【ステーション1 化学管理研究ラボ】
八木、早紀はステーション1敷地内の研究棟、化学管理研究ラボに先の戦いでトライアル使用したプラズマバッテリーガンの報告に訪れていた。
研究員「お疲れ様でした。実践データは十分です」
八木「そうですか、なら良かった」
研究員「我々は日々総力をかけて武器やこういったサポート兵器の開発に勤しんでおります。すぐに実用化されることでしょう!」
早紀「そう。楽しみにしてるわ」
そう言うと早紀はラボの出入り口に立つ。
だが自動ドアは早紀が目の前に立つより先に開いた。そこにはエアレイダーの兵装に身を包んだ男性がいた。いや、正確には
?「お退きなさいよ。アタシ女には興味ないの」
早紀「なっ...」
唐突すぎる発言に早紀は顔を引き攣らせながらそれに従う。
男性は厚顔無恥にラボに足を踏み入れたかと思うと研究員を上からのぞき込む態勢で口を開いた。
?「...」
研究員「...」
?「ねえあなた、トライアル使用したあれ、すっっっごく良かったわよ!」
研究員「へ?」
八木「!?」
天翔「アタシの包容力の代名詞になりうる装置ね!」
研究員「な..入ってくるなりなんですか天翔さん!」
引き攣った顔の早紀と驚きを隠せない八木の目の前で一方的な会話が始まる。とんでもない威圧感に研究員もタジタジだ。
天翔「あれよあれ!」
天翔がガラスの向こうを指さす。その先では八木の使用するパワーポストのホワイトカラー、『ライフベンダー試作型』がキャリーカートでラボに運ばれていた。
パワーポストと同じ機構で使用者及び周囲へ与える恩恵は医療用ナノマシンによる治癒。戦場で簡単にポータブルメディカルルームを展開出来るサポート装置だ。
研究員「そ...それは良かったです」
天翔「でもねぇ...あの白いこけしちゃん、まだ試作段階だからか効果時間が短いわ、傷口が完治しないわでねー?これじゃあ戦場で戦う坊や達が可哀想なのよ~」
研究員「あの、天翔さんも会議に出席したでしょう?ライフベンダーですって、あれの正式名は」
天翔「あの
さらに天翔の攻勢は続く。
天翔「とにかく、一刻も早く戦場に常備していける型の完成を!...そうだ!アタシを開発に参加させなさい!実はアタシ医学の知識があるの。飲食店経営してた頃のイケメン医師ちゃんとのパイプがあってね、アタシも興味があったからナノ医学の講義に参加したことがあるのよ~」
研究員「分かりました、早く実用化できるよう努めますので!......その試験管戻してください」
話を流し、そろそろ終わらせようと背を向けようとした研究員の横で、天翔が試験管を目の高さまで持ち上げる。
天翔「つれないわねぇ...!?」
天翔と八木の目が合った。
八木「あっ......」
八木は退路を絶たれたことを悟り、肩をすくめる。
天翔「八木ちゃんじゃない!久しぶりね!」
八木は横目で早紀に助けを求めるも溜め息をつかれて受け入れの態勢に入った。
八木「お久しぶりです、天翔監督官」
再度横を盗み見る。案の定早紀は目を見開き難しい面持ちだった。
天翔「どお?実戦は」
八木「お陰様で。監督官がご教授してくださった知識と鍛錬の賜物です」
天翔「もう!八木ちゃんったら、そんなに固くなくていいのにー!」
八木「へへへ...いだっ!痛いですって天翔監督官」
天翔は照れを隠しきれない口調で八木の背中をビシバシと叩く。
強さは男性のそれだ。
天翔「あらごめんなさい、教え子の活躍を聞くと興奮しちゃって。アタシってばやーねぇ」
天翔「じゃ、アタシはこれで失礼するわねー」
八木「はい。お疲れ様です」
天翔はその場を後にした。
早紀「で、八木くん、彼は?」
八木「はい……私の訓練兵時代の監督官です。性格はあれですが、実力と監督官としての器は1級品なのですよ」
八木にとって天翔は自分をここまで訓練してくれた恩師であるが、
訓練兵時代これでもかと振り回され、配属が決まった後は会うのを躊躇っていた。
早紀「世も末ね...」
八木「じゃ、また」
研究員「はいー」
そして八木達もラボを去る。
葉山達レンジャー1-2はステーション1敷地内にあるドーム型の射撃訓練場に居た。防火シャッターが締まり闇に包まれた中での新型武器の試射である。里見が真剣な面持ちでスコープの覗く横では結城が訓練弾の入った弾倉を下から押し込んだ。
装填を施したその武器の名は『AF-17』である。EDF武器開発部が先日開発し、既に第一師団への配備の受理が成されている。Infra-Red/Night Vision scop通称『IRNV』が装着されたこの銃は、地底戦闘時の誤射防止、そして深闇での敵の索敵(熱源探知)に優れたものとして正式配備することとなった。
結城は外界への意識の一切を遮断し、スコープ越しに熱を持った的の中点を見つめる。そしてスコープの中心と中点が重なったタイミングで引き金を引いた。反動を受けながらも釘を打ち付けたように固定した身体を崩すことなく続けて射撃した。
3発分の乾いた銃声が聞こえた後、結城は後方の明かりに向かって合図する。後方はオペレーター室になっており、射撃訓練場とはガラス1枚で繋がっている。そこには研究員とレンジャー1-2の結城、里見以外の面々が控えていた。
研究員「精度良好。その他ステータスもAF-14を上回った数値です」
葉山「お疲れさん、戻ってきてくれ」
結城、里見「了解」
大黒「これが、今度の地底調査任務で我々に先行配備されるんですね」
新庄「そのようだ」
高城「その為にも、早く慣れとかないと!」
高城は重そうにテーブルに置かれたAF-17を持ち上げる。
里見「しかし、前回潰した穴に移り住んでやがるとは...」
里見は盛大に溜息をつき、どっと疲れた様子でパイプ椅子に座り込んだ。レンジャー5の報告から2時間後、派遣された地底戦闘用ビークルデプスクロウラーと1分隊の機甲部隊が進んだ先にあったのは巨大生物再臨騒動時に潰したと思われていた地下洞窟、そしてそこに住まう赤黒の巨大アリが入り交じった光景だった。戦闘が行われたが、部隊は全滅したらしい。だがその後巨大生物が地上に繰り出すことは無かったという。
不幸中の幸いとはこのことである。
葉山は胸騒ぎを感じたが意識しないように努めた。