…いやあ、長らくお待たせして申し訳ございません。
これからはあまり長い期間かからないようにー…したい。
という訳で22話、「奈落の罠」でございます。
八木《救援要請があったのはこの先のようです》
早紀「周囲に敵の反応は?」
八木《今はいないようです。 お! 味方の反応、レンジャー1-5ですよ》
隼人「よし、急ぐぞ」
隼人、八木、早紀の三人は救援要請のあったエリアに近づいていた。
隼人「流石に寒いな…」
戦闘服に染み込む汗と、地底の冷気を感じながら隼人は水筒に手を伸ばす。
早紀「早く任務を終えましょう」
八木《そうですね》
通路の先にライトの光を確認した三人は警戒を解くために声をかけた。
隼人「ストームチームだ。救援に来た!」
R1-5隊長「救援部隊か! 助かった!」
隼人「今そちらに向かう」
隼人たちは広い空洞に出た。底らしく、天井は暗闇に包まれている。
集った先遣部隊は、
レンジャーチームが4分隊18名(内2部隊の隊長が戦死)
ウイングダイバーチーム1分隊5名
フェンサーチームは3名(隊長以下3名戦死)という状態だった。
隼人「重傷者の人数は?」
R1-5隊長「3名が重傷。他全員がどこかしら軽傷だ…」
隼人「八木、重傷者をデプスクロウラーに収容できるか?」
八木《分かりました》
隼人「よし、他の者は誰かに肩を貸してもらえ。今すぐ脱出するぞ」
八木「よいっしょ」
八木は降機し、包帯を巻かれた隊員に肩を貸す。
彼はタンクトップ姿で腹部には包帯が何層にも巻かれていた。
隊員(R)「すまない…」
八木「問題ありません。無事に地上に送り届けますよ」
1人ずつ肩を貸してデプスクロウラーのもとへ。
隊員(R)「はやく出ましょう」
R1-8隊長「すり鉢状の空洞だ。こんなところで襲われたら、ひとたまりもないぞ……」
R1-5隊長「ああ、今まで襲われなかったのが不思議なくらいだな」
隊員(WD)「早く地上の空気が吸いたいわ…」
隊員(WD)「とりあえず、お風呂に入りたいね」
隊員(F)「ようやくおさらばできるぜ」
先遣部隊の面々は口々に欲を述べていた。
隼人《本部応答願います。先遣部隊と合流しました。現在撤収の準備を進めています》
田中司令《こちら本部、了解した。周囲の安全確保に注力し、地上へ帰還せよ》
隼人《了か…!!》
それは突然だった。
巨大生物の野太い咆哮が木霊したのだ。
一瞬にして隊員たちに恐怖を植え付ける。
隊員(R)「敵だーー!」
その叫びが、巨大生物の到来を告げた。
更に地響きと轟音が彼らを襲う。
土煙と共に隼人の足元に岩が転がった。
ストームチームが通ってきた道が崩れ、塞がってしまったのだ。
隼人「なッ」
思いもよらない事態に呆然とする。
八木《レーダー上に敵影…! 凄い数です!》
レーダーを確認した八木も、その画面を覆い尽くさんばかりの赤い点に驚きを隠せない。
隼人「くそッ! 応戦するぞ! 動ける者は戦闘に参加しろ!」
それからは凄まじい足音と咆哮。
広間に甲殻型、蜘蛛型の大群が到達した。
暗闇から酸の雨が降り注ぐ。360°からの酸はEDFのみならず、仲間の個体の甲殻をも捉えズタズタにしていく。その物量に瞬く間に追い詰められ、負傷者は死者へ。
肩を貸し、咄嗟の動きが取れなかった隊員も悲鳴をあげる。
隊員(R)「脱出路を探せ!」
隊員(F)「確か、頭上に土橋と通路があったはずだが!」
隊員(R)「無理だ! 上に敵がいる! 退路を塞がれたぞッ」
隊員(R)「数が多すぎて狙いが定まらない!」
隊員(R)「隊長! 上です!」
R1-8隊長「なにっ!? うわあああああああ」
レンジャー1-8の隊長は頭から酸の雨を浴び、帰らぬ人となった。
重なる銃声にかき消されそうな怒号が飛び交う。
早紀「通路を確保する!」
隊長(WD)「我々も行くぞ。ストームチームに続けッ」
隊員達(WD)「「了解!」」
早紀とウイングダイバー隊の飛行ユニットに岩肌が照らされるが、瞬く間に上部の闇に消えた。
しかしすぐに雷光が空間を照らし、ひしめき合う巨大生物を穿つ。
壁や天井に張り付く力を失った死骸が落下し隊員が下敷きになった。
隼人はその下敷きになった隊員を救い出し、雷光に照らされた個体や視線があったと第六感で感じ取った個体を撃破する。下敷きになった衝撃から腰の抜けた隊員は、こちらを狙おうとする個体が確実に絶命していく光景にただただ驚嘆していた。
八木「くっ…側面に!」
デプスクロウラーの機動を活かした戦術を展開しようとした八木であったが、ハッとコックピットの後方に体を預ける隊員達に目をやった。
八木(あまり動けないか…ハッ!?)
前方のフロントガラスが突如融解した。酸が当たったのか。
八木「マズイ!! すみません、少し揺れますよッ」
八木は決断した。多少無茶してでも彼らを守らなければいけない…と。
すでに機体は煙を上げている。損傷が激しいのか、動けば軋む音がするのだ。
デプスクロウラーの脚はまさに蜘蛛のようにわしゃわしゃと動き、高いジャンプや素早い移動が可能だが、今その戦術をとったら機体が分解してしまいそうだ。
突如なにかが崩れる音が響き渡る。
落石によって塞がれていた穴が開通したのだ。巨大生物が出てくる。
位置確保に目を光らせていた八木は一か八かと穴に陣取る巨大生物を蹴散らしながら穴に突入した。
突入し通路の奥に巨大生物がいないことを確認すると降機し、リムペットガン(吸着爆弾射出銃)を手に応戦を開始した。
【総合作戦指令本部】
田中司令「よし、これで手筈は整った。敵の状況は?」
沢見戦術士官「15分ほど前、仙台市青葉区に展開中のスカウトから報告がありました。機銃型から砲撃型、大小様々なヘクトル群が侵入し、占拠されたとのことです」
そう言って沢見はスクリーンに動画を映し出す。
建物の陰に隠れたスカウト隊員のカメラ映像にはフォーリナーの地上制圧用戦闘ロボット『ヘクトル』が傍若無人に市街地を歩く姿が映されていた。
田中司令「奴らめ、簡単にマザーシップのもとには行かせない気か」
沢見戦術士官「周辺市街地はもちろん、停泊中のマザーシップを囲うかのように敵機械兵器の大軍が侵出しています」
田中司令「そうか…ブリーフィングの時間も早める。早期に叩くぞ。召集を急げ」
その時、無線機が耳をつんざく銃声を伴いながら鳴り響いた。
隼人《こちらストームチーム! 我々だけでは防ぎきれない! 援軍を寄越してほしい!》
田中司令「こちら本部! ストームチーム! 無事なのか!?」
ストームチームからの返答はない。
田中司令「直ぐに向かわせる! それまで先遣部隊を守れ!」
【地下洞窟】
通路は開通し、すぐにでも撤退したいが、周囲の巨大生物がそれを許さない。回り込まれ、通路の前では巨大生物がさながら門番のように構えている。デプスクロウラーが攻撃を受けないのは不幸中の幸いか。
その後も戦闘は続き、巨大生物は全方位を囲んでいるものの岩肌が見える程に数を減らしていた。
しかし巨大生物の侵入は続き、物量に押されて1人また1人と犠牲が生まれていた。戦闘開始に比べ、スティングレイランチャーの爆発、アサルトライフルのマズルフラッシュも薄くなっている。
巨大生物の死骸と折り重なるようにさっきまで一緒に戦っていた仲間の死体が倒れていた。軽傷ですんでいた者、レンジャー、ウイングダイバー、フェンサー隊員の見るも無惨な死体。例外はない。
八木「ぐあぁ!」
八木は腕に付着した酸の蝕む痛みにリムペットガンを取り落とす。
隼人「八木はデプスクロウラーまで下がれ!」
八木「は…はい!」
早紀「キリがない!」
荒い息をたてた早紀が隣りに降り立つ。
隼人「救援を呼んだ。もう少しの辛抱だ」
早紀「信じていいのね!?」
そう言うと早紀は上部へ飛び立った。
刹那、新たにレーダーに数十の赤点が浮かび上がった。
早紀「来るわよ! 左は抑えるから誰か右の通路を押しとどめて!」
隼人「分かった!」
早紀の呼びかけに隼人が応じ、上部通路につながる坂を登っていく。
先の見えない暗闇に向けて銃口を向けた。
一方赤い点はジリジリと隊員達の居る広間に迫っている。
レンジャー1-5の5名は続々と生まれる重傷者を後ろに庇いながら戦っていた。重傷者の中でも動ける隊員は仰向けになりながらもAF-14を撃っている。
隊員(R)「!? このままじゃ全滅するぞ!」
隊員(R)「隊長! 重傷者多数! とても抑えきれません!」
隊員(R)「もっと救援を寄越してくれッ」
1-5隊長「馬鹿! 救援がくる頃には俺たち全員殺られてる! 死にたくなきゃ撃て!」
田中司令《…ちら本部! 先遣部隊、応答せよ》
1-5隊長「本部かッ!? こちら先遣部隊、レンジャー1-5!」
田中司令《現ざ…《救援部隊を! 急いでッ》》
1-5隊長は枯れる勢いで叫び、田中司令を遮ってしまう。
田中司令《…現在そっちに救援部隊が向かっている! すぐに到着するぞ!》
言い終わるのとほぼ同時に、底の壁に穴が空く。穴から姿を現したのは巨大生物だった。
この時点で、隊員達の命は尽きたも同然だ。頭上から、そして側面から敵が押し寄せる。頭上の通路から出てくる数が減ったものの、状況は変わらない。
一瞬救援が早くも到着したものだと思ったが、ぬか喜びだったようだ。
隊員(R)「味方じゃねぇのかよ!」
隼人「下から!?」
底に現れた甲殻型巨大生物が広間になだれ込む。
その様子を上から確認していた隼人は咄嗟の反応が遅れてしまった。右の通路から出現した個体の噴出した酸をボディアーマーにモロに食らってしまう。すぐさま反撃し、その個体の絶命を見届けるとレーダーを確認した。右の通路に巨大生物の反応は無い。とにかく地形的に有利な場所に移動しなければ。
隼人「ちくしょう! おい! 皆登ってくるんだ!」
声が届いたのか、フェンサー隊員が復唱する。
隊員(F)「あの坂を登れ! 上の通路を確保して脱出するんだ!」
隊員(R)「待ってくれぇ!」
隊員(R)「次から次へと敵が来るぞ! もうおしまいだぁ!」
隊員(R)「死んでたまるか! 撃ちまくれぇー!」
あるレンジャー隊員はリロードしようと腰の弾薬ポーチに手をかけるが……換えの弾倉は尽きていた。
隊員(R)「!? 弾が尽きた! これ以上戦えない!」
早紀「きゃあ!」
飛行ユニットに蜘蛛型巨大生物の糸が粘着し、、体制を崩してしまう。
早紀は壁に叩きつけられ、意識が一瞬飛んでしまったものの、すぐ応戦する。
他のウイングダイバー達も飛行ユニットの破損により光学兵器が使用不能となったが装備はそのままにハンドガンで応戦していた。
隊長(WD)「捌ききれない! しまった!?」
隊員(WD)「死にたくないー!」
隊員(R)「待て!」
泣き叫び、1名のウイングダイバー隊員が背を向ける。
それを逃がすほどの慈悲は巨大生物には無く、腹の噴射口で彼女を捉えた……時だった。ロケット弾が巨大生物に撃ち込まれた。巨大生物は絶命し、爆風が他の個体を巻き込む。
風圧に巻き込まれたが、隊員達、特にウイングダイバー隊員にも被害は無かった。
突如、ライトの明かりが通路からデプスクロウラーの影を作り出す。救護班を連れた救援部隊が到着した合図だった。
隼人「ふぅ…」
八木「眩しいッ!」
レンジャー1-2とランチャー部隊の計2部隊が広間に姿を現した。
葉山「助けに来たぞ!」
結城「なんて数の死骸だ…」
結城は積み上げられた巨大生物の死骸を前に面食らう。それだけの凄惨さを物語っていた。
里見「こちらに!」
里見が誘導し、葉山、結城、高城、新庄は援護射撃を開始。
大黒と里見は隊員に肩を貸す。
もう一分隊はスティングレイランチャーを装備し、巨大生物の束を押し留めていた。
葉山は先遣部隊の最後の1人が足を引きずって通路に出たことを確認する。
負傷した早紀と隼人も援護を受けながら坂を下り、救援部隊の列に参戦した。
八木はデプスクロウラーに飛び乗る。
巨大生物の魔の手を逃れた重傷者の一人、レンジャー隊員が衰弱しきった様子で八木に問うた。
隊員(R)「うう…助かった…のか?」
八木「はい。犠牲は多いですが、生き残りましたよ」
その後、ランチャー部隊の1人が天井にロケット弾を撃ち込むと通路は塞がり、
それ以上巨大生物も追ってくることが無かった。
無事に広間を出た隊員達が再び合流し、各々がホッと安堵のため息を漏らす。
隼人「何人生きてる……」
隼人は満身創痍の隊員達を見る。多くが犠牲となった。
何人…居るのだろうか。見渡すと、戦闘が始まってから半分も生き残っていないようだった。装備や戦闘服の色にもバラつきがある。
皆が友を失ってしまったようだ。全員が無事な部隊は無い。
【総合作戦指令本部】
田中司令「そうか…全生存部隊の撤退を完了。作戦は失敗…」
沢見戦術士官「巣穴は続きがあることが証明されました。最深部に女王がいる可能性も濃厚に。第三次の立案も確定的となりました」
沢見戦術士官「…! ドーベル中隊を皮切りに、機甲部隊とヘクトル軍が会敵。戦闘が開始されました」
田中司令「いよいよか…」
次の戦場だ。
沢見戦術士官「並びに本隊も作戦エリアに入りました」
田中司令「史上類を見ない大規模な戦闘が…各部隊の奮戦を期待する!」
割とストームチームの存在が薄くなってしまった。