地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

40 / 44
新年、明けましておめでとうございます。
今年も変わらず投稿を続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。(投稿ペースは上げたい……)

今回は本編が短いということもありそれ以外の部分を長々と描写しております。


26話 銀糸の都

 日はすでに傾き、車窓から顔を出せば斜陽に視界を遮られる。

 宮藤、隊長の二名を乗せた武装装甲車両"グレイプ"は作戦の帰途についていた。

 マザーシップ撃墜作戦はマザーシップの逃走という形で失敗に終わり、宮藤はマザーシップの猛攻に心を挫きかけ、作戦に参加した他の部隊も失意のうちに敗走する結果となった。

 未だ悪寒が抜けきれていない。宮藤は己の無力さに俯きその顔面は蒼白になっている。

 しかし宮藤と向かい合わせに座る彼の部隊の隊長である彼は静かに目を閉じ、揺れる車内に体を預けている。いたく冷静な様相だった。

宮藤「隊…長…、隊長はお強いですね」

  「……」

 宮藤の掛けた言葉に反応するように彼は目を開いた。下を向いたままだった顔がゆっくりと宮藤を捉える。

 次の言葉を探すまでもなく、自然と言葉が紡がれる。

宮藤「あれだけの力の差を見せつけられて……私は逃げることしか出来ませんでしたよ……」

  「……」

宮藤「ストームチームに配属が決まってから今まで自惚れていました。"7年前の巨大生物掃討に時を合わせて解隊されてから巨大生物再出現に鑑みて再編成された()()のチーム"への配属。()と同じ部隊に立てたという錯覚に魅せられていたんです。いざ敵の母艦を目の前にしてそれを思い知りました」

 暗いトーンであったが"伝説"、"彼"という言葉を強調した時、向かい合った彼の眉がピクリと動いた。

宮藤「隊長は、"マザーシップを撃墜した英雄"をご存知ですか? いや……」

  「……」

 黙りながらも深く息をする彼。真っ直ぐな眼差しは尚も宮藤を見つめる。二の句を待っているようだ。次の言葉は想像に難くない、彼も覚悟を決めてたような顔だった。

 宮藤の口調は既に本気のものになっている。

宮藤「……隊長が、伝説の英雄であらせられますか」

 宮藤は生唾を飲み込む。

 その言葉が発せられた直後、グレイプの壁にもたれ掛かり、彼は瞑目していた。

 そして彼の返答を待つよりも先に宮藤の脳には過去の記憶が流れていた。

 

 

==================================

 

宮藤「ここがストームチームの宿舎……」

 宮藤はストームチームと書かれた板を見つめる。嗅いだら塗料の匂いが香りそうなほどつい最近に作られたであろう板に心を躍らせたその時、後方から声が降って湧いた。

八木「こんにちは、もしかして今日配属された方でしょうか」

ヘルメットを脇に抱えたエアレイダー装備の青年が立っている。

宮藤「え、ええ。本日づけでストームチームに異動しました。宮藤です」

八木「八木です。よろしくお願いします」

 

 年若い風貌だがここに配属されたということはそれなりの実力を有してのことなのだろうか。

八木「来て早々ですが、中で田中本部長、そして召集された他の皆さんがいるはずです。いきましょうか」

宮藤「そうですね」

 二人は玄関を抜け、廊下を進む。目的地は廊下の最奥にあるブリーフィングルームだ。

 しばらく床が軋む音を奏で、長めのひと呼吸のうちに"ブリーフィングルーム"というプレートの前に立つ。

 一度取っ手に手を伸ばすが憚り、再度手を伸ばしてしっかりと握り締める。そして扉を開けた。

 目に飛び込んできたのは広い会議室の中心に置かれた会議テーブルとパイプ椅子。

 まだ施設が新しいため、内装も乏しいのだ。

 既にそこにはヘルメットを脱いだレンジャー隊員、ウイングダイバー隊員が座っている。が、こちらに気づき立ち上がった。

 

隼人「入ってこられたということは……第2特戦歩兵連隊、第1中隊第7特戦歩兵小隊から異動してきました。鷲崎隼人です。よろしく」

 気さくだがどことなく一匹狼のようなオーラを纏っている。付き合いやすそうだ。

早紀「私は第1連隊隷下第1特戦歩兵中隊、第4降下翼兵小隊から異動してきた風舞早紀と言います。よろしくね」

 入室時からどこか声のトーンが暗く、それが平常で物静かな女性かと思ったが、ウイングダイバー4といえば先日新種の巨大生物の攻撃で壊滅状態に陥った部隊。その生き残りらしい。その目はどこか空虚なようで、ストレスに苛まれている感じだが、元の性格は活発そうな印象だ。

