地球防衛軍 〜地球の守護戦士達〜   作:きぬたにすけ

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閑話 非番

結城は寮のベッドで目を覚ました。

 

手を伸ばせる限り伸ばしバンザイする。

結城「ふあぁぁぁ.....久々の休息だったが、こんなに寝てしまうとは......」

新庄「よお、起きたか」

里見「おはようございます」

結城「おお、おはよう」

部屋にはレンジャー1-2の隊長以外の顔と、仲の良い別部隊の隊員が揃っていた。

三段ベッドが部屋の入って左右両壁に設置されている。

それぞれのベッドに、里見、別部隊の隊員、新庄、大黒がいる。大黒は、車の雑誌開きを頭に被せたまま寝ていた。

結城「隊長はどこに?」

隊員「隊長なら、佳奈子さんとデートっすよ」

結城「まじか!」

里見「ええ、お二人が隊長の自車で出発するの見かけました」

食事にでも出かけたのだろう。

結城「まあ、今日は非番だし、少しくらい兵士としての時間を忘れてもかまわない...か...」

隊員「そうっすねー。あれ?遠い目をしてどうしたんすか?誰か気になる人でも?」

結城「ばっ!」

新庄「馬鹿。結城はあの新人オペレーターに惚れてるのさ」

 

1年前、連合地球軍日本支部関東基地に新人のオペレーターが配属されてきた。

まだ幼げな印象を受ける人だったが、それが関東基地の男性隊員達の間で人気を博している一種のステータスにもなっている。

だが彼女には一つこの地球を守るという職の界隈において、心配となる事がある。

それは、彼女は前大戦時に助けられたという漆黒のヘルメットを被った隊員に憧れを抱き、ナレーション大学を卒業し、連合地球軍にオペレーターとして就職したらしい。彼女の業務に対する熱意と業績は好評だが、いざ奴らを前にする時、被害者であり、相当の恐怖を植え付けられたであろう彼女は平常心を保ち、奴らに立ち向かっていけるのか。ということだ。

彼女が機能しなければ当然指揮系統に多大な影響を与える。奴らの恐怖に彼女は打ち勝つことが出来るのだろうか.....

 

そんなことを考えていると、

田中本部長《こちら作戦司令本部。東京地下に巨大生物の巣穴が確認され、明後日、巣穴への侵攻を開始せよと総司令部から通達があった。8年前既に恐怖を味わった者、知らない者、それぞれいると思う。前大戦の戦訓から、犠牲は免れないだろう。だが、多大な犠牲を覚悟してでも成功させねば日本は壊滅だ。今奴らの巣穴を叩かねばならない。自衛隊と連携し、明日には突入部隊が編成される。幸い、今日は巨大生物の出現報告及び駆除依頼は来ていない。各員、今日一日は自由行動を許可する。せめて悔いのないように過ごしてほしい》

 

大黒が、神妙な面持ちで車雑誌を胸に持っていく。いつの間にか起きていたらしい。

隊員「どうする?」

新庄「俺は家族と過ごすよ」

結城「家族か.....お前は?」

里見「俺は妻を食事にでも誘いますかねー」

結城「新婚だったか......?死ぬわけにはいかないな。生きて若妻さんを一人にするんじゃないぞ」

里見「フラグっぽいこと言ってくれますね。のぞむところですよ。結城さんはどうするんです?」

結城「俺は......家族はもちろん、身よりは全員前大戦で亡くなったからなぁ。まあ、悔いのないように過ごすよ」

里見「そうですか.....なんかすみません。じゃあ明後日は生きて帰りましょう。絶対に」

結城「おうよ、じゃあな」

そう言って部屋には結城一人になった。

結城「さて.........訓練場行くか」

 

レンジャー1-2の面々と別れ、兵宿舎を出る。灰色の曇り空の下を歩きながら訓練場へのコンクリートの道を進むと、訓練場の入口に8年前からの顔見知りである訓練官と会った。

訓練官「おう、結城か。お前こんな時でも訓練場に来たのか」

結城「ああ、他にやることもないしな」

訓練官「訓練、付き合ってやるぞ?これでも8年前からの仲だろ?」

結城「ああ、よろしく頼む」

 

 

 

 

