今までの投稿ペースと、原作を知っている方からすると、大分遅く間隔の長い投稿を続けてきましたが、練習として、まったく国語に疎い状態から始めた身としてはとても濃い一年
さて二年目。章も新しく変更(23話から)し、続けていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。
時系列は、考えてません。
一周年記念小話 第1話 決意
梅雨も終わり、雨粒が煌くある日の夕方。
まだ湿った土を勢いよく蹴る子供たちを眺める影があった。
一人は葉山智。
そして葉山の横には夕日に染まり純銅のように輝く茶髪、器量の良く、右目の目尻下に泣きボクロを蓄えた顔立ちがあった。交差するサッカーボールや無邪気な子供達をうっとりと眺める彼女を横目で盗み見、自身も幸せを実感した。
春原「どうしたの?葉山さん」
葉山「いや、何でもない」
ふたりがいるのはとある小学校の校庭。この小学校の周辺は先の戦いで避難所に指定され、約100世帯ほどの人数が生活を続けている。学校の隣の公園では、仮設住宅の建設が自衛隊によって進められていた。
EDF JAPANもまた、物資輸送や浴場施設、警備に駆り出されていた。
レンジャー1-2の面々と、偶然同じ避難所に居たウイングダイバー11たちは警備隊として派遣されていたが、とりわけ葉山智と春原佳奈子には特別な理由がある。
この町には、佳奈子の実家があるのだ。そこで葉山は、衝撃の事実を佳奈子から聞かされた。
春原「今日はありがとう。色々話せて、知れて、良かった」
葉山「佳奈子こそ、勇気を出して話してくれてありがとう」
佳奈子は俯きながらも小さく微笑んだ。
が、葉山の労りの返答に、申し訳なさそうな顔に変わった。
春原「そんな!葉山さんの方が辛い経験をされてるのに・・・」
葉山「遠慮はよすんだ。その人にとって辛いことは、他人には推し量れない事なのだから」
春原「うん・・・。ごめん」
葉山「謝る必要も、ないんだ」
オロオロする佳奈子の肩に手をかけた。
結城「葉山さ・・・」
ハンヴィーから降り、夕食のレーションを差し出そうとした結城は目の前の微笑ましい光景に足を止め、ハンヴィーに戻る。助手席のドアを開くと、後部座席でわかめご飯にスプーンを突っ込んだ里見と運転席でボーッと夕焼けを眺める高城がおかえりと声をかけた。
避難所の死角に止めたハンヴィーで夕食をとる予定になっている。
里見「おふたりは?」
結城「邪魔できる雰囲気じゃなかったよ」
高城「いい雰囲気ですねぇ」
ハンドルに両腕を乗せ、ほんわかしたオーラを発する二人に目線を移した高城の声が降って沸いた。
結城「新庄さんと大黒は?」
里見「お湯を貰いに行きました」
結城「俺も、食べ始めるか・・・」
危機感の欠片もない声で呟く。再度ドアを開き、ムクッと立ち上がると、炊き出しを行う自衛隊とEDFのテントに向かった。
葉山(まさか、両親を亡くされていたとは・・・)
葉山は心の中で考えていた。隣の微笑みの裏にある悲しい顔を。
葉山自身、2017年の戦いで両親を亡くし、実家で一人暮らしをしているが、佳奈子もまた2017年に両親を亡くし、今居るこの町の実家で一人暮らしをしている悲しい過去を持った人物だったことを。
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少し、昔話をしようと思う。
俺はごく一般的な家に生まれた。優しい両親と妙に懐く妹。理想の家族と言われたこともある。
学生時代は成績中の上を維持し、友達付き合いも部活動、放課後ともに充実してたように思う。
順調に歩み、私立大学を普通に卒業。大手でもない企業に就職し、毎日仕事と趣味を嗜んでいた。
が、そんな面白味のない生活をしていた俺に転機が訪れた。
