昨日から、アルキード王国のソアラ姫とカール王国のフローラ姫がパプニカに遊びに来ている。
「私たちの事は、”お姉さま”って呼んでね」
”お姉さま方”はニッコリ笑顔でそう言った。
こうして見ると、ソアラは千夏に似ているような…
じっと見ていると、ソアラが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「どうしたの?遊びたくない?」
「ソアラちゃんの顔に何か付いてる?」
フローラも不思議そうな顔をしている。
「なんでもない…遊ぼ。」
そう言って中庭に案内した。
「追いかけっこしたい!」
「じゃあ、鬼ごっこね」
すっかりお姉さん気取りの二人だが(実際お姉さんだけど)、実質アテナがが子守役だ。
ひとしきり鬼ごっこをしたところで、”お姉さま方”は疲れたようだったので、遊びの内容を変えることにした。
「絵本読んで」
幸い、3歳の誕生日祝いに山ほど絵本を貰ったので、時間を潰すには調度良かった。
「良いわよ」
「じゃあ、アテナのお部屋に行こうね」
そうして”お姉さま方”に延々と絵本を読んでもらったのだが、全てが英雄の武勇伝もしくはお姫様が王子様の波乱万丈な恋物語だった。
そして絵本に書いてある文字は日本語だった。
(どうして名前だけカタカナの横文字なんだろう…?)
そんな事は、まだ子供である”お姉さま方”に聞いても分かる筈もなく、むしろ3歳で文字がバッチリ読める事を隠さないといけなかったので、アテナは大人しくしているしかなかった。
本当はもっと難しい本とか、先日の儀式の時の”ルビス”の声の事もあるから魔道書とか、そういう本を読みたいのに…なんて事は尚更口に出せなかった。
一通り読んだ頃には夕方になっていた。
「アテナさま、ソアラ姫さま、フローラ姫さま。お食事の時間です」
ダマラが入ってきたので少しホッとした。
「今日はソアラ姫さまとフローラ姫さまもいらっしゃってますから、ご馳走ですよ」
「ご馳走だって」
「行こ行こ」
ダマラの言葉に2人のお姫様はニコニコしながら立ち上がる。
アテナも立ち上がって、黙って付いて行く。
食堂にはいつもより豪華な、しかしパーティーの時よりは質素な、そんな食事が並んでいた。
「私にんじん嫌いー」
「私ピーマン嫌いー」
お姫様達は好き嫌いも多いらしい。
なんとなく、2人がすっかり意気投合してしまっているので、間に入りづらいアテナは黙々と食事をしていた。
「絵本いっぱい読んだから疲れたんじゃないのー?」
なんて言われても…これは体が疲れたと言うのではなく、気疲れだ。
出来るだけ、常に口の中に食べ物を入れて、喋れないようにする。
「アテナさま、慌てて食べない方が…」
ダマラに言われてしまったので、仕方なく一息つく。
実際、黙々と食べていたのでもうすぐ食べ終わってしまう。
「ソアラお姉さま、フローラお姉さま、絵本を読んでくれて、ありがとう」
お礼だけは言って置かなければいけない。
これも、”お姉さま方”を立てるためだ。
「ちゃんと”ありがとう”が言えるなんて、いい子ねー」
「えらいえらい」
誉められたので、一応ニッコリ笑顔を返す。
さすがに子供2人の相手は疲れる。
が…
自分が生きていれば、この年頃の千夏も見れたはずだった、と思うと、アテナは複雑だった。
(自分は彼女たちの成長を見ているわけではない。
育てているのはそれぞれの両親やお付きの者達であって自分ではない…)
アテナは、なんとなく寂しくなって、俯きながら残りの食事を平らげた。
「アテナさま、疲れましたか?」
ダマラに聞かれて、正直に答えるが吉と直感的に思ったが、強がっていた方が良かったかも知れない。
「うん…」
「では、少し休んだら、お風呂に入って寝ましょうか」
「うん…」
(いつまで”前世”の事を引きずっているのか…)
情けなくなってくると同時に、千夏に逢いたい気持ちがつのってくる。
だめだ、なんとかして浮上しなくては…と、そう思ったが、思いは止められなかった。
ポロポロと涙が落ちる。
拭っても、拭っても、止まることなく…
(2人のお姫様達には泣いている所ばかり見せている…)
そんな事を考えながら、暫く泣き続けた。
その後…2人のお姫様、特にソアラ姫は従姉妹という事もあって良く行き来する間柄となった。