地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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第25話、「停泊」です。本作では重要なファクターとなるある事実。そして所詮人類は……

それを交えつつ展開していく激動の25話です!


25話 停泊 『マザーシップ撃墜作戦フェーズ3』

宮藤「あいつがマザーシップ……」

宮藤は目の前に浮かぶ巨大な球体を見据えていた。

その正体は、フォーリナーのマザーシップ。輸送船以上の艦載数、そして先の戦いで破壊に成功した四足歩行要塞を格納する巨大な輸送船であり、単艦で凄まじい攻撃能力を有している。

8年前、この1隻を撃墜するのに多くの犠牲を払った。

そして二度目の侵略に際し確認されたのはなんと10隻。普通に考えて手に負えない数である。しかし現在EDFは開戦最初期に2隻を撃墜、そして2隻を中破させるという快挙を成し遂げた。が、以降の撃墜は難航し現在8隻のマザーシップが大西洋上、南米上空、宇宙軌道上を浮遊している。依然脅威は払拭出来ずにいるのだ。

 今宮藤の前にはその内の1隻が浮遊していた。

 しかも、周囲に輸送船はいない。護衛は飛行ドローン数機という少数だった。いくらなんでも少なすぎではないか。心配が募る。

 

田中司令《本部よりストームチーム。敵輸送船団が日本領空内に侵入した。作戦エリアにむけて進行中だ。戦闘に介入してくる恐れがある。注意せよ》

 その懸念は、すぐに現実となった。ヘクトルに踏み荒らされたであろう草原に影が落ちる。敵輸送船が5隻、上空から降りてきたのだ。

 敵がこちらに気づいたのか。否、実際の位置は補足されていないのだろう。敵がこちらに戦力を寄越す気配はない。しかし、周辺地域に展開したヘクトルの機械兵団が殲滅されたことを察知しての行動なのだ。そして、やがてここに辿り着いた人類を迎え撃つために。

 宮藤は隣の男に指示を仰ぐ。

宮藤「隊長、どうされますか?」

  「今はまだ動く時じゃない。本隊が到着するまでの辛抱だ」

宮藤「……了解」

 目の前の男はとても落ち着いた様相で敵の動向を伺っている。

 その時、無線で進展があった。味方部隊が到着したのである。

梶原《こちらレンジャー4-1。作戦エリアに入った……ブリーフィングの時は単艦との話じゃなかったのか?》

田中司令《こちら作戦指令本部。先ほど作戦エリアに侵入してきたのだ。現在、スティングレイランチャーを装備したレンジャー2もそちらに向かっている。まとめて撃墜する算段だ》

梶原《了解。では、ストームチームと合流します》

 

梶原「レンジャー4-1、到着しました」

宮藤「ああ」

  「……」

 敬礼を行い、レンジャー4-1の面々に状況を説明した。

 相変わらずこういった処理を隊長は宮藤達部下に任せる。

 

 不意に、隊長が、

  「ん? 来たか」

 そう呟いた。

 隊長の目線の先……舗装された道にグレイプが今まさに停まる。

  「宮藤、ついてこい」

宮藤「はあ……」

 宮藤はポカンとするが、梶原に断りグレイプのもとへ駆けていく隊長について行く。

キャリー1「ストームチーム総隊長殿、お待たせしました」

  「ああ、早速彼に武器を」

キャリー1「分かりました」

 自分を置いて事を進める二人。

宮藤「あの、隊長?」

  「今の装備では自由に動けないだろう。マザーシップ戦においてフェンサーは移動力の点で分が悪い。ある程度の機動力を備えた装備にすべきだ」

宮藤「なるほど……」

 確かにそのとおりだろう。流石は8年前の大戦を戦い抜いた戦士だ。フェンサーが正式にEDF陸戦部隊の一兵科として設立されてから1年弱。装備したことが無いはずのパワーフレームの特性を理解し、場面ごとに最適化している。

 感心しながら宮藤はグレイプから下ろされた武器を装備する。結果FGO2高高度強襲ミサイル、FH12個人携帯用軽量迫撃砲、ダイナモ・ブレード2本を積み込み、ブラストホール・スピアM3、FG9ハンドガトリング、FHD3個人携帯重迫撃砲、タワーシールド3Eを受け取った。

