地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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ひっさびさの投稿です。
地の文疲れました。これから力をつけていきたいですね。


27話 赤色

宮藤「いよいよ、ですね」

 先の戦いから1ヶ月後、連合地球軍関東方面基地の敷地内、特殊遊撃部隊"ストームチーム"の宿舎に設置されたブリーフィングルームでは、ストームチームの面々が真新しい内装に心を躍らせていた。

隼人「結成当時の会議部屋が嘘のようだな」

早紀「見違えるように綺麗になったわね……」

 数ヶ月に渡って見送られていた内装の充実がついに完了し、学校の教室まがいは、2025年最新鋭のハイテクさを感じさせる一室へと変貌していた。

 会議室の様相を呈していた長机とパイプ椅子は除けられ、黒を基調とした大理石風の机と高級感溢れるレザーのオフィスチェアへ。

 窓は一切無い。床、壁、天井は漆黒に覆われ、一定間隔で薄青い光が淡く部屋全体を照らしていた。

 まるで深海にいるようだ。

八木「夢みたいです……」

 近未来的な内装に興奮を隠せない八木は、机の中央に設置されたディスプレイに触れた。

 すると、空中に連合地球軍の象徴である旗*1が浮かび上がり、八木の興奮は更にヒートアップする。

 まごう事なき、ホログラムディスプレイであった。

 

 続けて複数のウィンドウが立ち上がると、ストームチーム総隊長たる彼が専用の手袋で覆った手を水平に払った。

 横にスクロールされるホログラムに四人の目は釘付けだ。

 彼は目的のものを見つけたのか、一つのウィンドウに向けて手のひらを広げると、それに合わせてウィンドウも拡大される。

 拡大されたウィンドウは机に横倒しになると、地形を表すように凹凸が入りだした。どうやら山岳地帯のようだ。そこからやおら窪みだし、最終的に平坦になる。おそらく、丘に囲まれた大規模な浜なのだろう。浜の隣では、波が立つ水面が再現されていた。ひとしきり地形が明瞭になると、次は赤い点が群生を始める。

 また、空中には地上より少し大きな赤点が列を組み始めた。

 赤い点がそれ以上増えなくなると、彼は口を開く。先ほどとは打って変わって、重い沈黙が部屋を包んでいた。

  「現在、赤色甲殻型巨大生物の群は、ここを縄張りとしている。赤色甲殻型巨大生物は甲殻型巨大生物の亜種で、酸噴射能力を持たない。が、やつの繰り出す突進、そして噛みつきは、戦車を軽々と押し返し、装甲をひしゃげさせる。この群は先日制圧に失敗した地下洞窟から出現したもので、着々と数を増やしているらしい。さらに、敵輸送船団も日本領空に続々と侵入を許しているとのことだ。まったく、親玉を破壊しなければ敵はこちらへ無尽蔵に戦力を送り込める……」

早紀「総攻撃でも始めるつもりでしょうか」

  「現在マザーシップに対し厳戒態勢を敷いているらしいが、今のところ動く気配はない。機会を伺っているのか……」

 早紀の疑問に、隊長はコクりと頷いた。

 

 

 先の戦いで撃墜に失敗したマザーシップは再び太平洋上空に浮遊している。きたる撃墜を目指してEDFは日本の領土・領空・領海に蔓延る敵の迎撃に徹しているのである。

 

 「EDF JAPANは、自衛隊と共同で、先日の戦いから日が浅いにも関わらず大規模な殲滅作戦を立案中、本作戦はその前段。まず、地上に出現した巨大生物群と機械兵器、輸送船団を攻撃し、敵の本土侵攻群に可能な限り打撃を与える。マザーシップの介入が懸念されるが、対艦迎撃部隊を陸海空それぞれ編成中だ。我々陸戦部隊は地上の敵にのみ注力していればいい」

 

 隊長は表示したまま放置していた赤点の集合体を指差しながら、

 「我々は、この巨大生物群の迎撃作戦に参加することになった。意気消沈の時間はない。最善を尽くせ」

 と言い放つ。

 

 そんな時だった。

 「はぁ……はぁ……」

 勢いよくブリーフィングルームの扉が開かれたのだ。

 五人の視線が扉へ向けられると、そこには必死に息を整える若い女性がへたりこんでいた。

 「遅れ……ました。申し……訳……あり……ません」

 「来たか、ほら立て」

 「はい……」

 隊長が手を貸すと、恐縮した様子でその手をとる。

宮藤「彼女が……」

 ストームチームの面々には、彼女の顔は既に割れていた。

 