仕事場で知り合った後輩、薫森 香織 / しげもり かおりと結婚することになった。愛し、愛され、円満な生活の毎日。当時28歳で第一子、葉山 櫻 / はやま さくらを授かった。2016年の出来事だった。
ちょうどその頃。2015年に、国連機関によって地球外文明体の存在が秘匿されていたというリークが物議を醸した。
対話の準備を推し進める世論。侵略の危険性を説く有力者たち。
その有力者に反発し、各地でデモや傷害事件の発生。
ある日出勤すると、俺の勤めていた会社は窓ガラスが割られ、オフィスの惨状を理解するのには数分かかった。なんでも、会社の代表取締役がある有力者と懇意にしているSNS発信から集った暴徒が破壊して回ったらしい。
会社は倒産。
まもなく路頭に迷った俺は、警備会社に再就職し、そこで得た伝手に紹介されたのが国際連合地球防衛局の警備だった。
世論の的になることも多かった地球防衛局は、かなり人手の欲しい状態になっていた。仮眠室に数日お世話になると、妻かおりとは電話でのやり取りが多くなった。
それでも出来るだけ顔を出すようにし、大切にしてきた。
ある日、地球防衛局の方針転換で、独自の実働部隊を組織することになる。
そこの職員とも交流があったため、入隊を強く勧められた。
最初期の部隊には、自衛隊のOBも多かったため。それに、
本当は、自分の家族だけを守ってやりたい。そのためその話を蹴った数か月後。
大切に育んできた平和は、あまりにもあっけなく崩れ去った。
2017年1初旬。妻娘と両親はデパートに出かけ、妹は交際中の彼氏と共に町を離れていた。
そんないつもの日常に影が落ちる。
フォーリナーが日本上空に降下。政府が交信を試みる中、船団のすぐ下に展開していた実働部隊。そこに突如、未知の生物群が出現した。巨大な昆虫だった。その昆虫は、「巨大生物」と呼ばれるようになる。
その巨大生物は市民を部隊の目の前で襲い始め、噛みちぎった腕を貪る。地球の昆虫が巨大化したような生物が市民を蹂躙する光景。居合わせた隊員達は激昂し、突如として現れた巨大生物との白兵戦があちこちで起こった。殲滅に成功するも、隊員達への被害も相当なもので、凄惨な光景が広がっていた。
俺は、その現場の一つに派遣された。
巨大生物は、強力な酸を噴射して攻撃してくるらしい。
人間のものと思われる肉片がたちまち液状化し、つんざく臭いがたちこめる。前例のない光景に、到着した救急隊員達が混乱している。
生存者など、誰一人としていなかった。
その数時間後、余裕が出来た俺は家族の状況を知りたいと焦り、電話にでないことに不安を抱きながらも情報を集め、家族のもとへ向かった。妹とは連絡がつき、無事だという旨を聞かされたときは胸をなでおろした。
家族の所在と搬送中の救急車、病院の情報をついに手に入れ、病院に向かった。
ーそこで俺を出迎えたのは、父親、葉山 楠雄はやま くすおの遺品と母親、葉山 泉はやま いずみの死体だった。父親の体は巨大生物が吐き出す酸にやられてしまったのか、いつかの誕生日に妻からプレゼントされた腕時計。一部が溶けた腕時計のみが残り、母親の体は上半身だけの無残な状態になっていた。
更に俺の心をドン底に落としたのは妻娘の死だった。
巨大生物の酸を左肩から腕にかけて浴びてしまい、肩峰が露出。左腕の皮膚もただれてくっつき、もはや肉の塊……EDF隊員に救出されたときは虫の息だったが、まもなく車内で息を引き取ったそうだ。
その時、まだ一歳だった娘はすでに亡くなっていたらしい。
かおりはさくらを守ろうと背中を巨大生物に向けたことで、倒れた時にさくらは地面に頭を打ち付け、かおりの体重がのっかり、そのまま。
亡くなった娘を片手で抱き、泣く暇もなく、呼吸するのが精一杯だったそうだ。移送中、かすれた声で。俺の名前を呟いたらしい。
生きていると心に言い聞かせていたことが拍車をかけ、俺は絶望の淵に突き落とされた。