 彼は彼でライサンダースナイパーライフルを積み込んだ代わりにスティングレイロケットランチャーを担いでいる。

 

 まさにパワーフレームの恩恵を受けた機動力と強力な攻撃を兼ね備えた武装で、宮藤は少し感触を確かめる。

キャリー1「それでは」

 ヘルメットのバイザーを下ろし、軽く一礼する。

 グレイプは作戦エリアを離脱した。

 

 グレイプを見送ると同時に、無線が入る。

ウイングダイバー2-4隊長《ウイングダイバー、作戦エリアに入った!》

フェンサー4-4隊長《こちらフェンサー! 作戦エリアに入った。これから徒歩で向かう》

 続々と集まる戦士たち。しかし悪い情報が飛び込んできた。

田中司令《こちら作戦指令本部。現在本隊が巨大生物の急襲を受けている。……!?》

 さらに状況は悪くなる一方だった。

隊員A(R)「おい見ろ! マザーシップが高度を上げているぞ!」

 見ると徐々にマザーシップが上昇していた。

宮藤「退避! 退避だ!」

田中司令《フェーズ3作戦エリアに展開中の部隊に告げる。マザーシップが上昇を開始した! ジェノサイド砲を展開される危険性がある! 後退せよ!》

隊長(WD)《後退するぞ!》

隊長(F)《警戒!》

 中ビル程の高度であればそれより長い巨大砲台(ジェノサイド砲)が展開されることはない。しかしある程度高度を持った場合、難なく下方に展開し、真下にいる宮藤たちは格好の的となるだろう。

 しかしその懸念は外れることになる。

 マザーシップはむしろある程度離れたところからも下部へと射線が通る位置に停止した。

宮藤「停止した……よう、ですね」

 

 咄嗟のことで周りを確認し忘れていたため周りを見渡すと、すぐ後ろに隊長がいた。さらに宮藤と彼は丘を登っていたようだ。見下ろした先にレンジャー4-1の姿がある。

梶原《奴は何がしたいんだ…?》

宮藤《分からない。しかし…》

梶原《本部! 本隊の到着を待っていては敵に猶予を与えるだけだ》

田中司令《そうだな……いつジェノサイド砲を展開できる高度までまた上昇されるか分からない。今叩くべきか…》

 田中の声色には決意が満ちていた。二の句を待たずとも次の言葉は予想できた。本来なら自殺行為に等しいが事が事なので田中司令も焦りを抱いているのだろう。

田中司令《総員、戦闘を開始せよ! 作戦目標は、マザーシップの撃墜だ!》

宮藤《ストームチーム、了解》

梶原《レンジャー4-1、了解!》

隊長(WD)《ウイングダイバー2-4、了解。敵船団に突入する》

 複数の影が山影から飛び上がる。ウイングダイバー部隊が到着した。残るはフェンサーチームだが…

隊長(F)《こちらフェンサー! 巨大生物が穴を掘って出現しやがった! 交戦する!》

 巨大生物の待ち伏せに遭ったらしい。

 

 現在、フォーリナーの布陣は攻撃部隊の正面に1隻"No.1"、左に逸れて土道を進んだ先に1隻"No.2"、さらに先にもう1隻"No.3"。一隻目を右に逸れて当たる坂を登った先の丘上空に2隻"No.4"、"No.5"、数にしてマザーシップを輸送船5隻で囲うように展開している。元々地形が段になっており、まるで下層から順に攻略していく塔のような配置であった。

 

 最初に正面の輸送船に狙いを定める。それを察知したのか輸送船の下部ハッチが開き始めた。腕のレーダーにたちまち赤点が溢れる。正面の輸送船からは蜘蛛型巨大生物が投下されていた。