 彼女の名は、鷺本 唯(さぎもと ゆい)。本日よりストームチームのオペレーターを務めることになった新米である。

 先日まで作戦指令本部付きになっていた彼女は、本人たっての希望でストームチームに配属されたのだが、あろうことか初日から遅刻してしまったのだ。

 

鷺本オペ「うぅ……すみません。ご存知のとおり、本日からストームチームの専属オペレーターに就任しました、鷺本唯と言います! よろしくお願いします!」

 

 詫び言を述べ、羞恥心に涙を浮かべながらも、仕事モードに戻るべく気をつけの姿勢を取る。セリフからは一転、快活な印象を受ける姿を見せた。

 

 が、次の瞬間、更に彼女を不運が襲った。

 気をつけの勢いで手に持つバインダーが膝側面に直撃。鈍い音と共に「ひっ!?」と反射的に声を上げる。

早紀「ちょ……ちょっと落ち着きなさい」

 早紀は咄嗟にウォーターサーバーから水を汲むと、痛みを堪えて(うずくま)る彼女に差し出した。

鷺本「あ、ありがとうございます……ぅぅ」

八木「落ち着きましたか?」

鷺本「ふぅ……はい、大分落ち着きました」

 

 数分後、

鷺本「さて、お見苦しいところをお見せしました。改めまして、鷺本です。えーっと皆様は」

隼人「あぁ、よろしく頼む。鷲崎だ」

早紀「早紀です。よろしく」

八木「八木と言います。よろしくお願いします」

宮藤「宮藤です。よろしくお願いします」

 

  「ストームチームの総隊長を務めている。よろしく」

 

 唯一名を明かさない彼に、ストームチームの4人は苦笑いを送った。

 

 

 数分後、落ち着きを取り戻した鷺本は、ストームチームの面々を前に改まって告げる。

 

鷺本「本作戦は、今後の趨勢を大きく左右する重要な作戦です。フォーリナーは平原に戦力を集中させ、その物量をもって一気に本土を制圧するつもりでしょう。ですが我々はこれを許しません。平原を目指す敵勢力を急襲し、これ以上の戦力増強を防ぐことが、本作戦の前段階、もとい要となります」

隼人「本丸は叩かないのか?」

 敵の航空戦力が確認されていない今、最も早い決定打となろう戦法を、疑問に思った隼人が指摘する。

 しかし鷺本は首を横に振った。

鷺本「難しい状況です。平原には現時点でも多数のヘクトル群が集結しているのですが、同時にシールドベアラーも確認されています。空爆は効果が見込めず、歩兵を展開しての戦闘も、リスクが大きすぎます」

 "シールドベアラー"という、敵が新たに動員した防御スクリーン発生装置の存在。それが戦況の全てを覆したのだ。人類側の攻撃全てを防ぎきるそれは、厄介なことに味方の攻撃は防御スクリーンを通過させる。空爆はおろか、陸上戦力での突撃は、一方的に蹂躙されるのがオチだ。

早紀「そうね……」

 

 

 

鷺本「作戦指令本部は、本作戦を力押し(ブルートフォース)作戦と命名しました。その準備のために、私たちは営々とやっていかねばなりません」

宮藤「"力押し"ですか……正面からの乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負、負けることはできませんね」

鷺本「ストームチームはブルートフォース作戦への参加を命じられています。しかし、その勝敗の分かれ目となる下地を、確実なものにしましょう。ブリーフィングは以上です。各員の検討を祈ります」

 

 鷺本のエールに、闘志のこもった頷きが返される。

 

  「では解散!」

全員「「「ハッ」」」

 

 

【海岸近くの山岳地帯】

 

スカウト4《こちらスカウト! 巨大生物群が移動を開始。レンジャー3-1目指して進んでいます》

田中司令《了解した。レンジャー3-1、退却しながら、狙撃兵の射程内に敵を誘導しろ!》

隊長《レンジャー3-1、了解!》

 

隊長「出番だ、急げ!」

キャリー3「了解! しっかりつかまっていてください!」

隊長「ああ。ついてこいよ……蟻ども……」

 