八木「改めて。僕はEDF訓練学校第7期卒業、今年度ですね。八木翔一です。ビークルや支援要請などバックアップを担当します。若輩者ですが伝説のチームの足を引っ張らないよう尽力します。皆さんよろしくお願いします」

 紛れもない最年少だが訓練学校を出たばかりらしい。首席ということだがいざ実戦となったら不安だ。

 

宮藤「本日より第1連隊隷下第3中隊第1二刀装甲兵小隊から異動してきました。宮藤龍馬です。よろしくお願いします」

 

 四人が自己紹介を終えた時、扉が再度開いた。田中本部長と、傍らには……

 考えが続かぬうちに田中本部長が四人と目を合わせ沈黙を破った。

田中本部長「これで全員だな。君達は本日よりチームとして行動してもらうことになった。新生ストームチームとして、地球を守る任に就くのだ。……と、言いたいところだが施設が乏しいうちはチームらしい行動は難しいだろう。それに実戦における個人の戦闘力をはかる良い機会だ。しばらくは遊撃要員として単独行動を行ってもらうことになるだろう」

 

田中本部長「しかし任務によってはチームとして動く場面もある。その時の指揮は彼に一任することになる」

 その言葉に隣の彼が小さく頷いた。そして一歩前に出ると彼もまた口を開く。

  「新生ストームチーム隊長の……隊長を務める。よろしく」

 一度言い直した。まあ指摘せずにいるべきだろう。

 寡黙で実力が計り知れない人物だ。

 ふと田中本部長を見ると彼を横目に肝を冷やしたような顔をしたが、すぐに表情を正すと咳払いし、仕切りなおした。

田中本部長「元より新生ストームチームは小隊規模で動くチームとして構想されていたがお前たちは一騎当千のチームであるべきだと苦言を呈したのは私だ。では、本日は非番とし、明日より任務に就いてもらう。以上だ」

 再結成が可決された直後は様々な分野のエキスパートを選出しオールマイティなチームを作る構想が有力だった。しかし、田中本部長は個人の戦闘力などを重視した少数精鋭のチームであることにこのチームの意義があると説いたのだった。

 

 そう言い残し、田中本部長は退室していく。

 部屋には新生ストームチームの面々だけが残った。

 続く沈黙。しかし最初に沈黙を破ったのは隼人だった。

隼人「隊長。隊長のお話をして頂いてもよろしいでしょうか。この時間はこのまま親睦を深める意味で談笑といきましょう」

  「わかった。何が聞きたい?」

 含み笑いを漏らし、腕を組んで構える。気難しい雰囲気が少し崩れた。

隼人「そうですねぇまずは……隊長のお名前とかですね。先ほどの紹介で一瞬口を噤んでいられたといいますか」

 少し顔をしかめたが目を閉じ何か考え込む姿勢をとる。

  「……五十嵐だ」

隼人「五十嵐隊長。改めて、こちらからも自己紹介を」

 

 他2名がどう感じたかは分からずじまいだが、少なくとも宮藤は偽名なのではないかと疑う間であった。事実、偽名であることが後に証明されることになる。

 自己紹介を終え、質問の順番が宮藤に回る。

宮藤「私からは少し踏み入れた質問を。隊長、ここに到着する前に書類を拝見しました。隊長は8()()()()()()()()()()()のお一人だとか」

 宮藤がわざと強調すると3名から驚きの声があがる。

  「…それが、どうかしたか?」

 隊長の顔は先程までの皆に見せた柔らかさは無くなり真剣な物になっていた。声色も冷淡になっている。これ以上詮索するのは不味いだろう。しかし言いたいことは全て喋ってしまいたい衝動に駆られた宮藤はそれでも躊躇いはない。

 紙面の経歴欄には、紛れもないEDF陸戦部隊に8年前以前から所属しているという証明があったのだ。

宮藤「いえ、他意はありません。私はただ、()()ストームチームの隊長を務められる方がそういった経歴の方でなければ従えないと思ったからです」

 どう捉えようとも喧嘩腰な宮藤に、隊長は顔を顰め、両者は睨み合う。八木はえも言われぬ思いで胃が苦しそうだ。常人であればすぐにこの場を離れたくなる。そんな空気が流れていた。