  「宮藤! お前は輸送船に注力するんだ! それ以外の部隊でお前を守る!」

宮藤「了解!」

 やはり素晴らしい方だ。レンジャー4-1はAF-17アサルトライフル、ウイングダイバーはレーザーランスという近距離用の武器を装備しているので輸送船に効果的な損傷を与えられるのは宮藤のショルダーウェポン、FHD3個人携帯重迫撃砲のみだろう。運悪く対艦攻撃部隊の護衛部隊が先んじて到着していた。フェンサーチームは現在1km先からこちらに前進中とのことだ。それを見越してのことだろうか。彼は戦闘慣れしている。それも対フォーリナーにおいてである。彼のことは8年前の最初期から終戦まで前線で戦い抜いた戦士という情報しか知り得ていない。同じ部隊に所属しても、だ。しかし彼がそうなら"英雄"はどれだけ人間離れしていたのだろうか。

 

 投下された蜘蛛型巨大生物が牙をむく。3秒間に10匹程の投下。しかし投下されてまもなく輸送船直下に(たむろ)っていた大群に向けて隊長はスティングレイランチャーを撃ち込んだ。着弾。後に2発のロケット弾が追い爆発を起こす。爆風が巨大生物を飲み込んだ。数匹を巻き込んだらしい。煙の中から生存した個体は4匹ほどでレンジャー4-1からの無数の射撃が蜘蛛型巨大生物の皮膚を削り取っていく。さらに襲撃に気付いた護衛の飛行ドローンや別の輸送船から投下された甲殻型巨大生物、赤色型巨大生物がこちらに向かってきた。ウイングダイバーが華麗に飛行ドローンから発射されるレーザーを避け肉薄。収束された高圧のレーザーが飛行ドローンを貫いた。

 赤色型巨大生物が攻撃部隊との距離を縮めるがストームチーム総隊長の彼が新開発されたスラッグショットガンBCで迎え撃った。このショットガンのコンセプトは"新たに確認された赤色型巨大生物の甲殻を貫通し封殺する威力"である。一撃で絶命まで持っていく程の威力を有していた。

 

 5分と立たず宮藤が放った4発目の砲弾が内部の転送装置を破壊。転送装置の破片が地を弾み、輸送船は内部爆発を起こし地面に衝突した。

 為すすべもなく散る敵を弾丸で捉える度に隊員たちの高揚感は増していく。

隊員A(R)「ざまぁ見やがれ!」

隊員B(R)「オラオラ! 抵抗してみろ!」

梶原「お前ら! 集中は切らすなよ!」

梶原は勢いづく部下たちを叱咤する。

しかし彼自身、無意識に持ち手や心がじんわりとなにかに満たされていくようだが油断は禁物だ。

 

沢見戦術士官《輸送船1隻の撃墜を確認》

田中司令《よし! 我々が圧倒している! 攻撃部隊、攻撃を続けろ! 奴らの目に焼き付けてやるのだ!》

 

 続いてNo.2の撃墜に向かう。No.2からは甲殻型巨大生物が投下されていた。輸送船を見上げると既に開いていた。すかさず砲弾を撃ち込み落ちた破片が甲殻型巨大生物に突き刺さる。すぐにハッチが閉じられた。

 敵を補足した飛行ドローンが射撃。発射されたレーザーがレンジャー4-1の隊員ひとりに降り注いだ。

隊員C(R)「ぐぁ!」

隊員B(R)「大丈夫か!?」

隊員C(R)「あぁ…掠っただけさ!」

 咄嗟に横に避けるも前腕に掠ってしまい戦闘服が焼け(すす)まみれになる。幸い皮膚に火傷を負うことはなかった。

 最も飛行ドローンの攻撃を気にしていては甲殻型巨大生物に狙われることになるので封殺しきれなかった少しの痛みを感じながらもトリガーにかける指を離すことは無い。

 

 地上に降り立った甲殻型巨大生物は10匹。レンジャー4-1は1匹の絶命を確認するとコンマ秒で次の標的へと照準を合わせる。瞬く間に4匹。そして後方からロケット弾が3発続けて撃ち込まれ、内二発は2~3匹を巻き込む。四肢を吹き飛ばした個体にも容赦なくAF-17の弾丸が殺到し殲滅が完了した。

 