ドライビンググローブに深いシワを作るように、しっかりとハンドルを握る運転手。

タイヤが土煙を舞い上がらせ、土を耕していくそのすぐ後を、赤い波が追いかける。

隊員A「グレイプの速度に追いついてきやがる!」

キャリー3「速度を上げます! 揺れますよ!」

運転手は手のひらを、ハンドルにくい込ませるかの如く、一層強く握り込んだ。徐々に痺れを感じ始めるが、それに構うこと無く握り続けた。

 

 被害を抑えるため、EDFは敵群を民家のない海岸に誘導。待ち伏せを行い、海岸に配置した狙撃兵及び戦車隊が迎え撃つことになっている。彼らレンジャー3-1の任務は、作戦エリアへ敵を誘導すること。

 武装装甲車両"グレイプ"に乗り込んだ彼らは、上下に激しく揺れる車内でこみ上げる吐き気に耐えながら逃走していた。

 

隊長「お前ら! 作戦はまだ始まったばかりだ。体調不良を訴える暇はな……グッ捕まれ!」

 何度も山道の凸凹や岩に乗り上げる荒々しさに、必死となって座席に体を固定する。

 幸いにも距離は縮まることなく徐々に離し始めていた。

 

 しばらくすると、緊張感とは無縁の煌びやかな海が広がる……はずなのだが、浜には無数の人影と爛々と照る太陽の光に主砲を輝かせる戦車部隊が車列を組んでいた。

 

田中司令《こちら作戦指令本部。レンジャー3-1による海岸への誘導が成功した。無数の巨大生物が接近している。総員、攻撃準備だ。レンジャー3-1、まもなく狙撃兵の射程内だ。急げ!》

隊長《了解!》

 

凄まじいブレーキ音と砂煙を伴い、グレイプは自陣に停車。隊員の1人が銃座へ付き、その時に備える。

隊長「降車!」

隊員達「「「了解」」」

隊長「キャリー3、世話になった!」

一言の礼も束の間、後部ドアが開くと日差しが一気に入り込んだ。眩しさに足を止める暇もなく散開し、迫る巨大生物群に向き直った。

 

隊長《レンジャー3-1、以降戦線に加わります!》

 

沢見戦術士官《巨大生物群、第一攻撃開始ラインを通過。レンジャー3-1、戦線に加わりました》

田中司令《よし。狙撃兵、戦車隊は攻撃を開始せよ》

 

 開始の合図を皮切りに、戦車隊の砲塔が一斉に動く。

 

ドーベルリーダー《ドーベルリーダーより各車。砲撃開始だ!》

 

 EDFの保有する戦車"ギガンテス"各車から、重い射撃音と空気の振動が重なると、赤色甲殻型巨大生物の前衛で続々と爆発が起こった。

 巻き上がった砂煙、そして仲間の死骸を乗り越えて、赤色甲殻型巨大生物群が押し寄せる。

 

レンジャー3-6隊長「スナイパー、射撃用意! 最前線で心置きなく撃てる機会だ。楽しめ」

隊員「「「Yes sir!」」」

 

 戦車隊の後方に控えたスナイパー部隊が、攻撃を開始。放たれた弾丸は前列の巨大生物の顔面や胴体、脚部に容赦なく損傷を与えていく。

 甲殻に弾痕を中心としてヒビが入り、足元へこぼれ落ちるが、赤色甲殻型巨大生物はその足を止めない。自分の一部だったものをクッキーのように簡単に踏み潰し、出血しながらも、目前の人間を捕食するという一つの本能をもって凶暴に足を動かしている。

 

隊員A「流石の生命力だなぁ!」

隊員B「次々と後列の敵が湧いてきます!」

3-6隊長「前衛部隊を信じろ!一体でも多く仕留めるんだ」

部下を励まし、取り巻く焦燥感を戦意に転じさせる。その甲斐あって、敵を見据えた隊員達のコッキングに要する時間はコンマ秒となり、殲滅速度が若干向上した。

 

レンジャー3-1隊長《近づけはさせん!》

フェンサー4-5隊長《任せておけ。一匹たりとも通しはせんわ!》

田中司令《こちら作戦司令本部。敵群が前衛攻撃開始ラインを通過。ストームチーム、レンジャーチーム、フェンサーチームは即時攻撃を開始せよ。狙撃兵とハンドキャノン部隊は、前衛部隊を掩護》

