今日は5歳の誕生日。
ということで、今回も大神殿で儀式を行った。
今回の儀式でも魔法陣などは用意されておらず、件の”ルビス”も現れなかった。
5歳の祝いの品として、可愛らしい髪飾りを父から贈られた。
そして、5歳になったので勉強を開始するとのことである。
かな文字の練習用及び計算の勉強用の本とノート、ペンも与えられた。
それからもうひとつ。
3歳の時の、光の魔法陣の事もあってか、これは特例らしいのだが、回復系の呪文の教師も付けてもらえる事になった。
5歳でいきなり攻撃呪文は確かに危ないが、回復系なら害はない、という判断らしい。
簡単に読める入門書も与えられた。
誕生日当日はパーティーも開かれて忙しいので、勉強は翌日からとなる。
パーティーには仲良しの姫君2人も参加してくれた。
国同士の交流の場を兼ねている事もあり、諸国の王や貴族達も招かれていた。
各国モンスターに襲撃された村や街はあったが、この頃は小競り合いで済んでいた。
それでも各国の要人達は警護の兵を連れて来ていた。
「アテナ、5歳のお誕生日おめでとう」
「これ、プレゼント」
ソアラからはブレスレット、フローラからは白い貝殻のイヤリングをもらった。
「ありがとう、ソア姉、フローラお姉さま」
「あっ、ソアラちゃんだけ愛称みたいになってる!ずるい!」
「ずるい?でも従姉妹だし…」
ちょっとした言い争いに発展する子供たち。
ここで大喧嘩になっても困るので、提案する。
「フローラお姉さまも、何か愛称みたいなの考えて良い?」
「考えてくれるの?嬉しい」
さて、ここで何と呼ぶ事にするか、色々考える。
フローラと言う名前はとても綺麗な名前だが、”ソア姉”に倣って”フロ姉”にするのは、ちょっとピンとこない。
また、”フローラちゃん”にしてしまうと、”姉”が入っていない事でこれまたソアラとの扱いの違いが出てくるようで…
うーん、と考えた時にピコーンとひらめいた。
「ロラ姉、でいい?」
「あっ、それかわいい!」
「じゃあ、ロラ姉、に決まりね」
何とか喧嘩にならずに済んで安心したところに、タイミングを見計らっていたダマラが声をかけてくる。
「姫さま方、お料理を召し上がられてはいかがでしょうか?」
「あっ、そうだね、今日はパーティーだからご馳走だもんね。」
子供3人顔を見合わせたところで…
「じゃあ、行こ、ソア姉、ロラ姉」
「行きましょ」
「うん、行こ行こ」
そうして食事の席に着く。
パーティーと言っても会議のような立ち位置ではなく、お祝いなので立食パーティー。
ワイン片手に語らいあう者達、踊る者達…
子供たちは、アテナがまだ5歳という事で、隅の方に場所を用意してもらい、テーブルについて食事をした。
食べながら、子供たちとは言え姫君の集まりなので、会話はこれから始まる勉強の話題で盛り上がった。
一番年上のソアラが話し始める。
「絵本、自分で読めるようになったかしら?」
「うん、読めるようになったよ」
「じゃあ書く練習からお勉強ね。明日からでしょう?」
「うん」
「頑張ってね」
「はい!」
呼び方がフランクになったせいか、以前より2人の間に入りやすくなっていた。
フローラも、加わる。
「呪文の勉強もするんでしょ?私は5歳の時はまだ教えてもらえなかったから、ちょっと羨ましい気も…」
「回復系だけだけどね。攻撃呪文は危ないからまだ駄目って、お父さまに言われた」
「それでも、嬉しいでしょ?」
「もちろん嬉しい」
「じゃあ良いじゃない。転んでも自分で治せるようになるわけだし」
「うんうん」
(フローラは「ずるい」と「羨ましい」ばかり言っている気が…)
なんてソアラとアテナがヒソヒソしていたら、カール王アランが声をかけてきた。
ずいぶん年老いた王様だ。
「これ、フローラ」
「はい?お父さま?」
「ずるい、うらやましい…ばかりではお前の将来は不安だ」
「あ…ごめんなさい」
ひとときの沈黙が訪れる。
「国に帰ったら、言葉の使い方をしっかり叩き込んでやるからな」
そう言い残して、カール王はパーティーの雑談に戻っていった。
「お父さま、最近厳しいのよね…」
とフローラがぼやけば、
「あなたも来年には10歳でしょ、厳しくなるのは当たり前よ」
とソアラが言う。
ソアラの話によると、10歳になると国政についての勉強が始まり、公務にも少しずつ参加しなくてはならないらしい。
当然、公の場では言葉遣いにも気を配らなければならない。
だから、口調だけではなく、あまり良くない言葉は使ってはいけない、癖になるから、とのことだった。
もちろん、アテナはそのようなことは分かっていて、でもまだ5歳だから丁寧にしていないだけだ。
そんな事を話していると、今度はアルキード王カインがやってくる。
アルキードの王は2年前に代替わりしていた。
「ソアラ、お前も子供たちばかりで集まっていないで、きちんと挨拶回りしなさい」
「はい、父上」
ソアラは立ち上がり、じゃあね、と目配せして行ってしまった。
残ったのはフローラとアテナの2人。
と、側で話を聞いているだけのダマラ。
「そっかー、ソアラちゃんは、私より2つ上なんだよね。10歳過ぎるとああなるのか…」
フローラは、なんとなく気になったのか、しばらく人々の様子を眺めていた。
アテナも同じように人々を眺めながら、おそらくフローラとは違う事を考えていた。
カール王は、痩せ気味のように見えた。あまり酔っ払っているようにも見えなかったので、酒もほとんど飲んでいないように感じた。
体調が少し悪いのかもしれない。
フローラは病弱な父に代わって若くして国を治める立場になる…というのが、これ言っちゃなんだが”原作”の流れだ。
私はどうすれば良いのか…私の計算では、10年ほど経てばレオナ姫が生まれる…はずなんだけど、まだ生まれていない姫をアテにするのも何か違う。
かといって、もし彼女が生まれれば、国政に向いているのは彼女の方だろう。
「…」
考えても答えは出ない。
変な言い方だが、私は一度死んでいる。
ならば、自分の意志に忠実に生きるのも手だ。
パーティーは盛り上がっていたが、テーブルに残された二人の姫は、それぞれの事情でなんとなく心がモヤモヤして、そしてお開きとなった。