 宮藤はショルダーボックスの自動装填機能を使用し重迫撃砲に砲弾を装填する。フェンサーのパワーフレームにはショルダー部分に専用の長方形のボックスを固定する機構があり、スラスター用の燃料、噴射機構を内蔵したボックス、または迫撃砲やガトリングガン、徹甲弾の弾倉を収納した弾薬ボックスなどを固定できる。さらにはそれらとその兵器を繋ぐ自動装填機構、携帯機関砲の弾倉など手動装填が必要な火器を装備した場合はその弾倉用のホルダーといった、着用者、特定武器使用者に沿ったつくりになっている。

 

 装填を完了した砲弾が再度開き露わになった転送装置に吸い込まれていく。

 そしてNo.2は爆発と黒煙に飲まれていった。

 

沢見戦術士官《No.2の撃墜を確認》

田中司令《いいぞ! 次はNo.4だ!》

 位置的にNo.4が狙いやすいので、No.3への攻撃は見送られた。

 

  「ここで迎え撃つ! 宮藤、レンジャー4-1は少し下がれ。射角を合わせろ。攻撃したらこちらに向かってくるだろう。向かってきた個体を各個撃破する」

  「「「了解!」」」

隊長(WD)「あの輸送船からは赤色型巨大生物が投下されているようだ。我々の敵じゃない。寧ろ後退したレンジャー隊の流れ弾に気をつけるんだな!」

 隊長が皮肉混じりに話す。

梶原「…レディ達への誤射なんぞ大それた事はしない。貴女たちこそ射線に飛び込んできては困る」

 二人は軽口のように言い合うが目の奥が笑っていない。眉毛がピクピクと動き引きつっている。反目し合っている。隊長格二人の内輪問題か。後で聞いたところ、二人は訓練学校時代の同期だとか。実際に味方撃ちの事件があったのではないようで宮藤は胸を撫で下ろした。

 その状況を作り出した元凶であるストームチームの総隊長殿は二人を気にもとめず敵を見据えていた。

宮藤(隊長……)

 

 そして下層から狙い、輸送船を撃墜。案の定こちらに向かってきた赤色型巨大生物はレンジャー4-1がある程度の距離からダメージを蓄積させ、ウイングダイバーが空から、隊長がスラッグショットガンで、殲滅した。

 続けてNo.5の輸送船を狙う。同じ位置から射角が取れたので同じ戦法で対応する。そしてNo.5の撃墜を確認した。

 

田中司令《よくやった! 残る輸送船は後1隻。これを撃墜し、いよいよマザーシップ本体への攻撃を開始する。皆、気を引き締めろ!》

 いよいよだ。皆がそう感じた。さらに、

隊長(F)《こちらフェンサー! 突入する!》

 巨大生物を返り討ちにしたフェンサーチームが宮藤たちの目線の先にある丘の上層に現れた。

田中司令《よし! 攻撃を開始せよッ!》

 

  「前進するぞ!」

宮藤「了解!」

梶原「了解」

隊長(WD)「了解!」

 この時、攻撃部隊と本部は失念していた。否、懸念はしていたが高揚感に薄められていたのか。

 マザーシップが動き出した。上昇ではない……側面の六角形のパネルらしきものが光を発し始めた。

  「止まれ!」

田中司令《まずい! 攻撃部隊、注意しろ! 浮遊砲台がくるぞ!》

梶原「急げ!恐らく()()を展開する気だ。走れ! 散るんだ!」

隊長(WD)「全員、最大出力で飛べ!」

隊員A(R)「あれが…浮遊砲台!?」

 

宮藤(死に物狂いで走るしかない! こんな遮蔽物のない場所で!)

 

マザーシップからリング状に六角形のパネルが浮き出た。マザーシップの周囲を回転し浮遊している。

そして一方的な砲撃が始まった。

 

 

【連合地球軍津川病院】

 

津川市にあるEDF日本支部関東方面基地内の連合地球軍病院の一室では隼人、早紀、八木が寝かされていた。

隼人「うっ…(ガタン」

看護師「鷲崎さん無茶しないでください!」

 隼人が立ち上がろうとし、よろめく。幸いなことに隣は壁だったので肩に衝撃が走ったものの壁にもたれかり、その一部始終を見ていた看護師に叱られていた。

隼人「しかし…早く戦場に戻らねばならないのです……」

看護師「今は安静にしていてください!いいですね!

