窓から陽の光が差し込んで、アテナは目が覚めた。
ベッドから起き上がり、今日も座ったまま手を合わせ、目を閉じる。
”主よあわれみ給え”
紘一郎と千夏の姿を思い浮かべる。
思い出せる紘一郎と千夏は歳もとらなければ成長もしない。
それでも、この”祈り”の時間はアテナの大切な時間だった。
目を開いて笑顔を一つ作る。
今日は起きるのが少し早かったらしい。ダマラはまだ来ない。
まあいいか、とベッドから下り、顔を洗って着替える。
脱いだものを綺麗にたたんで、籠に入れる。
お手洗いを済ませ、部屋に戻って一息つく。
椅子に腰掛けた時、ダマラがやって来た。
「アテナさま、おはようございます。」
「おはよう、ダマラ」
「あら、もうお支度が終わっているのですね」
「うん」
「お食事の時間まで少しありますから、のんびりしましょうか」
「うん…」
窓の方へ行って外を眺めるアテナ。
「どうしましたか?絵本、読みませんか?」
「ん〜、街に出てみたいな、と思って」
城から脱走して木登りなどを楽しんではいたが、街には出たことがなかった。
「王様やロイさまに聞いてみないと…私が勝手に良いですよ、とは言えないのですが…」
「そうだね、お父さまに聞いてみる」
そう言って、また窓の外を眺める。
「アテナさま」
「そろそろ時間だね。食堂に行こうか。」
「はい」
食堂にはまだ誰も来ていなかった。
仕方ないのでいつもの席に座ると、父と母がやって来た。
「お父さま!お母さま!おはようございます!」
「おはよう、アテナ」
「おう、おはよう、アテナ。今日も元気いっぱいだな」
「お父さま、お母さま、お願いがあるんだけど…」
「お願い?なぁに?」
「街に出てみたいの!」
「!!!!!」
「窓から見える街が、いつも賑やかで、楽しそうで…。行ってみても良い?」
両親がビックリしていると、祖父母がやって来た。
「聞こえていたぞ。アテナ、街に行きたいのか?」
「うん、おじいさま」
「うむ…」
祖父は暫く考えてから言葉を発しようとした。
その次の瞬間、兵士が駆け込んできた。
「王様!コロネの町がモンスターの軍団に襲撃されました!」
その表情はとてつもなく固い。
「またか…」
「トルガ村、カナンの街に続いて襲撃に遭うのはこれで3度目でございます」
「うむ…」
王は再び考えて言った。
「第5軍隊をコロネの町に送れ。生き残りの町人を保護し、食料も充分に与えるように取り計らえ」
「かしこまりました!それでは失礼致します」
兵士は一礼して退室した。
「アテナ」
「はい」
一呼吸おいてから、王は申し訳なさそうに言った。
「町は危ない。城の中であればお前を守れるが、街に出て何かあっても守ってやれない。悪いが諦めてくれ」
モンスターが城下町を襲ったことはないが、それでも万が一の事は考えなければならない。
王の判断は間違っていないだろう。
悔しい気持ちを抑えるのに一苦労したが、それでも諦めるしかなかった。