  《ストーム、了解》

3-1隊長《レンジャー3-1、了解》

4-5隊長《フェンサーチーム、了解ィ!》

田中司令《ドーベルリーダー、隊列を整え丘へ展開。側面からの面制圧で、一気に勝負をつける!》

ドーベル1《ドーベル、了解!》

合図を皮切りに、ドーベル戦車隊が移動を開始。浜から内陸側の丘へ一列に進むと、赤色甲殻型巨大生物群の側面に展開した。前衛部隊への被弾を防ぐ、そして群れ中腹~後列を攻撃するためだ。

田中司令《ストームチームはドーベルを掩護せよ》

 

3-6隊長「前衛部隊と敵が接触した。以後、前衛部隊の掩護に注力する。絶命するまで撃ち込め!」

隊員達「「「了解!」」」

 

 前衛部隊の掩護を開始したスナイパー隊の前方では、レンジャー3-1やフェンサーチームが赤い波をせき止めている。

 レンジャー3-1が装備しているのは先日配備が成されたAF17アサルトライフル。AF14の正統な改良型で、AF14がその甲殻に威力を相殺されてしまうのに対し、本体の改良と使用弾薬の変更によりカタログスペック上、赤色甲殻型巨大生物へダメージを与えられる貫通力と威力を得ることができた名銃である。

 発射された弾丸は確実に、甲殻に突き刺さるだけに留まらず体内へ達していた。

 

 群れから孤立した個体がレンジャー3-1へ肉薄するも、一人が赤色甲殻型巨大生物の腹部に潜り込み、下腹部へ弾丸をありったけ撃ち込んだ。絶命し地に伏せる巨体の下敷きになる前に前転回避し、立ち上がると次の目標を捉える。

 

 フェンサーチームは近距離戦闘用のブラスト・ホール・スピアや中・遠距離戦闘用火砲、"NC101ハンドキャノン"で武装している。

 酸噴射の能力を持たない赤色甲殻型巨大生物は、重い一撃と圧倒的な殲滅力を謳うフェンサーと実際の威力の前にほぼ一方的な殺戮を受けていた。運良く隊員たちの懐に入った個体であっても、まもなくブラスト・ホール・スピアで突き抜かれ、ハンドキャノン部隊による中距離からの徹甲弾の雨が完膚なきまでに顔面や胴体を三日月型に、そして粉々にしていった。

 

 さらに、雷撃や連続した射撃音。間髪入れず弾幕が前列個体の仮面を物量に物を言わせて剥がし、露わになった生身を引き裂いていく。さらに雷撃が甲殻を焦がすと、まるで枯葉を揉み潰したかのようにこぼれ落ち、そのまま皮膚を焼かれ絶命した。

 その正体はストームチーム。ウイングダイバーの扱う光学兵器と、フェンサー用にカスタマイズされた個人携帯用ガトリング砲が丘の上から巨大生物群中腹を一網打尽にし、群れから離れ、戦車隊をロックオンした個体は肉薄を許されることなくアサルトライフルに狩られていく。徐々にレンジャー3-1が前進を始め、ほかの部隊も続く。赤い波はせき止められるどころか、追い返されるのだった。

 

 

【ストームチームサイド】

 

鷺本《ストームチーム、お疲れ様でした。無事の帰還、お待ちしております》

  《ああ、ストームチーム、これより帰投する》

 

まもなく殲滅が完了し、事後処理作業に入っていた迎撃部隊は、完全に気が抜けていた。

その安堵が彼らへ近づく脅威に隠密性を与えたのか。

 

 

スカウト4《こちらスカウト! 巨大生物が海岸に向かっている。すごい数だぞ!》

 

沢見戦術士官《新たな巨大生物を確認。作戦エリア一点に向かっています》

 

レンジャー3-1隊長「ん? おい! 敵の反応だ!」

 

突然の報告からレーダーで観測できる距離に侵入される、もとい、レーダーに表示されるまでの間、部隊は焦りと喧騒によって弾倉を取り落とす事態もしばしば、なんとか戦闘態勢を整えたのであった。

田中司令《レーダー上に確認。赤色甲殻型巨大生物の大群が後方に展開している。狙撃兵と戦車隊は浜へ後退、出来るだけ距離をとり、戦闘態勢を整えろ。前衛部隊は、後衛部隊の移動を掩護。ストームチームは……