葉山と佳奈子はアウトレットパークのテラスで並んで星空を見上げていた。

佳奈子「今日は有難う御座いました」

葉山「こちらこそ。......そうだ、こんな時に仕事の話で申し訳ないが、佳奈子。司令からの言葉、聞いたか?」

佳奈子が頷く。

佳奈子「巣穴への突入作戦の話ですよね.....」

葉山は佳奈子がまるで故人を想うような目をしていたのを見逃さなかった。

葉山「まさか、8年前、君も.....」

佳奈子「うん。私はレンジャー3の所属だったんです」

 

 

【前大戦頃】

 

佳奈子「私達だけ....のようね....」

レンジャー3-6は、おそらく巣の最深部であろう深くの広間の前の通路まで来ていた。

隊員「そのようですね。どうします?我々だけで遂行しますか?それとも後続部隊を待ちますか?」

隊長「そうだなぁ.....後続部隊を待とう。我々だけでは危険すぎる。それまで周囲の確保に回ろう」

隊長の提案に頷くと発煙筒を通路に投げ、リュックサックを肩から下ろし地面に置くと中から予備弾薬を腰の弾薬ポーチに補充する。

そうしてる間にも、仲間の阿鼻叫喚の模様が無線機から聴こえてきた。

隊員《こちらストーム4!罠だ!敵に包囲されている!すごい数だ!》

隊員《駄目だ、敵が多すぎる!うわああぁぁぁぁぁぁ!》

田中司令《ストーム4!応答せよ!ストーム4!、応答せよ!...くそっ!》

隊員《こちらレンジャー4-3、縦穴を発見。巨大生物がいる。我々だけでは突破出来そうもない。えんぐ....ああっ!気づかれたぞ!撃てぇ!》

隊員《レンジャー4-3、こちらレンジャー6-5。助太刀するぞ!》

隊員《了解!おい酸だ!避けろ!》

隊員《こちらレンジャー2-9、巨大生物を殲滅しました!進軍を再開します!》

 

数分後、発煙筒の光が数人分の人影を捉える。

隊員《こちらレンジャー2-9。レンジャー3-6を視認。合流する》

 

レンジャー3-6が進んできた通路を見ると、発煙筒の光に照らされたレンジャー2-9が確認できた。

隊長がレンジャー2-9に応える。

隊長《こちらレンジャー3-6、こちらからも視認した》

 

2-9隊長《ここは.....最深部なのか?.......おい!側面だ!なんて数だ!呑まれる!》

レンジャー2-9が慌てて銃を構える。

レンジャー2-9がレンジャー3-6の元に向かう進行方向にある小広間にたどり着くと、発煙筒の光が巨大生物を捉えたのだ。

隊長「何!?レンジャー2-9を救出するぞ!」

佳奈子&隊員達「「「了解!」」」

 

救出も虚しく、レンジャー2-9は巨大生物の餌食となっていく。

2-9隊員「くそっ!敵が多すぎます!」

2-9隊員「助けてぇ!ぎゃあああ!酸をくらった!」

2-9隊員「うああぁぁぁぁぁぁ!」

2-9隊長「ぐあっ!?足はくれてやるッ!!...クソッ」

片足を失いその場に座り込んだ2-9隊長はM92Fを構え発砲するが、間もなく巨大生物に集られ断末魔も上げずに食い殺された。

 

3-6隊員「くそっ!レンジャー2-9が全滅した!」

それも目の前で。

発煙筒の光が弱まった空間で巨大生物がひしめき合う通路に懐中電灯の光を当てると、真っ赤な鮮血が巨大生物の真っ黒な体を赤に染めているのが分かった。そしてレンジャー3-6をその眼で捉える。

 

隊長「後退しようにも巨大生物の大群、前進しようにも敵の存在が未知数の前方の大広間。どうする......」

やがて決心し、隊長は口を無線機に近づけた。

隊長《こちらレンジャー3-6。巣の最深部へ到達。広い空洞を発見しました。これより突入します》

 

隊長「前進ーっ!」

隊員達は一瞬おののくが、覚悟を決め、突撃を開始した。

隊員「っ......やってやる!」

隊長「あれが.....巨大生物の親玉なのか.......?」

隊員「で...でけえ...」

最深部の大広間に発煙筒を投げる。すると、緑の光に広間が照らされ、巨大な敵が露わになった。巨大生物よりも規格外の大きさで羽が生えている。女王アリに酷似していた。

隊長《こちらレンジャー3-6!女王です、女王を発見!大きいぃ!こちらに向かってきます!》

 

