる。

隊員「なあ、最後の巣が駆除されて7年。その間、こいつらはどこに隠れてやがったんだ?」

隊員「こいつらは地底に潜んでた。俺達は、こいつらの上で暮らしてたってことなのか!?」

第三波となる巨大生物は少数で、数分で全滅させた。

すぐに簡易的な補給基地を築き、迎撃準備を整える。

 

すると、程なくして、肉眼視出来るほどに巨大生物がその姿を現した。街が、地面が、黒の津波に覆われる。

味方の士気は上々だった。誰1人逃げ出そうとする者はいない。この場にいるのは、黒の津波のように迫る巨大生物を果敢に迎撃する者達だ。

佐川分隊長の指示で、それぞれの分隊で人塊になる。

隊員「7年ぶりの巨大生物だ。今や絶滅危惧種だぞ!」

一人の隊員が、「絶滅危惧種」という単語を使った。それに訂正の意味も込めて、佐川分隊長は更に煽りをかける。

佐川「危惧は無用だ!絶滅させろ!」

味方の士気は高まるばかり。

隊員達「「「Yes,sir!」」」

田中司令《巨大生物を戦車に近づけるな!》

結城「うおおぉぉぉぉぉぉ!」

隊員「EDF!EDF!」

 

だが、いざ乱戦に持ち込まれてしまうと、たちまち巨大生物に呑まれていった。

隊員「弾が切れた!援護しああああぁぁぁ!」

隊員「報告!一人やられました!」

隊員「ぐあっ!?よせっ!」

隊員「あいつを助けろ!はっ!?しまった!避けろ!...グチャリ」

緊急回避...をするも、足を噛み切られ、スプリンクラーの如く血が辺り一帯を真っ赤に染め、隊員は絶命する。

隊員「くそっ!こんな時にジャムを起こしやがった!はあっ!?くそぉ!ぐあぁ...」

 

この場はもう地獄と化していた。隊員達は恐怖心を煽られ、地獄に蝕まれていった。

 

隊員「よくもハルを!死ね!死ね!ぎゃあああ!」

隊員「被弾した!くそ!おちつけ!はっ!?巨大生物がくる!....」

足元の屍から引き取ったAF-14を持ち、2丁持ちで乱射するが、既に周りが見えておらず、敵味方関係なしにぶっ放す。図体のデカイ巨大生物にも確かに致命傷を与えるが、味方が被弾し、その味方は間もなく巨大生物の餌となった。トリガーハッピーとなった彼も間もなく複数の巨大生物の中に呑まれていった。

爆音と熱風が身体を襲う。戦車が大破し敵味方を巻き込み大きな爆発を起こす。それに呆気を取られた隊員の頭が巨大生物の顎に砕かれ耐えられず、脳漿が周囲に飛散する。

佐川「ぐわあああ!」

隊員「隊長ー!」

 

佐川は後ろに回られていた巨大生物の突進でアスファルトに叩きつけられ、致命的な怪我を受け動けなくなった。そして腹を巨大生物に咥えられるとビルの壁に何度も叩きつけられる。佐川の体は目を背けたくなるほどになっていた。

葉山と結城、レンジャー1-2の数名は、互いの背をくっつけ合い、応戦していた。お陰で、こんな乱戦でも伝令は機能する。少しずつ、途中レンジャー1-1の生き残りを救出し。後退していく。

 

時々、結城達に到達する前に遠くで絶命する個体がいる。恐らくこの場にいない"彼"が狙撃で援護してくれているのだろう。お陰で徐々に距離を取れつつあった。遠くの敵を狙撃で仕留め、近距離の敵は小銃掃射で怯ませる。それを繰り返し、合流した交差点へたどり着いた頃、敵は目で数えられるほどになっていた。

 

そして、最後の敵をMMF42の弾丸が貫いた。

生き残りは...最初レンジャー1-1 9名、レンジャー1-2 9名、足す1名の計19名で臨んだ今回の殲滅戦。周囲を見渡すと生き残りは元の2分の1。8名程だった。レンジャー1-1は隊長以下6名が死亡、事実上壊滅状態。レンジャー1-2もお世辞にもすぐ他の目撃地点へ続投されてもいいと言えなかった。

大きな代償を払い、静けさを取り戻した空間で、皆俯き、仲間の死を嘆く者、これから地獄を度々目にしなきゃいけない事を憂いていた者、様々いた。

やがて生者と死者のみの空間に機甲部隊と救護車両が到着し、虚脱感に見舞われ、本部へ帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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