転生!アテナの大冒険   作:塚原玖美

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【9】呪文のトレーニング:やり過ぎた結果

パーティーの翌日から、”姫君のお勉強”が始まった。

が、正直言って、かなの書き取りと計算は出来るか出来ないかの確認だけとなってしまった。

 

教師は感心しているようで、次の教材を用意するのに本を見繕う事となった。

城の図書室の本を利用させてもらい、簡単な小説と、少々複雑な計算問題集を使わせてもらう事になった。

 

アテナは呪文の授業が一番楽しみだった。

先生は子供にもわかりやすいように説明しようとして、まわりくどい表現になっていたが、一通り文字が読める事は確認済みだったので、その本をよく読んでおく事を条件に、早速いくつかの呪文を契約した。

 

と言っても、1日目なので、契約したのは、ホイミとキアリーだけだった。

 

そして2日め、先生を伴ってベルナの森へ出かける事となった。

森には傷ついた動物達がいくらでもいるので、ホイミとキアリーの実践にはちょうど良かった。

 

先生は出来るまでトコトン!という位のマイペースさを期待していたようだったが、あっという間に使えるようになった。

じつは、1日目に本をしっかり読んだので、自分で基礎の瞑想の仕方をマスターしていた。

昼寝したと見せかけ、また、もう眠ったと見せかけ、ダマラが部屋に居ない時を見計らってトレーニングしていたのだ。

ついでに言うと、簡単な本にはほんのいくつかの呪文の契約法しか載っていないのだが、図書室を自由に使っていい、と王が優しい気持ちで許してくれたので、難し目の魔道書を拝借しておいた。

 

だから、夜明けに合わせて窓から木を伝って脱出し、人の居ない場所を見つけて勝手に契約した。

 

自分で契約したのは…

 

ベホイミ、ベホマ、キアリク、リレミト、ルーラ、トベルーラ、ラリホー、レムオル、トラマナ、インパス

 

魔法力足りなくて使えない呪文もあるけど、ホイミとキアリーが出来るようになっても、しばらくは座学と瞑想だけの授業を行うと先生から釘を刺されていたので、まあバレないだろう、と踏んだ。

 

実際、呪文の授業は週に2回と少ないので、授業で瞑想するようになってからは、とにかく暇を見つけては瞑想した。

もちろん体力づくりもしたいので、バダックを捕まえては追いかけっこ、木登り、ボール遊びと、許されている外遊びは一通りやっている。

ちなみに、木登りは最初は怒られていたが、もう諦めたようで何も言われない。

 

とにかく、ベルナの森での実践訓練で魔法力の動かし方がわかってきたので、瞑想しながらとにかく魔法力を体の中で動かし続ける事で、魔法力は1ヶ月もした頃にはだいぶ上がっていた。

 

そこで、明け方にこっそり追加でレミーラを契約しておき、夜中に部屋から抜けだした。

 

ベルナの森の真ん中に1箇所だけ平地があるので、そこに体を下ろした。

モンスターが暴れている今、迂闊に森に入るのは危ない事くらいは分かっているが、1度”死んでいる”身としては、死ぬことなど怖くなかった。

 

その平地に腰を落ち着け、呪文の契約をしまくった。

 

メラ、メラミ、メラゾーマ、ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン、マヒャド、バギ、バギマ、バギクロス、ギラ、ベギラマ、ベギラゴン、イオ、イオラ、イオナズン

 

全て契約出来た。

 

調子に乗って、ザオラル、ザオリク、ザメハ、マホトーン、フバーハも契約を済ませた。

 

こんなに色々契約出来るなんて…”神のご加護”なのかな?

 

と考えていたら潜んでいたモンスターの群れに襲われた。

 

なんとか契約した呪文を駆使してモンスターを撃退したその時、朝日が顔を出していた事に気付いた。

 

マズイ…抜けだしたのがバレる…そう思いながら、レムオルで姿を消し、トベルーラで城まで戻り…自分の部屋を窓から覗き込んだ。

 

ルーラじゃなくてトベルーラで帰ったのは、ルーラだと着地音でバレるから。

 

何とか間に合ったようで、急いで着替える。寝間着のまま出かけたのは正解だった。幸い、雨も降っていなかったので靴も汚れていない。

 

着替え終わったところにダマラが入ってきた。

 

「アテナさま、おはようございます」

「おはよう、ダマラ」

「お食事の支度出来ていますよ。」

 

はーい…と返事をしようと振り返ったところで、私は強い睡魔に襲われて倒れてしまった。

 

「アテナさま!?」

「アテナさま、アテナさま…」

 

薄らいでいく意識の中で、ダマラの声がこだました。

 

目が覚めた時、既に夕暮れになっていた。

眠っている間、医師も来たらしい。疲労が溜まったのであろう、との診断から、呪文のトレーニングは瞑想も含めてしばらく禁止、座学のみ、と決定されていた。

 

王も様子を見に来ていた。

そこへ兵士が申し訳無さそうにしながらやって来た。

 

「なんだ」

「はっ、ベルナの森の窪地に盗賊がアジトを構えようとした所にモンスターの群れが大群で襲いかかったようでして…」

「ベルナの森の窪地?確かにあそこはアジトを構えるには丁度良い場所ではあるが…なぜ大群で襲われたのか…」

 

思わず目をそむけるアテナに気付かない王ではなかった。

 

「アテナ、おまえ、何かやったか?」

「…」

 

そんな質問に答えられる訳がない。

 

「いえ、何も…」

「そうか」

 

そう言って王は対策を立てるために兵士とともに去っていった。

 

結局アテナには、無茶をしないようにと、見張りとして女官2人を新たに付けられてしまった。

そんな事だから、当然外遊びも規制。

 

しかし、その後体調を崩す事はなく、1ヶ月程で外遊びは解禁となった。

案外甘い…と思ったが、呪文のトレーニングを再開したのは半年ほど後の事だった。

 

せいては事を仕損じる…そんな言葉が身にしみた期間であったのは言うまでもない。

 

時々見張りの女官が居眠りしているのを見た時に、こっそり瞑想をしていたのは秘密だ。

 

 

 

 


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