  「俺は前大戦を最初期から前線で戦い続けた。それだけでもちょっとした英雄扱いだが他の戦い抜いた隊員達も同様にあまり話に出されたくないんだ。こんな空気にしてしまったことは許してくれ。質問は以上か? 無いならば私は退出させていただくが」

 と言葉では言いつつも居心地悪く感じているようだった。

 8年前からEDFに存続している隊員達、宮藤の最も身近に居たのは同連隊に所属するレンジャー1-2の葉山と結城だがその二人からも断られている。8年前の戦時中はそれこそEDFの空気は最悪だっただろうし、血生臭い日々だったのだ。話すことを憚られるのは当然だろう。

 しかし個人の練度もまた、彼らが飛び抜けていることも事実。

 

 そしてストームチームの顔合わせが行われた次の日、それはストームチームの面々が認識することになる。

 それは市街地に出現した甲殻型巨大生物群を掃討する任に就いた時。8年前より強靭で凶暴となった奴らに対し、日々の演習通りにしかこなせず実際の攻撃パターンに四苦八苦する4名だったが隊長は、まるで寄せ付けず一方的な殲滅で敵を完封して見せたのだった。それは確かに8年前を生き抜いた戦士というに相応しい戦いを披露し、さらにその戦いぶりに同行した若い人材の多いレンジャー部隊の隊員たちの度肝を抜いた。その戦場は彼の独壇場となっていた。

 

 宮藤は確信した。彼が"マザーシップを撃墜した英雄その人"なのだと。気のせいではない、本物の英雄。にわかに信じがたい事ではあるが、"一騎当千の兵士"という言葉が適当な人物。それが英雄の特徴であり伝説。絶対的な確信がそこにはあった。

 

 

==================================

 

 

  「ああ、了解した。宮藤……どうした?」

宮藤「え? あ、隊長?」

 物思いに耽っていた宮藤はハトが豆鉄砲を食らったような顔を晒している事に気付き、咳払いをする。

  「すまない、今、その問いに答えることは出来ない。だが、帰還したら教えてやってもいい」

田中司令《本気で言っているのか貴様!?》

  「ふん……彼らには知る権利がある。別に秘匿する必要はないだろう」

田中司令《許可できない》

  「何故だ?」

田中司令《それは》

  「いや、答えなくていい。彼らは俺の部下たちだ。隠していても溝が生まれるだけさ」

 宮藤は再び間の抜けた顔で田中司令と交信する隊長を見た。知らぬ間に本部と繋がっていた事も驚きだが、二人の距離感にも驚いているのだ。

 そして宮藤はもう一つ、今までの会話を思い返す。隊長は……自身に関する不安や疑いを晴らすと約束を取り付けてくれたのだ。

 胸を躍らせる宮藤。しかしそうは問屋が卸さない。

 

田中司令《貴様は……もういい、貴様との口論は時間の無駄だ。任務に集中せよ》

 食らいついた田中司令であったが、そう吐き捨て、その口調は徐々に私人から一司令官のものへと変わる。

宮藤「すみません隊長。任務というのは……」

  「本部から通達だ。街の奪還、この先にある街が巨大生物群にたった今占拠されたらしい。現在警察の応援が向かっているそうだが……今から向かうぞ」

 内容を聞いた途端、宮藤が俯く。彼は失意の底にあった。

宮藤「……すみません、自分は……戦えません」

  「……なぜだ」

宮藤「私は……さっきも言ったじゃありませんか。自惚れていたんです。あの力は……到底太刀打ちできるものじゃない」

 宮藤は唇を噛んだ。

宮藤「――私は! 何も出来なかった! それが悔しいのです! 仲間も守れない……それでストームチームなんて名乗れるわけがない!」

 宮藤は語気を荒げ、勢いづく自分を押さえ込められずに吠えた。

  「宮藤!」

宮藤「私がストームチームなんて……夢物語だったんです……」

 気付くと大粒の涙が戦闘服に落ち、それ以降は止まらなくなっていた。だんだんと外界の音も薄れていく。暗い穴の底へ落ちていくような感覚。言葉による自傷。

  「宮藤!」

宮藤「……ッ!」

  「落ち着け……落ち着くんだ宮藤」

宮藤「……」

  「少し、昔話をしよう」

 突然の言葉に呆然とする。突然だった。彼からこんな言葉が出るなんて。

 向かい合った彼は、どこか遠い目をしながら秘匿された過去を話しだした。

 

 

==================================

 

 俺には昔、妻がいた。

 彼女は正義感が強く、困った人がいればすぐに飛んでいく最高のお人好しだ。しかしどこか抜けていて、とても愛らしい女性だった。

 

