作戦がフェイズ2に移行してすでに二時間と少し。すでに多くの部隊が巣穴へ突入した。
先遣部隊《巣から巨大生物が出てくるぞ!》
先遣部隊《やつら、とんでもない物量で来やがる!撃てぇ!撃てぇぇぇ!》
今や人々の踏む土の下で激戦が繰り広げられている。しかし、地底は巨大生物の巣窟。ほとんどの先遣部隊は深入り出来ずにいた。
深くに侵入した通信も受け取るが、その多くが既に交信が途絶えている。
隼人《ストームチーム、突入します》
田中司令《了解した。無事の帰還を祈る》
ストームチームは後続部隊として投入されることが決まり、連日の出撃に疲れ、非番を待ち望んでいた彼女は大変ご立腹である。
隼人「いくぞ!」
早紀「はあ...りょーかい」
八木《この作戦が終われば、休暇を頂けることになっています。それまでは尽力しましょう》
EDFの地底戦闘用ビークル、『デプスクロウラー』に乗る八木は彼女を諭す。
早紀「休暇の為に頑張るって...ダサいわ...」
駄弁を弄する三人だが、意識は周囲に向いている。刹那、すぐ近くで無数の咆哮が聞こえたかと思うと、先の通路を曲がった先から光が断続的に辺りを照らす。さらにおそらくその地点からか、巨大生物の咆哮が木霊する。隼人は走り出した。
たどり着いた先には、通路を埋め尽くす黒い波がレンジャー隊員達を飲み込もうとしていた。
彼らは対地底戦用の火炎放射器で武装し、その灼熱を持って牽制しているが、徐々に封じ込めなくなってきている。
突如火炎の壁の隙間から液体が抜け、一人の隊員がそれを浴びた。
巨大生物の吐いた酸であった。現代化学の理解を超えた強酸がアーマーを蝕み、あまりの痛みからか火炎放射器を手放してしまう。生じてしまった綻びに付け入るように巨大生物は次々と抜け、隊員たちの背後へと回り込んだ。
隼人はその個体に狙いを定め、銃弾を撃ち込む。
隊長「救援、感謝する!」
隼人「お礼なら、先に殲滅してからだ!」
隼人「衛生兵!彼を見てやってくれ。穴埋めは俺らに任せろ」
隊長の隣に立ち、炎の合間から姿を見せる巨大生物を屠っていく。
ものの数分で制圧し、隊長と対面する。
隊長「君たちが来なかったら死んでいた。命の恩人だ。この借りは倍にして返す」
隊長「我々の装備してきた武器は火を嫌う奴らにとって足止めには効果があるが、先程のような大群を殲滅せし得ることは出来ない。流石の物量だよ」
隼人「我々が護衛につこう」
隊長「頼む。我々もここで脱落する訳にはいかんからな」
負傷した隊員の応急手当も済み、その隊員が大丈夫だと立ち上がると、休息を取っていた隊員達や隼人らも軽い体操をこなす。
そして、再び進攻を開始したのであった。
そして一行は森閑とした地下鉄ホームにたどり着いた。敵の本営まではあと少し。電気が生きているホームに足を踏み入れ、はち切れたのか隊員が洞穴の余りの暗さに吐露する。
隊員「巨大生物は図体の割に音を立てない。暗闇で戦うのは不利だ!」
隊員が1人頷く。
隊員「そうだ。背後にいても分かりゃしねぇぞ」
隊長「俺たちのヘルメットにはライトがある。暗闇を恐れるな」
隊員「そうは言ったって!隊長」
不安をあらわにした隊員は、火炎放射器を様々な方向に向きながら
挙動不審になっている。他の隊員が蹴った石ころの音に体をビクリと反応させ、短い悲鳴と共に銃口を向けた。
突如地下が奥まで照らされる。
案の定隊員は悲鳴を上げ、隣の隊員に叩かれる。
隊員「馬ッ!静かしにしろ!」
八木がデプスクロウラーに乗り込み、ライトをオンにしたのだ。
八木《私が、皆さんの目になります》
隊長「すまん、感謝する」
その後、分断された地下鉄トンネルと広間にたどり着いた。
レーダーによると広間には、巨大生物の反応があった。ちょうど崖を降りたところは広間の中心に位置し、その地点を挟むようにして群れをなしている。
地下鉄トンネルから広間へは2mほどの小さい崖になっており、巨大生物をトンネルに誘導して撃破していこうと話がまとまった。
隼人が構えるアサルトライフルのサーモスコープに目を通したその時である。
R7-4隊長《こちらレンジャー7-4。前方に敵! 我々だけでは突破出来そうもない。援軍を!》