 

鷺本《承知しました。ストームチームは各個に赤色甲殻型巨大生物の殲滅に動いてください。戦車部隊の掩護はレンジャーチーム、フェンサーチームが行います》

 

この作戦が開始される前、「ストームチームは攻防において戦場を縦横無尽に動くことが性に合ってる」と、隊長が田中司令へ言い放ったこの言葉。各員共に頷かされた。

 

  「了解した。隼人、宮藤、八木は前衛部隊のバックアップ、俺、早紀はこの場で食い止めるぞ。各員の判断で、敵を攻撃せよ」

隊長はそう言い終える前に大口径狙撃銃”ストリンガーJ2”*2のトリガーを引き、発射された弾丸は丘を闊歩する赤色甲殻型巨大生物の顔面に大きな円形の風穴をあけた。

 

 

【数分前、近くの市街地】

 

武内「くそ! この数どこから湧きやがった!」

向かってくる黒、赤色の巨大蟻へ吐き捨てるように言った武内へ、その隣で比較的冷静な先輩自衛官の藤山が、銃撃に掻き消されんばかり中で声を張り上げ、笹原に答えた。

藤山「突然街の中心部の地中から発生したらしい!すでに中心部に展開していた部隊からの通信が途絶えたと。中心部から1km圏内の部隊には撤退命令が出ている」

武内「なっ……そうですか……」

疑問として言い放った訳では無かったのだが、返ってきた答えに驚愕する。

苦渋に満ちた表情をする武内達。こちらも撤退に移りたい気持ちがあるものの、命令、そして国防組織の一員たる誇りがその猶予を与えない。そんな悲観的な彼らのもとへ、またも新たな巨大生物群が到着する。

藤山「くるぞ! かまえろ!」

武内「はい!」

 

陸上自衛隊は、局地的なEDFの誘導作戦と同時に、巨大生物の群生地となった市街地の奪還作戦を展開していた。しかし状況は芳しくない。戦闘員が減っていく一方で、敵巨大生物群はなおも数を増やし続けていた。

 市民、そして恐怖を刷り込まれた隊員が必至の形相で逃げるが、中心部からあふれ出す巨大生物群に捕らえられ、捕食されていく。その様子は武内、藤山の居る都市~住宅地の移り変わる地点の防衛線まで達し、二人の目の前でも繰り広げられていた。鳴りやむことのない金切り声が隊員達の精神を蝕み、闘争心や何もかもが朦朧とした瞬間、戦闘員、逃亡者関係なく巨大生物の餌となる。

 更に巨大生物群の規模も徐々に増していき、89式小銃等、歩兵用の火器では抑えきれなくなっていた。MINIMI機関銃の弾幕は使用者の殉職とともに止み、84mm無反動砲も撃ち尽くしてしまったのだ。

 

藤山「ぐああああああ!」

武内「藤山さん!」

 

 甲殻に突き刺さるだけの5.56mm弾では太刀打ちできず、赤色甲殻型巨大生物の肉薄を許してしまった藤山が噛みつかれた。左腕から発した痛みの落雷に、意識が焼き切れそうになる。気づけば左腕は赤色甲殻型巨大生物の口の中に消え、藤山を咥えたまま赤色甲殻型巨大生物は防衛線を突き進んでいった。更にその個体の防衛線突破に注意を向けてしまった隊員もまた、その瞬間の甲殻型巨大生物(通常種)の接近に気づけず、酸の直撃で肉塊となった。

 数秒後、後方では藤山が巨大生物の銃弾の通る口内にありったけ撃ち込み、なんとか脱出したようだ。

 一命をとりとめた先輩の姿を確認するが、ホッとする間もなく、迫る巨大生物に応戦する。

 

藤山「ぐっ……」

武内「ここももう持ちません! 撤退しましょう!」

 

 必死の形相で訴える武内に気圧され、分隊長は無線機を雑に握りしめた。

 

分隊長「ああ! CP、こちら第三防衛ライン。巨大生物群の猛攻により部隊は壊滅状態! 撤退の許可を願う! 送れ」

 

CP《こちらCP。第三防衛ライン、撤退を許可する。救援部隊が既に展開中、そちらに向かわせる。送れ》

 

分隊長「こちら第三防衛ライン、了。こちらは分隊車両に負傷者を収容し、戦線離脱を試みる」

 