隊員「おいおい通常の巨大生物が子供に見えるぞ!どう見ても規格外の大きさだ!」

隊員「馬鹿!そんなこと、巨大生物が出現した時から分かってる!死にたくなきゃ撃ちまくれぇぇぇ!」

佳奈子「なにか出してる!」

 

女王が小型の巨大生物の酸を吐くのと同じ動作で大量の液体を噴射した。橙色の霧が辺りを包み込む。一人の隊員が霧に呑まれると、その隊員の全身が服も肌も荒れ始め、苦痛に悶えて地面をのたうち回る。

隊員「ぐあああああ!痛いぃ!か...構わず行...け...」

隊員「ケン...すまない!」

隊員「あれは!?霧吹き状の酸だ!あれを浴びたらおしまいだ!」

隊長「通常種よりタチが悪い!サイズもデカけりゃ攻撃も範囲も強大ってか!?」

隊員「おい!あそこから上に登れるぞ!」

 

一人の隊員が足を止めずに大広間の中心にある柱を指さす。その柱には柱に沿うように螺旋の坂があった。そして、登りきった先に穴を確認した。

隊長「でかした!あの坂を目指すぞ!」

佳奈子&隊員達「「「了解!」」」

 

仲間が脱落する中、全速力で坂に向かう。

隊員「ぐあっ!足にくらった!.....先にいけ!少しでも敵をやってやる!」

隊員「置いていけるか!肩貸してや......」

 

足を怪我した隊員の肩に手を回そうとした隊員の首から上が突然無くなり、噴水のように鮮血が流れ出る。パタリとその場に倒れた。

隊員「クソ共がっ!」

隊員は、負傷した足を引きずりながら頭を失くした身体に近づき、AF-14を拾い上げ両手に構え、乱射した。

図体のでかい女王にはサイトを見ず乱射してもよく当たる。

隊員「ひっ!うわあ!....バシャ!」

その隊員は正面からまともに酸をくらってしまった。

 

その後、登りきって穴に逃げ込むことが出来たのは佳奈子と隊長のみだった。

 

隊長「はあ....はあ....無事なのは佳奈子だけか....」

佳奈子「ええ....はあ....はあ....」

隊長「取り敢えず、地上に戻るぞ。仲間の亡骸は持ち帰れないが.....」

 

隊長はそうですねと言いながら立ち上がる佳奈子を見て、佳奈子を横に突き飛ばした。正しくは佳奈子の後方にあったライトに光る()()()()を見た。

 

佳奈子は土壁に強く頭を打ち、意識が朦朧とする。視界が暗くなっていく。最後に見た光景は、先ほど私がいた場所に巨大生物が居て、何かを咀嚼している音だった。

 

【現在】

 

佳奈子「その後、私はストーム1に救助されて、私だけが生還できたんです。」

葉山「そんな事が.....」

佳奈子「隊長とは、別に恋仲だった訳じゃないけど、同じ分隊の尊敬する人だったから......」

と言うと、佳奈子は俯き涙を堪えていた。

佳奈子「だから.......死なないでね、葉山さん」

葉山「ああ、必ず生きて生還するよ」

 

 

 

 

結城「はあ...はあ...」

訓練官「お疲れさん。ほら、〇クエリアス」

結城「ああ、すまん。んっ...んっ.....ぷはぁ....」

訓練官「明後日、お前はこんな作戦で命を落とすようなタマじゃないよな?」

結城「当たり前さ」

 

久々の静かな夜。街頭は白く、暖かな光を浮かべていた。

 

そして次の日、関東基地の敷地で関東基地に駐屯する全部隊が整列する中、田中司令官が「突入部隊選考書」と書かれた紙を片手にメガホンを通して言った。

 

司令「突入部隊を発表する」

隊員(全)「「「はい!」」」

司令「レンジャー1、レンジャー2、レ......そしてストームチーム。自衛隊の投入戦力は第1普通科中隊、........」

 

総合すると、EDF関東第1師団隷下第1普通科連隊2個中隊と陸上自衛隊東部方面隊の戦力1個師団の中で3中隊のおよそ一大隊規模が突入部隊に選ばれた。


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