田中司令《了解。すぐ近くにストームチームを確認した》
田中司令《本部よりストームチーム。その先にレンジャー7-4がいる。合流しろ!》
隼人《こちらでも確認した。戦闘に参加する》
田中司令《よし。レンジャー7-4、ストームチームがそちらに向かう》
R7-4隊長《レンジャー7-4、了解!》
R7-4隊長《この先に敵が待ち構えてる。力を合わせよう!》
R7-4隊長《用意はいいな......GO GO GO!》
隼人「行くぞ!」
レンジャー7-4隊長と隼人の合図を皮切りに、崖を降りてゆく。広間の中心に陣取り、巨大生物を叩いていった。隼人らが前方の群を相手取り、後方群のさらに後方からレンジャー7-4が突撃。
巨大生物の2つの群れの正体は、甲殻型巨大生物、蜘蛛型巨大生物それぞれの群れだった。
甲殻型巨大生物は酸を吐きかけ、蜘蛛型巨大生物は糸で拘束しようと無数の酸を含んだ糸が襲いかかる。
1人の隊員が蜘蛛型巨大生物に捕まり、銃を取り落とした。戦闘不能に追い込んだ蜘蛛型巨大生物は彼の腕をかぶりついた。
隊員「ぐわあああああ」
隊長「いかん。助けろ!」
隊員「ガハッ......隊...長」
隊長「おい!死ぬな!おい!」
巨大生物が腕を噛みきる前に救出したと思われたが、その隊員は指を失っていた。
あまりの衝撃に叫びも出来ず、隊長に助けを求めた。
早紀「伏せなさい!」
早紀の言葉に従い、頭を低くし、屈んだ瞬間。
早紀の装備する、弓を象った電撃兵器『イズナ-ボウ』から無数の雷撃が疾走る。
雷撃は巨大生物の群れの奥まで届き、広範囲にわたって数匹の蜘蛛型巨大生物の体を貫いていた。死に際の咆哮が辺りに響き渡る。
八木《うぉおおおお!》
デプスクロウラーのガトリング、そして徹甲弾を撃ち出すキャノン砲が全門開き、銃弾の雨を降らせる。
甲殻型巨大生物に肉薄され、終わりを悟った隊員を救い、
巨大生物に地獄への引導を渡す。
隼人「くそっ!こいつら!」
隊長「怯むな!撃てぇ!」
R7-4隊長「こちらは殲滅した!加勢する」
さらに火柱が立ち、巨大生物の動きを封じる。
焼け死に、銃弾に刈り取られ、最後の1匹が絶命した。
隊長「医療班が来てくれるそうだ。少し休憩といこう」
負傷者の応急措置とつかの間の休息の最中、1人の隊員が口を開いた。
隊員「昔、こうやって巣穴に潜ったことがある」
隊員「何度も聞いたぜ……」
隊員「あのときは英雄がいたから助かった」
隊員「英雄?」
隊員「ああ。マザーシップを撃墜した英雄だ」
隊員「何が英雄だ。そんな話、今でっちあげたに決まってる」
隊員「ホントにいたんだ」
隊員「俺は戦後に入隊した身だ。そんなありがたい話、信じられるわけないだろ」
隊員「8年経った今、彼はどこに行ってしまったんだ...生きてるはずなんだ、絶対生きてる」
隊員「おい!目の前の現実をよぉーく見るんだな!」
8年前の第1次戦役の際も同様に巨大生物の根絶を目指して地底侵攻作戦が行われた。彼もその突入部隊に組み込まれた1人らしい。
投入戦力は1大隊を超え、日本最大の作戦であった。
が、巨大生物のホームグラウンドでの戦いは苛烈を極め、
結果EDF JAPANは巣穴の根絶に成功したのだが、無事生還した部隊は2~3割程度だったという。
そんな中、当時のストームチームに所属していた1人の隊員が
生き残りを率いてクイーンと呼ばれる女王級巨大生物に肉薄、見事撃破し、任務をやり遂げた。彼も途中で救出され、共に戦った生き残りの1人で、彼の言葉には感慨深いものがあった。
隊長「よし、そろそろ再開だ。いいな?」
隊員達がそれぞれ答える。
R7-4隊長「休憩の間に本部に連絡した。既に先遣部隊の3分の1から通信が途絶えているらしい。この事態を鑑みて地底掃討は断念するそうだ。後続部隊には先遣部隊の捜索と救出の任務が与えられた」
田中司令《こちら作戦指令本部。作戦を断念せざるを得ない状況になった。先遣部隊にこの通信が届いているか定かでは無いが、聴こえた部隊は直ちに地上へ帰還せよ。救助が必要な者は座標を送れ。後続部隊が向かう》
田中司令《後続部隊、頼んだぞ》
隊長《こちらフェンサー。戦闘中だ。援護が欲しい》
田中司令《作戦指令本部よりストームチーム。交戦中のチームがいる。救援に向かえ》