CP《了、終わ……撤退ルート上に巨大生物群出現、救援部隊と遭遇した。すまない……いやまて、HQより、「EDFが援軍要請を受理。作戦エリアへ既にウイングダイバー隊が向かっている」らしい》

 

怒号を準備していた分隊長が、一転して喜々として応えている姿を横目で見ると、

 

 

武内「くそ……またEDFかよ……」

 

と呟いた。

 

武内は目の前に広がる死屍累々の、恐怖に歪んだ陰惨な相貌を目にしてしまい、EDFの到着に縋るかの如く祈り続けるのだった。

 

 

 

【海岸:作戦エリア】

 

  「さて、こいつを試してみるか」

早紀「隊長、それは……なんですか?」

 

 隊長が手に持つ"それ"に、早紀は目にした途端呆れてしまった。

 それはなぜか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その手に握られていたのは、一丁の水鉄砲だったのだ。

 

 

 

  「こいつか? こいつは、武器開発ラボから依頼された試作品だ」

早紀「え? いえ、でも……それはどう見たってただの水鉄砲……」

  「いや、れっきとした武器だ。中身は強酸だと。武器の名前は……『アシッドガン』だそうだ」

早紀「何故隊長もちょっと乗り気なんですか……」

 

 

 武器開発班曰く、

研究員「巨大生物の甲殻、機械兵器の装甲を貫通する、というスペック思想を取っ払い、敵を融解させるといった戦術を体現化しました。そして、なんといってもこの見た目! 反EDF派の言う武骨で荒々しい見た目ではありません。小型化すれば、ただの水鉄砲(おもちゃ)として販売も可能です! EDFに対する市民の意識向上も図れるってもんですよ!」

 

 隊長は渡された水鉄砲の全身を見る。どこまでも水鉄砲だ。

弾倉にはラベルが付いていた。「巨大甲殻虫をノックアウト!」という謳い文句が書かれている。

 

 ――大丈夫なのだろうか。EDF武器開発ラボ(ここ)は。

 

  「まあ、強大な軍事力を持ったEDFの物々しさを緩和するような見た目ではあるが……気は確かか?」

研究員「勿論ですとも。つきましては、ストームチームに実地試験を依頼したいのです」

  「……待て。まさか実戦配備まで考えていないだろうな」

 

 いったん飲み込んだが、恐る恐る問う。

 研究員は、悪びれる様子もなく満面の笑みで答えた。

 

 

 

  「……というわけだ。一周回って試すのが待ち遠しくなってきたんだ」

 

 冗談を言う隊長。笑い話をする彼を、早紀は冷めた目で見た。

 

早紀「ふざけてますね」

  「言うな。これでも火力(?)は相当なものらしい。さあ、くるぞ。射程内だ」

早紀「ちょっと……隊長!」

 

 部下の反対を押しのけ、目前へ迫る赤色甲殻型巨大生物に狙いを定めた。

隊長が「噴射!」と吼え、トリガーが引かれる。射線に沿って地面の草花が煙を上げだした。人類に対し猛威を振るった酸噴出攻撃。その巨大生物の研究により開発された強酸が自身の身に返される恐怖を、果たして虫たちは感じるのだろうか。勢いよく噴射された深緑色の液体は容赦なく雨となって降り注ぎ、赤色甲殻型巨大生物の甲殻をコーティングしていく。

 強酸を被った箇所が液状化し、まず一体の関節部が溶けた。続けて複数体が己の溶け行く現実に悲鳴を上げる。触覚を無くした個体が訳も分からず同士討ちを始めた。肢体が溶けた個体は胴体をクネクネとのたうち回る。

 

 早紀は目の前に広がる惨状に、ふと人間を重ねてしまう。

巨大生物の襲撃によって悲痛の叫びを上げる人間達。体を芯から震え上がらせるような恐怖が脳をよぎった。

 

 同じことを思っていたのか、隊長もヘルメットの中の表情が曇っていた。目が合うと、隊長も早紀の様子を察したようで、

 

早紀「隊長……」

  「同じ意見だ。この武器は確かにとてつもない威力だが、残酷すぎる」

 

 無言が続く。無残に息絶えた複数体の赤色甲殻型巨大生物を眺め、二人は武器を持つ手に脱力感を覚えた。

 そんな二人のもとに、他の面々が駆けつける。

 

