地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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本編と同時進行だったこちらがいいところで終わっていたので、すぐ仕上げてしまいました。


閑話 馳せる思い

【関東基地司令官室】

 

田中がコーヒーサーバーに手を伸ばすと、左にある扉から4回ノックがされた。コーヒーサーバーに伸びる手を引き、体ごと左を向く。

田中本部長「どうぞ」

沢見戦術士官「失礼します、沢見です」

扉が内開きに開かれると、ドアノブに手をかけた沢見戦術士官が田中の視界に入った。見ると、手にはバインダーが握られていた。

 

田中本部長「どうした?出動要請か?」

沢見戦術士官「はい。こちらのエリアに巣穴への入口が出現しました。現在、部隊を選定中です」

沢見がバインダーに挟まれた書類の表面を田中に向けながら続ける。

沢見戦術士官「このエリアは東北及び関西基地が担当します。このエリアとー・・・」

沢見が言葉を区切った。田中が目の周りの筋肉をほぐすように鼻根を摘んだからだ。

沢見戦術士官「失礼ながら田中本部長。関東基地の作戦の指揮を桐島副司令に委託するべきではありませんか?連日の指揮でお疲れでしょう。少しお休みになられた方が...」

田中本部長「ふむ......」

田中は部屋の窓側に進み、【連合地球軍日本支部関東本部本部長/司令官】と書かれた三角形の席札の置かれた机に備えられたレザーチェアに座ると、考え込む体勢を取る。

しばしの沈黙の後、田中が口を開いた。

田中本部長「そうだな。関東基地の指揮は彼に任せよう。...だが、総合作戦指令本部は引き続き私が指揮をする」

沢見戦術士官「本部長!」

声を荒らげた沢見戦術士官を、手をかざして静止される。

田中本部長「いいんだ。それに、私にはこの戦争が終結するまで指揮を執り続ける義務がある。とりあえず、桐島副司令を連れてきてくれ」

沢見戦術士官「...了解。それでは失礼します」

そして扉と共に差し込んでいた光芒が閉じられた。

立ち上がりコーヒーサーバーの元に戻ると、冷めて湯気の立たなくなったコーヒーの入ったマグカップを掴み、口に運ぶ。

田中本部長「...冷めたか」

冷めたさと際立った苦味だけが口に残り一度コーヒーサーバーにマグカップを置き直すが、少しの沈黙の後再び手に取り机に戻る。

 

それから田中は、何度も冷めたコーヒーを口に運びながら沢見戦術士官が置いていった書類に目を通す。

だがいつの間にか書類に向ける田中の目は書類の先の不可視の領域を見ていた。

 

突如どっと疲れが目に押し寄せ、田中は目をつぶった。

 

そして目を開くと、田中は慌ただしく分析官やオペレーターが行き交う総合作戦指令本部にいた。スクリーンには「CAM-(数字)」と表示されたウィンドウが並んでいる。

その中の一つでブラックアウトした画面を見ると、鏡のように自身の顔が映っていた。

画面に映った自分の顔と目が合ったが、すぐに他のカメラの画面に視線を移す。何故画面で自分の姿を確認したのか疑問を持たないまま。

 

 

【8年前】

 

沢見オペレーター「CAM-07に人影。『』が戦闘を続行しています!まだ戦いは終わっていません!」

CAM-07には力尽きたスカウト4隊長の遺体を遮蔽物へ移動させ、ライサンダーZスナイパーライフルで飛行ドローンに応戦する『』が映し出されていた。

田中司令「戦えるものはいないのか!『』を援護せよ!」

必死に無線で呼びかけるが、返ってくるのはノイズばかりである。

田中司令「くそ...!」

『』が力尽きればそれこそ人類の終わりだと思ったその時であった。

突如CAM-07が白煙で視界が塞がれ、最終防衛形態へ移行した『』が映る他のカメラ映像数個に紫の光を纏いながら直進する個人携帯用ミサイルランチャープロミネンスMAの弾頭が映る。吸い込まれるように直進していったそれは、『』の下部にあるハッチ内部のコアに着弾。その瞬間、『』は紅く禍々しい光を失くし、黒煙を大量に吹き出しながら徐々に高度を下げる。総合作戦指令本部のレーダーにも『』を表していた巨大な赤点が消滅したのが確認された。

 

突如の事で場は静まり返り、勝利に歓声を上げる者は逆に場違いな空間であった。

 