隼人「分かりました…」

八木「隼人さん落ち着いてください…マザーシップ迎撃作戦には宮藤さん、そして総隊長も出撃しています。我々に出来ることは安静にしてることだけですよ。ただでさえ酸で足をやられているのに…」

看護師「八木さんの言うとおりです! ストームチームの皆さんの責任と実力は承知ですが前線に戻るためには少しでも早く治していただかないと!」

 

早紀「……子供?」

 

隼人「なに!? おい、今聞き捨てならん言葉が…痛っ」

看護師「とにかく、安静にしていてください。では失礼します」

 軽く会釈し看護師は退出していった。

 先の地底戦で負傷した3名は仲良く病室のベッドでお世話になっていた。

八木「大丈夫ですよ。宮藤さんも間違いなく精鋭ですし、総隊長が同行していれば大事無いでしょう」

早紀「そうね。総隊長が同行してるのなら……まあ宮藤も隣のバカと同類で一匹狼な部分があるけど」

隼人「つくづく失礼な女だな……総隊長か…そういえば、8年前の戦いを生き抜いた戦士って話は聞いたし実力もこの目で見たから誇張ではないと信頼できる。でも他の素性はおろかほとんど知らないんだよなぁ…」

早紀「そうね。名前すらも伏せられて、『隊長』としか呼べないから少し困るけど」

八木「そういえば。あ、でも総隊長の好みをこの前聞いたことがありますよ。隊舎でお会いした時、『コーヒーは良い。とても落ち着くよ。八木はどうだ? お気に入りの豆なんだ』って」

隼人&早紀「「えっ!?」」

隼人「あのミステリアスで寡黙な方が…」

早紀「確かにコーヒー豆を常備してたわね…」

 

隼人「いや、その面も興味深いが彼の戦闘技術も素晴らしいぞ。8年前の戦いを生き抜き現在も隊長格として、他にも前線や様々な部門へ散った先輩方の中でも群を抜いている。皆口々に言っているんだ」

早紀「『まるで英雄のようだ』でしょ?」

隼人「…ああ」

八木「ということは隊長が隼人さんや宮藤さんが憧れる()()()()だと?」

隼人「そうなんじゃないかと…俺は睨んでいる。淡い期待だろうがな」

早紀「そういえば、私たちに開示された情報だと行方不明で失踪宣言がなされたって事だったわよね?」

 ここで直接の反論が出ないということは、彼女も心の内ではその説を信じているのだろうか。

八木「諸説あるようです。『マザーシップを道連れに息絶えた。』や『マザーシップ撃墜後の掃討作戦で亡くなった。』など、噂程度ではありますが。そして殆どが死亡説ですね。まあ、上層部が何らかの情報統制を敷いているのは明白ですが、それがどちらなのか…知ってしまえば我々は希望を失いかねない。もしくは……」

隼人「それにしても、"英雄"か…」

 

隼人(英雄……もし生きているのなら…一度お会いしてみたいものです…一騎当千のストームチームに配属されたんだ…私は、貴方のような戦士になりたい)

 会話から外れ、遠い目で青空を見つめる彼を、引き戻す者はいなかった。

 

 

【山岳部】

 

 作戦エリアは砲撃の嵐だった。絶え間なく降り注ぎ、徐々に退路を塞いでいく雨に攻撃部隊は逃げる一方だった。だが、ストームチームの総隊長である彼、そして8年前の生き残りである一人。梶原は冷静に状況を見ていた。