隼人《ストームチーム、了解》
隼人「行くぞ」
早紀「後続部隊?」
隼人「らしい」
八木《既に後続部隊にも被害が多く出ているようです》
隼人「先遣部隊は大丈夫なのか...」
R1-5隊長《こちら先遣部隊、レンジャー1-5。現在、巣穴深部のある空洞にて負傷者を手当中。フェンサーやウイングダイバーの負傷者も抱えている。周囲の巨大生物は掃討したが、いずれ発見されるのも時間の問題だろう》
田中司令《よく生き残っていた。後続部隊は、指示する座標に向かえ》
隼人達は闇に呑まれた広間を抜け、明かりの残る地下鉄トンネルに出た。
すると、少し進んだ先にある別の横穴からレンジャーとフェンサーの混合部隊が走り出た。皆息切れや装備に溶けたような損傷が見られる。
レンジャー部隊は1分隊ほどの人数だったが、フェンサーは2名だけである。隊長らしき人物は見当たらないので、先程無線で救援を求めた隊長は亡くなってしまったようだ。
レンジャーの1人がこちらに気付く。
隊員「こっちだ!助けくれぇ!」
R7-4隊長「加勢するぞ!」
フェンサー隊員(A)「わぁぁぁぁぁぁぁ」
フェンサー隊員(B)「ひぃッ!うわああああ」
フェンサー隊の生存者であった2名は、蜘蛛型巨大生物の糸に巻かれ、闇へと引きづられていってしまった。
隼人「離れろ!急げ!」
目の前のレンジャー達に警告し、隼人は素早い手つきで背負っていたミリタリーバッグから炸裂弾を取り出しUM4グレネードランチャーに装填、構える。大体の照準を合わし、蜘蛛型巨大生物がひしめき合う横穴に向けて発射。
ゆらゆらと曲線を描き、蜘蛛型巨大生物の皮膚に焼け跡を付ける。その爆風が横穴いっぱいに広まり、複数の蜘蛛型巨大生物が絶命した。
残った個体も、早紀の雷撃の餌食となる。
レンジャー隊長「感謝します。我々もお供します」
隼人「これからさらに奥へと進む。なるべく早く先遣部隊の元に向かうぞ」
早紀「ええ」
八木《当然です》
R7-4隊長「我々が地上に帰るのは、先遣部隊が撤退を終えてからだ!」
R7-4隊員「了解!」
フェンサー隊長《こちらフェンサー部隊。作戦エリアに到着した》
田中司令《了解した。その場所はストームチームの進行ルートにある。周囲の敵を撃破し、合流を待て》
フェンサー隊長《了解!ストームチームを待ちます》
田中司令《ストームチーム、その先に後続のフェンサーが到着した。合流せよ。さらに奥には、広大な縦穴が確認されている。敵も大群だ。戦力を集中し、縦穴を確保するんだ。ウイングダイバーも現在向かっている》
隼人《了解》
フェンサー隊長「共に行動させてもらう」
そして一行は、目的地へ続く闇に消えていった。
【地上、陸上自衛隊中央即応連隊、真田中隊長】
真田「撃てぇ!1匹たりとも残すなッ」
地上では、ヘクトルと地下から逃れた巨大生物の掃討作戦が展開されていた。
96式装輪装甲車の重機関銃による重い銃声。
数丁の89式小銃からの掃射。様々な銃弾が飛び交っている。
隊員「ヘクトルだ!」
真田「ありったけをくれてやれ!」
真田の指示に、110mm個人携帯対戦車弾を担いだ隊員が前に出る。
発射されたロケット弾はヘクトルの左肩で爆裂した。
煙の中から、左腕が天高く吹き飛んでいく。本体も活動を終えたようで、12mの巨体が仰向けで倒れ込む。
司令部では隊員達が慌ただしく交差していた。
その傍らで、電源の付いたラジカセから、キー局放送が流れている。
しかし、パーソナリティーが番組の中断を告げると、
代わりに女性アナウンサーの声が発せられた。
キー局で取り扱うニュース番組である。
アナウンサー《戦局報道です。新たに南米で巨大生物の巣穴が発見されました。EDFは突入作戦を決行。巣穴の破壊に成功しました。しかし戦いは熾烈なものとなり、多数の死傷者がでた模様です》
アナウンサー《世界中で巣穴が発見されています。日本国内では北海道にて新たな巣穴が発見されました。EDF JAPAN北海道支部は、地底侵攻作戦を計画中とのことです》
【総合作戦指令本部】
隊長《こちらフェンサー。先遣部隊と合流した》
田中司令「了解。直ちに帰還せよ」
隊長《こちらレンジャー7-5。報告のあった地点に到着。全滅です》