その直後、世界各地のフォーリナーの軍勢が宇宙空間へと撤退を開始。世界中に人類の勝利が報道された。

 

 

【1年後、関東基地敷地】

 

最終決戦から1年、EDFは世界各地で残った巨大生物の掃討作戦を展開していた。戦力の足りない分は各国防衛組織の生き残り、または市民で補填された。そして、アメリカ、アリゾナ州で最後の巨大生物が倒された。

 

そしてまた数日後、日本支部関東基地では兵宿舎の玄関前のグラウンドに田中司令を始めとする大戦を生き残った面々が整列していた。その中には、葉山や結城、佐川、神崎などが見える。目の前には、ドッグタグが積まれていた。そのドッグタグに刻まれた名前は、すべて大戦で命を落としていった戦士達のものだ。

 

田中司令「この数を胸に刻んでおけ。我々はこの、勇敢に戦い命を賭していった者たちの思いとともに前に進んでいかなくてはならない。やつらの再来に備えて!」

 

そう言うと田中は、電灯の明かりが届かない暗闇に姿を消していった。

 

 

【関東基地、兵宿舎角】

 

田中が兵宿舎の角に差し掛かった直後、後ろからの声に呼ばれ、立ち止まる。

振り返ると、赤色のヘルメットを被った男が立っていた。原色の赤いヘルメットのバイザーの中の瞳はまっすぐこちらを見ていた。

赤いヘルメットの男「何処へ行く」

田中本部長「決めていない。あてもなく彷徨うだけだ」

田中の返答に男は考えこむが、再び歩き出そうとした田中を呼び止める。

赤いヘルメットの男「司令部はどうするんだ」

田中本部長「私は大戦中、多くの部隊を向こうに送ってしまった...私はその責任をとる義務があり、償わなければならないだろう。貴様は、それどうしたんだ?」

田中は話題を変えようと男の被っているヘルメットを指さした。

赤いヘルメットの男「あの()()に置いてきた。これはスカウト4の隊長のものだ」

 

田中は、その()()に破損した漆黒のヘルメットだけが残されていて、『』がどうして見つからず行方不のままであったのかを考えた。

 

赤いヘルメットの男「田中本部長、お前が指揮を執り続けろ。EDFには、まだお前が必要だろう。お前が指揮を執り続けることが、亡くなった者たちにとっての償いだ。そして、もしやつらの再来があったのなら......そのときはお前が先導し、人類を、()()()()()()を導いていかなくてはならない」

田中は男の口からそんな言葉がでてくることに、驚きを隠せずにいた。

田中本部長「......分かった。その言葉、忘れないでおこう。貴様もその時は覚悟しておけ。()()()してやるさ」

赤いヘルメットの男「フッ...これからはバイクでも走らせて静かに暮らしたかったんだがな。覚悟しておくさ」

田中本部長「そうか。それなら来るべき時までそうしてるといい。車庫にSDL-2が数台格納されているぞ?」

赤いヘルメットの男「やめてくれ。しっかり大地を踏みしめて駆けたい」

と言いい田中に背中を向ける。が、3歩ほど進んでこちらに振り返ると付け加えるように人差し指を立てて言った。

 

赤いヘルメットの男「あともう一つ。金輪際後方からの敵はゴメンだぜ...」

と言うと、背を向けて今度こそ電灯の外に消えた。

 

 

【現在、関東基地司令官室】

 

沢見戦術士官「本部長、田中本部長!いらっしゃいますか?桐島副司令をお連れしました」

田中本部長「おっ...すまない。少し昔を思い出していた。入ってくれ」

沢見戦術士官「......」

沢見戦術士官は理解したのか詮索はせず、静かに扉を開けた。

田中本部長「導いていかなくてはならない...か。よし!桐島副司令、本日より関東方面の指揮権を貴殿に委託する。だがー・・・」

 

 

田中本部長「総合作戦指令本部の指揮は、私が引き続き行おう。それが私の使命だ!」

部分的にしか思い出せなかったが、この記憶は今後度々思い出すことになるだろう。思い出すたびに、明瞭に8年前の凄惨さや重みが増していくのだろうが、それに折り合いを付けなくてはならない。そして乗り越えるのだ。いつか、絶対に...




SDL-2とは、EDFで配備されている次世代型の戦闘バイク。
車輪は付いておらず、浮遊する能力を経ているが扱いが難しく地に足がつかないことに不安を感じる隊員が後を絶たなかった為その前形である従来のサイドカー付き戦闘バイクであったSDL-1が配備し直されました。

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