ストームチームの総隊長である彼に至っては隙を縫ってスティングレイランチャーを浮遊砲台に向けて撃ち込んでいる。1機、また1機と浮遊砲台が撃墜されていく。

 しかし浮遊砲台の砲撃はとどまる事を知らない。赤く細いレーザーが降り注ぐ。そしてレンジャー4-1隊員の腹部を貫いた。レーザーは体を貫通した。皮膚は焼けただれ、あまりの激痛に腹部を手で押さえたことで彼の命運は尽きた。二射目のレーザーが太ももを、三射目が腕を貫通する。既に銃は取り落としていた。どこに落ちているかは思い出せない。複数箇所を襲う灼熱。飛行ドローンの放つレーザーとは負傷の度合いが違う。

 ついに隊員は膝を突き、地に倒れた。

 そしてウイングダイバーの隊員にも犠牲者が出た。レーザーがすねを捉え撃ち落とす。地に落とされた彼女はすぐに体勢を立て直そうと必死に再度飛び立った。しかし、レーザーではない別の砲撃。すなわちプラズマ弾が着弾し、地面を抉る。そして、彼女のかかとを抉った。遂に飛び立てなくなった彼女をトドメのプラズマ弾が覆った。最後の瞬間まで悲痛の叫びが響く。残り香が消失したその場に彼女がいたという形跡はなかった。分隊員たちに恐怖が伝染する。

 

 宮藤はスラスターを使ってプラズマ弾を振り切っていた。

 そして手を差し伸べる。レーザーの餌食となり動きが鈍足になったレンジャー4-1の隊員がようやく見つけた岩陰に縮こまっていた。しかしマザーシップは容赦なくその地点にプラズマ弾を発射する。

 隊員は自分に向けて降り注ぐプラズマ弾に気付いた。その場を後にしようと歩き出すがとても間に合わない。このままでは彼は死んでしまうだろう。守らなければ。

 隊員も心が折れてしまったのだろう。立ち止まり、膝をついた。彼は自分が助からないことを悟っていた。

 しかし何処からともなくフォースフィールドが展開。物理法則反転装置(ディフレクター)が作動、プラズマ弾が反転し、マザーシップに向かっていく。宮藤がタワーシールド3Eで防いだのだ。

 

 隊長(F)《我々はシールドで防いでいるが! このままでは! ぐわ! あああああああ!(ザザッ》

 フェンサー部隊は…他の兵科よりは防ぐ方法もあり善戦していたがここまでのようだ…

 隊長(WD)「きゃああ! くっそぉぉぉ!」

 ウイングダイバーの隊長は二箇所レーザーに被弾していたが何とか凌いでいた。

 

 このままではいずれ全滅してしまう…本来の意味ではなく、言葉のそのままの意味でだ。

 だが次の瞬間、レーザーが止んだ。そして次にプラズマ砲台が大人しくなる。すでに発射されたプラズマ弾は次々に着弾し、それ以降はパタリと……止んだ。

 そして、マザーシップは上昇を開始した。

田中司令《攻撃部隊! 応答せよ! ストームチーム応答せよ!》

宮藤《こち…ら…ストーム。マザーシップは……逃走した……》

田中司令《そんなことは良い! 攻撃部隊は無事なのか!?》

  《こちらストームチーム……味方は壊滅状態。これ以上の戦闘は無理だ。撤退許可を願う》

田中司令《分かった…撤退せよ。残った輸送船の撃墜は他の部隊が担う。速やかに帰還せよ》

梶原「満身創痍って感じだな……クソッ!」

隊長(WD)「……うぅっ……グスッ」

 数分前まで生きていた部下を抱き抱え泣く彼女。それを宥めるも無念さが押し寄せる。

 

 マスコミは今作戦のことを表面的には成功したと報じた。現に大多数の敵機械兵器や巨大生物の殲滅という大きな戦果を得られたのだ。しかし8年前と変わらぬ絶望と屈辱を味わい、EDF JAPANは再び死のスパイラルへと身を投じていくのだった。

 

ストームチームの宮藤でさえ満身創痍になる戦いだった。しかし彼を見る。彼は重傷を負いながらも果敢に応戦していた。冷静であるとさえ感じられた。

帰投の間に聞いてみよう。そう決めた。何を? 決まっているだろう……




しかし、25話だと言うのに気づけば総話数42話です(笑)
進捗
・第26話:年内投稿予定
・閑話:正月中に投稿予定

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