その日はそれから覚えていない。泣き続けていたのだろう。居合わせた隊員に体を預けて病院のお世話になったことは覚えている。
その後、フォーリナーが巨大生物を使役していることが判明。
フォーリナーは、人類の敵であった。
そして俺は、EDFへの入隊を決意した。やつらに復讐するために。
それからは悪魔に魂を売ったかのように敵を殺すことだけを考えてきた。
しかし、さらに転機が訪れる。
所属していた分隊の分隊長が殉職した。
息を引き取る寸前、俺の手を弱く握りながらも声をひねり出そうとし、
俺が次期分隊長になること、そして、自分を見失わないことを諭された。
その頃は身内を殺された隊員が自殺したり、無謀にも敵に突撃し散る事件が後を絶たず、組織全体の士気も底辺と言わざるを得なかった。自分が死にたくないという気持ちを殺意が上回って戦場に立つこともあったことを初めて認識し、俺の心の中で考え方が変わった。
自分の配下につく人間を死なせないこと。その家族の顔をいつも思い浮かべること。
そして、両親、妻娘のために、自分ができることには最大限努力してきた。
生きるために。死に報いるために。
いつしか結城という部下が付き、庇って負傷し、隊長と同じセリフを掛けることになるとは思わなかった。
まるで昔の自分を鏡で見るような感覚に囚われながら、両親、妻娘のもとに迎えると安心したそこで意識は途切れた。
だが、現実は非情。生き残ってしまった。療養を経て流れるように前線に戻った俺は、決意新たに戦いに身を投じるのだった。
・・・と、長々と話してしまったが、今隣には新たに大切な存在ができ、妹夫婦や頼れる部下達と守るべき存在が手に余る程に増えた。俺は、皆を命に代えてでも守っていくつもりだ。
ーそう、命に代えてでも。
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春原「どうしたの?」
葉山「なんでもないさ。ちょっと昔を思い出してただけだ」
春原「そう・・・。ねえ、葉山さん、辛い時は、私が支えになってあげるから。どんなことがあっても、あなたを守りたいの」
葉山「俺も同じ気持ちさ。辛いことがあったら、俺が受け止めてやる。そしてなにがあっても、佳奈子を守ってみせる。絶対に悲しませたりしない」
俯く彼女をまっすぐな瞳で見つめる。そして涙を浮かべてはにかんだ彼女を胸に抱き寄せた。
その時、彼女のお腹の虫が鳴く。沸騰せん勢いの赤面に優しく笑み、葉山は言葉をかけた。
葉山「さあ、俺たちも食べてこよう」
春原「うん。葉山さん」
橙色の夕日と子供たちの遊びに興じる楽しそうな声に包まれながら、二人は歩みだした。
目線の先にある炊き出し中の班が、威勢の良い掛け声を行う。
炊事隊長「お前らぁ!俺達は自衛官だが調理師の端くれ。胃袋を掴むだけじゃダメだ。徹底的にねじ伏せろ!」
炊事隊員「「サーイエッサー!」」
そんな異様な光景に佳奈子は思わず声を上げて笑みがこぼれた。
葉山も不思議な目で炊事を行う自衛官達を見た。
佳奈子が一瞬いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
その一瞬を見逃さず、不思議に思いながらも、葉山は再び歩みだした。佳奈子もそれに続く。
佳奈子「ねじ伏せる・・・か。ふふっ」
佳奈子は思う。自身の料理の腕を過信する訳じゃない。しかし、私のことをこんなにも大事に気にかけてくれる彼になにかお礼がしたい、彼を唸らせる料理を作ってあげたいと悩んでいた彼女にとって、今の言葉は最高の調味料となったのだ。
そんなことは露知らず、葉山は彼女の浮かべる微笑みに笑みを返すのだった。
1周年記念小話は、もう1話投稿する予定です。
(の、予定でしたが時間が取れずにいました。後日投稿出来ればと思います。)