隼人「隊長! 殲滅完了しました。部隊への損害は軽微です……!」

八木「現在帰還準備、他の作戦エリアへの救援の有無等、確認していま……えぇ!?」

宮藤「これは……例の武器。なんというか、えげつないですね……」

  「ああ。人類が、俺たちEDFが持つのは憚られる。そんな力のようだな」

 

 彼らの目前には、煙を発する草木の朽ち果てた大地と死に絶えた巨大な赤蟻のみが広がっていた。

 

 

 

【海上】

 

 

副長「艦長! 来ます!」

艦長「撃て! 本土に上陸させるわけにはいかん!」

砲雷長「魚雷発射! ……駄目です。軽微なダメージすら与えられていません!」

艦長「だが、出血はしている! 傷口が徐々に塞がれてしまうのには驚かされたが、ありったけ撃ち込めばやつは! 再生速度に勝る火力を叩き込むんだ!」

副長「! こんごうから艦対艦ミサイルが発射。着弾、敵損害見られず!」

 

艦長「諦めるな! この場にいる全艦に通達。全門、火力をもって敵を攻撃せよ!」

 

すぐに艦内が慌ただしくなり、短魚雷発射管、62口径5インチ砲、54口径127mm単装速射砲など、持てる火力の全てをつぎ込んで、"それ"を相手取る。

 

 

 

……が、

重なる巨大な黒煙からは、一切傷の見られない皮膚が薄っすらと姿を現した。

 

艦長「馬鹿な……」

副長「艦長! 見てください! 黒煙からなにか、光が……」

艦長「なに!?」

 

 

 

 

 なにやら帯電するかのごとく、青い光が黒煙から漏れ出した。帯電する者、それは……

艦長他艦橋に居た人々に限らず、内部で作業していた整備士たちも不穏な空気を感じ取り、一人残らずその不安への警鐘を鳴らした。だが、それは遅すぎたようだ。

 否、遅すぎたと思い立つより先に、彼らの意識は途絶えた。

 

副長「うわあああああああああああああああああああああ」

艦長「おのれぇぇぇぇぇ!」

 

まばゆい光に包まれる。刹那、護衛艦群は爆炎に包まれ、爆発に巻かれた艦長たちは全身を焼き尽くす熱気を一瞬だけ感じ、この世を去ったのだった。

 

 何かが直線状に放たれたのか、海が穿たれていた。時折黒煙からはみ出す爬虫類の口のようなものから、若干光が残滓として残っていた。

 

 後に残ったのは、無残に破壊された護衛艦の残骸と、急な温度上昇に伴った水蒸気に覆われた海面。

そして、巨大な生物だった。悠々と日本国土へ泳いでゆく、否、海底を踏みしめて歩いていく巨大な()()

 対怪獣級の力を持っていた筈のEDFと海上自衛隊の連合艦隊防衛ラインは、易々と突破されたのだった。

 

*1
正距方位図法で描かれた世界地図を覆う、額に"E.D.F"を象った連合地球軍旧標準装備(最初期デザイン)のヘルメット両側を、平和の象徴であるオリーブの葉が囲んでいる。これは全人類のため、ひいては地球上全ての恒久的な平和の実現を目標とする組織であることを意味している。

現在までに2度のデザイン再考が行われ、2015年時は研究員の外勤時に白色のヘルメット(モデルはEDF2)、2017年より軍隊化に伴いオリーブ色、隊長格は真紅に色分け(モデルはEDF3)、2020年時、隊長色がやや明るくなり、また配下の部隊は装備によって緑、群青、茶色、等一目で見分けがつくようになっている(モデルはEDF4.1)。※一部作者の独自解釈

*2
凄まじい破壊力と貫通力を持った大口径の狙撃銃。赤色甲殻型巨大生物の装甲に最適化されており、容易く風穴を開けることが出来る反面、貫通力を高める特殊機構と弾丸の大型化の代償で装弾数が一発のみとなっている。




自衛隊の悲壮感とEDFのバカらしさが対照的すぎて違和感を覚えましたが、保有する武器弾薬がどの敵性勢力に対してなのか、棲み分けしてる感じです。ちなみに米軍は積極的にEDFとの技術提供行ってそうです。

学業・生活優先で時間割けずにいましたが、やっぱ悠々と趣味として書くのは楽しいですね。
ペコリ((・ω・)_ _))

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