田中司令「......分かった。せめて遺族の元に届けてやろう。回収班を送る」
隊長《こちらレンジャー。我々も座標に到着。先遣部隊は全滅です》
田中司令「遅かったか......回収は」
隊長《酷い...何もかも溶かされて...ウッ》
この隊長が、酷い吐き気を催したのが聴こえた。そんな光景なのだろう。
田中司令「なにか持ち帰ってやれるものはないか」
隊長《ぜ...全員のドッグタグがあります》
田中司令「よし。持ち帰るんだ」
隊長《了解》
本部属分析官「司令!」
田中司令「なんだ」
鬼気迫る面持ちの分析官に真剣な表情で尋ねる。
本部属分析官「太平洋上を飛行中だったマザーシップ1隻が福島県上空に到達しました!」
田中司令「EDFオーシャンの防衛戦はどうなった」
本部属分析官「易々と突破されました。敵の攻撃により、大破報告も上がっています」
本部属分析官「マザーシップは現在奥羽山脈上空にて停止中。さらに道中で投下したと思われるヘクトルの大部隊が周辺市街地を占領しました。続々と、輸送船も領空内に侵入を許しています」
田中司令「くそっ!」
取り乱す司令を見て、分析官は慄く。
だが、田中司令はすぐに平静を取り戻した。
田中司令「可能な限りの戦力を投入し、それを迎撃する」
田中司令「東北支部にも繋げ」
【地底、ストームチーム】
隼人「この先か...」
R7-4隊長「ああ」
フェンサー隊長「救援要請があったのはこの先らしいな」
隼人はすっかり大人数に膨れ上がった仲間達に振り向く。
レーダーには先程までの比ではない数が表示され、隼人達も決意を固めた。
隼人「GO!」
一行は先の見えない広間に出た。地面を細い橋だと認識し、下を見やる。底は見えない。ただ、飛び降りてたえうる高さではないことは明らかだ。そこに、なにか這いずる音が聞こえる。
1人の隊員が音のする方を向くと、ライトに照らされたのは赤色の胴体。赤色型巨大生物だった。赤色型巨大生物の大群が壁や天井に張り付き、獲物を待っていたのだ。
そして一斉に、獲物を捕獲せんと蠢き出した。
隊員「赤色型巨大生物多数!」
隊員「囲まれる!」
隊長「怯むな。攻撃しろ!」
フェンサー隊長「ラッシュ!うおおおおおお」
フェンサー隊員「Yes sir!」
瞬く間に火柱、雷撃、銃撃が交差する戦場となる。しかし、視界が不明瞭な一行にとって、不利な状況に陥った。
隊員「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
1人の隊員が足を踏み外し、滑落した。悲鳴は遠のいてく。
ラッシュ中に体勢を崩した隊員は転げ落ちる。起き上がろうとした時、目の前に赤色型巨大生物が自分を狙っている事に気付いた時には遅く、断末魔が響いた。
ウイングダイバー隊長《こちらウイングダイバー!縦穴で戦闘中の部隊を発見!援護する》
隼人《頼んだ!我々は一旦引かせてもらう》
縦穴の天井に空いた大穴から、ウイングダイバーの隊員達が降下する。レーザーランスを装備する彼女たちは広間を自由自在に飛び回り、ライトで目視した個体を貫いていく。
時々レーザーランスの放つ光弾が辺りを照らし、それを確認しながら隼人達一行は引き撃ちを開始した。
次々に屠り、レーダー上に映る敵は既に両手の指で数えられるようになっていた。
やはり、遠距離攻撃を持たない赤色型巨大生物は近づかれなければ、火力を集中し、比較的安全にことが進む。
程なくして、隼人達一行は縦穴を降り、残りの赤色型巨大生物は駆除された。縦穴を確保したことを本部に告げ、医療班や回収班が到着したこと、そして補給を済ませた時を見計らい、救援要請の元へと急ぐ旨を伝えた。
隊長「ストームチーム、我々は
隊員「流石ストームチームだ。
この隊員のセリフは聞き流されてしまい、ストームチームの面々は疑問を持たぬまま作戦を急ぐのだった。
なんだかんだ言って、もう1周年を迎えることになりました。正確にはまだ14日あるのですが。このまま2年目に突入しても変わらずやっていきたいと思いますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします。