「3...2...1...どうぞ」
心臓の鼓動に合わせるようにカウントが始まる。そして手振りで彼に合図が出された。
彼は目の前のカメラにRECの文字を確認すると、咳払いをした。
間を置き、いよいよ口を開く。
「はーい、こちら現場です!」
キュー出しである。彼らクルーの着る作業服の背中には『EDF JAPAN 広報』のロゴマークがでかでかとプリントされていた。
彼らはEDFJAPAN広報事務局の取材クルー達。今回の地底侵攻に際し、広報活動の一環として作戦に参加することになっている。企画が出された当初は田中司令も渋っていたが、作戦エリア内に深入りしないことを条件に許諾された。
だが取材班としてはリアルを追求する思想が根ずいているのか戦闘をカメラに収めたいという旨が話題に上がり、田中司令及び同席した葉山隊の面々は顔を青ざめさせるばかりだった。
高城「どうするんですか!現場は死線です!」
里見「凄い報道魂ですね...」
高城は怒り、里見は引いてしまうほどの覚悟に折れた。
という経緯があり、取材班には葉山隊が護衛として就くことになった。なるべく平和に任務を終えたい葉山達は、腕のレーダーを頼りに経路を模索し逐次報告しあっている。
地下トンネルを少し進んだ先に横穴が空いているようで、そこには赤い点がひしめき合っていた。
すぐに葉山隊の面々は目で合図する。
「ここは通らない方がいい」と、目で会話していた。
本田「今日は、このEDFの技術が詰まった最新鋭の地底戦闘用歩行戦車『デプスクロウラー』に乗り込んで、巨大生物の巣穴に潜入して敵を一掃してみたいと思います!」
言葉を聞いた葉山達の背筋に悪寒が走る。
巨大生物の恐ろしさを知っているのかと言いたくなるが、映像がライブの手前抑えた。
本田広報官は画面の向こうのキャスターに応対しているようで、
本田「大丈夫大丈夫!心配ご無用です!」
本田「広報官と言えど私もEDF隊員!毎日体を鍛えているのでへっちゃらです!フォーリナーなんか握り潰して見せますよぉ!」
と豪語する。
確かに本田は正規隊員だが、この楽観的すぎるオーラのどこに戦闘力を感じるのか。
本田「それでは早速、EDFの出動です!」
本田は握りこぶしを前に伸ばし頼もしさを作って見せた。
本田「では行きましょう!」
葉山「はい」
本田はデプスクロウラーに乗り込み、前進を開始。どうやらビークルの映像を撮るらしい。デプスクロウラーが前進するわしゃわしゃという動きは頼もしさを感じられる。映像にも映えるだろう。
葉山《では、そのまま直進でお願いします》
本田《レーダーには敵の反応があるみたいですが…》
葉山《えーっと…》
本田《軽くひねり潰してやりましょう!》
葉山の回答を待たずにズカズカと進んでいく。
やがて横穴にたどり着き、広間に出た。壁や天井を警戒するが巨大生物の姿はない。反応はこの先にある別の広間ようだ。
本田《巨大生はいないようですねぇ……お! こっちですね! GO GO!》
そのまま本田は広間へ進み、
キシャァァァァァ!!
新庄「おい、勝手に喧嘩を売るなぁ!」
……見事に甲殻型巨大生物の群れの真ん中に入り込んだ本田は酸噴射の猛攻を一手に引き受けた。
葉山「戦闘開始ッ! 結城と大黒はクルーを守れ! 俺と里見、高城、新庄は本田さんを援護するぞ!急げぇ!」
5人「「「「「りょッ…了解!」」」」」
【EDF広報事務所、撮影ブース】
姫川「……そんな、EDFの最前線に立つ隊員達の活躍ぶりを、本日は、ライブ中継でレポートしてみたいと思います」
姫川「早速現場を呼んでみましょう。本田さーん?」
姫川は地方の情報番組のような砕けた雰囲気で原稿を読み進め、現場に赴いている本田を呼び出した。
本田《はーい、こちら現場です!》
本田《どうですかこの装備。かっこいいでしょう!》
顔を覆い隠す長方形のバイザー、小型のパラボラアンテナがクルクルと回転する、空爆誘導の要となる背中の装置。
スタイリッシュではない、まるで男のロマンを形にしたような見た目であった。
そんな現EDF陸軍空爆誘導兵の戦闘服に身を包みこんでいる。
本田《今日は、このEDFの技術が詰まった最新鋭のバトルマシン『デプスクロウラー』に乗り込んで、巨大生物の巣穴に潜入して敵を一掃してみたいと思います!》
姫川「十分に気をつけて下さいね」
それからカメラは前進するデプスクロウラーを追いかけ始めた。
やがて地下鉄トンネルに空いた横穴に到達し、
葉山隊と本田の現職のやり取りをしっかりとカメラに収め、
本田《巨大生物はいないようですねぇ……お! こっちですね! GO GO!》
と張り切っていた。
姫川「本田さん、そもそもデプスクロウラーはどんな目的で開発されたのでしょうか」
段取り通り、話題を振った。
本田《姫川さんよくぞ聞いてくれました! デプスクロウラーの正式名称は地底戦闘用バトルマシン。その名の通り地底での戦闘を想定して作られたバトルマシンです。地上戦闘のみで活躍するベガルタとは違い、デプスクロウラーは戦う場所を選びません!》
本田《それにご覧いただけますでしょうか! この跳躍!》
ビル三階にも及ぶ跳躍をカメラが追った。ちなみに、現在居る広間はそれでも天井につかないほど広く高い。
本田《四つのしなやかな副アームを使ってー! さらにぃ!》
本田《こうしてー! 壁もぉ! 天井も! 思いのままに進むことが出来るんですよぉ! ちょっと酔いますけど…》
姫川「大型ライトがついていて明るいですし、怖いもの無し、ですね!」
本田《おぉ! 敵が見えてきましたよ!》
本田《それでは、一斉射撃、スタートォ!》
本田《…えーっと、ちょっとですねぇ、敵の数が多いようですね……》
姫川「ええっ…大丈夫ですか!?」
声色が徐々に頼りないものへと変わる。
本田《なんのなんの! ここからが本番んんんん…やばいやばいやばぁい!》
怒号が聴こえ、映像が途切れるバックグラウンドで、なにやら爆発する音が聞こえた。
姫川「……え?」
【地底】
本田「糸がぁ!糸がぁ!」
蜘蛛型巨大生物に囲まれ、絶叫し、何本か糸が付着しているが本人はピンピンしている。流石はEDF現役軍人か。
一方の葉山達は見事な連携を行い、本田に群がる巨大生物を駆逐していく。
もはや撮影クルー達は本田ではなく葉山隊を撮していた。
マズルフラッシュの合間に見える勇姿はまさに勇猛果敢なEDF軍人のそれである。
葉山「リロードする!」
里見「カバー!」
新庄「カバー!」
高城「援護します!」
クルー「うおっ!?」
大黒「危ない!」
結城「俺たちも少しずつ前進しよう」
【EDF広報事務所、撮影ブース】
姫川「あ、中継の方、つながる模様です」
姫川「!! すごい…」
再び繋がった中継映像に映っていたのは葉山隊の戦闘だった。
堅実なその戦いぶりに見入ってしまった姫川はハッと我に返ると映像の隅に巨大生物が集中してるのに気づいた。そしてその原因を見るや、顔を引きつらせた。
本田である。
本田《酸だぁ! 酸だぁ! うわああああ》
最初の勢いはどこえやら、すっかり怯え切った様子で、しかし応戦している本田。メンタルは弱いくせにタフさは凄まじい本田に呆れる。
そして再度、中継は途切れてしまった。
姫川「……はい」
姫川「本田さんは置いておいて、先ほどのレンジャー隊員の戦いはいかがでしたでしょうか。私も洗練された戦術に感動してしまいました!」
その後無事、番組は終了した…
本田の安否は不明だが。
【地底】
里見「クリア!」
葉山「よし、クルーへの被害はゼロ。本田さんは……」
その時、蜘蛛型巨大生物の死骸の山からボロボロの本田がひょっこりと現れた。
葉山「無事の…ようですね」
本田「はいぃ…こわいよぉこわいよぉ」
すっかり縮こまって震えていた。
葉山「無事で良かった。…巨大生物の群れに突撃するとはとてつもない勇気をお持ちですね」
無理がある。と結城は思った。
見え見えだがフォローを入れる葉山を改めて尊敬の念をこめて眺める。
本田「い…いやぁ、それほどでも/// 皆さんこそ、本物のヒーローを見ているようでした。感服しました」
葉山「いえいえ、我々はただのEDF軍人、その一部隊ですから」
本田「ご謙遜を~」
葉山「では、そろそろ地上に帰還しましょう」
本田「はい! 本日はありがとうございました!」
そして無事に地上に送り届けたあと、葉山隊は本部からの嘱託によって先遣部隊とストームチームの救援に向かうことになる。
余談だが放送終了後、マイナスな指摘ももちろんあったが、葉山隊の活躍や何故か本田の馬鹿らしさ(なぜプラスなのか、葉山隊の全員が思った)が反響を呼んだらしく、事件はあれど結果オーライな出来事であった。
本田さんは事務所でピンピンしているらしい。相変わらず強いのか弱々しいのか分からない不思議な人だ。
地上に出た後、本田に聞いた。
なぜ、そこまでするのかを。
すると彼は…
「8年前の地獄を当時テレビ局員だったのですが生き抜き、テレビ局が襲撃にあって絶体絶命だったところを助けていただいたEDFに入隊を決意したんです。実働部隊ではなく広報官を志望し今日に至るのですが、私は戦場を可能な限りカメラに収め、自分が感動したEDFで働く人達の勇猛さを届け、少しでも世界が明るくなれば! という思いで仕事をしています。戦場が死と隣り合わせなんて知っています! しかしそんな中で地球を、人類を守るために自分の命を顧みず戦う隊員達を撮りたいのです!」
と言うのだ。人は見掛けに拠らないなぁ…と葉山隊の面々は思った。見た姿は……最悪だったが、そこまでの信念とタフさを持っているのだ。目の前の彼を見る…と、さらに首を傾げる葉山隊であった。
…本田さんは一言で言うならばまさしく「ヘタレ」なのですが、
中身は真剣なものにしてみました。
19/02/23 特殊タグを試験的に追加。結果、とてもうるさい仕上がりに。
あと、今回をもって第一章を終了し、第23話からを第二章としたいと思います!
理由は…とくに真面目な理由はありません。章管理機能を使いたかっただけです。ハイ。