 このまま彼女と人生を共にする決心なんぞ、即決だったさ。

 しかしその矢先……彼女は死んだ。

 2013年のある日。南スーダンの多くの避難民を抱える宿営地でそれは起こった。

 一発の銃声はそれ以上の怒号と悲鳴を引き起こすのに十分だった。

 宿営地の近くで衝突があったのだ。

 たちまち現場は緊迫、俺たちは暴動が沈静化するまで警戒を余儀なくされ、WAC数名を含む部隊が収容した怪我人の元へと医療施設(テント)に向かうため少し前衛に出た。それが裏目に出た。

 駆け込んだテントは、運悪く骨組に当たった流れ弾に倒れ、彼女たちはその下敷きに。そこからいち早く彼女は這い出た。だが、理不尽なことに次の瞬間。

 いつしかカラシニコフ突撃銃で装備した男が小路から侵入していた。

 その男は彼女を見つけるや否や掃射。数発の銃弾が彼女を穿ち……

 男はその場で射殺され、犠牲は彼女だけ。俺には耐え難いものだった。

 

 そこから先はよく覚えていない。

 気が付いたら日本に送還され、自衛官を辞めて路頭に迷っていた。

 心の拠り所であった彼女が死んだ俺には、もはや何も残っていなかった。肉親は既に他界していたし、他に身よりもいない。しかしなぜだろう。不思議と体は動いていた。気づいたらEDFに身をやつしていたのだ。

 

 そしてもう一つ。彼女が息を引き取る直前、紡いだ言葉がある。それだけは一度も忘れたことはない。

 彼女は……こう言っていた。

 ――貴方が、どれだけ手を伸ばしても……どれだけ足掻いても……助けることの出来ない命。死からは何者も逃げることはできないものなの。それが運命なんだから。でも、人にはその運命に抗う力がある。その犠牲の分だけ助けることの出来る命は存在する。一人につき何人だって。それもまた運命。悔やんではいけないの。悔やんでいたら救える命も失ってしまう。だから貴方は、戦い続けて。救える命をがむしゃらに救うの。そうでないと私、安心して向こうに行けないわ……

 冗談でも言ったようにクスリと笑った彼女。

 泣き叫ぶ俺の目の前で、自分の正義を全うした素晴らしい女性が息を引き取った。

 

 それからは、敵を殺すのに躊躇は存在しない。彼女の言葉を、死を糧に生きてきた。伝説の英雄なんて、大層なものじゃない。彼女に心酔した、彼女の亡霊に囚われたただの殺戮マシーンなのさ。俺は。

 

 

==================================

 

 宮藤は驚愕していた。目の前にいる男は最愛の女性の最期を見届け、亡き妻に今もその人生を捧げる哀れなただの人間だったのだ。

 それに比べ自分はどうだ。生半可な正義感を抱いて満足にいかなければ、簡単に投げ捨てる。それでいいのか。

 宮藤の胸の内にふつふつとある感情が芽生える。

 その感情は宮藤の背中を押すのには十分であった。

 宮藤にとって彼の存在が、熱をもってより大きくなっていく。

  「……」

宮藤「隊長。隊長の生き様、敬服しました。自分も一役買わせてください」

  「いいのか? もう後に戻れなくなるぞ」

宮藤「それでも構いません。私は一人の武人として、いえ、ストームチームの一員としてすべきことを突き通します」

 そのセリフには、決意が満ち溢れていた。涙もすでに止まり、乾いた涙痕の感触に頬をピクリと動かす。

 

キャリー1「ストームチーム、出撃準備を! ここから先は敵の巣窟です!」

宮藤「ああ! 分かっている!」

 グレイプが急停止する。

 飛び出すとそこには、ビル間に無数に張られたレタリウスのネット、そして地上を我が物顔で歩く蜘蛛型巨大生物の大群が巣食っていた。その群の後ろには盛り上がった土――すなわち巣穴への出入り口がある。

 市民は既に避難が完了しているようだ……少なくとも人気はなくなっていた。死体を除いて。

 レタリウスの張ったネットには大人子供が関係なく貼り付けられネットを真っ赤に染めている。その液体は静かにアスファルトに滴っていた。さらには勇敢にも避難誘導を敢行した警官隊の死体もある。

 しかし宮藤は動じない。

 

 何もかもが吹っ切れていた。

 ストームチームの到着に時を合わせ、田中司令声が響く。

田中司令《こちら作戦指令本部、蜘蛛型巨大生物を殲滅しろ!》

宮藤&隊長「「ストームチーム。了解した」」

 その瞬間、二人は一心同体となった。

 宮藤は満身創痍の体にアドレナリンを漲らせ、ブラスト・ホールスピアのトリガーにかける指に力を込める。そして力を振り絞った。瞬間的に撃ち出されたプラズマが一直線に蜘蛛型巨大生物を穿つ。

 隊長たる彼はおもむろにスティングレイランチャーを構え、レタリウスに向けて射撃。そして着弾。

 レタリウスの外皮が焼け落ち、続け様に撃ち込まれたロケット弾が追い打ちをかける。

 たった二人の兵士によって、難攻不落の蜘蛛たちの巣は瓦解した。

 しかしやられるだけではない。

 一匹が放った糸が宮藤の足に粘着。バランスを崩した宮藤は地面に激突し、ヘルメット越しに憤怒の形相を向けた。

 だが蜘蛛型巨大生物は気圧されない。

 彼に止めを刺すべく糸を吐き出そうとした、その時だった。

 無数の銃弾が蜘蛛型巨大生物に殺到。蜘蛛型は悲鳴に似た奇声をあげ絶命した。

 突如宮藤の目前に一人の影が現れた。橙色に染まる大地に黒い影が落ちる。

 隊長だった。彼は宮藤へ手を差し出し立たせる。

 無言で頷くとすぐにスラッグショットガンを構え直し、さらに一匹の蜘蛛型を仕留めた。

 

 それからは消化試合だった。ストームチームが巨大生物群を圧倒したのだ。

 

 

【避難所】

 

 街から少し離れた避難所では、陸上自衛隊の護衛の元、避難民に対するケアが行われていた。

子供「おじさんありあとう!」

萩村「ほら、早くお母さんの所へ行ってきなさい」

子供「うん!」

 ちくわのパックを両手に抱え、パタパタと走り去っていく子供を見つめる。自衛官達、そして避難民達には少しずつ笑顔が戻っていた。

 

富塚「現在、該当エリアにEDFが到着。奪還作戦を敢行しているとのことだ」

木部「作戦の成功を祈るばかりですね……」

 地平線に沈む夕日の眩しさに手で目元に影を作る。

 

 彼らのそばにある支援物資の箱の上には、電源の入ったラジオが置かれている。音質も悪く、今にも消えそうな音量だった。

 

アナウンサー《戦局報道です。世界中至る所に大型円盤が飛来。巨大生物が投下された地域は、8年前と比べて広範囲に及んでいます。EDFは駆逐作戦を展開していますが、戦力を分散せざるを得ず苦しい戦いが続いています。……只今入った情報です。EDF JAPANは、日本に飛来した大型円盤群の大多数を撃墜することに成功。さらに、関東から東北地方に散開していたフォーリナーの機械戦力を撃滅したとのこと。これにより、敵の活動範囲を大きく減らすことに成功したようです》

 

 

【連合地球軍津川病院】

 

隼人「ぐッ……」

 いまだに軋む腹部の痛みに寝付けずにいた隼人。

 両隣の2名は既に寝息を立てていた。横向きに寝ているためその寝顔は見えない。

 しかし隼人が起きていた理由は他にある。

 

 刹那、手前の扉が開いた。

宮藤「はぁ……はぁ……」

隼人「おう、お疲れさん」

 入室してきたのは今にも倒れそうなフラつきの宮藤だった。

 その後ろには壁に体をあずけた隊長もいる。

 隼人は隊長をじっと見る。

 隊長は眉を上げて応えた。

隼人「で、お話してくださるんですよね?」

  「男に二言はない。お前たちには話しておくべきだろうな」

 隊長が言い終わるとその病室は、もとの森閑さを取り戻す。

  「俺は…」

 その時、扉が再び開いた。

 そこには、手を後ろに組んで立つ田中本部長が居た。

 その姿を、目を見開いた隊長も含め驚きを隠せず見つめていた。

田中本部長「情報統制は一時的に解除されている。話したいことを話せ」

  「珍しいな。お前にしては気が利いている」

田中本部長「言うな」

 田中本部長は鼻で笑った彼の言葉を軽くあしらうと、そのまま廊下側の壁に背をあずけた。

 機会は与えたが出過ぎた真似はするな。……ということだろう。

 

 いつのまにか早紀と八木が体を起こして神妙な面持ちで隊長を見つめている。

 そして、この病室にいる全て人の目線が彼に集まった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。